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旧車物語  作者: 3気筒
37/71

第37章 難なく復活!その矢先!?

 ダムを抜けて走ること数十分。由美が操るCB350Fourは何事も無く無事ファミレスに到着した。窓際に駐輪して翔子が降りた後、由美もエンジンを切ってキーを抜いた。スタンドを立てて降り立つとぐーっと背伸びをした。

「んー!やっぱりバイクっていいわね!」

 ほくほくとした顔で宣う由美。ヘルメットを脱ぐと翔子にキーを返した。

「私のバイクどうでしたか?」

 翔子もどこかワクワクした様子で由美にたずねる。自慢の愛車の評価を自分以外の人間から聞くのもまた、バイク乗りの楽しみである。

「そうね・・・そんなに距離走ってないからはっきりとはわからないけど・・・真っ直ぐの時の安定感がすごく良かったわ」

「あ、思いました?私もそう思うんです!」

 やった!と言わんばかりの喜びようで翔子が言うと、由美はしかしとひとつ付け足した。

「エンジンも調子良いから元気なんだけど、コーナーとかで車体が倒しにくいかも・・・」

「それは・・・確かに」

 2人乗りと言うのもあるのだが、この時代のバイクはお世辞にも足回りが良いとは言い難い。翔子のCB350Fourはサイズの割に乾燥重量で184キロ。由美のゼファーは181キロ。20年くらい時代が違うバイクだが性能の違いと比較すると車重にほとんど変わりはない。しかし由美の感じた『コーナーでの倒しにくさ』はそのほとんどがその車重を支える足回りのレベルから来ている。

「とりあえず中で話しましょう?お腹も空いてきたし」

「そうですね」

 2人はハンドルロックを掛けて店内に入った。

 店員に案内され、窓際の禁煙席に座った。『お決まりになりましたこちらのボタンでお呼びください』というお決まりのセリフを言ってウェイトレスさんが立ち去ると、2人はとりあえず水を取ってきてから改めて話を始める。

「由美さんの意見を聞くと、確かに私のフォアはコーナーが弱いですね。あとブレーキが弱くなかったですか?」

「あ、確かに・・・ゼファーちゃんの感覚でブレーキすると結構冷やっとしたわ」

 由美はブレーキレバーを握るフリをしながら言うと、翔子は「そうですよねぇ」と言って水を飲んだ。

「でも、乗っている時の感じ・・・なんて言うのかしら、よくわからないんだけど・・・あのバイクにしか見えない景色やわからない感覚っていうのかしら、ゼファーちゃんとは違う意味で凄く楽しかったわ!」

 満面の笑みで由美が言うと、翔子も嬉しそうに笑った。

「ゼファーが治ったら、こんな感じで皆さんのバイクを取り替えっこしたら楽しいかも知れませんね」

「あ、それナイスアイディアよ!!旭さん達のサンパチとか真子さん達のマッハってどうなのかしら?」

「エンジンが私たちとは全く異なる構造ですからね・・・でも乗せてくれますかね?」

 翔子が言うと、由美もうーんとうなる。バイク乗りにとって、自分の愛車を他人に乗せることは躊躇してしまう時が多い。そしてその傾向は新車乗りの人間と旧車乗りの人間に多く現れる。

