第27章 音速の4人
かくして、旭達4人と自称走り屋達のバトルが開始されようとしていた。駐車場の出口にバイクを移動させて、最初の走者が1組スタンバイしている。
「最初は僕だよぅ?」
フルフェイス越しにニタニタ笑いながら、猫背の男が愛車に跨がる。
「なら、こっちはオレが行くぜ!」
凛が気合いを入れてマッハのキックを踏み下ろす。甲高くもくぐもった集合管の2スト音が山に響く。
「テメェのそのガンダムみてぇな単車、オレ様のマッハの敵じゃねーぜ!」
「お、お姉ちゃん・・・」
紗耶香が挑発する凛を宥めようと声を掛けると、猫背もスターターに手を掛けてエンジンをスタートさせる。
キュル・・・ボヒュウ!ファァァァア!!
掛け始めこそ静かなアイドリングだが、回したら恐ろしく速そうな雰囲気のレーサーレプリカ的な音を出す。
「そんなコト言って、僕のCBR250RRが怖いんじゃないの?」
ニタニタ笑いながら凛に囁く。しかし凛はフンッと鼻を鳴らした。
「るっせぇ!負かしてやるからな!!」
凛が吠えると、紗耶香は
「あわわわわ・・・!」
とか言っておろおろするしかなかった。
「ルールは簡単!さっき話したとおり、左車線のみ使ってこの下にある駐車場まで一気に下るだけでゴサル!!先頭と後追いに別れて、先頭を抜くか食い付けば後追いの勝ち!離されたら後追いの負けでゴザル!!」
なにやら鼻息荒く張り切って太り気味の男が説明する。
「そして、前がスタートして10秒間隔で後の組が走り出す!!いいでふ!?」
太り気味の男が確認すると、皆首を縦に振った。
「審判はそちらが先に下に行かせたあのサンパチの女の子2人とサンパンフォアの子!それじゃあ始めるでひ!!」
語尾がおかしいが、とりあえず言っているコトは分かった。
「スターターは紗耶香にやらせるから。紗耶香、頼むわよ?」
真子が紗耶香に言うと、紗耶香はうんと返事した後、「事故はしないでね?」
と言って出口に歩いていった。
一方、旭は下で待機している美春にケータイで連絡を取る。
「そっち、対向車は?」
『今のとこいないよぉ〜』
「わぁった、サンキュ」
『頑張ってねぇ〜♪』
美春の間延びした声を聞いて、旭はふっ、と笑って通話を切った。
「対向車無しだ。始めんなら今だぜ?」
太り気味の男に言う。
「じゃあ始めるでひ!!」
「おっしゃぁぁ!!」
凛がフルフェイスの中で気合いの叫びをあげる。
「じ、じゃあスタート10秒前です・・・!!」
スターターの紗耶香が両手でカウントを始める。左手の指が全て折られ、最後の5本目で紗耶香もわかりやすいような言葉も併せてカウントを始める。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・Go!!」
紗耶香が腕を下ろすと、予め決めていた前後順に凛達が飛び出す。ちなみに、今回のレースは凛が先頭、猫背のCBR250RRが後追いで始まる。
クァァァァァ!ァァアアアアアア!!!
ファァァァアァァァ!!!!!
2台がコーナーを抜けて見えなくなると、次の走者も準備する。
「ヨンフォアなんかに負けるハズが無い・・・コッチはかなりイジっているんだ・・・!」
ガリガリがヨンフォアを見ながら、しかし洋介には聞かれないように小さな声で呟く。ガリガリの愛車はこれまたレーサーレプリカのRG250γ、通称『ヤッコ凧ガンマ』、2ストマシンだ。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・Go!!」
紗耶香が叫ぶと、2台は先ほどと同じように飛び出す。今度は洋介が後追い。ヨンフォアがγ相手に加速していった。
「おうおう、洋介の野郎・・・マジだな」
「凄く上手いクラッチの繋ぎ方ね・・・」
旭と真子が関心して見ていると、次は旭の番だ。
「・・・レーレプじゃいからって舐めるな・・・!」
旭に聞こえないように小さな声で呟いている彼の愛車は、カワサキのバリオスⅠ型。それでも低めのハンドルにビキニカウル。マフラーも砲弾型で走り仕様だ。
そんなコトを呟きながらこちらを見ている彼に気付いた旭は、サンパチのアクセルを乱暴に吹かし余裕な目で睨み付けながらコールを切る。
クァンコァカ・・・!!クァンクァンコァカカァン!!バリバリバリバリ・・・!!!!バン!!!
