第54章 一日の終わり、そして…
本当に長らくお待たせいたしました…
本日より、ぽちぽちと再開いたします…
こんなグダグダな、素人の書いた作品とも呼べない作品を楽しみにしていてくださった、心優しい皆さん、これからもよろしくお願い申し上げます!
夕焼けが海に溶け込み、眩しいほどに辺りが赤み掛かった夕暮れ時・・・・・・民間も無ければ車の通りもほとんど無い山と海に囲まれた道を、榛名玲花が自慢のホークⅡを押しながら歩いていた。
「はぁ・・・ひぃ・・・はぁ・・・」
夕暮れ時とはいえ気温は炎天下。なぜ愛車を押し歩いているかと言えば・・・ガス欠である。
乾燥重量181キロの、見た目とは裏腹に重量のあるホークⅡ。いくらヤンチャでケンカっ早い玲花でも、この炎天下をずっと押していくのはさすがに堪えたのかとうとう立ち止まり、残った力でスタンドを立てて海沿いの路肩に停めると、狭い歩道に倒れこんでしまった。
「くそぉ・・・あたいも・・・ここまでか・・・」
太陽が霞んでゆく・・・今ごろ姐様は何をしているのか・・・美春の事を思いながら玲花がぼーっとしていると、何やら人の話し声が聞こえてきた・・・
「あぁ・・・とうとう幻聴すら・・・も・・・ダメ・・・」
そして遂に、玲花は息を引き取るかのように深い眠りに・・・
「おい起きろ」
「ぐぇっ・・・!!」
つけなかった。いや、首根っこを捕まれて空中にぶら下げられればそのうち本当に息を引き取ってしまうが・・・
「ななな、何すんのさっ・・・!!あたいを誰だと・・・!?」
何とか地に足をつけて慌てて自分を引きずり上げた相手を睨み付けて威勢よく叫んでから握りこぶしを作る。
「ほら洋介、コイツ、このバブⅡ。例の横浜の『月光天女』の・・・」
赤いアロハを着て、釣竿とクーラーボックスを下げて立つ夏真っ盛りなファッションの・・・そして相模が誇る最強の男・・・霧島旭が言うと、その横に立つ旭の相方・・・羽黒洋介が玲花を見た。
「マジかよ旭・・・へぇ、これが由美ちゃんの言ってたねぇ・・・」
こちらも釣竿を肩に掛けて、まるで珍しいモノでも見るかのように玲花を覗き込んでいた。
「な!?ななななななななななな!!!???おおお、お二人様はままままさか・・・!!!!」
今、間違い無く2人の名前をしっかりと聞いた。そして、今この地にいるはずの由美の名前も確かに聞いた。まさか・・・
「さ、相模の・・・ききき霧島・・・サンと・・・は、羽黒サン・・・すか・・?」
握りしめていたこぶしはいつの間にか開かれ、直立したまま玲花がたずねると、2人は頷いた。
「あぁ、美春のバカたれから聞いてはいたが・・・こーやって面あわせんのは初めてか?あいや・・・でも前に単車で走ってんのぶち抜いたから、二度目か・・・?」
「そういやなんで単車押してんの?ガス欠か?」
洋介がホークⅡを指さしてたずねる。
「しっかし派手だなおい・・・男顔負けの日章カラーでオマケに角タンで・・・」
好き勝手にホークⅡを見まくる洋介。ホンダ党の血が騒ぐのか熱心に覗き込んでいる。その脇で旭も一緒に見ている。
一方玲花と言えば・・・
「あ・・・あぁ・・・」
離れた自分の地元にまでその名を轟かせた不良界のカリスマ2人にいきなり囲まれ、愛車を見られている緊張と、そして自分が助かったことによる安心感が爆発して・・・
「ふぁ・・・」
バタン・・・!
