第33章 ろくでなしーずの逆襲!?勉強会!!
「ふぁ〜あ・・・」
朝の教室で、由美がそれはそれは見事なあくびにした。昨日のツーリングチーム結成会議が終わった後、その日は皆解散。また別の日に機会を設けて話を進めることになったのだが、由美は家に帰ってからもずっとチームの事で頭がいっぱいに。文字どおり宿題など放って夜遅くまでチームの今後を考えてはニヤニヤ笑っていたためあまり寝ていないのだ。
「ちょっと由美ぃ?あんたも女の子なんだから少しは遠慮とかしなさいよ」
近くにいた友達の女子生徒に注意されるが、由美は構わずに語りしだした。
「バイクに乗らないタエは、今の私の幸せな気持ちを知らずに生きていくのよね・・・可哀相に・・・」
「宿題もやらず授業中も寝てばっか・・・あくびもデカくなるならバイクなんて乗らないわよ」
「それは昔からだって、中学から一緒だから知ってるでしょう?」
「・・・・・・自覚はあったのね」
そんなこんなで、タエと呼ばれた女子生徒はどこかへ行ってしまったが、これはいつものコトである。由美はそんな女子生徒に手を振って・・・寝だした。
「と、いうわけで。来週は待ちに待った中間テストだ。みんな普段から真面目にやっていれば、簡単な話だよな?」
日本史担当のハゲ川が黒板の前で生徒1人1人を舐めるように見ながら言う。
「が・・・しかしだ。真面目にやっていない者もたくさんいるのも、また事実・・・可哀相に、そういう生徒は次の中間テストで痛い目を見ても仕方が無いよなぁ?」
言って、ハゲ川が個人的にブラックリストに乗せている生徒数人を見ながら言った。その中には、今もボーッとしている由美も含まれる。そんな由美を見て、ハゲ川は集中攻撃・・・吊し上げの敢行を決定した。
「中山のノートを丸写しにしてるような奴ではそうなってしまうよなぁ、三笠?」
挑発するように言った。何故か名前を出された圭太は、ハゲ川の由美に対する集中攻撃を見て「また始まっちゃったよ・・・」と呟く。まぁ、日本史だけなぜか不真面目な由美を目の敵にするのも自然な流れかもしれないが・・・。
一方、話を聞いた由美はボーッとしていたかと思うと、不敵に笑った。
「・・・タエのも写してます!」
しばし沈黙。そして
「・・・・・・うるせぇバーカ!!」
ハゲ川がキレた。
「お前・・・!罰として今日から中間テストまで課題を毎日3枚だ!!1枚でもやってこなかったらその場で居残り+今までやったプリント全てやらせるからなぁ!!」
きしゃー!!と少ない髪を振り乱しながら言う。それを見て、生徒全員が「またハゲ川祭りが始まったよ・・・」とため息。
しばらく発狂していたハゲ川だったが、運良く終業時間が来た。ハゲ川は由美のいる列にすわる男子生徒に「三笠に渡せ」と言ってプリント3枚を渡して足早に教室を出ていった。
ハゲの居ぬ間になんとやら・・・圭太は由美の席に歩いていった。
「ほら見ろ由美・・・とうとう罰もらっちゃったじゃないか・・・」
因みに今までこの被害に遭った人数は由美を除く5人。
「大丈夫よ・・・日本史なんて楽勝よ楽勝」
言いながら今しがた配られた課題プリントを見る。そしてぐったり。
「はぁ・・・嫌になるわね・・・」
「自業自得」
因みに由美の日本史の成績は万年2。どうにも苦手な科目らしい。
「来週のテストまで毎日プリント3枚・・・はぁ・・・」
そうして由美は、仕方なしにシャープペンを手に取り・・・・・・圭太のノートを強奪してプリントを開始した。
そしていつものように放課後がやって来た。圭太は自分の荷物を手に持ち由美の席に目を向けると、由美は机に突っ伏していた。
「どう?さっきの課題」
言いながら圭太が上からのぞき見れば、1枚のプリントは出来上がっていた。
「なんとか1枚・・・はぁ」
シャープペンやプリントをカバンに雑に入れてため息。残り2枚のプリントが恨めしい。自分で巻いた種だが・・・
「もう!こんなプリントの相手してる場合じゃないのに!!」
「でももうすぐテストだし・・・僕達も受験生だし頑張らないと」
圭太が慰めるように言うと、由美は「あ」となにかを思いついたようだ。
