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旧車物語  作者: 3気筒
24/71

第24章 不思議な再会

 圭太と凛の一件から2日。

 今日は土曜日。千尋のRGの新しいエンジンを取りに向かう日だ。昼過ぎに圭太と由美は旭に家に到着した。

「旭さーん!美春ちゃーん!こんにちわ!」

「お邪魔します」

 由美と圭太が玄関に上がると、6半の部屋で旭と美春、そして千尋の3人がコタツ机を囲んで昼食中だった。

「おぉ、来たかよ?」

「ゆーちゃん!けーちゃん!やっほぉ♪」

 旭と美春が笑顔で由美達を見る。かなり機嫌がいいらしい。まぁ美春はいつものことだが・・・。

「・・・こ、こんにちわです」

 一方、千尋はなぜか辛そうに顔を歪めながらあいさつする。机に顎を乗せて、握られたスプーンを下に下ろしてぐったりしてる。

「ど・・・どうしたのよ千尋ちゃん・・・」

 由美が心配して近づくと、すぐに理由がわかった。コタツ机の横に20ごうは裕に炊ける業務用ガス式炊飯器とかなり大きな鍋が置いてあった。

「ま、またカレー・・・?」

 由美が呆れながらたずねる。千尋の皿にはあと2口分くらいのカレーが残されていた。

「カレーだろ?どーみたってよぉ?」

「匂いでわかるでしょお?」

 スパイス中毒者の2人はなにがおかしいのか全くわからないと言うような感じで由美に言う。

 すると、今まで死にかけだった千尋が最後の力を振り絞ってなんとかスプーンを持ち上げる。最後のひとくちを無理矢理詰め込む。

「もぐもぐ・・・・・・・・・ゴクッ・・・た、食べたよぉ・・・」

 たったのひとくちをかなり時間をかけて食べ切った。スプーンを皿に戻して旭と美春のコトをまるで仔犬のようにウルウルした瞳で見つめる。

「おー、食ったかぁ」

 旭が感心して頭を撫でながら千尋に言う。頭を撫でられた千尋は嬉しさ半分、苦しさ半分な顔で旭を見つめる。

「ぜ、全部食べたから・・・もういいよね・・・?」

 祈るように言う千尋を見て、旭は笑みを浮かべながら千尋が食べていた皿を美春に渡す。一瞬安堵した千尋だったが、次の美春の行動を見てしまった。

「じゃあ最後の一杯だよぉ♪」

 美春がかなり大量にご飯をよそい、カレーも滝のようにぶっかけたさっきの皿を旭が千尋の前に笑顔で出すと、千尋はその場にぶっ倒れた。

「も・・・む、無理だよぉ・・・今のでよ、4杯目だよぉ・・・?」

「「よ、4杯!?」」

 千尋の訴えに、由美と圭太が声をそろえて驚いた。皿の上にまるで山のように鎮座する黄金色の物体を見て由美が美春を見る。

「ちょっと美春ちゃん・・・?」

「なあに?」

 罪悪感の欠片も無い笑顔の美春。

「なんでそんなに千尋ちゃんにカレーを・・・?」

 由美の質問に、旭が「やれやれだぜ・・・」とか言いながら質問に答える。

「いやな、ウチは出されたカレーは絶対に5杯は食わなきゃなんねぇ掟があんだぜ?ちなみにダチは3杯だ。知らなかったっけか?」

 旭がまるで今のアメリカの大統領の名前を言うくらいの気軽さで言う。そういえば食わされたなぁ・・・前に。などと由美と圭太が考えていると、突然ぶっ倒れていた千尋が笑いだした。