「お、おい大丈夫かよオメー?」
「きゅー・・・・・・」
「ダメだ・・・寝ちまったぜ」
「シカトするわけにいかねぇな・・・連れてくべよ。洋介はバブⅡ頼むわ」
「ヘイヘイ」
「きゅー・・・・・・」
こうして、旭が釣り道具一式を手に持ち、玲花おぶって歩き、洋介がホークⅡを押しながら洋館の前の坂道を登った。
「きゅー・・・・・・」
「おー、帰ったぞー」
洋介が玲花のホークⅡを停めているので旭は先に洋館に入ると、目の前の階段から美春と千尋、そして翔子が降りてきた。
「あっくんおかえり♪」
美春は旭からクーラーボックスを預かった。
「れ、玲花さん!?どうしたんですか一体!?」
一方翔子と千尋は旭から玲花を受け取る(?)と両側から支えながらたずねた。
「ガス欠の単車、途中から押してきたみてぇよ?」
「うわぁ・・・玲花ちゃん災難だねぇ」
千尋が言った。
「つかオメーら、帰るなら帰るってひとこと言えよな?浜に戻ってみりゃ1人もいねぇんだもんよー」
「あ・・・」
美春達が「しまった」というような顔をしたのを旭は見逃さなかった。
「あ?なんかあったんか?」
「あの・・・えぇっと・・・」
「お、おにーちゃん・・・?」
「じ、実は・・・」
数分後・・・圭太の部屋
「い、いたいよぉ・・・」
「美春さん、大丈夫ですか・・・?」
美春が涙声でおでこを押さえているのを見て、ベッドで横になってる圭太が心配そうに声を掛けた。
「ったく・・・あそこに残ってた中で最年長だべオメーわよ?圭太ぶっ倒れちまうまで遊んでた罰だ」
旭が不機嫌そうに言った。先ほど事情を聞いて、とりあえず美春にデコピンの刑に処したのだ。
「後で由美ちゃんと真子にもお灸据えてやんねーとな・・・あのバカたれども」
「い、いや・・・僕も旭さんに頼まれてたし、その・・・」
圭太がおずおずと言うが、旭は「いーや」と口を挟む。
「せっかくの夏のイベント初っぱなからコレだぜ?キッーく言ってやんねぇとまたやんべ?アイツら・・・」
ちなみに今あの2人がこの場にいないのは、厨房にて今晩の食事の準備中だからである。ちなみに由美と真子と紗耶香の3人が今日の当番らしい。
「ま、今日1日はゆっくり寝てな?」
「じゃあまた後で診にくるね?ばはい♪」
旭と美春が揃って圭太の部屋を出た。ちなみに旧車物語内での救急担当の美春は定期的に圭太の容体チェックを担当する。美春もまさか初日から、しかも自分にも原因があってこの役割が回ってくるとは想定すらしていなかったので、マヌケな雰囲気は変わらないが真面目に仕事をこなしている。
旭と美春が廊下に出た丁度その時、紗耶香とばったり出会った。
「おーさやりん、どうしたのぉ?」
「いえ・・・旭さんにお尋ねしたいことがあって・・・」
美春に頭を下げてから、旭を見た。
「旭さんと洋介さんが釣ってきた魚なんですけど・・・私も含めて誰も触れなくて・・・恥ずかしいんですけど・・・」
「マジか・・・」
旭が呆れながら言うが、しかし紗耶香も必死らしい。珍しく大げさなジェスチャーも交えて訴えた。
「だってですよ!?なんだかヌメヌメしてるし中にはまだ生きてるのもいるんですよ・・・!?試しに真子姉さんが掴んだらそのまま飛び出して床でのたうち回ってるんですよ!?ちょっとした恐怖ですよ!?」
「あー・・・ったく・・・仕方ねぇなぁ・・・ついていってやんから泣きそうな顔すんな。美春、先に部屋に戻っててくれ」
「あいあーい、さ!!」
こうして、紗耶香に腕を引っ張られながら階段を下っていく旭と美春は解散。美春も千尋の待つ部屋に向かうのだった。
一方圭太は、部屋の外から聞こえてくる会話を聞いて苦笑いしていた。由美はともかく、床で跳ねる魚から逃げ惑う真子を想像したらおかしくなってきた。
すぐに外から話し声と足音が離れていき、圭太が水を飲もうと起き上がったその時、また足音が近づいてきた。
コンコン!
扉がノックされた。
「入っても大丈夫ですよー」
圭太が扉に向かって言うと、扉がゆっくりと開いた。
「いらっしゃい」
「なんだ、元気そうじゃん?」
扉をゆっくりと閉めて、ベッド脇の椅子に座ったのは、凛だった・・・
「・・・・・・っ!?」ビキビキ・・・!?
