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旧車物語  作者: 3気筒
53/71

第53章 圭太ノックアウト!!

 人のいないビーチから程離れた、これまた人のいない岩場に二人の男が胡坐をかいて釣竿を見つめながら座っていた。

 竿は動く様子も無く、ただいたずらに時間が過ぎていく。

「ったく、そこまでして釣りしたいか?あっちにゃかわいい水着のおんにゃのこがたくさんいるのに」

 洋介が旭に訊ねた。

「そんなモンよかロマンの釣りだべよ。なんのために前の日に下州屋にイソメ買ってきたと思ってんだよ?」

「オメー単車のバックに虫入れんなよ!」

 洋介が突っ込んだ。プラで出来たお祭り屋台の焼きそば入れの中に、大量の岩イソメが肥料に混ざって蠢いている様は、女子組が見たら発狂するか泣きだすかキレるかのどれかであろう。

「狙うはカサゴだかンな?あ、ちなみに小っせぇヤツは逃がせよな?」

「聞いてねーし!?」

 ガビーン!としながらツッコミつつ洋介が呆れている。

「まぁまぁ、この『相模の釣りキチ』にかかりゃあ心配ねーよ。今夜はカサゴで大盤振る舞いだ」

「もう嫌だ!オレは浜辺に戻る!!」

 そういって腰を上げようとした洋介の竿が、突如大きくしなりはじめた。

「あ!オイ、掛かってんぜ!?」

「え・・・?なに?どどど、どうすんのコレ・・・!?」

「リール巻くんだよ!!」

 パニくる洋介を旭が指導しつつ、なんとか釣れたのは中堅サイズのカサゴだった。

「スゲーじゃん洋介!こんぐれーなら食えンぞ!」

「これが・・・」

 旭に口のところ持ったれているカサゴと洋介の目が合う。

「旭・・・今日はカサゴで大盤振る舞い豪族乱舞だ!!!!」

「よっしゃ!!お、オレん所にもアタリがきたゼ!!」

「オレも負けねーぞ!?よっしゃイソメ装着!!」

 美女天国浜辺から離れた釣り天国岩場で二人目の釣りキチが生まれたのであった・・・






 一方・・・

「すんすん・・・すんすん・・・」

「どうしたの由美?」

「いや・・・なんか今スッゴク磯臭かったのよね」

「まぁ海だから、磯も浜辺もちょっと似てるのかも」由美と圭太がそんな話をしていた。

 ちょうどその時、荷物置き場からケータイの着信音が鳴り響いた。

「あ、私のみたい」

 由美が自分の荷物からケータイを取り出すと、液晶に書いてある名前を見てから通話ボタンを押した。

『やっほー、久しぶり〜』

「玲花!そういえば久しぶりね!」

 電話の相手は、横浜のレディース『月光天女』三代目総長兼スカウトの榛名玲花であった。

『あたい今日さぁ、夕方に現場終わりなんだけど現場が相模の方なんだよね!』

 ちなみに玲花は学生では無く社会人であり、今は土木工事の現場で働いている。

「そうなの?でも残念ね・・・私今そっちにいないのよ」

『ほえ・・・?どっか出かけてんの?』

「今日からしばらく千葉なのよ。旧車物語で旅行なの・・・」

『なにぃ!?』

 由美が言い終わるより先に玲花の叫びが、スピーカー越しに圭太にまで響く。

『今どこ!?』

 由美が現在地を伝えると

『姐様はいるのか!?』

「美春ちゃんもみんないるわy・・・」

『監督!一身上の都合で今日は早引けします!!姐様〜!!』

 ぶちっ・・・ツーツー

 電話が切られたようだ。由美はケータイをカバンに入れると、また荷物置き場に戻した。

「今から玲花が来るみたいなんだけど・・・大丈夫かしら・・・?」

「あー・・・まぁ部屋は余ってるし、多分大丈夫なんじゃ・・・」

 そう答えると、由美は「それもそうよね」と視線を海に戻した。

「由美さーん!」

 浜辺から少し離れた海上から、翔子と紗耶香が浮き輪に掴まって手を振った。

「プカプカしてて気持ちーですよー!」

「楽しそうね!圭太、ちょっと行ってくるわね!!」

 由美は浜辺から海に走りだすと、途中波に足を絡まれたか盛大に水しぶきをあげて転けたあと、また立ち上がって浮き輪にしがみ付いた。

「んー・・・周りが女の子しかいないとなんだかなぁ」

 圭太は辺りを見回すと、海では由美と翔子、紗耶香がプカプカ浮いたり沈んだりしてて、手前にある小さな岩場では美春と千尋と凛がなにやら叫んでいる。

「たいちょー!なんかこの隙間にいます!」

「あわてるな千尋隊員!凛隊員、砂利と海水で攻撃開始だ!」

「ヨッシャー!出てこい海野人!」

 なんでも『藤〇弘探検隊ごっこ』だそうだ。かなり熱中しているらしく、岩の隙間から海野人という名の沢蟹を懸命に引っ張りだしていた。相変わらず美春のネタは古いなぁ、と圭太が座りながら辺りを眺めていると、真子がいないことに気付いた。

