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旧車物語  作者: 3気筒
39/71

第39章 誕生日会!!前半

 学校の埃臭い教室。今日も空は曇っている。圭太は今日この後のコトを考えながらぼーっと空を見上げた。

 今日は待ちに待った(?)誕生日会である。自分もとうとう18歳なのかと思うと時の流れの早さに驚くばかりだ。特にここ数ヶ月はいろいろなこともあり実に早く過ぎさった様な気がする。

「早いなぁ・・・」

「どうしたのよ?」

 1人呟くと、由美に話し掛けられた。

「いやさ・・・時間が過ぎるのは早いなぁってね」

「そうねぇ・・・特に楽しい時間なんてあっという間よね・・・」

 何かを悟ったように由美がため息混じりに言う。そして机の上を指した。

「この課題も早く無くならないかしら・・・」

「頑張らなきゃ無くならないよ」

 由美は一際大きなため息をついた。



 そして放課後である。

 教室は部活に出る生徒や自称帰宅部の生徒達で騒がしくなる。圭太と由美はとりあえず教室から出ると下駄箱に向かった。

「さぁ今日は楽しむわよ!?なんて言ったって圭太の誕生日だしね!!」

「あんまり暴れないでよ?」

「失礼ね、私は暴れないわよ」

 誕生日会は圭太宅にて行われる予定なのだ。実は圭太の家は結構広いのだ。

「今日は親もいないから自由にやってもいいけど、ほどほどに・・・」

「え!?今日圭太のおばさんとかいないの!?」

 まだ話ている途中で由美が割って入る。

「うん。母さんと父さんは仕事みたいだよ」

 ちなみに自分の息子の誕生日なのに仕事を優先しているわけではなく、どうしても抜けられなかったらしい。昨日家族だけで誕生日を祝ったコトを伝えると、由美はふーんと言ってぶつぶつと呟き始めた。

「家族がいない・・・美春ちゃんめ・・・次はチョークスリーパーで・・・」

 よくわからないが圭太は聞かなかったことにした。

 そのまま学校での生活や今日の誕生日会の話をしながら帰路についた。いつもと変わらぬ通い慣れた通学路。下り坂を歩く2人はまるで恋人のようだ。由美は内心満足顔で圭太との帰宅を楽しんでいた。この時までは・・・



 ブァッパァァァァア!!!


 クァンクァァン!!バリバリバリバリ・・・



 会って日もそんなに経っていないのに、すでに聞き慣れすぎたそのサウンドを発する派手なバイク2台が坂の下に停まりっていた。しかし下校する途中の生徒の視線を釘付けにしていたのはバイクでは無く、そのバイクに跨がるライダーである。

 1人は美しい長髪をなびかせ、革ジャンが大人な雰囲気を放つ女性でもう1人はポニーテールで不敵な笑みを浮かべる、髪型の割にどこかボーイッシュな雰囲気を纏う少女。

 確かに女性が派手なバイクに乗っていれば目立つが、しかし下校中の生徒(特に男子)の視線を掴んで放さないのはそれに加えてその2人が結構・・・いや、かなりの美人だからだ。思春期の男子のねっとりした視線を浴びるがそれすらも気にしない女性と、嫌そうにしている少女が坂を下ってきた圭太達を見て手を振った。

