第23章 圭太初バトル!?
お待たせしました汗
なかなか時間が無くて執筆が遅れてしまいました。申し訳ございません(._.)
今回は少し長めです!お楽しみください!!
そして後書きは新コーナーです!
旭の家での出来事から2日・・・今日は木曜日だ。圭太も由美も今日は学校へ行き、6時間授業をこなし先生から「お前ら受験生なんだ、そろそろ進路についてマジメにやっていくぞ〜、そこ話聞いてるか〜?」などと言うこの時期にありふれた話を聞いて学校は終了。ちなみに由美は今日、学校の補修で居残りさせられている。科目は数学、歴史。帰り際に由美に数学のノートと歴史のプリントを強奪されたが、圭太は諦めて「がんばってね」と言って帰宅した。
今日、圭太にしては珍しく1人でバイクに乗って出かける用事あった。制服から普段着の半袖とジーパンに着替え、その上からジャンパーを羽織ってカバンを手に持ち部屋を出る。途中、姉の部屋から「ふみゃー!!」とか奇声が聞こえたが、また何か変なことでもしてるのだろう。無視して階段を下る。
「じゃあ、忘れ物も無いし・・・」
玄関で忘れ物が無いかを確認して、下駄箱の上の鍵置場から家の鍵とバイクの鍵を持って家を出た。
「途中で給油して・・・遠いなぁ・・・はぁ」
ため息をして愛車のキーを捻った。スターターを押すと、『キュルキュル』っとセルの音が鳴り、すぐにエンジンが掛かった。
ブァァァァアン・・・!ファン・・・!ヒュルヒュルヒュル・・・
ノーマル2本出しのマフラーから響く4ストツインカムマルチの、カムチェーンの音が混じるカワサキ特有のエキゾースト。Z400FXを車庫から出して、サイドスタンドを立てた後、カバンをシートベルトに挟んで固定。圭太はポジションを確認した後、ヘルメットを被りそのまま発進した。
「まさか、借りた本を忘れるなんてなぁ・・・はぁ」
圭太はブツクサ言いながらFXを走らせる。今日圭太が向かうのは相模湖より手前の、でも高尾山より奥の方の微妙な場所にある母の弟、つまりおじさんの家だ。
この前、圭太がおじさんの家から帰ってカバンを開けるとカバンの中に図書館から借りた本が無くなっているコトに気付いた。それでおじさんに確認すると、おじさんの家にあることが判明した。すぐに行こうとしたが、月曜、火曜は旭達と遊んでいて、昨日は宿題におわれていた為、今日しかなかった。今日取りに行かないと、全て読む前に貸し出し期間がすぎてしまうので平日の夕方に1人そんな場所に向っていた。
「しばらくは真っ直ぐ走れば着くし、いいかな、たまには」
言って、圭太が自分の愛車のタンクを見る。純正色には無い、艶のある濃いブルーの外装に、青空とジェッペルを被った自分の顔が映る。
「由美・・・バイクに乗り始めて最初の頃は僕がFXなんて、背伸びしすぎな気がしてた・・・今も少しあるけど・・・」
軽く呟いた。皆はそれぞれ自分にあったバイクに乗っているしそのバイクを心のそこから愛している。由美はゼファー改FX仕様にぞっこんだ。しかも元気のある由美に、あの赤い外装は似合うと思う。旭や美春のサンパチも爆音を立てて堂々と進む様はあの2人らしい。なのに、自分はどうだろう?『硬派カワサキの象徴!』『名車!』などと呼ばれるFXに乗る自分は硬派でも無い普通の人間だ。それも成り行きでもらったバイクに乗っているのだ。別にFXが嫌いだったと言うわけではない。これはカッコいいバイクだ。圭太が嫌なのは自分だ。身体は細く力も無い。顔はなんか女みたいで弱そうな貧弱な顔・・・(ちなみに、本人はわかっていないが、かなり綺麗な顔立ちをしている)
それでいてFX・・・圭太はそれが嫌だったのだ。
「でも・・・やっぱり」
そんな自分も、最近はFXでよかったと思い始めた。これに乗っていなかったら、自分は免許を取らなかっただろうし、由美も今のゼファーとも会わなかっただろう。旭や翔子達にも会えなかったと思う。
「まぁ・・・早い話、僕も愛着がもっともっと湧くように、自分のカタチを作ってみようかな・・・」
昨日旭の話を聞いて、エンジンに興味を持った。この鉄で出来た四角い箱の中で4つのピストンが綺麗に爆発して回っている・・・オイルがエンジン中を駆け巡り、バルブが空気を吸い込み、排気する。その話を聞いた時に、圭太は非常に惹かれるものがあった。今もシートの下で唸るエンジンの音を聞いて、ピストンの1発1発の爆発を感じようとしながら走る。
ノーマルFXは街道を順調に走る。街道では、そこの地元の中学生だろうか、FXを興味ありげに見ていく。
途中、ガソリンスタンドに寄って給油。走りだすと高尾方面の道はガラガラだ。
「よし・・・!」
前に車も信号も何もないコトを確認して、ちょっと緊張しながらアクセルを開けた。
ファァァァアァァァァ・・・・!!!