紗耶香のカウントも聞こえないくらいの爆音に男がビビっているウチに、紗耶香の腕が振り下ろされた。
「アバヨ!」
旭が叫びながらサンパチのギヤを入れて加速。フロントを軽く上げながらスタートすると、相手も焦りながら加速を始めたが、少し差が付いてしまっていた。今回は旭が先頭だ。
「アイツぅ・・・!!ズルいでひ!あんなに睨みながら脅すなんて!!」
太り気味の男が真子に文句を言うが、真子は彼をまるでゴミでも見るかのような目で見つめた。
「そういうコトは、私じゃなくて彼に直接面と向かって言って」
真子がピシャリと言うと、男は何か言いたそうにして口を開けて・・・すごすご引き返した。
「まぁいい・・・ボキのNSR250Rタソがあんなマッハなんかに負けるワケが無いし・・・!」
スタンバイしながら呟く彼のマシンはNSR250R。峠御用達の名マシンだ。
「頼むわよ・・・マッハ・・・!」
真子は自分の愛車と会話するように話し掛ける。峠が嫌いな真子だったが、相手にとって不足は無し。ヘルメットのシールドを下ろして戦闘態勢に入った。
「3・・・2・・・1・・・Go!!」
紗耶香の腕が振り下ろされた瞬間、真子のマッハと太り気味の男のNSR250Rがかっ飛んで行った。先頭はNSR250Rだ。
真子のマッハも白煙をモクモクと上げてフル加速。NSR250Rに続いてコーナーの向こうに消えた。
「ついにみんな走り始めちゃったわね・・・」
由美が不安そうに呟く。バイクのコトは詳しく無いが、素人目に見ただけでもわかる・・・あのバイクは自分たちの愛車より性能は絶対に上だと。
「こうなったら、旭さんや真子さん達を信じるしか無いよ・・・僕達も追い掛けよう!」
FXに跨がりエンジンを掛けながら圭太が言う。それを見て由美と紗耶香もエンジンを掛けて、3人は峠を下り始めた。
「凛お姉ちゃん・・・真子姉さん・・・頑張って・・・!」
ヘルメットの内側で祈りながら紗耶香はマッハⅠを走らせた。
その頃、最初に出たグループは未だに凛が先頭、後追いCBR250RRのままレースは終盤戦に入っていた。
「よっしゃー!!」
凛が叫びながらセンターラインギリギリを狙ったハングオンでコーナーを抜けていく。曲がらない止まらないというのが定評のマッハシリーズとは思えない走りで後続のCBR250RRを寄せ付けない。
「くそぅ・・・あり得ない!僕のダブルアールがあんな旧車ごときに負けるなんてあり得ない・・・!!」
猫背がフルフェイス内で苛立ちながら叫ぶ。しかしコーナーでは差が開くばかり。それでも付いていけてるのは、ストレートでのパワーの違いだった。
CBR250RRはレッドゾーンがなんと19000回転からという超強力な高回転型エンジンを積む。パワーは凛のマッハとあまり変わらないが、伸びのある加速でストレートだけは離されないで付いていけている。しかしこれはレーサーレプリカ乗りとしては屈辱だった。
猫背は舌打ちした。パワーも車重も然程変わり無いが、70年代のマシンと現代のマシンでは全く違うのだ。向こうは走りに向かないスポークホイール18インチ、鉄フレームにリヤはドラムブレーキだ。ここまで来たら間違いない。しかし猫背は認めたく無かった。
「僕があんな女の子にテクニックで負けてるだなんて・・・・!!」
