第4章 初ツーリング!(後編)
あれから時間にしたら10分くらいで目的地「宮瀬ダム」に着いた。
この当たりにはダムで水貯めしているので小さな湖がある。そして山もあって静かな場所で広い二車線の道路は車通りが少なく、道も最近綺麗に舗装しなおされ始めていてだんだんではあるが走りやすい環境になっている。地元のライダーが少し息抜きに、しかし遠出するほどの距離は辛いという人たちがよく訪れる場所である。
圭太と由美はしばらくそこの入り口で待っていた。約束より10分早く来てしまったので、旭達を待つばかりだ。
しばらくすると遠くから2スト特有の甲高い音が2台ぶん聞こえてきた。道路の向こうを見ていると、2台のバイクが白煙をもくもく上げながら近づいてきた。
そして目の前に止まった2台のGT380、通称サンパチは最後にアクセルをフカしてエンジンを切った。
「よう、待ったか?」
2台あるサンパチのうち、赤いサンパチに乗っている旭がヘルメットを脱いで聞いてきた。
「いえ、さっき来たばかりです」
圭太が答えると由美が耳元でささやいた。
「け、圭太、この人?」コソコソ
「え?うん」コソコソ
「不良から助けられたって聞いたけど、向こうも不良じゃない!」コソコソ
まぁ確かに、ヘルメット脱いだら横浜〇蝿のJohnnyみたいなのが出てきたらそりゃあ怖いだろう。翔のほうが怖そうだけど。え?知らない?
「なーにコソコソしてんだよ」
ギクッ!!
「ま、理由はわからんでもないがな」
笑いながら答えた旭に、由美は第一印象で人を決めてしまった自分を反省した。これだけだが、話せばいい人じゃないか。
「あ、私は三笠由美です!昨日は圭太を助けてくれたみたいで・・・ありがとうございました!」
そう言って頭をペコリて下げた。
「気にすんな、そんなんしょっちゅうだからよ」
そんなことを言いながらタバコに火を着ける。なんか大人っぽい姿が似合う人だと由美は思った。
「そちらの方は?」
由美が聞くと、青いサンパチに乗っていた美春がヘルメットを脱いだ。
「はじめまして、私は真田美春!ちなみに旭の彼女ね!」
そんなことを言われて、旭ははずかしがっている。頬をポリポリ掻きながらそっぽをむいている。こういう子供っぽい仕草もどこか似合う。しかし、それより・・・
「・・・き、綺麗ですね・・・」
美春の胸と顔を見て、由美はため息をついた。実際、顔は美春に負けず劣らずな由美だが、いかんせん胸が無い。
特別胸があるわけではない美春だが、由美の胸はまな板までいかなくても、あまり無い。山で例えると美春が富士山なら由美はさながら高尾山くらいだ。
「そ、そんなことないよぉ!あとさっきからどこ見てるの!?」
焦りながら胸を隠す美春。つーか隠すことないだろ、服着てるんだから。
「いーなー、私なんか無いからなぁ・・・少しくらい分けてくださいよぉ・・・」
もしそれで「はいどうぞ」ってヤナセワールドのキャラクターみたいに胸を分けられたらどーするつもりだ。
「おーい」
2人で話していると、話の輪に入れない男2人がどこか恥ずかしそうな顔をしてそっぽを向いていた。それに気付き、由美たちも真っ赤に。
「しかし、由美ちゃんの単車もイイ感じのイジりかたしてるよなぁ」
そういって、旭は由美のバイクに目を向けた。
「まさかゼファー改FX仕様とは、シブいなぁ」
由美と圭太は驚いた。このゼファーを買うときに由美は最初気付かなかったし、FXに乗っている圭太も違和感を感じていただけなのに、旭は一目で正体を見破ったのだ。
「よくわかりましたね!」由美が感動して拍手しながら聞くと旭は笑いながら話した。
「いやぁ、旧車とか好きだとこーゆーのが普通に出来てくるんだよ」
そう言ってタバコを捨てた。
「ゼファーとFXじゃ、エンジンとフレーム、特にフレームは全然違うからな。詳しい奴はサイドカバーの下見ればすぐにわかるよ」
「フレーム?」
旭がゼファー改FX仕様の簡単な見分け方を説明すると、由美がよくわからないと言った顔で聞いてきた。
「判り易く言やぁ、単車の骨組みだな。バイクの基本的な性格はこのフレームで決まると言ってもいいが・・・まぁ難しい話はまたの機会にしよう」
そう言って旭は自分の愛車、GT380の横に立って、ハンドルに引っ掛けていたカフェヘルを被った。
「よし、立ち話もなんだからでっ発すっか!!」
「でっ発?」
圭太がわかんない顔をしていると旭が「あぁ、俺たちの間で出発のコトだ」と説明して、由美が「あぁ、なるほど」と納得した。
4人はそれぞれのバイクにまたがり、エンジンを掛ける。
由美と圭太はセルで掛けるが、旭と美春のサンパチにはセルなど付いてなく、キックを使ってエンジンを掛ける。
ばぁん!!バリバリバリバリ・・・!!