途中、エンジンが一息ついたが加速は止まらない。FXはノーマルマフラーは由美のショート管に比べれば全然大したことはないが、なかなか大きな音を立てて走る。
60・・・65・・・70・・・80・・・100・・・
スピードはどんどん上がっていく。圭太はエンジンの唸りを感じながら走る。強風が顔に当たり、狭い道路脇の歩道や道の標識が恐ろしいスピードで後ろに流れていく。
「は・・・速い・・・!」
風に顔を歪ませながら走る。向こうの歩道をあるく老人を確認したと思うと、すぐにミラーに映る。圭太はその速度に恐怖した。今現在のスピードは110キロ。そろそろ信号も出てくる頃だ。ギヤを落とし、エンジンブレーキとブレーキを使って減速。50キロ代までスピードを落とす。
「ふぅ・・・やっぱり、スピード出したら怖いなぁ・・・」
圭太は視線を前に向けて1人つぶやく。しかし、なにか心がモヤモヤする。
『もし、あのまま加速を続けてたら・・・?』
圭太は、さっきの加速時の景色を思い出す。ものすごい早さで流れる歩道や建物、人間・・・圭太は怖くなって減速した。
しかし、減速する前、あの瞬間。一瞬・・・ほんの一瞬だけ、メーター越しに見えた道路標識が、止まって見えた。
それは・・・凄く不思議な感覚だった。
「あれは・・・まぁ、いいか」
圭太はその後、いつもの安全運転でおじの家を目指した。
高尾も越して、峠道に入る。この短距離で小さな峠道を越えれば目的地はすぐそこだ。圭太はFXを法定速度で走らせる。山は青い木々で賑わっていが、夕日も沈み掛けているのでそれもよくは見えない。
「夜の峠って・・・なんか嫌に静かだなぁ・・・」
対向車は1台もいない。前も後ろも、自分のバイクが走り過ぎるといっきに暗闇になる。街灯はほとんど無い。
山にエキゾーストを響かせながら峠を上る。コーナーはキツいが、上りなので大したことは無い。
そして、下りに入った。小さな峠道は距離は無いものの、坂が急なのでアップダウンで走りがかなり違ってくる。先ほどの上りはスピードを出さなければまったく余裕で曲がっていける。しかし、この下りは・・・
「え・・・!?」
上り切った瞬間、いきなり下りのコーナーが待ち構えていた。急勾配をなんとか抜ける。
「危ない危ない・・・」 法定速度以内に速度を落とし、コーナーをクリアしていく。
「こうやって走ってると、コーナーじゃあやっぱりエンジンブレーキ使っちゃうなぁ・・・」
先日の旭の話が頭をよぎる。法定速度でもエンジンブレーキを使わなければ曲がれないのだから、確かにエンジンにかかる負担は相当な物なのだろうと思う。
「それにしても・・・直線がほとんど無いなぁ・・・」
そして、峠を走るのはほとんど初めての圭太がFXを傾けながらつぶやく。キツい勾配のコーナーを曲がったと思えば、すぐにまた逆コーナーの切り返しだ。道も悪いから危険だ。
「早くおじさん家行こう・・・」
圭太はとりあえず安全運転で先を急いだ。
「じゃあ圭太、安全運転で帰れよ!」
「はい!お邪魔しました」
おじさんの家に着いて、本を受け取った後、少し話してから出発の準備に取り掛かった。おじさんは玄関先まで見送りに来てくれた。
「しかし、圭太がバイクに乗るとは・・・似合わないなぁ?がはははははは!!!」
おじさんが言って圭太も苦笑いする。確かに本が好きなおとなしい圭太がバイクというのは、親族だからこそ似合わないと思ってしまう。
「このバイクは佑太さんのお下がりか?」
「まぁ・・・」
佑太とは圭太の父親である。おじさんはFXをまじまじと見つめる。
「まぁ、なんにしても安全運転でな」
「はい、失礼します」
挨拶をして、ヘルメットを被りエンジンを掛ける。短いセルの後、エンジンが掛かった。
「じゃあ、また遊びにきます」
「おう!娘と楽しみにして待ってるからな!!」
おじさんが豪快に笑う。圭太はギヤを入れてゆっくり発進。片手を振って挨拶をしながら走っていった。