「あれ・・・?真子さんは?」

「呼んだかな?」

「へ・・・?うわぁ?!」

 突然背後から声を掛けられ顔を上げると、そこにはスイカみたいな巨乳があった。

 飛び跳ねながら後退る圭太を見て、真子が笑った。

「クスッ・・・何をそんなに焦ってるの?」

「いきなり背後に回らないでください!」

 圭太が怒るも、真子は構わず話を続けた。

「まぁまぁ・・・こほん、それより圭太君、この近くに絶景のスポットがあるんだが・・・よかったら一緒に行かないか?」

「え?そんな場所まであるんですか?」

「えぇ、2人で行ってみない?」

 真子の「2人で行こう」という言葉に、何の危機感も覚えずに圭太は少し興味を持っていた。綺麗な景色を見れるのであれば特に断る理由も無いので益々興味が出てきた。

「よし、ではいざ2人きりで・・・」

「させないわよ」

「!?」

 突如真子の言葉を遮ったのは、圭太の背後で仁王立ちしている由美だ。ずかずかと真子のもとに歩み寄ると物凄い剣幕で言った。

「油断してるとすぐに抜け駆けするのね・・・!」

「油断した由美が悪い。恋は命懸けなの、お分かり?」

 真子の見下すような笑顔に由美がキレた。

「なによ!私よりちょっとだけ胸が大きくてほんのちょっと運転が上手いだけのくせに!!」

「ちょっとの差じゃないと思うがね。胸もバイクも」

「言わせておけば!出番少なくてキャラ定まってないくせにぃ〜!!!!」

「なにぃ・・・!?」

 由美の数々の罵声に真子もキレた。一方

「・・・・・・・・・」

 圭太は1人困ったように遠くから離れて見ていた。

 すると騒ぎに気付いた他のメンバーも集まってきた。

「まーったく、また揉めてるなあの2人」

「真子姉さんてば・・・はぁ」

 凛と紗耶香が呆れながら見つめている。

「だいたいアイツの何がいいんだか全っ然!わかんねぇや」

 凛が腕組みしながら言った。しかしその脇で紗耶香がぼそりとつぶやいた。

「ウソつき・・・」

「あん?」

「なんでもないよ」

 紗耶香が空を見つめながらはぐらかした。

 そしていつまでも睨み合っている2人の状況を打破するためか、はたまた更に悪化させたいのか、トラブルメーカーの美春がニコニコしながら言った。

「よぉし!じゃあ、今からコレで決着をつけよーじゃあないか♪」

 言って取り出したのは、由美が買ったまま袋から開けてすらいないビーチボールだ。

「ビーチボール・・・?どうするのよ?ていうかなんで勝手に・・・」

 由美が首を傾げながらのツッコミを無視して、美春はビーチボールの袋を開けながら

「これより第一回!けーちゃん争奪!ビーチバレー大会!!(ポロリもあるよ♪)を開催するよぉ♪」

「なるほど、確かにそのほうが手っ取り早くて楽よね・・・!でも、ポロリは無いわよ」

「面白い・・・受けて立つ!!だが、ポロリは無い」

  美春の開会宣言にツッコミを入れつつ、やる気満々なのか準備体操をしながら2人が言った。

「ち、ちょっと美春さん・・・!」

 一方、圭太は慌てながら美春を一旦輪から引っ張っていく。

「あん♪けーちゃんてばいつからそんなに強引になったのぉ?♪」

「ツッコミませんよ?ていうか、なんですかあのタイトル!?」