そんなことばかり考えていたためか、連続ヘアピンの入り口で減速が間に合わずフルブレーキ。優秀なブレーキは車体をなんとか減速させたが、大回りになってしまいラインが崩れる。それに慌ててしまい次のヘアピンでもラインが定まらない。さらに先ほどの減速が響いてスピードが乗らず、ヘアピンを抜けると、目の前にはマッハの残した白煙しか残っていなかった・・・・・・
「ねぇねぇ圭太!」
一方、後ろを走る由美が圭太に叫ぶ。
「洋介さんのヨンフォアって速いのかしら!?」
「僕だってわかんないよ!」
圭太が叫びながらコーナーを曲がる。頭の中では内側を走った方がいいと思っていても、なかなか思い通りにならない。
すると紗耶香がストレートで圭太と由美に並んだ。
「性能自体は翔子さんのサンパンフォアの次です・・・中でも1番重いですし、トルクもパワーも現代の車種に比べたら比較になりません・・・」
「じゃあ勝てないじゃない!」
由美が叫ぶと、紗耶香はギヤを3速に上げてから由美に叫び返す。
「でも・・・!あの人は多分速いです・・・!凛お姉ちゃんと同じ雰囲気があります・・・!」
その言葉を聞いて、由美と圭太は一瞬ぽかんとしたが、すぐに笑顔になった。
「そうよね!洋介さんが負けるワケ無いわ!!」
「そうだよ・・・!洋介さんは絶対に勝つよ・・・!」
由美と圭太が笑いながら言うと、紗耶香も笑顔になった。どういうワケか、あの人ならガンマが相手でも勝つかもしれない・・・そんな風に思ってしまう。
「みんな・・・私達も競争よ!誰が1番に付くか勝負よ!」
皆のレースの話をしていて興奮したのか、由美がいきなり叫んだかと思うと、加速していった。圭太と紗耶香は互いに顔を見合わせて笑うしかなかった。
そんな洋介の勝負は、実は圭太達が峠を下り始めた時にすでに勝負がついていた。時は戻って3分前。
「見よ!この美しいライントレースを!!」
ガリガリがヘルメットの中で自画自賛しながらガンマを走らせる。マシンは綺麗にアウトインアウトのラインに乗って走っていた。しかし・・・
「そんなもんかよぉ・・・?」
後ろにはピタリと洋介が張りついている。ラインも一寸違わぬ走りでガンマを付け狙う。いつでも撃墜出来る状態にあった。
「ラインはいいが、絶望的なまでにスピードが遅い・・・減点100!!」
洋介が叫ぶ。この先はストレートが少し多くなる区間。ここで決めないと終盤まで持ち込むことになってしまう。洋介は次のS字で決めるコトにした。
「どけやぁ!ヨンフォア様のお通りだぁ!!」
「えひゃい・・・!?」
ガリガリのガンマにコーナー手前で並んだ。ガリガリは自分の走りに酔っていたため、洋介のヨンフォアの存在に気付いていなかった。いや、すでにヨンフォアなど突き離したと思っていた。
「で・・・でも僕がインにいるんだ・・・抜けるワケが無い・・・いや、まぐれだ!!」
叫びながらコーナーに侵入する。アウトには洋介が、ピタリと並走していた。
「な、何でぇ・・・!?」
「遅いからだよ」
驚くガリガリに、洋介がポツリと呟く。アウトからぶち抜き態勢、コーナー出口で洋介が並んだ。
「よ、ヨンフォアが速いとか・・・!?どこの暴走族マンガだよ!ありえないありえないありえないぃぃぃぃい!!」
ガリガリが叫びながらストレートをフル加速する。しかし、すぐにハッと我に返った。すぐ目の前がコーナーだということに・・・
そして、自分のポジションがアウト側で、洋介がインを走っていることに・・・!