「やぁ圭太君。迎えに来たわ」

「遅ぇぞ2人共!!」

 赤城真子と赤城凛がそこにいた。

「あれ?2人共・・・なんでこんな所に・・・」

 圭太が不思議そうにたずねると真子はさもアタリマエのように言った。

「今日は圭太君の誕生日・・・なら、こんな日くらい私が迎えに来てもいいでしょう?」

「え・・・どういう・・・」

「ちょっと真子さん・・・?」

 意味のわからない返答に文字どおり意味のわからないと言った感じで返す圭太を遮り、由美が割って入る。

「なんでこんな場所に?集合は確か18時からだったと思うんだけど?」

「えぇそうね・・・ただ歩いて帰るより、こんな日はバイクに乗ってひとっ走りした方がいいかと思ったのよ」

「あらそう・・・でもそれなら大丈夫よ?私達にもバイクがあるんだから、そんな気づかいはいらないわよ真子さん・・・?」

 2人の距離は離れたままだが、睨み合っている。その視線の間にだけ入っただけで別世界に飛ばされそうに空気がよどんでいる。

「ならこうしよう・・・私達が圭太君とあなたを家まで送ったら、時間に余裕があるまで走りに行きましょう?」

「えぇ、それならいいわよ・・・?」

 不敵に笑う2人を見て、圭太がおずおずと手を上げた。

「でもなにかと準備とか・・・まだ飲み物とかも買ってきて無いですよ?」

「言わなかったかしら?今日は各々がプレゼントを含め有志で食べ物や飲み物を持ってくるのよ?」

 由美が言った。今日は楽しい誕生日会。しかしただでさえ大人数が家に上がるだけでも大変なのに食べ物や飲み物を用意させるのは悪いと先日決まっていたのだ。

「ならいいけど・・・」

「話はまとまったみたいね。なら早く行きましょう?圭太君は私の後ろで・・・」

「ちょっと待ちなさい・・・」

 ずいっと真子の前に出る。

「なんで圭太が真子さんの後ろに?凛ちゃんの後ろでもいいじゃない」

「凛の荒い運転の後ろに圭太君を乗せるなんて危険な真似、させられるワケ無いじゃない」

「それって私なら危険でも良いって言うことかしら?」

「・・・・・・ぴゅい〜♪」

「無視するなぁ!!」

 完全無視を決め込み口笛を吹き出す真子に由美がツッコミを入れる。2人のやり取りを端から見ている凛はなんだかやるせなくなった。

「あの、姉貴?オレの運転てそんなに・・・」

「危ないわよ」

「危ないわね」

 真子と由美に間髪入れずに言われる。別に全然ヘタでも無いしむしろ運転歴では由美よりも長いし上手い。が、今ここで文句を言うほど凛はバカじゃ無い。もしここでそんなコトを口走れば、真子のどS魂に火を付け、由美の闘魂が唸るのは目に見えている。まぁぶっちゃけ由美のはたいしたこと無いのだが・・・

「じゃあ公平にじゃんけんにしない?僕はどっちでもいいんだけど由美が真子さんの後ろに乗りたいなら・・・」

 ここに来てやっと圭太が口を開いた。まぁ2人が揉めている理由はこれっぽっちも理解出来ていないのでタチが悪いが・・・

「そうね・・・じゃあじゃんけんで決めましょう?」

「じゃあ・・・最初は・・・」

「いや、圭太じゃ無くて私と真子さんで」

 いきなりすんどめを食らった圭太。普通乗せてもらう側がじゃんけんするのに、乗せる側とのじゃんけんになるようだ。

「手加減しないわよ・・・?」

「望むところよ・・・!!最初はグーっ!!」

「じゃんけん・・・っ!!」

 こうして、真子のリヤシートを賭けて由美と真子の勝負が始まった。









「どう圭太君・・・?この前は少ししか乗せられなかったけど、私のマッハは」

「やっぱり速いですね。発進から加速感がスゴいです。それにこの暴れるマッハを丁寧に運転するのは本当にスゴいですよ」

「ふふふ・・・怖かったら腰に手を回してもいいわよ?むしろ・・・」

「むしろ?」

「な、なんでもないわ・・・!」

 前には車がいない。マッハに乗る2人を邪魔するものは他にいない。後ろに流れる白煙は今の時代ではナンセンスだが、それは儚い青春の残す足跡のようにいつまでも後ろに続く。

 結局勝負は一度のあいこもなく勝負が決まった。真子は圭太を乗せて、それはもう幸せそうなにやけ顔でマッハを走らす。フルフェイスでなければ誰にも合わせられない普段のクールな真子からは想像出来ないニヤけ顔だ。

