第42章 友達!
宜しくお願いします!
玲花と会ってから数日。待ちに待った週末の放課後、の教室で、圭太は由美に声を掛けた。
「おーい、由美ー」
「ん、なに・・・?」
しかし気のせいか、いつもより元気の無い返事に圭太は眉を寄せた。普段なら由美から声が掛かるのに、今日は声を掛けてこなかったし、自分から話してみればどこか疲れたような表情でいる。
「どうしたの?最近日を追うごとに元気が無いみたいだけど」
「んぅー・・・別に、何でもないわよ」
「なら良いけど・・・それじゃあ、早く行こうよ。今日は喫茶店でみんなで夏の計画を立てるんだからさ」
今日は『旧車物語夏休み活動計画会議』という、名前だけ見れば立派だか要はいつもの感じでダベるという予定があった。
しかし由美は少しだけ気まずそうに俯くと
「ゴメン圭太・・・今日、居残りで勉強していこうと思って・・・もし行けても少し遅れるわ・・・」
「・・・どうかしたの?由美が進んで居残りだなんて」
「なによ、私が学校に居残りしたらいけない?」
「いや・・・うん、わかった。じゃあみんなには伝えておくよ」
「ごめんなさい・・・」
教室から出ていこうとする圭太の後ろ姿を見つめながら、由美はつぶやいた。
「えー!ゆーちゃん来ないのぉ?」
さほど人の入っていない店内を照らす夕日の中、さほど人が入っていない中では1番密度の高いテーブル席で美春がつまんなそうに呟いた。
「なんか放課後に自主勉するみたいですよ?」
ちなみに、現在この場にいるのは圭太と美春、そして千尋だけである。旭と洋介は知り合いのバイクを治しに行くと言ったきり。まだ帰ってこないようで、喫茶店に着くなり美春がぷんすかしながらそう説明した。
隣街の赤城3姉妹や、離れた場所に住んでいる翔子は時間が掛かるのでまだ来ていない。
「もー、この集まりは欠席したらいけないんだよぉ?」
「まぁまぁおねーちゃん、由美ちゃんや圭太さんに翔子ちゃんも、ついでに私だってもう受験生なんだよ?」
古めかしい店内で、1人パインジュースをこくこくと飲みながら千尋が美春を宥めた。ちなみに千尋はこのパインジュースのグラスのクマの柄が子供扱いされているようで少し気に入らないのは内緒だ。
「そうかぁ、そういえばちーちゃんももう中学3年かぁ・・・昔はこーんなに小さかったのにねー♪」
そして手を自分の腰より低い位置にかざしてうんうんと頷く。
「いや、おねーちゃん・・・今まで私の何を見てたの?」
「冗談だよぉ♪そんな2年で身長は変わらないよねぇ。でも、」
そこでいったん区切ると、時たま垣間見せる歳相応な大人っぽい目付きで
「ちーちゃん・・・大きくなったねぇ」
「おねーちゃん・・・」
そんな姉妹分が良い雰囲気になった時、店の入り口が鐘を鳴らしながら開いた。
「こんにちはー!」
「あ、しーちゃん!!こっちだお♪」
ヘルメットを手にした翔子がカツカツとテーブルに歩み寄ると、隣の空いている圭太の横に座った。
「いやぁ、週末の学校の後のバイクは最高ですよねぇ・・・ってあれ?由美さんは?」
普段なら圭太の隣に当たり前のように座っているはずの由美の不在に翔子が気付いた。
「由美は今日自主的に残勉するから来れないみたいだよ?」
圭太が翔子にメニューを渡しながら説明すると、翔子は驚き顔で
「そんな・・・おかしいです・・・」
と呟いた。
「おかしい?」
考え込む翔子の表情を覗き込みながら圭太が相槌を打つと、美春も頷いた。
「やっぱりしーちゃんもかぁ・・・おかしいよねぇ・・・」
「どうしたの2人とも?」
「おねーちゃん、なにか心当たりでもあるの?」
圭太と千尋が何の事だかわからないと言う風にたずねると、2人は口を揃えて言った。
「あの由美さんが・・・自分から居残りをしてまで勉強するだなんて・・・」
「それに週末だよぉ?ゆーちゃんが1番楽しみにしてる日に、わざわざそんなことするなんて変だよぉ」
