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旧車物語  作者: 3気筒
52/71

第52章 海!!

 海ほたるの二輪車置き場で、入れ代わり立ち代わりで出入りしていくバイクやクルマ、そして自分たちのバイクを眺めながら、圭太は上で買ったメロンパンを頬張るとため息をつきながら咀嚼した。

「・・・・・・」


『あの2人は仲良しだよ?悪いのは圭太くんだよ?由美ちゃんも真子さんもかわいそうだなぁ・・・』


 先ほどの千尋の言葉が、頭の中を駆け巡る。あの時の千尋の眼は、いつものマスコットキャラクターみたいな時のそれとは違い、なにか真面目な話をしているときの美春のような、人が変わったような眼をしていた。つまり、由美と真子の不仲はあの2人に原因があるわけではなく、自分にあるというのは間違い無いらしい。


 メロンパンをまた一口。


 右隣にある真っ赤なゼファーと、その隣にある白いマッハを見て圭太はまたため息をつくのであった・・・







「楽しかったねぇあっくん、ちーちゃん♪」

「ったく・・・あんだけ人混みがすげーとは思わなかったぜ」

「ごはん食べるのに30分も並んじゃったけど、お土産も買えたし・・・♪」

 集合時間になり、旭と美春、そして千尋が二輪車置き場にやってきた。自分たちのバイクを停めている場所が無人なのを見るに、自分たちが一番乗りらしい。

「こっからちっとばかし海の上か・・・」

「楽しみだよ〜♪みんなで初めての長距離だよぉ♪」

 美春が嬉しそうに言う。ちょうどその時、後ろから由美と赤城3姉妹もやってきた。

「全く・・・!圭太ったら、どこに逃げたのかしら!?」

 由美が憤慨しながら言うと、ドカッとゼファーのシートに座った。

「ゆーちゃんもまこりんも、あんまりけーちゃんを恐がらせたらメっ!だよぉ?」

「「恐がらせてない!!」」

「うわぁ・・・」

 2人の怒号にも似た返事に美春が逃げ出すと、ちょうど運悪く圭太が戻ってきた。

「ちょっと圭太!どこ行ってたのよ!?」

 ゼファーから飛び降りると、勢いよくまくしたてる由美。

「あ、いやぁ・・・ちょっとお腹の調子が・・・」

 圭太が誤魔化すように言う。チラッと千尋を伺うと、ニタニタと笑みを浮かべていた。

「全く・・・心配したんだぞ?」

 真子がポンっと圭太の肩を叩く。圭太はまた曖昧に苦笑した。

「ところで洋介と翔子ちゃんはよ?」

 旭がサンパチに跨がりながら言う。

「一時間近くふらついてたってのに、翔子ちゃんと洋介には一度も会わなかったなぁ?」

「私たちは会ったっけ?」

 真子がたずねると、旭がうなずいた。

「今にも人殺しちまいそうな眼をギラつかせてたからな、無視した」

 その瞬間、周りから笑いが起きた。

「そ、そんな顔をしていた覚えは・・・!」

 焦って弁解しつつ圭太を見る。幸い圭太も笑っていた。真子は嫌われる心配がなくなり、少しホッとした。

 丁度その時、ようやく洋介と翔子が並んで歩いてきた。

「お疲れさまです。遅かったですね」

 紗耶香が翔子に向かって笑顔で言うと、翔子は申し訳なさそうに笑った。

「すみません、どうにもいい景色だったので・・・写真を撮っていたら・・・」

「全く凄かったぜ?マジな顔してずーっと撮ってんの」

 その時の翔子の様子を大げさに再現しながら、目に見えないカメラで皆を見渡しながら洋介が言った。

 翔子はなにやらバッグから小さい黒い物体を取出し、ハンドルに固定をし始めた。

「なんだそれ?」

 洋介が問うと、翔子はニコニコしながら、その物体の先にデジカメを固定した。

「せっかくのツーリングですから、動画に撮っておこうと思って」

 笑顔でカチャカチャとデジカメを装着する翔子は、幸せそうな表情をしていた。

「それしゃあ、みんな揃ったことだし、そろそろ出るわよ」

 そろそろ頃合いと見て真子が言うと、みんなも頷いて、各々の愛車に跨がった。

 圭太もFXに跨がり、キーシリンダーにキーを差し込む。その時ふと、凛の姿が目に入った。

「どうしたの?なんか元気ないけど・・・?」

「は、ははははは・・・」

 しかし凛は虚ろに笑うだけであった。圭太は首を傾げながらFXを引き出した。原因が自分にあるとも知らずに・・・






 数珠つなぎのように一列に並んで海ほたるを出る。辺りは海に反射してキラキラと眩しく輝く光と、穏やかな風。そしてその海の上に、ただ一本の道がある。向こうに見える陸が蜃気楼で揺れて、幻想的な光景が眼前に広がる。