 一方・・・

「凛ちゃん!!前にいるバカを追い抜きなさい!!」

「ちょ、由美・・・!立つなって!バランスが・・・!!」

「そんなの知らないわよ!!スピード出して並ぶなりぶち抜くなりしなさい!!」

「イヤだ!抜いたら殺されるし並んでも殺される!!」

「あーっ!!信号赤になっちゃう!!離れちゃったじゃない・・・!!」

「由美っ・・・!く、首は絞めるな・・・!!ギブギブ・・・!!」

 信号で停まるバイクの上で首を絞める由美と絞められる凛を、通行人の男性が見て見ぬフリをして去って行った。









 こうして、真子に遅れること数分、凛のマッハは由美の家の前に着いた。真子はすでにエンジンを切ってシートに寄り掛かってぽーっとしてた。

「幸せだ・・・・・・」

「真子さん!?圭太になんかして無いでしょうね!?」

 由美が肩を掴んで揺さ振ると、真子はニヤニヤ笑いながらぼそっと言った。

「交差点て素敵ね・・・圭太君の腕が・・・」

「ごくっ・・・腕が・・・?」

 思わず生唾を飲み込む由美。そして真子から出た言葉は・・・

「ぎゅって・・・前のめりになった時・・・腰に・・・」

「な、なんですってぇ・・・!?」

 ズギャァァァアン!!由美に雷が落ちた。その場でうなだれる由美とぽーっとしている姉を見て、凛はため息をついた。

 それからすぐに部屋に戻ると、由美は着替えてバイクに乗る仕度をする。最後にグローブをはめてヘルメットを持って外に出ると、圭太のFXもすでに家の前にあった。由美はゼファーを道路に出しながら真子にたずねる。

「待ち合わせまであと2時間無いわよ?どこに行くの?」

「それだけ時間があるなら十分よ。街道を真っ直ぐ、高尾方面まで行きましょう?行って戻って、時間は余裕よね?」

「あ、それなら翔子ちゃんと合流も出来るわよね」

 どうやら高尾に行くのが決定したらしい。時間から見ても、まだまだ余裕があるし1人遠くから来る翔子と合流出来る。由美は翔子の家に電話を掛けると、高尾寄りの街道沿いにある唯一のコンビニの広い駐車場で待ち合わせを告げて電話を切った。

「じゃあ行きましょう?のんびりして遅刻したら大変だから」

 真子の合図に、4台のバイクが走り始めた。道が空いていたのですぐに街道に出れた。

 信号が変わり、真子のマッハが爆音を上げながらスタートして行く。それを見て、由美はむっとなった。

「負けないわよ・・・!!」

 ギヤを上げて、サード3500回転あたりから引っ張る。直管マフラーから雄叫びを上げながらゼファーがマッハに並ぶと、そのまま追い抜いた。

「どう!?思い知ったかし・・・っ!?」

 しかしすぐにマッハが前に出た。真子の涼しい顔がヘルメットのバイザー越しに見えた。カチン・・・

「絶対に負けないわよ・・・!!がんばれゼファーちゃん!!」

 さらにアクセルを開ける。快音を響かせマッハに追い付こうとする。が、遠くに見える信号が赤に変わった。由美達は減速してきっちり止まった。

「由美ちゃん、ゼファーも速いわねぇ。やっぱりこの中で1番新しいから乗りやすいわよね」

「そんな・・・真子さんのマッハも速いわよ、化石みたいに古いのに」

 バチバチバチ・・・!!

 比喩では無い。由美と真子の間で火花が散っている。後ろの2人が見ていると、信号が点滅を始めた。そして青になった瞬間・・・




 コァアアアアアアア!!!



 ギャワァァァァァア!!!


 猛烈なスタートダッシュで加速していく2台を、唖然としながら見つめるしか圭太達には出来なかった。









 時を同じくして、場所は街道沿いにあるラーメン屋、真田屋。真子と同い年なのにどこか子供っぽい少女が店の前を箒で掃いていた。

「この後楽しみだなぁ・・・♪今日は何を持っていこうかなぁ♪」

 真田屋の1人娘、真田美春が呟いた。ニコニコしながら箒で掃いていると、店の中からバンダナを巻いた少年が出てきた。

「おい、早く終わらせろよ?一回家に戻ってから行くんだからよぉ」

「任せてよぉあっくん♪」

 あっくんと言われた少年はため息をつくとバンダナを外した。すると現れたのはあだ名に反してイカツイパーマの掛かった見事なリーゼント。地元の不良で知らない者はいないと言われた霧島旭だ。

