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旧車物語  作者: 3気筒
43/71

第43章 BLACKBOX 恐怖の始まり 

大変遅れてしまいました!!

今回は翔子メイン(!?)の3本立てです!!

 結局、玲花はみんなと仲良くなり由美もいつもの調子に戻り、そして美春の財布がすっからかんになった昨夜から一夜明けて、土曜の正午に圭太はある物の前で腕を組んで立ちすくんでいた。

「うーん・・・」

 誕生日に洋介が置いていった縦長の段ボール。蓋には特に何の表記も無く、今はその口を大きく開けている。中にはヘビのようなパイプが4本、頭を覗かせていた。

「マフラー・・・だよなぁ」

 取り出してみると意外と軽い重量。傷が付かないように慎重に地面に置くとその全貌が姿を現した。

 根元でカクっと折れ曲がり、その先で集合している機械曲げの集合管。

「説明書は・・・無いな」

 ボルトなども特に無く、変な紙が4枚と、ワッシャーが数枚、そして箱に同封されていた手紙があるだけで他には特に何も無かった。

「どうしようかな・・・」

「何やってるのよ?」

 不意に後ろから声を掛けられて振り向くと、いつの間にか自分の横でしゃがみながらマフラーを見ている由美がいた。

「何やってるの・・・?」

 呆れながらたずねると、

「えぇ、翔子ちゃんが美春ちゃん家にいつもお邪魔してるからって、今日1日だけ真田屋でバイトしてるって美春ちゃんから連絡があったのよ。それで圭太も誘おうと思ったんだけど・・・」

 マフラーの出口を触りながら圭太を見上げた。

「・・・行く?それともこれ付ける?」









「えっ!?圭太さんのFX、マフラー換えちゃうんですかぁ!?」

 昼時の店内で、真田屋のアルバイト用の制服に袖を通した翔子が3番テーブルに水を運びながら叫んだ。

「そんなに驚くことかな・・・?」

「そうですよぉ、これでノーマル仲間は私と紗耶香さんの2人だけになってしまいました・・・」

「まぁまぁしーちゃん、いいじゃん♪けーちゃんはけーちゃん、しーちゃんはしーちゃん♪」

 残念そうにつぶやく翔子に8番テーブルの餃子を渡しながら美春が笑った。

「そうですね、確かに圭太さんのFXがどうなるのかは楽しみですし」

 なんとか納得したのか、翔子が言うと8番テーブルに走っていった。

「でも圭太、アレはいつ頃付ける予定なのよ?」

 ラーメンを啜りながら由美がたずねる。

「いつでもいいんだけど・・・付け方がわからないからなぁ」

 そう言って麺を啜る。固いちぢれ麺に醤油スープがマッチしている。

「それならはぐっちに聞いてみたらぁ?はぐっちがくれたんだし」

「それなんですけど・・・こんな物が一緒に・・・」

 箱に同封されていた紙を取り出すと、美春に見せた。

「『いそがしいから、自分でつけろ。わからなかったらしらべろ。せつめい書?なにそれ食えるの?』・・・なぁにこれ?」

 やけに漢字の少ない手紙を朗読して、美春がたずねた。

「多分・・・自力でやれってことだと思います」

「まんまじゃない・・・」

 由美は呆れながら言うと、美春が「へーぇ」とか言いながら手紙を返した。

「きっとあれですよ、いつも洋介さんと旭さんだけでみんなのバイクの面倒を見てるから、たまには自分の力でやってみろってことじゃ・・・」

 翔子が手を打ちながら言うと、由美が

「いや、多分早く自分のバイクを完成させたいだけじゃないかしら」

「そんなことっ・・・!・・・あり得ますね・・・」

「でしょう?」

「はぐっちのヨンフォアもしばらく動いてないからねぇ♪」

 しばらくそんな感じで適当に話して、由美と圭太は時間を潰した。









「・・・うぉっしゃぁぁぁぁぁあっ!!!」

「うーるせぇぞバカ」

 その頃、羽黒自動車の裏倉庫で洋介の雄叫びと旭のツッコミが響き渡った。

「や、やっと出来たぜ・・・!クリアランス取りに苦労した甲斐があったぜ・・・完璧だぜ!!」

 感無量で立ち尽くす洋介の目の前には、深紅に彩られた愛車CB400Fourが鎮座していた。トマゼリのセパレートハンドルにグリップエンドミラー、ヨシムラの498ccボアアップキットにウエダのスイングアーム・・・