「へ?・・・だからぁ、第一回!けーちゃん争奪!ビーチバレー大会(ポロリもあるよ)!!だけど・・・?」

「だけど?じゃないですよ!なんで僕が景品になってるんですか!?」

 むがーっ!といった感じで圭太が問いつめると、美春はケロっと言った。

「まぁまぁ、これがきっかけでけーちゃんの悩みも消えちゃうかもしれないよぉ?」

「え、それって・・・」

「ポロリでおねーさんの心を潤したいのが本音なんだけどねぇ♪けーちゃんもポロリ見たら悩みなんてどっか言っちゃうのだ♪」

 一瞬先ほどの話と関係があるのかと思ったのだが、やはり美春は美春らしい。圭太は呆れたようなホッとしたような表情に戻った。

「でも僕は景品にはなりませんよ。旭さん達と合流してきますから・・・」

「ふっふ・・・行かせないための手はすでに打ってあるのだ」

「え?あ・・・!?」

 見れば、いつの間にか腕を掴まれていた。

「逃げられないのだ♪」

「え、ちょ・・・い、嫌だぁぁぁぁぁあああああ・・・!!!!!」

 今作品において、初の圭太の絶叫が響き渡った・・・






「と、いうわけでルール説明だお♪」

 美春が由美と真子の前で大会のルール説明を行う。

「えーっ、2対2のビーチバレー形式でぇ・・・バレーと同じで自分コートでのボールタッチは3回までとしますっ。そいでねぇ、今ちーちゃんとさやりんが頑張ってコートを書いてくれてるけど真ん中のネットが無いからって相手のコートに直接叩きつけるのはダメだよ?まっすぐ打つか山なりに打つかでないと点数にならないよ?ここまで大丈夫?♪」

「えぇ」

「だが、ビーチバレーというくらいならやはりチーム戦・・・チームのメンバーはどうやって決める?」

 真子がたずねると、美春はちょっと考えてから

「わたしはケガしたばかりだから、わたし以外の中から選んで♪」

 そう言って美春は左腕をぶんぶん振り回した。全然完治している。

「まぁなんかよくわかんないけど・・・ヤってヤるわ!真子さんに負けない相方をスカウトするわよ!!」

「ふっ・・・頭脳明晰、運動抜群の私が相手でなおさら不利だというのに・・・こちらには頭はアレだけど運動能力だけは高いのが1人いる。頭はアレだけど・・・ねじ伏せてやるわ」

「なぁ姉貴・・・?もしかしなくってもそれってオレのことだよね・・・?頭がアレって・・・」

 真子の背後で、凛が1人涙した・・・








 そしてチーム決めが終わり、いよいよ双方ともコートに立った。

「さぁ〜始まりました!第一回!・・・なんだっけ。あ、けーちゃん争奪!ビーチバレー大会(ポロリもあるよ)!!開催!!司会進行は私!霧島千尋と、解説は美春おねーちゃんで進めていきます!」

「よろしくお願いします」

 千尋の紹介に美春が野球解説者のように挨拶をした。かなり演じているようだ。

「では両チーム選手紹介を行います。コート右側!由美ちゃんと翔子ちゃんチームです!そしてコート左側!真子さんと凛ちゃんチーム!」

 千尋に紹介された由美は仁王立ちしながら目の前の真子を睨み、真子も負けじと睨み返す。一方翔子は「私ビーチバレーなんてしたことないですよ・・・」とあたふたしていて、そんな翔子を見兼ねた凛がなぐさめていた。