「オメェがサボりまくったから掃除してんだべが。とっととやれ」

「むーっ!サボってないよぉ、月刊マ〇ジンに夢中だっただけだよぅ!」

「それがサボりじゃなきゃなんなんだべ!?」

 言って、美春の特徴的な揉み上げを両方掴んで引っ張る。

「だってぇ、特攻〇拓が新連載で天羽で不運(ハードラック)(ダンス)っちまうんだよぉ!?」

「意味わかんねぇコト言ってねーでやれっつーの!」

「じゃあ手伝ってよぉ!!」

「何がじゃあなんだよ?1人でやれっつーの」

「あっくんのケチ・・・」

「なんか言ったかよ?」

 ボキバキ♪←指を鳴らした。

「な、なんでも無いよぉ♪1人だけどよぉ!頑張るからよぉ!!」

 マニアックなネタをしていそいそと箒を振り回す美春をため息しながら見ていると、遠くから聞き覚えのあるサウンドが響いてきた。

「この音ってよぉ・・・」

「ゆーちゃんとマコリンかなぁ・・・?」

 美春が歩道に出て確認しようと身を乗り出したその時、目の前の信号が黄色に灯っているのに突っ込んで来る2台のバイク。そして・・・



 コァアアアアアアア!!!



 ギャワァァァァァア!!!


「うわぁ!!」

 驚いて尻餅を付く美春。目の前をかっ飛んで行ったのは間違いなく真子のマッハと、少し遅れて由美のゼファーだった。

「なにしてんだアイツら?」

「こっちが聞きてぇよぉ・・・」

 旭が呟くと、後ろから呆れた声が帰ってきた。後ろを見れば、赤信号に引っ掛かった凛と圭太が呆れ顔で停まっていた。

「あっくん・・・よくわかんないけどなんとなくわかったねぇ」

「んだな・・・」

 旭達がため息すると、凛達もため息した。

「由美・・・大丈夫かな」

 圭太の心配そうな呟きだけがその場に残った。









「少し早く来すぎちゃいましたね・・・」

 それからしばらく時間が経ち、場所は街道沿いにあるコンビニ。かなりど田舎なのでこの辺りでは唯一のコンビニで、駐車場も広い。他に停まっているのはトラックとミニバンだけという空きっぷりが痛々しい。翔子はCB350Fourの前にあるクルマ用の輪止めに腰掛け、今日圭太の為に用意した誕生日プレゼントをアーミーバッグから取出して手に取った。

「喜んでくれればいいんですが・・・」

 そしてまたバッグに戻した。そしてバッグを確認する。今日持ち寄る食べ物や飲み物は予め買っておいたので問題無いが何か忘れていたら後で面倒なので一応確認したが、特に不備は無かった。

「少しコンビニで本でも読みますか・・・」

 1人呟くとコンビニに向かって歩きだす。その時、やはり翔子の耳にも覚えのある音が近づいて来た。翔子は回れ右をして街道を見ると、ふと疑問になった。

「少し・・・速すぎませんか・・・?あれ・・・?」

 そんな風に疑問を持った時だった。


 ギャワァァァァァア!!!



 コァアアアアアアア!!!


 目の前をよく知る2台が駆け抜けていった。赤いバイクが若干離されていたがかなりのスピードだ。

「真子さん!?由美さん!?」

 合流地点をブッチギリ、加速していった2台を見て思わず声を上げてしまった。どうしたらいいのかしばらく呆然としていると、ようやく2台がゆっくり戻ってきた。

「あー楽しかったわ!!真子さん、スゴい速いわね!!」

「由美ちゃんもなかなかやるわね。凛より速いんじゃないかしら?」

 ヘルメットを脱いで話す2人の顔は嘘偽りの無い純粋な笑顔だった。思わず固まる翔子。

「どうしたの翔子ちゃん?お化けでも見てるみたいな顔して」

「い、いえ・・・!そんなことは・・・!!」

 翔子は首を横に振るが、つい先日のコトを思い出す。あれだけ険悪ムードだった由美がこんなに爽やかな笑顔で真子と話している・・・

「じゃあ行くわよ翔子ちゃん!次は安全運転よ!!」

 由美に言われて、我に返った翔子はなにがなんだかわからないままCB350Fourのエンジンを掛けた。普段のペースで走る由美と真子が並んで楽しそうに何か話しているのを見て、翔子は頭のメモ帳に書き込んだ。