「いよいよかぁ・・・!」

 FXを徐行させながら圭太がつぶやく。都合のいいことに、前を走る車は遥か向こうを蜃気楼に揺られている。絶好のタイミングでいよいよ合流。そして・・・

「・・・・・・!」

 圭太は息を飲んだ。

 十台に近いバイク達が、まるで海に放たれた魚のように、橋のうえを滑りだした。その光景に圭太は感動すらした。

 先頭を走る真子は

「風も無いし・・・絶好のツーリング日和だ・・・!」

 と叫ぶとアクセルをガツンと開けた。それに続いて凛と旭、洋介も追随した。

「うぉぉぉおお!!!ヨンヒャク!!!お前は風だぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」

 洋介が叫びながら圭太の脇をカッ飛んで行った。真子や旭達に負けないテクニックがありながら高速道路では置いていかれていたヨンフォアも、458ccに上がった排気量は、まさに水を得た魚である。

 一方、後続のグループはと言えば・・・

「いつもより風がキモチいいよぉ〜♪」

「だねぇ♪」

 美春と千尋は、ほのぼのした雰囲気で、アクアラインを満喫していた。その隣で紗耶香は、前を走る姉達を少しだけ心配しながらも、快適なツーリングを楽しんでいた。

「・・・♪」

 翔子は最後尾からデジカメで皆の走る様子を撮っていた。時折並んでカメラの首を左右に振って皆の表情や海などを撮影していた。終始ご機嫌なようである。

 由美と圭太は、互いに顔を見合わせてこの景色を堪能していた。由美は大はしゃぎのようで、時折圭太や後ろを走る紗耶香達に手を振ったりしていたが、やがて加速して旭達を追い始めた。圭太もそれにくっ付いていくことにした。ギヤを下げて滅多にしないフルスロットル。FXの純正マフラーが唸りを上げた。


 ギャワァァァァァアアアア・・・!!!!


 しかしやはりノーマルと年代のハンデは縮まらないようで、由美のゼファーはぐんぐん離れていった。しかし圭太は、なんとも言えない爽快な気分になった。




 由美に追い付いたのは、先ほどまで蜃気楼に揺れていたアクアラインの終点、千葉側の料金所の手前であった。9台のバイク達はそこで一度まとまり、料金所を出た。そこからもしばらく高速を使い、漸く先頭を走る真子のウィンカーが左に出たのは、だいぶ後になってからだった。

