第28章 楽しいお泊まり会!
お久しぶりです!遅れてしまって申し訳ありません!
すこし遅れましたが、クリスマスプレゼントということでほのぼのとした本編をよろしくお願いします。
あの後、走りだしてから1時間。美春の実家である『真田屋』に着いたのは日も暮れた夕方だった。
「ただいまぁ!」
美春が店先からカウンターの中にいる両親に叫ぶ。
「あらあら、お友達?」
美春の母が後ろにいる由美達を見てたずねる。
「うん、今日みんなでお泊り会するんだ」
美春が笑いながら言うと、母は優しげな笑みを浮かべて了承した。
「始めまして!今日はお世話になります!」
由美が挨拶すると、美春母はニッコリ笑って皆を見る。
「いいのよ、今日はゆっくりしていってね」
「よぉし、じゃあ行こう♪付いてきてぇ!」
美春が言うと、由美達は美春の後に続いていった。
「友達か?」
美春達が家の玄関に向かっているのを見ていると、店から店主である父が出てきた。
「お泊り会ですって」
「そうかぁ・・・友達かぁ」
2人は夜空を見上げて呟いた。
「ここが美春ちゃんの部屋ね!」
「そだよぉ♪」
由美達が案内された美春の部屋は、旭の家より広く約10畳はある。部屋には勉強机、コタツ机、ベッド、タンス、奥にはクローゼットがある。そして本棚にはこれでもかというほどマンガが並べられている。ジャンルもなにもバラバラだが、かなりの量だ。
「美春さん・・・すごいマンガの数ですね」
翔子が本棚にあったマンガを手に取った。
「コジコジからちびまる子ちゃんまでバッチリだよ♪」
「それ作者一緒じゃないですか・・・」
呆れる翔子に美春が胸を張る。まぁ、ほとんどが母の持ち物で、母の部屋はそれこそマンガの図書館のようなのだが・・・
「で、今日みんなで泊まって何する?」
由美が皆を見ながら言うと、紗耶香がおずおずと手を挙げた。
「あの・・・皆さんとお話がしたいです・・・」
緊張しているのか、若干表情が固いが、無理も無い。自分の意志とはいえ、今日初めてちゃんと話したような人の家に急に泊まりに来ているのだ。しかも紗耶香は凛とは違いかなりの、それこそ翔子以上に人見知りするタイプなのだ。頼りになる姉達がいないこの状況では仕方がないかもしれない。
そんな固い表情の紗耶香を見て由美はいつもの笑顔で紗耶香の肩をぽんと叩いた。
「そんなに緊張しなくてもいいわよ?私達には年とか関係ないからね!仲良くしましょう?」
しかし由美に言われても、まだ少し表情は固い。少しはマシになった程度だ。かなり筋金入りの人見知りだ。
しかし、そんな彼女に唯一懐かれている人間がいた。
「私もお話会がいいです。紗耶香さんともっと話してみたいですし・・・」
「翔子さん・・・!」
翔子の言葉に、紗耶香が笑顔を見せた。それを見て由美は笑いながらうなずく。
「じゃあバイク乗りのガールズトークといきますか!みんなもいいかしら?」
由美が言うと、美春も千尋も意義はないらしい。あっさりと可決された。
「じゃあ最初はなにから話すのぉ?」
「みんなとの共通点はバイクだから・・・やっぱりバイクの話かしら?」
「バイクと言えば・・・私最近思ったんですけど、私達の周りにヤマハのバイクに乗ってる人がいないっていうのもいろんな意味でスゴいですよね」
翔子が言う。確かに由美と紗耶香はカワサキ。美春と千尋はスズキ。自分はホンダだ。
「でも私は皆がみんな旧車に乗ってるっていうことの方がすごいと思うわ。まぁ私のゼファーちゃんは平成生まれだけど・・・」
由美が勝手に1人でへこんでいると、美春が千尋で遊びながら笑顔で言う。
「私とちーちゃんは同じスズキなんだよ♪やっぱりスズキが1番だよぉ♪」
「おねーちゃん・・・!くすぐったい・・・」
千尋のほっぺたをぷにぷにしながら笑う。が、そんな美春の発言に、翔子と紗耶香が反論する。
「美春さん・・・?それは聞き捨て出来ません!」
「・・・」←首をコクコク縦に振る。
「確かにGTシリーズは素晴らしいバイクです・・・!でも、当時は普通だった2スト3気筒よりも・・・未来を見越して世の世界に初めて4ストマルチを送り出したホンダが1番スゴいんです!!」
翔子がなにやらいつになく熱くなっていると、翔子の肩を後ろからぽんと叩く者がいた。
「紗耶香さん・・・?」
「違います・・・!翔子さん・・・!」
先ほどまでの固い表情はどこへやら。かなり自信満々な顔で美春と翔子を見る。
「1番は最高時速200キロ、ゼロヨン12,4秒という怪物市販車を初めて世に送り出したカワサキ・・・!これしか無いです!!」
