第38章 ワクワク試乗会! 唸る関節技
「バイクの?」
「交換・・・?」
翔子がとっさに出したその提案に由美と翔子は思わず聞き返した。
「はい、交換してみんなでいろんなバイクを乗り比べてみるんです・・・!」
周りが注目するなか、緊張を押さえて翔子は続けた。
「そ、それに、これには旧車物語のこれからを考えたら、やった方がいいと思います・・・!」
「オレ達のこれから・・・?」
洋介が不思議そうに首を捻る。
「はい。あの・・・怒らないでくださいね?・・・その、私達のチームってみんなこ、個性が強いじゃないですか・・・もちろんバイクも。・・・そこで、皆さんまだ出会って日が経っていないですし・・・わからないこともあると思うので・・・その、あの、だから・・・」
「つまり・・・単車の取り替えっこして、みんなとの性格や友情を深め合う・・・てこと?」
洋介が代わりに言うと、翔子はコクりと頷いた。
「そ・・そうです!そうすれば、今以上にチームとしての・・・友情が深まると思うんです!」
翔子の言葉に周りはざわつく。
「どー思うよ?」
「悪くは無いと思うよぉ♪私もゆーちゃんやしーちゃんのバイクに乗ってみたいよ♪」
「オレも・・・同じ2ストトリプルのマッハにゃキョーミあるしな。オレぁ賛成だ」
旭達は賛成。特に旭は同じエンジンレイアウトの赤城姉妹のマッハに興味深々のようだ。
「楽しそうじゃねーか!オレも賛成だぜ!」
翔子の肩に腕を回しながら凛が言うと紗耶香も頷いた。双子姉妹も賛成。ま、皆の愛車を見ながら「他のカワサキの性能は・・・」とか「ホンダの性能を知る時が・・・」とか「スズキのトリプルは・・・」とかヨダレを垂らしながら若干壊れ気味の紗耶香はとりあえず無視しておく。
「私も別に構わないが・・・スピードや走りの上限を決めないと危なく無いかしら?」
先ほどまで由美と睨み合っていた真子の意見は最もだ。旧車は個性の塊である。自分の愛車と同じ感覚で走れば事故や故障に繋がる可能性もある。
「じゃあその辺は場所を移動してから決めようぜ。街乗りだとわからないこともあるし」
そこで洋介が前に行った峠に行こうと提案。あそこならコーナーやストレートがたくさんあるし何より対向車が少ない。平日の夕方なら検問もいないと洋介が言うと賛成一致で決定した。
「じゃあ今オレのフォア走れねーから誰かケツに乗せてくれ」
「あれれ?壊れちゃったの?」
美春がたずねると洋介は工場の隅にあるシートを剥がした。そこにはリアの足回りのバラされたCB400Fourがセンタースタンドを掛けて鎮座していた。
「ご覧の通り、進化の途中でな」
「あ・・・前に言ってたウエダのスイングアームですか!?」
翔子がニコニコしながらたずねると洋介は笑って頷いた。
「運がよけりゃ、来月アタマには完全体になるからな、そしたらオレのフォアにもみんな乗ってくれよな!」
笑顔で満足そうな洋介。バラされたヨンフォアの復活は近いだろう。
「そんじゃ早く支度すんべ。日が暮れると面倒だぜ?」
旭がサンパチのチョークを引きながらキックする。それを合図に皆が支度をし始める。
圭太もFXに跨がりキーシリンダーにキーを差し込むと、横に治ったばかりのゼファーを押してきた由美が不満そうに見てきた。
「どうしたの由美?つまんなそうな顔して」
「圭太のバカ・・・」
言って、そのままエンジンを掛けて走っていった。
「?」
史上最強の鈍感少年はなんのことだかわからないままエンジンを掛けた。
そのまま走り続けて一同は20分ほどで峠にやってきた。上りの途中で検問はいないことも確認。頂上の駐車場で一同はバイクを並べて停車していた。
「さて!じゃあどうやって乗り比べるよ?」
サンパチに跨がったままタバコをふかす旭が言い出しっぺの翔子にたずねる。
「じ、じゃあ・・・興味のあるバイクに・・・」
「じゃあオレはサンパチで!旭のでも美春のでもどっちでもいいぞ!」
翔子の説明を途中で遮ると凛は空いていた美春のサンパチに跨がった。ドンと乱暴に座った凛を見て美春が不安そうに忠告した。
「転んじゃダメだよぉ?」