「まぁ、機会があったらやってみたいなぁっていうことで。今度みんなに聞いてみましょう?」

「ですねぇ」

 2人は視線をメニューに移すと、ボタンを押してそれぞれ注文をした。









「はぁ、食べた食べた・・・」

「お腹いっぱいですね・・・」

 それからしばらく話していた2人は、料理が来ると同時に会話を少なくして食べることに集中した。食べおわった皿を前に2人は水を飲んで一息ついた。

「ここって値段の割に量があるからいいのよねぇ」

 学生バイク乗りに贅沢は出来ない。由美は一番安くてその中でも量があるペペロンチーノを、翔子はドリアを選んだ。有名なチェーン店だ。

「ガソリン代が毎月キツいのよねぇ・・・翔子ちゃんは?サンゴちゃんの燃費ってどう?」

「んー、そんな特別に悪いということは無いですけど・・・やっぱりキツいですよね」

 基本的にフルノーマル仕様の翔子はさほど燃費は悪くないらしい。それでも現行車に比べれば良くは無いが。

「圭太も結構キツいみたいだし、なんとかならないかしらねぇ」

 由美がぶつぶつ言っていると、翔子もため息した。

「学生身分だと維持費も大変です・・・はぁ、来年は車検もありますし・・・」

「凛ちゃんと紗耶香ちゃん達はどうやって維持してるのかしら?不思議よねぇ」

 維持費が高い旧車の中でも最も燃費の悪いマッハに乗る1つ年下の双子姉妹を思い出して由美はため息をつく。

「お家がお金持ちだからですかね・・・?」

「考えられなくないかも・・・いやでも、あの2人の性格からしてやっぱりそれは考えにくいわ。今日会ったら聞いてみましょう」

「ですね・・・2スト乗りと言えば、旭さんも凄いですよね。あの歳で1人暮らししてバイクも維持してるんですから」

「あの人はほら、きっと仕事で稼いだお金は家賃とバイクだけに注ぎ込んでるんじゃない?職場でご飯は食べれるし」

「あ、なるほど・・・」

 身内話に花を咲かせるあたりはやはり現代の女子高生である。2人はしばらくいろいろな話をした。話が身内ネタから学校生活ネタになると、由美は翔子に聞きたかったことをたずねた。

「そういえば翔子ちゃん、家族とは上手くいってるの?」

 初めて会った時から聞いていた家族との不仲。翔子は少し苦笑いしてから首を横に振った。

「全然ダメです・・・義理母さんや義理兄さんは全然話しを聞いてくれませんし、お父さんもあまり帰ってきません」

「そうなんだ・・・」

 由美は少し気まずそうに言った。やはりグレーゾーンだったかと思い違う話題を頭の中で探していると、翔子がニッコリ笑った。

「でも、皆さんのおかげで以前より苦じゃありません!皆さんと集まったりする時がいつも楽しみで今日も学校サボっちゃいましたけどすごく楽しいです!!」明るく言った。心の底から今が楽しいと伝わってくる笑顔に由美は一安心だ。

「それならよかったわ。でも何かあったらすぐに私に相談しなさいよ?」

「はい!」








 それからしばらく、長話をして時間を潰した。女子というのは話題がつかないのか2人の間で会話が止まることは無かった。内容はほとんどバイクの話なのでそこが普通の年頃の女の子とは少し違うが・・・。

 由美が何気なく腕時計を確認すると時刻はすでに14時を回っていた。

「もうこんな時間?早いわね」

「本当ですね・・・楽しい会話は時間がすぎるのが早いですね」

「全くね。じゃあ行きましょう」

 2人は支払いを終えると外に出て真っ直ぐCB350Fourに歩み寄った。

「じゃあ翔子ちゃん、運転よろしくね!」

「由美さんも道案内、よろしくお願いします!」

 言ってから、2人を乗せたCBは発進。駐車場を出るとシングルカム4気筒の加速音を響かせる。対向車線から来た軽トラのおじさんが懐かしそうに振り返った。








 20分くらい経ち、2人は無事にホームセンターに到着した。ここはこの辺りではかなりの大手で電池から発電機、ネジの一本から大型電動工具、はたまたハサミから芝刈り機までなんでも揃う。店内に入ると、由美は店員を捕まえて紫外線硬化FRPがあるかをたずねると、店員に案内されていった。

「あったわ。これね?」

 手に持つと、縦横約50センチほどのゴムのように柔らかい板だ。これが今回のキーポイントだ。

「結構高いのね・・・はぁ」

 ため息をつくが致し方ない。これが無ければサイドカバーは治らないのだ。由美はそれを手に持ち隣にいる翔子を見ると・・・

「いない・・・」

 辺りを見回すが見当たらない。となりの売り場をのぞくと、少女がある棚の前でしゃがんでいた。

「どうしたのよ?」

「いや、この工具いいなぁって」

 見るとそこにはラチェットレンチが数種類あった。その1つを手に取ってみた。握るグリップがあり上の方には長い延長ソケットがはめられている。それを回してみると、


 カチカチカチ・・・


「なんかいいわね・・・カッコいいわ」

「こういうのがあると、自分が凄くメカに強くなったような気分になりますよねぇ」

 グリグリと工具を回す由美を見て翔子が言うと、由美はさらに違う工具を見つけてきた。

「こういうの・・・持っていた方がいいのかしら」

「うーん・・・どうなんでしょう・・・」

 2人はしばらくその場でしゃがんでいたとか・・・









 時刻は放課後。由美との待ち合わせのため、圭太は由美の家の前にFXを停めて待っていた。

「遅いなぁ」

 1人呟いてみる。由美1人ならいざ知らず、今回は翔子が一緒にいる。それでこれだけ遅れているというのは少しおかしい。圭太は昨日の由美の転倒を思い出して不安になってきた。