「じゃあ今日一緒に勉強会しましょう!?2人でやったらお互いわからないところとか一緒に出来るわよ!」
由美がニコニコ提案する。まぁ、圭太のお知恵拝借&丸写しが目的なのだが・・・
そんな由美の良からぬ企みを長年の経験から読み取った圭太は首を横に振った。
「やめておく・・・今まで一緒に勉強会とかいって由美が真面目に勉強したところ見たことないし」
「な、なによ!私がダメな子みたいな言い方しないでよ!」
「いや・・・ダメな子な気がする・・・」
すると怒った由美はむくれっ面で席を立つと、「もういいわよ!」と言って圭太をにらむ。
「そこまで言うなら私の本気を見せてあげる!次のテスト見てなさいよ!?圭太なんかに頼らなくったって絶対に良い点取って見返してやるんだから!!」
そう怒鳴ってから、先ほど強奪したノートを圭太に渡して由美は教室を出ていった。
「そ、そんなに怒ることかな・・・」
一方、教室に置いていかれた圭太はぽつりと呟くしかなかった。
「よし・・・!それじゃあやるわよ!!」
家に帰宅した由美は制服を着替えもせずに真っ直ぐ机に向かった。が、すぐに立ち上がりどこかに電話をしはじめた。
「あ、もしもし?ちょっと聞きたいんだけど、美春ちゃん高校出てるわよね?・・・うん、日本史わかる?あと数学と・・・うん、まぁいいわ。暇なら手伝って欲しいのよ!・・・えぇ、場所は・・・」
家の住所を相手に伝えて、電話を切った。
「次は・・・」
そしたまたどこかに電話を掛けはじめた。
「あ、もしもし?実はお願いが・・・え、今大学なの!?・・・え・・・凛ちゃんもテスト期間で・・・?・・・もうなんでもいいわ!助っ人が欲しいから!!」
そしてまた住所を伝えてから電話を切った。
「見てなさいよ圭太・・・!絶対に見返してやるんだから!!」
由美は不敵に笑いながら部屋の窓から見える圭太の家を見て言った。そして・・・先ほど玄関から取ってきたセファーのキーを1番下の引き出しにしまって鍵を掛けた。
「今日からテストまでの1週間・・・!ゼファーちゃんには乗らない!!禁ゼファーちゃんするわよ!!」
由美の決意は固かった。拳を握り締めて禁バイクを誓った。が・・・
「・・・最後にゼファーちゃん見ておくくらい、いいわよね・・・?」
自分以外に誰もいないのに、誰かに言い訳するように呟いてこそこそ部屋を出ていった。
カァンカァン!!バリバリバリバリ・・・!!
由美の家の前に、ショットガンチャンバーの爆音と白煙を響かせ、ブルーのサンパチが停車した。
「ハローゆーちゃん♪ないすばでーの美人かてーきょーし!美春お姉ぇさんが助っ人にやってきたお♪って・・・なにしてるのぉ?」
相変わらず地球と逆回転で世界が回っている美春がなにかタワけたコトを吐かすと、そこには愛車ゼファーの横で耳をふさいでいる由美がいた。
「み、美春ちゃん!早くバイクのエンジン切って!!」
「あれれ・・・?そんなにうるさいかなぁ?ゆーちゃんの直管と同じくらいだけど・・・」
言いながらサンパチのキーを捻りキーシリンダーからキーを抜く。爆発が終わったエンジンは走行熱でキンキン言っている。
「私・・・テストまでの1週間、禁ゼファーちゃんすることにしたのよ!でもバイクの音を聞くと・・・!」
美春の胸ぐらに縋りついて、今にも泣きそうな情けない顔で言った。
「走りたくなっちゃうのよぉ・・・!!」
「ちょ、ゆーちゃん落ちついてぇ・・・!!」
いつもは落ち着かされる側の美春が由美を落ち着かせる。なんとか落ち着くと、ぜぇぜぇと息を切らしている。
「身体に毒だよぉ?無理しちゃダメだよぉ・・・?」
美春が心配して言うと、由美は首を横に振った。
「ダメよ・・・!絶対に圭太を見返してやるんだから・・・!!」
言って、由美は自分から見えなくさせるためにゼファーにカバーを掛けた。
「だから・・・今日から勉強漬けよ・・・!!!!」
「よぉしわかった!私も出来る限り協力してあげやう!!」
由美と美春ががっちり握手する。なに、たったの1週間、なんでもないさと2人で言っていると、遠くから特徴的な爆音が響いてきた。
ブァッパァーン !!コァンコァン!!