こんな感じのカミナリみたいな音をたてる。
「あんまり俺たちの後ろ付いてくると白煙とオイルまみれになるから、前に出るか横にズレた位置にいてな!単車汚れちまうからよ!!」
道は一本道だから先頭を走っても問題無いが、やはり初めて来る場所だし、初心者なので旭達に先行してもらうことにした。
2台のサンパチは、白煙と爆音、目には見えないがオイルも撒き散らして走りだす。後に圭太と由美が続いた。
走りはじめて数分、由美が圭太の横にならんで叫んだ
「なんか自然が綺麗な場所だね!!」
ニコニコ顔で叫ぶ由美に圭太も叫ぶ。
「そうだけど、あんまりよそ見しちゃダメだよ!!」
そんなこんなで、しばらく走るとダムが見えてきた。ここで、先行交代。旭と美春が圭太達の横に並び、『先に行け』と指でジェスチャーする。
それを見て、由美が真っ先に飛び出し、圭太が後を追った。
4台はランデブー走行を楽しみ、時折目をあわせたりして楽しみながら走っていた。
突然、旭のサンパチがギアを落として加速していった。追い掛けようかと思ったがやめておいた。事故したら大変だし。
真っ直ぐ走っていると、旭がエンジンをかけながら止まってまっていてくれた。
その後、後ろに回った旭がまた横に出てきた。今度は何をするのかと思っていると、いきなり前輪を持ち上げウィリーを始めた。しかも鬼ハンドルでの荒技だ。
そのまま後輪だけしか使わずに加速していき、しばらくしたら前輪を下げてウィリーをやめて減速、圭太の横にまたならんだ。
「すごーい!なんであんなこと出来るんですかぁ!?」
由美は興奮した感じで旭に叫ぶが、旭は答えず手だけ振った。
しばらく走ると、さっきと違うファミレスが出てきた。
旭のサンパチのウィンカーがチカチカ点滅して、ここに一旦寄ることになった。
「いやぁ、今日は天気も良くてサイコーだな!!」
ファミレスに入った4人は、さっきと同じように窓際のバイクが見える位置に座って飲み物を飲んでいる。
「でも、なんであんなウィリーが出来るんですかぁ?」
由美が興味深々に聞いてくる。
「ああ、ありゃ偶然だ」
そんなあからさまな嘘を言う旭を不満げな顔で由美が見る。
「教えてくれてもいいじゃないですかぁ、ケチ〜」
まぁ、教えなかったのは由美にケガされたくないという良心が働いたのもあるが、圭太の目が「教えないで」と言っていたからでもある。
「でも、ここから見てもやっぱり旧車4台集まると大きいわね」
美春がコーラを飲みながら言う。ちなみに旭もコーラで、由美はメロンソーダ、圭太はウーロン茶だ。
「正確には、私のゼファーは旧車じゃないけどね」
由美が笑いながら言う。
「でもゼファーも初期型がもう20年前だろ?ありゃあ初期型ベースだから立派な旧車だよ」
旭が言うと、由美が笑いながら「ありがとう」と言う。
「でも、旭さんや美春さんみたいに私のゼファーちゃんも改造したいなぁ・・・」
由美がそんなことを言うと圭太が「えぇ?」と言った。
「外装もFX仕様でマフラーも変わってて、他にどこをいじるのさ?」
圭太の質問というか疑問に旭が答えた。
「単車なんてのは、イジりだすと止まんないよ。外装やってマフラーやって、エンジンやったら足回り。その次はフレームも強化したいしってなっていくんだよ。」
由美が「へぇ」と感心する。
「じゃあ、旭さんも結構イジってるんですか?」
圭太が二杯目のウーロン茶を飲みながら聞いてきた。
「いんや、オレと美春のサンパチはチャンバー変えてシート変えただけだよ、オレだけハンドルが鬼ハンだけどな」
「チャンバー?」
由美の疑問符に、旭は「判り易く言えば、マフラーだよ」とコーラを飲み干し答えた。
