表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧車物語  作者: 3気筒
44/71

第44章 BLACKBOX 狂気の叫び

中編です!

「翔子ちゃんの・・・お兄さん・・・?この人が?」

 圭太がシルビアの男・・・もとい翔子の兄を名乗る男を凝視する。義理兄とはいえ、全く似ていない兄は翔子とは不釣り合いないやらしい笑みを浮かべてシルビアから降りてきた。

「いやぁ・・・面倒だったよ、道が混んでいてね。予定より迎えが遅れてしまったよ」

「ち、ちょっと待ちなさいよ・・・!!」

 男の言葉を遮り、由美がたずねた。

「迎えに来たって何・・・?私達がここに来るってわかっていたってこと!?」

 至極当たり前な疑問。由美達は適当な喫茶店を探して走り回り、ようやくこの店に入ったばかりである。後をつけていたにしても、入ってきたタイミングが少し遅いし、何より男の口調だとあらかじめわかっていたかのような話振りだ。

「あぁ、そのことかい?僕にはたやすいことさ。さらに言うなら、君たちの今日の行動だって当ててみせようか?」

 男はシルビアのルーフに肘を置いて寄りかかると、挑発するような態度で続けた。

「まず、街道沿いにある飲食店からでて、相模方面へ。そこから駅前通りにあるボーリング場に。しばらくしてから今度は街道に出る裏道から街道に出て、この店に来た・・・違う?」

「な・・・っ!?」

 この男はなにか特殊な能力でも持っているのだろうか?そう疑ってしまえるほど、男の推理は当たっていた。由美と圭太が驚愕に顔を歪める。

「あなた・・・何者なの?」

 今まで黙っていた美春が、冷静な態度でたずねると、男はため息をついた。

「だから言っているだろう?そこにいる愚妹、衣笠翔子の義理兄だ。あ、名前はまだだったね。衣笠弘毅(こうき)だ」

 へらへら笑う男。その態度にイラつくでも無く、美春は腕を組むといつも優しい笑みを浮かべる瞳をキッと据えた。

「残念だけど・・・兄とは言えそんなストーカーみたいなことをするような人にしーちゃんは渡せない」

「渡せない?愚妹とは言え妹の友達ってのは妹を物のように言うんだなぁ」

「そんなゴタクは聞きたくないよ?しーちゃんから話は聞いてるよ?」

「そ、そうよ!あなたや義理母が家事を押し付けたり修学旅行に行かせなかったりとか、イジメたりしている話はみんな知ってるのよ!?」

 美春の言葉に由美が乗っかる形で指を突き付けた。

「こんなヤツにでも仕事は与えてやっているんだ、感謝はして欲しいなぁ」

「な・・・っ!?」

「アンタ・・・!!何言ってんのよ!?」

 美春と由美が怒りに染まった顔で叫んだ。その時・・・

「し、翔子ちゃん・・・!?」

 圭太の声が駐車場に響いた。3人が振り向くと、CBのハンドルにしがみついて、下を向いて震える翔子がいた。そして・・・

「うっ・・・おぇっ!・・・」

「翔子ちゃん!!」

 目を見開き、嘔吐した。圭太と美春が必死に介抱する。

「あーあ、汚いなぁ」

「何言ってんのよ!?アンタのせいで翔子ちゃんは・・・!!」

 翔子を見ると、まだ辛そうに下を向いている。


『私はもう前の私とは違うんです!』


 先ほどの言葉が脳裏によぎる。

 全然大丈夫では無かったのだ。私生活での翔子の精神やストレスはとうに限界が来ていたのだ。それを、バイクに乗ることで発散していたのだ。

 だが、目の前に神出鬼没の如く元凶が現れた事と、由美や圭太達に迷惑をかけてしまった事で、それが爆発してしまったのだ。

「しーちゃん、大丈夫?立てる?」

 美春がハンカチで翔子の口元を拭うと、圭太と2人で翔子の肩を組んで立ち上がる。

「す・・・みませ・・・げほげほっ!迷惑を・・・」

「僕達は大丈夫だよ。美春さん、とりあえず翔子ちゃんをどこかに・・・」

「そうだね・・・でも・・・」

 ニヤつく男と、白いシルビアが目の前の道を塞ぐ。美春は圭太に翔子を預けると、弘毅の前に立った。

「わかるでしょう?しーちゃんはもう限界だよ。どこか安静な場所で休まないと持たない。道を空けて」

「それは困るなぁ。ここまで来て手ぶらで帰るのは僕にとって良くない話だ」

 男は心底つまらなそうに後ろにいる翔子に目を向けた後、思いついたようにある提案をしてきた。

「それならこうしようじゃないか。君たち4人が先にここを出る。しばらくしてから僕が後から出る。君たちが翔子を守れればそっちの勝ち。僕が追い付いたら、君たちの負け。どう?」