「わかってるって!心配すんな!」
「壊したら・・・リンリンを壊しちゃうからね♪」
「やっぱり旭のにする・・・」
美春のダークな笑みを見て、凛はひょいひょいと旭のサンパチに移動した。
「とにかく気を付けて走ってくださいね?」
「わ、わかってるよ・・・!」
心配そうな翔子に凛がムキになって言った。
「じゃあ僕はどうしようかな・・・」
圭太は改めてみんなの愛車をみる。どっしりとしたスタイルで威風堂々とした美春のGT380。この中では間違いなく俊足のじゃじゃ馬マッハシリーズ。シングルカム4発の先駆けCB350Four。皆カラーが違う車種達だ。
「圭太さん、私のマッハとFXで替えっこしてみませんか?」
珍しく紗耶香の方から圭太に話し掛けてきた。圭太はレインボーブルーのマッハⅠを見る。
「うん、FXでよかったら喜んで」
「やった・・・!ありがとうございます!」
頭を下げて言うと、紗耶香は愛車のキーを圭太のFXのキーと交換した。カワサキのエンブレムをあしらったキーホルダーの付いたマッハⅠのキーを受け取る。
「私、一度FXに乗ってみたかったんです。おっきいですね・・・」
FXの側に立ちながら紗耶香がつぶやく。写真や見た目だけだとスリムに見えるFXだが意外にも旭達のGT380よりも大柄な車体に紗耶香が緊張と期待でワクワクしている。
「そんなに大きいかな?」
「はい、私のマッハに跨がったら驚きますよ?」
ニヤニヤ笑う紗耶香。2人で注意点や乗り方を話ているのを、遠くから見ている者が1人・・・。
「ふん、圭太のバカ・・・」
すっかりすねてしまった由美は圭太をにらみつけるのもそこそこに、自分はどうしようかなといろいろ目を通していると、由美にとって宿敵が声を掛けてきた。
「由美ちゃん、私のマッハとゼファー、交換してみない?」
真子の提案に、由美は不機嫌そうに顔を向けた。
「私のゼファーちゃんと?」
「えぇ、ゼファーって乗ったこと無いのよ。どうかしら?」
由美は真子のマッハを見る。白と緑のレインボーラインの美しいそのマシンを見て由美は思った。
(ライバルを知って、己を知れば活路が見いだせる・・・いつも抜け駆けされたり邪魔されたりするし、真子さんを知るうえでこれは美味しいわ・・・)
由美は自分のゼファーと真子のマッハと真子を交互に見比べて、しばらく考えた後ゆっくりと首を縦に振った。
「ありがとう。じゃあこれ、マッハのキー」
言われて受け取ったキーにはM&Kとアルファベットのキーホルダーがついていた。嫌な予感。
「真子さん・・・これは?」
「あぁ、それは私のイニシャルと圭太君のイニシャルで、おまじないよ」
正直、ぶっ殺してやろうかと思った。が、由美はそれを顔には出さずに受け取ると、ゼファーのキーを渡して足早にその場を去った。
「なんなのよまったく!付き合ってるわけでもないくせに・・・!!」
声を殺してつぶやくと、キーホルダーのリングを緩めるという工作に走る。取れてしまえこんな物と言った感じだ。
「それはともかくてして・・・・これがマッハ・・・」
跨がる前に上から覗き込む。かなり細い車体に低く装着されたセパレートハンドル、バックステップ。
「エンジンを掛けるときはハンドルにあるチョークを引いて、ステップを折り畳んでからキックするのよ」
いつからそこにいたのか、秘密工作を見られていないか不安になってキーを後ろに隠して由美が振り返ると、真子が立っていた。
「あ、ありがとうね真子さん・・・!」
「最初は視線が低いから怖いかもしれないけど、頑張ってね」
それだけ言うと自分の愛車であるゼファーの方に歩いていった。よかった、バレて無かったようだ。次に翔子がニコニコしながらやってきた。
「由美さん!真子さんのマッハに乗るんですか?」
「えぇ、ライバルを知るのよ!翔子ちゃんは?」
「私は美春さんのサンパチです!初めてですよ2ストなんて!!」
そう言って嬉しそうに笑った。
「じゃあそろそろ順番に行くべ!」
旭が言うと、お喋りもそこそこにいよいよ試乗会の開始だ。ちなみに旭は凛のマッハⅡだ。