「まさか・・・」

 不安な考えほど捨てきれない性格の圭太は嫌な予感を感じてFXに跨がりエンジンを掛けた。そしてギヤをローに入れてクラッチを繋いだ瞬間だった。



 ブァァァァァア・・・!!ブァンブァン・・・!!


 昨日由美が転んだ曲がり門から、翔子のCB350Fourが姿を現した。そのまま横に並ぶと、翔子がギヤをニュートラルに入れてから頭を下げた。

「遅れてごめんなさい!」

「よかったぁ・・・なにかあったのかと思ったよ・・・」

 言って自分もギヤをニュートラルに入れる。そして翔子の後ろに座る由美を見ると・・・

「・・・♪」

 かなりご機嫌な表情だった。見れば翔子もニコニコしている。

「紫外線硬化FRPだっけ・・・買えた?」

「ええ!バッチリよ!」

 由美が誇らしげにビニール袋を見せ付ける。中には板状の物と、なにか細長い物が入っている。

「あれ?それは・・・?」

 圭太が問うと由美は誇らしげに中身を取り出した。

「安かったの!ラチェットレンチ!!」

 差し出された工具を見て、圭太は首を傾げた。なぜ、今ラチェットレンチが必要なのだろうか?

「あの、由美?なんでそんなの・・・」

 圭太が問うと、由美はニコニコしながらラチェット本体について説明を始めた。

「このレバーをクリッて回すと・・・ほら!今度は逆方向に首が回るように!!」

「いや、だから・・・なんで?」

「なんかあったら便利かなって思ったのよ!カッコいいでしょう!?」

 満足度MAXの由美がほくほくしながら見せ付ける。まぁ見せ付けられたところでなんとも無いのだが・・・

「そーやって無駄使いばっかりしてたら、またガソリン代が無くなるよ?」

「大丈夫!!必要だから!!」

 何が大丈夫なのかよくわからないが、とりあえず今は無視することにした。

「ホームセンター楽しかったですよねぇ、また一緒に行きたいです!」

「そうね!そうしたら次はメガネレンチセットが欲しいわ!!」

 よくわからないが、2人はホームセンターにハマったらしい。圭太は今後の由美の無駄つかいを考えて頭を押さえた。

「学校はなんとかごまかせたよ。明日には来れるって言っておいたから」

「ありがとう!これで安心ね!」

「じゃあ早速行きましょう!」

 翔子が意気揚々と言う。しかし圭太と由美は「あ」と言って固まった。

「集合場所が洋介さん家の工場って言っていたけど・・・場所わかんないよね?」

「そもそも・・・ゼファーちゃんはどうしたらいいのかしら・・・」

「あれ?連絡来て無いんですか?」

 ケータイを持っていない翔子が2人にたずねると、2人は首を振った。

「じゃあちょっと僕が連絡してみるよ」

「ありがとう!お願いね」

 ケータイを取出して、洋介の番号にコールする。2人にも微かにコール音が聞こえる。しかしなかなか電話に出る気配が無い。圭太が諦めて旭か真子達に連絡しようかとケータイを切ろうとスピーカーを耳から離した瞬間だった。



 ガラガラガラガラ・・・


 聞き覚えのあるショボい排気音が門から聞こえたかと思うと、そこからボロい軽トラが現れた。運転席には洋介。

「ヤッホー!みんな揃ってるか!?」

「洋介さん!わざわざ来てくれたの!?」

 由美がたずねると洋介は「まぁな!」と言って軽トラから降りた。

「壊れてたんだけどな、コイツ。昨日夜中に応急処置してなんとか走れるようにしたんだ。エンジン切ると掛からなくなるから早くゼファーを乗っけちまうぞ!」

 言って、後ろの荷台を開けて踏み板を掛ける。

「ゼファーは?」

「今持っていくわ!!」

 言って、由美は玄関に停めてある愛車のカバーを外し路上に押し出した。サイドカバーは下駄箱の上に置いてあるのですぐに取ってからシートの上に乗せて軽トラの後ろまで運んだ。