「あははは・・・あ、旭さん?」
「・・・落ち着くんだ、まだ慌てる時間では無い・・・」
「やっぱり怒ってるよぉ・・・」
一方厨房では、旭のこめかみに血管が浮き出ていた。由美は笑ってなだめ、真子は心を落ち着かせながら言い訳を考え、旭と言う名の悪魔を召喚した紗耶香はびくびく震えていた。
「さ、魚は私がなんとか元に戻したわ・・・!?」
由美がガクブルしつつなんとか笑顔を作りながら言った。
「いや、ソコじゃあねぇんだわ・・・オメーらコレ・・・」
旭が指さした先・・・そこは調理台だ。普通ならその後ろにある大きな冷蔵庫からたくさんの「食材」があるはずである。だが、そこにあったのは・・・
「・・・はい、カップ麺です・・・」
由美が頭を下げながら言った。そこにあったのは10人分のカップ麺の山だったのだ。
「まさか・・・冷蔵庫にこんだけ材料があんのに・・・それ使うワケじゃあねーよなぁ・・・?」ビキビキ!?
「あ、の・・・その・・・私普段あんまり料理とかしないから、その・・・ね?・・・・・・・・・ゴメンなさい!!」
由美が頭を下げた、その脇で紗耶香も頭を一緒に下げた。
「で・・・偉そうにつっ立ってるオメーわよ?」
1人腕組みしながら立つ真子に旭がたずねると、真子は髪を掻き分けながら優雅に言った。
「赤城家の帝王学に『料理』の2文字は無い・・・それだけの話よ」
「へぇ・・・?」
ますます血管が浮き出ている・・・由美がマズイなぁと思った瞬間・・・
「こぉの・・・バカたれどもがぁ!!!!!!」
ビシバシビシっっっ!!
「い!?」
「た!?」
「いっ!!」
由美達の額にデコピンが投下された・・・厨房が仕事場の旭がキレた。
「『私達は料理担当』だあ・・・?笑わせるぜ!てめえら3人、特に由美ちゃんと真子・・・てめえら2人にゃ厨房仕事しっかり叩き込んでやっかんな!?覚悟しやがれ!!!!」
「「は、はひぃっ・・・!!」」
こうして、夏の旅行で2人は旭にとことん料理の技術を初歩の初歩から徹底的にたたき込まれることになった・・・
「え・・・?」
一方、場面は戻って圭太の部屋では、圭太が凛に向かって首を傾げていた。
「だ、だから・・・!姉貴と由美のこと、どう思ってんのかって、き、聞いてるンだよ・・・っ!」
握った拳を膝に置きながら、目線を右に左に少しだけ泳がせている。
一方圭太は、凛の質問の意図がわからないらしく、首を傾げてい考える。
「うーん・・・」
そんな圭太に限界が来たのか、凛はベスト脇のテーブルをドン!と叩いて大声で言った。
「こ・・・!この際だから真正面から聞いてやる・・・っ!お前はその・・・2人を・・・!!れ、れ・・・れ・・・あーっ!もう!恋愛の対象として見てんのか・・・!?」
そう言い終えた凛は圭太を真正面から見据えた。顔はもう真っ赤だ。
そして圭太は・・・
「え・・・?・・・あ」
凛が言い終えてしばらくの間が空いて・・・ようやく質問の意味を理解したようだ。ちょっとだけ挙動不審な動きをしたあと、手を額に押さえた。
「ど・・・どうなんだよ・・・?」
「・・・・・・正直に言うと・・・そんな風なこと、今まで考えたこと無かったなぁ・・・由美は昔からの幼なじみだし、真子さんは出会って日はまだ浅いけど、良くしてもらってるし尊敬してる・・・それに2人とも『旧車物語』の大切な仲間だけど・・・」
視線を落として圭太が言った。
「だから・・・・・・・・・」
「・・・・・・わかった」
そこで凛が圭太を制止した。そして椅子から立ち上がると、扉に向かって歩いていった。
「り、凛・・・?」
「つまり・・・まだどっちが好き・・・とかはねぇんだろ?」
「う、うん・・・」
「でも近い将来、そうならないとも限らない・・・だよな?」
「た、多分・・・」
圭太が頷く。凛はドアノブに手を掛け・・・
「じゃあ・・・また後でな」
それだけ言って、ポニーテールを揺らし、圭太の部屋を後にした。