「あばよ!!」
フォアアアアア!!クォォォォオ!!!
雄叫びを上げながら加速するヨンフォア。ガリガリはアウト側でアクセルを開けられず離された。そしてコーナーを抜けた時、目の前にヨンフォアのテールがそこにあった・・・
「そ、そんなバカなぁ〜!!」
ガリガリは戦意喪失、洋介はそのままかっ飛んでいった。
「美春さん、皆さん大丈夫でしょうか・・・?」
こちらは、下で待ち受ける美春達のグループだ。翔子が美春にたずねると、「んー?」と唇に人差し指を当てて考えて即答した。
「大丈夫だよぉ♪みんな勝つよぉ」
「でも、旭さんだけアップハン・・・それも1番乗りにくい鬼ハンです・・・相手はバリオス、心配で・・・むぎゅ・・・!?」
言い終える前に翔子はなにか柔らかいモノに顔を押しつけられた。
「もう、しーちゃんは心配性なんだぁ♪大丈夫だよぉ、あっくんが負けるワケ無いよぉ♪」
「ふがふが・・・!んー!」
美春の胸に押しつけられて翔子がじたばたするが、美春は一向に放そうとしない。むしろさらにギュッと締めた。
「でも美春さん・・・おにーちゃんて峠で走ったりすることあるのかなぁ?」
千尋が疑問に思っている事を言う。確かに旭はどちらかと言えば族系の走りが得意だ。それが鬼ハンで峠のレースとなれば、確かに厳しい、いや絶望的かもしれない。千尋は不安そうに呟いた。
「負けないでね・・・おにーちゃん・・・」
すると千尋の肩に美春が優しく手を置いた。
「美春さん・・・?」
「おねーちゃんって呼んで?」
美春の言葉に、若干戸惑いながら千尋は少し緊張しながら口を開いた。
「お・・・おねーちゃん・・・?」
「ちーちゃんは、おにーちゃんのこと信じられないの?」
美春の言葉に、全力で首を振った。
「そんなこと無い・・・!私はいつでもおにーちゃんを信じてるもん!!」
「なら、おにーちゃんを信じて待とう?おねーちゃんと一緒にね♪」
「お、おねーちゃん・・・!」
なんかワケがわからないが、千尋が美春に抱きつくと、美春は優しく抱き締めた。まるで本当の姉妹のような2人だけを見ていればかなり和やかな感じだ。
しかし、千尋はそこで気付いてしまった・・・
「お、おねーちゃん!翔子さんがぁ!!」
「あ・・・」
見れば、翔子が美春の胸に顔を押しつけられたまま手足をぷらんとさせていた。
「し、翔子さん・・・しっかり・・・!」
「・・・やっちったぁ♪」
「やっちったぁ♪じゃないよおねーちゃん!翔子さーん!!」
「ビッタリ付いて来やがんなぁ・・・!」
バックミラーの中で依然として離れないバリオスを見て、旭は笑った。まだ本気では無いがそれなりのペースで走っているにも関わらず、付かず離されずといった微妙な間隔で付いてくるバリオス。
「それに・・・なかなか粋なマネしてくれちゃってよぉ・・・!」
中盤。ストレートの多い区間で、抜こうと思えばいくらでも抜けるチャンスがあったのに、バリオスに乗る彼はそれをせずにコーナーでの勝負を挑んできたのだ。
そんなバリオスを操る男は、ヘルメットの中で苦し気に声を上げた。
「ナメてた・・・!速い・・・ウチのチームの誰よりも・・・・!!」
レース前、彼は前から思っていたことでイラついていた。それはチームの人間の軽率な行動・・・
もともと、峠の走り屋に憧れて、昔から速いと言われていた地元の名門であるこのチームに入った。しかしいざ入ってみると、彼らはテクニックを身につけたりタイムを縮める努力もせず、ただ毎日集まっては自分達の愛車の自慢にふけて、違うジャンルのバイク乗りをけなしているだけの集団だった。今日の出来事だって自分たちが一方的に悪い。
そして、彼らはどうだ・・・?