「FXか・・・懐かしいなぁ」
おじさんは走って行くFXのテールランプを見つめながらぼやく。
「俺のバイクも、復活させたいなぁ・・・」
「もう真っ暗だし、早く帰らなきゃ・・・」
圭太は少し焦り気味に走り抜ける。
帰り道も先ほどと同じ道なので、先ほどの峠を越えなければならない。圭太は自分の他にも峠を越えるバイクか車がいるコトを願っていた。が、この田舎の道を使う人間はほとんどいないため期待薄だ。
しかし、ため息をつきながら峠の入り口前の信号に差し掛かると、なんと1台のバイクが信号で停まっていた。しかもウィンカーを点けていないということはこのまま直進、峠に向かうということだ。
「よかった〜・・・他にも峠越える人がいて」
小さな声で言いながら、ゆっくり隣に並ぶ。圭太はとりあえず隣の人のバイクをのぞいてみる。
「・・・あれ?」
見覚えのある細いタンクはキャンディーレッドにレインボーライン。スワローハンに集合のショート管・・・そして吐き出されるバリバリという排気音・・・。
「ま・・・まさか・・・」
ライダーの顔を見ると、向こうもすでにこちらを見ていたらしい。フルフェイスのシールド越しに驚き顔でこちらを見ていた。
「・・・」
「・・・」
たっぷり10秒以上見つめあった後、2人は一斉に声をあげた。
「あ!!てめえは!!確か圭太とかいう・・・!」
「あ!!君は!真子さんの妹の・・・?!」
圭太の前にマッハ3姉妹の次女、赤城凛が現れた。
「なんで君がここに・・・?」
「あ?関係ねーだろ?ていうか、お前!」
「は、はい・・・?」
ビシッと圭太に指をさして凛が怒鳴る。今会ったばかりなのに、なぜかかなり怒っている。そしてヘルメットを脱ぐといかにも不機嫌そうな顔で圭太を睨む。
「今から俺と勝負しやがれ!!もちろんバイクで!!」
「はぁ!?」
凛はなんと圭太に単車の勝負を挑んだ。挑まれた圭太は頭が?でいっぱいになった。なぜいきなり勝負しなければならないのかまったくわからない。
「てめえのせいで、姉貴の頭がバカになった!どーしてくれんだよ!!」
凛がエンジンを掛けたままサイドスタンドを下ろしてこちらに歩いてきた。信号はとっくに青だ。
「えと・・・どういうこと・・・?」
話が見えてこない圭太がたずねると、凛は圭太の胸ぐらを掴みながら、しかしなんかちょっと可愛い声でまくしたてる。
「てめえのせいで最近姉貴がおかしくなっちまったんだよ!気付いたらヘラヘラ笑ってたりなんか変なポエム書いてたりするし・・・!!どーすんだよ!?」
「だからなんで僕なんだよ・・・!?」
「このニブチンがぁ!!」
2人の噛み合わない変な言い合いが続く。凛はかなり怒りながら圭太に詰め寄る。
「だぁから!俺とレースしろ!お前が勝ったら俺はなんにも言わねぇ!だが!お前が負けたら姉貴には1ミリも近づくなよ!!」
「だからなんで・・・」
「うるせぇ!!姉貴におめぇは釣り合わねぇんだよぉ!」
なにやら1人興奮気味の凛の暴走にため息をつく。よくわからないがレースしないコトには解放してくれないらしい。圭太は胸ぐらを掴まれていて苦しいがなんとか声を出す。
「わ、わかったよ・・・やるよ、やるから放して・・・!」
「よし!!じゃあこの峠を先に越えたほうが勝ちな!信号変わったら容赦無くスタート!!」
言って圭太の胸ぐらを放して自分の愛車に跨がる凛。スタンドを上げて右足で愛車を支える。
ブァッパァァァァァン!!クァァァァァア・・・
アクセルを吹かすと、マッハの集合ショート管から出た爆発音が山に響く。白煙も出ているが辺りが暗いため分かりにくい。テールランプに照らされた白煙だけがあたりを陽炎のように漂う。
「ケ・・・ノーマルFXなんざ、ブッチギリよ!!」
凛がバンバカ吹かす。辺りが爆音に包まれると、信号が変わる寸前になっていた。そして・・・
ファァァァァアン!!