そんな2人の疑問を聞いて、圭太と千尋も思わず納得してしまった。圭太はあの由美が自分から積極的に、しかも学校に残ってまで勉強してた所を長い付き合いの中で一度も見た事が無いし、千尋も長い付き合いでは無いが由美が週末の集まりより勉強を優先させるような真面目な性格では無い事を知っている。
「おかしい・・・」
考え込む4人の中でいつも笑顔の美春が、一瞬だけ真面目な顔になって呟いた声は誰にも聞こえなかった。
その頃、由美は居残りなどせず既に自宅に帰ってきていた。カバンを放り投げて制服のままベッドに身を投げると大の字になって天井を見上げる。
『噂じゃあ拉致監禁や人殺しもしたって・・・』
玲花の言葉が頭をよぎる。
由美は頭をバリバリと掻き毟るとうつ伏せになって重たいため息をついた。
「・・・はぁ」
もちろん、由美は玲花から聞いた話を信じてなどいなかった。確かに旭や洋介、あまり知らないが俊一の見た目や強さからすれば、昔は結構なヤンチャ小僧だったのかも知れない。ケンカだってやってただろうし、警察といたちごっこだってしていたかも知れない。仮にそれが本当だとして、昔の旭達がどんな少年時代であっても自分は今の彼らを信じていた。あの優しい笑顔は極悪人に出来る表情では無い事くらい、由美にもわかる。
しかし、だ。
「はぁ・・・」
時計を見る。時刻はまだ18時前。今から家を出ても十分間に合う時間だ。
本当なら今すぐにでもゼファーに跨がってみんなの集まる喫茶店に駆け出したい気分だったが、由美はそれを躊躇った。
心の奥底に引っ掛かる玲花の言葉が脳裏をよぎる。
『噂じゃあ拉致監禁や人殺しも・・・』
初めて旭に出会った夜。窃盗団3人を相手に臆するどころか慣れた感じで殴り合いを始めた旭。確かにあの時は流れ的にも仕方が無かったかも知れないが、普通なら真っ先に警察を呼ぶべきでは無かったのか?そうすれば旭は刺される事も無く、暴走した美春が返り血を浴びて窃盗団の1人を包丁で滅多刺しにすることも無かったのでは無いか?
自分は最低だ・・・由美は思った。他地方の噂など、誇張されているに決まっていると解っていても心の奥底で燃え続ける疑心の火種。由美は耐えられなくなり、ケータイを取り出すと電話を掛けた。
「もしもし玲花?・・・うん、今日時間ないかしら・・・?」
一通り話終えると、通話を切ってケータイを閉じて立ち上がった。
「で、だ。とりあえず今日決まったコトはまた今度集まってまとめる・・・でいいべな?」
日はすでに沈み、時刻は20時を少し回った頃。喫茶店に集まったメンバーの顔を見渡しながら旭が言った。
「ええ、今日話した所なら由美ちゃんもきっと納得すると思うわ」
「海も山もあるしな、最高だぜあそこは」
真子と凛もウンウンと頷きながら言った。ちなみに夏休みに行く場所候補をした結果、赤城姉妹の意見が採用されたのだ。
「じゃあ細かい日程などはまた後日に決めるというコトで、今日は解散にしますか」
ノートに今日話合ったことをまとめ終えた圭太が言うと、今日は解散となった。
外に出て、店の前に並ぶ自分達のバイクにそれぞれ跨がると、エンジンを掛けたりそれぞれ話ていたりと最後の時間をそれぞれ過ごしていると、まず始めに赤城姉妹がバイクを出した。
「次は日曜、また明後日会いましょう?」
「はい、気を付けて帰ってくださいね」
圭太が言うと、真子はふっと笑って走っていった。
「ちょっと待てよ姉貴ぃ!!あ、じゃあなみんな!!」
「また明後日、次は全員集合ですよ!」
置いていかれた双子の妹達が姉の姿を追って音と煙だけを残して闇の中に消えていった。それを見送ると、洋介が浮かれた様子で旭を急かしていた。
「おい!早く出せって!今日こそオレのフォアちゃんを完成させんだからさ!!」
「ったくうるせぇ奴だなオメェはよぉ・・・」
面倒くさそうに言うと、旭はGT380を引っ張り出した。
「じゃあオレはこのバカ送ってっからよぉ、美春も千尋も気ぃつけて帰れよな?」
「まっかせてよあっくん♪」
