第40章 誕生日会!! 後半
みんなが持ち寄った食べ物や飲み物がテーブルに並ぶ。が、圭太の家は広いと言えど家族4人暮らし。足りない分をなんとか掻き集めても椅子は足りないため、みんな椅子に座ったりソファーに座ったり床に胡坐を掻いたりした。
「それじゃあ!圭太の誕生日パーティを始めるわよ!!」
由美がグラス片手に立ち上がると宣言した。ちなみに中身はコーラ。
「18歳!おめでとう!!」
声高らかに言うと、みんなが一斉にクラッカーを鳴らした。辺りに飛び交うビニールテープやみんなからの祝言に、由美達に問答無用にテーブルの上座に座らされた圭太が照れながら恥ずかしそうに頭を下げた。
「みんな・・その、ありがとう・・・!」
「畏まるなって!今日はお前が主役だぜおい!」
洋介が圭太の肩に腕を回して言うと、コップの中のジュースを飲み干した。
「そうそう、今日は思い切り騒ごうね♪今日のために作ったカレーをお食べ〜♪」
ニコニコしながらさっそく持参のカレー鍋を開け、お皿を持ってお玉でカレーを掬う美春。しかし・・・
「あ・・・?れ・・・?」
「どうしたんですか美春さん?」
鍋と皿とを順番に見ながら何かを探す美春。そして
「ごはん・・・・・・」
「え・・・?」
「ごはん忘れたぁ・・・!」
どうやら米を忘れてきたらしい。ガックリとうなだれる美春に、なんて答えればいいのかわからなかったがとりあえず圭太は美春の肩を叩いて
「あの・・・食パンならありますけど、使います・・・?」
と、米では無くパンを勧めると涙目で「うん・・・」とうなずいた。そんなやり取りを見ていた凛が
「全く、お前はやっぱりどこか抜けてるよなぁ」
「むぅ・・・リンリンだって抜けてるじゃん・・・!」
「オレはお前ほど抜けてねーよ!!」
騒がしくなる2人。どっちもどっち・・・と圭太は思ったがそんなことを言えばどうなるか火を見るより明らかだ。そんな2人を見兼ねた由美が仲裁に入った。
「まぁまぁ美春ちゃんも凛ちゃんも!少し落ち着きなさいって」
「うるさいバカ」
「うん、ゆーちゃんはおバカ」
「な・・・!?」
何故か息もぴったりに2人にバカと言われて、由美は口調を強めて反論した。
「なによ!美春ちゃんや凛ちゃんほどバカじゃないわよ!?テストだって100点取ったじゃない!!」
前の勉強会の話を引き合いに出してきた。が、相手2人はその時一緒に勉強した仲である。まるでカウンターを狙っていたボクサーのように由美の言葉にフックを入れた。
「あの時だってオレ達が協力したから100点取れたんだろ?」
「そだよーそだよー。私達のおかげさまなんだよぉ」
「くっ・・・!」
確かに、あの時由美が1人で勉強していたとしたら間違いなくいい点とは程遠い成績であっただろう。否定仕切れずに「ぐぬぬ・・・」と顔を歪ませる由美。
「まあ要するにだ・・・由美はバカって事だ、うん」
無理矢理まとめに入る凛のその言葉に、由美はカチーンと来た。
「うるさいわね!だいたい、バカって言う方がバカなのよ!?このバカ!!」
シーン・・・
「え・・・?なに・・・?」
先ほどまで言い合っていた凛達や圭太、他のメンバーが由美を見つめる。ぽかーんとしている者や呆れている者。笑いを堪える者までその反応は様々だった。
「由美・・・お前やっぱり」
「おバカさんなんだねぇ・・・」
凛と美春が言うと、一同はウンウンと頷いた。
「まぁ、とりあえずこの3バカ共は置いといてだ・・・」
さりげなく凛達も一括りにして、旭が呟く。
「各自持ち寄った誕生日祝いをそろそろ出すべや。このままだと忘れそうだしな」
「それには大賛成ね」
真子がウンウンとうなずく。
「私のプレゼントは凄すぎて今出すのはもったいないわ!!私は最後よ!!」
1人張り切る由美。一体何を持ってきたのかなぁと圭太が考えていると
「じゃあ最初は私からです!お誕生日おめでとうございます!」
最初にプレゼントを渡したのは翔子だった。綺麗な包装紙でラッピングされた厚さはさほど無い四角い箱を受け取った。
「ありがとう・・・!見てもいいかな?」
「もちろんですよ、見てください!」