「私・・・このままカレーにされちゃうんだ・・・えへへ・・・」

 なんかカクカクしながらファービー人形みたいに笑う千尋を見て、由美が慌てて千尋の肩をゆすった。

「ち、千尋ちゃん!?しっかりして!!」

「旭さん!ドクターストップです!これ以上はもう無理ですよ!!」

 圭太が2人に言うと、カレーを食べながら旭が

「しゃーねーな・・・じゃあ今日はこんなモンでいいか?」

 と言う。ちなみに由美達は知らないが、旭と美春はすでに8杯目のカレーである。

「そーだねぇ!ちーちゃんも頑張ったもんねぇ♪」

 美春もニコニコ笑いながら言う。

「あ、ありがとうございます・・・2人共・・・がくっ・・・」

 由美と圭太にお礼を言って、千尋が力尽きたかのように床に突っ伏す。みんなが大好きカレーライスでこんなに不幸な顔を観せたのは千尋が初めてであろう。

「カレーで虐待が出来るっていうのを、今初めて知ったわ・・・」

「うん・・・」

 2人が恐怖しながら旭と美春を見ると、美春がニコニコしながらカレーを食べていた。

「ちーちゃんには愛情が強すぎたかなぁ・・・?」

 本気で悩む美春を見て、2人は千尋に手を合わせた。なーむー。





 それから30分くらいで、ようやく千尋が復活した。が、未だにダルそうで横には胃薬が置かれている。

「洋介が来るまではダベるべ」

 旭がタバコを吸いながら言う。今日はショートピースでは無くショートホープだ。

「そういえばどこにあるんですか?その倉庫」

 圭太がたずねると、旭も首を傾げた。

「詳しく聞いてねーんだけどよぉ?隣町にある『アカギ建設』とか言う会社の支社の倉庫らしい」

「え!?アカギ建設ですか!?」

 旭が言うと、圭太が驚きの声を上げた。美春や千尋、由美ですら驚いている。

「な、なんかあんのかソレ・・・?」

 1人コトの重大さがわかっていない旭がきょとんとしながら皆を見ると、圭太が旭を見て答えた。

「テレビでCMとかもやってますし、かなり有名な建設会社ですよ。社長はたまにテレビなんかにも出ていますよ?」

「あっくんアレだよ!『みんなの街の〜幸せ作り〜♪お家のコトならアカギにおまかせ〜♪』って!」

 美春が下手くそな歌唱力でCMソングを歌う。普通に生活している人なら、この歌を聞けば口ずさめるほどメジャーな歌を聞いて、旭は少し考えた後、皆を見た。

「ウチ、テレビねぇからわかんねーや」

 旭の発言の後、皆が部屋を見回す。そういえばテレビが無いんだった・・・

「あっくん、今度テレビ買おうね♪」

 ただ1人、美春はまた1つの目標を見つけたと言わんばかりの笑顔で言った。

「まぁなんでもいいけどよぉ・・・とりあえずお偉いさんの所に行くわけだ」

「じゃあちゃんとキチッとした服装で行かなきゃ!」

 由美が言うと、皆自分の服装を見る。

 由美はお気に入りのTシャツ、ジャケット、そしてスリムタイプのジーンズ。

 圭太は長袖の黒いTシャツに普通のジーンズ。

 旭はいつもどうりのスタイルだし、美春は何故か『京都パープルサンガ』のキャラクターとロゴが印刷されたシャツにジーンズ。千尋に至っては何故か制服だ。

「なんかみんなバラバラじゃない・・・」

 由美が呆れながら言う。

「つーか、オレだんだん悲しくなってきた・・・」

 周りが一般人の格好ばかりの中、1人だけ昭和のツッパリスタイルの旭はがっくりしている。普通にみたら1番浮いている。

「オレもそろそろ普通の髪型に戻そうかな・・・」

「ダメだよぉ!あっくんはリーゼントじゃなきゃ!!」

 美春が旭に言うと、旭も美春のシャツを見て呆れ顔である。

「つーか、なんでパープルサンガよ?」

 旭の問に、美春は「え?これ?」と言って首を傾げる。

「よくわかんないけど、ウチのタンスに入ってて、これなら汚れてもいいかな?って」

「パープルサンガファンに殺されんぞ?」

 2人の会話をとりあえず聞き流す由美達も、このままではいけないと思った。

「有名な会社の社長に会うのに、格好だけでもちゃんとしなきゃダメよ!」

 由美の発言を元に、皆あれやこれやと工夫を開始。美春が旭の家に置いている服やらなんやらを試行錯誤で着替えていく。着替えている時は、旭と圭太は外に出て着替えを待ち、2人も旭の手持ちの服やらなんやらで着替える。そんな作業が1時間ほど行われた・・・