「おにーちゃんも気をつけてねー」
美春がふんぞり返ってオッケーサインを出しながら言うと、千尋も腕を振りながら「ばいばーい」とか言っている。いつまでたっても心配になるこの2人を見て旭がため息をつくと、圭太に向かって、
「まぁ、後は任せた」
と言って、2人を乗せたGT380は発進していった。
「そういえば翔子ちゃんは?今日はどうするの?」
千尋がたずねると、翔子は困ったように苦笑いした。
「どうしましょう・・・あまり早く帰ると家の人がうるさいので、少し遠回りしながら帰ります」
「それならしーちゃん、ちょっと私と一緒に来ない?」
美春は翔子の肩を掴んだ。
「私もこのあとなーんにもないんだぁ♪なんなら、泊まってっちゃいなYO♪」
「え・・・でも悪く無いですか・・・?」
翔子は嬉しそうな顔と複雑そうな顔を混ぜた表情をした。泊まり自体はなんということは無い。家族は両手離しで喜ぶだろうし本人も万々歳だ。しかし、来るたび来るたびにメンバーの家に泊まっていては迷惑なのではとも思うのだ。
しかしそんな翔子の心中を察しているのか、美春は翔子の肩をパンパン叩いた。
「気にしないでよぉ、遠慮は無用!なんならウチに住んじゃいなよ♪そしたら私にはちーちゃんとしーちゃんって2人の可愛い妹が・・・痛っ!」
その時、千尋がガスッ!と美春の足を踏んだ。悶える美春を一瞥すると翔子をじろり。
「おねーちゃんって呼んでいいのは私だけだもん」
「くすっ・・・わかってますよ」
自分にもこんな姉妹が欲しかったなぁと翔子は思いつつ、千尋の頭を撫でた。
「それじゃあ、泊まりかどうかはさて置きお付き合いします。私もこのまま帰るのは少しつまらないですから」
「本当!?痛いけどやったぁ♪」
「圭太さんは?どうします?」
翔子がちらりと圭太に振り向く。圭太は少し考えた。由美の事が少し心配だったが、由美には明日にでも会えるし、何より夜の道を女の子達だけで走らせたら何かあった時に不安だった。
「うん。今日は何も無いし付き合うよ」
「じゃあ決まりですね!どこに行きますか?」
嬉しそうに笑いながら早速CBに跨がる。するとさっきからウィンカーを点けたり消したりしていた美春がニッコリ笑いながら言った。
「じゃあ、私についてきて♪」
それから少し経った頃、相模寄りの国道沿いのファミレスの駐車場にFX外装の赤いゼファーと、ド目立ちの日章カラーを纏ったCB400Tが停まっていた。
「だからぁ・・・アタイだってわかんないよ。古い話だし・・・」
比較的人が多い店内の喫煙席で、『月光天女』三代目総長兼スカウトの榛名玲花が困ったような表情でタバコに火を点けて言った。目の前には下を向いて落ち込んでいる由美がいた。
「私・・・本当に信じて無いのよ?でも、心のどこかで引っ掛かってて・・・」
ちなみに由美は旭と初めて出会った時の話もした。玲花は興奮気味にその強さにただただ感心していた。
相変わらず下を向いている由美。玲花はうーんと唸りながら無い頭を振り絞って自分なりの答えを出した。
「深くは聞かないけど・・・アタイが聞いた噂は由美の推理どうり、街を跨いでる分、少しは誇張されてると思うよ・・・ただ、昔はかなり凶悪だったのは多分間違い無い。武装してる大人3人を相手に余裕ってあり得ないし、こないだセンパイに聞いたら実際にやられたって人が何人かいたし・・・」
でも、と玲花は付け足した。
「話を聞くかぎり、その人達は今は悪い人らじゃないよ。そりゃあまぁ、雰囲気や言葉はそうかも知んないけどなんていうのかなぁ・・・こう、『筋を通す不良』と『チンピラ紛いの不良』って違うだろ?難しいんだけど、その人達は大丈夫だとアタイは思う」
我ながらいい例えができたと思いウンウンと頷いた。しかし由美は相変わらず下を向いてしまっている。一般人の由美からすれば『筋を通す不良』と『チンピラ紛いの不良』の違いが分からないし、何よりも由美を落ち込ませるのは実際、旭達の過去を思ってではなく、本人も気付いていないだけで実は仲間を疑ってしまったことに対して申し訳ないといった気持ちが強いのだ。