「よう由美!オレも来週テスト期間なんだ。今日から1週間勉強しようぜ!」
真っ赤なタンクにレインボーラインをあしらった細身のマッハを停車させて、凛が現れた。
コァンコァン・・・!!
凛が数回アクセルを吹かす。すると・・・
「あ・・・あ・・・あーーーーーっ!!」
由美が発狂した。ゼファーのカバーを掻き毟るようにしてしゃがみ込んでいる。
「あ?どうしたんだよお前・・・」
「リンリン!早くマッハのエンジン切ってぇ!!」
美春が由美をかばいながら必死の形相で叫ぶと、事情を知らない凛はただ事では無いと、とりあえずエンジンを切った。
「なるほど『禁バイク』かぁ・・・」
その後、由美の家の駐車場にバイクを並べてから部屋に上がって、ようやく凛は納得した。
「しかしなぁ、由美がそこまで言うなんで・・・圭太とケンカでもしたのか?」
凛がたずねると、由美は首を横に振った。
「ケンカなんてしてないけど・・・悔しいから見返してやるのよ!」
「はぁん・・・まぁいいや。とりあえず勉強しようぜ勉強!」
言って、凛はカバンの中から大量のプリントを雪崩のように出した。
「どうしたのこのプリントの山・・・」
美春がたずねると、凛は投げやりに言った。
「これ全部課題だ・・・はぁ」
「こ、こんなにあるの・・・?」
由美が1枚手にとって内容を読む。問題自体は簡単だが、なにより量が半端では無い。例えるならマリオでノコノコが100匹出てくるくらい面倒だ。出てこないが。
「紗耶香は頭も要領も良いから余裕なんだけど、オレは頭悪いしサボり屋だからさ・・・」
ふぅ、とため息。が、いつまでもへこたれてはいられない。由美達は気合いを入れて勉強することにした。
「ねぇ美春ちゃん。ここがわかんないんだけど・・・」
開始5分。早くも由美が美春に質問した。
「ん?どれどれ」
言いながら、美春は由美のノートを覗き込む。つい数ヶ月前まで同じ女子高生だった美春はノートを見てうーん、と唸る。
「織田信長が城下町に作った・・・なんだったかしら?」
由美がたずねると、美春はニコニコしながら言った。
「そういえば、いつかの大河ドラマに出てた織田信長って、ちょっと役者が合ってなかったよねぇ・・・」
「あぁ、〇〇〇〇でしょ?確かにあんまり迫力無かったわよね」
「そうか?オレは気になんなかったけどな」
そう言うと、凛はふと気になったコトをたずねる。
「なぁなぁ由美。信長って何城にいたんだっけ?」
すると由美は「そんなコトも知らないの?」と言いたげに自信満々に言い放った。
「信長は大阪城よ!それくらいならみんな知ってるわよ?」
「あぁそうだ大阪城!!」
由美の答えに、凛が大きく頷く。すると美春が「えー、違うよぉ」と言った。
「ゆーちゃん、大阪城は信長じゃなくて秀吉だよぉ?」
「あれ・・・?そうだったかしら・・・」
首を傾げる由美を見て、余裕の表情で美春は言った。
「信長は姫路城だよぉ、間違いないよぉ♪」
美春が胸を張って言う。すると、2人は「おぉ・・・!」と言って拍手した。
「さすが1つ年上なだけあるわね!姫路城なんて名前、頭が良くなきゃ出てこないわよ!」
「あぁ!ただのバカじゃなかったんだな!!」
「いやぁ、もっと誉めてぇ♪」
3人はあははははは!と笑い合いながら話を戻した。
「じゃあその信長がやった政策ってなに?」
由美が再度問題を見せると、美春は少し考えてから言った。
「んー・・・出島!!」
「・・・おぉ!!」
「美春スゲー!!」
そして由美はプリントに「出島」と書いた。
「なぁ由美。この問題の数式がわかんねーんだけど・・・」
次は凛が由美にたずねる。由美がノートを覗き込むと、それは二次方程式だった。
「あぁこれはねぇ・・・こうやって・・・ここをひっくり返して・・・ほら!」
「おぉ!」
由美が導きだした答えを見て、凛は喜びの悲鳴を上げた。
「やっぱ年上の奴と勉強するとわかりやすいよなぁ!!」
「いやぁ、もっと誉めてぇ♪」
美春と同じように調子つく。
しばらく答えを見ずに、皆で協力しあいながら問題を解いていく。