その目には炎がうっすらと浮かび上がっている。そんな紗耶香を見て、翔子はふっといつもの態度からは想像も出来ないような不敵な笑みを浮かべた。
「紗耶香さん・・・あなた、バイクの話になると人が変わるんですね・・・?」
「お互い様ですよ・・・?」
2人がバチバチと火花を散らしていると、由美が復活したのか誰ともなく言った。
「そういえば・・・バイクのメーカーにもなにかこう・・・特徴ってあるのかしら?」
由美の問に、翔子が少し考えてから言う。
「特徴は時代によっていろいろ変わってはいますが・・・いや、基本的にはあまり変わりませんか。人間の性格に例えると分かりやすいんですよ?」
「人間の性格・・・?」
由美が頭上に?を浮かべながらたずねると、翔子はバッグから紙とマーカーを取り出す。そして色を4色使って表のようなモノを書いていく。時折紗耶香に紙を見せて相談しながら書いていく。
「こんな感じですね」
出来上がった紙を皆に見えるように真ん中に置く。由美達が上から覗き込むと、紙には赤字がホンダ、緑字がカワサキ、青字がヤマハ、黄色でスズキの順で以下のように書かれていた。
『バイクメーカー特徴図 性格編』
作 衣笠翔子 赤城紗耶香
・ホンダ
いろいろなユーザーに対応できる幅広いラインナップ展開。技術も高く、対応も良い。デザインも丸い優等生タイプ。
・カワサキ
クセのある車種が多く、乗り手を選ぶことが多い。クランクケースからのオイル滲みとカクカクしたデザインは硬派な性格の証。
・ヤマハ
デザインはおしゃれで色使いが綺麗。昔から流れるような流線型なデザインが多い。お洒落な性格だけどレースは速い。
・スズキ
変態
「こうしてみると・・・確かにメーカーの特徴がわかるわね・・・」
「ですから、乗ってる人の性格もなんとなくわかるんですよね」
由美と翔子が話していると、突然美春が叫んだ。
「しーちゃん!これどーゆーことぉ!?」
美春がある場所を指差す。そこにはスズキについて書いてあるのだが・・・
「これは酷いよぉ!」
残酷な漢字2文字で終わっている場所を見てキレる。
「いや・・・だってスズキって少し変態さんじゃないですか・・・?」
翔子がいうと、紗耶香も深くうなずく。
「サンパチだって、同じレイアウトのマッハや同時代の2ストマシンに比べたらモーターみたいなエンジンとか、他にもRE5とかカタナとか隼とか・・・一癖も二癖もあるというか、変ってるバイクばかり作ってます・・・」
紗耶香の言葉に美春がなんとか反論しようとしていると、由美がぽんと手を打った。
「あぁ!だから美春ちゃんも変態なのね・・・!」
「おねーちゃんを悪く言っちゃダメ!まぁ・・・少し変態だけど・・・」
「確かに・・・美春さんも変態さんですね」
「そうなんですか?確かに少し変態なところもあるような・・・」
4人の攻撃(悪意は無い)を食らった美春は、なにか反撃しようとして開けていた口をパクパクして・・・コロンと倒れた。
「ひ、ひどいよ・・・みんな・・・寄って集って言葉の暴力・・・某ライフ並に酷いイジメだよぉ・・・」
どうやら撃沈されたらしい。ダンゴ虫みたいに丸まって床で不貞腐れはじめる。
「まぁ、スズキと美春ちゃんが変態っていうのはわかったけど・・・」
美春のコトなど気にせず由美が先ほどの図を見ながら呟いた。
「カワサキとホンダは結局、どっちが上なのかしら・・・あ!!」
言ってから由美は急いで口をふさいだ。まさか地雷を踏んでしまった・・・!?恐る恐る翔子と紗耶香を見ると・・・
「・・・!!」
「・・・!?」
2人はかなりニッコニコしながら睨み合っていた。2人の後ろには80年代の近鉄と西武、わかりやすく言えば某マー坊君と某武丸さんが見えているような気がする。
「ま、まぁ・・・分かり切ってるようなコトだと思いますよ・・・?」
翔子が言うと、紗耶香もニッコリしながら呟く。
「そ、そうですよ・・・アタリマエですよね・・・?」
先ほどまでの暖かい雰囲気はどこへやら。傍から見れば2人がニコニコしながら見つめ合っているだけだが、よく見れば背後て守護霊と化した某マー坊君と某武丸さんが殴り合っている。今変に話し掛ければ不運と踊っちまうコト間違いなしだ。
「技術のホンダが・・・負ける訳ないですからねぇ・・・!?」
「陸、海、空・・・全ての乗り物を制覇しているカワサキに勝てるとでも・・・!?」
「強気ですねぇ・・・?」ビキビキ!?