「理想だぜ・・・!理想の姿だぜこれが!!理想郷だぜ!!」

「意味わかんねーよ。んなことより早く走り行くべーよ」

 GT380に跨がり、走りたくてウズウズしているような旭が言うと、洋介は「まぁ待て」と偉そうに言った。

「とりあえず慣らし運転しないとな。レブリミット4000〜4500回転までで最低1000キロから2000キロは走らないと」

「うわぁ、ダリぃな・・・」

「んなわけで、とりあえず軽〜く流そうぜ」

「んだなぁ」

 洋介はバックステップを折り畳むとキックアームを出した。ヨンフォアにはセルが付いているが、排気量アップで上がった圧縮に対する耐久性が純正レベルでは不安があるので、キックでの始動だ。


 カシュ!!


 グォォァァァアアアアア!!!!


「イカツい音だなオイ」

 なんやかんやで、旭も興奮気味にヨンフォアを見つめる。洋介はしばらくプルプル震えた後、

「さ・・・・・・最高だああああ!!!」

 雄叫びを上げた。








「けーちゃーん!ゆーちゃーん!仕事終わったぁぁぁあ♪」

「お待たせしました」

 それからしばらく経った昼下がり。真田屋の駐車場で待っていた圭太と由美の前に、相変わらず騒がしい美春と、疲れた表情の翔子が現れた。

「翔子ちゃん、初めてのバイトはどうだった?」

 由美が翔子にたずねると、翔子は背伸びをしながら

「大変でしたけど楽しいですね!高校が終わって進学したら、私もアルバイト始めます!」

「そうそう進学ね!私は・・・・・・あ・・・」

 言葉に詰まり、さすがに自分でもどうかと思って落ち込む由美。

「そういえば翔子ちゃん、専門学校に行きたいんだっけ?」

 以前話していた事を思い出して圭太がたずねた。

「そうなんですけどね・・・まだわかりません」

「やっぱり家族の・・・?」

 翔子はコクりと頷いた。

「最近はほとんど口もききませんし・・・家にいても家事などは全て押しつけられますし大変なんですよ。でも・・・」

 顔を上げると、目を輝かせた。

「もう前までの私とは違うんです!そんなことでいじいじしません!」

「その意気だよしーちゃん!!良く言った!!」

 美春が肩をバンバン叩いた。よろけながらも笑みを溢す翔子に、由美が何かに気付いたように言った。

「そういえば翔子ちゃん、最近前みたいに緊張したり怯えみたいな表情が出ないわね」

「うん、言われてみれば・・・」

「確かに・・・」

 圭太や美春も思わず頷いた。以前までは常に緊張感MAXな感じで接していたが、最近ではごく普通な雰囲気で話している。

「前までは『あ、あの・・・その、えっとぉ・・・ぐすっ・・・』って感じですぐに泣いちゃう可愛い翔子ちゃんも大人になったのねぇ・・・」

 由美が大げさに翔子のモノマネ(似てない)をしながら笑うと翔子が顔を真っ赤にした。

「そ・・・そんなのじゃないですよ・・・!ひどいですよ由美さん!」

「あはははは!」

 笑ってごまかすと、美春がいつものニコニコ顔で今日これからの行動について提案してきた。由美は少し考えてから

「いつも走ってばかりだし、今日はどこか遊びに行きましょう?」

「うーん♪いいねぇ♪」

「あ・・・それならこれ行かない?」

 言いながら、圭太が財布の中からある紙を取り出した。

「・・・『サガミレーン団体割引券!』・・・ボーリング?」

 ボーリングピンが描かれたシンプルな券を見て由美がたずねると圭太は頷いた。

「茶子姉ぇにしては珍しく、期限が切れてないのをどこからかもらってきたんだ。団体は4人からで割引が効くから安いし、たまにはいいんじゃないかな」

「ナイスよ茶子姉ぇ!みんなどうかしら!?」

 ガッツポーズをしながら2人に振り向くと、美春も翔子もうれしそうに笑った。

「いいよぉ♪おねーさん、運動系の遊びは大好きなのだ♪」

「ボーリングはしたことが無いので、楽しみです!」

「それじゃあ決定だね。市の真ん中にあるから、ここからだとバイクで20分くらいかな」

 圭太が腕時計を確認しながらつぶやくと、隣で早くもジェットヘルをかぶった由美がゼファーに跨がり、エンジンを掛けた。


 キュル・・・!!