みんなが見守る中、圭太は包装紙を破かぬように綺麗に開けた。長方形の箱を開けると、中には写真立てと、その中に1枚の写真が入っていた。
「うわぁ・・・!」
圭太は思わず声を上げた。その写真に収められていたのはいつどこで撮ったのか、駐車場でFXに跨がる圭太を1人で写した物だった。夕方なのか良い感じで夕日が照らすマシンと良い感じで目線を外す圭太。写真だけ見ればまるでカタログの表紙に使えそうな写真であった。FXの特徴的な角張った大柄なスタイルを見事に捉えている。さらにその頭上には『HAPPYBIRTHDAY!』と雲のように白い文字で描かれていた。
「すごい・・・嬉しいよ!ありがとう!!」
「喜んでもらえましたかぁ・・・よかった!1番カッコよく撮れた写真なんですよそれ!」
「ありがとう、机に飾っておくよ!」
うれしそうに笑う2人。特に翔子は自分の撮った写真で喜んでもらったことが嬉しかったようで、「この調子で頑張ります!」と将来の夢に向かってまた一歩進んだようだ。
それに続き、次は旭と美春がそれぞれのプレゼントを持って前に出た。
「じゃあ次はオレらからだ」
「けーちゃん!はいこれ!!」
旭からはどこかの服屋か何かの袋。美春は何か大きな箱を受け取った。
圭太はお礼を言ってから旭にもらった袋を開けて中身を取り出す。
「これは・・・?」
「旧単車乗りの必須アイテム、スイングトップだ。着てみろよ」
出てきたのは、無地の黒い服だった。着てみるとサイズは合っている。圭太がチャックを締めようと上に引っ張ると、旭が
「チャックの位置はヘソ辺りでストップな。上げすぎるとだせーかんな」
そして着てみると、普段の圭太よりワイルド感が当社比二割増しした。
「いいじゃんかよ、カッケェぞ圭太!」
「なんか引き締まって見えるわね」
凛と由美が素直に感想を述べる。圭太は改めて旭にお礼を言うと、次は美春から貰った大きい箱を開けてみた。
「・・・・・・あの、なんですかこれ」
現れたのは、黒くて大きい建物みたいな物体と、黄色い玉が大量に入った箱。
「バト〇ドームだよ♪探すの大変だったんだからぁ♪」
「見ればわかります!ていうかなんでバトルド〇ム!?その前にバイクの後ろに乗った状態でカレー鍋まで持ってるのにどうやって・・・!?」
「それはほら・・・女の子には秘密がたくさんあるんだよぉ♪これを貰って狂喜乱舞しない人はいないよねぇ♪」
「あの、この時代にバトル〇ーム貰って喜ぶ18歳はいないと思うんですけど・・・」
圭太がアタリマエのようにツッコミを入れた。その時・・・
「うぅ・・・けーちゃんのために・・・頑張って探してきたのに・・・・・・よ、喜んでくれないんだ・・・うぅ・・・」
いきなりその場でしゃがみ込んで泣き出す美春。そんな美春を見て困惑する圭太に旭が耳打ちした。
「大丈夫だって・・・どうせウソ泣きだべ」
「そ、そうですか・・・?なんか嗚咽がリアルな気が・・・」
そんな事を話していると旭が美春に声を掛けた。
「おぅ美春よぉ、泣くなって。カレーでも食えって」
「ううっ・・!ひっぐ・・!ひぃぃん・・・!!」
しかし顔を上げた美春を見てみんな驚いた。
「ま、マジ泣きかよ!?」
美春は本気で涙を流しながら、ついでに鼻水まで垂らしながら泣いていた。
プレゼント自体、ウケ狙いだと思っていた圭太達は多いに焦った。
「あ、あの・・・!あ、ありがとうございました!!実は昔から欲しかったんですよこれ!!」
慌ててフォローを入れると、由美達も続いて援護する。
「そ、そうよ美春ちゃん!一時期圭太はバ〇ルドームのCMを見ては欲しい欲しいって言ってたのよ!?」
「あぁ懐かしいなぁ、あのCM」
由美の言葉に洋介が反応する。そんな周りからの援護の甲斐もあり、美春は涙を拭きながら圭太を見つめる。
「ほ・・・ホント?」
「えぇ、ありがとうございます!」
圭太が頭を下げてお礼を言うと美春は千尋から差し出されたちり紙で鼻水を拭いて笑顔で笑った。
「よかったぁ・・・♪やっぱり私は間違って無かったよぉ♪」
間違いだらけだが、これ以上ツッコミを入れるとまた泣き出すので、とりあえずウンウンと頷いておくことにした。が、1人空気を読まずにボソっと呟いた。