「そして公平かつ正確なジャッジ・・・!審判は紗耶香ちゃんです!!」

 コート真ん中で、なぜか審判の役目を仰せ遣った紗耶香が。

「そして優勝チームには、景品として圭太君1日束縛権が進呈されます!」

「もういやだ・・・」

 千尋が指さした先に、縄で縛られた圭太が泣きながらうなだれていた。

 ちなみに圭太の腕はロープで縛られ、逃げられぬように美春が握っていた。

「さぁおねー・・・み、美春さん!この戦いはどう見ますか!?」

「そうですねぇこの試合はですねぇ・・・」

 何やら好き勝手に大会を進行させる2人を見てその場の全員が・・・いや、由美と真子を除く全員が「早く終わらせて海入りたいなぁ」と思いながら見ていると、どうやら美春の解説が終わり、漸く試合が開始されるようだ。

 ピィィィィイ!!と紗耶香のホイッスルが鳴った。

「では、最初は由美ちゃん・翔子ちゃんチームからのサーブです!」

「翔子ちゃん!あなたなら大丈夫よ!?思い切り打ち込みなさい!!」

 由美が後ろでビーチボールを手にした翔子に声を掛ける。

「え、えいっ・・・・!」

 ぱこーん、と緩やかに相手コートに向かっていくボール。その向かう先には、すでに凛が入っていた。

「はんっ!甘いぜ!!」

 簡単にボールを真上に打ち上げた。そのボールが上がった瞬間・・・

「はあっ・・・!!」

 真子が跳躍し、ボールを叩きつけた。

 バチィッ!!

 強烈な音がしたかと思えば、由美と翔子の間にビーチボールが着弾した。

「凄まじいアタックです!真子さん・凛ちゃんチームが先制点!!」

 千尋が叫ぶ。

「ドンマイドンマイ!翔子ちゃん、次で取り返すわよ!!」

「は、はい!!」

 気を取り直して今度は守備の体制をとる由美と翔子。

「はっ!オレと姉貴が敵の時点でお前ら2人に勝ち目はないんだ、よっ!!」

 バチィッ!

 凄まじいライナーでサーブが飛んでいく。

「さぁ凛ちゃんから放たれた強烈なサーブが翔子ちゃんに!!初ビーチバレー翔子ちゃんにこれが捌けるでしょうか・・・!?」

 よくスポーツマンガに有りがちな、素早い攻撃や一瞬の出来事の間に挟まれる無駄に長い実況が千尋から発せられた。

「いや・・・これは!」

 脇では、またまたあり得ないタイミングでの解説で美春が言った。そして・・・

「っ・・・!!」

 バシィッ・・・!

 翔子は上手くボールを真上にトスした。ボールはまだ生きている。すかさず由美が飛び上がり・・・

「いっけぇぇえ!!」

 バチッ!!

 凛の手前にボールが叩きつけられた。

「な・・・!?あのサーブを受けるなんて!?」

 凛が愕然とする中、解説の美春がつぶやいた。

「やはり・・・由美選手の狙いはやはり」

「ズバリどういうことでしょうか美春さん」

「翔子選手、実は以前ボーリングをした際、今回みたいに初の体験だったのですが素晴らしい適応性と運動能力で上位に入賞したことがあるんですね」

「おぉっと!わたしそれに誘われてないよ!?衝撃のカミングアウト!!それについては後でたっぷりワケを聞かせていただきますが・・・なんと、一見運動とは程遠く見える翔子ちゃん!素晴らしい適応性で1点取り返しました!!」

 千尋が無駄に叫びながら実況する。

「ナイスよ翔子ちゃん!」

「だんだんわかってきました・・・!すっごく楽しいですっ!!」

 由美と翔子がハイタッチをする光景を見ながら、真子と凛が体制を整える。

「まさか翔子にそんな秘密があっただなんて・・・想定外だぜ姉貴」

「ふん・・・問題ないわ。私達が逃げ切って、圭太君を勝ち取れば・・・うふふ、うふふふふふふふ・・・!」

 圭太を勝ち取った時のことを妄想してニヤつく真子。

「そんなことさせないんだから!翔子ちゃん、頑張るわよ!!」

「はいっ!!では行きます!!・・・えいっ!!」

 今度は強めにバチッとサーブが放たれる。凛がそれを拾い上げ真子が強烈なスパイクと見せかけ、今度は指先で軽く押し出すような打ち方で由美の真後ろを狙うも、そこに翔子が飛び込み危機一髪でボールは生きている。