 コァァァァア・・・!!


「そうと決れば!早く行きましょう!?」









 ちょうどその頃、高尾のとある街道に1台のクルマが停まっていた。

 山に囲まれた、それこそ最寄りのコンビニまで徒歩1時間はかかるようなど田舎のこの街道に、袴スタイルの張り出しフルエアロに3DのGTウィング。程よく下げられた車高にハイグリップのスポーツタイヤ、軽量ホイールで武装した走り屋スタイルの白いS15シルビアの車内で、男がつぶやいた。

「・・・最近無断外泊が多いと思ったら・・・ッ・・・」

 男の視線は、ダッシュボード中央に鎮座したカーナビを見つめていた。自分は動いていないのに、カーナビの画面だけが違う街の中を進んでいた。

 男は不敵に笑うとハンドルポスト脇にあるキーを捻った。


 キュルル・・・

 ボガァァァァァア!!!!


 単車の比では無い爆音が、触媒ストレートの直管砲弾マフラーから響き渡る。



 ガコッ・・・!


 ギヤをローに当てる。そして・・・

「愚妹が調子に乗りやがって・・・」


 ボガァァァァァア!!!!!・・・プシャ、プシャァァァァァア!!


 ねっとりとした声で言うと、ブローバルブ音を響かせて加速していった。


 ナビが表示した場所は相模だった・・・









「うわぁ・・・!」

 翔子は感嘆の声を上げた。

 足元は自分の顔が映りそうなほどピカピカな板張りの床。ゴロゴロと玉が転がる音がしたかと思えば、次の瞬間にはピンを薙ぎ倒す快音が聞こえてくる。そして吸い込まれた玉がしばらくすると、下を通って戻ってくる。そして、上を見れば液晶に映るスコア表にカタカナで書かれた自分の名前。辺りは人、人、人・・・

「ゆゆゆ、由美さん!!ボーリング場ですよ!?」

 辺りをキョロキョロ見渡しながら、興奮気味に由美の袖を掴みながら言った。ポケットから小さなデジカメを取り出して写真に景色を納めていく。カメラ関係のモノなら何でも持っているのだろうか・・・

「何言ってるのよ翔子ちゃん。ボーリングをしに来たのよ?ボーリング場に決まってるじゃない」

 受付で借りたボーリングシューズに履き換えながら何を言ってるんだと言わんばかりの顔で翔子を見た。

「そうなんですけど・・・初めてなのでつい・・・」

「へぇ、本当に初めてなんだ」

 圭太がたずねると翔子は恥ずかしそうに頷いた。

「じゃあおねーさんがボーリングのイロハを教えてあげやう♪まずは玉選びからだよぅ♪」

 美春に腕を引かれながら、翔子は後ろに走っていった。

「僕も久しぶりだから、感が戻ればいいんだけど」

「ふふん、私はボーリング得意なのよ?」

 自信満々に言うと、由美は何かいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「ねぇ圭太?この勝負、1ゲーム毎にビリの人が1番の人に何か1つ命令出来るってことにしないかしら?」

「え・・・でも翔子ちゃんは今日初めてだよ」

「もちろん翔子ちゃんは抜きよ。じゃあ決定ね!美春ちゃんに伝えてくるわね!!」

 言うが早く、由美も後ろのボーリング球が置いてあるラックの前で球を選ぶ美春達の下に走っていった。

「これは・・・頑張らないとなぁ・・・」

 圭太はため息をつくと自分も球を選びに席を立った。








「ば・・・バカな・・・!?」

 1ゲーム目を終えて、由美は思わずつぶやいた。

 スコア表には自分の名前、『ユミ』が表示されている。が、表示された場所が問題なのだ。由美は愕然としながら叫んだ。

「な・・・なんなのよコレぇ!!」

『ユミ』の表示の横に並ぶ数字は4・・・つまり最下位。3位が圭太。そして・・・

「んー、しーちゃんには見所満載だねぇ♪頑張ればもっと上手くなるよぉ♪」

「ありがとうございます!ボーリングって楽しいですねぇ」

 2位には圭太から僅差で逃げ切り、初ボーリング体験者の翔子がスコア150台を叩きだした。ちなみに1位の美春は開始時に「1回目だからウォーミングアップだよぉ♪」とか言いながら190近いスコアを叩きだし、ブッチギリの優勝だった。