「ゴミが増えただけね・・・」
「ご・・・ゴミ!?」
美春が振り向くと、後ろで腕を組んでつまらなそうな目で見つめていたのは真子だった。
「自己満足で自分だけじゃない、嬉しいのは」
「な、なによぅ!そんなこと無いよぉ!」
「いや、赤城長女の言うとおりだべな」
しかし、そんな美春に旭が便乗してツッコミを入れると、美春はその場でパタリと倒れてまた泣き出した。
「おにーちゃん・・・!!ほら、おねーちゃん、あっちに行こ?ね?」
何故か便乗した兄と、泣き崩れる姉代わりを交互に見た後、美春を背負って部屋の隅に移動させる千尋。ちなみに美春はまた涙と鼻水で顔を汚していた。あ、千尋の背中に鼻水が・・・
「まぁ、なんかわからんトラブルがあったが・・・仕切り直すべ」
旭がさらっとまとめた。
「いよいよ、次は私達ね」
「ほら、これ」
「圭太さん!お誕生日おめでとうございます!!」
三者三様の態度で圭太にプレゼントを渡すのは赤城姉妹だ。まず凛から受け取った箱から開けてみると、中から出てきたのは饅頭だった。
「旨そうだろ?贈り物と言えば饅頭!」
何かが違う気がしたが、先ほどのバトルドー〇よりは全然マシなので圭太はありがたく受け取るとお礼を言った。
「ありがとう、美味しそうだよ」
「ま、まぁ・・・世話になってるからな・・・」
少し照れながら言う凛は、どこか不自然だった。
「次は私のですよ!どうぞ!」
続いて紗耶香から渡された袋を開けてみた。中にはノートのような物が。
「これは・・・?」
「Z400FXのパーツマニュアルですよ!それがあれば修理の時に結構役に立ちますよ!」
探すの大変でしたよーと笑いながら微笑む紗耶香。カワサキ狂いの彼女らしいプレゼントに苦笑しながら圭太はお礼を言ってパーツマニュアルに目を通していると、横から視線を感じた。
「圭太君・・・私のも早く見て欲しいな」
「あ、すみません。今から見させてもらいます」
真子から貰った箱は、正方形に近い形をしたもので少し大きい。
まず箱を開けると、甘い香りが箱から漏れる。そのまま中身を引っ張りだすと、中から出てきたのはなんとイチゴのショートケーキだった。板チョコには綺麗に『HappyBirthday けいたくん』と可愛らしく書いてある。
「うわぁ・・・!」
「ど、どうかな・・・?頑張って作ってみたんだけど、何しろ初めてだったから・・・」
「え・・・これで初めてなんですか・・・?」
圭太は驚いた。本当にお店に出ていてもおかしくないくらい綺麗なこのショートケーキが初めて作ったものとは思えなかった。
「圭太君の喜ぶ顔を見たくって・・・どうかな・・・?」
珍しく緊張気味な真子。しかし自信はある。圭太の誕生日が近いと聞いたあの日から真子は毎日毎日夜遅くまで、それこそマッハにも乗らずにケーキ作りを練習してきたのだ。最初はケーキのスポンジが焦げたりクリームがうまく塗れなかったり食べたら吐き出してしまうほどアレな出来な物を経て、今朝方になってようやく出来上がった渾身の力作だった。
「早速食べて貰えないかしら・・・?味の感想も直接聞きたいわ」
「ありがとうございます!絶対に美味しいですよ!」
食べる前に断言しながら、圭太は台所から取ってきた包丁でケーキを切り分けると、その1つを自分のお皿に移してからフォークで口元に運んだ。
「ど・・・どうかしら・・・?」
緊張の面持ちで感想を待ち望む真子に、羨ましそうに見つめる一同の前で圭太は一口目のケーキを食べ終えた。
「・・・凄い美味しいです・・・!スポンジも柔らかくて、周りの生クリームも甘くてフワフワしてますし!」
「よかった・・・!頑張って作った甲斐があったわ!」
圭太の喜びに溢れる笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろす。一方・・・
「どうしよう・・・・・・」
「どうしたんですか由美さん?」
1人顔面蒼白で立ち尽くす由美。その表情はパーティー会場で見せていい表情では無い。心配そうに見ていた翔子がたずねるとが由美は口を開かない。
プレゼントが・・・丸被り・・・・・・!?