「ふぅ・・・軽トラはダリィな・・・」

 洋介が駐車場についてため息する。いつものフォアなら楽なのに、仕事用の軽トラで来たのでストレスが溜まる。鍵を挿したまま、ドアを開けて部屋に向かおうとした時、駐車場入り口から聞き覚えのあるサウンドが響いてきた。


「お、翔子ちゃん!!ヤッホー!!」

 両手を上げて飛び上がっている洋介に、翔子も手を振って答える。バイクを停めて洋介に向き直るとあらためてあいさつした。

「こ、こんにちわ・・・!由美さん達は?」

「いや、オレも今着いたばっかだわ。もういるんじゃねーかな?」

 洋介が言うと、翔子も「そうですね」と言って駐車場を見る。バイクはちゃんと人数分、それぞれの愛車が停まっている。

「じゃあ行きますか?」

「行くかぁ」

 2人は並んで玄関に向かった。




「よう!来たぞ?・・・なにしてんだお前ら・・・?」

「お、お邪魔しまーす!・・・って、え・・・?」

 2人が部屋のドアを開けると、そこには5人ちゃんと座っていた。そこまではよかったのだが、格好がおかしい。というか変態だった。

 由美は美春に借りた黒のヒラヒラスカートにこれまた黒い上着は胸元が少しはだけてる派手なゴスロリ系な物(美春いわく取っておきらしい)で、美春はちょっとキツそうな着物。ちなみに胸元はかなり際どい。

 圭太は旭に借りたスーツだ。が、今どきありえないニュートラ・ルックの縦じまストライプの怖面タイプで、旭も紫のスーツ上下に派手な柄のネクタイ。頭はリーゼントのまんま・・・

「あ、来たわね翔子ちゃん!洋介さんも!」

 由美が笑顔で手を振る。翔子もとりあえず手を振る。

「み、みなさん・・・なにやってるんですか・・・?」

 翔子が恐る恐るたずねると、どこか変な次元にぶっ飛んでいると思わしき目の由美が笑いながら説明した。

「いやぁ、今日は千尋ちゃんのエンジン取りに行くじゃない?」

「は、はいぃ・・・」

「で、場所がアカギ建設って言うからちょっとしっかりしなきゃってみんなで着替えてたのよ!可愛い!?」

 立ち上がってくるりと一回転する由美。確かに似合ってはいるが・・・

「おう見ろよ洋介!この素晴らしいスーツ姿を!」

 旭も派手派手な紫色のスーツを誇示する。

「お前・・・それでヤクザ屋さんでもやるのか・・・?」

「なーに言ってんだよ!んなわけねーべ!?」

 旭が笑いながら肩をバンバン叩く。ちなみに圭太は恥ずかしそうに隅で丸くなっている。圭太は着替えの段階ですでにこの格好はありえ無いと思っていたが、旭のテンションに巻き込まれてしまい今ではヤクザみたいなスーツ姿である。唯一、千尋だけがまともな制服である。