「ありま・・・こりゃまた随分・・・」

 洋介がしかめっ面でゼファーを見つめる。なにか深刻なダメージでもあったのかと不安になって由美が口を開く。

「あの・・・なにか重度の不具合が・・・!?」

 すると洋介は真面目な顔でこう言った。

「軽傷すぎる・・・!」

「へ・・・?」

 あんぐりする由美に、洋介がパッと笑いながら傷ついた箇所を指さしていく。

「ウィンカーステーはもげて無い。もげてたらフレームのネジ穴にも障害があるから身構えてたけど、ステー自体が折れているんだな。これなら交換で済むし、他の傷も大したこと無い。すぐに治るよ!」

 その言葉に安心した由美はほっと胸を撫で下ろした。どうやら重症では無いらしい。

「じゃあ我がアジトまで!ちゃっちゃか運びますか!」

 言うが早く、洋介はゼファーのフロントタイヤを踏み板に乗せると、そのまま一気に荷台まで押し出した。不安定な状態になるこの作業を1人でなんなくこなし、見ただけでバイクの症状がわかる洋介と、先ほど買った1本のラチェットレンチを見比べてやるせなくなった由美と翔子は酷く深いため息をついた。

「じゃあ出発するか!由美ちゃんは好きな奴のケツかオレん隣ね!」

「あ、真子さん達は?」

 圭太が言うと、洋介は笑いながらドアを閉めた後、くるくるハンドルで窓を開けて顔を出した。

「赤城3姉妹は街道で旭達と合流してから一緒に来るって。もしかしたら向こうはもうついてるかも知れないから少し急ごう!」

「じゃあ圭太、後ろ乗せてね?」

「うん」

 FXのリヤシートに腰を下ろすと、軽トラとバイク2台は走り出した。

 由美は前を走る軽トラの荷台に積まれた愛車を見る。固定されているとはいえやはり若干不安定に見えるのは仕方無い。注意してゼファーを見ていた時だった。

「あら・・・」

「どうかしたの?」

 走りに集中しながら圭太が問うと、由美がへぇーとか言いながら呟いた。

「いや、さっきまで翔子ちゃんのサンゴちゃんに乗せてもらってたじゃない?それで気付いたんだけど、全然乗り心地が違うわね・・・」

「どんな風に?」

「なんかFXの方が・・・固い」

「・・・」

 由美の表現方法の大雑把さに何が違うのかいまいち疑問の残る回答だったが、圭太はとりあえず納得して走ることに集中した。









 国道を越してすぐの交差点を右に曲がると、そのまま狭い抜け道になる路地に入る。しばらく走ると比較的交通量が多い道路に出る。その道路沿いにあるのが洋介の実家、『羽黒モータース』だ。ガレージ自体はそれなりに広いが、クルマ用のオートリフトや工具、預かった客のクルマなどが鎮座しているため今日来るメンバー全員のバイクは洋介のCB400Fourと由美のゼファーを覗き、ガレージの看板の目の前にまるで販売車のように並べられた。