「えー!じゃあなんであんなバリバリ音するんですか?私たちのバイクはマフラー変えてるけどあんな大きな音出ませんよ〜」
由美のアヒル口の不満顔での質問に、今度は美春が答えた。
「理由は2つ。エンジンの構造の違いと、あとはマフラーのサイレンサーよ」
「どーいうことですか?」
由美の質問に、美春は「こほん」と先生のように咳払いをしてから答えた。
「あなたたちのバイク、FXとゼファーはクルマのエンジンと同じ4ストエンジンって言って、ガソリンだけを燃やして走るエンジンなのよ。それに対して、私とあっくんが乗るサンパチは2ストエンジンって言って、ガソリンに加えてオイルも燃やして走るの。だから私たちのサンパチは白煙を吐きながら走るの。まぁ、白煙の量はセッティングとオイルの種類によるけどね、それと4ストエンジンにはバルブっていう部品があるんだけど、2ストにはバルブがなくて、ピストンがバルブの役割も果たすから、甲高い音が出るの。」
「お前、いつの間にそんなに勉強したの?すげーな」
旭に誉められて美春は「エヘヘ」と笑いながら続ける。
「ちなみに、マフラーの音はあなたたちのはサイレンサーが入っているから小さいのよ。」
「サイレンサー?」
「消音器のこと。後で試しに抜いてみたら?すっごい音がするんだから!」
「わ、本当ですか?ありがとうございます!」
頭を下げる由美に対して、美春が「いやいや、頭をあげてよ」と言う。
「後、私に対しては別に敬語抜きで良いわよ?ね、あっくん!」
「いや、なんでもいいけどその呼び方はやめて、恥ずかしいから」
がががががーん!!!
音にしたらそんな衝撃が美春を襲った。
「それと、美春の言うことはだいたい合ってる。ただ、4ストもオイルが燃える時もある。まぁ、その時はエンジンの調子が良くない壊れてる時とかだけだが・・・。あと、長いあいだオイルを変えてないと白い煙が出るから、そしたらすぐに変えな。あと、・・・」
「あ、旭さん!!美春さんが泣きそうな顔して撃沈してますよ!!」
圭太の言葉に美春を見ると旭をあっくんと呼ぶのをやめてと言われたコトと、頑張って覚えた知識にダメ出しされ、美春が撃沈されていた。時折、「頑張って覚えたのに・・・」とか「どーせバカですよぉ・・・」とか「あっくんって呼んじゃいけないなんて・・・」とか小さく聞こえてくる。
「で、でも単車に乗って数ヶ月のヤツにしたらすげーよ!天才だよ!うん!」
旭が慌てフォローすると、美春は顔を上げて「え・・・?」って反応した。
「うん!マジでよぉ!オレなんかそのくらいのときなんかなんにも知らなかったぜ!!」
圭太と由美は心の中で「ウソだぁ」なんて思ったが、美春はだんだん笑顔になってきた。下から上目遣いで「本当・・・?」とか聞いてる。
圭太と由美はまた心の中で「この人いちいち仕草が可愛いなぁ」とか思いながら見ていた。
「あぁ、本当だって!!なぁ!?」
圭太がいきなり話しを振られた。
「え、うん。そうですよ!僕も全然わかんなかったし、今のお話でよくわかりましたから!」
圭太のフォローもあり、美春は「ありがとう」と礼をいった。
「だろ?お前すごいよ、うん」
旭がもう一度言うと、完全に機嫌を直したのか、美春は復活した。
「やっぱりあっくんは優しいね!」
やはり呼び方は変わらず、旭は恥ずかしそうにしていたがここでまた「その呼び方はやめろ」って言ったらまた撃沈するだろうからなにも言わなかった。
そんな2人をみて由美笑った。
「旭さん、パッと見怖いけど美春さんといると優しそうですね」
笑いながら言う由美に旭が「ん?」といいながら話しを続ける。
「なんだと〜、せっかくゼファーのパーツが家にあるからあげようと思ったのにそんなこと言うと上げねーぞ?」と言うと、由美が身を乗り出してきた。