「あのなオマエら・・・」

 洋介は旭の肩と由美の肩に手を置いた。そして思い切り深呼吸する。そして・・・

「ギャハハハハハハハハハ!!」

「ぶっ!!!」

 いきなりバカ笑いする洋介と吹き出した翔子。旭と由美はきょとんとするしかなかった。

「バカじゃねーのおめーら!?ヒヒヒヒ・・・!!そんな格好でなにすんだよ・・・チンドン屋かよ・・・!!ギャハハハハハハハハハ!!!」

 洋介が指を指して目に涙をためながらバカ笑いする。翔子ですら必死に笑いを堪えていた。

 そんな状況の中、当のコスプレ4人はただただ呆然とするしかなかった・・。


 騒ぎも収まり、4人はもとの服装に着替えていた。

「暴走しちゃうとなにも見えなくなるっていうのは本当だったのね・・・」

 ため息混じりに由美が言う。言い出したのは自分だが、後半はもうひたすらに目的と我を失っていた。

「ちぇっ・・・私はあれでもいいかなぁって思ったんだけどなぁ」

 美春は少し不満げだ。まぁもとからぶっ飛んでいるから仕方がない。一方男性陣は・・・

「死にたい・・・」

「ですね・・・」

 2人そろって部屋の隅で死んでいた。

「だいたい、大手企業の社長がクソ忙しい中来るわけねーだろ?」

 洋介があきれ気味に言った。考えてみれば当然のコトだ。

「あの・・・」

 すると、先ほどから隅のほうで座っていた千尋が旭にたずねる。

「そちらの方は・・・?」

 聞かれて千尋の目線の先を追うと、「ん?あぁ」と言って旭が紹介する。

「こっちは衣笠翔子ちゃんだ。翔子ちゃん、コイツ、妹の千尋な?」

 旭が2人ずつ紹介すると

「は、はじめまして・・・」

「こ、こちらこそ・・・!」

 千尋と翔子のぎこちない挨拶が交わされた。

 一方、洋介は今日これから向かう場所の説明をしていた。

「聞いて驚け。今日は社長の娘が待っていてくれているらしいぞ?」

 洋介の話に、由美がハッとなって顔を上げる。

「し、社長の娘!?」

「ということは・・・」

「社長令嬢・・・?」

 翔子と美春も後に続く。

「ま、向こうに行くのはオレと後1人くらいだけどな」

 洋介がニヤリと笑って言う。

「エンジン乗っけるだけだし、助手に1人いれば十分だろ」

 言いながら皆の顔を見る。旭以外の皆は大手企業の社長令嬢とやらを見たさにキラキラした面持ちだ。しばらく考えた末、洋介は圭太を指差した。

「圭太で決まり。たまにはそんな組み合わせも悪くねーだろ?」

 洋介が言うと、圭太もうなずいた。

「そう言えば洋介さんと2人っていうのは今までなかったですからね」

 圭太も笑いながら言うと、洋介が手を差し伸べた。圭太もそれに応える。

「いいなぁ、圭太ばっかり・・・」

「お土産夜露死苦ね♪」

 指を加えてうらやましがる由美と、なんか言葉がおかしくなっているが、美春がニコニコしながら洋介に言った。すると・・・

「あ、あの・・・!私も一緒に・・・」

 洋介の説明を遮って、翔子がおずおずと手を上げる。

「いや、力仕事だし、翔子ちゃんは無理しなくても・・・」

 洋介は内心嬉しかったが、この娘に力仕事をさせるワケにはいかない。それに、エンジン1基くらいなら自分で持ち上げられるので、道中の暇潰しの相手を探しているだけだったのだが・・・

