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旧車物語  作者: 3気筒
25/71

第25章 真の和解。そして、動かないバイク達

お久しぶりです汗

 なんとか落ち着いた6人は、とりあえず一旦席に座った。真子はぽーっとした感じで圭太を見ているし、洋介は面倒くささと気まずさを混ぜたような顔だ。凛は洋介を睨んでいるし、圭太は下を向くしかない。翔子と紗耶香はとりあえずガタガタ震えながら座っている。

 翔子は洋介を見ていた。翔子は正直こんな場所でこの姉妹と出会ったコトにも驚いた。正直この前の横浜の一件が翔子を不安にさせる。旭と洋介が真子のマッハに細工をしたことはすでにバレているだろう。そのことについてはこちらが完全無欠にこちらが悪いのだが、それが原因で全然関係の無い千尋がRGのエンジンを譲ってもらえないという事態もあり得る。

 翔子はとりあえず頭の中身をフル活動させて打開策を考えて・・・出されたお茶で緊張して乾いた喉を潤す以外に出来ることは無かった。

「ま、まぁな・・・なんとも不思議な偶然もあるもんだよな、うん、なぁ圭太!?」

 気まずい沈黙を破ったのは洋介だった、焦りながらこの状況を収拾しようと笑いながら圭太に向かって笑うが、やがてその笑いも失笑と化してしまった・・・。

「今くだらねーコト言ったテメー、名前なんて言うんだよ・・・?」

 一方、凛はかなり洋介を睨み付けていた。横浜での一件は、圭太と翔子は許したが、それ以外の人間、特に旭と洋介のことはまだ許していない。

「このバラエティーに富んだ話題の宝庫と呼ばれたオレに対してくだらねーとはなんだ、くだらねーとは?」

 話題の宝庫などとは一度も言われたことの無い洋介が反論するが、すでにやる気無しである。

「だいたい、人に名前聞くなら、自分が最初に名乗りやがれよな」

 なんとなく最もなコトを宣う洋介を見て、ぶちギレそうになる自分をなんとか押さえ込んで、凛が立ち上がった。

「オレは赤城凛だ!さぁ言ったぞ!?」

 乱暴な自己紹介を終えた凛を見て、洋介はニヤリと笑った。

「そんな顔に力入れて自己紹介されちまったら、こっちも自己紹介しなきゃなぁ」

 言って立ち上がると、しごくマジメな顔を作って洋介が自己紹介する。

「あー、オレの名前はだな・・・羽黒・マーティン・アレキサンドリア・ウル・ブリュンスタッド・洋介様だ。ギャハハハハハ!!」

 自己紹介を終えて1人爆笑する洋介。しかし周りは誰も笑っていない。3人は呆れ顔で、1人はぶちギレそうな顔で、もう1人は圭太ばかり見ているという状況だ。

「まぁ・・・コイツがバカ野郎だ、ってのはわかったな・・・」

 今にもぶちギレそうな自分を泣きそうな顔で見つめている紗耶香を見て平静を装う凛。

 一方、真子はずーっと圭太を見つめ続けていた。それはもう圭太に穴が開くのではないかというほどの勢いだ。

「圭太君・・・」

「あの・・・真子さん?」

 見られ続けている圭太は、横浜での一件を思い出す。やはりあのインチキで怒っているのかと思い、謝ろうとした時に、真子が突然立ち上がった。

「圭太君・・・!」

「は、はい・・・!」

 いきなり叫ばれた圭太はなにがどうなっているのか理解出来ない。洋介達も真子をじっと見つめていると、真子はまた椅子に座ってしまった。

「ど、どうしたんですか?」

 若干ビビりながらたずねる圭太。

「FXの調子はどう・・・?」

 真子がいきなりFXのことをたずねてきた。圭太は拍子抜けしながらも

「まぁ、いいですよ」

 と答える。すると真子は満足そうな顔でうなずいた。

「それはよかった。私のマッハも絶好調よ」

「そ、そうですか」

 苦笑いで圭太が言うと、真子が胸の前で腕を組んで独り言を言い出した。

「同じカワサキ乗りで出会いはいつも突然・・・そしてバイクの調子も2人とも好調だなんて、これは運命なのかしら・・・?」

 妄言を吐き出す。

「ほら見ろ・・・姉貴壊れてんだろ?」

 凛が呆れ顔で圭太にささやく。普段真面目で品行方正でカッコいい姉が今ではゆるみ切った顔で変なコトをのたまっているのを見て、凛がため息していると、横から紗耶香が入ってきた。