 そこから下道を走り続ける。山に囲まれたワインディングは、路面状況も悪く短いトンネルが多いため見通しも悪い。飛ばすには不向きな道であった。

 さすがに圭太も疲れが見えはじめた。しかしそんな時、何個目かもわからなくなったトンネルを抜けた瞬間。反対車線の方から、いきなり真っ青な海が飛び出してきた。

「うわぁ・・・!」

「綺麗なモンだなぁ」

 圭太が感激の声を上げると、前を走っていた旭も同じくつぶやいた。

 そして、また真子のウィンカーが左に出された。そこを曲がると細く短い上り道で、上り切った先に、突如、古い外観の洋館が現れた。そこの目の前で、漸くみんな停車した。

「着いたわよ」

「ここが・・・」

「大きいわね・・・」

 なにか異様なまでのオーラを放つ洋館。パッと見ただけでもかなり古そうなデザインと雰囲気が圭太達を出迎えた。

「父から聞いた話だと明治の後半に建てられたもので、もう築百年目前のものなのだけど、うちの会社で手を入れたから見た目以外はすごく綺麗だから、期待してくれていい」

 真子の説明を聞いて驚きと感動をいっぺんに体感した。そんな大昔の洋館で旅行を過ごせるとは・・・

「赤城建設・・・恐るべしね」

「うんうん」

 由美と美春が交互に頷いた。しかし真子は少し申し訳なさそうにひとこと付け加えた。

「見てのとおりここはこの洋館と、あっちの離れ以外に何もないからバイクはここにそのまま置いてもらう形になってしまうのだけど・・・」

「あぁ、まぁ大丈夫だべ。そこなら調度常に日陰だしな」

 全く気にしていないようで、旭はサンパチを押して建物の裏・・・森側の壁に止めた。ここなら目立たないし問題もなさそうだ。

「そう、ならみんなそこに停めてもらえる?」

「うん♪」

 真子の指示に従って美春や翔子達も愛車を並べていく。

「でもこれだけ立派な洋館を背景に私達のバイクが並ぶと、なんだか不思議な気持ちになりますね」

「まぁね。さすがに30年以上前のバイクでも、百年近く前の建物と比べたら」

 翔子の言葉に由美が返した。その威厳ある佇まいに2人が興奮していると、紗耶香が洋館の玄関の鍵を凛と解除したらしく、凛が叫びながら手を振る。

「早く中に入ろうぜ!」

「待ってました!!」

「ワクワク・・・ワクワク・・・!」

 凛と紗耶香の後に続いて由美と翔子が中に飛び込んでいった。そして旭達も入っていくのを確認しつつ、圭太は改めて洋館を見上げた。

 なんだか・・・まるで・・・

「誰かが殺されてもなんの不思議もなさそうなロケーションだな」

「っ・・・!?て・・・なんだ驚かさないでくださいよ、洋介さん・・・」

 思っていたことを横からボソッと言われたせいで今も心臓がドキドキ言っている圭太に、洋介は追い討ちをかけた。

「いやでもさ・・・夏休みで海があって別荘で洋館で泊まりで・・・金田一もビックリなほど同じ状況だぜ?」

「ははは、確かに!でもさすがにそれは無いですよ」

「だよな!あっはっはっはっは!!」


 ぎぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!


「「!?」」

「な、なんだ今の・・・!?」

 いきなり洋館から突如悲鳴が上がった。まさかの事態に洋介がビビりつつも洋館入り口に目をやる。

「今の・・・み、みんなは!?」

 我に帰って、圭太と洋介は玄関に滑り込むように飛び込んだ。

「おいどうした!?」

「一体なにが・・・!?」

 洋介と圭太がようやく洋館の中に侵入した。そして・・・

「すっごぉおい!!天井高いわね!!」

「ゆ、由美さん見てください!階段の手摺り!!」

「金ぴかだねぇ〜♪」

「すごいねおねーちゃん!」

「こりゃあ城だな・・・ったく」

 洋館の内部に驚く由美達は悲鳴をあげながら辺りを見回していた。

「階段が左右に別れているでしょう?上が客室になっているわ。それと・・・」

 そこまで言って、ふと真子が背後を振り向くと、ずっこけた体勢で固まっている圭太と洋介がいた。

「何をしているの?」

「なんでもねーヨ」

「はいです・・・」

 洋介と圭太は、少しむくれッ面で答えた。

「でも・・・」

 立ち上がりながら圭太が辺りを見渡す。なるほど、これは確かに中身も素晴らしい。左右に伸びる長い廊下。目の前に広い階段の踊り場には大きな時計があり、外には和風の小さな平屋の離れ・・・こんな豪邸のような所に泊まってよいのだろうか・・・

「こんな素敵な所なら何ヵ月でもいたいわ・・・」

 由美が呟き、皆が一緒に頷いていると真子が何かを思い出したのか、ぽん、と手の平を打った。

「ちなみに食事は、材料だけは揃えてあるから自炊よ」

「ええっ!?」

「そんなぁ!!」

 その言葉に、由美と翔子は愕然した。

「ま、それも含めて夏休みの旅行を有意義なものにしようぜってことだ」

「凛お姉ちゃんが一番心配だよ・・・」

 凛がそれっぽいことを言っている横で、紗耶香が心配そうにつぶやいた

「とりあえずみんな荷物を置こうぜ?とりあえず部屋の確認もしなきゃだしな」

「それには賛成だよぅ♪早く海いこーよ!!」

 凛が言うと、美春が子供のようにはしゃぐ。確かにここまで来たら部屋も気になってくるというものだ。

「それもそうね。鍵は付いていないから、上の部屋なら好きに使って構わないわ」

「それじゃあ早速!!」

「着替えよう!!」

 斯くして、一同は金ぴか階段を上がった。2階も廊下が左右に長く伸びていて、部屋がいくつも並んでいた。

「じゃあオレはこの部屋にすんかな」

 旭が階段から一番近い右側通路の部屋の扉を開けて部屋に入った。

「ほー・・・こりゃあ本当に旅館みてーな」

 部屋の間取りはシンプルで、入ってすぐ脇に小さな下駄箱がある。スリッパに履き変えて中に入ると、旭の住む雪風荘の部屋より少し広く、ベッドや小さな冷蔵庫、ソファーなどが接地されている。