「私、皆さんに助けられてばかりだから・・・今度は私も協力したいんです・・・!」

 翔子がギュっと拳を握って言う。前にCB350Fourが壊れてしまった時の借りを、いつか返したいとずっと思っていたのだ。

 そんな翔子の真っ直ぐな気持ちに、洋介は首を横に振ることなど出来なかった。

「わかった。じゃあよろしくな」

 洋介が握手を求めると、元気良く握り返した。

「よろしくお願いします・・・!」

「あ、でも軽トラ2人乗りだったわ・・・」

 洋介が肝心なコトを忘れていた。

「じゃあ僕はFXで行きますよ」

「いいのか圭太?」

 圭太の申し出に洋介が聞くと、圭太は「はい」と言って笑う。

「最近、バイクに乗るのが楽しいですし、お手伝いだけならバイクで行きます」

「そうか、サンキューな」

「すみません、圭太さん・・・」

「いいなぁ圭太・・・」

 由美がうらやましそうにして圭太を見る。こうして、出発の準備を始める。まぁ圭太はヘルメットを持つだけだし翔子も手ぶらなのですぐに終わる。

「じゃあ行ってくんべ」

「おう、向こうにはよろしく言っといてくれや」

 洋介と旭が互いの拳をぶつけなからいう。もう昔からの2人の儀式になりつつあるが、それはまた別の話だ。

「圭太〜、お土産買ってきなさいよ!?」

「おっみやげおっみやげ〜♪」

 由美と美春も笑って圭太に言った。別に隣町に行くだけなのになぜかまるで修学旅行前夜の姉妹のようなテンションの2人に圭太はため息した。

「わ、私からもよろしく言っておいてください!」

 そして今回最も皆に世話になっているであろう千尋が皆に向かって頭を下げる。「気にしなくていいわよ!困ったときはお互い様よ!」

 由美が笑顔で千尋の肩に手を置いて以前翔子にも言ったセリフを千尋に向ける。皆も一様に首を縦に振った。

「気にすんな千尋。まただれか単車で困ってたら次はおめぇが助ける番だからよ?それまで皆に借り1だ」

 優しく頭を撫でられて、千尋は真っ赤になる。

「じゃあ行ってくんわ」

 洋介が言って部屋を出る。後から2人がついて出ていった。





「じゃあ圭太には鈍い軽トラの後ろで申し訳ないがついて来いよ?」

「はい、大丈夫ですよ」

 圭太がエンジンを掛けたのを確認して、洋介も軽トラのエンジンを掛けた。そしてそのままクラッチを踏んで1速に入れてゆっくり発進していった。後から圭太もついていく。

「私のわがままに付き合わせてしまって本当にすみません」

 翔子が謝ると、洋介は「大丈夫大丈夫」と言ってハンドルを切る。

「困った誰かを助けたいってなら話は別だよ。それに翔子ちゃんの方から・・・」

「なんですか・・・?」

「い、イヤぁ!なんでもないなんでもない!」

 ははは、と焦りながら笑う洋介。そんな洋介の隣に座る翔子もついつい笑ってしまう。

「サンパンは調子どうよ?いい感じ?」

 洋介がギヤを3速に入れながらたずねる。軽トラはあちこちギシギシいってて頼りなさげだ。

「まぁ年の割りには調子いいですよ。これも由美さんや洋介さん達のおかげです!」

「そーかい?ありがとな」

「い、いえ!それは私のセリフですから・・・!」

 恥ずかしそうに顔を窓に反らす。

「サンパンもヨンヒャクも、どんなに現行車に負けててもやっぱフォアはいいよな?」

 ハンドルを切りながら洋介がつぶやく。

「近々さ、オレのフォアを超改造しようとしてんだ」

「ほ、本当ですか!?」

 洋介の言葉に翔子は驚きとワクワクの入り交じった声を上げる。

「ヨシムラキットでボアを上げて458ccにしてハイカムやらなんやら入れて足回りはリヤにウエダスイングアームでさ」

 自分の愛車の未来予想図を嬉々としながら語る洋介。

「でも、そのパーツって全部高いですよね?」

 サンパンだが、バイクには少し詳しい翔子が洋介に心配そうに言う。確かにヨシムラキットやウエダスイングアームなどはかなり高額なパーツだ。昔ならいざ知らず今ではお金に余裕のある大人でしか出来ない仕様である。しかし

「まぁ仕事頑張ってるし、いろいろ伝手があるからヨシムラキットは安く譲ってもらったんだ」

 と笑う洋介を見て、翔子はすごいと思った。

「あの、洋介さんのフォアは398ccですか?」

 翔子は少し気になっていたコトをたずねる。普通の400ccのバイクなら排気量は398〜399ccが基本なのだが、ヨンフォアに限っては違うのだ。

 ヨンフォアが出た当時、まだ『大型』や『中型』と言った免許証制度が無かった時代。CB350Fourのセールス的失敗を受けたホンダが、次のFourを作るべく考えた末、『350ccだと変化がわかりずらく、450ccだと500と併合してしまう。ならば400ccにしよう』というような考えで作られた(それまでの中型に当たるバイクは当時はほぼ350ccが当たり前)初の400ccバイクがCB400Fourであった。排気量は408cc。