「で、でも真子お姉ちゃん幸せそうだし・・・」

「でも見ろよ紗耶香、アレだぜ?」

 指差す先には未だにどこか新世界にトリップしたまま帰ってこない姉がいた。

「まぁ・・・確かにそうだけど・・・」

「あ、あの・・・!」

 突然、横から今まで黙っていた翔子が凛と紗耶香に話かける。

「どーした?あ、一昨日はサンキューな」

「え、あ、まぁ・・・じゃなくて私達の用件なんですけど・・・」

 一旦ソレにソレまくった話を翔子が元に戻そうとすると、「あ、そーいや・・・」と凛も思い出した。

「おい姉貴、どうする?エンジンコイツ等に譲ってやってもいいのか?あとヨダレは拭こうな」

 言ってハンカチを真子に渡すと、新世界から現実世界に引き戻された真子が

「危ない危ない・・・私としたことが、威厳が・・・」

 などと言ってヨダレを拭うが、すでに威厳など無いコトはいうまでもない。

「で・・・本題のエンジンなんだが・・・まぁ、前のことは由美ちゃんと圭太君に免じて許してあげるわ」

「ヨッシャ!ラッキー!」

 椅子から立ち上がって喜ぶ洋介。しかし真子は真面目な顔で睨み付ける。

「あなたとリーゼント野郎のコトはまだ許してないのだけど・・・?」

 普段の凛々しい態度で言う真子に、洋介は「そうだったな・・・」と言って、姿勢を正した。

「あん時はすまんかった。ただ、オレ等モメ事は好きじゃねーんだけど変に負けず嫌いだからさ、あっこでレースなんてマトモにやって、初心者の由美ちゃんや圭太なんかが事故ったらって考えたら旭と2人でやっちまってたよ・・・このとうりだ、許してくんねーかな・・・」

 そう言って頭を下げる洋介。それを見て、真子もため息をした。

「まぁあの時は、私も少し理性のタカが外れてた・・・いいわ、許してあげる」

 真子が洋介に言うと、洋介は「すまんな」と言った。圭太や翔子もそれを見て頭を下げると、凛と紗耶香が笑顔で2人に頭を上げるように促す。

「気にすんなって!もう一昨日水に流しただろ?」

「そうですよ、私達も凛お姉ちゃんを助けてもらったお礼をしなければいけませんし・・・」

 2人が言うと、圭太と翔子も顔を上げた。

「別にお礼なんていいよ。困った時は助けあいだって、旭さん達にも言われてるからね」

「私も、凛ちゃん達と仲良くなれたし、よかったかなぁって」

 言って、4人は互いにに笑いあった。

「そういえば、凛が助けてもらったって言ってたわね・・・」

「オレは聞いてねーが、まぁそうらしいな」

 真子と洋介がつぶやく。

「じゃあ、お礼って言ったら変な話だけどエンジン、タダでいいわ」

 真子の提案に、圭太と翔子が驚いた。

「そ、そんなに気を使わなくても・・・!僕達はただ・・・」

「プラグを買ってきただけですし・・・」

 2人が言うと、真子は圭太と翔子に優しげな笑みを浮かべて続ける。

「圭太君と翔子ちゃんは優しいわね・・・?でも、これは私達の気持ちだし、受け取ってくれないかしら?実際、ウチの父のコレクションにRGは無いの。だから大事にしてくれるなら、私はそのほうが良いと思うのよ」