「安土城を作ったのは?」
「大工さんだよぉ♪」
「おおさすが!!」
由美がプリントに大工と書き込む。
「なんかだんだん楽しくなってきたわ・・・!」
「なぁ由美、ここ教えてくれよ?」
「これは・・・3の3乗よ!」
「ってことは・・・9だな!!」
「そう!そういうことよ!!」
この時、3人の少女達は地獄へと堕ちていることにまだ気付いていなかった・・・・・・
「な、な・・・なによこれーーー!!!!」
1時間後、教科書で答え合わせをしていた由美は悲鳴を上げた。
「『出島』じゃなくて『楽市楽座』・・・『姫路城』じゃなくて『安土城』・・・!?ついでに大工じゃないし・・・!!姫路城にいたのは羽柴秀吉!?なんで秀吉が2人もいるのよ!!」
自分の力でやった問題から美春の助言を受けてやった問題まで、ほとんどが間違っていた。ちなみに秀吉は1人しかいない。さらに・・・
「おい由美!!答えが全然全く合ってねぇぞ!!擦りもしねぇ・・・!!」
凛も頭を抱えて悲鳴を上げた。特に凛の数学は間違った数式で解いていた為、1問も合っていなかった。
「ちょっと美春ちゃん!全然違うじゃない!!」
由美がバンっ!と机を叩くと、美春も抗議する。
「そんなぁ・・・!私のせいなのぉ・・・!?」
「おい由美!3の3乗は9じゃなくて27じゃねーか!!」
「なによ!私が悪いって言うの!?美春ちゃんの言うとおりにしたからじゃない!」
「ゆーちゃん横暴だよぉ!」
「あーもう!!またやり直しじゃねーかぁ!!」
ギャーギャー言い合う3人。もう皆さんお気づきだろう。バカは3人集まってもバカ。しかもそれが『ろくでなしーず』なら尚更仕方が無いと・・・
騒ぎは10分後に鎮火。が、3人は机に突っ伏して死にかけていた。
「ははは・・・考えてみたら分かる話しじゃない・・・」
由美が言うと美春と凛も力なく言った。
「いくら私達3人集まっても・・・」
「頭が良い奴がいなきゃ意味がねぇ・・・」
そしてどんよりとした雰囲気の中、重いため息。そんな中、由美がシャープペンを転がしながら呟いた。
「もう諦めようかしら・・・無理してゼファーちゃん封印して、圭太を見返すなんて・・・私には出来ないのよ・・・」
「由美・・・」
弱気になる由美を見て、凛が呟く。すると美春がガバッと起き上がった。
「諦めたらそこで試合終了だよ・・・?」
そして由美の手を取った。
「昔の偉い人の言葉だよぉ?諦めないで、頑張らなきゃ・・・!」
「そ、そうだっけか・・・?」
凛がどこかで聞いたようなセリフに疑問を持つと、美春は立ち上がった。
「諦めるなよそこで!?どうして諦めるんだよ!?もっと応援してくれてる人のこと考えてみろよ!だからこそネバーギブアップ!!」
「ど、どうしたんだよいきなり・・・!?」
いつもの間の抜けた美春とは思えぬセリフと態度に凛が驚くと、美春はまたいつものようにニコっと笑った。
「今日本で1番熱い人の言葉だよぉ♪ゆーちゃん!頑張ろう!負けたら負けだよ!!」
美春が笑うと、由美は一度うつむいて・・・顔を上げた。
「美春ちゃんの言う通りだわ・・・負けたら負け・・・!諦めたら試合終了・・・!!ネバーギブアップよ!!!」
言って、力強く立ち上がって拳を握り締める。2人は由美の背後に龍神を見た。
「ゆーちゃん!!」
「由美・・・!!」
「よし!やるわよ2人とも!!ただ、美春ちゃんは教えてくれなくていいからこれで大きいコーラ買ってきて!もちろん徒歩で!!」
言って500円玉を渡すと、美春は「わかったよゆーちゃん!凛ちゃん!頑張って!」と言って走っていく。
「コ〇・コーラ買ってきてね!?ペ〇シは許さないんだから!!」
由美は走っていく美春に声を掛けた。美春は親指をぐっと上げて去っていった。
「よしやるわよ凛ちゃん!!もう圭太にも真子さんにもろくでなしーずとは呼ばせないために!!」
「よっしゃあ!やってやるぜ!!」
こうして、ろくでなしーずは勉強を再開した。その名を返上するために・・・そして圭太を見返すために・・・!!