自分の言葉を聞いても落ち込んだままの由美を見ていた玲花は、軽くため息をついた後、
「いい子だね、由美は・・・」
聞こえないように呟くとレシートをつまみ上げて一言。
「今日は奢るよ」
「え・・・だ、ダメよ!付き合ってもらったのは私なんだから・・・」
「アタイは毎日働いてんの。アンタは学生。そういう事は社会に出てアタイより稼いで、高級料理店にでも行った時に言ってよね?その時は容赦無く奢らせるからさ」
そしてレジまで歩いていくと、最後まで納得行かない由美を無視して会計を済ませてしまった。外に出ると由美は玲花に謝った。
「今日は本当にゴメンなさい・・・」
「気にしすぎだよ。帰り道、途中まで一緒に走ろう。な?」
「本当にゴメンなさい・・・」
2人は愛車にそれぞれ跨がると、店を後にした。
「ねぇおねーちゃん!なんでこんな道走るの?」
その頃、美春達は国道を流していた。先頭を走る美春のブルーのサンパチにタンデムする千尋は美春にたずねた。
「おねーちゃん家とは逆方向だし、行きたい場所があるの?」
しかし美春は後ろを振り向く事は愚か、返事さえしなかった。交差点やファミレス、コンビニや飲食店の駐車場や対向車線を走るバイクなどをキョロキョロと見ながら走っていた。カフェヘルの下の表情は普段のおちゃらけた表情では無かった。
一方、美春の後ろを走るFXとCBを操る圭太と翔子は共に不思議そうな顔をして見合った。
「美春さんの家は街道沿いなのに、なんで国道を上るんだろう・・・」
「なんででしょうね・・・どこか行きたい場所があるんですかねぇ」
そして翔子はゴーグルの下で嬉しそうに笑った。
「でも私は皆さんと沢山走りたいので、ガソリンが続くかぎりついていきますよ!」
ギャバババババっ・・・!!!!
その時、目の前を走るGT380がとんでもない行動に出た。
片側二車線の国道の交差点に差し掛かった所で、車体を滑らせながら反対車線に向かって突っ込むと、並走するクルマと競うようにいきなりアクセル全開でカッ飛んで行ったのだ。
「な!?」
「美春さん・・・!?」
2人も驚いている間に交差点を通過。2人は次の交差点まで走るとここでようやくウィンカーを出して、対向車が切れた所で警察がいないか確認した後、美春の後を追った。
「ん・・・?なんかついてきた」
アップハンで見にくいサイドミラーを覗き込んで、玲花が呟いた。
由美もそれに気付いた。そして後ろから近づいてくる音にドキッとなった。
「こ、この音・・・!」
しかし次の瞬間には、その音は前にやってきていた。タンデムシートに座る人影がなにやら叫んでいる。
「ん!?あのサンパチ・・・って」
玲花が呟くと、サンパチが玲花と由美の間に位置を合わせると減速。そのまま並んだ。
「やぁやぁゆーちゃん♪こんな所で奇遇だねぇ♪」
ニッコリ笑う美春を見て、由美が驚いていると次の瞬間、美春の表情が変わった。
「話があるんだぁ、出来れば隣の子も・・・ね♪」
3台はそばにあったコンビニの駐車場に停まった。バイクから降りるなり、フラフラしながら千尋が歩いてきた。
「あぅ〜怖かったぁ・・・」
「美春ちゃんに千尋ちゃん・・・どうしてこんな所に・・・!?」
由美は驚きを隠せず、明らかに動揺している。そんな由美に美春はニッコリ笑うとサンパチのキーを抜きながら言った。
「それはこっちのセリフだよぉ?ゆーちゃんこそ、会議に来ないでなんでこんな場所を?」
美春の問に由美が答えられないでいると、美春は玲花を見た。
「はじめましてぇ♪・・・じゃないよね?この前も、あっくんの後ろに乗ってる時に会ったもんねぇ」
そして自己紹介をした。
「私は真田美春。霧島旭の彼女、由美ちゃんのチームのメンバー・・・」
その口調は、普段のマヌケた雰囲気の一片の欠片も無い真面目な物だった。