「改めてこのゼファーを見ると、FXキット開発の苦労が垣間見えるわ・・・」

 何気なしに真子が由美のゼファーをまじまじと見る。ちなみにすでに旭や赤城3姉妹は到着していた。

 カワサキ好きな3姉妹は由美のゼファーを見てなにやらマニアックな話をしている。その後ろでは洋介に借りた雑巾でカフェヘルを拭く旭と美春がいた。

「ったくよ・・・ただでさえマッハとサンパチの集団だっつーのによ、あの狭い路地でこれでもかって白煙とオイルバキバキに飛ばしやがってよぉ・・・」

「もう道路真っ白だったよねぇ♪歩道の人ビックリしてたよ♪」

 美春がニコニコしながら言うと、後ろにいた千尋が困ったように首をすくめた。

「ちょっと迷惑だったかも・・・だってもう、とにかく真っ白で火事みたいだったもんね」

 すると、姉と妹のマニアックな会話についていけなくなり戦線離脱した凛が会話にまじる。

 そんな中、洋介はてきぱきとゼファーを治すのに必要な工具一式を持ってきた。が・・・

「洋介さん?なにそれ?」

 由美が唖然としてたずねる。洋介が持ってきた工具類は、かつて旭の家で見た数とは比べものにならない量だった。まぁこれが本業なのだから当たり前なのだが。

「初めてみるだろ?これが現場の基本だぜ?」

 ニカっと笑って下準備をする洋介と、現場の基本達と、自分が買ったラチェットレンチを見て、由美と翔子はなんだかとっても申し訳なくなってきた。

「よし!それじゃあ由美ちゃんのゼファーを今から治していこうと思う!」

 準備を終えた洋介が勢い良く言うと、皆洋介の方を向いた。

「しかし重大な問題も生じている!」

「重大な・・・!?」

 大げさに由美を見ながら言うと、由美は不安そうな表情でぎゅっと拳を握り締めた。

「うむ。みんな集まってくれたのはいい。それぞれ使えそうな部品の提供もあるし、バイクは治るのだが・・・」

 そこで一旦句切る。そして困ったように集まってくれた全員を見た。

「作業内容に対して人数が多すぎるのだ」

 そう言って、ゼファーをよーく見てみる。確かに壊れてはいるがどれも軽症。昼間に1人でやっても最後は日が暮れる前に洗車も出来てしまいそうなくらい時間がかからない。そんなバイクに総勢10名もの人数が集まった。はっきり言えば無駄なのだ。

「確かに・・・これなら私が出ても邪魔になるわね」

「私はタイヤでもみがいてあげやう♪」

 せっかく来たのにあまり役に立てないとわかり落ち込む真子と、出来ればあまりメカに触ってもらいたくない美春が言う。一方由美は洋介の話を聞いてホッも胸を撫で下ろしていた。

「本当によかったわ・・・軽症で・・・」

「洋介さんが言うなら間違いないね」

 圭太も由美のゼファーをみて一安心。どうやら心配するほどでもなさそうだ。

 集まったみんながガヤガヤ話していると、洋介が手を上げた。

「そーゆーわけで、オレ、旭、由美ちゃん以外の中からゼファー修理チームをじゃんけんで3人決めようと思う!」

「じゃんけん・・・これは勝たないと・・・」

「勝負事なら全てに全力!!早くじゃんけんしようぜ!!」

「凛お姉ちゃん・・・はぁ」

 じゃんけんと聞いて、何を出すか考えだす翔子。横では双子姉妹が熱くなっていたり冷めていたり。

「私も協力したいなぁ」

「じゃあ私とちーちゃんで勝ち抜こう♪」

「千尋はともかくオメェは負けとけ」

 旭が冷静にツッコミを入れると、洋介が「行くぜ」と言ってじゃんけんを開始した。

『出ーさなきゃ負けだよ最初はグー!じゃんけんぽんっ!!』

「あ・・・」

 己の拳を見て声を上げたのは美春だった。美春の渾身のグーは、全員のパーによって握り潰された。

「負けちゃったよぅ・・・」

「負けろとは言ったけど・・・この人数で1人負けってオメェ・・・」

 旭が突っ込むと、1人へこみながら輪を離れる美春。勝負は2回戦へ。

『出ーさなきゃ負けだよ最初はグー!じゃんけんぽんっ!!』

「負けた・・・!」

「僕も・・・」

「私もです・・・」

 今度は真子、圭太、紗耶香が抜けた。これで勝ち残ったのは丁度3人・・・

「由美さんやりましたよ!!」

「よっしゃあ!」

「おにーちゃん!勝った勝った♪」

 翔子、凛、そして千尋がゼファー修理選抜チームに選ばれた。

「やっと恩返しが出来ます!」

「そ、そんな気にしないでよ!今日だって十分だったわよ?」

 嬉しくてテンションが高くなっている翔子をなだめる由美。凛は1人勝利の舞いと称す変な踊りを踊っていた。

「勝ったー勝ったー♪勝ったぜわっしょい!」

「恥ずかしいから他人のフリだ」

「うん・・・」

 頼れる姉と双子の妹に無視されていることにも気付かず、凛はくるくると踊り続けた。

「おにーちゃん!私もやっと役に立てるよ!」

「よかったじゃねーか。ま、足引っ張んなよ?」

「いいなぁちーちゃん・・・」

 そんなこんなで話がまとまるといよいよ作業開始となった。まずは1番時間の掛かるサイドカバーから。これには旭、千尋、由美が充たった。

「割れちまったサイドカバーはこれで全部だな」

 真っ二つになったサイドカバーの残骸と固定用の爪の破片を見て旭が言う。

「コイツはまずサイドカバーをマスキングテープで固定して位置合わせからすんぞ」

 まず2つに割れた本体を合わせる。ぴったりになったらそこから千尋の出番だ。

「千尋、オメェこれを今から貼ってくれ」

「わかったぁ!」

 元気に返事をすると、表から数センチ毎にちぎったマスキングテープを貼りつけていく。これをちぎらずにセロハンテープのように貼ると強度不足により固定作業中にズレるのだ。またマスキングテープの無駄使いにもなる。均等に貼り終えると、合わせ目を見てみる。