「え?ゼファーちゃんのパーツあるんですか!?」
「あぁ、ウチには結構いろんなバイクのパーツが転がってるんだ。みんな俺ん家にパーツ置いていくから、増えてて逆に困ってるんだ。」
旭の説明に、由美はテーブルに頭までつけて謝りはじめた。
「ごめんなさい!だからゼファーちゃんの部品、使えそうなの分けてください!!」
かなり真剣に謝りまくる由美を見て、旭がケラケラ笑いだした。
「はっはっは!冗談だよ、冗談!いいよ、ウチ来るならあげるよ。」
「本当!?」
今日何度目かのハイテンションに、圭太が「おい由美」と止める。
「なによー、ゼファーちゃんのパーツ貰えるのよ!?」
「いや、それはいいんだけど」
そういって辺りを見るようにジェスチャーした。
周りの人が盛り上がってるこの席をかなり見ていた。いくら空いていても、かなり目立っていたらしい。
由美が小さな声で「し、失礼しましたぁ・・・」と言いながら席に座った。
「ま、とりあえず帰りにウチ寄っていけよ。そしたら確か外装とかマフラーとかその場で付けれそうなパーツあるからよ」
旭の提案に由美は「はい!」と答えた。
こうして、今日旭の家に寄ることが決定された。
バイク紹介&自慢広場!
作者「このコーナーでは、登場人物に自分の愛車をを紹介してもらいます!2人目は主人公の三笠由美ちゃんです!!」
由美「え!?なにここ!?つーかアンタ誰!?」
作者「いちいち面倒だなぁ・・・ここは夢の中みたいなもので、私は進行役で、あなたは愛車を紹介してくれればいいんですよ~」
由美「なんだこの人・・・まぁいいわ!夢とは言え、私はゼファーちゃんを紹介できるなら誰でもいいわ!!例えあんたみたいなのでも!」
作者「お~、なんか最後気になったけど、物分かりがよろしくて助かるなぁ。圭太君はなんかノリ悪かったし」
由美「え!?圭太も来たの!?」
作者「きましたよ~、ノリ悪かったけどネ」
由美「あ~、圭太はこういうアピールできる場所で弱気になっちゃうからねぇ」
作者「あなたはある意味図太すぎるけどネ・・・」
由美「なんか言った?」
作者「いえ?なにも?それより愛車自慢宜しく!」
由美「なんかムカつくけど・・・まぁいいわ!これが私のゼファーちゃんよ!!」
KAWASAKI ZEPHYR400改 由美仕様
スペック
エンジン 本体ノーマル 吸排気系は手曲げショート管のみ
足回り ノーマル
外装 ドレミ製Z400FX仕様キット
色 レッド(ソリッドカラー)
作者「おぉ、なんかシブい仕様だねぇ」
由美「最高でしょ!?こんなにカッコイイ子はいないわ!!」
作者「ドレミのキットっていうのがイイね」
由美「何言ってんの!?全部最高よ!!」
作者「ははは、こりゃ完全に親バカだ」
由美「親バカ上等!あ~、カッコイイ・・・」
作者「じゃあ、次イジるとしたらどこをイジるの?」
由美「ン~・・・そうね、とりあえず今はまだこのままでいいわ!強いて言えば前のタイヤの上についてる銀色の奴を赤いのに変えたいわね」
作者「ほ~、フロントフェンダーか」
由美「そうね。ところで・・・」
作者「なんですか?」
由美「紹介も終わったし、そろそろ帰ってもいいんじゃない?」
作者「あ、そう?わかった~。またそのうち呼べたら呼ぶよ」
由美「別にいいわよ、呼ばなくても」
作者「そんなこと言うなよ!結構苦労してるんだぞ!?」
由美「知らないわよ。そんなことより早く帰してよ!」
ゴスっ!!←足首を思い切り蹴られた音。
作者「痛っ・・・!わかったよ!じゃーね~!」
がばっ←起きた
由美「あ~・・・もう朝かぁ・・・」
というわけで、今回は由美編でした!
ご意見ご感想お叱りの言葉!いつでも受け付けております!それでは!!