バァン!!コァァァァァァン!!
青になった瞬間、2台のバイクは峠へと加速していった。
最初の右コーナーで頭を押さえたのはやはり凛だった。車体を綺麗に傾けてセンターラインギリギリを抜ける。圭太もFXをコーナーで傾ける。
「ついて来いよ〜・・・!」
続くコーナーも、赤いマッハが壁ギリギリに走り抜ける。圭太も追い付こうとするが凛ほどインの壁には寄せれなかった。
そして上りの急勾配。3連ヘアピンが見えてきた。ここはかなりキツいコーナーなのを、先ほど走った圭太は覚えていた。いくら上りでもこのコーナーなら減速は免れないと圭太は考えた。
「なら、絶対ここでエンジンブレーキを使うはず・・・!」
先日の旭の話を思い出した。2スト、とくにマッハはエンジンブレーキに弱い・・・マッハ乗りならば絶対多用しないはず。追い付くならそこしかない!
そう思った圭太は、FXを加速させる。前のマッハとコーナーが近づくと、一気に距離を詰める。しかし・・・
「げ、減速しなきゃ・・・!」
コーナーの前で、凛は減速しない。逆に後ろの圭太が先に減速、エンジンブレーキまで使ってしまう。
「行くぜ・・・!!」
凛は1人叫ぶ。車体を一度左に寄せてから一気に右コーナーに倒す。軽いフットブレーキの後そのままアクセルを開けてコーナーに侵入していく。
「な・・・!?」
凛の走りに圭太が驚いた。この急勾配を上りとはいえ、ブレーキだけで・・・しかも一瞬のタッチでコーナーを抜けるその走りに。圭太は詰めが甘かった。エンジンブレーキが使えない車種に乗っている人間なら、なるべくエンジンブレーキを使わずして曲がるテクニックを身につけているということを考えていなかった・・・
コァァァァァァン!!!
マッハはそのショート管から雄叫びを上げて走る。センターラインのすぐ横をタイヤが、その上を凛の膝が通り過ぎる。ハングオンが世界一似合わないマシンでコーナーを走る凛はニヤリと笑った。
「オレはマッハで速くコーナーを抜ける為に、毎日毎日練習してんだ・・・!ノーマルFXなんかに負けるか!」
続いて切り返しのヘアピンでもマッハはかなりのスピードで走っていく。世間一般のマッハの走りのイメージである『真っ直ぐのストレートを白煙なびかせながら走り抜ける』姿とはかけ離れた、コーナーの度に車体をしならせて曲がる凛のマッハ。そしてそれを追いかけるFX。
圭太はなんとかマッハについていこうと頑張っている。しかし今日初めてコーナーを攻める走りをする圭太に為す術は無い。徐々に離されている。それに・・・
「くっ・・・!?」
先ほども走ったこの峠が、コーナーを曲がる度に牙を剥く。自分の中の目一杯のスピードでコーナーを曲がると、すぐに次のコーナーが口を開けて待っているのだ。圭太は恐怖した。呆気なくコーナーに飲まれてしまいそうな感じに背筋が固くなった。
「これは・・・ムリだね、やっぱり・・・」
圭太はあきらめて減速しようと思った。命がいくつあっても足りないと思ったのだ。情けない話だと自分で思う。もし旭に知られたらなにか言われるなぁと苦笑いしながら圭太はアクセルを絞るとFXは減速を始める。前を走るマッハとは距離がさらに開くハズだった。しかし・・・
「な・・・!?」
圭太は目を疑った。凛のマッハが、すぐ真横にいたのだ。ヘッドライトも消えていて、エンジンも掛かっていない。凛が立ちながらキックをしているが蘇る様子は無い。
「どうしたんだろう・・・?トラブル?」
バックミラーで確認してみると、なかなか掛かる様子も無い。圭太はFXを路肩に停めてサイドスタンドを立てて凛のもとへ走っていく。
「大丈夫・・・!?」
圭太が行くと、凛がマッハのエンジンの前でしゃがんで死んでいる。プラグを手に持ち「最悪だぁ・・・」とうなだれていた。
「ど、どうしたの・・・?」
おずおずとたずねると、凛は先ほどの勢いはどこへやら。ガックリしながら圭太に言う。
「プ、プラグが死んだぁ〜・・・」
「え?」