「そちらこそ・・・?」ビキビキ!?
2人は不敵に笑みを浮かべながら見つめ合う。最初に口を開いたのは翔子だった。
「現代のホンダのバイクの性能はCB400SFで確証済みです。教習所での採用率やセールスはそのまま扱いやすい優れた性能を具現化させているんです・・・!」
それを聞いて紗耶香も目を細めた。なにかスイッチが入ったらしい。腕を組んで自信満々に言い返す。
「逆に言えば・・・それほど面白みに欠けるバイクというコトですよね?カワサキの武骨な・・・ゼファーのFXから続く伝統的なエンジンは乗り手との一体感を産み出す・・・ライダーと一緒に成長出来るような素晴らしいモノです。ホンダにそんな真似が出来ますか?」
「・・・っ!?じゃあ言いますけど・・・!それはただ単に新しい技術を身につけていないだけなんじゃないですか!?よくカワサキの音って言いますけど、それって昔から作りが変わっていない、つまり技術の進歩が無いだけでは・・・!?」
「そ、それは方便です・・・!カワサキ特有の音を敢えて消さず、技術も日々進化しています・・・!ホンダなど、新ヨンフォアなんて初代を無視した水冷だったじゃないですか?旧き良きモノを少しでも再現しようとせず、ヨンフォアを語っておいて4本出しマフラーなど、片腹痛いですよ」
「逆にカワサキは過去の栄光にすがり付いていなければ何も出来ないというコトですね?ゼファーもZRXも過去の名車のデザインを踏習して、カラーリングまで揃えて・・・そんなメーカーがあるからバイクの販売台数が増えないんですよ」
「・・・なかなか面白いことを言ってくれますね翔子さん・・・バイク業界の足を引っ張っているのは実はホンダでは・・・?エコに走りすぎて皆が欲しがるようなバイクを作らず、作ったと思ったらビッグスクーター・・・鉄の馬を作る気が無いのなら変なロボットでも作ってたら良いのに・・・ア○モでしたか?」
ゴゴゴゴゴゴ・・・!!!
荒木作品だったらこんな効果音が流れているであろう。2人が睨み合っていると、復活した美春と千尋が見兼ねたらしく、2人の間に入って仲裁を試みる。
「しーちゃんもサヤリンも、熱くなっちゃメッ!だよ?お姉さんのお願いだよぉ、そんなコトでケンカしないでよぉ」
「わ、私も・・・!よく分かんないケド・・・おねーちゃんが言うなら止めたほうがいいよぉ?仲良くしようよぉ?そんなどっちが1番とか、どうでもいいよ・・・」
「そんなコト・・・!?」
「どうでもいい・・・!?」
2人が和やかに言うと、翔子と紗耶香が般若のような顔でキレた。
「ヤンデレとブラコンの変態特殊属性のマニアなお2様は黙っててください!」
「そうです・・・!スズキなんて変なバイクに乗ってる変態にこの議題の重要さがわかるとは思えません!!」
翔子と紗耶香がいつもの控え目な態度から一変。何かに取りつかれたかの様に大声で一喝すると、2人は何か言おうとして・・・またダンゴ虫の様に地面に転がりながらぶつぶつと泣きはじめた。どうやら2人ともしばらく復活する気配は無さそうだ。
そんな彼女達に見向きもせずに、2人の議論は加速。由美は止めるに止められず・・・美春達と一緒に床に転がり始めた。
修羅場と化した美春の部屋で、翔子と紗耶香の討論(闘論?)が終わったのは美春の母が晩ご飯を持ってきてくれた時で、時間にすると由美達が寝転がり始めて30分経った頃だった。
2人とも、先ほどまでの険悪な態度は何処へやら。今では2人仲良くラーメンをすすっている。
「いや〜、紗耶香さん。なかなか話が合いますね」
「そ、そんな・・・翔子さんこそ・・・」
そんな2人をのけ者にされていた由美と、いじめられた美春と千尋が不気味な目で見つめる。
「ふ、2人共・・・バイクの話になると急に熱くなるのね・・・?」
由美がスープを飲みながら2人に言うと、翔子が由美にニコニコしながら話す。
「いえいえ、まだまだ全然普通ですよ?まぁ確かに、バイクのお話になると少しだけおしゃべりになってしまいますが・・・」
遠慮がちに言うが、先ほどの討論はマジだっただろ、と由美はツッコミたかったが堪えた。
「翔子さんとは、多分3日あっても会話が尽きませんね・・・その位話していて楽しいです」