 翔子は美春に投げ方やコツを教えてもらうと、即座に対応。うなぎ登りに調子が良くなって行き、美春はそれはもうプロボーラー顔負けのフォームでストライクを連発した。

 一方圭太は序盤こそガーターを出したりしていたが、最終的に140台までスコアを伸ばし、感を取り戻した。そして由美はガーター連発。ストライクは無くスペアが1回、スコアにはGの文字が無数で最終スコアは100台という体たらく・・・

「翔子ちゃん!ボーリング初めてって嘘でしょう!?」

「本当ですよ?ボーリング場自体初めてで・・・楽しいですねぇ!」

 カチン・・・

 由美の中で何かがキレた。

「ふふふ・・・いいわよ?ビキナーズラックなんてよくあるコトよ・・・」

 ズビシっ!!と翔子を指さすと、半ばやけっぱちな表情で言い放った。

「次からは!!翔子ちゃんもっ!!最下位罰ゲームに参加してもらうわよ!?」

「ち、ちょっと由美・・・!」

 圭太が止めようと由美の前に出た。これはビキナーズラックなどでは無い・・・才能が為せる物だと見抜いた圭太は由美を説得しようとした。が、

「いいですよ?頑張ります!」

 いつのまにか得意顔でニコニコしている翔子が勝負を承諾していた。

「それじゃあ、第2ゲームスタートよ!!」


 数分後


「負けたぁ・・・ええぃ!もう一度よ・・・!うりゃあああ!」


 数分後・・・


「また負けたぁ・・・!?なんのぉ・・・まだまだよ!!」


 さらに数分後・・・


「つ、次こそ・・・!!」








「・・・・・・」

 全5ゲームの戦いが全て終了した。いや、戦いと言うよりリンチに近い。

 美春は怒涛のスコアを叩きだし、240台にまで上り詰め全戦トップ。翔子もグングン上手くなりそのスコアはアベレージ180台にまで跳ね上がり、後半は体力が無くなりバテ気味で下がったが最高スコアは184にまでなった。圭太も善戦。第4、第5ゲームでは体力の差もあって、疲れが見えた翔子を抜き2位にもなった。そして・・・

「あのぉ・・・由美、さん・・・?」

「ふふふ・・・いいのよ?笑いたかったら笑ったって・・・」

 由美はゲームを重ねるごとにやけくそになり、最終的に体力が無くなり自然とガーターが増え、スペアが無くなり、最終ゲームではなんとスコア60台というブッチギリのドンケツの奇跡的低記録を達成。見事最下位に輝いた。