 真子の言葉に2人が気まずそうにしていると洋介が横から入ってきた。

「嬉しい話だけどさ、それじゃあ旭も千尋ちゃんも・・・あ、旭の妹な?まぁ、納得出来ないと思うんだよ。だから、気持ちだけ受け取っておくからさ?金は払わせてくれよ」

 なんやかんや、いつもふざけたことしか言わない洋介も、ここは譲りたくないらしい。元々昔から旭と2人で硬派で通してきたので、スジは通したいらしい。

「このエンジンの為に、中坊の女の子が貯めた金のほとんどを使って、足りない分を旭に借りてまでしてるんよ。いろいろ欲しいモンもあるだろーに。だから、そこはオレ達もその気持ちを汲んでやりたいからさ?」

 そう言って真子を見つめる洋介。真子は少し考えてから「わかったわ」と首を縦に振った。

「でも、中学生がなんでエンジン治すんだよ?」

 RGと千尋の話を知らない凛がたずねると、洋介は少し考えてから旭と千尋の2人の話をした。ただし、2人が本当の兄妹では無いコトは伏せておいた。そういうプライベートな話を誰彼構わず話すほど、洋介はバカではないのだ。バカだけど。

 一通り話し終えると、真子は少し驚きつつも感心していて、凛と紗耶香も目を閉じて何かを考えていた。

「そう・・・そういうコトなら、私の提案は通しちゃダメね・・・」

 真子が静かに言う。

「わかったわ、エンジンは予定通りの値段で売ってあげる」

「サンキューな」

 真子が握手を求めると洋介もそれに答えた。

「それにしても、あなたもあの旭とか言うリーゼント野郎も、なかなかカッコいいところあるのね?」

 真子が見なおしたとばかりに言うと、洋介は「んなこたねーって」と照れた。

「ま、圭太君の方が1億5000万倍良い人だけれど」

「なにその差は・・・?」

 洋介が呆れながらたずねると、真子はそれを無視して圭太に向き直った。その目はちょっとヤバい。

「というワケで圭太君、これから社内案内してあげる!も、もちろん2人きりで・・・」

「いや、僕は・・・」

 腕に抱きつく勢いで迫る真子に圭太がビビっていると

「姉貴〜、そんなんいいから、早く渡すもん渡そうぜ〜?話はそれからだろ?」

 凛が助け船を出した。真子は少し膨れっ面で凛を見るが、やがて普段の冷静さを取り戻したのか、椅子から立ち上がりドアを見る。

「それもそうね、じゃあエンジンを渡すからついてきて」

「任せろよ」

「あ、ありがとうございます」

「です・・・」

 洋介と圭太と真子が順に言いながら真子の後に続く。凛と紗耶香も真子の左右に並んで歩く。

 社内を出て、駐車場の向かいうて少し大きめな倉庫の前まで来た。真子はシャッターの脇にある扉の鍵を開けると

「シャッターを開けるから、ここで待っていて」

 と言って先に入った。すると大きなシャッターを内側から操作して、自動で開けた。

「うわぁ・・・」

「こりゃすんげぇな」

 圭太と洋介が思わず舌を巻いた。中には所狭くにバイクが並べられていた。奥の壁際には棚があり、そこには無数の外装パーツやエンジン、補機類が置かれていた。

「さぁ、入って」

 真子に言われて、唖然としていた3人は取り敢えず中に入る。

「ここには、私達のお父さんが集めたバイク達が沢山保管されているのよ」

 真子がバイクを見ながら言う。

「よぉ、なんで本社じゃあ無いんだ?こんな東京の端っこに置くより、親父さんの目に届くじゃないかよ」

 洋介が質問する。確かに、父のコレクションならば本人の近くに置けばいいのだ。なぜこんな東京の端にある場所に置くのかをたずねると、真子が説明する。

「お父さんも私達もこの街出身で、この土地に凄い思い入れがあるのよ。さすがに本社をここにしたら仕事が成り立たないから仕方がないけど、バイクはこの場所に置いておきたかったのよ」

 真子の説明を聞いて「ふーん」と関心なさげに言う洋介。

「洋介さーん!凄いバイクがいっぱいありますよぉ!!」

 翔子が興奮しているのか、ピョンピョン跳ねながら叫ぶ。洋介も「おぉ、傷つけんなよ!」と言ってから真子に見学の許可を取る。

「いいわよ、ただし傷はつけないでね?」

 真子が言うと洋介はすっ飛んでいった。やはりバイク好きだ。そんな洋介達を見て、一瞬複雑そうな顔をした真子だが、すぐに洋介達とバイクを見ていた圭太を見つけて笑顔で後を追い掛けた。