自分のバリオスに比べたら、本当に何世代も前の旧車チーム。フルノーマルもいれば、今目の前を走る彼の様な族っぽいのから走りを意識した感じの物まで、旧車というカテゴリは同じでも、皆それぞれ別々のジャンルでいて、ウチのチームには無い物だ。それに・・・
「速い・・・!」
彼は素直に思った。やる前まで、今日まで毎日毎日走り込んで、チームではおそらく1、2を争うくらい速くなった自分が、鬼ハンとここまで競り合うコトになるなどとは思ってもいなかった。走りの姿勢などメチャクチャなのに、重たいGT380を速く走らせる彼を見て素直に尊敬の意を込めて思った。
「負けない・・・!負けたくない!!」
そして、コーナーに進入した時、勝負はついてしまった。
右コーナー、なんてことない場所に拳大の石が落ちていた。旭のサンパチがギリギリで回っていったが、彼はモロにフロントに引っ掛けてしまい・・・
ガッチャーン!!!
バキャバキャ!!!!!
見事に転倒してしまった。
バリオスは火花を散らして地面を滑走し、ガードレールに当たって停止。ぶっ飛んだ彼はガードレール手前に上手く転んだ。
「痛たた・・・!」
頭は打っていない・・・が、左足を打ち付けてしまったらしく、かなり痛い。折れてるかもしれない。ガードレールに手を付いてなんとか右足で立ち上がり、さっきまで一心同体だったバリオスを見る。ビキニカウルが割れ、ステップやミラーがぶっ飛んでハンドルも曲がっていたが低速だったためか、外装の傷以外は走行に支障は無さそうだ。
安心して溜め息を吐くと、先ほどまで競っていた赤いマシンがわざわざ戻ってきた。
「大丈夫かよテメェ・・・!?」
旭が彼に近づくと、彼は笑いながら言った。
「バイクは大丈夫だけど・・・足がね・・・」
それを聞くと、旭は彼の肩を支えた。
「ケツん乗れよ?下まで運んでやっから・・・」
旭が言った時、2台のエキゾーストが近づいてきた。コーナー入り口を見ていると、先頭に白いマッハ。後ろにだいぶ差を付けられてトリコロールカラーのNSR。勝負は付いたらしい。
旭はカッ飛んで行く真子と目が合った。真子も旭も、それだけで全てを悟った。
「た・・・大変申し訳ございませんでした・・・!」
峠の麓の駐車場で圭太達の前で太り気味の男を始め、後の2人も土下座をした。バリオスの彼は折れてこそいなかったが足にヒビは入っているのだろう、座れないので彼らの横で立っていた。
「これからは旧車だと思って変に煽るんじゃねーぞ!?」
「り、凛お姉ちゃん・・・!」
紗耶香が凛をなだめる。
「あなた達、次また今日みたいに他のバイク乗りにちょっかい出してるのを見つけたらどうなるか教えてあげるから?」
真子が仁王立ちで彼らにキレる。まぁもともと赤城姉妹の2人が言い出したレースなのだが・・・
「お〜い、2人とももう十分だろ?許してやれよ?」
見兼ねた洋介が2人に声をかけると、真子が怖い笑みを浮かべながら言う。
「まだまだこんなもんじゃ済まないわよ・・・私達の愛車をバカにしたあげく、圭太君にもひどいこと言ったのよ?これからたっぷりイジメてあげるんだから・・・?蝋燭垂らして鞭でシバいて・・・ふふふ・・・」
なにやらどSモードになりかけの真子がニタリと笑う。男達がビビっていると、圭太がおずおずと真子に言う。
「真子さん・・・もう許してあげましょう・・・僕達はもう怒って無いですし・・・」
「わかったわ。圭太君に免じて許してあげる」
「「早っ!!」」
急にけろっと態度を変えた姉に妹2人が突っ込む。
「圭太君が言うなら、私は言うことを聞くのみ・・・私は圭太君が望まないコトはしない主義なの」
胸の前で手を組ながらのたまう。そんな真子に圭太はよく分からないが苦笑いし、土下座してた男達は圭太に感謝の眼差しを向けた。