「先に4スト勢からな、2ストは煙いから後からで」
「じゃあ私達が先だよぉ♪」
CB350Fourに乗る美春が前に出た。ちなみに後ろには千尋がいる。もはや美春と千尋はセットで1人の扱いになってきた。
「あんまり飛ばしちゃダメだよ?」
「任せてよぉ♪」
「行くぞ紗耶香」
「じゃあ圭太さん、借りますね?」
真子と紗耶香も前に出た。圭太達が見守るなか、3台のバイクが峠を下って行った。
「じゃあいよいよオレ達だな。先行くぜ?」
普段鬼ハンの旭がセパハンの凛のマッハでスタートすると、続いて凛、翔子、圭太、そして由美とスタートして行った。
「・・・早く帰ってこねーかな」
1人取り残された洋介が誰もいなくなった駐車場で立ち尽くした。
「怖っ!何よこのバイク・・・!!」
由美は悪態をついた。地面の低さもさることながら、このポジションの窮屈さ。何よりその破天荒なエンジンポテンシャルに。
「アクセルを開けたらいきなりドカン・・・!?なんなのよコレ・・・!!」
コーナーを抜けてアクセルを開けると同時に乾燥で159キロの軽量の車体はロケットのように加速する。シート下では今にもぶっ壊れそうにエンジンがうなっている。それでもエンジンの回転数はまだ5000rpm手前だ。
「これを乗りこなすなんて・・・!!」
さすがライバル!と続けようとした時だった。サードでこの長めのストレートを飛ばしていた由美にマッハの牙が襲い掛かる。タコの針が6000rpmを指した瞬間・・・
クァァァァァァァァァァア!!!!
「ひっ・・・!?」
いきなりその視界が変わった。今までギャワンギャワンと壊れそうな音を経てていたエンジン音が一変したのだ。まるでF1のような快音で次のコーナーまでぶっ飛んで行く。
「ちょ、まって・・・!!」
近づくコーナーにビビり、アクセルを抜く。フロントとリアのブレーキを掛けると、改造されたブレーキはキチンと減速。必死に暴れる車体を押さえ込み緩い左コーナーを回っていく。
「なんなのよコレ!!真子さんのバカァ!!!!」
バッタみたいにマッハにしがみ付きながら、由美は叫んだ。
「由美大丈夫かな・・・飛んで行ったけど・・・」
後ろを走る圭太は、由美がコーナーから消えていくのを見てつぶやく。
紗耶香のマッハは250cc。マッハシリーズの中では末っ子だが、その走りはやはりマッハだった。エンジンはノーマル後期の28馬力だがその音やフィーリングは400にも引けを取らない。さらに・・・
「ドラムブレーキかぁ・・・」
ブレーキレバーに掛かる指を見て呟く。前後ディスクのZ400FXに乗る圭太に、前後ドラムのマッハは新鮮だった。
「確か紗耶香ちゃんが言っていたなぁ・・・」
試乗会の前に紗耶香の言っていた言葉がよみがる。
『私のマッハはブレーキが全部ドラムです!多分乗りにくいですけど侮ってはいけませんよ?この時代の他車種のディスクブレーキよりコントロール性は高いんです!保証します!!あとマッハはカワサキが誇るマルチの2ストエンジン!!高回転では他の追随を許さぬ走りで・・・』
そこから先はカワサキ狂いの紗耶香。話がマニアック過ぎてついていけなかったが、圭太は今さっき由美が悲鳴を上げながらクリアしていったコーナーでマッハをコントロールしてみる。油圧ディスクに比べ、機械式ドラムは止まるのは苦手だが、減速コントロール性では抜群の操作性だ。どれだけシューを引きずっているのかが分かりやすく、力加減が付けやすい。乗り始めて歴の浅い圭太にもわかるほどだ。車体の細さもノーマルポジションだと気にならない。圭太は自分の愛車と乗り比べながら走っていった。
「お・・・帰ってきた帰ってきた」
頂上で暇潰しをしていた洋介は近づいてくる排気音を聞いて入り口で待っていると、まず最初に真子の操るゼファーが入ってきた。続いて紗耶香のFX、美春と千尋のCB350Fourが入ってくる。
「どうよ感想は?」
暇すぎて退屈だった洋介がニタニタ笑いながらたずねると、真子はウンと頷きながらゼファーを降りた。
「足回りもエンジンも想像以上にしっかりしてるわ。少しでも手を入れれば絶対化けるわよ、このバイク・・・」