次の日から、由美は変わった。授業中はちゃんと授業を聞き、どうしても眠い時には目をセロテープで無理矢理広げて目が乾いても授業を聞いていた。もちろん、ノートもバッチリ取っている。
「ゆ、由美・・・?どうしちゃったの急に・・・?」
おそるおそる圭太がたずねる。が、由美は不敵に笑うだけだった。
由美は決めていた。次に圭太と言葉を交わすのは、テストが返却されてからだと・・・
「美春さんが・・・?」
次の日の夜、圭太のケータイに旭から電話が掛かってきた。
『おぉ、なんでも由美ちゃんの勉強の手伝いって言って、毎日由美ちゃん家通ってんみてーな』
電話の向こうで旭が言った。
『なんでも由美ちゃん。テストが返ってくるまで圭太と口聞かねぇらしい。オメなにやったんよ?』
「いや・・・特に身に覚えが無いんですけど・・・あ」
そこで思い出した。そういえば「見返してやるんだから!」とか言っていた気がする。そして自分が由美を「ダメな子」と言ったことを・・・
『ま、よくわかんねーけど。由美ちゃんが勉強終わるまでチームの話し合いは中止だからよ。じゃあな』
電話が切れると、圭太はケータイを机に置いて窓から由美の家を見る。2階にある由美の部屋には灯りが灯っているが、カーテンは閉められていて中の様子は分からなかった。
「あー!また間違ってる!!」
その頃由美は、答え合わせをして悲鳴をあげる。横には美春と凛が連日の勉強疲れで倒れていた。
「ゆーちゃん・・・」
「もう今日は終わりにしましょう・・・また明日、ここに集まりましょう?」
由美が言う。ちなみに時刻は22時を廻っている。
「わかった・・・また明日頑張ろうぜ・・・」
「そうだねぇ・・・」
凛と美春はそういうと立ち上がり、帰宅準備を始める。
「下まで送るわ」
由美も立ち上がり、3人は部屋を後にした。
「じゃあゆーちゃん、また明日ねぇ!」
「明日は科学頑張るぜ!」
美春と凛が言うと、由美も頷いた。3人は軽く挨拶をして、美春と凛は愛車を押して去っていった。由美に気を遣って、最近では少し離れた場所からエンジンを掛けて帰っていく。
2人が見えなくなるまで見送り部屋に戻ろうとすると、遠くで2台のエキゾーストが響く。夜だと尚更だ。
「・・・ゴメンねゼファーちゃん」
由美は自分の愛車を見つめて呟いた。カバー越しにシートに手を置いて、由美は続けた。
「私が普段から真面目にやっていれば、毎日乗ってあげられるのに・・・」
強がってはいるが、やはり乗りたい。出来るならば今からでもゼファーと共に走り回りたい。そんな衝動に駆られるが、由美はその想いを首を振って振り払った。その時・・・
「由美・・・」
「!?」
いきなり呼ばれ驚いて振り向くと、そこには片想いしている幼なじみ、圭太が立っていた。
「ど、どうしたの圭太・・・?」
なんとか動揺を押さえて冷静にたずねると、圭太はいきなり頭を下げた。
「ゴメン由美!僕が余計なコトを言って無理させちゃって・・・!!」
その声はいつも以上に真面目な、心の底からの謝罪だった。
「旭さんから話を聞いて、由美はゼファーを封印しててみんなも頑張ってるって・・・だから、僕にも手伝わせてくれないかな・・・!?」
そこまで言うと、圭太はまた頭を下げた。
「ち、ちょっと圭太・・・!?そんなに気を遣わないでよ!」
一方由美はそんな彼に驚いて、とりあえず顔をあげるように言うと、ため息をついた。
「全くもう・・・そんなに心配しなくても大丈夫よ?」
「で、でも・・・」
「嬉しいけど、圭太の提案は却下するわ」
「え・・・?」
驚く圭太を横目に、由美はゼファーのシートに手を置いた。
「私はいつも圭太に迷惑をかけていたわ・・・でも今回、みんなで勉強していてわかったのよ。今まで圭太に頼ってばかりで自分から真面目に勉強なんてしたことないなぁ、って」
そこで一息ついてから由美は笑った。
「勉強は嫌いだけど、逃げてたらダメって気付いたのよ・・・授業中寝てばかりで何もしない私に、ゼファーちゃんに乗る資格は無いから・・・だから、今回は私達だけでやりきるまでゼファーちゃんには乗らないし、圭太にも迷惑は掛けないって決めたのよ」
「由美・・・」