「じゃあ、オレらはもう帰るか?」
旭が皆に言うと、皆うなずいた。
「途中ガソスタに寄っていいかしら?私のゼファーちゃんもうお腹ペコペコなのよ〜」
由美が言うと、真子と凛も頷く。マッハは恐ろしく燃費が悪いのだ。
「わぁった。じゃあ途中ガソスタ寄るら、みんなヨロシク!」
「ヨロシク〜♪」
旭と美春が言いながらエンジンを掛ける。
「翔子さん・・・大丈夫?」
千尋がサンパンフォアに寄りかかってグッタリしている翔子を心配して声を掛ける。
「どうしたの翔子ちゃん?凄くやつれた顔してるわよ?」
由美も心配になってたずねると、翔子は
「大丈夫ですよ・・・ははっ」
と力なく笑った。まさか美春の胸で圧迫死しかけたなどとは、恥ずかしくて言えない。
「あ・・・!そうだ!しーちゃん!」
由美が突然思い出したかのように翔子に話し掛ける。
「明日休みでしょ?今日私の家に泊まりで遊ぼうよぉ♪」
「え・・・?良いんですか!?」
「もちろんだよぉ♪」
美春がニコニコしながら言う。
「さっき圧死させかけちゃったお詫びに♪」
「み、美春さん・・・!」
翔子が慌てて美春に言う。美春の胸に押しつけられて涙とよだれを垂らしながら数秒とはいえ気絶していたなどとは、恥ずかしくて誰にも言えない。
「あ!来たい人いたら、手ぇ上げてねぇ♪ウチ広いから何人来ても大丈夫だよぉ♪」
美春がはしゃいで手をあげながら言う。
「じゃあ私もいいかしら美春ちゃん!?私も明日暇だし!!」
由美が勢いよく手を上げた。
「もちろんだよ♪あ、マコリン達はぁ?」
美春が言うと、真子が溜め息混じりに言った。
「マコリンて・・・それってもしかして私のこと・・・?」
「そだよぉ♪ちなみに凛ちゃんはリンリンで紗耶香ちゃんはサヤリン♪」
「オレはパンダかぁっ!?」
「サヤリンて・・・」
ノリツッコミする凛と苦笑いする紗耶香を見て、美春が上目遣いで2人を見つめる。
「ダメ、かなぁ・・・?」
いつも笑顔の美春が悲しそうな顔で見つめると、2人は観念したらしい。凛が下を向いて呟く。
「べ・・・別にそこまでイヤってわけじゃねーけどさ・・・!」
すると、美春がいつもの笑顔でけろっと言った。
「じゃあ決定ね♪」
「・・・ハメられた・・・!!」
凛が1人悔しがっていると、真子が残念そうに美春に言う。
「ごめんなさい・・・私、明日は仕事で・・・」
「仕事って、アカギ建設の仕事ですか?」
圭太がたずねると、真子はそうなの、と言って続けた。
「大学に行きながら、合間を縫って父の会社で働いているの。といっても、ほとんど経営学の一環だけどね」
真子がいうと、圭太が尊敬の眼差しで見つめる。
「す、すごいですね!僕の姉にも見習って貰いたいです!」
「あぁ・・・茶子姉ぇじゃ無理よ」
由美が圭太の姉、茶子を思い出しながら言う。小さな時から仲は良いが、 なかなか掴めない所がある。由美は幼心に「茶子姉ぇ=変態だけど優しいお姉ちゃん」で認識している。
「あれ、圭太姉貴いたんかよ?」
それまでサンパチの調子を見ていた旭が圭太に聞く。
「あれ・・・?言いませんでした?」
すると美春も横から「聞いてないよぉ」と言う。
「私達の一個上だから、旭さんや真子さんと同い年だったわよね?」
由美が言うと、 皆もへー、とうなる。
「会ってみてぇなぁ・・・」
「そだねぇ♪」
旭と美春が顔を合わせて言うと、旭と由美が微妙な顔をした。
「会わないほうがいいと思いますけど・・・」
圭太が遠慮がちに言うと、旭がなんでよ?とたずねると、言いにくそうに切り出した。
「えと・・・変人?変態?だから・・・」
「大丈夫だ、変態なら美春で慣れてンから」