「目の前で見るとわかるけど、少し離せばまるで新品ね!」

 由美がホッとして呟くと、ここからが作業の本場になってくる。旭は由美から受け取った紫外線硬化FRPを袋から出した。それをハサミで切って手に持つとサイドカバーを裏にした。

「で、今からコイツを貼っていくが・・・まず綺麗に貼ることが重要だ。あと爪の近くにはあんまり貼んなよ?フレームとかにハマって上手くつかねーかしんねーし。それとFRPは出来るだけ重たくすんなよ?」

「任せてよ!私、美術は5なんだ!」

「ゼファーちゃんを復活させるんだから・・・!慎重にやるわよ!」

 2人がFRPを貼りつける作業に入るのを確認してから旭がゼファーを見ると、向こうでは洋介、翔子、そして凛が何やら作業していた。

「曲がったステップはとにかく曲げ直すしかない。幸いあんまり酷くは無いからすぐに治るな。翔子ちゃんと凛ちゃんは右側に立って単車押さえて!」

「は、はい!」

「任せろ!」

 言われたようにバイクの右に立ってハンドルを握る。すると洋介はどこからか長い鉄パイプを取り出した。それをステップに差し込むと2人に合図した。

「いっせーのせ!!」

 掛け声とともに鉄パイプに力を入れると、サイドスタンド側に引っ張られ転びそうになる。フロントに翔子、リアのクラブバーに凛がしがみついて車体を押さえ付ける。そして力作業に時間を掛ける洋介では無い。テコの原理で押されるステップはものの数秒で元の位置に戻された。

「よし!我ながら綺麗に戻せたな!!」

 足を掛けてクラッチペダルを操作してみる。足の甲はぴったりとペダルの裏に当たっていた。

「1回で元まで戻しちゃうなんて凄いです!!」

 翔子が感激しながら言うと、誉められた洋介は気分が上がったのか豪快に笑った。

「翔子ちゃん、あんましソイツ担ぎ上げんなよ?調子乗っから」

 旭がボソッと言った。

「んじゃ、サイドカバーは硬化待ちだな・・・洋介、オメェ次何やんよ?」

「そだな・・・ウィンカーでもやるかな」

「わあった。純正だべ?ステーなら袋に入ってっから」

「おう」

 短い会話で次の作業内容が決定した。これなら早く作業が終わるかもと由美が胸に期待を膨らませていると、表から真子のマッハの排気音が響いてきた。

「なにやってるのかしら?」

 見ればマッハに跨がった真子が圭太になにやら話している。かなり気になるが、今は自分のバイクを治すのが先決。今すぐ飛んでいきたい気持ちを押さえて作業に集中することにした。