「おー!この列はホンダかぁ。すげぇなおいおい」

 言って洋介が見ているのは、ホンダの旧車と現行車の交ざった列だ。

「おぉ、コイツぁCL72!?やべぇな!!」

 目の前にあるのはピカピカのCB72。60年代の名車である。カブのようなフロントフォークにクジラタンクが目から鱗だ。他にもCB750FourK0やらエアラやらCB400FourやらCBR400F3やら多数のバイクが並べられている。

 洋介は自分の愛車と同じ車種である濃紺のヨンフォアを舐めるように見ていた。

「おぉ・・・!めちゃくちゃ綺麗じゃん!?この408!やっぱしバーニッシュブルーもいいよな・・・ノーマルマフラー・・・スバラシイ・・・!!」

 なにやら自分の世界に入ってしまった洋介は、ずっとそのヨンフォアを見ていた。

「こっちはスズキとヤマハですね」

 圭太が目の前の列を見て言った。そこにはスズキとヤマハのバイクが多数並べられていた。

「あ、これ旭さんと美春さんと同じサンパチですよ!」

 翔子が指差す先には、GT380が置かれていた。

「あれ・・・ノーマルなのにマフラーが4本もある・・・」

 圭太がリヤからサンパチを見て首を傾げていると翔子が得意顔で圭太に説明をする。

「サンパチはですねぇ、3気筒であえて真ん中のマフラーを割って左右に出してるんですよ。」

「へぇ・・・翔子ちゃん詳しいね」

「ありがとうございます。でも、ヘッドの形が違いますね?」

 翔子がエンジンを見ながら自分もわからない所を指摘した。

 すると、サンパチを眺めていた2人に真子が近づく。

「このサンパチは初期型なのよ」

「初期型?」

 真子の言葉に翔子が聞き返すと、真子がエンジンヘッドを指差す。

「この形状のラムエアシステムはサンパチの初期型から2型までの形なのよ。あのリーゼントのサンパチは多分それ以降のモノだから形が違うのよ」

 言いながら違う所を指差していく。メーターやフォークブーツ、フロントブレーキ、サイドカバーなど、よく見れば確かに違う形をしている。

「真子さんも詳しいですね」

 圭太が言うと、真子は体をくねくねさせながら「そんなことないわよ〜」と言う。若干引く2名。

 そして、またいつもの真面目な顔で真子がサンパチのグリップを握った。

「まぁ、同じ3気筒だし、ライバル意識はあるから」

 グリップを握る力が強くなる。

「確かに快適性は遥かに劣るけれど・・・マッハの自慢はパワーと軽さ・・・!あんなまぐれさえ無ければ・・・!!」

 真子が忌々しそうな顔で言う。2人にはわからない話だが、真子は今だにあの高速でのバトルで美春を抜けなかったことを気にしている。

「圭太ー!こっちあカワサキだぞ!」

 突然、洋介が叫ぶ。それを聞いた圭太達は取り敢えずそちらに向かっていった。

 洋介は1台の白いバイクの前に立っていた。タンクには青いラインにエグりの入ったデザイン。長いホイールベースに3本出しアシンメトリーのデザイン。

「まっさか、こんなモンまであるとはよ・・・」

 洋介が呆れと憧れの眼差しで見つめるバイク。それを見た圭太にはよくわからないが、翔子ですら驚いていた。

「これはなんて言うバイクなの?」

 圭太が翔子にたずねると、代わりに紗耶香と凛が圭太を見ながら説明した。

「コレはカワサキの名車・・・500SSマッハⅢっていうバイクです」

「通称、カミナリマッパ・・・オレ達の400より数倍速ぇぜ?」

 2人もワクワクしながら説明した。すると真子も真面目な顔で圭太達に言う。

「私達3人の憧れのバイクよ・・・?いつか3人でこの初期型マッハに乗るのが夢なの」

 真子の言葉に、凛と紗耶香もうなずく。