「ふざけないで!!」

 美春がキレた。弘毅の胸ぐらを掴んで、その細い腕のどこにそんな力があるのかシルビアのドアに男を押し付けた。

「おいおい・・・警察でも呼ぼうか?暴行罪と妹を連れ回したで、もしかしたら実刑かも知れない。君なら多分少年院行きさ」

「や、やめてください・・・!」

 突然の叫びに、美春と弘毅が振り向くと、そこには由美と圭太に支えられた翔子がいた。

「美春さん・・・もう、大丈夫ですから・・・」

「しーちゃん・・・でも・・・」

「わかっただろ?早く手を放してくれないかな?」

 弘毅は美春の手を払うと、汚いものにでも触れたかのようにズボンで手を拭いた。

「おとなしくクルマに乗るか?それともゲームをするか?2つに1つだ」

「やります・・・」

「翔子ちゃん!?」

 予想外の答えに、由美が叫ぶが、翔子は無理やり笑ってこう言った。

「由美さん達には迷惑を掛けません・・・これは私の問題ですから・・・」

 フラフラとした足取りでCBに跨がると、スターターに指を伸ばした。


 キョカッ!

 ブァァァァァァア!!


「大丈夫・・・きっと逃げ切れますから、私1人の問題に皆さんを巻き込めません・・・」

「そうはいかないわよ、翔子ちゃん!」

 翔子の言葉を遮り、由美が声を上げた。ゼファーに跨がると、同じようにエンジンを掛ける。

「僕も、由美と同じ答えだよ。ほっておけないよ」

 圭太もFXのキーシリンダーを捻り、エンジンを掛ける。すぐ隣で、美春もGT380のエンジンに火を入れた。

「だ、ダメです・・・!これ以上皆さんに・・・!」

 翔子は首を横に振るが、それには全く耳を貸さずに由美達が言った。

「さっきの様子を見せられて、黙ってられないわよ!?」

「しーちゃんが辛い思いをしているのを黙って見てられない・・・」

「僕達は仲間じゃん?だったら遠慮なんかいらないよ」

「み、皆さん・・・ぐすっ・・・あ、ありがとう・・・ご、ございま、ひっぐ・・・」

 嗚咽混じりで涙を流しながら翔子が言う。3人がほっとしていると、横からうるさいエンジン音が響き渡る。

「ふぁ〜あ・・・友情ごっこはいいからさぁ、早く出るなら出てくれないかな?」

 あくびをしながら面倒くさそうに言う弘毅。その態度にイラつきを覚えるが、今は逃げるのが先・・・

「行こう!なるべく遠くに逃げないと・・・」

 圭太が半クラッチで駐車場を出ると、翔子と由美が後に続く。一方美春はシルビアの運転席横で一度止まった。

「行かなくていいのかな?」

 弘毅が余裕そうに呟く。美春はアクセルを少し煽ると、

「どんな仕掛けか知らないけど、負けないよ」


 カァァァァァアン・・・!!バリバリバリバリ・・・!!


 それだけ言い残すと、白煙を撒き散らして飛び出していった。

「はっ・・・あんな骨董品共に何が出来る?」

 弘毅は呟くと、ナビの電源を入れた。動いていないクルマのナビの表示は、やはり動いていた。

「大通りに入って渋滞に巻き込んでクルマを不利にしよって?なるほどねぇ・・・」


 ガコッ!

 ゴォォォォォア・・・!!

 不気味に笑うと、シルビアは滑るように駐車場を後にした。









「やっぱり、土曜のこの時間ならクルマ通りも多いし、バイクと違ってすり抜け出来ないシルビアを相手にするには大通りじゃないと」

 先頭を走る圭太が呟く。真後ろには翔子、それを挟むように由美が走り、少し距離を空けて美春がしんがりを努める。

「問題は3つ・・・」

 1つは、翔子のCB350Fourの不調。

 2つ目はどこに逃げ込むか・・・どこかで一度旭達に連絡が取れれば問題は無いのだが、それを3つ目の問題が阻む。

「あの人・・・なんで僕達の通った道を正確に知れたんだろう・・・」

 そう、まるで最初からわかっていたかのようにあの喫茶店の駐車場に現れ、自分達の来たルートを正確に当ててみせた。どんなネタが仕込んであるのか、それがわからないと迂濶に停まれない。