由美の決意に圭太が呟く。
「わかった・・・勉強、頑張ってね!!応援してるから!」
「うん!ろくでなしーずの名前を返上してやるんだから!!」
いつもの笑顔で由美が言った。そして、もうひとつ・・・
「ねぇ圭太・・・?お願いがあるの」
「ん?なに」
圭太はなんだろうと思って由美の言葉を待つ。ちなみに、暗くてわからないが由美は真っ赤になっている。
「て、テストが終わって・・・良い点取ったら・・・つ・・・つ・・・ツーリングに行きましょう!2人きりで!!」
由美が言い切ると、圭太も笑って頷いた。
「うん!2人で行こう!」
次の日から由美は、まるで鬼人のようなオーラを放ちながらますます勉強に力を注いだ。今話掛けたら殺されるのではというほどの、まるで旭のように怖い顔でシャープペンを走らせる。
そしてついにテスト最終日前夜になった・・・
「ゆ、ゆーちゃん・・・?」
横に待機している美春がおずおず話し掛ける。すると由美は短く一言だけ言った。
「汗・・・」
「は、はい・・・!」
美春がすばやく由美の顔をハンカチで拭く。そんな由美に感化されて目の前の凛もかなり気合いが入っている。
「美春、消しゴム」
「はい・・・!」
「美春ちゃん、マーカーの赤」
「はいはい・・・!!」
そしてそんな2人に扱われる美春も頑張って2人のサポートをする。由美は数学のノートをパサりと閉じて美春に言った。
「美春ちゃん、コーラ!」
「はい・・・!て、あれ・・・?もう無い!?買ってくるよぉ!!」
「コ〇・コーラだぞ!」
「わかってるよリンリン♪ちょっと待ってねぇ!!」
笑顔で部屋を飛び出す美春を見送り、2人はまた机の上に広がる地獄に視線を落として再び勉強を開始した。
しばらくして美春が帰ってくると、コンビニの袋の中にはコーラの他に栄養ドリンクやチョコレートも買ってきていた。
「コーラにもカフェインが入ってるんだけどコーヒーみたいにそこまで入ってないから、もし眠くなってきたら栄養ドリンクだよ?あとチョコレートにもカフェイン!!それに勉強中に甘いものを食べると頭の回転が良く回るようになるんだぁ♪」
チョコレートを割って由美と凛の目の前に置いた。
「ありがとう美春ちゃん!さすが救急担当ね!」
「ちょうど今甘いものが欲しかったんだ!サンキュー美春!!」
2人は美春にお礼を言うとチョコレートを一口頬張り、その後に栄養ドリンクを1本煽った。味的には最悪の組み合わせだが、ここまで来たら背に腹は代えられない。
「だけど由美?もうすぐ深夜0時だぜ・・・明日のこと考えたら2時までが限界・・・大丈夫かな?」
凛がたずねると、由美は不敵に笑った。
「なによ凛ちゃん、弱気なの?」
「な・・・!?バカ、自信満々だぜ!?」
凛がクマだらけの目を擦る。ここにいる3人はこの1週間毎日勉強漬けで実際はかなり辛いのだが、それぞれの瞳に輝く光を見て3人は言った。
「「「まだ2時間ある・・・!!」」」
そして少女達は再び勉強に集中した。由美が今やっているのは、日本史。全ての元凶が最終日の、それも最後にやってくることになるとはと内心笑った。
「やってやろうじゃない・・・!!」
言って、最終チェックに入る。歴史で重要なのは年号と名前とあらゆる政策だ。そこを押さえれば確実なわけだ。由美は資料集片手に年号を確認。凛も明日は数学がある。些細なケアレスミスに気を付けて、文章問題などの応用をひたすら繰り返す。美春は由美には日本史の問題や、同時に行われる英語のテストに備えて単語帳から問題を出し、凛に対しては数式の確認や同時に行われる古文の勉強に付き合った。が、集中しているときほど時の流れは早い。時間はあっという間に深夜2時を過ぎて気が付けば3時を指した。3人はシャープペンや消しゴムを放り投げて一息ついた。
「あうぅ・・・疲れたよぅ・・・」
「こりゃあ完璧に腱鞘炎になるかもしれねぇ・・・」
美春と凛が自分の体を揉み解しながら呟くのを見て、由美はふぅ、と一息ついてから美春を見た。
「ありがとうね美春ちゃん・・・私達の勉強に付き合わせちゃって・・・」
由美が頭を下げる。すると美春はニコッといつもの笑顔で由美の肩をポンッと叩く。