 マッハシリーズは、紗耶香の250ccから350cc、真子と凛の400cc、このカミナリマッパの500cc、そして750ccがラインナップである。トップに君臨する750ccもものすごい人気を誇るが、この初期型マッハⅢの人気にはかなわない。マッハシリーズトップバッターであったこの500SSマッハⅢは69年に発売された。スッキリしたタンクラインにエグリの入ったデザイン、一文字ハン。『曲がらない止まらない』と言われたじゃじゃ馬の、アクセルを開けるとすぐにウィリーして、白煙をなびかせながらストレートをロケットの様に加速して走り去っていく姿に、当時の若者は狂喜した。やがてモデルチェンジでデザインが変わり、パワーも落ち着いていった後期型のマッハⅢよりも依然として人気が高い。

「しかしよ?オメーん家って金持ちじゃん?なんで今じゃなくいつかになるんだよ?」

 洋介が不思議そうにたずねると、真子が洋介を睨み付けた。

「親に頼りたく無いのよ・・・」

 真子が絞りだすように言うと、凛と紗耶香も頷いた。

「私達はね、自分の愛車くらい自分の力で手に入れたいのよ・・・!そうでなくちゃ意味が無いのよ」

「お前だってそうだろ?自分で働いた金で手に入れた方が」

「愛着も増えると思いますし・・・」

 3人の想いを聞いて、洋介は自分はなんて愚かなコトを聞いてしまったんだと思った。

 親の七光りだと思われたく無い気持ちは自分でも十分知っているのに・・・

「すまねぇ、女だと思ってナメた口きいちまった・・・カッコいいよ、お前等・・・」

 洋介が頭を下げた。

「わかってくれたならいいわよ」

 真子が言うと、後ろの2人もウンウンと頷く。しかし・・・

「どうせ・・・僕のFXは貰い物だよ・・・」

「私のサンパンも・・・」

 圭太と翔子が後ろで体育座りで地面の埃に文字を書き始めたのを見て、真子が焦る。

「ち、違うのよ圭太君・・・!私達は勝手に親に頼りたくないだけで・・・」

「そ、そうだぞ圭太!翔子!気にすんなよ!」

 真子と凛が2人に言うと、2人は立ち上がって笑った。

「冗談ですよ。全然気にしてませんから!」

「そうですよ、私のフォアはお母さんから貰った最高の宝物です!」

 2人が笑顔で言った。

「・・・よかったぁ・・・もう少しで圭太君のために割腹しなければいけないところだったわ・・・」

「なに言ってんだよ、お前は」

 ほっとした顔で目に涙すらためた真子がなにか大げさなコトをほざく。洋介が取り敢えずツッコミを入れた。すると、後ろでそんなやりとりを見ていた紗耶香が小さくつぶやいた。

「後、私達はあまりこの場所が好きじゃないんですよ・・・」

「なんで?」

 圭太がたずねると、紗耶香は少しうつむき気味で、マッハのシートを手で撫でた。

「だって、バイクって走るために生まれたモノじゃないですか。それなのに、ここにいるバイク達はほとんどが走ることが無いんです」

「そーなんだよなぁ・・・親父は買うだけ買って、乗らないで見てるだけ・・・なんかやっぱり寂しいんだよなぁ」

 凛も残念そうにつぶやく。確かに、これだけのバイクは1人では乗り切れない。それが人より多忙な人間ならば尚更だ。

 そんな話を聞いた圭太達も視線を先ほどまで見ていたバイク達に向けた。

 ヨンフォアもサンパチも、マッハやその他のバイクが悲しげな表情を浮かべているように見えた。『まだ走りたい』・・・そんなふうに訴えているかのようなその光景は、残酷に見えた。

「私達はあまりこの場所には来ないし来たくないの。あそこにあるCBも、そこにあるZも、このマッハも・・・見ると悲しくなるのよ」

 真子が悲しげな顔で言う。もう長らく動いていないタコメーターとスピードメーターを見てため息をつく。

「まぁ、気持ちは痛いほどわかったよ。確かに、あんまりいい気しねぇな」

 洋介も腕を組んで真子を見る。

「まぁ、見るもんは見たし。そろそろエンジンとご対面といくか?」

 洋介がたずねると、、真子は「そうね」と言って一番下の棚にあるカバーをめくる。すると中からプラスティックで出来た半透明な箱が3箱出てきた。その中の1つの蓋を開けて中身を見せる。