一方、玲花は美春の正体を知って驚いている様子だったが、名乗られて名乗らないワケにはいかない。すっと背筋を伸ばすと口を開いた。
「横濱『月光天女』三代目総長、榛名玲花です。由美とはこの前友達になりました」
丁寧な言葉使いでそう言うと、頭を下げた。
「ふぅん・・・で、ゆーちゃん?今日はどうしたのかなぁ?」
凍り付いた表情の由美の表情を覗き込むように見つめる美春。
「まぁ・・・なんとなく分かるんだけどねぇ♪」
そう言うと、美春はサンパチのシートに腰を下ろして言った。
「暴走族に誘われているか・・・昔のあっくん達の良からぬ噂を聞いちゃったんでしょう?」
そして、由美は本当に凍り付いた。前者は合ってはいないが間違いでも無い。が、後者は見事ど真ん中で正解だった。
「アタイは別に由美をチームに誘ってなんかいないよ。それに、誘ったって由美にはアンタ達仲間がいるんだから、受け入れるワケないじゃないか」
「だよねぇ♪よかったぁ♪」
急にくねくねしながらホッと一安心する美春。そんな美春のテンションが想像していたものと違って玲花が驚いているが、すぐに笑顔で
「じゃあ、後者の方だったんだぁ♪」
さすがの玲花も恐怖した。美春の推理の当たっていることにも驚いたが、それ以上に表情が異常なのだ。確かに美春は笑顔だが、その瞳の奥にはそこ知れぬナニかが渦巻いていた。
「こないだ会った時にゆーちゃんがいたのは、私気付いてたんだぁ。あっくんは気付いてなかったみたい。で、今日来なかったでしょう?だから来たんだぁ♪」
意味深な推理でここまで来たコトを説明した後、一歩玲花に近づいた。
「あっくんの噂なんてアレでしょう?殺したとか監禁したとか拷問したとか薬中とか・・・そんなつまんないデマなんて、いろんな場所に流れてるもんねぇ?」
はぁ、とため息をして美春は空を見上げた。
「でも仕方ないよねぇ。実際、昔のあっくん達は結構ケンカとかばかりやってたし・・・噂が立つのは仕方が無いんだよねぇ、はぁ。でも・・・」
また一歩。
「あっくん達は不用意に人を傷つけるような極悪人じゃあないよ?ゆーちゃんだってわかるでしょう?」
「そ、それは・・・」
分かる、分かり切っている。そんなことは出会ってから今日まで、十分にわかっていた。
「確かに彼らは悪かった・・・でもね、何かあったらすぐに上の人間を出したり一般人に脅しを掛けたり・・・最悪はクスリ、恐喝、マワし、リンチ・・・そんなことするようなひん曲がった根性じゃない。良くも悪くもホンモノのツッパリだったんだよ」
普段柔らかい笑みを浮かべている瞳が、キッと由美と玲花を捉えていた。
「ほ、本当かい・・・?あ、アタイが聞いてた噂とはまるで真逆じゃないか・・・」
愕然とした表情で驚く玲花。彼女が由美に話した噂話は由美の為に少しぼかしていて、実際はまだまだ危ない続きがあったのだ。
しかし、美春から聞くかぎりその情報は誇張もいいところ、捏造や妄言の域である。自分の地元の噂話を信じるか、目の前の本人の彼女の眼を信じるか・・・考えるまでもない選択に止めを刺すように、美春の後ろから小さな影が現れた。
「嘘なんかじゃない!おにーちゃん昔、私を嫌ってるみたいに突き放したんだよ。でも本当はそーゆー世界を見せたくないからって、嘘ついてたんだよ!?それに、洋介君だってそれまで私の事を気に掛けてくれてたんだよ!?由美ちゃんだって知ってるはずだもん!!」
少し前まで、兄の不器用な気遣いで長年名前ですら呼ばれたことが無かった千尋が胸を張って言った。
「ち、千尋ちゃん・・・」
千尋の話を聞いて、玲花の中の旭達のイメージが音を発て崩れる。ふと横を見ると横で由美が静かに涙を流していた。
由美が知っているのはそれだけでは無い・・・美春との出会いの時の話だって旭から聞いていたし、洋介が千尋の面倒を見ていたのも、2人が仲直り(?)するきっかけになったのも知っている。
そんな人間が、玲花から聞いたような事をするたろうか・・・?
いや、するわけが無い・・・!