そう、由美が用意していたのもケーキだったのだ。しかも同じショートケーキ・・・
由美は再度真子の作ったそのケーキを見る。そして思った。
勝てるわけないじゃない・・・!
自分の作ったケーキを思い浮かべる。由美も真子同様、あの日から毎日こっそりケーキ作りを練習していた。スポンジこそ上手く出来るようになったが、クリームは上手くな濡れず、所々固まっているし何よりあんなケーキ屋顔負けのネーム入り板チョコなど用意出来なかった。
「これより後のプレゼントは少し渡すのに勇気がいりますねぇ」
しかしそんな由美の内心など知らない翔子は呑気にそんなことを口走った。
続いて洋介が近づいてきて圭太に言った。
「じゃあ次はオレからなんだが・・・まぁさっき見ただろ?」
「ありがとうございます!あの中身って一体・・・?」
すると洋介はふっふっふと笑いながら
「ここでは開けらんないしな。明日こっそり見てみな?圭太には嬉しい物のハズだよ」
そう言ってイヤらしく笑う洋介。どうやら相当な自信があるようだ。
「変なモンだったら叩っ返してやれ」
旭が小声で忠告した。
「じゃあ次にバトンを渡すかな・・・千尋ちゃん?」
洋介が千尋を呼んだ。が、しかし・・・
「な・・・・・・に・・・・・・?」
後ろを振り返ったみんなが絶句した。そこには顔を真っ赤にしてぶっ倒れる千尋。そして・・・・・・
「ぐびっ・・・ぐびっ・・・ぐびぐびっ・・・!!ぷぁああ!!」
一升瓶を抱えて、さらにもう1本の一升瓶をらっぱ飲みしているバカが1人・・・
「くっそー!どいつもこいつもばかにしやがってぇ・・・!ひっく・・・!おねーさん我慢の限界だぞぉ!!」
言って、また酒を煽る。ロックにせずそのまま飲むので酔いがいつも以上に早いようだ。唖然としながら美春を見つめる一同。しかし本人は気付かずに生ける屍状態の千尋の肩を叩いた。
「ほらぁちーちゃん!まだまだ飲めるれしょ!!起きてよぅ!!」
しかしいくら叩いた所で屍は屍。時折辛そうに呻くだけで美春の言葉には反応出来ない。そんな千尋に飽きたのか、美春はまた膨れっ面になると一升瓶を飲み始めた。
「ねぇ・・・なにあれ?」
「あのバカ・・・」
真子の質問に、呆れ顔で呟く旭。そのやり取りを見ていたのか、美春がずびしっ!!と真子を指さした。
「出たなぁ!この現世の醜い浮き世の鬼めぇ!!」
「何が鬼よ・・・」
呆れながらも一応返事を返す真子。そんな真子の態度が気に入らないようで美春はマシンガンのように語り始めた。
「ふんだ!!私のぷれじぇんとにけちつけて、ぱーてーの空気ぶち壊しのくせに!本当は〇とるどーむがうらやましいんでしょお!?まっはなんかぁ乗ってぇ・・・くーるぶってぇ!こんなことならそふとのないわんだーしゅわんにしておけばよかったおぉ・・・!!」
「いや、空気壊したのはあなただし、マッハは関係無いし、ついでに言えばワン〇ースワンもいらないし」
冷静に美春の鬱憤にツッコミを入れる真子。そのどれもが的確なツッコミであるため、美春と千尋を除く全員が心の中で頷いた。
「なぁなぁ圭太・・・美春って酒飲むといつもあんな感じなのか・・・?」
始めて美春の醜態を見た凛がたずねると、圭太は頷いた。
「でも・・・普段はあそこまで酷く無いんだけど・・・」
「あれが本当の逆ギレね・・・しかも千尋ちゃんを巻き込むっていうあるタチの悪い」
由美もウンウンと頷く。
一方、酔いが回りすぎて周りが見えていない美春は真子の前までフラフラと歩くと、真子に新しい一升瓶を突き付けた。
「いまからしょーぶ!まこりん、どっちがはくまで飲むかしょーぶ!!」
「イヤよ面倒くさい・・・なんで圭太君の誕生日パーティであなたとお酒で勝負しなきゃならないのよ?」