 しかし、世間では暴走族問題が騒がしくなり、翌1975年に『自動二輪免許制度』が改正。排気量400cc以上のバイクは全て限定解除、すなわち今の大型免許がなければ乗れなくなってしまった。その煽りをもろに受けてしまったのが当時大人気だったCB400Fourだ。

 排気量408ccのエンジンはたったの8ccの差で『大型』に分類されてしまい、普通免許では乗れなくなってしまったのだ。

 当時、限定解除は『東大試験より難しい』と言われていた時代。ホンダは打開策としてスケールダウンした398ccとして売りに出したが、コストは上がり性能は下がり、さらに値段は据え置きとしたために生産は長く続かず国内では77年を以て生産を終了した悲劇の名車である。(ちなみに当時主要輸出国であったアメリカには免許制度が無かったのとオイルショックで2ストが不人気だったので408ccが最後まで生産されていた)

「オレのは逆車だから408だよ」

 洋介が信号で停車しながら答える。ギヤをニュートラルに入れて一息つく。

「408ccと398ccの外見上の違いって解るかい?」

 洋介の質問に翔子は少し考えてから

「サイドカバーの色、ですよね?」

 とたずねる。確かに408ccのサイドカバーはタンクと同色で398ccのサイドカバーは黒塗りなので外見上の大きな違いではある。

「正解。でもオレのカバーは黒塗りだったろ?」

「そうですよね。私あれを見たら絶対398ccだと思ってました」

「塗っちまえばわからなくなる違いもあるが、ほぼ絶対にわかる違いもあるんだぜ?」

「え!?」

 洋介の問に、翔子が考えるが、全く違いがわからない。どんなに頑張って考えてもコレと言って思い当たらない。ついにダッシュボードに額をつけて考え込んでいる翔子を見て、洋介が翔子の肩を叩いて笑う。

「はっははは!わかんないよな。外見上の違い、実はタンデムステップの取りつけ位置なんだよ」

「タンデムステップ・・・?」

 翔子が疑問の声を上げると、洋介は「そうだよ」と言ってギヤを入れて走りはじめる。

「408ccはスイングアームに、398ccからはフレームに付けられてんだ。オレのはスイングアームにタンデムステップがついてるんだよ」

 ミラーで後ろを走る圭太に手を振る。

 一方翔子は凄く感動していた。排気量は違えどエンジンは同じフォアの翔子はかなり衝撃を受けたのか珍しくかなり興奮している。

「すごいです!勉強になりました!!」

「いやいや!それほどでもー!!」

 車内は一気に賑やかになった。一方

「・・・」

 圭太はただただ黙々とZ400FXを走らせる圭太だった。




 走り出して30分。2台はそろそろ目的地にたどり着くところまで来ていた。

「この辺だよなぁ?」

 洋介が電信柱の住所を確認しながら道を進む。

「あ、あれじゃないですか?」

 助手席で周りを見回していた翔子が指す方向には、確かに大きな看板に「アカギ建設」と書かれていた。

「お、あれだあれだ」

 洋介もその看板を見つけた。ウィンカーを左に出して後ろの圭太に気を付けながら左折。駐車場に入ると、警備員が素早く運転席に近づいてきた。洋介が軽トラの窓を懐かしのクルクルハンドルで開けると、中を見た警備員がしかめっ面する。

「ここは関係車両以外立ち入り禁止です」

「関係者なんだけどさ?」

 洋介の言葉を聞いて警備員はさらに顔をしかめる。まだ20歳にもなっていなそうな男女2人、しかも男は少し態度が悪い。オマケに後ろにはバイクが1台。

「今日ちゃんと来るってここの社長さんに話通してますよ。羽黒自動車のセガレですわ」

 洋介が言うと、警備員が今日の来客予定を確認する。そして顔を真っ青にした。

「ししし、失礼致しました!!こちらへどうぞ!!」

 警備員の焦燥を見て、洋介は心の中で「勝った」とかワケのわからない勝負の結果に満足して、軽トラのエンジンを3回吹かしてから駐車場に侵入した。圭太も後から続くときに警備員の顔を見ると、警備員はかなり冷や汗をかいていた。