「ナイス翔子ちゃん!!いっけぇぇえ!!」

 由美の全力のアタック!!しかしこれを真子がブロック!!が、ボールは反れてしまいコートの外に・・・

「由美ちゃん・翔子ちゃんチームが2点目!!」

「今のブロックは惜しかったですねぇ」

 司会と解説が交互にペラペラと喋るうちにも競技は進行していく。点を取っては取り返し、また取り返しすという白熱の展開。

 審判も含め皆が熱中している最中、圭太はコートを動き、飛びまわる由美と真子達を見ていた。

「なんで僕がこんな目に・・・」

 司会席の脇で1人、腕を縛られ打ち首されるのを待つ武士のように正座させられている圭太は、このうだるような暑さのなか、蜃気楼に揺れる由美や真子達を見つめながら考えていた。

 千尋ちゃんと美春さんの先ほどの言動、由美や真子さんの普段の態度・・・確かに不思議だ・・・。

 普段バイクの話などをしているときの2人は仲が良いのに、自分がそこに絡むと急に険悪ムードになる。しかし2人は自分を嫌っていて仲が悪くなるわけでは無いらしいし・・・

 ぐにゃぐにゃと視界が歪む。

 そもそも、なんで僕が景品にならなければいけないんだ?罰ゲームというわけでは無いらしいが、腕を縛られ炎天下を涼める海を目の前に灼熱の砂浜に座らされ、やはり罰ゲームなのか?

 ついに頭もグラグラしてきた。


 そういえば今は皆何をしているんだっけ・・・?由美と真子さんを見ていた気がする・・・。

 真子さんは・・・たまに何を考えてるのかわからないけど、普段はしっかりしているしカッコいいし、バイクの運転ももの凄く上手くし頭も良い。

 ・・・すごく尊敬もしてる・・・積極的に僕に構ってくれるのも、実は凄く嬉しかったのかもしれない。

 由美は・・・おっちょこちょいだし考え無しに暴走するしなによりワガママ・・・ちっちゃい頃から命令されたりいじめられたり宿題を写させてあげたり・・・おやつも取られた・・・