心底面倒臭そうに吐き捨てる真子。その主張は的確すぎて旭や洋介達から拍手が起きた程だ。が、しかしそれで引き下がるほど美春は賢くない。普段より3割り増しでうざくなっている美春はニタニタ笑いながら、そして酒臭い息を真子に吹き掛けながらこう言った。
「あれれれれぇー?まこりん、にげるのぉ?」
カチン・・・
「まっはにのっててふだんはしょーぶばっかりやりたがるまこりんが!にげるのぉぉ???」
もう皆さんにお見せできないような、女の子にあるまじき酔っ払い顔で挑発する美春の言葉とウザイ表情に、真子はついにキレた。
「いいわよ・・・?そんなに言うなら、死ぬくらい覚悟なさい?」
「え!?真子姉さん!?」
紗耶香が驚いて声を掛けると、真子は余裕そうな表情で言った。
「大丈夫よ、あのアル中に勝つ=美春は退場・・・この場の空気が浄化されるならお安い御用よ。それに・・・」
次の瞬間。真子の表情が一変した。
「現役大学生を・・・ナメてもらっては困るわよ?」
そこには、一匹のトラがいた。
「なぁなぁ、その戦いには一般参加枠もあるのか?」
一方、空気を読まずに洋介が参加表明をしてきた。美春はフラフラと自分の持ってきたバッグの中からさらに一升瓶1本とビニール袋から缶ビールを数本取り出してニヤリと笑った。それを見た圭太達は美春のバカさ加減と、どこにそれだけの酒が入るスペースがあるのだろうかと疑問を持った。
「よし、じゃあオレもやるかな」
決まり!とばかりに洋介が笑う。実は洋介もかなりの酒好きである。
「洋酒が無いのが盛り上がりに欠けるが・・・まぁ相手にとって不足は無い」
「オメェはただ単に飲みてぇだけだべ」
ヤル気満々の洋介に、酒が大の苦手である旭がツッコミを入れた。
「なんか楽しそうだな!オレも混ぜてくれよ!!」
「え!?り、凛も!?」
この空気の中でどこをどう見れば楽しそうに見えるのか、凛がウキウキしながら参戦表明した。圭太が驚きながらたずねると、普段妹に厳しい真子が「うむ」と頷いた。
「美春はマッハに乗る私達姉妹にも挑戦を挑んできた・・・ならば全員で返り討ちにしてやるわ」
「ちょ、真子姉さん・・・!?」
普段は冷静な真子のムキになった感じの発言に紗耶香がツッコミを入れるが、凛の参加は決定した。
「わ、私は出ないからね!?」
「任せとけって!美春なんてオレと姉貴で潰してやるさ!!」
「頼む、そうしてやってくれ」
ヤル気満々な凛に、一応美春の彼氏であるはずの旭がエールを送った。
「ねぇ圭太・・・どうするのこれ?」
由美がたずねると、圭太はため息をしながら
「まぁ・・・近所迷惑にならなければ・・・あと周りに吐き散らしたりしなければ・・・」
「難儀ねぇ・・・」
斯くして、この戦いに参戦する4人の戦士が集まった。
「それじゃああっくんたちぃ、みんながどれらけのんだかかじょえてへへへ♪」
すでにイカれてる美春が言うと、酒が並々注がれたコップを全員が高く持ち上げた。そして・・・
「かんぱあい!!」
美春の合図と共に、ついに禁断のバトルが始まった。
「ぐびぐびっ・・・!ぷひぃい!!」
奇声を上げて、最初に飲み干したのは美春だった。周りの3人はまだ半分も行っていない。
「このままのぺーしゅでいくおぉ♪」
また並々と酒を注ぐと、すぐに飲み干した。それを見て参加している3人以外のメンバーもため息をついた。
「何杯飲めるかを競ってるのに・・・なんであんなペースで飲むかなぁ・・・」
「まぁアイツバカだし・・・ゲロ袋、用意しとくべや」
呆れ顔というか・・・うんざりしながら旭はビニール袋を持って美春の近くに座った。
それから10分後。皆の予想通り、案の定美春はペースが止まった。始まって5分辺りで酒を口元に運ぶ回数が減り、今ではガックリとうなだれながらしゃっくりをするだけになってしまっていた。
「なぁ美春よぉ、そろそろキツいべ?」
「だ、だいじょうぶ・・・ひっく・・・まらまら・・・いけりゅう・・・うぇぇ・・・」