 さて、旭を見れば袋から何やら取り出した。金色に光る丸い円盤のような部品だ。

「由美ちゃん、この傷気になんねぇ?」

 言って、旭が指を指したのは現在取り付けられている純正のジェネレータカバー。転けた際に強く打ったのか削れてしまっている。

「別に換えたくなきゃいいんだけどよ?ドレスアップも兼ねてコイツに換えてみんのもアリかと思ってよ?」

 そう言って差し出したのはBEETのジェネレータカバーとポイントカバーだ。フィンがついていて浮き彫りで『BEET』と書いてある。

「いいの旭さん?こんな高そうな部品もらっても・・・」

 さすがの由美も遠慮がちにたずねると、旭はどうでも良さそうに頷いた。

「オレは使わねぇしな。役に立つんならその方がいいしよ」

 ぶっきらぼうに言うと、由美は両手放しで喜んだ。

 一方・・・



「次は負けませんよ!えい!」

 カーン

「甘ぁい!てややぁ!!」カーン

「わあ!またやられましたぁ・・・」

 暇になった美春と紗耶香がこの時期に何故か羽子板をしていたのは、修理とは全く関係無い。





「じゃあちゃっちゃかやんべ!ハンマーと貫通ドライバー借りんぜ?」

 言いながら工具箱の中から2つを取り出す。旭は左のジェネレータカバーの取り外しから取り掛かった。

「緩めて外すだけだかんな。ただ事故った時にネジ締まってっか知んねぇから貫通ドライバー当てて・・・」

 言ってハンマーでドライバーの柄を打った。軽く2、3回打つとハンマーを地面に置いてネジを緩めた。

「一定方向に衝撃を加えると簡単に取れんだよ。やってみ?」

 由美にハンマーと貫通ドライバーを手渡す。

「これを叩くのよね?」

「あぁ。ただクランクケースはアルミだからネジ山ナメたらオシャカな」

「ゴメンなさい、任せるわ」

 オシャカと聞いてビビった由美は工具を旭に返した。千尋を見ると千尋も首を横に振った。はぁとため息をして旭は残りの作業を続けた。

 洋介も折れたウィンカーステーを交換し終えたらしい。今はフロント周りを中心にガタが出ていないかチェックしている。

「目視で大丈夫でもいざホイールを外してみるとベアリングとかシャフトにダメージがあることがあるんだ。まぁこの程度の転倒なら大丈夫だけど。押した時もブレーキの引きずりも無いし・・・」

「でもホント良かったよなぁこの程度の傷で。昨日スゲー落ち込んでたし」

 昨日の由美の絶望具合からしてどれほどの大破だったのかと思っていた凛が呟く。

「ま、愛車が傷ついて落ち込まないヤツはいないってことだな」

「そうですね」

 洋介が言うと翔子も頷いた。




 ここからはもう簡単な作業のみだった。曲がったブレーキレバーにメガネレンチを掛けてテコの原理の応用で曲げ直したり、ジェネレータカバーやポイントカバーの交換等。ハンドルやフロント周りにダメージは無く、衝撃でズレたヘッドライトを戻したら作業は終了。

「よっし・・・光軸調整までしてねーけどなんとか終わったな。後は・・・」

「・・・ゼファーちゃぁん!」

 作業が一段落して洋介がつぶやくと、それを遮るように由美がゼファーのシートの上から抱きつきながら叫んだ。

「由美ぃ、まだ最後の仕上げが残ってんだろ?」

 まだ仕上がっていない場所を指さして凛が笑う。もちろんバカにしているわけでは無く、愛車の復活に喜ぶ由美の笑顔が本当に幸せそうだったからである。

「今日は珍しく快晴だったかんな、サイドカバーのシートも上手く硬化したし・・・これで総仕上げだ」

 旭が先ほど固めたサイドカバーを取り出した。ガリガリになったエンブレムは交換も考えたが、由美の反対と、どうせ替えもないのでそのまま装着した。

「じゃあ由美ちゃん、最後任せんわ」

 サイドカバーを渡され、それを受け取る。少し真ん中にヒビが入っているが少し離せばわからないレベルまで修復出来た。由美は改めて傷だらけのエンブレムを見て感謝した。

 そしてフレームの上にある爪をかける場所に、紫外線硬化FRPシートで補強し直した爪を掛けた。上手くハマり、そのまま固定する。サイドカバーは見事にその幅に納まった。

「よっし、まぁまぁの出来か?」

「由美さん!ゼファー、治りましたね!!」

 フィッティング具合を確認する洋介と、由美の腕にしがみ付いて喜ぶ翔子。千尋も満足そうに頷いているし、他のみんなも改めて修理の終わったゼファーを見つめる。真っ赤な外装に、新たに着けたBEETカバーがまぶしい。