 そんな事を考えながら走っていた時だった。差し掛かったわき道から、白い影が飛び出してきた。

「なっ!?」

 慌ててかわす圭太の後に続いて、翔子達もかわした。

「も、もう追い付いてきたっていうの!?」

 翔子の後ろを走る由美が舌打ちした。しかし驚くべきは、この居場所を特定してから裏道を迷うことなく走り、圭太達が来たタイミングを正確に合わせてきた事だ。

「しまった・・・!真後ろに張りつかれた・・・!!」

 バックミラーで確認して、圭太が舌打ちする。しかし、シルビアの後ろから甲高い2サイクル音と白煙をぶちまけながら、青いサンパチが現れた。

「ゆーちゃん、けーちゃん!!ここは私に任せてよぉ♪」

「美春さん・・・!?」

「な、何をする気なの!?」

 翔子と由美が叫ぶと、美春はいつもの笑顔で

「足止めするよ!早く!」

「わ、わかりました!!無理はしないでくださいね!!」

「美春さん・・・ごめんなさい・・・!!」

 圭太と翔子が言うと、3台は加速。一気に後ろを引き離す。

「ここは通して上げないよぉ・・・!?」


 カァアン!カァアン!カンカァァアン!!バリバリバリバリ・・・!!


 後ろのシルビアに白煙とオイルを撒き散らしながらサンパチのアクセルを煽る。それでいて、速度を30キロまで落としてシルビアを完全にブロックする。

「邪魔くさい・・・!面倒なことを・・・」


 パァァアッ!!パッパァァアッ!!


 クラクションを鳴らして前の障害物にプレッシャーを掛ける。しかしサンパチはそんなことお構い無しに道を塞ぐ。

「一緒にケーサツに行こうよ・・・♪」

 美春が呟く。この通りでこんな行為をすれば、警察が出てくるのも時間の問題。そうすれば、自分と一緒にこのクルマも巻き込むことが出来る。そんなことを考えながら美春はサンパチで蛇行運転を始めた。

「おまわりさーん♪ここにぼーそーぞくがいるぞー♪」

 おちゃらけながらサンパチを走らす。一方、こうなると焦るのはシルビアの弘毅だった。

「クソっ!わき道までブロックしやがって・・・!!」

 自分もクラクションを鳴らして退くように仕向けるが、相手の狙いが狙いだけになんともならない。後ろからは他のクルマからのクラクションも聞こえ始める。

「これ以上、騒ぎを大きくするワケには・・・」

 このままでは、自分はあの女とともに警察のお世話になってしまうことは容易に想像出来る。なんとかしなければ・・・その時、弘毅の脳裏に外道な考えが浮かんだ。

「そうか・・・ならこうすればいい・・・!」

 邪悪に笑うと、ハンドルポスト脇にあるウィンカーレバーに手を伸ばした。


「ん?」

 美春がミラーで確認すると、シルビアが左にウィンカーを出していた。

「脇道に逃げるのかな?逃がさないよぉ?」

 しっかり一車線を塞ぎつつ、左側に寄せて走る。しかし、脇道の入り口に差し掛かると、シルビアは半分止まりながらクラクションを鳴らした。これをされると、さすがに長く道を塞げない。シルビアを避けて後ろのクルマがイラつき顔で抜けていく。

「それなら・・・!」

 美春は裏道にシルビアを招き入れる形で侵入した。しかし、先ほど以上にキツいガードで相手を焦らす。

 そしてシルビアにのる弘毅はと言えば・・・

「クックッ・・・!ここなら人通りも少ない。豪快に行かせてもらうよ」


 ゴォロァァァァア・・・!!

 ガンっ・・・!