 そしてベランダに出ると、太陽に照らされて輝く海と、その地平線が旭を出迎えた。

「ちなみに全ての部屋から海が見えるわ。景色だけなら本当に旅館を超えているかもしれないわね」

 開けっ放した入り口から、真子が得意気に言った。

「じ、じゃあせっかくだからオレはこっちの部屋を選ぶぜ♪」

「まってよおねーちゃん!!」

 なにやらよくわからないテンションで美春と千尋が左側通路に走りだしていった。階段寄りの部屋から3つ隣の部屋に入ると、2人の歓声が聞こえた。

「すごい♪こっちは和室だよぉ♪」

「畳だぁー♪」

 美春と千尋は荷物を放り投げるとゴロゴロと畳を転がり始めた。

「そうそう・・・こっち側の通路は全て和室部屋。右側の部屋は洋風の部屋になっているわ」

 開けっ放しの扉の外から、再び真子が言った。

「むー。圭太はどの部屋に行くのよ?」

 階段中央で腕組みをしながら由美が圭太に目を向けた。

「僕は・・・右側の部屋にしようかな」

「そう、じゃあ早く部屋に行きましょう?」

 由美は圭太の手を引いて右側通路を進む。

「私はこの部屋にするわ。圭太は絶対に私の隣よ?」

 そう言って由美は部屋に消えていった。

「僕には拒否権も選択権もないんだなぁ・・・」

「モテるのも辛いんだなぁ」

 横で洋介がなにやらボソッとつぶやいたが、それには気付かず圭太は由美に言われた部屋に入った。

「ふっ・・・圭太君はあの部屋か。なら私は・・・あ、皆、着替えたらそのままロビーに集合で」

 そう言うと、真子は圭太の隣の部屋に入っていった。それを見て

「挟まれたな」

「挟まれましたね」

「圭太に幸あれ」

 凛、翔子、そして洋介が合掌した。








 それから数十分後。

「お、圭太」

「旭さん早いですね」

 一番最初に到着していたのは旭だった。赤いアロハの内側から腹筋が見えている。下は膝丈の黒いサーフパンツ、そしてサンダルのスタイルである。

「なんかオメー細っせーなぁ。女みてぇな」

 言いながら、圭太の肩をバシバシ叩く。

 そんな圭太の格好は、白いTシャツに紺色のサーフパンツだ。

「あ、旭さんだって細いじゃないですか・・・」

「オレはがっちりしてんから問題ねーべ」

 そんな会話をしていると、由美と凛と紗耶香がやってきた。

「待たせたわね!」

「海がオレを呼んでるぜぃ!!」

「凛お姉ちゃん、油断してると溺れちゃうよ?」

 3人もまだ上からTシャツを着ている。海でようやくお披露目になりそうだ。

 そうこうしているうちに、全員が着替えて集まった。様々な荷物を抱えて、圭太達は真子を先頭に歩いて海に向かった。

 海は洋館前の坂を下がって道路を一本挟んですぐ目の前にある。

「海だぁー!」

「海だねぇ♪」

「夏だぜぇ!」

 由美、美春、凛の3バカトリオが、文字通り海に向かって叫んだ。

「海の家とか・・・他の海水浴の客とかいないぞここ」

 洋介が言うと、真子がまた自慢気に言った。

「民家も無ければ旅館も離れた海水浴場のあたりにしか無いから、ここはかなり穴場なのよ?」

「もうなんでも有りだな・・・」

 洋介が呆れながらつぶやいた。そんな洋介の背後から由美が当たり前のように言った。

「それじゃあ男子組!パラソルとレジャーシートとその他設営頼むわよ!?」

「ちょ、マジかよ由美ちゃん!?」

「私はぶきよーだから出来ないんだよ〜ゴメンね?」

「まぁ食事は私達女子組がやるから、ここはお願いね?」

 洋介の悲痛な叫びに、美春と真子がなぐさめた。

 こうして男3人組は、穴を掘って洋館に用意されていたパラソルを立てたりレジャーシートを風で飛ばされないように四隅に石を置いたり、折り畳み式の椅子を立てたり、荷物を整理したり・・・