「確かコレよね?」

 真子が見せた箱の中身は、RGのエンジンの腰下だった。他の箱も確認すると、1つはヘッドやシリンダー。もう1つはキャブレターなどの補機類の入った箱だった。

「ん、全部揃ってんな」

 洋介が中を確認して頷いた。

「ガスケットとかはどうするつもり?」

「紙から切り出すよ」

「そう」

 真子と洋介が2人で話しているのを横目に、圭太と翔子は凛と紗耶香と話していた。

「今日遊べないっていう用事は、この事だったんだね」

「そーだよ、全く。まさかお前らだったとはなぁ」

「思ってるより世間って狭いです」

 凛がため息をつき、紗耶香が苦笑していると、翔子がポンっと手を打った。

「じゃあこの後は暇なんですよね?」

「あぁ?まぁ、暇っちゃ暇・・・」

「じゃあ決まりです!遊びましょう!!」

 凛が言い終わる前に、翔子がニコっと笑って凛と紗耶香の腕を取った。

 すると紗耶香はそのまま翔子の意見に同意したのか顔を縦に振った。

「実は・・・私、会ったときから仲良くしたかったんです。だから、こちらからもヨロシクお願いします」

「紗耶香ちゃん・・・!」

 翔子が嬉しそうにして紗耶香に抱きつく。翔子にしては珍しく積極的だ。

 そんな光景を見ていた凛も「けっ、しょーがねぇなぁ」と言いながら、圭太と紗耶香に抱きついている翔子を見た。

「べ、別に遊びたいから行くんじゃねぇからな!この前のプラグの借りを返すだけだからな!?」

 照れ臭そうに顔を背けながら言われては説得力もなにも無い。3人が笑うと「わ、笑ってんじゃねー!圭太テメーこの!!」とか怒りだした。

 すると、後ろで真面目な話をしていた真子と洋介がやってきた。真子は怒る凛の後ろから首に両腕を回しながら抱きつく。

「あ、姉貴・・・?」

「圭太君を困らすなんて、凛は悪い子なの?」

 なんか艶っぽい声を出しながら、徐々に腕に力を入れていく。

「ちょ、待て姉・・・ぐぇ!」

「そんな悪い子には、首絞めの刑ね」

 言うが早く、凛の首を絞めた。完全に入っている。

 凛がギブアップと言わんばかりに腕を叩く。その顔はいつもの強気で生意気なモノではなく、苦しそうに歪めて涎も少し垂らしている。さすがにヤバイと思っていると言われなくともといった感じで真子は絞めを解いた。

「ふぁ・・・ゴメン、姉貴・・・!」

「私じゃなくて、圭太君に謝りなさい」

 言うと、凛は早速圭太達の方に向き直り、日本人最終奥義、土下座をした。

「ご、ゴメンなさい・・・!ゆ、許してくれ!!」

 顔を上げると、もう泣きそうである。圭太達がなにか言おうとしたとき、後ろから真子が土下座している凛の頭を踏みつけた。

「誰が頭を上げて良いって言ったの?」

 グリグリグリ

「あの、真子さん・・・?」

「ちょっと待っててね圭太君。今からこの愚妹を躾るから」

「いや、僕達全然怒ってないんですけど・・・」

 圭太がおずおずと言うと、真子は足を退かしながら「そうなの?」と言ってから笑った。

「私の勘違いなら凛?なんで早く言わないのよ?」

 何か言う前に凛をこんな状態にしてしまった本人に、凛が顔を上げた。

「ご、ゴメンなさいぃ・・・」

 泣きながら、顔は恥ずかしそうに真っ赤になっている凛が真子に謝るという奇妙な光景を目の当たりにして呆然としている圭太と翔子に、紗耶香が小さな声で耳打ちした。

「真子姉さんは、怒ると究極のどSになっちゃうんです・・・」

 耳打ちした本人もガタガタ震えていると、いつもの姉に戻ったのか、真子が圭太の肩をつかんで言う。

「ゴメンなさい。お見苦しい所を見せてしまって。凛には後でキツく言っておくわ」

 真子の言葉に、後ろでまた泣きそうな凛と目が合った。

「で、それはそれとして、羽黒君とも話をしたんだけど、私達もあなた達に付いていくわ。よろしくね」

 真子が手を差し出す。その顔は先ほどのどSな顔ではなく、スゴい爽やかな笑顔であった。圭太と翔子が握手した。(圭太との握手は10秒以上)