 アタマガイタイ・・・ぐらぐらスル・・・


 それに低学年の時に海に行った時にも、砂浜に埋められた。それも波打ち際に顔だけ出されて・・・由美、おばさんにすごく怒られてたなぁ・・・。

 ん・・・?そういえば海で何か約束した気がする。


 吐キ気ガシテキタ・・・


 でも、ちっちゃい頃からずーっと一緒にいた。

 中学に上がっても一緒に遊んでいたし、高校も同じで・・・ずっと一緒だ。


『ずっといっしょだからね!けいたはわたしのこぶんでドレイでともだちだから!クラスがかわってもなにがあってもだから!』


 昔、そんなことを言われた気がする。昔からワガママで自分勝手。

 でも・・・






 そんな由美とは、今もずっと一緒だ・・・







「・・・!・・・・・・・・・!・・・圭太!!!!!!」

「・・・あ、れ・・・?」

「目が覚めたのか!?圭太君!」

「由美・・・?それに真子さんも・・・どうしたんですか・・・?」

 目を覚ますと、圭太の視界に飛び込んできたのは由美の泣き顔と真子の狼狽した顔だった。

 先ほどまでいた灼熱地獄の砂浜から、いつの間にかパラソルのあるレジャーシートの上に移動していたらしい。

「けーちゃん起きた!?あぁ・・・よかったよぉ・・・」

 美春の声の聞こえる方を見る。ホッとした表情で頭の横に座ると、今まで気付かなかったが額にタオルを乗せられていたらしく、それを交換した。

「冷たいです・・・」

「保冷剤が巻いてあるから。吐き気はする?目眩とかダルいとか」

「吐き気以外・・・頭が痛いです・・・」

 一呼吸置いて圭太が言う。すると、涙でうるうるした瞳をした由美がガバッと頭を下げた。

「ゴメンなさい!!」

「え・・・?ちょ、由美?」

 見れば真子も頭を下げている。いきなりの事態に慌てる圭太に、美春が説明した。

「あのね、けーちゃん・・・さっきまでのこと、覚えてるかなぁ・・・?」

「・・・ビーチバレー、ですよね?」

 圭太が言うと、美春がうなずいた。

「それで・・・みんな熱中していたら・・・その、縛って動けなかったけーちゃんのことに気付かなくて・・・その・・・」

 美春がそこまで言って、圭太もようやく事情を飲み込めた。つまり自分は・・・。

「そのまま熱中症になった・・・と」

「本当にゴメンなさい!!」

 美春も勢いよく土下座した。すると今まで気付かなかったが、翔子や凛、紗耶香、千尋も心罪悪感と申し訳なさと心配そうな表情をして立っていた。

「あの・・・とりあえずその、みんな顔を上げてくれないかな・・・?」

 圭太が言うと、みんな顔を上げた。しかしその表情はやはり変わらない。そして。

「ほら、由美と真子さんも・・・」

 2人は未だに土下座したまま顔を上げない。

「けいたぁ・・・ひっぐ・・・ごめんなざい・・・うぅ」

「私達が悪かった・・・ぐすっ・・・許して・・・」

 しまいには泣きだしてしまった。由美はともかく真子が泣くとは・・・凄い珍しい状況なんじゃないかと心の片隅で思いつつ、圭太は言った。

「えっと・・・今度から気を付けてくれるって約束してくれるなら・・・許してあげる」

「・・・!するっ・・・!約束するっ!!」

「絶対厳守するっ!!だからっ・・・!!」

 由美と真子がようやく顔を上げた。圭太は美春に肩を借りて上半身だけを起こすと2人を見て言った。

「じゃあこれで仲直りね・・・?みんなに心配かけてごめn・・・」

「けいたぁぁぁあ・・・!!」

「圭太君っ・・・!!」

「ぐわぁっ・・・!?ち、ちょっと・・・!?」

 圭太の言葉を聞いて、まだ途中なのに思わず水着姿なのを忘れて圭太に飛び付く2人。

「うわわ・・・真子姉さんが抱きついてる・・・」

「こ・・・これはなんか壮観というか・・・」

「あらあらうふふ・・・♪」

 紗耶香と翔子が恥ずかしそうに。美春は笑いながらその光景を見ていると。

「あ!凛ちゃんも微妙にくっついてる!」

「なぁ・・・!?」

 千尋の視線の先には、2人にまた押し潰された圭太の指先をちょっとだけ握っている凛の姿が。

「ちちちちち、違うから!!これはその・・・!ぐ、偶然・・・!!」

 狼狽しまくる凛を見て、紗耶香がポンポンと凛の肩を叩いた。

「凛・お・ね・え・ち・ゃ・ん?頑張ってね!」

「なぁ!?待て紗耶香!!違うっつってんだろーが!?」

「怖い怖いかわいい〜!!」

 目を渦巻かせて紗耶香を追い掛ける凛と、おちょくりながら逃げる紗耶香。

「なんと・・・あの凛ちゃんまで・・・」

「大変ですね、圭太さん」

 千尋と翔子がのほほんとしながら目を見合わせる。

 一方圭太は・・・

「ちょ、2人とも・・・!は、離して・・・!!」

 2人を相手に奮闘していた。