「あっちーなぁ、ったくよー」

「旭さん、こっちは大丈夫ですよ」

「しかし・・・女組はいったいなにやってんだ?」

 洋介がつぶやくと、2人も洋介の視線の先を追い掛けた。なにやら少し離れた場所で騒いでいるようだ。




「じゃーん!それでは、私達旧車物語の初旅行メインイベント!!」

「水着披露大会を開催だよ〜♪」

「ぱちぱち〜!」

 突如、いきなり意味のわからない大会が、由美、美春、そして千尋によって開催された。

「まずは私からよ!」

 トップバッターは由美らしい。上に着ていたTシャツをガバッと脱ぎ捨てた。

「お〜!」

「かわいいですね!」

 凛と翔子が歓声を上げた。由美の水着は白いタンキニの水着だ。

「ゼファーちゃんの赤にしようか迷ったんだけど、私には派手すぎたわ。白でも似合うわよね?」

「すごく似合ってますよ!」

「ありがとう紗耶香ちゃん!」

 紗耶香に向かって由美が手を振っていると、その側で腕を組んでいた真子が不気味に笑った。

「ふふふ・・・」

「な、なにがおかしいのよ?」

「この私の水着と同じ色を選ぶなんて・・・ね」

「よりによって真子さんとかぶった!?白なの!?」

 由美が騒ぐと、真子は無意味に髪の毛をかき分けた。

「しかもワンピースなんて子供っぽいのと一味違うわよ・・・!?」

 そして上着を脱ぎ捨てた。そこには・・・

「うわぁ!?ま、眩しすぎる!?」

「な、なによあれ・・・?」

「反則ですよあれ・・・」

 千尋がその眩しさに思わず目を背け、由美と翔子が愕然とした。

 真子が着用したのは、真っ白いビキニである。ただのビキニであれば、ここまでの反応は些かオーバーリアクションであるが、皆が驚いたのは水着チョイスに完璧にマッチした、その身体である。

 旧車物語内でもトップクラスの大きさを誇る胸が、ビキニによってさらに谷間を強調させている。さらに腰のくびれもスマートで、素晴らしいプロポーションがビキニをさらに引き立てていた。

「ふっ・・・」

 なにかに勝ち誇る真子。しかしそんな真子の脇で、また違った魅力をもった少女2人が上着を脱いだ。

「姉貴に続いて俺達も行くぜ!!」

「や、やっぱりその・・・は、恥ずかしいよ・・・」

 何故かハイテンションな凛と紗耶香がシャツを脱いで水着を披露した。

「おぉ・・・」

「こ、これは双子にしか会得出来ないと言われる色違い!!」

 翔子が思わず声をうならせ、由美が変な解説を挟んだ。

 2人が選んだのもビキニである。真子に比べると迫力は薄いが目以外は同じ顔をしているので、2人が並ぶとなんだか不思議な感覚になる。ちなみに凛が赤で紗耶香が青だ。

「なんだか2人で1つって感じでいいですね」

「じゃあ次は翔子ちゃんの番よ?」

「ええ!?」

 凛と紗耶香の感想を述べていた翔子のシャツに由美が手を掛けながら言うと、翔子はかなり慌てだした。

「ま、待ってくださいまだ心の準備がぁ・・・!」

「問答無用!ていっ!!」

 由美が無理矢理シャツを脱がした。そこには。

「これはまた・・・」

「黒だねぇ♪」

 真子と美春がつぶやいた。翔子の水着は黒いワンピースタイプだ。かなり大人っぽいデザインで、身体のラインがよく出ている。

「ずいぶんかわいいわね翔子ちゃん!」

「や、やっぱり恥ずかしいです・・・!」

 そういうと、由美から上着を取り返した翔子は身体を隠すようにして涙目でうつむいた。

「かわいいなぁしーちゃん♪じゃあ次は美春おねーさんの番だよ♪」

 美春が翔子の頭を撫でながら慰める。そして美春も上着に手をかけた。すると・・・

「な・・・!?」

「ま、真子さん並みに眩しっ・・・!?」

 真子と由美は目を覆った。美春の水着は、青いタンキニの下に青いパレオを付けている。

 普段アホでバカでなんかダメダメな美春だが、そのスタイルは真子にも負けず劣らずであるのだ。今まで何度となく翔子を窒息させてきた巨乳も、今は兵器ではなく女性の魅力をたっぷり引き出している。