 真子が満足そうにしていると、後ろから洋介が腰下の入った箱を持ちながら叫ぶ。

「おい圭太!トラックの荷台まで持ってくぞ!腰上頼む!」

 言いながら出ていく洋介を見て、圭太は本来の目的を思い出してエンジンの腰上の入った箱を持ち上げると・・・

「圭太君!そんな重いモノ、あなたが運ぶ必要ないわよ?」

 真子が優しく言った。そして

「ホラ、いつまで寝ているの?圭太君の荷物、早く持ちなさい」

 後ろで先ほどの土下座の体制のままの凛に真子が罵るように言う。凛の顔はまだだらしなく涙と涎を垂らしていた。

「いや、大丈夫です・・・!僕がやりたくてやるんですから!!」

 そんな凛を見てヤバイと思い圭太が言う。真子は少し不満そうだが、納得したらしい。「そう?」と言って、倒れてる凛を起こしていた。






 荷台に箱を載せ終わり、出発の準備も整った圭太達3人は駐車場で真子達を待っていた。なんでもバイクに乗る時の服装に着替えてくるらしい。しばらく待つことになった。

「まぁ、この前の件を許してもらえたし、よかったよね」

「そうですね、でもこんな場所で会うなんて最初は驚きましたけど・・・」

 2人が話していると洋介が腕を組ながらうなずく。特に洋介は、前回の件は自分と旭が主犯だったので、絶対に許されないと思っていたのだ。

「しっかし・・・ここ最近でオレの周りに旧車乗りがとんと増えたよ」

 圭太と翔子を見て、ジジ臭くしみじみと言う。

 しばらく会話していると、向こうから真子達がやってきた。

「お待たせ」

 真子達の格好は、以前の横浜ツーリングの時と同じ服装だった。

「それじゃあ道案内するから、イライラすんだろーが軽トラの後ろついて来いや」

「わかったわ」

 真子は短く言うと、凛々し顔で愛車、400SSマッハⅡに跨がる。その横には、青いマッハが1台。

「紗耶香、ケツ乗るぜ?」

 凛が紗耶香に言いながら、リアシートに座った。それを見て紗耶香がため息した。

「お姉ちゃん?セル無いんだから、降りてくれなきゃ掛けられないよ?」

「あ、わりぃわりぃ」

 リアシートに人がいてはキック出来ないコトをすっかりわすれていた凛が謝りながら降りる。紗耶香はスタンドを上げてチョークを思い切り引くとキックペダルに足を掛ける。そしてゆっくりと踏み下ろした。



 しゃこ・・・


 クァァァァァァア!!


 なんと一発で見事にかかった。純正マフラーから吐き出される青白い白煙の程よい量が完調を物語っている。

「そのマッハは紗耶香ちゃんの?」

 圭太がたずねると、紗耶香は恥ずかしそうに「はい」と答えた。

「250ccの、マッハⅠ・・・私の宝物です」

 アクセルを吹かせば軽快な2サイクル音。綺麗なブルーのレインボーライン。紗耶香のマッハⅠである。

「すげぇ綺麗だなぁ」

 洋介が関心しながら見ている。外装は当たり前として、エンジンのネジ1つからフェンダーの裏まで綺麗に磨かれたマッハⅠはまるで新車のようである。

「来た時はボロボロだったのを紗耶香が頑張ってここまで治したんだよな!」

 凛が嬉しそうに言うと紗耶香もニコニコと笑う。

「部品も自分で手に入れて、やれる所は全部自分でやったんです」

 錆どころか線傷1つ無いタンクを眺めながらニコニコしている。

「さて、んじゃあそろそろ出るぞ。旭ん家に行ったらまたダベろーぜ」

 軽トラに乗り込みながらの洋介の言葉に、皆も賛成して各々の愛車に跨がり、心臓に火を入れた。

 駐車場を出ていく間際、先ほどの警備員が緊張した面持ちで見送った。

 


バイク紹介&自慢広場!