紗耶香も嬉しそうに呟く。姉妹では、真子は仕事や大学が忙しく、さらに真子自信もカワサキ乗りなのでこういう討論自体出来ないし、凛はマッハは好きだが、メーカーに強い拘りも無ければ知識も疎いので論外。紗耶香にとって、翔子はうってつけであった。
「翔子さん・・・そ、その・・・これからも・・・よろしくお願いします」
「こちらこそ」
2人ががっちり握手したその手はオーラを纏っていた。
「まぁ、2人が仲良くなってくれてよかったわ」
由美が苦笑いしながら言うと、今の今まで黙って人生で何度も食べてきたラーメンをすすっていた美春が立ち上がりタンスを空けて、奥に入っていた物を取り出した。
「次はお泊まり会の定番!お酒だよぉ!・・・て痛い・・・」
美春が日本酒を取り出した瞬間、由美がニコニコしながら美春のほっぺたを軽くつねる。
「未成年はアルコール禁止!」
「しょ、しょんにゃ〜!?」
ほっぺたをつねられた美春が反論しようとする。が、由美が日本酒の瓶を奪い取って口を開く。
「いつもいつも美春ちゃんがお酒飲んで苦労するのは私なんだから!これは没収!だいたい、タンスからお酒が出てくるってどんだけお酒が好きなのよ!?」
「いっぱい好き・・・」
「子供か!!」
「浴びるほど飲みたい・・・」
「オヤジか!!」
2人の下らない漫才は皆のどんぶりが空になるまで続いた。
「で、ご飯も食べたし・・・次は何をする?」
由美が日本酒の瓶を持ちながら話す。先ほどまで美春が何度か奪い取ろうと隙をうかがっていたが、由美の気迫に押されて、今では静かにしている。
「そーいえば、みんな好きな人とかいたりするのかなぁ???」
美春がニマニマしながらたずねる。
「しーちゃんは?ナニやらはぐっちとの熱愛疑惑が浮上してるみたいだけど・・・!?」
「そ、そんな・・・!それは皆さんの勘違いでして・・・!!私は別に・・・!」
皆の容疑者を見るような目を受けて、翔子が焦りながら否定する。
「でも羽黒さん、昔からあんな感じで優しいんだよ?翔子さんにはピッタリだと思うんだけど・・・」
千尋が言うと、美春も大きく頷いた。
「あっくんに比べたら身長は少し足んないケド、中身はすごい友達想いだから、しーちゃんと付き合ったら絶対尽くしてくれるよぉ♪」
美春が笑いながら言うと、翔子は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「もう!違うんですってば!私は別に・・・!!」
焦っていると、千尋と目が合った。翔子はとりあえず自分から目を反らさせるために千尋に話題を振った。
「ち、千尋さんは・・・!?す、好きな人とかいないんですか!?」
「私・・・?」
いきなり振られた千尋は「うーん・・・」と唸りながら考えだした。
「今の所いないかなぁ?出来ても多分、おにーちゃんがいるからみんな恐がって逃げちゃうと思う・・・」
千尋が言うと、皆一斉に頷いた。以前ならともかく、今の旭が千尋に彼氏が出来たと聞いたらその彼氏を半殺しくらいにしてしまうだろうコトくらい容易に想像出来てしまう。
「紗耶香さんは?好きな人とか、興味ある人とか」
千尋が紗耶香に話しを振る。
「私ですか・・・?んー、そうですねぇ・・・うーん・・・」
「そんな難しく考えなくてもいいのよ・・・?」
由美が言うと、紗耶香は「あ・・・」と言って手をポンと叩いた。
「私は翔子さんが好きですね」
シーン・・・・
「あれ・・・?なにか変なコト言ってしまいましたか・・・?」
静まり返る皆を見て、紗耶香は不安そうに皆を見る。すると由美達が残念そうな顔で紗耶香を見つめた。
「あぁ・・・紗耶香さんは、その・・・」
千尋が言いにくそうにしていると、いつも素直な美春も遠慮がちに言った。
「その、いわゆるスピードの向こう側の人だったんだネ・・・お疲れ様です・・・」
「え?え・・・?翔子さん?」
皆の雰囲気に不安になってしまった紗耶香が翔子に視線を送ると、翔子は顔を真っ赤にして紗耶香から目を反らして床を見つめていた。
「紗耶香ちゃん・・・?」
由美がゆっくり肩を叩く。
「今はその・・・好きな男の子とかいるの?っていう話だったんだけど・・・」
「え・・・?あっ・・・!!」
やっとコトがわかった紗耶香は顔を真っ赤にさせて皆に慌てて叫ぶ。
「ち、ちちち違うんです!か、勘違いですっ!!好きな人って、その、友達とか・・・!そういうのかなぁ?って・・・!!だから・・・!!」