プラグが死ぬの意味がわからない圭太がそれをたずねる前に凛がぶつぶつ言い出した。
「オイル濃いからなぁ・・・でもなんだってこんな時に・・・」
途方に暮れる凛に、今の独り言でなんとなく事情がわかった圭太がマッハと凛の横に立って言う。
「す、スペアとか無いの?」
「前に交換したから無ぇんだよ・・・はぁ」
ついに地面に寝転がりだす始末。「ヴぁ〜・・・」とか「だ〜・・・」とか言いながらぶっ倒れてる凛を見て、圭太はとりあえずなんとかしようと思いついた考えを凛に提案することにした。
「じ、じゃあ僕が今からプラグ買ってくるから少し待っててよ・・・」
「あ!?てめえ!か弱い女の子をこんな峠道に放置して行こうってのかよ!?」
か弱いと言う言葉とは程遠い言葉使いで怒鳴る。
「じゃあ僕の後ろに乗って町まで出る?」
「マッハ置いてけるか!帰ってきて無くなってたらどーすんだよ!!」
「じゃあどうするんだよ!?」
「知らん!!どうにかしやがれ!!」
かなり自分勝手な凛に圭太も呆れるしかない。一瞬、もう帰ってもいいかな、とも思ったがその考えはすぐに頭から消えた。こんな場所に置いていったら次にクルマが通るのはきっと朝になるだろう。それまで放っておくことなど、圭太に出来るハズもないのだ。
「やっぱり僕が街のバイク屋に行ってプラグ買ってくるしかないよ。置いていったら盗まれちゃうかも知れないし、君はマッハを守って・・・」
とりあえず納得してもらおうとまた説明してみる。すると、凛はやっぱり怒りながら圭太に食って掛かる。
「こんな所でオレひとりぼっちかよ!嫌だっつってんだろ!?」
「仕方ないだろ?もうやり様がないよ」
言って、圭太はFXに向かって歩き始める。プラグ買うだけの余裕が財布にあったかどうか考えていると、ジャケットの袖をなにか弱い力で掴まれた。
見るとあの凶暴な凛が弱々しく、泣きそうになって圭太の袖を掴んでいた。
「た、頼むから行かないで来れよ・・・!?オレ、1人になったら・・・!」
さっきまでの威勢はどこへやら。目に涙を溜めて、訴えるように話す凛は先ほどまでの凶暴な態度とは違う少女らしさで圭太に言った。
「よ、夜の峠に1人だなんて・・・グスッ・・・怖すぎるんだよぉ・・・!」
半分泣きながら凛が言った。圭太が辺りを見回せば、なるほど確かに街灯は無い。暗闇の中置いていかれてしまったら確かにそれは怖いだろう。
「は、走ってる時は・・・大丈夫だけど・・・ヒグッ・・・!1人じゃ嫌だよぉ・・・」
形の良い顔で半泣きの凛。いつものつり目が弱々しい。そんな彼女を見て、圭太は少し考えた。そして・・・
「わかった。僕もここにいるよ」
「へ・・・?」
圭太の言葉に、凛は間抜けな声を出してしまった。
「い、いいのか・・・?」
「うん、ちょっと頼んでみる」
「だ、誰に・・・?」
凛が絞りだすように声を出す。圭太は少し考えた後、ケータイを取り出した。
「友達が、高尾にいるんだ」
その時、高尾某所某宅。
少女が1人部屋でくつろいでいた。机に座って少し分厚い写真の束を手に持ち、1枚1枚ゆっくり眺めてはニコニコと笑みを漏らす。つい先月までなら考えられない笑顔だ。
トゥルルルルル♪トゥルルルルル♪
家の電話が鳴りだした。今日も父は仕事で義母が旅行、義兄は友達の家に行っていて誰もいない。狭い部屋から出て階段を下り、電話の受話器を取る。
「もしもし、衣笠ですけど・・・あ!圭太さん?どうしたんですか?はい・・・はい・・・えぇ!?場所は・・・!?大丈夫です!行きますよ!じゃあ少し待っていてください!」
カチッ・・・
受話器を置いて、少女は少し楽しそうにして部屋に戻る。今日誰も家にいなくてよかったと心の底から思う。
「あの人達が家にいたら出れないですから・・・」
独り言を言いながら、夜は寒いだろうと少しあったかい格好をして部屋から愛車のカギとヘルメットとゴーグルを持って外に出た。
キュルキュルキュルキュルキュル・・・・・ブァァァァァァァア・・・・!!