「ボーリングなんて・・・ボーリングなんてもうやってあげないんだからっ!!」

「まぁまぁゆーちゃん、今度は私が教えて上げるからぁ」

「もういいわよ、ボーリングなんて嫌いよっ!」

 すっかりヘソを曲げてしまった由美を見て、翔子がこそこそと圭太に耳打ちする。

「あの、私のせいで由美さんが・・・その、罰ゲームって・・・」

「まぁ、気にしなくていいと思うよ?自分で撒いた種だし」

 ちなみに全戦1位の美春が全戦ビリの由美に命令することはすでに決定事項だった。由美を慰めつつも、美春はニヤニヤが止まらない。

「というわけでゆーちゃん、罰ゲームは私が5回出すからね♪それはもうあーんなことやこーんなことや・・・♪」

「あ、私用事を思い出したわ・・・」

「あ、ゆーちゃん待てぇ♪」

 スタスタと逃げ出す由美を美春が追い掛けていった。広い場内を早歩きで逃げ回る由美と早歩き+笑顔全開で追い掛け回す美春を見て、2人は笑った。

「じゃあ靴を返して、そろそろ出ようか?」

 由美と美春の分シューズを持って立ち上がると、圭太がカウンターに歩きだした。

「あ、私も持ちますよ」

「いいよ、翔子ちゃんは先にバイク置き場に戻っててよ。これ返したら、あの2人を連れてこなきゃいけないし。長いこと停めてたからイタズラされてたら嫌だしね」

「それもそうですね。それじゃあ私は先にバイク置き場に戻っていますね」

 そう言ってたったったと走り去る翔子の背中を見送った圭太は、靴を返すと場内を走り回る2人を捕まえる手間にため息をついた。







「ふぅ・・・腕がパンパンですよ・・・」

 右腕を揉みながら駐車場にたどり着き1人つぶやいた。バイク置き場にはちゃんと4台のバイクが停まっていた。翔子は愛車CB350Fourに歩み寄るとハンドルポスト左下にあるキーシリンダーに鍵を挿してハンドルロックを解除すると笑みがこぼれる。

 同年代の色の濃いバイク達に埋もれてしまい名車にもなりきれず、少し色褪せた外装や錆のあるスポーク。止まらないオイル滲み・・・しかし翔子はこのCB350Fourを心底愛していた。

 このバイクが無かったら、自分はどんな生活を送っていただろうか・・・考えるだけで嫌になる。

「でも、そろそろ手を入れてあげないと・・・」

 ヘッドのオイル滲みとにらめっこしながらつぶやく。頭の中で「社外品は使いたくないなぁ」とか「でもガスケット1枚出ているかどうか・・・」等々、今後のメンテナンスに頭を悩ませていると、後ろから良く言えば賑やか、悪く言えばやかましい声が聞こえてきた。

「ほらほらゆーちゃーん?おねーさんの言うことは聞かなきゃダメだよぉ?」

「嫌っ!絶対に嫌よ!?なんでそんな恥ずかしいこと・・・!!」

「2人とも。もうちょっと声を小さくしてよ?お待たせ翔子ちゃん」

 騒がしい2人をなだめたがら歩いてきた圭太が声を掛けると、翔子は何があったのかをたずねた。

「由美さんの罰ゲームですか?」

「うん、そうなんだけど・・・」

 ちらっと圭太が後ろを見ると、由美にベタつきまくる美春がなにかたわけていた。

「ほらほら〜、まず最初は萌え萌えきゅん♪ってやってよぉ♪」

「何言ってるのよ出来るわけ無いじゃないバカぁ・・・!!」

「バカって言われたぁ・・・でもゆーちゃん可愛いから許す♪」

「あーっもう!!翔子ちゃんからもなにか言ってちょうだい!?そんなことしないって!!」

 ベタベタしてくる美春を押し退けながら背後の翔子に助けを求める由美。しかし・・・

「あ、私も見たいです!由美さんの萌え萌えきゅん!」

「コラぁ!何言ってるのよ!?」

 裏切られた由美が必死に叫ぶと、翔子は翔子らしからぬニヤニヤした笑みを浮かべた。

「負けたら罰ゲーム・・・二言は無いですよね?」

 最後に思い切りいい笑顔で笑う翔子。

「さぁ・・・!」

「由美さん・・・!」

 ずいっと近寄ってくる美春と翔子。どうやら拒否権はなさそうな雰囲気に耐え切れなくなったか、由美が叫んだ。

「ぐぬぬ・・・!!あーもう!!わかったわよやればいいんでしょう知らないわよもう・・・!!!!!」

 やけっぱちになった由美の叫びだけが、駐車場に響いた。








 街を走る4台のバイク。天気も良い夕方の道を走る前の2台は上機嫌である。

「いやぁイイモノが見れたよぅ・・・♪」

「そうですねぇ・・・」

 ほんのり笑顔でどこかツヤツヤした肌を擦りながら呟く美春と翔子。一方その後ろを走る由美はと言えば、恥ずかしそうな悔しそうなやけくそな・・・どちらつかずな表情でアクセルを煽りまくっていた。