作者「このコーナーでは、登場人物に自分の愛車をを紹介してもらいます!今回はじゃじゃ馬マッハを乗りこなす赤城3姉妹の双子の姉と妹!凛さんと紗耶香さんです!」

凛「あ・・・?なんだここ?」

紗耶香「夢かなぁ・・・?」

作者「おーい、ボケてないで。まぁここは夢みたいな空間なんですけどね」

凛「なんでもいいけど、ここで何すんだ?プロレスか?」

作者「そんな物騒なことはリングの上でやってくれ。ここではあなたたちの愛車を自慢してもらうところです。真子さんも来ました」

紗耶香「真子お姉ちゃんが・・・?」

作者「はいな」

紗耶香「私たちの愛車のことなら、全然かまわないですよ!!」

凛「あーあ、おめぇ知らないぞ?紗耶香にマッハのこと語らせたら・・・」

作者「いやいや、紹介してくれるのであればいくらでもどうぞ」

紗耶香「やった!やろうよお姉ちゃん!」

凛「はぁ・・・」



KAWASAKI 400SSMAHCⅡ改 赤城凛仕様

スペック

エンジン 本体ノーマル 

マフラー 集合ショート管

足回り ノーマル

外装 バックステップ、コンドルハン、タックロール

色 (レインボーライン)


KAWASAKI 250SSMAHCⅠ 赤城沙耶香仕様

スペック

エンジン 本体ノーマル

足回り ノーマル

外装 ノーマル

色 (レインボーライン)

すべてレストア


作者「凛ちゃんのが峠仕様で沙耶香ちゃんのがニーハンのノーマル仕様なんだね」

沙耶香「そうなんですよー」

凛「ふん、峠なら負けねぇよ」

沙耶香「マッハの良いところはですねぇ、暴力的な加速と白煙とスリムな車体!」

作者「はぁ・・・沙耶香ちゃん、なんか熱くなってるね・・・」

沙耶香「当たり前ですよ!いいですかマッハの素晴らしさはそのパワーに対しての車重の軽さにあってですね・・・(以下略)・・・だからいいんです!!」

作者「は、はぁ・・・」

沙耶香「350や400に至っては同時期のGTやRXなどのライバル車にパワーでも車重でも勝っていてですね?でもそれだけじゃなくて初のテールカウルの装着された・・・(以下略)・・・デザインの種類もレインボーラインからボートライン、カタナライン、ナメクジライン・・・(以下略)・・・このとおりバリエーションも豊富で、以降のKHだって・・・・・・・・・・・・」



1時間後




沙耶香「・・・でですね?マッハのマフラーは本当は・・・」

作者「あの・・・?沙耶香さん?」

沙耶香「なんですか?」

作者「そろそろ時間なんですけど・・・」

沙耶香「あれ?もうですか?これからだったんですけどねぇ・・・」

作者(まだ続くのかよ・・・)「あ、凛さん寝てる・・・」

沙耶香「あ!お姉ちゃん!起きて起きて!」

凛「うぁ・・・なんだよ、ようやく終わったかぁ」

沙耶香「もう!また途中で寝ちゃったの?」

凛「もう何回も聞いてるから眠くなってくるんだよぉ」

沙耶香「うー」

作者「まぁ、また何かありましたら遊びに来てくださいよ」

沙耶香「はい!」

凛「ダリイ・・・」






がば・・・!!←起きた



凛「疲れた・・・耳がジンジンするぞ・・・」



沙耶香「なんかすごくいっぱいしゃべった気がする・・・」








というわけで、今回でようやくRGのエンジンを手に入れました。

次回、真子達3姉妹が旭の家に!どんなハチャメチャになるのか!予定は未定!!←駄目だ。

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