「だろーな・・・今日改めて思ったけどそのゼファー、スゲーきっちりやってあるんだよな。前のオーナーがやったのか知らないが・・・」
由美ちゃんは幸せモンだよなぁと言いながら洋介が振り向いた時、今度は2ストエンジンの音が聞こえてきた。
「マッハか・・・」
「サンパチもいるわね」
2人の予想は的中。旭の操る400ssマッハⅡがカッ飛んできた。その後ろから少し遅れて真っ赤なGT380が来た。
「あー!面白ぇなマッハもよぉ!!サンパチとは全然違うわ」
「ちっくしょう鬼ハン乗りづらくてしょうがねー!!でもサンパチも面白いな!!」
2人でギャアギャア言いながら歩いてくる。
「どうだった?まぁ聞くまでもなさそうだが・・・」
「オメー最高だぜマッハも!速い速い・・・」
「サンパチも6速もあるからギヤの範囲広くて乗りやすいぜ姉貴!」
「そうか・・・じゃあ今度私も乗ってみようかしら」
そんなことを話していると、次は美春のサンパチに乗る翔子が現れ、次に由美、圭太と続いてきた。
「どうだった?」
洋介がたずねると、満面の笑みで翔子がサンパチから降りてきた。
「凄く楽しかったです!!速いしトルクもあるし、ミラーで確認したら後ろは真っ白ですし、勉強になりました!!」
ペコリと美春に頭を下げると、美春もニコニコしながら
「私こそありがとうだよ♪サンゴちゃん、凄く乗りやすかったし安定するよ♪」
と言うと、2人な笑いあった。
一方・・・
「どうしたの由美ちゃん?すれ違った時は強ばっていた表情が疲れ切った表情に変わってるけど?」
「大丈夫よ・・・真子さん、マッハは体質的に私とは合わないわ・・・」
「あら残念。私は凄くゼファーが好きになったけど」
生きて帰って来れてよかったわね、と言いたげな真子と生きて帰って来れてよかった、と言いたげな由美は短い会話に終わった。まぁ、今現在燃え尽きている由美に長話しは無理と言うものだが・・・
「紗耶香ちゃん、キー返すよ。ありがとう」
一方圭太は紗耶香にマッハのキーを返しに行っていた。
「どうでしたかマッハは?」
キーを受け取りながら嬉しそうにたずねる。圭太は初めて乗ったマッハについての感想を言った。
「楽しかった。軽いから止まりやすいしエンジンも僕のFXとは全然違うし凄く新鮮だったよ」
「本当ですか!?」
自慢も自慢。自分の分身のように気に入っている愛車を褒められてニコニコ顔を隠し切れないようだ。紗耶香はFXのキーを返しながら今度は自分の感想を述べはじめた。
「FXって初めて乗ったんですけど、以外と素直なバイクなんですね」
「そうかな?」
「はい!なんだか安心して走れるバイクでした!さすがカワサキです!!」
やばい、紗耶香がカワサキという単語を出したら後は最後までノンストップで語りだす・・・危機感を感じた圭太は早速話題を変えようかと思った時だった。
「まぁた雲行きが怪しいぜ・・・?」
すぐ近くで凛達と話していた旭が空を見ながらポツリと呟いた。先ほどまで快晴だった夕暮れ空がいつの間にか雲に覆われ、周囲に温い風が吹き始める。
「これじゃあ今日はもう中止ね・・・」
真子がつまらなそうに呟く。雨が降れば峠道はとんでもなく危なくなってくる。ましてや今回の企画はバイクの試乗会。これ以上の続行は不可能になりそうだ。
「なぁなぁいいじゃんかぁ!もうあと1回くらいやろうぜ〜?」
1人納得いかない凛がただをこねる。どうやら次は翔子のCBを狙っていたのかすでにシートの上で準備万端だった。
「ダメだよぉリンリン?雨が降ったら危ないよぉ」
「そうだよ凛お姉ちゃん。今日はワガママ言わないで帰ろう?」
美春と紗耶香が同時に言うと、さすがの凛も諦めたようでつまらなそうにCBから降りた。やれば出来る子。
「わかったよったく!じゃあ今日は解散?」
「だべなぁ、さすがに雨は由美ちゃん達がキツいしよぉ」
由美達を気遣って旭が言った。昨日の今日で同じ繰り返しなどゴメンである。見れば由美はすでにゼファーに跨がりいつでも発進出来る状態だ。
「雨怖い雨怖い雨怖い雨怖い雨怖い・・・・・・」