言いながら翔子に土下座する。それを聞いて、一同は安心した。
「よかったぁ・・・。まぁ、どんな人を好きでいようと、私達は応援してあげるけど・・・」
由美が呟くと、紗耶香はまだ違うんですと言った。
「わ、私は・・・す、好きな異性の方はまだいません・・・!ずっと女子校だったので、あまり男の人とお話したことも無いですし・・・!!」
「あ、そうなんだ・・・よかったぁ」
由美達が安心のため息をつく。が、美春はまだ興味津々らしい。変な視線を紗耶香に送る。
「女子校って、確かアッチ側の人とか多いんじゃなかったっけぇ?」
美春の呟きに、紗耶香は少し考えてから話をする。
「まぁ・・・いるには、いますね・・・凛お姉ちゃんはよく学校でそういう人達に告白されてますし・・・ファンクラブもあるみたいです」
その言葉に、皆一様に頷いた。気の強い男勝りな凛なら、女子校でそういう人達に告白されることもあるのだろうと。
「で?凛ちゃんは?」
由美がワクワクしながらたずねると、紗耶香はため息しながら話をする。
「なんでそんなにワクワクしてるんですか・・・凛お姉ちゃんは、マッハ一筋なのでそういう誘いは全部その場で断ってるみたいです・・・」
それを聞いて、皆ガッカリした。そして紗耶香はそんな皆をみてガックリした。
「なるほどねぇ・・・で、美春ちゃんはいいとして・・・」
由美が美春を飛ばそうとしていると、美春が「ちょっとぉ!」と焦りながら手を挙げる。
「私にも話させてよぉ・・・自慢させてよぉ・・・!」
美春がウルウル目を輝かせながら言うと、由美達は少し呆れ顔で美春を見つめる。
「だって、美春ちゃんと旭さんの関係なんてみんな知ってるもの・・・」
「じ、じゃあ最近の悩みを聞いてよぉ!!」
「何?」
「最近あっくん・・・夜の情事の・・・」
「はいアウトー!スリーアウトチェンジ〜!没シュートー!チャラッチャラッチャー!!!」
由美が強引に終わらせた。
「じゃあ、次は・・・」
「由美さんは?最近圭太さんとは・・・?」
翔子がどこかソワソワしながらたずねると、由美は少し恥ずかしそうにうつむいてから口を開いた。
「見てのとうりよ・・・圭太のばか・・・」
由美が言うと、紗耶香がポツリと呟いた。
「真子姉さんも・・・どうやら圭太さんのコトが好きみたいですし・・・」
真子の名前を聞いて、由美はハッとなって紗耶香の肩を掴んで顔を近付けた。
「真子さんは圭太について普段どんなコトしてるの・・・!?正直に言いなさい!?」
あまりの勢いに、紗耶香は秘密にしててと言っていた真子のコトを思い出したが、由美の気迫に負けて洗い浚い話してしまった。
「な、なんかポエムみたいなものを書いていたり・・・隠し撮り写真見てニヤニヤ笑いだしたり・・・後は・・・」
他にもあるのだが紗耶香が言い終わる前に由美は肩から手を離して額の汗を拭っていた。
「なんてことなの・・・!?隠し撮り写真・・・!?なんてうらやま・・・いや、汚らしい・・・!今度燃やして・・・いや、没収してやるわ・・・!!」
なにかを決意したらしい。固く握られた拳には闘志がかいま見えた。
「そーいえば・・・なんで由美さんは圭太さんが好きなの?」
今まで死んでいた美春の介抱をしていた千尋がたずねると、由美は少し考えてから懐かしむように言った。
「幼稚園の時から一緒でね?圭太ってば昔から泣き虫で・・・なんか放って置けないのよねぇ」
目を閉じて、昔の思い出を思い浮べる。
姉の茶子が砂団子を作るのに夢中になっていて遊んでくれなくて泣いていた圭太に声をかけたのが最初の出会いだったのをよく覚えている。
「でも私になにかあったら、自分だってすごく怖いんだけど助けてくれるのよ・・・」
昔、近所にいた犬が襲ってきた時、恐がっていた自分の目の前に立って必死になっている圭太。小学校の時に嫌がらせしてくる男子生徒から助けてくれたとき、勝手に登った神社の屋根から落ちそうになったとき、怖いのを我慢して自分も屋根の縁まで近づいて由美を引き上げてくれた・・・
他にも数えきれないが、気が付いたらいつからか目の前にいた圭太のコトを「幼なじみ」から「異性」として意識し始めていた。
「・・・まぁそんなところかしらね・・・?」
由美の話を聞いて、皆はそれぞれなにかを考えていた。