「なっ・・・!?」

 いきなりアクセルを煽り、バンパーでリアタイヤを突かれた美春が声を上げた。さらに二度三度、男は後ろからプッシュしてくる。

「そんなにカラみたいの・・・!?」

 美春がスピードを上げる。その瞬間、立場が逆転。押さえる者が追われる者になった。

「信号無し、警察無し、通行人無し・・・飛びな・・・」

 弘毅が笑った瞬間、シルビアは加速。ついに美春をバンパー1つ分割ることに成功した。

「し、しまった・・・!」

 美春が舌打ちする。しかし、相手は前に行かない。美春はある答えに行き着いて、固まった。

「ひゃはははははははは・・・・・・っ!!」

 弘毅がハンドルを左に切った瞬間、183キロある鉄の塊が火花を散らして地面を滑走していた・・・

車内にしか聞こえない狂気の叫びが、宙を舞う美春にも聞こえた気がした・・・








「美春さん、大丈夫かな・・・」

 圭太が呟いた、この頃になると、3人は大通りを外れた道で一旦停車していた。

「もうだいぶ引き離したとは思うけど、あの男がそんな簡単に引き下がるとは思えないわ」

 由美の言葉に圭太は頷く。あれだけ余裕な態度を取っていた人間が、こんな早く諦めるハズが無い。

「美春さん・・・圭太さんや由美さんも・・・本当にごめんなさい・・・」

「大丈夫よ翔子ちゃん!美春ちゃんだって運転上手いのよ?あんなクルマ、きっとこのまま押さえ込んでその間に旭さん達が来てくれるわよ!」

「そうだね、とりあえず旭さん達に連絡を取らないと・・・」

 ケータイを取り出すと、圭太は旭に電話を掛ける。しかしすぐに留守番電話に繋がってしまった。

「洋介さんは?」

「今掛けてる・・・」

 長いコールが続く。早く出てくれ・・・!しかし、電話は無情にも留守番電話センターの機械的な女性の声が代わりに喋りだしただけだった。

「ダメだ、繋がらない」

「何やってるのよ全く・・・!」

 由美がイラつきながら呟いた瞬間だった。


 ゴォロァァァァア!!