どうやらマジメに恐怖を植え付けらていたらしい。ぶつぶつと1人呟く由美を見て場内一致。今日のワクワク試乗会は中断となった。
「また次回やりましょうね!今日も楽しかったです!」
提案者の翔子が曇り空にも負けない笑顔で言うと、全員頷いた。
「次はいつ集まります?」
「週末でいいんじゃないかしら?」
圭太と真子がそんな話をしている時、その様子を遠くから睨み付ける女が1人・・・
「あの・・・ゆーちゃん?」
「・・・何?」
いつも能天気な美春が気を遣ってしまうほどのオーラを放つ由美。その睨みだけでどこぞの軟派チームの頭位なら土下座させれそうである。ちなみに美春の後ろにはやっぱり千尋。
「なんで私の目からはク〇ラ様みたいにデ〇ビームが出ないのかしら・・・出たら真子さんなんて・・・」
「自分で撒いた種だ・・・自分で枯らせろ・・・!って痛い、ゆーちゃん、人の腕はそっちに曲がらないんだよぉ・・・!?」
「由美ちゃん止めて!!おねーちゃんのライフはもう0よ!?」
ドラ〇ンボールと遊戯王の少々マニアックな漫才を繰り広げる騒がしい3人を、圭太と真子が何事かと見ながらため息をついた。ちなみに、由美のアームロックは完全に美春の肘関節を極めていたとか・・・
「じゃあ国道まで出たら、そこで解散、自由行動ってことで!」
洋介がまとめると、旭のサンパチの後ろに跨がると、1台、また1台と駐車場を出ていく。どんよりした雲の下を走る8台のバイクはスピードもそこそこにヤマを下っていった。
途中、信号で引っ掛かった時だった。相変わらず不貞腐れている由美の隣に翔子が並んできた。
「由美さんどうしたんですか?せっかくゼファーが治ったのに・・・」
「よく見なさい翔子ちゃん。あの圭太の間抜け面を」
ズビシっ!!と指を指すは赤城3姉妹と仲良く話す圭太の姿が。
「別に間抜けてないと思うんですけど・・・それはともかく、圭太さんと何かあったんですか?」
自分が試乗会を提案したのは、単に乗ってみたかったというのもあるが、こんな早くに踏み切った理由は由美と真子の陰険なムードを打開するためであった。それが何故か先ほどよりも陰険になっている気がする。(しかも由美だけ)
「あなたは気付かないの?」
「え・・・?」
由美に言われて考えてみるが、全く思い当たらない。
「わからないしら・・・?圭太、私のゼファーちゃんがせっかく治ったっていうのに何にも声を掛けてくれないのよ?」
「・・・あぁ、なるほど」
若干呆れつつ、翔子は頷いた。なんだかかなり拍子抜けである。まさかそんな低次元な理由でさっきからずっと膨れていたとは思っていなかった。
「しょうがないですよ、圭太さんって凄く抜けてますし・・・」
前を横切る道の信号が黄色になった。由美はギヤを入れていつでもスタート出来るように準備しながら
「抜けてる以前の問題よ・・・!」
と言うと、信号が青になった。メーカー不明のショート管から爆音をたてながら走っていった。
途中、この中でもかなり大食いのマッハに乗る真子と凛がスタンドに寄りたいと言ってきた。
「この人数で行ったら邪魔くせーな・・・スタンド行かねーヤツぁスタンドの先にあるコンビニに行くべ」
旭が後ろにいるみんなにも聞こえるように叫ぶ。
「悪いわね。すぐに戻るわ」
真子が手を上げて言うと、信号が変わり一斉に走り出した。しばらくすると左にガソリンスタンドの看板が出てきた。日も暮れ掛かった曇り空の中でウィンカーがチカチカと点滅する。どうやら美春と圭太も立ち寄るらしい。2台のマッハとタンデムのサンパチ、FXがスタンドに入るために減速。その横を由美達がスムーズに追い抜いていった。由美は抜きざまに圭太をいまいましそうに睨み付けたが、圭太は気付かずに入っていった。
スタンドに寄った4人以外のメンバーはその2軒ほど先にあるコンビニに滑り込むように入っていった。田舎コンビニの特徴である駐車場の広さのおかげで駐車場を占領するコトは無かった。
「一服したらすぐに行きましょう。雨がいつ降るかわかりませんし」
今にも降りだしそうな天気に不安そうに見つめる翔子。そんな翔子の肩を洋介がポンと叩いた。