「ふっはっは〜♪たまには私がオットナ〜なところも見せないとね♪」

「なんだか悔しいわね・・・」

 由美が恨めしそうに美春を(特に胸を中心に)見つめていると、いよいよラストは千尋の出番だ。

「ちーちゃんの水着は私が選んだのだ♪」

 美春が胸を張って威張る。

「千尋さんの水着姿って、可愛らしそうですよね!」

「隣に旭とかいたら軽く犯罪の匂いがしそうだけどな」

「誰が犯罪者だこの野郎」

「うわぁ!?」

 凛の背後で旭が仁王立ちしていた。よく見れば圭太と洋介もその後ろにいた。

「なんだよ〜、頑張って支度してたら、女組はそんな楽しそうなことしてたのかよ〜」

 洋介が拗ねながらつぶやいた。しかし・・・

「ん〜・・・?」

「な、なによ・・・?」

 洋介がじーっと皆の水着姿を見始めたので、由美をはじめ各々が恥ずかしそうに体を背けた。

「素晴らしいですなぁ・・・まるで夢の中にいるような」

「おい、そろそろみんながドン引きしてんぞ」

 旭が突っ込んだ。

「ま、まぁ・・・はぐっちの変態君は無視するとして・・・」

「美春ちゃんにだけは言われたくなかったな」

 美春にたいして洋介は一応ツッコミを入れるが、やはり無視された。

「とりあえず私の選んだちーちゃんの水着姿のお披露目だよ♪」

 そういうと、美春は千尋の上着を脱がせた。そして・・・

「な・・・!?」

「ち、千尋ちゃんそれ・・・」

「・・・・・・」

 一同、千尋の水着を見て唖然となった。それもそのはず、紺色でピッチリしてて胸元には白い枠に「ちひろ」の手書き入り・・・スク水だった。

「えへへ・・・おねーちゃんが私のために今一番流行ってるって噂って買ってくれたんだ〜!『これならみんなちーちゃんに釘付け!!かぁいいよ♪』って!そんでね〜」

「あー・・・美春・・・ちっと来い・・・」

 嬉々としながら水着を見せる千尋。皆が唖然とする中、旭はとりあえず美春を手招きで呼んだ。

「なにかなあっくん♪ちーちゃんかぁいいよね♪やっぱロリにはスク水!おねーさん自分のセンスが恐ろしいよ♪」

 今すぐ頭なでなでして〜褒めて〜と言わんばかりに頭を差し出す美春。とりあえず旭は美春のこめかみに拳をセットした。そして

「この大バカ変態野郎!!」

「いだだだだだだだだだ!!!!!!!!!!!」

 こめかみグリグリによる処刑が開始された。みんなが「仕方ないな」と呆れながら見つめるなか、千尋は不思議そうにその光景を見つめていた。






 それから数刻後・・・

 漸くみんな海に入りはじめた。

「きゃー!冷たい!!」

「水も綺麗です!わー・・・海って凄いです!!」

 由美と翔子は一緒に手を繋ぎながら波打ち際で遊んでいる。そんな光景を見ながら、圭太はパラソルの下で死んでいる美春に目をやった。

「あの・・・大丈夫ですか・・・?」

「ダメ・・・」

 こめかみを押さえながら寝転がる美春を少し心配してから、目の前でいそいそと準備している旭と洋介に目をやる。

 2人は、洋館から拝借した釣竿と餌やらなんやらが入った箱と網を持っている。

「じゃあ圭太、オレら釣り行ってくんからよ。あと頼んだぞ?」

「旭さん達、泳がないんですか?」

「泳ぎは明日だべな。今日はせっかくリーゼントなのに潜ったらカッコ悪くなんだろ?今日は魚とケンカしながら肌焼くわ」

「ちなみにオレ様は釣りに飽きたらすぐに泳ぐぜ!ま、目の前に水着ギャルがこんなに沢山いるんだしな」

 変なこだわりを持つ旭と、下心垂れ流しの洋介がそれぞれ言い残すと、2人は岩場の方へ歩いて釣りスポットを探しに行った。2人の釣果を期待しつつ、圭太はまた浜辺を見渡す。