真っ赤だった顔も今では顔面蒼白。冷や汗ダラダラ。そんな美春を尻目に、真子は自分のペースで酒を飲んでいた。
「ふん・・・これならすぐに勝負がつきそうね」
最初の美春程のペースでは無いが、真子のペースもかなり早い。しかも顔はまだ赤くすらなっていない。どうやらかなり上戸らしい。
一方、洋介と凛は早くも酔いが回ってきているらしい。
「だっからさぁ!!ヨンフォアのエンジンが1番カッコいいんだっての!!」
「バッカじゃねーの!?オレのマッハのエンジンの方がカッコいいって!!あのフィンが最高なんじゃん!!それよりさぁ、ヨンフォアにマッハのエンジンがこーなってさぁ・・・」
どうやらどちらの愛車のエンジンがカッコいいのかを話しているらしい。しかし酔っ払っているので声も大きくなり会話の内容もおかしくなっていた。
もはや勝負では無く、楽しい飲み会に変わっているのに気付いた圭太達は数を数えるのも放棄。予定通り誕生日会を再開した。
「なんか予定が狂っちゃったわね・・・」
由美がため息をしながら呟いた。が、圭太は笑いながら
「でも楽しんでくれてるみたいだし、僕も楽しいからいいんだけどね」
圭太がそんなことを言った直後、旭が圭太にトイレの場所をたずねると、美春の背中を擦りながら居間を出ていった。そして・・・
「⑨←〃♂′★○¥$£⑨・・・!?」
びちゃびちゃびちゃ・・・!!!!
「・・・・・・とりあえず、そこのドアを閉めよう」
平静を装いながらドアを閉める圭太を見て、由美と翔子、紗耶香はため息をついた。
「なぁなぁそこのぉ!みんなこっち来いよぉ!」
凛が缶ビールを持ってニコニコしながら手招きする。とりあえず近くにいた翔子の袖を掴んで自分の横に座らせる。
「凛さんも結構飲みますねぇ」
「あっははは!酒なんて今日初めて飲んだようなもんだ!!」
豪快に笑いながらビールを啜る。
「だからさぁ、オレもう限界!!・・・翔子、バトンタッチな」
「へ・・・?」
何も知らない凛からの、地獄の宣言を聞いて圭太と由美が凍り付いた。急いで振り返ってみるとそこには・・・
「ごく・・・・・・ごく・・・・・・・ごく・・・・・・」
「おぉ、良い飲みっぷり!!」
凛に無理やり首を傾けさせられ、酒を流し込まれている翔子の姿が・・・
「あぁダメだ凛っ!!」
「翔子ちゃんにお酒は・・・!!」
しかし時すでに遅く、凛は缶の中に残っていたビールを全て飲み干したのを確認してビールを翔子の口から離して笑った。
「翔子すげーな!!全部飲みやがったぜコイツ!!」
がははははと笑う凛。その横には糸を断ち切られたマリオネットのようにぐったりしている翔子がいた。
「ち、ちょっと凛ちゃん!!なんて恐ろしいことを・・・!!」
「何言ってんだよ?翔子は自分の根性を見せるために全ての酒を・・・」
「違う・・・他の誰かに飲ませるのは別に構わないんだけど・・・翔子ちゃんだけは別なんだ・・・」
圭太がさも恐ろしい物でも見るかのように後退りする。
その時、凛の後ろでゆらりと静かに立ち上がる影が・・・
「「ひいっ・・・!」」
「あ?なんだよ?なにかあるのか?」
2人の態度に、さすがに何があるのか怖くなってきた凛が不安そうにたずねる。
その時、凛の後ろを見ていた紗耶香がガクガク震えながら呟いた。
「り・・・凛お姉ちゃん・・・に、逃げ・・・」
3人は、凛の後ろに怪物を見ていた。比喩では無い。まるで満月の夜に1日だけ現れる某吸血鬼(死徒)のような残忍な笑顔の怪物は、ぽんっと優しく凛の肩を叩いた。
「・・・・・・」
振り向けばそこには恐ろしい笑顔を張りつけた翔子が立っていた。
「あ・・・も、もう起きて大丈夫なの・・・・か?」
いつもと明らかに違う翔子の雰囲気に、凛がおずおずとたずねる。次の瞬間・・・
ぐいっ!!