「一緒に走れば仲直り・・・と」




 しばらく走り、信号で引っ掛かった時に由美はそういえばとケータイを取り出した。そこには一件の電話とメールがあった。

『現地集合になったよ。あと、あんまりスピード出したらダメだよ?事故に繋がるから』

 そのメールを見て少しだけ反省。しかしなんだか安心して返信しようとすると信号が青に変わった。

「どうしたんですか?」

 横にならんだ翔子がたずねると、由美は笑顔で言った。

「早く圭太の家に行きましょう!」









 一方、圭太と凛は旭達とは一旦別れて先に圭太の家に来ていた。

「メール返って来たか?」

 一足先におじゃましている凛が椅子に座ってたずねると、圭太は台所から麦茶を2つ持って出てきた。

「返って来ないね。事故してなければいいんだけど・・・」

「大丈夫だって。あそこはずっとストレートだし、何より前が姉貴なら無理な運転しねーから由美もそれなりのペースで走ってんだろ」

 あれを無理な運転と言わないのか・・・圭太は若干呆れながら凛に麦茶を出した。

「サンキュー・・・しかしさぁ・・・」

 お茶を一口飲んでから凛が続ける。

「お前、実際のところどうなんだよ?」

「ん、なにが?」

「いやだから・・・由美と姉貴のことだよ・・・」

 いつも豪快な凛がボソッとたずねる。いつもと違う凛を見て、圭太はなんだろうと思いながら首を傾げた。

「仲良いんじゃないかな?たまに由美が暴走するくらいでそんなに心配することは・・・」

「いやだからさぁ・・・そうじゃなくて!!」

 ブンブンと腕を振り凛が遮る。全くこの男は空気が読めないのだろうか。いや、読めないんだろうなぁ・・・

「まぁいいや・・・アホらしくなってきた」

「???」

 呆れた顔で呟く凛を不思議そうな顔で見る圭太。一体自分は何かしてしまっただろうかと考えてみた。が、やはり特には思い当たらなかった。

「まぁいいや・・・そのうちなんとかなるだろ」

 凛が諦めた感じで言った。

 そんな感じでなんとなく会話が終わった時、タイミング良く玄関のインターホンが鳴った。

「誰が来たのかな?」

 圭太が玄関に向かって歩いていった。凛も居間から顔だけ覗かせて見ている。圭太がドアを開けると意外な組み合わせの2人だった。

「よぉ圭太!誕生日祝いに来たぜ!!」

「おめでとう!」

「ありがとうございます!洋介さんに千尋ちゃん」

 すると洋介がはっはっはと笑いながら圭太の肩を叩いた。

「今日は良いモン持ってきたからな!まぁモノがデカイから今は外に置いといたけどよ」

 見てみれば圭太のFXを停めている車庫の中になんだか縦に長い段ボールが鎮座していた。

「まぁ見てからのお楽しみっつーな」

「楽しみですけど、いいんですか?貰ってしまって」

「どうせオレには使えないし、手に入れた時もタダ同然だったしな」

 なんだか気になるが、今はとりあえず2人を家に上げた。

「おじゃましまーす」

 千尋が律儀に挨拶をしながら入った。

「2人の組み合わせって珍しいんじゃねーの?」

 先に居間にいた凛がたずねると、洋介が「そんなことねーって」と言って笑った。

「千尋ちゃんは昔からちょくちょく面倒見てたしな」

 洋介の言葉に、圭太は少し前にあった出来事を思い出した。旭が千尋を突き放していた時、美春と洋介が旭に隠れて相談に乗ったりしていたことがあると美春から聞いたことがあった。

「でもバイクの音聞こえなかったけど、歩きか?」

 どーでも良さそうに凛がたずねる。確かに、洋介の愛車であるヨンフォアの音は聞こえなかったし、前に見たときはリア周りが全バラされていて走れるような状態では無かった。しかし洋介の工場からここまで徒歩で歩くとそれなりに掛かる。すると洋介は種明かしとばかりに2人を外に連れ出した。

「あれ・・・?このバイクって・・・」

 そこにあったのはどこかで見たことのあるバイクだった。赤いフレームに7色ラメの入った外装、当時モノ短風防にピヨピヨ、そして真白い墓石3段ロングの背もたれにある金剛力士像の刺繍・・・

「確か長良君の・・・」

 地元の族グループ、南部連合の頂点に君臨する男・・・長良賢のGS400Eだった。

「あれ?圭太って長良に会った時あったのか?」

「はい、俊一さんに会った時に少し・・・」

 伊勢俊一が帰ってきていたのは知っていたが、その時圭太が長良とわずかながらだが顔を合わせていたのを知らなかった洋介は驚いた。

「まぁ長良にしても俊一にしても良い奴だからさ、また会ったら仲良くしてやってくれよ」

「こちらこそですよ」

 1台のコテコテの族車を囲んで笑う2人。そんな2人を見ていた凛はワケがわからずたずねると、圭太はとりあえず説明してみた。俊一と言う洋介達の親友(悪友?)がいること。このバイクがこの街を走る暴走族のリーダーである長良賢と言う男の物であること、全てを説明すると凛は「ふーん」と言った。