「私こそありがとうだよぉ!もう2度と勉強なんてしないだろーなーって思ってたから、また勉強したら久しぶりに楽しかったよ♪」
えへへ♪と笑う美春に由美は「ありがとう」ともう一度お礼を言ってから、今度は凛に頭を下げる。
「凛ちゃんも・・・手首辛かっただろうけど、今日まで付いてきてくれてありがとう!」
すると凛は右手首に巻かれたテーピングと、その下にある湿布を撫でながら笑った。
「それはオレのセリフだぜ?お前が軽く腱鞘炎になって手首に湿布して、それでも勉強を続けたからオレも続けられたんだ!!」
言って、2人はテーピングを見せ合う。2人のテーピングにはマーカーで『目指せ100点満点!!』と書かれていた。
「普段寝てばかりでいつも圭太に迷惑掛けて・・・みんなからは『ろくでなしーず』なんて呼ばれたけど・・・!!」
そこで句切って、由美は皆を見つめた。
「私達だってやれば出来るんだって・・・みんなに見せてやりましょう!?」
「うん♪」
「まかせろ!」
そして3人は笑いあった。ここまでやって、ダメなハズは無い。由美も凛も今日までのテストで不安な場所も特に無い。後は最後までやり抜くだけだ。
「それじゃあ明日は最終日!!頑張りましょう!!」「おぅ!!」
「応援するよぉ♪」
「たたいまぁ・・・」
由美は家に帰ってきた。
そのまま部屋に上がり、制服も着替えずにフラフラと机に座ってカバンからノートを取り出してからふと気付いた。
「そうだ・・・今日は美春ちゃん達、来ないんだわ・・・」
今日までの努力の証が消しカスや破れたノート、栄養ドリンクの空き瓶などで型を残している部屋を見渡して由美は笑った。
「明日・・・明日のテスト返却で全てがわかる・・・」
由美はそのままバフっとベッドに身体を預ける。天井を見つめながら、今日のテストに不備が無かったかを何度も確認する。が、やはり大丈夫だ。由美は目を瞑るとすぐに寝息を発ててしまった。由美の寝顔にはどこか達成感があった。
そして運命のテスト返却日がやってきた。この学校のテスト返却方法は、最初の授業で担任教師が全教科のテストを返却。間違えた箇所の疑問や採点ミス等は担当の教師に後の時間にたずねるというシステムだ。
「えー、次、三笠」
「ははははは、はい・・・!!」
今の今まで指を組んで祈るようにしていた由美がすっとんきょうな声を上げて担任から答案用紙の入った封筒を受け取る。由美は震える手で封筒の封を開けた。
「由美・・・」
圭太が声を掛けると、三笠はガチガチに固まっていた。
「けけけけけ・・・圭太ぁ・・・どうしよう・・・」
「どうしようもなにも・・・」
圭太が言うと、由美は首を横にブンブン振った。
「見るのは放課後Yesterdayに行く前に美春ちゃんと凛ちゃんとウチでするんだけど・・・・・・もし低かったらどうしよう・・・!?」
「大丈夫だよ、あんなに頑張っていたんだから」
圭太が励ます。ここ1週間・・・由美の努力を見ていた圭太は断言した。
「とにかく・・・今日はYesterdayにみんな集まるからそこでみんなに自慢するくらいの勢いで大丈夫だよ!自信持って!!」
圭太が言うと、由美は「そうよね・・・!」と言って封筒を握り締めた。
「あんなに頑張ったんだもの・・・!!絶対大丈夫よ!!」
そしていよいよその時が来た。
「みんな・・・準備はいい・・・!?」
「うん・・・!」
「頼むぜ・・・!」
由美達は由美の部屋でそれぞれのテストを持って集まっていた。見届け人として圭太もその場にいた。
「じゃあいっせーのーせ!で出すわよ・・・?」
緊張に包まれた雰囲気の中で由美が言うと、2人は頷いた。そして・・・
「「「いっせーのーせ!!!」」」
3人が言うと、由美と凛が一斉に答案用紙を机の上に突き出した。全7教科合計14枚の紙が宙に舞い、机に落ちた。
「あ・・・!英語が82点・・・!?」
由美が高得点に思わず声を上げた。他にも見てみれば科学、古文、現文、数学も今まで見たことも無いような高得点だった。
「おぉ・・・!!やったぁ!!見ろよみんな!!数学!!!!」
凛が悲鳴を上げながら皆に答案用紙を見せる。なんと1番苦手科目の数学が80点だった。