 適当なスペースに軽トラを停める。圭太もその横に停めた。

「うし、じゃあいよいよ社長令嬢とやらとご対面だぜ」

「ですね!」

「そんなに張り切るコトかな・・・?」

 洋介と翔子がはしゃぐが、圭太は普通に洋介の後に続いた。先ほどの警備員が入り口まで案内してくれた。その時・・・

「あれって・・・?」

 圭太の視線の先に、見覚えのあるテールカウルを装着したバイクを発見した、テールのみで分かりにくいが、真っ白なFXテールに緑のレインボーライン。もう1台はきれいなブルーにこれまたレインボーライン。

「どうした圭太?」

 立ち止まった圭太に声をかける洋介。

「い、いや、大丈夫です」

 言って後に続く圭太。

『まさかそんなことはね・・・』

 頭に浮かんだひとつの可能性を否定した。もしそうなら、それはタイミングが良すぎるし・・・

 しかし、圭太の考えは現実となって実現することになる。

 会社に案内されて、受付の女性に案内された部屋にたどり着くと、しばらくそこで待つように言われた。

「どんな人なんでしょうか?」

 翔子がワクワクしながらたずねると、洋介は真面目な顔で

「多分相当お嬢様ボケしてんだろうな、『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』とか言ってな」

 アホなコトを言った。

「あ、来た来た!来やがったぜ!」

 外から数人の足音が聞こえてきた。

 そして扉が開かれた。

「ようこそ、羽黒様。私がアカギ建設社長、赤城博彦の娘、赤城真子で・・・あ」

 そこで今入って頭を下げて挨拶していた女性、赤城真子は3人を見て挨拶をやめてしまった。

 3人も座ったまま、表情すらも固まってしまっている。

「どうしたのお姉ちゃん・・・あ!」

「姉貴・・・?あ、」

 姉、真子の後ろからも2人の少女が現れると、2人も固まった。

 長い時間に感じられる、俗に言う『永遠の10数秒』の後、時は動き出す・・・!!

「あー!」

「け、圭太君!?え、なんで?!夢!?」

「やっぱり真子さんか・・・はぁ」

「テメー圭太コノヤロウ!!」

「あわわわわわ・・・!」

「はぅあぅ・・・!」

 ちなみに上から洋介、真子、圭太、凛、翔子、そして紗耶香である。

 赤城姉妹と、二度目の再開である・・・

 


真田美春の!オールナイトニッポン!!


この放送は『旧車物語』の読者の皆様のご協力で放送しております。


美春「ヤッホー!反響無いけど構わずやっちゃえ!今日も元気に美春お姉さんです!」

作者「ホントにびっくりするくらい反響ねえな、どうも、尖閣諸島は日本のものだ!作者です」

美春「うるさいよ♪」

作者「はい・・・」

美春「今日は主人公のけーちゃんのイメージソング的な何かを紹介するお♪」


タイトル Dont Stop Me Now

唄 QUEEN


美春「どんとすとっぴんなーう♪」

作者「いや、この曲は最高!ブライアンのレッドスペシャルの音の入り方が最高デスネ!」

美春「『俺はまだ走っていたいんだ!止めないでくれ!』っていうのは?あんまりけーちゃんぽくないけど?」

作者「まぁ、圭太のというよりは愛車のFXの歌かな?」

美春「あぁ、『止めないでくれ!俺はまだ走っていたいんだ!』って言うところは確かに!」

作者「あいつ主人公のくせに積極的じゃないから困る・・・」

美春「あなたより積極的よ」

作者「・・・」

美春「そんなわけで、曲に興味のある方はYOU TUBEで見てみてくださいね~!!それでわ~!!」

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