「ぶっ・・・!?ちょ、ぶはっ・・・!!」
先程とは逆に、翔子が凛の頭を掴み、無理矢理酒を口に押し込めるように流し込む。
「ごくごくごく・・・ぷはぁ・・・」
全てを飲まされた凛。翔子が頭を放すとその場にパタンと倒れた。まるで浜に打ち上げられた魚みたいにピクピクしている凛を静かに見下ろす翔子。そして
「ふふ・・・」
由美達を見下ろしながら・・・
「あはははははははは!!」
翔子は狂った。
「凛しゃーん?まだまだ飲みが足りましぇんよぉ!?あはははははははは!!!!」
言いながら、新しく開けた缶ビールをまた凛の口に突っ込む。しかし半ば意識を失っている凛が飲み下せるハズもなく、口内に入りきらない酒がびちゃびちゃとあふれ出る。
「あーだめでしよぉ?じぇんぶ飲みなしゃい!!」
べちべちと凛の頭を叩きながら無理難題を言う。しかし無反応な凛に飽きたのか、次の標的を探し始める。すると、後ろにいた真子に視線を定めた。どうやら洋介は沈んだらしい。
「あら・・・凛ったらもう潰れてしまったの?全く、洋介君といい、まだまだねぇ」
飛んで火に入るなんとやら。真子が倒れる凛に近づいた時だった。
「真子しゃん!!もっと飲んでくらしゃい!!」
「え・・・?な、なに!?」
突如襲い掛かる翔子に抵抗出来ずに、押し倒される真子。そのままマウントポジションを取った翔子は、凛に行ったようにビールを無理矢理口に突っ込んだ。
「んー!んー!ごく、ごく、ごく・・・な、なにするの!?」
辛くも全て飲み切った真子は翔子をにらみつける。しかし・・・
「ぶふっ・・・!?」
次に突っ込まれたのはなんと日本酒だった。これには真子もたまらず、途中でむせると気を失ったようだ。
「うふふへへへぇ・・・」
不気味な笑みを浮かべながら、見定めた次の標的に襲い掛かる。
「さーやーかーしゃーん?」
「い、イヤ!イヤですぅ!!」
しかし逃げる紗耶香をとっ捕まえると、また同じように酒を飲ませる。床に沈んだ紗耶香の次は・・・
「由美しゃん・・・一緒にのみましょーよー」
拒否は拒否する!そんな雰囲気をまとった翔子の誘いに、由美は覚悟を決めた。
「圭太・・・私が翔子ちゃんを止めてくるわ・・・」
「な・・・!む、無茶だ!由美、ここは逃げなきゃ・・・!」
「逃げてばかりだったらまた新たな犠牲者が出るだけよ・・・大丈夫よ、任せて」
そう言って、勇ましく翔子の元に歩いていく。果たして勝算はあるのだろうか。
「よーこそ由美しゃん!まぁまぁ座ってくらしゃい」
「ええ、翔子ちゃん。私と飲み比べしない?」
由美が自殺行為にもとれる発言をする。が、由美には勝算があった。以前、翔子と出会った日にも今日のようにどこかのバカの提案で酒を飲むハメになったときだ。由美と翔子は2人で飲み合い飲ませ合い、互いに潰れた過去がある。しかしあの時は一緒に飲み始めたから互いに潰れたが、今回は翔子のほうがたくさん飲んでいる。上手くいけば、由美は翔子だけを沈めて自分は助かるかも知れない・・・そう踏んでいた。しかし・・・
「いいでしゅよー?じゃあ・・・えい!!」
由美の口元を目がけて、翔子が日本酒の瓶を突っ込んだ。
「ち、ちょっと!飲み比べって言ってるじゃな・・・むぐっ!?」
制御不能なエヴァのような状態の翔子に反論するが、時すでに遅く。由美の体内にアルコール度の高い液体が注ぎ込まれる。
「うぶっ・・・!!」
しかし、大一波の攻撃は何とか耐えることに成功した。だが、身体は確実にふらつき、自分でも制御が利かなくなっているのがわかる。涙と頭痛でぼやける視界を前に向けると、翔子が日本酒を飲み干していた。
「うー・・・酒がないですぅ・・・」
もうろうとしながら四つんばいで歩き回ると、寝ている洋介のそばにまだ中身のある一升瓶を見つけて、うれしそうに笑いながらやってきた。
「まだまだありましゅ!やりましょー!!」
そして、地獄の戦いがまた始まった。
飲んでは飲ませ、飲ませられれば飲み返す。そんなやりとりがしばらく続いた時だった。
「ぷぁあ!!なんか幸しぇな気分になってきたわぁ・・・」
ミイラ取りがミイラになった。由美は完全に翔子のペースにハマっていた。顔を真っ赤にして横隔膜痙攣・・・しゃっくりをしながら酒を飲む。