「き、来たぁ!?」

 由美がすっとんきょうな声を上げる。見れば後ろから猛烈な勢いでシルビアが突っ込んできた。

「み、美春さんがいません・・・!!」

 翔子は顔を青ざめた。あの白煙を撒き散らすGT380の姿が見当たらないのだ。

「上手く撒かれたみたいだね・・・急ごう・・・!」

 圭太の掛け声とともに、2人も愛車を走らせた。









「いやぁ走った走った・・・」

「走ったってまだ1000キロだって走ってねーべや」

 先ほどまで圭太達が走っていた大通りを赤い単車が2台、横並びで巡行していた。

「ヨンフォアの下のトルクの無さが一気にマシになったし、早く全開に回してみてーなぁ・・・」

 生まれ変わったCB400Fourを操る洋介が呟く。排気量の上がった愛車は、クルマ通りの多い大通りも楽に走ってくれる。

「あ・・・?信号赤に変わっちまった」

 隣を走るGT380に乗る旭が舌打ちする。

「面倒だし、裏道行くか」

「あぁ、そのほうが賢いべ」

 止まりたくない2人はウィンカーを左に出すと、裏道に入った。

「この道っていいよなぁ、民家も無ければ信号も無いただの直線だしさ」

 洋介がのんきに言うと、旭も頷いた。

「お巡りさんてのはなぜかこのルートはノーマークだかんなぁ、300メートルくらいのこの直線があればスピードの取り締まりとかやりそうなもんだがなぁ」

 そんな話をしながら走ると、突然前方に転がるバイクを発見した。

「あーあ、こんな場所でなーんで転んでんだ」

 洋介が呟いた。しかし、旭はなぜか嫌な予感がした。

「あのテール・・・!サンパチか!?」

「え?嘘だろ・・・?」

 洋介の顔が一気に落ちついていく。 まさか、そんなバカな・・・

 しかし、それは現実となって目の前に現れた。

「これ・・・み、美春のじゃねーか・・・」

 サンパチから降りて、よく見知ったバイクを見下ろす。ハンドルがひしゃげ、ウィンカーはステーから根こそぎ持っていかれていたのは、美春の青いGT380だった。

「おい旭っ!!こっち!!」

 洋介が慌てながら叫ぶ。その声を聞いて、急いで向かうと、そこには変わり果てた姿の美春が路肩の隅に横たわっていた。

「美春っ・・・!!」

 服が破れて全身擦り傷だらけの彼女を抱き抱えると、ヘルメット越しに美春が目を開けた。

「あ・・・っく、ん・・・?」

「どうしたんだよ!?一体何が・・・!?」

 嫌でも気持ちが焦ってしまう。自分でもなんとか落ち着こうと深呼吸をすると、ポケットからケータイを取り出した。

「今救急車呼んでやっかんな・・・!?ちっと待ってろ・・・!!」

 ダイヤルする手が焦り、3桁の数字を押すのに一回間違えて、やり直して、ようやく繋げると、電話を切った。

「私はいいから・・・しーちゃん達を・・・」

「翔子ちゃん達がとうかしたのか・・・?」

 洋介がたずねると、美春はゆっくりと事の始まりを話し始めた。最初は驚いていた旭達だったが、それがすぐに怒りに変わるのに時間はいらなかった。

「クズ野郎が・・・!人跳ねとばして顔色変えずにんなことやってやがんかよ・・・!!」

 旭が苛立ちながら歯を噛み締める。洋介も口こそ開かなかったが、その怒りの凄まじさは十分に伝わってくる。

「ぜってークシャにしてやっかんよぉ・・・!」

 握りこぶしをバキバキ鳴らす旭の表情はまるで鬼人だった。しかし、対称的に洋介は旭の肩を叩くと、落ち着いた口調で言った。

「そのクソガキがムカつくのはわかるが、お前はとりあえず美春ちゃんの心配してやれよ?クソガキなら俺がしょっ引いてやっからさ」

「っ・・!!」

 洋介の言葉に、ようやく冷静さが戻った。今は美春のケガを治すのが優先。旭は美春の手を握ると、美春は申し訳なさそうに笑った。

「おぅ美春・・・そのクソガキはまだ圭太達を狙ってんだな?」

 旭の問に、美春はコクりと頷いた。

「目的は翔子ちゃんっても、あの2人も心配だ。こんなことを堂々やってくんだからよぉ。キレてやがるぜ」

 洋介が舌打ちしながら呟く。こうなれば一刻も早く手を打たねばならない。

「長良達『金剛會』動かすっかねーな、こりゃ」

「んだな・・・じゃねーとオメー1人じゃさすがに探しきれねーしな」

 旭が頷く。ここは『金剛會』を動かして3人に危害が及ぶ前に見つけださねばならない。

 洋介が長良達に繋ぎを入れるために電話をしている横で、美春は自分のヘルメットを脱がせてくれた旭にたずねた。

「あっく、ん・・・さ、サンパチは・・・?」

「・・・大丈夫だ、たいしたことねーよ。すぐにバキバキに治んぜ。ンなコトよか、オメーも早くケガ治せよな?」

 頭を撫でながら言うと、

「よかった・・・ぁ・・・♪早くよくなって、サンパチちゃんに乗りたい・・・なぁ・・・」

「辛いんなら喋んなって、ほら」

 旭が言うと、美春はおとなしく目を瞑ると、眠ってしまったようだ。後は救急車が来るのを待つばかり。美春の頭を撫でながら、旭は美春のGT380を見た。

「治すって言っちまったケドよぉ・・・正直ヤバイぜ、ありゃあ・・・」

 見ればフロントフォークがしゃげスポークは折れ曲がりクラッチレバーはあらぬ方向に曲がり、トドメはクランクケースから溢れ出るオイルが血の様に地面を伝っていた。ほぼ全損級のダメージだ。

「旭ぁ!、繋ぎはついたぜ!今から動くらしい」

「そうか・・・長良達にゃオレも後から礼に行くわ」

「おぉ、そうしとけよ。あと・・・」

 洋介は不敵に笑うと

「美春ちゃんのサンパチは、オヤジが引き取りに来るってよ」

 全く抜かり無い洋介の言葉に、旭は安心したような呆れたような表情を見せた。

「しかし気になるのは、ソイツの動きだな。なんだって行く先々でわかってる様に現れたり出来るんだ?」

 美春から聞いた話を思い出して、洋介がさも不思議そうに呟いた。こればっかりは自動車整備・板金工場で働く洋介にもわからなかった。だいたい、クルマが街中でバイクより先回り出来ると言うのもおかしな話である。

 顎に手を当てて考える。旭もその不可解な動きの謎を解こうと思考を巡らせた。

 まるでこちらの居場所や目的地がわかっているかのような神出鬼没な動き。ここまで来たらハッタリでは無い。ヤツには圭太達の居場所が解るのだ。

 何故だ・・・?何故先回りは愚か、まるで『最初から見ていたかのよう』に現われるのか・・・

「見ている・・・?・・・あ!?」

「どうしたんだよ旭!?なんかわかったのか!?」

 突然叫び声を上げた旭に詰め寄る洋介。それと同時に、ようやく救急車が近づいてきたのか、サイレンが聞こえてきた。

 旭は「なるほど・・・ンな『カンタンでメンドーなコト』だったのかよ・・・!」と落ちていた空き缶を蹴り飛ばした。

「ネタはわかったぜ・・・?『BLACKBOX』の正体がよぉ・・・!!」

 救急車の赤灯に照らされた旭の表情は・・・目の前の怒りと相手のペテンを暴いた喜びが交ざった、まさに鬼の形相だった・・・

 


今回は前、中編を一気に上げました!!

お待たせしてしまい申し訳ありません汗

後編も上げようと思ったのですが、まだまだ納得のいく出来になっていないのでもうしばらくお待ちください汗

それでは!!



3気筒

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