しかし、由美も話し終えてなにかに浸っていると、それまで右手にあった固い手触りが消えていることに気付くのに遅れてしまった。そして今日最もぞんざいに扱われたヤツのことも・・・
「あれ、なんか・・・」
あたりに立ち込め始めるアルコールの匂い。見れば右手にあるはずの日本酒が消えている。
「ま、まさか・・・!?」
急いで隣を振り向くと、そこには・・・
「ぐび、ぐび、ぐび、ぐびぐび・・・!ふぅ〜い〜・・・」
あぐらをかいて日本酒を丸呑みしている美春がいた。
「みんな、今日私の扱い酷いよねぇ〜?へへへ」
いつもの明るい声ではなくトーンが低く、怖い。
「み、美春ちゃん・・・?」
皆が固唾を飲んで見守っていると、美春は下を向いて笑いだした。
「ふふふふ・・・・ふふ・・・きゃははははははは♪」
そして満面の笑みである。
「もういいもんねぇ♪お酒♪お酒があれば悲しくないもーん♪きゃははははははは♪♪♪」
言いながら、文字どおり浴びるように酒を飲む。それを見て、皆恐怖する。
「み、美春ちゃん・・・!そんな飲み方したらダメよ!?落ち着いて?ね!?」
「でへへ・・・♪元はみんながいじめるからいけないんだお・・・?べらんめぇ!てやんでぇ!ここが誰の部屋か教えてあげやう!!てやや〜!!」
完璧に酔っ払いに成り下がった美春が由美にヘロヘロパンチをくりだすが、由美は余裕でかわす。
「お、おねーちゃん・・・?」
千尋が恐る恐る美春に話かける。が、美春はすでに聞こえていない。今美春が考えていることはただひとつ。誰でもいいから口の中に酒を流し込むことだけである。
「ちーちゃんも飲むのだだだだ♪」
「わっ・・・!危ないよぉ!?」
美春の攻撃をかわしてなんとか難を逃れる。気付けば美春を中心に皆美春から離れている。美春は完全に孤立した。
「犯人に告ぐ!ただちに武装解除しておとなしくしなさい!!」
由美が叫ぶと、美春は泣きそうな顔で由美達を見る。
「み、みんな・・・またそうやって離れていっちゃうんだ・・・」
目には薄ら涙を溜めて、静かに言った。由美も静かに繰り返した。
「武装解除しなさい。あなたは完全に包囲されているわ。今ならまだ間に合うわ、酒を捨てて投降しなさい」
「わかったよぉ・・・」
美春は静かに日本酒を置いた。それを由美が爆弾でも扱うかのように慎重に手に取る。しかし・・・
「か、空・・・!?」
中身は一滴も無かった。そして・・・
「ゆーちゃん!てや〜!!」
美春が特攻してきた。由美は避けれるハズもなく、美春に抱きつかれる。
「酒臭っ・・・!」
「でへへ〜♪捕まえたぁ♪」
がっちりホールドされた由美がなんとかこの酔っ払いを振り払おうともがくが、酔っ払いは放す気配が全く無い。
「ゆーちゃん、いじめるから淋しかったよぉ・・・」
美春が泣きながら由美に抱きしめる。泣き上戸らしい。
「美春ちゃん、わ、わかったから・・・ちょっと離して・・・!」
「もう放さないよぉ♪」
「みんな助けて・・・!」
由美の叫びの後、皆は美春を引き剥がすべく奮闘するも、結局美春が離れたのは10分後、美春が寝てからだった。
「すぴー♪」
美春をベッドの上に移動させてからさらに10分後。4人は疲れ切った表情でやっと一息つけた。
「まったく・・・美春ちゃんの酒乱癖には参ったわね・・・」
隣で幸せそうに眠る酔っ払いに由美が困ったような表情を向ける。
「美春さんには、アルコール禁止令を徹底しないとダメですねぇ・・・」
翔子が言うと、皆一斉に頷く。
「でもみんながおねーちゃんをイジメたのもいけなかったんだよ、多分」
千尋が言うと、3人は「ごめんなさい」と千尋に頭を下げた。
「とりあえず疲れちゃったし、もう寝ましょう?」
「でも、せっかくお泊まりに来たんですからもうちょっとだけ夜更かししませんか?」
由美の提案に翔子が意見する。確かにせっかくのお泊り会。まだまだ話したいコトはたくさんある。
「バイクの話になると翔子ちゃんと紗耶香ちゃんが暴走するし・・・そういえば、みんな学生よね?」
由美がたずねると、皆頷いた。
「私はまだ中学生だけどね」
「千尋ちゃんは?もう進路とかは決めたの?」
「まだ少し早いかな・・・でも早い子はもういろいろとやってるみたいだけど・・・」
千尋が言うと、由美は「懐かしいわねぇ・・・」と呟く。すると翔子が由美にツッコミを入れる。