 普段ならともかく今は絶賛熱中症のため身体が動かせない。オマケに2人の格好はもちろん水着・・・。耐性が小学生並みの圭太は、目の前の光景に耐えられるはずがない。

「あーもう!!離れてくれないと怒るよ2人とも!!」

「「!?」」

 その圭太の言葉を聞いて、由美と真子はかなりのスピードで圭太から離れた。

「まったく・・・!まだ熱中症治ったわけじゃないし2人ともその・・・み、水着なんだし・・・!自重して!」

 圭太が言うと、今さら自分たちの服装と行動の大胆さに気付いたのか、由美と真子はゆでダコのように顔を赤くしながら小さい声で「「ゴメンなさい」」 と言った。

「けーちゃん・・・」

「『おねーさんと変わりなさい』て言ったらおにーちゃんに報告しちゃうよ?」

「い、嫌だなぁちーちゃんてばぁ♪そんなこと言うわけないよぉ♪うらやましぃ・・・」

「美春さん、最後本音ダダ漏れしてます・・・」

 翔子が呆れながら言った。

「冗談はさておき・・・けーちゃんが熱中症なのに私達だけで遊ぶなんて出来ないし・・・一旦部屋に戻ろうと思うんだぁ」

 美春が話を進める。

「私達でここの後片付けをするから、ゆーちゃんとマコリンで先にけーちゃんを連れていって欲しいんだよね♪」

「わかったわ・・・みんなありがとう」

「気にしないでください!困った時はお互い様ですよ」

 真子の言葉に笑顔で翔子が返した。

「みんなゴメン・・・先に部屋で休ませてもらうね?」

「まぁけーちゃんはゆっくり休んでね♪2人はけーちゃん部屋まで送ったら、後片付け手伝いに戻ってきてね♪」

「わかってるわよ美春ちゃん!じゃあちょっとだけ待っててちょうだい!!」

「行くぞ圭太君・・・」

 由美と真子が圭太を労りながら浜辺を歩いていく。

 最初は無言だったが、由美が口を開いた。

「圭太・・・本当にゴメンなさい・・・私・・・」

「大丈夫だよ。もう怒ってないよただ・・・」

 ここで一区切りして、さらに続ける。

「なんで2人は、たまに仲悪くなるのかな?」

 その圭太の問いを聞いて、由美と真子は目を見合わせた。そして大きなため息をついた。

「本っっつ当に鈍いのね圭太・・・はぁ」

「不可抗力とはいえさっき水着越しに抱き締めたのに・・・はぁ」

 2人のタイミングぴったりのため息。その2人の反応に圭太はやはり首を傾げるのであった。


 坂道を登り、洋館の入り口の鍵を開けてもらってようやく2人と別れた圭太は部屋に戻り、着替えてから頭痛に耐えながら冷蔵庫の中から水を取り出して喉を潤した。

「はぁ・・・」

 あの2人の呆れ顔とため息を思い出す。

 どうやら朝方に千尋が言ったように、原因は自分にあるらしい。しかし思い当たる節は無い。圭太はまた水を一口飲んだ。

「・・・・・・」

 思い当たる節は無い・・・しかし、旧車物語夏の合宿最中に、また一、ニ波乱あるんだろうなぁと何となく予感しながら圭太はベッドに身を投げると頭痛に負けておとなしく寝てしまった・・・








「これで荷物は全部かな♪」

「しかし夏場のピストン輸送は辛いよおねーちゃん・・・」

 美春が辺りを忘れ物が無いか確認している脇で千尋が言った。

「もう残ってるのは私と美春さんと千尋さんだけですし、私達も最後の荷物を運びましょうか」

 小脇に荷物を抱えた翔子が言うと、美春は何か引っ掛かるらしく首を捻る。

「なーにか忘れている気がするんだよなぁおねーさん・・・なにかなぁ・・・?」

 しばらく考えていたが結局分からず、美春達も浜辺をあとにした。









「よっしゃあ!!また釣れたぁ!!」

「入れ食いだな・・・ここはいいスポットだったみてーな!!」

 一方岩場の片隅では、出番も無く忘れ去られて置いていかれた釣りキチ2人が、未だに釣糸を垂らしていた。

 この後大量に釣れた魚を持って帰ってきたら浜辺に誰も居らず2人がガッカリするのだが、それはまた別のお話・・・そして・・・






 ブバァァアブバブバァァアァァア・・・!!!!!

「姐様ぁぁぁああ!!どこにいるんですかぁぁああ!!??」

 道に迷った玲花が叫びながら爆走していたが、こちらも完全に忘れ去られていたとか・・・

お久しぶりです!!

いや、もう季節も秋ですよ。もう北海道では雪もちらほら降ったようで、紅葉シーズンもあとわずか!赤く染まった山を見ながらツーリングに行きたいのですが、諸事情により行けそうになくそのまま冬を迎えてしまいそうです・・・泣

まぁ冬でも乗ってしまうんですが・・・(笑)

今回もそんな季節なのに夏のお話・・・。

季節外れもいいとこですが、これからもどうかこの『旧車物語』を、ぜひよろしくお願いします!!


3気筒

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