由美は恥ずかしくなった。大事な仲間を、余所の変な噂を聞いてぐらついた自分の心がイヤになった。
「美春ちゃん・・・千尋ちゃん・・・ごめんなさい、私・・・」
「わかってくれたなら大丈夫だよ♪それより、今日のコトなんか早く忘れてまた明後日、またいつもの元気なゆーちゃんになって来てよ♪」
由美の涙を指ですくいながら美春が微笑んだ。
その言葉と笑顔に、由美の涙腺という名のダムは決壊した。
「美春ちゃん・・・!!」
「およよっ!?ゆ、ゆーちゃん!?」
不意に抱きつかれバランスを崩しかけたが何とか立て直すと、美春は由美の頭を撫でた。
「なんだ・・・いい仲間じゃないか」
その様子を見ていた玲花が羨ましそうに呟いた。そして、自分の軽率な言動を反省していた。あんな中途半端な噂話、話すべきでは無かったのだと。玲花は何かを決心したように頷くと、2人に向かって歩み寄る。
「由美・・・!美春さん・・・!すまない!!アタイがあんなハンパな話をしちまったからこんなコトに・・・!!」
「玲花・・・」
「由美・・・短かったけど、ありがとうな。アタイはアタイの道を行くよ・・・迷惑掛けた。じゃあな・・・」
それだけを言って、玲花は顔を上げた。そして、すぐに振り返ると自分の愛車・・・CB400T HAWKⅡに向かって歩きだした。
玲花は・・・この騒動を起こしてしまった責任を感じて自分の目の前から姿を消すつもりだ・・・
「ま、待ちなさいよ・・・!!」
美春から離れると、背を向けた玲花に走り寄ってその腕を掴んだ。
「放しなよ・・・アンタはアタイと一緒にいたらダメなんだよ。それにこんなにいい仲間がいるんだから・・・」
「関係無いわよ!!」
しかし由美は玲花の言葉が終わるのを待たずに叫んだ。
「その仲間の中に玲花がいたらいけないなんて事無いわよ!?なんでそんな事言うの!?」
「アタイは『月光天女』三代目なんだよ。それに、偶然とはいえアンタらの仲を引っ掻き回すような事もしちゃった・・・それに『族』のアタイが『ツーリングチーム』とツルんだら、またどこかで面倒なことに・・・」
すると、由美は袖を放すとつかつかと玲花のHAWKⅡに歩み寄ると、3段シートの背中にあるチームの看板を見つめた。
「『族』と『ツーリングチーム』が友達じゃいけないの!?関係無いわよ!!玲花はチームは違っても友達なの!」
出会って数日しか経っていないにも関わらず、由美がなぜここまで自分を引き止めようとするのか。玲花にはわからなかった。いや、本人にもわかっていないのかも知れない。しかし玲花も本心では『旧車物語』のメンバーとも走ってみたいと思うし、何より由美と絶交などしたく無いし、由美も同じ気持ちだった。
しかし、2人とも言葉が続かない。この想いをどう伝えるか・・・考えた由美は先ほどの玲花の言葉を思い出した。そしてビシッ!と玲花を指さすと、つい叫んでしまった。
「私が玲花みたいに働いたら、高級料理店で容赦無く奢らせるんでしょう・・・!?」
「・・・・・・はいっ?」
いきなり叫んだ由美の言葉に、玲花はポカンとした。美春も千尋もなんの話かと思い首を捻っていた。
斯く言う由美も、今になって恥ずかしくなり真っ赤になった。プルプル震えながら、しかしその指と視線は真っ直ぐ玲花を指していた。
そんな由美を見て、玲花はしばらく口を開けてポカンとしていたが、すぐに下を向いて笑いだした。
「くくっ・・・!ぷっははははは・・・!!」
「な、何よ!?何が面白いのよ!!」
耳たぶまで真っ赤になって叫ぶ由美。確かに本人もさっきの言葉はどうかと思ったが、そこまで笑われるのも心外だった。
玲花はひとしきり笑うと、由美の手を取った。
「ははははっ・・・!悪い悪い・・・!」
そして呼吸を落ち着かせると、
「そうだったね、アンタが働いたらアタイに高級料理・・・約束だったね」
そして美春達に向き直った。
「美春さん、千尋ちゃんも。今日はアタイが由美に変な話をして、由美に不安を与えてしまって悪かった・・・反省してます」
頭を下げると、すぐに口を開いた。
「今回の一件、許して貰えるのなら、霧島さんや羽黒さんに土下座でもなんでもします。だからお願いします!由美とは、これから先友達でいてもいいですか・・・!?」
そして、土下座した。玲花は今回の騒動の原因になったコトに対する自分の責任に対してかなりの罪悪感があった。