「由美さん、私達ももうすぐ受験ですよ・・・?」
「あ・・・そうだったわ・・・」
由美が全く忘れていたと言いながら笑う。
「私は来年ですけど・・・翔子さんは進路どうするんですか?」
紗耶香が翔子にたずねると、翔子は外跳ねの髪の毛を指でイジリながら紗耶香に答えた。
「出来れば専門学校ですね・・・写真などを学びたいので・・・」
しかし、表情は浮かない。困ったように苦笑いしながら続ける。
「義理母さんが認めてくれればいいのですが・・・」
「あぁ・・・翔子ちゃんにはそんな障害があったわね・・・」
由美も少し知っているのでため息する。
「私の進路のコトなんて、あの人にしてみればどうでもいいことなのですが・・・体面を気にしてるので進学なら大学以外はお金を出してくれないでしょう・・・」
力なく笑う。
「あの・・・話がよく見えないんですけど・・・」
紗耶香が言うと、千尋も頷く。翔子は自分の家族について話しはじめた。本当の母は他界していること、父が再婚したこと、義理母と義理兄に好かれていないこと、父は医者で家族とは疎遠になりがちなこと、そして愛車、CB350Fourは実の母が遺した形見であること。
「由美さん達に出会う前・・・数ヶ月前の私だったら、こんな話を人前ですることはおろか、人の目を見て話すことだって出来なかったでしょう・・・」
翔子が由美と後ろで寝ている美春を見て言う。そしてポケットから親子2代に渡って乗り継いでいる愛車のキーを取り出した。キーは手垢や傷でくすんでいる。
「バイクに乗っていたからこそ・・・私は皆さんとこうしてお話が出来るんです。明るくなれたんです・・・」
そう言って話を締めた。翔子はキーを見つめる。由美達に出会わせてくれたCB350Fourは、時を越えて母が遺してくれた希望なのだ。キーに反射する光に、一瞬笑顔の母を見た気がした。
話終えた翔子が紗耶香と千尋を見ると、2人とも感動していた。紗耶香にいたっては瞼を押さえて涙をこらえていた。
「翔子さん・・・私、翔子さんに会えてよかったです・・・!」
とうとう涙を押さえきれなくなった紗耶香が翔子に抱き付く。
「私もすごく感動しちゃった・・・!翔子ちゃん、ありがとう!」
千尋も笑顔で抱き付く。2人の少女に抱きつかれた翔子はバランスを崩しかけながらもなんとか堪えた。
「そ、そんな大げさですよ・・・!」
翔子が言うと、後ろから由美がささやいた。
「翔子ちゃんも・・・みんなも、これからよろしくね!」
「由美さん・・・!こちらこそ・・・!!」
翔子も笑顔で言った。
それからしばらくして、4人はさすがに眠くなってきた。が、布団を出そうにも部屋の主である美春がダウンしているため、4人は家宅捜査の名の下部屋探しを実行。押し入れから布団を見つけて引っ張りだすと3組しか無かった。
「うーん・・・1つ足りないわね・・・」
由美が困ったなぁと思っていると、千尋が笑いながら言う。
「じゃあ私はおねーちゃんと一緒に寝るよ!ベッド広いし、私ベッドで寝たことないんだ」
言いながら、美春のベッドに潜り込む。ベッドは余裕の広さで、千尋と美春を迎えた。
「じゃあこれで無事寝れるわね!」
由美が言うと、皆一斉に布団に潜り込む。
「じゃあ電気消すわよ?おやすみ!」
由美が電気を消して豆球のみにする。そして布団に潜り込んだ瞬間、翔子が布団から立ち上がる。
「あの・・・豆球消しません・・・?明るくて眠れないですよ・・・?」
「ダメよ、私はまっ暗だと眠れないもの」
由美が言うと、紗耶香もむくりと布団から出て抗議する。
「私も豆球は消したほうがいいと・・・」
「紗耶香ちゃんも・・・?千尋ちゃんは?」
「どっちでも・・・眠い・・・お酒臭い・・・」
由美の問に、早速寝ぼけ気味の返答が帰ってくる。
「2対1対1・・・多数決で豆球は消しますよ?」
「意義無しです」
由美と紗耶香が言うと、由美は不満そうな顔で2人を見つめるが、了承した。
「それでは・・・皆さんおやすみなさい・・・」
翔子が電気を消す。瞬間、部屋は真っ暗になった。
「く、暗い・・・」
慣れない暗闇の中、由美が呟くと、隣からクスクスと笑い声が聞こえる。
「ちょっと2人共・・・!なに笑ってるのよ・・・!?」
由美がたずねると、翔子が暗闇で表情が見えない中、顔をこちらに向けて言う。
「由美さん、暗いの苦手なんですね・・・」