「へぇ♪酷いねあっくん♪」
後ろで美春が旭の死刑執行が行っている中、旭の悲鳴をBGMに真子が話を戻した。
「残念だけど・・・そういうワケで私は無理ね・・・」
「オレもだ・・・学校サボりまくっちまったから課題がてんこ盛りだ・・・」
真子に続きうんざりしながら凛が言う。
「紗耶香は?課題もなんも無ぇろ?」
凛が言うと、紗耶香はあたふたしだす。
「わ、私1人で・・・!?」
「大丈夫だよサヤリン?食べたりしないからぁ♪」
旭の処刑を終えた美春がニコニコしながら言う。ちなみに旭は美春にひっぱられた耳を涙目でさすっていた。
「で、でもぉ・・・」
それでも不安なのか、紗耶香がおろおろ考えていると、紗耶香の手を翔子が取った。
「私、紗耶香さんともっと仲良くなりたいです・・・!」
「翔子さん・・・?」
翔子の目を見て、少し考えてから紗耶香は迷いを捨てた。しっかり翔子を見ながら
「わかりました・・・!私も、皆さんと仲良くなりたいです・・・!」
翔子の手を握り返した。そんな妹を見て、真子と凛が驚いた。
「あの人見知りのプロと呼ばれた紗耶香が・・・」
「アイツが1人で泊まりなんて、初めてじゃねーか・・・!?」
姉妹2人が恐怖すら感じながら言うと、紗耶香が
「失礼だなぁ・・・!」
と反論する。
「圭太君達は♪どうするのかなかな?」
美春がたずねると、圭太は残念そうに言った。
「すみません、明日はちょっと用事があって・・・」
「そうかぁ・・・」
美春が残念そうに言う。
「旭さんと洋介さんは?」
「オレぁ明日は千尋のRG治さなきゃならねぇからな。パス」
「オレもだ。今日サボッちまったからさ、明日は仕事しないと」
旭と洋介が言うと、美春は千尋に抱きつきながらたずねた。
「ちーちゃんは〜?」
すると千尋は恥ずかしそうにもぞもぞ動きながら兄を見る。
「明日はおにーちゃんがバイク治してくれるから・・・私も・・・」
すると、旭が千尋に抱きつく美春を慣れた手つきで剥がしてから、千尋に言った。
「気にすんな、泊まりいっていいぞ?」
「えぇ?でも悪いよ・・・?」
「たまには羽伸ばしてこいよ?明日来たけりゃ、いつでも来りゃいいしよ?」
旭に言われて、千尋はかなり悩んだ。が、やがて兄の顔を見て決心したらしい。美春に向き直ってひとこと、
「よろしくお願いします」
とだけ言う。美春はニッコリ笑ってまた千尋に抱きついた。
「そうと決まりゃ、さっさと行くかぁ?」
旭が言うと、皆頷く。そして誰かがセルを押した瞬間、皆一斉にエンジンを掛ける。
あたりが様々なエンジン音に包まれ、ルートを確認した洋介が先に走りだす。後から翔子のサンパンフォアなどが続き、由美達も走りだした。全員が出ていく中、圭太と最後まで残った旭に先程のバリオスの彼が近づいてきた。
「す、すみません・・・!」
その声に旭と洋介が振り向くと、バリオスの彼が旭に腕を差し伸べた。
「今日は無様に負けてしまいましたが、いい勉強になりました・・・!また会ったら一緒に走ってください!」
すると、旭は笑いながら彼の手を取った。
「中盤、ストレートで抜かなかった所、オメェは走り屋だよ。この街走ってりゃまたどっかで会うだろ。またな」
それだけ言って、旭は走りだした。圭太も後から続く。出口で旭はホーンを短く2回鳴らして彼に別れの挨拶をして、圭太も軽く頭を下げてから走り去っていった。そんな2人を、彼は最後まで見送った。
「いつかあなた達のような・・・素晴らしいチームにしてみせます!もちろんテクニックも・・・!」
そして、彼も仲間が待つ場所に歩いていった。チームも自分も、これからやることはたくさんある。彼はため息混じりに笑ってから彼らの輪に戻った。
真田美春の!オールナイトニッポン!!