美春が屈んで玲花の肩を叩いた。殴られるか・・・そう思った時だった。
「レイにゃん、顔を上げてよ♪」
「・・・・・・えっ?」
上から降ってきたマヌケな声とマヌケなあだ名が、自分に向けられたモノだと理解するまで数秒を要した。顔をあげると、ニンマリとした笑みを浮かべる美春がいた。
「友達でいることに、誰かの許可なんかいらないよぉ♪レイにゃんとゆーちゃんは友達!それでいいんだよぉ♪」
「へ・・・?あ、あれ・・・?」
正直、小言のひとつやふたつ。むしろ怒鳴られたりされるものだと思っていた玲花に、予想外な事態が発生していた。
ニコニコ笑う美春の横に、千尋が並んだ。
「それに、私だって玲花ちゃんとは友達になりたいなぁ。多分、『旧車物語』のみんなも玲花ちゃんに会ったらみーんな友達になりたいって言うと思う!」
千尋は幼い顔でニコっと笑った。ポカンとしていると、駐車場入り口から2台のバイクが入ってきた。2台は美春のGT380の隣に停まると、疲れたような顔で降りてきた。
「美春さん・・・やっと見つけましたよ・・・はぁ」
圭太がため息混じりにつぶやく。
「路地裏とかまで探したんですよぉ?・・・ってあれ、由美?なんでこんな・・・」
由美の存在に気付いて、圭太が近寄る。翔子もなにがなんだかわからないままキョロキョロしていると、駐車場の隅に一際目立つバイクを見つけた。
「あれはホークⅡの角タンクじゃないですかぁ!しかも凄い改造!!わぁ・・・!」
疲れた表情から一変、キラキラと瞳を輝かせながら、ホンダマニアの翔子が由美とホークⅡを交互に見つめる。
「ねぇ由美、あの人は?」
圭太は地面にうずくまる人影に気付いてそっと由美に耳打ちする。
「彼女は榛名玲花・・・私の友達よ。それより、圭太、翔子ちゃん」
由美は立ち上がると、圭太と翔子に向き直った。
玲花があそこまで言ったのだ、自分も2人に謝らねば・・・!
「わ、私ね・・・実は言わなきゃいけないことがあるの・・・!!」
「どうかしたんですか?」
翔子が首を傾げる。圭太も同じように聞いていると、由美は続けた。
「じ、実は・・・わ、私・・・」
「あー!お腹空いたぁ・・・!!」
「お腹が・・・!って・・・あれ?」
突如、話をさえぎるように呑気な叫びを上げたのは美春だった。つられてしまった由美をポカンとしながら見つめる圭太達に笑いながら手を振ると、由美の肩に腕を回した。
「私もうお腹ペコペコだよぅ・・・何か食べないと死んじゃうよぅ・・・」
そしてワケが分からないと言うような表情をする2人に背を向けると、ニタリと笑って、
「おねーさん、実はお給料日だったんだぁ♪今からおねーさんがみんなに何かご馳走しよー♪」
「確かにお腹は空いてますけど、奢りはともかくどこか食べに行きます?」
圭太が言うと、翔子も頷いた。
「それがいいですねぇ。榛名さんでしたよね?あのホークⅡのお話、聞かせてくださいね!?」
「あ、あぁ・・・」
キラキラとした視線を向ける翔子に若干戸惑いながら、玲花が頷く。
「ち、ちょっと美春ちゃん・・・!?」
「今日あったことは、私とゆーちゃんとちーちゃんとレイにゃんの、4人だけの秘密だよ?」
周りに聞かれないように、由美に耳打ちした。
「ゆーちゃんが反省してるのは、すっごくわかった。だから、これでいいんだよ♪」
「美春ちゃん・・・」
それだけ言うと、美春は由美から離れてみんなの輪に加わった。玲花にも同じようなことを伝えたのか、最初こそ驚いたような表情を見せたが、玲花は首を縦に振った。
「よぉし!じゃあ今かられっつご飯♪ファミレスでも吉○家でもなんでも奢っちゃうよぅ♪」
「おねーちゃんカッコいい!」
無邪気に喜ぶ千尋。彼女も美春と同じ気持ちなのかあの話は持ち出さなかった。
「ほらほらぁ、早く行こうよ♪みんな、私についてきてねぇ!」
サンパチに跨がると、キック一発でエンジンを掛けた。そして千尋を乗せるとギヤをローに入れて走り出した。
「あ、ちょっと・・・!」
「待ってくださいよ!」
圭太と翔子も急いでそれぞれの愛車に跨がると、エンジンを掛けた。
「由美!早くしないと置いていかれちゃうよ!?」
「榛名さんも、早く行きましょう?」
2人に促され、由美と玲花はハッとなって互いの愛車に飛び乗るとスターターを押した。
キョカッ・・・!