「でももうすぐ7月じゃん?夏だよ夏!!」
「そうですねぇ。そうしたら毎日いい天気ですよね」
「夏って言ったら海だって山だってなんだってシーズンだぜ!?翔子ちゃん、どこ行きたい!?」
「うーん・・・私の家は周りが山ばかりなので、海に行きたいですね」
側で夏に向けて楽しそうに話す2人を、どこかつまらなそうに見ていた由美は1人コンビニに入った。
「なによ・・・あの2人の方がよっぽどそれらしく見えるじゃない・・・!」
どうにも機嫌が悪い。自分でもどこかおかしいと思う。圭太と真子が話しているだけでイライラするし、翔子と洋介が楽しそうにしているのを見ただけで嫌味を言ってしまう。自分はこんなに捻くれていたのだろうかと思うと嫌になってくる。せっかく自分のゼファーも治り、これ以上無いと思うような素敵な仲間達と走ったと言うのに、今の天気のようにどんよりしている心の中で由美はため息をついた。
「へこんでても仕方ないわよね・・・」
気を取り直し、どうやって圭太に話し掛けるか考えていた由美に1つのポスターが目に入った。
『 あのK〇SSがオリジナルメンバー&フルメイクで再々結成日本上陸!!武道館3Days!! 』
「うわ・・・なんだか怖いポスターね・・・閣下かしら?」
顔面白塗りメイクに派手な衣装の4人が映るそのポスターに何か勘違いをしながら呟く。左端にいる舌の長いメンバーを見て驚きながら見ていると、その下にある日程表が目に入った。
『6月29、30、31日』
「本当、もう夏なんて目の前ね・・・」
時間が経つのは早いなぁと1人呟きながら、外に出ようとした時だった。
「え・・・?29日・・・?」
バッと振り返る。タヌキみたいなメイクをした(本当はネコのメイク)ドラマーの下の日付を確認する。
「6月29日・・・金曜日・・・!!」
やはりそうだ・・・!!忘れていたがその日は!!
その時、いきなり肩を叩かれた。
「はひゃ・・・!?」
「どしたのゆーちゃん?変な声出して・・・」
振り返るとそこにはガソリンスタンドに寄っていたはずの美春が立っていた。外を見ると真子達も帰ってきていた。
「もうそろそろ出発だよぉ?早く行かなきゃ・・・あ」
そこまで言い掛けて、美春は目の前のポスターを見た。そして由美を見た。
「ゆーちゃん・・・結構派手な音楽が好きなんだねぇ・・・」
「な!?ち、違うわよ!!」
なにやら激しく勘違いしているらしい。1人ウンウンと頷き始めた。
「まさかゆーちゃんが口から血をダラダラ垂らしながら白目を剥くようなバンドが好きだったなんてお姉さんビックリだよ?悪魔のミサとかで蝋人形にされて『お前を殺す!!』って言うんでしょ?おぉ怖い・・・怖いお・・・」
「だっから違うって言ってるじゃない!!」
もう勘違いのレベルの域を超え、もはや妄想レベル域に達した美春の強引な納得を由美が蹴散らす。
「私はこの日付を見ていただけよ!!」
「地獄の皇太子が生き血を啜り・・・え?違うの?」
由美がライブ会場で乱暴に腕を振り回し『殺せ殺せ!!』と叫んでいるのを妄想して涙目になっていた美春がやっと現実世界に戻ってきた。
「よかったぁ!もうビックリしちゃったよぉ♪」
「全く・・・」
「でもなんで日付を・・・?」
美春が顔に星を書いた男の胸毛に若干目移りさせながらポスターの下を覗き込む。
「・・・29日は特別な日なのよ・・・」
「うん?なんで?」
「実は・・・圭太の誕生日なのよ・・・」
「え・・・!?」
驚く美春。由美はここだけの話だと言ってからポスターの日付を見ながら話す。
「私も忘れてたんだけど・・・誕生日で金曜日・・・次の日は休みよね?だから私考えたのよ、この日は学校が終わったら圭太を独占して夜遅くまで祝って・・・夜遅く・・・!?」
ちょっとイケない想像をした所で首をふるふると横に振る。そんな不純なことは求めていない。普通に1日付き合えれば・・・誰にも邪魔されずに過ごせればいい・・・!そしていい雰囲気になったら自分から・・・こここ、告白・・・!?・・・・・・イイネ!!