「・・・どうしたんだろう?あの質問はなんだったんだ・・・?」
やはりコイツ(圭太)ばバカだったようだ・・・
一方圭太の部屋を後にした凛は、廊下を走って抜けて部屋に戻ると間髪入れずに布団にダイブし、そして1人その上で転がりまくる。
「まだ姉貴や由美に完全になびいてるワケじゃない・・・!」
枕をばふばふ叩く。自然と表情が緩んでしまう。しかしすぐに我にかえる。
「・・・・・・!!な、何を言ってんだ赤城凛・・・!オレには、か、関係ねーじゃんか・・・!」
枕を叩きつけた。そして頭をバリバリ掻き毟った。
「あんな鈍感で優柔不断な女の敵・・・なんとも思うわけが無ぇぜ・・・!」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。そして布団に潜り込んだ。
「そうだ・・・そうだよオレ・・・!あんな鈍感野郎、姉貴も由美もかわいそうだ!絶対にあんな奴は女の敵だ・・・確かに優しいしかわいいし頭も良いし同じカワサキ乗りだし・・・それに・・・」
以前、偶然峠で圭太と二度目の遭遇をした時のコトが脳裏に過る。尊敬する姉が惚れた相手というだけで気に食わなかった。だから真子に近づかせないようにしようと条件を付け峠でレースを挑んだ。
しかし凛が有利なバトルもプラグがカブり、愛車のマッハⅡは途中で停止・・・負けたことへの怒りと、メンテを怠った自分への怒りが爆発して圭太に無理難題を突き付けた自分に、頭を悩ませつつも翔子に頼んで助けてくれたばかりか、それを恩に着せず、今では同じチームの仲間として走っている。
「け・・・け、圭太のばかやろぉぉお!!」
そしてまた枕に八つ当たりした。
そんな1人騒がしい凛の部屋の隣室では、壁に耳を当てている人影が・・・
「き・・・聞きましたか!?美春さん・・・!千尋さん・・・!」
翔子が驚いたような興奮したような・・・そんな表情で美春と千尋を見た。
「なんと!!あの男勝りで勝ち気な凛さんが!!あの圭太さんのことを・・・!!」
「だね!おねーちゃん!また圭太くんの周りが騒がしくなりそーだね!!あ、翔子ちゃん、この話は由美ちゃんと真子さんには内緒だよ!?」
「わかってますっ!でもでも大スクープですよ!ついうっかり誰かに喋ってしまうかもしれないです!!」
「ダメだよ!?私だって我慢するもんっ!うっかりおにーちゃんに漏らしちゃうかもだけど!!」
「「ねー!」」
2人が興奮気味に騒いでいる。しかしその横では美春がじっと目を瞑り何か考えていた。そして・・・
「・・・けーちゃん・・・本当に罪な男だねぇ♪」
「「ねー!」」
どうやら今夜の話題は他人の色恋ざたで決まりのようだった・・・
そして時は進み時刻は夜の21時を周り、ようやく夕食の時間がやって来た。
「おぉ・・・!」
熱中症もなんとか回復し、下にある食堂に降りてきた圭太は、テーブルに並べられた食事を見て思わず声が出た。先に居合わせた美春達や洋介も驚いている。
長テーブルに並べられた料理は、中華風の肉野菜炒め、サラダ、そしてやはりと言うか・・・カレーがそれぞれ二皿ずつに分けられて長テーブルの左右に設置され、中央には今日旭と洋介が釣ってきた新鮮な・・・なんと鯛の塩釜焼きが置かれていて、各席に1皿ずつにカサゴのお刺身が用意されていた。ここまで来るともはや旅館に来たかのような錯覚を受ける。
「まさかこんな豪勢な食事になるとは・・・」
圭太が言うと、みんなが頷いた。そんな光景を見て、未だにエプロン姿の由美と真子は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「まぁ私達に掛かればざっとこんな感じよ!」
「ふ・・・赤城家の帝王学を侮るな」
「いや、真子姉さんも由美さんも全然ダメだったじゃないですか」
その脇で紗耶香がポツリと言うと、旭も大きく頷いた。