コァアアアアアアア!!!!
キュルッ・・・!
ブバァァァアアアア!!!!
「凄い音だなぁ」
「2台とも直管ですからねぇ・・・」
圭太達はその音に圧倒されていたが、すぐに出口で皆を待つ美春に気付いて走り出した。
カァァァァア!!バリバリバリバリ・・・!!
先頭を走る美春のサンパチに続いて、圭太、翔子、由美、玲花の順番で国道を下った。由美と玲花は美春と千尋に心の中でお礼を言うと、2台並んで楽しげに走っていた。その姿は、バイク同士が意志を持っているかのように楽しげな走りだった。
「結構仲がいいみたいだね」
「いつからの知り合いなんですかねぇ・・・?」
圭太と翔子が走りながらそんな事を話している時、先頭を走るサンパチに乗る2人がひそひそと話をしていた。
「おねーちゃん・・・今思ったんだけど、お給料日って・・・」
そわそわしながらつぶやく千尋。今日は給料日では無い・・・そう言おうとした時、美春が、
「んー♪そーゆーことにしといてねぇ♪」
言葉では笑っていたが、心の涙は隠せなかったようである。そんな美春を見て、千尋はため息混じりに笑った。
真田美春の!オールナイトニッポン!!(裏)
この放送は『旧車物語』の読者の皆様のご協力で放送しております。
美春「みんな~!!忘れたころにやってくる!真田美春のオールナイトニッポン!!元気かなぁ!?美春おねーさんだよう♪」
作者「元気だなぁ・・・どうも、『信じる者がすくわれるのは足元だけだ』・・・納得の作者です」
美春「ん?なにかあったのぉ?」
作者「いや、なんでもないです・・・くそう、取り締まりなんて・・・」
美春「なんかどんよりしているけど作者君、今日は誰の曲を紹介してくれるのかな?」
作者「今日は翔子ちゃんのイメージソング・・・もとい書いてる時に聴いていた音楽です」
タイトル You
唄 癒月
美春「悟史くぅん!!私だぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」
作者「これを聴いているときに、なんかぴーんと来たんですよねぇ・・・」
美春「イイ曲だよねぇ・・・詩の内容とメロディが本当に上手く絡んでて・・・」
作者「ご存じ無い方は、YOUTUBEなどで検索してみてください。アニメ、ひぐらしがなく頃にの挿入歌です」
美春「それではみなさん!また逢う日まで!!」
作者「あ・・・ちなみに美春君」
美春「ん~?」
作者「今年の年初めの番組でのことを覚えているかい?」
美春「・・・なんのことかなぁ???」
作者「トボケるか・・・まぁいい、見た方が早い」
だん!!
作者「その時の放送で設置した目安箱です」
美春「・・・・・・」
作者「すっかり忘れていたんだけど、この前投書があるか確認した結果、1枚の投書もありませんでした。正直いろいろ愕然としました」
美春「・・・」
作者「つまり・・・この番組は裏番組となります」
美春「いや!!絶対だめだよう!!!!」
作者「ちなみにタイトルも今日から変わっています」
美春「あ!?いつの間にか(裏)って書いてある!!」
作者「そんなわけで、今度からこの番組は裏番組としてローカル一直線。そのうちタイトルもオールナイトニッポンからオールナイト沖ノ鳥島くらいの規模に・・・あの、美春さん、どちらにお電話を・・・?」
美春「こうなったらあっくんに連絡してやるんだから・・・ふふふ、作者君なんて壊れちゃえばいいんだよ♪」
作者「・・・・・・もうイヤ・・・」
というわけで、ゴールデンウィークはどのように過ごされましたか?
自分は本業の音楽が忙しくも充実した連休でした。そのおかげで更新が遅れてしまいましたが・・・汗
このような未熟な小説、『旧車物語』ですが、精進していきますのでこれからも宜しくお願いします!!
3気筒