 そんな中、とうの由美はふるふると身体を震わせて立ち尽くしている。そしてそのままゼファーに近づくと・・・

「ゼファーちゃぁん!!」

 またシートの上から抱きついた。

「よかったわ・・・本当によかった・・・!」

 目に涙を浮かべながら愛車に語り掛ける由美。みんなもそんな光景を見て、修理してよかったと思った。

「よかったなぁ由美ちゃん。じゃあ工賃合わせて金額出すから待っててな」

「洋介さん!冗談だってそんなのダメですよ!?」

「冗談だって翔子ちゃん。オレがそんなセコい男に見える?」

「オメェはセコい男として有名だろーが」

「セコいーセコいー♪」

 洋介達が冗談を言い合いゲラゲラと皆で騒いでいるとき、圭太を探していた由美は辺りを見回すと凛と紗耶香が工場の出口を見つめてつっ立っているのを見つけた。

「なにしてるのよ2人とも!凛ちゃんも紗耶香ちゃんも今日はありがとうね!!ところで圭太は?」

 笑顔で2人の肩を叩きながら辺りを見回す。

「圭太・・・?さらわれたぞ」

「え?」

「真子姉さんがマッハに乗せて・・・さっき」

 紗耶香が指をさすと、真子のマッハがいつの間にか無くなっている。

「な、なんで!?圭太が真子さんと!?」

 慌て道路に出てみるが、マッハはすでに見えない。消えかけの白煙だけがわずかに残っていた。先ほどからマッハのエンジン音は聞こえていたし圭太が真子と話していたのも知っていた。作業に集中していたので気にしていなかったのが仇となった。

「あの・・・私止めたんですけど、『5分で帰ってくるから』って・・・」

「どこ行ったのよ!?」

「わ、わからないですよぉ・・・」

 由美の目線にビビりまくる紗耶香。その時、道路の向こうから明らかに近所迷惑な白煙と爆音を上げて近づいてくる1台のバイク。だんだんとギヤを落としていき、工場の前に滑り込んできた。

「姉貴〜、どこ行ってたんだよ」

 マッハから降りた真子に凛がたずねると、長い髪を手でかき分けながらヘルメットをミラーに掛けた。

「少しな、圭太君を乗せて走ってきたんだ」

「いやいや、それはわかってるっての」

「ちょっと圭太!なんで真子さんに誘拐されてるのよ!!せっかく私のゼファーちゃんが治ったって言うのに!!」

 一緒に降りた圭太に由美が食って掛かる。紗耶香が止めようとするめ、その剣幕に退くしかなかった。そんな暴れトラの様な由美に、圭太はなんとか落ち着いてもらおうとコトの経緯を説明しようとした。

「ち、ちょっと落ち着いてよ由美っ・・・!」

「落ち着いてるわよ!!なんで真子さんと一緒にどっかいっちゃうのって聞いているのよ!!」

 が、そんなコトで収まる怒りでは無いらしい。たかだか数分とはいえ、自分の愛車が治った時にその場にいなかったことに憤慨していると、横から真子が現れた。

「圭太君と話していてね、興味があるみたいだから、ちょっと乗せてあげただけ」

 さらりと言うと、真子はビシッと由美を指さした。

「あなたは圭太君の幼なじみでしょう?勝手に離れたのは悪かったけど、そんな敵を見るような目で見られる筋合いは無いわ」

「な!?い、言わせておけば・・・!!」

 睨み合う2人。本人達も忘れていたが2人は圭太を取り合うライバル同士。抜け駆け(?)されたことに怒り心頭の由美が口を開こうとした時、向こうでガヤガヤしていた美春達も何事かとやってきた。

「どしたのゆーちゃん。ナニやら怪しい雲行きだよ・・・?」

「どーせアイツがらみだべ?ったく」

 旭がため息をつく。

「どどど、どうしましょう・・・あっ!」

 先ほどから隅で事情を聞いておどおどしていた翔子が、ケンカも終わらせられて楽しくなれるアイディアを思いつき、2人の間に入った。

「あの、由美さんも真子さんも!ちょっと待ってください!!」

「なによ!?今から真子さんと勝負するんだから!!」

「ふっ・・・私のマッハに勝てるのかしら?」

 熱くエスカレートする2人。正直翔子は泣きたくなったが、なんとか堪えて渾身のアイディアを口にした。

「こ、これからバイクを取り替えっこして乗ってみませんか・・・!?」

「「はい?」」


大変遅れてしまいました、3気筒です!

最近、あの大地震の影響で計画停電などで不便ですね汗

ガソリンもありません。今はなんとか入れられるようになりましたが、被災地などではまだ足りていないのが現状。ガソリンが無ければ走れないバイク、もう冬は越しましたがまだまだ春は遠いようです。

ただ、今回震災の影響のあおりを受けてどこにも走りに行けない中、旧車物語のメンバーは今日も楽しく走っておりますので、よろしかったら見てやってください汗


これからも一層頑張っていきますので、宜しくお願い致します。

3気筒

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