「野菜は切れねぇわ調味料はバカみてぇに入れそうになるわカレーは焦がしかけるわ相変わらず魚には触れねーわ・・・夕方から始めて何時間掛かったと思ってんだ?」
「「ギクッ・・・!」」
旭のとめどなく溢れる愚痴に、先程までの説教を交えた調理風景がフラッシュバックする由美と真子。ちょっとでも適当にやると旭からの怒声が飛び、由美はおろか真子も若干涙目になりながらの作業・・・
「まぁでも筋は悪くねんじゃねぇか?魚以外はだいたい3人にやらせたが、こんくらいならまぁ大丈夫だべな。ちなみに一番筋があったのは紗耶香ちゃんだ」
「そ、そうですかー?嬉しいです」
旭に言われて紗耶香が頭を掻いた。
「ま、何はともあれ遠慮無く食ってくれや」
「じゃあいただきますなのだぁ♪」
旭の声を聞いて、美春が遠慮なく食べはじめたのを合図に、皆ようやく夕食にありついた。
「あ、ちなみにさっきまで気絶してたれいにゃんも、今では元気にご飯を食べてるよ♪」
「だ、誰に向かって言ってるんでしょうか姐様・・・?」
「おーっ!自分で釣った魚を食うってのは凄い気分いいな!!美味い美味い!!」
美春の謎の発言に玲花がツッコミを入れる脇で、洋介が刺身や鯛の塩焼きを食べながら感動したように感想を述べる。
「洋介さんも旭さんも、こんな美味しいお魚を釣ってきてくれて本当にありがとうございます!!」
翔子が2人に、魚に、海に感謝しながら食べる。しかしこんな時までカメラを首に下げているのは如何な物か・・・
そんな中圭太は手近にあった野菜炒めに手を伸ばした。
「ん!この野菜炒め・・・すっごい美味しい・・・!」
思わず口に出た。少し脂っぽく中華特有の濃い目の味付けだが、それでいてしつこくない味付けを圭太が堪能していると、案の定両隣を挟んで座る由美と真子がアタリマエだと言いたそうなドヤ顔で言った。
「当たり前じゃない!その野菜炒めは私と真子さんの自信作なんだから!」
「おまけに愛情までこもっている・・・不味いわけがないのよ」
「うん!サラダもしゃきしゃきしてるし、カレーも旭さん仕込みなだけあってすっごい美味しい!」
「まぁ私と真子さんの作った料理を食べたら、熱中症も貧血も全部ぶっ飛ぶわ!」
「たくさんあるからもっと食べて」
2人の必死のアピールを受けて、圭太はどんどん箸を進めた。そして・・・
「・・・」
「凛お姉ちゃん、どうしたの?」
「うおぁ・・・!?な、なんでもないっ!!」
「・・・?変なの」
いつになくボケッとしていた凛の急に慌てた態度に紗耶香は少し疑問を持ったが、すぐに鯛の塩焼きの味に夢中になった。
しかしその光景を見ていた翔子と千尋は目を合わすとニヤニヤと笑った。
それを見て玲花が箸を口にくわえたまま
「どうした?なんだか2人ニヤニヤして」
「なんでもないよー?ねー?」
「そうですよ!ねー?」
「はぁ???」
こうして夕食の時間も終わり、由美、真子、そして紗耶香は後片付けで厨房に戻った。約2人ほど後片付けの皿洗いを渋っていたが、旭が睨むと何も言わずに皿洗いを始めた。旭曰く「料理は皿洗いを終わらせて全てを綺麗にするまでが料理だ」とのことだ。
その間やることも無く暇を持て余したメンバーは、一階にある娯楽室で卓球大会を開催したり備え付けのソファーで休んだり、はたまた朝から今までの疲れで眠そうな物まで・・・。
「皿洗い終わったわよ~」
そんな中、ようやく大量の食器を洗い終えた由美達が帰ってきた。
「次回までには全自動食器洗い機を導入しよう・・・」
「それがいいわね・・・」
由美と真子がため息をついた。そんな由美達を見て、圭太が声をかけた。
「3人ともお疲れさま」
「疲れが取れた」
「どっかに飛んでいった」
「あはは・・・」
圭太の言葉を聞いた瞬間、由美と真子は急に元気になったらしい。それを見て紗耶香が苦笑いした。
「ね、ねぇ真子姉さん?そろそろお風呂の準備したほうが・・・」
「おぉ?とうとう旅行の醍醐味の時間か!?」