「まぁなんだかわかんねーけどさ。それよりなんで洋介がその長良ってヤツのバイクに?」

 すると洋介はふっふっふと笑いながらポケットからクリップで留めてある紙束を出した。

「GSのパーツ代のツケが貯まってな・・・それをカタに借りてきたワケだ。まぁそれは建前でな、別に催促したりはしてねーしある時にちょくちょく返すでかまわかなったんだけどさ、イジメたくなってさ」

 ケラケラと笑う洋介。2人が額面を見るとそれはゼファークラスの中古車なら余裕で買えてしまうほどの額だった。

「・・・圭太、さっきの段ボール返した方がいいぜ・・・」

「あの、洋介さん・・・さっきの段ボール・・・」

「だーから!!あれは関係ねーっての!!」

 ビビリながら段ボールを指さす2人を、洋介は笑った。

「まぁとりあえずこういうワケだ。吸い込み爆音だから近所迷惑だし途中でキーを切って押してきたんだ」

「で、私が段ボール持って後ろに乗ってきたんだよ」

 ここに来るまでの経緯を説明し終えた洋介と千尋。とりあえず圭太の父親が仕事で使っていなくなっているクルマの空きスペースにGSを置いてから部屋に戻ろうとした時、外からまた新たな音が響いてきた。



 カーーーン!!バリバリバリバリ・・・!!



「よぉ!待たせたな!!」

「けーちゃんやっほー♪」

 キャンディレッドのB4ラインの外装にコロナのタンクバックがシブイGT380に乗った旭と美春がやってきた。近所迷惑を考えエンジンを切って押してきた洋介のような気遣いなど無く、ショットガンチャンバーからチーム内で1、2を争う爆音と白煙を撒き散らしてやってきた。

「ちゃんとプレゼント持ってきたからよぉ、あと飯な」

 サンパチを停めると、旭がタンクバックからビニールに入った何かを取り出して笑う。その後ろにはなぜか鍋を持ちリュックを背負う美春が笑顔で立っていた。

「ありがとうございます旭さん、美春さん!」

「ところでそのでっかい鍋は?」

 凛が不思議そうにたずねる。が、鍋から匂う香りは間違いなく香辛料。

「何って・・・カレーだお?」

「だおって・・・それ持って後ろ乗ってたのか?」

 呆れながらたずねると、美春は「もちろん!」と胸を張って言った。白煙と爆音を撒き散らすGT380にカフェヘルを被る2人は絵になるが、後ろに乗る美春はカレーの鍋を持っている・・・その姿を想像して一同は笑った。