声からして、翔子は笑っているのだろうと思い、カチンと来た由美が反論しようとした瞬間、紗耶香がケータイの画面の明かりで顔だけ映して由美に向ける。
「キャアアアア!!!!!」
由美がびっくりして布団から飛び上がる。そんな由美の反応を見て2人が笑う。それを見て由美は怒りが込み上げてきた。
「ちょっと2人共!!いい加減にしなさい!!」
すると紗耶香がケータイのライトで由美を照らす。
「由美さん、あの壁見てください」
紗耶香が照らした壁に目をやると、そこには・・・
「い、犬神家ぇ・・・!?」
壁に足が2本、がに股で立て掛けられていた。
「い、い、嫌ぁぁぁぁあ!!キヨスケぇぇ!!」
悲鳴を上げながら布団に潜り込む由美を、紗耶香とキヨスケに扮していた翔子が笑いながら見ていると、ベッドから千尋が這い出てきた。
「3人共!!うるさい!!寝れない!!静かにしろーっ!!!!!」
まだ幼い顔立ちの千尋が、旭に負けるとも劣らない顔で怒鳴ると、3人は恐怖に土下座した。血はつながっていなくてもさすが兄妹。眠い時の機嫌悪さは同じらしい。
結局、豆球は消すが静かにすること、と千尋が条約を結ばせて解決した。
すると、千尋はすぐに寝てしまった。中学生には夜更かしが過ぎたか。
さらにしばらくは起きていたが、翔子と紗耶香の布団からも寝息が聞こえてきた。由美は暗闇に慣れた目であたりを見回す。
ベッドでは美春が千尋に抱きつきながら寝言で「あっく〜ん・・・♪」とか言っている。千尋も寝言で「酒臭ぁい・・・う〜ん・・・」とうなされている。反対側を見れば、翔子と紗耶香が互いに手を握りながら眠っていた。
「翔子ちゃんが言ったからってワケじゃないけど・・・本当に、みんなのバイクが、私達を出会わせてくれたのかも・・・」
思えば皆、バイク絡みで出会い、成長してきた。美春もそうだし、翔子も千尋もそうだ。自分だって、ゼファーに乗っていなかったらこの場にはいなかっただろうし、皆とは他人のまま一生を過ごしていただろう。由美は皆の愛車を思い浮かべながら目をつむる。1台1台、皆の愛車を思い浮べては心の中で感謝した。そして、自分とゼファーを結んでくれた圭太のFXを思い浮かべた。
「圭太・・・FX・・・ありがとうね・・・」
小さく呟いて、そしてこれからも出会うであろうまだ見ぬバイク乗り達を想像しながら・・・由美も深い眠りに落ちた。
外はもうすぐ日の出だ。紫色に染まった空の下にある彼女達のバイクの真上を流れ星が飛んだ。バイク達はそれを何事も無くただただ見つめていた。
真田美春の!オールナイトニッポン!!
この放送は『旧車物語』の読者の皆様のご協力で放送しております。
美春「こんばんわ!今日も始まりました真田美春のオールナイトニッポン!みんなのお姉さん美春だよ~!!」
作者「・・・・・・」
美春「あ・・・作者君は今ちょっと口をきけない状況でして・・・前回のあっくんの攻撃で包帯ぐるぐるの松葉杖の状況でして・・・なので今回は1人で出来るもん!」
作者「・・・・・・」
美春「そんなわけでいってみよー♪今日は私のイメージソング!作者君が残してくれたメモを見ながらの紹介です!」
タイトル 半拍ずれてるお前に夢中
唄 横浜銀蠅
美春「『そうさ完全半拍ずれてるゥ~♪』いいねぇ、お母さんがよく聞いてたから歌えちゃうよぉ♪歌詞が可愛いよねぇ♪」
作者「・・・・・・」
美春「なになに・・・『歌詞は違えど、この人は半拍ずれてるし、旭のイメージもあるからこんな感じかと』・・・なるほど、ひどいな作者君。私ズレてなんかないよう?」
作者「さらさら・・・」
美春「おおっ、残った左手で何やら書き始めたよ・・・?なになに、『申し訳ございませんでした、訂正しますのでどうか旭さんには言わないでくださいお願いします』・・・」
作者「・・・・・・」←ガタガタいってる
美春「そんなに怖がらなくても・・・言わないから安心してね?さて、作者君が泣きだしたので今日はこのあたりで!お便りヨロシクねぇ♪バイバーイ!!」
と、言うわけで、今回も「旧車物語」をご愛読くださって誠にありがとうございます。
おそらく年内の更新は厳しいと思われ、次回は年明けになってしまう可能性が高いです。
なので今のうちに挨拶しておきます!来年も旧車物語をよろしくお願いいたします。それでは、良いお年を!!