洋介がワクワクしながらたずねた。真子は「そうだな」と頷くと、一同に場所の案内をしはじめた。
「この娯楽室を出て左に行くと、外の平屋に続く渡り廊下があるんだ。それで平屋の中はただの和室なんだが、実は平屋の裏に父が趣味で作った大浴場がある」
「すごいですね!」
「もはやなんでもアリね・・・」
圭太の嬉しそうな顔を見て、由美のツッコミなどまるで聞こえずに脳内でガッツポーズをする真子。
「お湯はさっき沸かしたから今日はお風呂に入ってから明日に備えて寝よう」
「やったー♪ちーちゃん、ゆーちゃんしーちゃんれいにゃんも!早くいこ♪」
「はーい!」
「そうね!旅の疲れを癒すわよ!!」
「大浴場・・・きっと気持ちいいんでしょうねぇ!」
「ま、待ってください姐さまぁ!!」
美春を始めとした女子組集団がワイワイ騒ぎながら娯楽室を後にする。
「よっしゃあ姉貴!オレ達も早く行こうぜ!」
「そうだな。では圭太君、また後で」
娯楽室から赤城三姉妹も退室していった。残ったのは数少ない男子組の圭太、旭、そして洋介。
「オレ達も行きますか」
「そうですね」
洋介がソファーから腰を上げながら言うと圭太も頷いた。そんな中・・・
「・・・」
旭が1人なにかを考えているような表情でつっ立っていた。
「どうしたんだよ旭?」
「いや・・・」
「?」
なんだか考えているような感じだったが、旭は2人に向かって頷くと頭を掻いた。
「いや、明日は思い切って朝から釣りに行こうかとな・・・?」
釣りキチ根性だった。
そして・・・
「いやぁ~♪いいお湯ですなぁ♪」
「あ、姐様の・・・は、はだ・・・裸・・・」
「れ、れいにゃん鼻血鼻血!!」
場所は変わり、大浴場。
もちろん女湯で、石造りの湯船で美春が頭にタオルを乗せてお湯に浸かっている。すぐ脇で玲花がなにやら呟きながら鼻から流血。千尋が介抱していた。
「ん~!本当にいいお風呂ね!!」
由美も腕と足を伸ばしながら湯船に浸かる。
「広いしお湯加減もいいですし・・・真子さん達には本当に感謝です!」
隣にいた翔子が赤城3姉妹の長女である真子に向かって言った。いつも外に跳ねている癖っ毛も濡れているのでぺったりしている。
「本当・・・こんなに喜んで貰えるなら私としても満足だな」
真子は何か言い様のない達成感を覚えた。初日でこれならば上出来だ。だが・・・
「しかし・・・!私達はあくまでもツーリングチーム・・・明日は走りに行こうと思うんだがどうかな?」
そう言って、真子はみんなを見た。
「いいわね!私は賛成!!」
間髪入れずの第一声は由美だ。おもむろにに立ち上がると拳を握り高々と突き上げた。
「海で遊ぶのももちろん楽しいけど、明日は本命のツーリングにしましょう!」
「さすがゆーちゃん♪・・・でも、ね?急に立ったからタオルが湯船に・・・今ゆーちゃんすっぽんぽんだお?」
美春が言ってしばらくの間を置いた後、由美は何もなかったかのようにまた湯船に浸かり、タオルを巻き直した。
・・・・・・・・・。
「・・・いや!アニメ版ではちょうど良い感じに湯煙で消してくれるから問題ないわ!」
「由美さん?現実を見ましょうよ」
「しーちゃんの言うとーりだよ?」
「・・・すみません皆様今の行為は全て忘れてくださいお願いします」
「・・・ま、まぁいいが・・・」
この世の終わりのような顔色でみんなに頭を下げる由美。そんな光景の中、真子が話を戻した。
「あ・・・でもあたい・・・ガス欠・・・」
そんなとき、今まで千尋に介抱されて、鼻血も止まったらしい玲花がおずおずと手を上げた。
「そういえばガス欠で行き倒れてたんでしたよね?」
翔子が言うと、玲花が頷いた。
「あ、ありのまま起こったことを話すぜ・・・!?あたいのバブⅡが走っていたと思ったらいきなり停まったんだ・・・何を言ってるのかわからねーかもしれないが・・・ヒューズがトンだとかバッテリーが上がったとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ・・・もっとも恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ・・・」