「由美さん由美さん!波が引くと砂浜に足が!!」

「翔子ちゃん、さすがにもうちょっと深いとこ行きましょうよ・・・」

 膝丈くらいの水深の場所では、相変わらず由美と翔子がきゃーきゃー言っている。そしてそこに、真子達が加わる。

「最高の海水浴日和ね・・・」

「本当よね!真子さんには感謝感謝よ!」

 由美がニコニコしながら真子に言った。なかなか微笑ましい光景だなぁ、と圭太はしばらく見ていた。

「紗耶香、お前まだ泳げねーのか?」

「う、いいじゃない浮き輪くらい・・・!」

「へっへーん!浮き輪なんか使ってるうちはまたまだ子供なんだぜ!」

「ぐぬぬぬぬっ・・・!凛お姉ちゃんのくせに・・・!!貸してって言っても貸さないから!!」

 双子でも、顔と声以外はやはり似ていない凛と紗耶香。秀才タイプの紗耶香だが、運動神経では大分凛に差を付けられているらしい。

 紗耶香はそっぽを向くと浮き輪に掴まってプカプカと波に揺られはじめた。

「うわぁ・・・!楽しそうです!!」

 それを見ていた翔子が目をキラキラさせながら見つめていると、紗耶香が気付いて手を振った。

「あと1人くらいなら掴まる余裕ありますよー!翔子さんもどうですか〜!?」

「行きます行きます!」

 そうして浮いている紗耶香のもとにバシャバシャと歩きだす翔子。2人は浮き輪に一緒に捕まって、交互に乗っかてみたりして遊びはじめた。

 一方由美達は。

「千尋ちゃんも浮き輪持ってきたのね」

「かわいい?エビマヨエビマヨ♪」

「あー、絶対海に1人はいるよな。ピザ屋の浮き輪」

 1人プカプカ浮かぶ千尋の浮き輪を見て凛がつぶやいた。

「しかし・・・こうやって見ていると・・・」

「どうしたの真子さん?」

 なにやら考え中の真子を千尋が見つめていると、真子は口を開いた。

「やっぱり小学生に見えるな、千尋は」

「な、なんだと〜!?」

 真子の発言に千尋が噛み付く。この2人の絡みは珍しいなぁ、と圭太が遠くから見ていると、いつの間にか由美が目の前にいた。

「どうしたのよ圭太?泳がないつもり?」

「え・・・!?あ、いや・・・」

「どうかしたの?」

「い、いやなんでもないよ・・・?あ、僕旭さんから美春さんの看病頼まれてるから・・・」

 顔を反らして小声でそう言うと、由美は「そうなの?でも後で絶対に来なさいよね」と言い残してまた海に戻っていった。

 圭太はまた由美を見た。正直な話し、圭太は由美の水着姿に一瞬釘付けになっていたのだ。

 普段がさつでうるさくてグータラな由美だが、濡れた髪と白い水着で下から覗き込まれるような不意討ちで現われたため、一瞬ドキッとしたのだ。

「ズバリ・・・惚れたね・・・?」

「美春さんは黙っててください」

「けーちゃん酷いよぉ!」

 何故かいきなり元気になった美春が圭太に文句を言いながら立ち上がった。

「けーちゃん・・・そろそろ素直になったらいいんじゃなイカ?」

「僕は常に素直ですよ。あと、語尾はやめましょう、消されますよ」

「・・・由美ちゃんはかわいいよね。彼女のこと、そろそろ幼なじみって関係を無視して見ないといけないんじゃない?圭太君」

「え・・・?美春さん?」圭太が振り向くと、そこには普段とは全然違う真面目な表情の美春が圭太の横に立っていた。しかし・・・

「さーて♪おねーさんもそろそろ水着姿のみんなにベタベタしに行くのだー♪ばはーい♪♪」

 またいつものアホな子スマイルで何やら叫びながら浜辺に特攻。真子にしがみついたと思ったらすぐに海に投げられていた。

「・・・・・・」

 一方の圭太は、美春の言葉と、先ほどの千尋の言葉が頭の中を反響していた。


 長く・・・そして短い夏が、圭太の中で動き始めた。

 


いや~夏ですねぇ~!!

え?もう九月?秋?あれ・・・?





申し訳ありませんでした・・・・・・(滝汗)




なかなか思うように進みません汗

ですが、これからもがんばっていきます!!!!


3気筒

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