「おめでとうリンリン・・・!私も嬉しいよぉ!!」
今日まで2人を支えた美春は、もう泣きそうになっている。そして・・・
「う・・・嘘・・・」
由美が1枚の答案用紙を見て絶句した。その表情は凍り付いていた。
「ど・・・どうしたんだよ由美・・・?」
凛がたずねると、美春が不安そうに呟いた。
「ま、まさか日本史・・・?」
由美は1番不得意な教科・・・日本史の答案用紙を見ていた。圭太も不安になり由美を見つめる。
「ど・・・どうしよう圭太ぁ・・・」
「ゆ・・・由美・・・?」
そして絡繰り人形のようにカタカタした動作で答案用紙を皆に見せた。そして・・・
「ひ、ひゃ・・・ひゃくてん・・・・・・とっちゃった・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
しばし、皆絶句した。そして・・・
「「「「えぇぇぇぇぇぇえ!!!!????」」」」
由美も含め、4人は絶叫した。
圭太は信じられないというように答案用紙を見る。そこには間違いなく『100点』と赤ペンで書いてあった。
「すすすす・・・!!すっげぇぜ由美!?やったじゃねぇか!!!!」
凛が由美に抱きついた。その瞳は濡れていた。
「ゆーちゃぁん・・・!すごいよぉ・・・!!」
美春など号泣しながら抱きついていた。ここまでの苦労を分かち合った3人は抱き合いながら喜んだ。
「み・・・みんなぁ・・・!!ありがとう・・・!!」
由美もボロボロに泣いた。テスト用紙を握り締めて3人は泣き合った。残り1週間と無い状況で今日まで必死に勉強してきた苦労が報われた瞬間だった。
そんな3人を見ていた圭太も、嬉しそうに笑った。
「みんな・・・よく頑張ったね!おめでとう!!」
圭太が言うと、3人は泣きながら頷いた。が、いつまでも泣いていられない。由美は涙を拭くと立ち上がって、今日まで封印していた1番下の引き出しのカギを開けて、中から愛するゼファーのキーを取り出して言った。
「それじゃあみんな・・・!!Yesterdayで打ち上げよ!!おじさんに言ってタダでたくさんケーキ食べて!!明日はこの1週間走れなかった分、たくさん走るわよ!?」
由美が言うと、2人は頷いてキーとヘルメットを持って立ち上がる。圭太も後に続いて部屋を出た。
家を出て圭太がZ400FXを押して由美の家の前に来ると、そこにはキャンディブルーのGT380とレインボーラインのマッハがすでに暖気していた。そして・・・
「お待たせゼファーちゃん・・・やっと乗ってあげられるわ・・・」
初期型の真っ赤なゼファー400改FX仕様に跨がる由美がいた。久しぶりにカバーの外に出て日の目を見るゼファーは光輝いていた。
「行くわよ・・・!」
キュル・・・ボァァァァァア・・・!!
セル一発。ゼファーはショート集合管から爆音を鳴らし、エンジンは歓喜の声を上げる。そのショート管から吐き出される排気音で、由美はまた涙が出そうになる。
「じゃあ行きましょう!?よろしくねゼファーちゃん!!」
「これで気兼ね無く走れるよぉサンパチちゃぁん♪」
「この調子でいつか姉貴のマッハだってブッチぎってやるぜ!!」
3人はそれぞれの愛車の吐き出す音色に何か幸せな物を感じて走りだした。圭太も後ろから付いていく。
「あははははは♪サンパチちゃぁん、ぜっこーちょー♪」
美春が言いながらアクセルを開けて言うと、凛も白煙とオイルをぶち撒けながらマッハを走らせた。そして・・・
「圭太!やっぱり私達にはバイクが1番よね!!」
由美が微笑みながら言った。圭太も頷くと、今まで走れなかった鬱憤を晴らすように楽しげに走る3台のバイク達を見て笑った。
「よかったね・・・由美・・・」
笑顔の由美を見て、誰にも聞かれないように呟いて、圭太もFXを走らせた。
今回もラジオはありません・・・申し訳ないです。
まぁあまり期待している人はいないと思いますが・・・(ぁ
今回のお話、勉強などほとんどしなかった作者が書いたのでどこか間違いがあるかもしれません汗
メインのバイクもほとんど出てきませんでしたが、宜しくお願いします(._.)
ご感想ご指摘、お待ちしております!!