「由美ってば・・・そんなに吹かさないで、落ち着いて・・・」

「落ち着いていられるわけないじゃない・・・!もう絶っ対!!にやらないんだから!!」

 爆音にも負けない声で叫ぶと、前を走る美春がニヤリと笑いながら振り向いた。

「あ、ゆーちゃん。まだ罰ゲームが4つ残ってるんだよぉ♪」

「うるさいうるさいうるさい・・・!!もう絶対絶対絶っっっ対にやらないわよ!!」

 由美が怒鳴る。少しからかい過ぎたかなぁと思い、由美をなだめた。

「じゃあかわいそうなゆーちゃんのために、みんなで喫茶店にでも行こお♪」

「あ、いいですねぇ」

 翔子や圭太が頷くと、由美は「ふんっ」とそっぽを向いた。4台は交差点を折れて街道方面に出ると、喫茶店を探し始めた。

 その時、翔子はCBのフロントからの怪しい挙動をキャッチした。

「ん・・・?」

 ちょっとしたコーナリングでフロントがブレた。スポークの歪みやフォークの衰えなどでは無い、もう少し高い位置の・・・

「あ、あそこに発見♪」

 原因を探っていた翔子の耳に美春の声が響いた。見れば前方に喫茶店らしき看板が出ている。4台はウィンカーを出すと駐車場に入った。

「どこ・・・?あの不安定な挙動・・・」

「どうしたの?」

 バイクから降りた圭太が翔子にたずねる。フロント周りを眺める翔子は顔を上げた。

「曲がった時にフロントが変なんですよ・・・」

「えっ?どんな風に?」

「なんて言ったらいいんでしょう・・・わからないんですけど、こう、前に荷重を掛けて曲がっていったら少し腕がブレるような・・・」

 感覚的な感触を身振りして答える。気のせいなのかも知れない。駐車場に入る時や段差を越えた時には感じ取れなかった。あの交差点の時にだけ感じたような気がしただけなのだろうか・・・

「足回りかなぁ?大事な場所だから、早くあっくん達に見せに行った方がいいかもだよ」

 いつの間にか翔子の隣に並んでしゃがんでいた美春が呟いた。

「エンジンは調子悪くても普通に走れば死なないけど、足回りだけは完調にしとかないと、普通に走ってても曲がらないし止まらないしってなっちゃったら死んじゃうよぉ」

「そうですねぇ・・・美春さんの言うとおり、今日は無理をしないで、洋介さんや旭さんに見てもらった方が・・・残念ですけど・・・」

 ため息をついて愛車を見る。

「そういえば、今日も泊まりなの?」

「いえ、さすがに今日は帰りますよ。このまま明日までいたら美春さんにも迷惑ですから」

「迷惑・・・?ふっふっふ、しーちゃん、遠慮はいらないお?むしろこのまま永住しても・・・」

「いや、それはちょっと・・・」

 美春の得体の知れない笑みに若干引き気味で答える翔子。

「今日は道中気を付けながら帰って、明日にでも洋介さん達に見てもらいます」

「それなら今日はあんまり長話しないで、早めに切り上げましょう?」

 由美が提案すると、3人は頷いた。

 その時、駐車場入り口から荒々しいエキゾーストを響かせるクルマが1台入ってきた。



 ボァンボァン!ボガァァア・・・!!!



「うわぁ・・・やっぱりバイクより音が大きいなぁ」のんきな声で圭太が呟く。フロントボンネットの稲妻エンブレムが目に入り、次にリアにある車名に目が行った。

「シルビア・・・あぁ、あれがシルビアなんだ」

「なによそれ?」

「いや、クルマ好きな友達がいてさ。シルビアが好きって言ってたんだけど・・・」

「ふん、クルマなんてバイクの敵じゃないわよ。そうよね翔子ちゃん?・・・ん?」

 由美が勢い良く振り返って見ると、翔子はCB350Fourの下に隠れるようにして震えていた。

「どーしたのしーちゃん?どこか具合悪いのぉ?」

「悪いのは頭だろう。翔子?」

 後ろから聞こえるアイドリング音に混じって翔子の代わりに答えた声の方向に振り向くと、シルビアの男がウィンドから顔を覗かせていた。

「いきなり何言ってるのよ!だいたいなんで翔子ちゃんを知ってるの!?」

 翔子に対する悪質な茶々に由美が食って掛かる。見た感じ、20代前半くらいで少しやせ気味、髪形も特に特徴も無い。こんな男がなぜ翔子を知っているのか。

 しかし、その答えは以外とあっさり露呈した。

「僕が・・・そこにいる翔子の正真正銘の兄だからだ・・・なぁ翔子ぉ?」


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