由美は1人テンションをあげると、29日の日付をビシッと指した。
「美春ちゃん!!このコトは他言無用で!!・・・ってあら?」
目の前にいるはずの美春がいなくなっていた。ふと外を見ると開きっぱなしになっている入り口の外で、美春がなにやら嬉しそうにみんなに話していた。
「みんなぁ聞いて聞いてぇ!!けーちゃんが金曜日に誕生日なんだよぉ!!」
「待てっつってんでしょこのアンポンタンっ!!!!」
叫びながら店外へダッシュしていく。しかし間に合うハズも無く、みんなが圭太を囲んで話していた。
「本当か圭太君・・・!?」
真子がなにやら張り切りながらたずねると圭太は頷いた。
「えぇ・・・」
「んだよオメェ、18になんのか?」
旭や洋介がガヤガヤと話している。
「だから次の金曜日にけーちゃんのお誕生日会をやろうと思うんだぁ♪どうかなぁ?」
『賛成!!』
全員が一致で叫んだ。
「美春ちゃん・・・?」
「お?ゆーちゃん!よかったね!みんな賛成だよぉ♪」
ぶちっ・・・・・・♪
その瞬間、由美の頭の中でキレちゃいけない線が音を立てて切れた。
「きしゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
「痛い痛い!!ゆーちゃんぎぶぎぶ・・・!痛い!痛いぞポル〇レフ・・・!!」
「お、由美ちゃんすげぇ」
「見事なコブラツイスト!!さすが由美!そこにシビレる!憧れるぅ!!」
自分の彼女が極められているのに呑気に見ている旭と、変に煽る凛。
「ち、ちょっと由美・・・!美春さんがヤバイって!早く止めてよ!!」
「うるさい・・・!この、この、この・・・!!」
圭太の制止を振り切り由美がコブラツイストから卍固めに移行した時、すでに美春は白目を剥いて短い舌をつきだし、ヨダレを垂らしていた。その姿は正にジ〇ン・シモンズ。ちょっとした恐怖です。
こうして尊い犠牲を払った結果。金曜日に『圭太の誕生日を祝う会』が発足される事が決まった。
後日・・・図らずして和製ジーン・シ〇ンズになった真田美春氏がこんな事を語ってくれた。
『いやぁ、プロレスが最強っていう猪木イズムがわかった気がするよぉ・・・うん、今度から話は最後まで聞くようにするよぅ・・・だから許してよぉ・・・痛たた・・・』
お久しぶりです!
地震発生から1月。まだ暗い影が漂っておりますが日本復興のために出来るところからやっていきましょう!
暗いと言えばお花見の自粛。確かに東北の方々の事を思えばやりにくいですが、自粛ばかりでは経済が回りません!すなわち復興ができません!桜が散る前に、出来る方はやりましょう!がんばろう日本!!
そして今回のお話。書いていて車種が固まりすぎていて表現しにくいですね汗
まぁ表現能力が足りないだけなんですが・・・汗
何が言いたかったのかと言うと猪木イズムです!(笑)
こんな作品ですが、宜しくお願いします!!
3気筒