その様子を見ていた圭太は戦況を見て不利と判断。時間ももう夜10時。今からならみんな寝ているし、部屋に戻っても酔っ払いは気付かないだろうと踏んで、そろそろと部屋を出ようとしたときだ。
「圭太ぁ!!」
「圭太しゃん!!」
無情にも、敵に発見されてしまう。諦めた圭太が振り返ると、そこには明らかに不満そうな由美と翔子が・・・
「圭太ぁ?あなた、もっと飲みなさい!!」
「ちょっと由美・・・目を覚まして・・・!!」
「目なら覚めてるわよ!目覚めきってるわよ!!」
ワケのわからんことを口走りながら迫る由美。そしてそれに気を取られているときだった。
「すきありー!!」
「むがっ!!」
いつの間にか背後に回っていた翔子に日本酒の瓶を突っ込まれた。突然喉を焼くようなアルコールの感覚に、意識が遠退くのを感じながら圭太は思った。
次からは絶対に美春さんのカバンをチェックしよう・・・
そこで意識が途絶えた。
その後、由美と翔子は眠った圭太の鼻のしたにイカゲソの足を乗せてひとしきり笑った後、さらに飲み比べを敢行。最後の缶ビールを飲み切ると、2人は崩れるようにしてソファーに倒れると、そのまま抱き合って深い眠りについた。
「ようやく寝たかよ・・・はぁ」
その様子を、廊下の影から見守っていた旭がほっとした様子で呟いた。旭は美春が嘔吐した後の処理やらなんやらで戻るのが遅れ、難を逃れたのだ。
「ったくよぉ・・・今度からこのバカにしっかり言い聞かせっからよ、許せ圭太」
言いながらとなりで幸せそうないびきを掻きながら眠る若干ゲロ臭い美春を見る。ちなみに頭にはでっかいたんこぶがオプションされている。旭のげんこつが酔っ払った美春に炸裂したのだった。
「・・・寝るか」
そして旭も壁に寄りかかると、臭う美春を少し離してから眠ることにした。
翌朝。
まだ日も上がり切っていない午前4時。新聞配達のカブの音で千尋が目を覚ました。
「ふぁーあ・・・頭が痛いよぉ・・・」
目をこすりながら辺りを見渡す。そこは屍累々の世界だった。真子と凛が近くでひっくり返り、洋介と紗耶香もうつぶせになっている。立ち上がって辺りに散乱する酒瓶や空き缶に注意しながら歩くと、ソファーで抱き合いながら幸せそうな表情で眠る由美と翔子。そして・・・
「なにこれ・・・イカ?」
圭太の顔を見て疑問符が浮かぶ。しかし千尋はこの惨状を見て昨日何があったのか、何となく理解した。
「あ、そうだ」
何かを思い出して、ニコニコしながら自分のカバンからなにかを取り出して圭太の胸の上に置いた。
「誕生日おめでとうございました!」
かくして、圭太の18回目の誕生日は終わった。
朝、全員が目を覚ますと部屋の掃除から始めた。ちなみに、主犯の美春、翔子に酒を飲ませた凛、そして翔子の頭にはたんこぶがオプションされた。凛と翔子には真子から一発ずつ。そして美春の頭には旭の他に由美や真子のげんこつの分。そして、圭太からも軽く一発もらった。
その後美春は
「もうお酒は飲みません。迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした」
と、真面目に謝罪。敢えなく御用となった。
ちなみに、千尋からの誕生日プレゼントはクッキーだった。
そしてみんなが帰った後、由美はプレゼントを渡すことを決意した。
「ごめんなさい・・・真子さんのと同じになっちゃった上、あんまり良くない出来になっちゃって」
「そんなこと無いよ、ありがとう!食べてみてもいいかな?」
圭太がたずねると、由美は「もちろん!」と言った。
圭太は一口、口に入れてみた。そして噛み締めるように食べると
「うん、美味しいよ!ありがとう」
ニッコリ笑う圭太。由美は嬉しくなって顔を少し赤くさせながら
「改めて、誕生日おめでとう!!」
未成年の飲酒喫煙は禁止されています。(笑)
今回のお話、やはり酒好きの私はパーティ=お酒なので、こういうお話になってしまいます汗
ちなみに、飲酒運転はご法度です!飲んだら乗るな、当たり前です。
そして!!ついに今回で40回目の更新になりました!!
これからも『旧車物語』を宜しくお願いします!!