この放送は『旧車物語』の読者の皆様のご協力で放送しております。
美春「やぁやぁやぁ!皆さんお元気ですか~!!目標アニメ化!旧車物語の裏番組!真田美春のオールナイトニッポン!!のじかんだよ♪」
作者「こんな作品がアニメ化したら、いよいよ日本は終わりだろ・・・どうも、上のようなことは1ミリたりとも思っておりません、作者です」
美春「さてさて、今回は私のあっくんのテーマソングだよね!?」
作者「そうだなぁ」
美春「今回はどういう基準で決めたのぉ?」
作者「うーん・・・彼の雰囲気と見た目で決めました」
美春「そうなんだ~!楽しみだなぁ♪」
タイトル ファンキーモンキーベイビー
唄 キャロル
美春「君はファンキーモンキーベイベー♪」
作者「いかれてる~よ~♪」
美春「またまたマニアックな選曲・・・」
作者「いや、旭君にはぴったりかと・・・」
美春「そだね♪歌のなかで『だけど恋しい俺の彼女』って私のことかなぁ???」
作者「ご想像にお任せします」
美春「やったー!!見直したよ作者君!死に際に改心した南斗鳳凰拳の使い手と同じくらい見直したよぉ♪」
作者「あんまり嬉しくないな・・・まぁ、君たちの外伝を書かせてもらったからね」
美春「へ・・・?」
作者「いやぁ、あれだよ。君がサンパチを入手した経緯を・・・」
美春「そんな話書いたの・・・?」
作者「いや、だいぶ前に君の愛車紹介コーナーで書いてもいいみたいな前フリがあったから・・・」
美春「いや・・・私はいいけど・・・」
作者「いいけど・・?」
美春「旭君に殺されちゃうよ・・・?」
作者「・・・・・・」←血の気が引いた
プルルルルル♪
美春「あ、あっくんから電話だ・・・、もしも~し♪・・・え?作者君?いるよ~♪今ラジオの・・・へ?逃がすな?・・・ギタギタにする・・・?わかった~♪」
ピッ←電話を切った
美春「今から遊びに来るってぇ♪」
作者「逃げよう・・・北へ・・・」
美春「それでは皆さん!作者君が生きていたらまたお会いしましょう!ラジオのリクエストはなんでもOK!随時受付中だよ!カモン!」
ガンガン!!!!←戸を蹴る音
美春「・・・・・・・もう会えないかも・・・」
作者「北に・・・あぁ、海がきれいだろうなぁ・・・」←現実逃避
というわけで、27章。どうでしょうか?
レースの描写は、文字だけで表現する長非常に難しくて苦戦しました汗
と、いうわけで押し絵を描いてくださる方を随時募集中!こんな小説に押し絵を書いてくださる心優しい絵師さまがいらっしゃいましたら是非ご一報を・・・!
それと短編小説、『旧車物語外伝 旭と美春 GT380 LOVE SONG』を掲載しました!!
よろしかったらそちらも宜しくお願いします!感想は本編、外伝共に受け付けております!!それでは!!