「そういやぁ由美ちゃんと赤城長女はまだ帰ってこねーんかよ?」

 旭が圭太にたずねると、圭太は首を横に振る。

「まだ帰って来ないんですよ。それに連絡も無くて・・・」

「アイツらもしかしてあのまんま山梨まで行ってんじゃねーか?」

「なんの話してるの?」

「どうしたんだ?」

 由美と真子が街道でバトル(?)になったのを知らない千尋と洋介がたずねる。またまた圭太が事情を説明すると、とりあえずみんな圭太を見てため息をついた。

「え・・・?なんですかそのため息・・・」

「ゆーちゃん・・・ファイトだよ」

「姉貴もだ・・・」

 美春と凛が顔を合わせて呆れた。

「姉妹と言えばリンリン、サヤリンは?」

「そのあだ名止めろっての・・・紗耶香はさっき連絡来て、もうすぐ着くってさ」

 本来ならば由美達と翔子と合流した後で紗耶香も合流する予定だったが、予定が狂ってしまい紗耶香は直接こちらに向かうことになったのだ。

「まぁさ、こんなとこで立ち話もなんだしよ。先に入って準備なりなんなりすんべ?」

 旭の提案によって一同は圭太の家に入っていった。









「まずいわね、少しペース上げないと間に合わないわ」

 もう圭太の家まであと一歩の所で信号に引っ掛かった。真子が腕時計を確認するとあと10分。

「まだ大丈夫じゃないかしら?ここまで来ればあとはもう少しよ?」

 由美が進言する。ここから圭太の家まで、バイクなら5分掛からない場所である。信号が変わり走り出すと真子が先頭に躍り出た。

「あれ・・・?前にいるのって・・・」

 翔子が前を見ると、真子の先を同じように白煙を吐きながら走るバイクを見つけた。向こうも気付いたようで減速。こちらに並んできた。

「真子姉さん!由美さんに翔子さんも!」

「紗耶香ちゃん!」

 肩掛けのカバンを付けた紗耶香と偶然合流した。

「凛お姉ちゃんから聞いたよ?真子姉さん、由美さんと競争したんでしょう?」

 真子の隣にならんでしらーとした目で見つめる紗耶香。

「いや、別に競争と言うほどでは・・・」

「ダメだよ?もう・・・真子姉さんや旭さん達は少しズレてるんだから、危ないことしたら」

「い、いや・・・でもだな・・・」

「言い訳しないの!!」

 しどろもどろな返事をする真子に紗耶香が喝を入れる。

「真子姉さんのペースに付き合って事故なんか起こしたら大変なんだよ!?もう!!」

「す、すまない・・・」

「な、なんか紗耶香ちゃんが怒ってるわね・・・・」

「珍しいですねぇ・・・」

 紗耶香の貴重な怒りシーンを見て、ひそひそと話す。まぁ途中合流のはずが急に無くなり時間もタイミングも狂わされたあげくに姉が危険行為をしたとあっては怒るのも無理は無い。人見知りは凄いが姉妹の中では1番常識人の紗耶香は走りながら姉に説教をし続けた・・・







「ふぅ・・・やっと着いたわね」

 圭太の家の前に着き、やっと一息つく一同。が・・・

「・・・・・・」

「はぁ、真子姉さんももう少し周りを見れたらいいのに・・・」

 妹による説教が堪えたのか、だんだん元気を無くす真子がいた。

「紗耶香さんってもしかしたら1番怖いのかもしれませんね・・・」

「そうね・・・まぁたまには良い薬よ」

 そう言うと、由美と翔子は由美の家の前に愛車を置き、バンドルロックとワイヤーでバイクを繋いだ。真子達も説教をほどほどに圭太の家のガレージにバイクを入れた。

「じゃあ今日は楽しみましょう!?」

「圭太君の誕生日・・・こっちがドキドキしてきた・・・」

「プレゼント・・・喜んでくれますかねぇ・・・?」

「心配しなくても大丈夫ですよ翔子さん!」

 期待に胸を膨らませる。そして4人を代表して、由美が玄関を開けると、そこには仲間達が温かく迎えてくれた。

「遅かったじゃねーか姉貴!」

「事故んなかったかよ?かなりスピード出てたべ?」

 凛と旭が言うと、由美と真子は苦笑いしながら頭を下げた。

「うわぁ・・・もうこんなに準備出来てるんですか?」

 翔子がテーブルに並ぶ各自持ち寄った食べ物や飲み物を見て感心した。誰が持ってきたのかピザやらチキンから、誰が持ってきたか一目瞭然なカレー鍋まで、多種多様な物が並ぶテーブルにみんなテンションが上がる。あちこちでワイワイ騒ぐ中、由美に圭太が近づいてきた。

「よかったよ、由美。事故したんじゃないかって心配してたんだよ?」

 本当に心配そうに由美に言うと、由美は少しバツが悪そうに頭を下げた。

「ごめんなさい・・・次からは気を付けるわ」

「でもなんにも無くてよかったよ。また転んでたら僕も辛いしさ」

 その言葉に、由美ははっとなった。ちゃんと心配してもらえていたのもそうだが、自分も辛いとまで言ってくれた圭太に由美は少しうれしくなった。最近、いろいろなことがあり圭太を以前より遠いように感じていたが今確信した。


 ちゃんと圭太の中にも私がいる・・・!!


「圭太・・・!誕生日、おめでとう!!」

 


どうも!ファンじゃないですが懐かしくて久しぶりに『ファイターズ賛歌』を聞きながらの更新です!(わかる人いるかな汗)

今回は前後半で分けます。書いていたら楽しくなってきて長くなってしまうので汗

これからも宜しくお願いします!ご指摘ご感想お叱り待っています!!


3気筒

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