「れいにゃんはたまーにおかしなコになっちゃうんだなぁ♪」
「姐様・・・予備タンの最後のガスがキャブからエンジンに流れた時の絶望感はもう本当に・・・ヤバかったんですよぉ?」
某スタンド使い同様によくわからない状況説明をする玲花に美春がツッコミを入れる。
そんな玲花のボケに呆れたのかそれとも今の状況を知ってか・・・真子がため息をついた。
「仕方ない・・・明日の朝、倉庫にある予備に備蓄した携行缶のガスを貸す。これなら玲花も走れるだろう?」
「え・・・!?」
思わず玲花は身を乗り出した。
「あ、ありがとう真子・・・!」
「良かったわね玲花!」
由美も一緒に喜んだ。
「そうすんと明日は・・・ひぃふうみぃ・・・合計10台で走るんだな!」
「また賑やかになりそうだね!」
両手で数えてから興奮しだす凛と千尋がハイタッチし、みんなそれぞれ風呂から上がった。
それぞれ更衣室で着替えてまた娯楽室に集まった時にはすでに23時になろうとしていた。
「なるほどな・・・」
真子達から話を聞いて、旭がニヤリと笑みを浮かべた。
「海もいいが、やっぱオレらぁ単車乗りだしな!」
「うんうん・・・オレのヨンフォアちゃん、まだあんまし皆と走ってないしな!」
洋介も頷いた。エンジンや足回りの仕様を変更してからまだほとんど皆と走っていないヨンフォアを見せびらかしたいらしくワクワクしていた。
「じゃ、そうと決れば今日は早く寝ちゃいましょう!」
「だね。明日が楽しみだなぁ」
由美と圭太が頷き合った。
初日から大波乱であり、皆終始ウキウキしていたが、女性陣も男性陣も、布団に潜ってしまえばやはり子供と言うか、その日1日の疲れで寝付いてしまった。
明日も楽しい1日を・・・
そんな想いを胸に寝りに付いた。
のだが・・・
約2名、眠りに就けない者が・・・
「むにゃむにゃ・・・♪あっくーん・・・♪」
「・・・ZZZ」
ここは美春の部屋で、美春と千尋、そして玲花が寝ている。
皆個室なのに、ここだけなぜか相部屋なのは、美春の思い付きである。
川の字で真ん中に美春、左に千尋・・・右には・・・
「ハァハァ・・・あ、姐さまぁ・・・!」ドキドキ
美春の顔をガン見しながらなにやらもぞもぞハァハァしている玲花。
「だ、ダメだあたい!・・・もし手を出したら姐様が悲しむ・・・霧島サンに殺される・・・で、でも・・・!!」
「ふにゃあ・・・ぐぅ・・・♪」ヨダレズビッ
「ふぉぉぉおおおおおぅ!?」
純愛と変態の境目を彷徨う玲花であった・・・
そして、もう一室では・・・
「・・・」
凛が難しい顔をしながら布団に入っていた。
(今日やっと確信した・・・オレはやっぱり・・・)
そこまで考えて、布団を被った。
(姉貴のことは好きだし応援もしてる・・・由美だって大切な友達だ・・・でも・・・!)
そして布団から顔を出した。その表情は覚悟を決めた女の顔だった。
(オレだって・・・あの鈍感バカが好きなんだ・・・!!由美にだって姉貴にだって絶対負けねぇ・・・!!)
素直な気持ちを胸の中で爆発させた。
今までずっと心の奥底に押し込み隠してきた・・・
姉である真子や親友の由美には悪いと思っていたが、ついに我慢出来なくなったのだ。
心の中で凛は思った。
「自分はなんて嫌な奴なんだ」
姉と親友の想い人を好きになる・・・罪悪感。
この自分の気持ちに整理をつけるために夕方に圭太の部屋を訪れた。
しかし、当の本人が二人の関係にはっきりしない今・・・凛は戸惑うことを止めた。
(二人には悪いけど・・・)
罪悪感は拭えない。二人には悪いと思っている。しかし、もう感情を抑えたくない・・・
凛は寝返りをうつと、しばらくして眠りについた。時刻は朝の3時を過ぎていた・・・