長いセルの後、エンジン始動。シングルカム4気筒のサウンドをBGMにヘルメットにゴーグルを掛けて、少女は家を出た。
「あそこのガソリンスタンドに行けばあったはず・・・」
スタンドを下ろしてギヤを入れる。完調になった愛車は良い音だ。
「行きますか!」
少女、衣笠翔子は、本当の母の遺したCB350Fourのアクセルを開けて夜の街を走りだした・・・
時は同じく、某峠。
圭太は翔子に連絡を取り終えて、凛と2人で道路に座って話ていた。ちなみにFXはマッハの後ろに停めておいた。
「その翔子ってのは、あの横浜にいたヤツの誰かか?」
先ほどの弱々しさ&女の子らしさをどこかにぶっ飛ばしてしまった凛が圭太にたずねる。
「うん。CB350Fourに乗ってた・・・」
「あぁ、あれかぁ・・・」
凛は嬉しそうに笑った。
「少しくたびれてたけど、愛情を感じるよな、あのサンパンフォア・・・」
そうして、今は動かない自分のマッハを見る。
「オレのマッハも結構大事にしてんつもりだったんだけどなぁ・・・なんか上手くいかねーよ」
圭太もマッハを見る。集合管出口より後ろはオイルで真っ黒だが、外装、そしてなによりエンジンはビカビカに仕上がっている。
「そんなことない。マッハだって十分大事にされてるよ。エンジンなんかすごい綺麗で・・・」
圭太の言葉に、凛は笑いながら圭太の肩を叩く。
「だろぉ!?オレのマッハは外装じゃあ紗耶香に負けるし、チューンアップじゃあ姉貴に負けるけど、エンジンの綺麗さじゃ誰にも負けねーよ!なんたって一番気に入ってるパーツだからな!!」
マッハシリーズの象徴ともいうべき、2スト3気筒のエンジンのフィンを撫でた。まだ先ほどの熱が少し残っている。
「僕も、FXをそれくらい大事にしたいよ」
愛車を見て、圭太も言う。凛もFXを見て笑いながら圭太にたずねた。
「このフェックスはどんな経緯で手に入れたんだよ?」
凛の質問に圭太は自分がFXに乗るに至るまでと自分がFXに乗っているコトをどう思っているのかを軽く説明した。聞いていた凛は「ふーん」とか「それで?」とか適当な相づちを入れながら聞いていたが、話が終わると「うーん」と言ってから話す。
「手に入れるまでの経緯は、まぁいいや。あのゼファー女のおかげってワケだ」
体育座りを崩して、地面にあぐらを掻いて、話を続ける。
「でも、FXが似合わない自分がどうこう・・・なんて、どうでも良くねぇか?最初は成り行きで仕方なく、かも知れねーけどお前が気にするコトじゃねーだろ?周りがどう言おうが思おうが、そのフェックスはお前にしか似合わねーよ」
「そ、そんなものかな・・・?」
「そだよ。大体、お前の考えで言ったら、旧車は不良か元気有り余ってんヤツだけしか似合わねーって感じじゃね?普通のヤツだって堂々と旧車に乗っていてもいいだろが。確かに面倒クセぇ時もあんけど、そんなん知ったこっちゃねー。貰い物だろーがなんだろーが自分がどんだけ胸張ってそのバイクに乗ってるか。それが大事じゃねーのか?」
凛がいつもの男っぽい口調で言った。その目はすごく輝いていて、圭太は今の話を聞いて、そして前に由美に言われた「FXのおかげで今のゼファーちゃんに会えたんだから!」という言葉も思い出して自分か恥ずかしくなった。
「そうだね・・・理由なんていらないんだよね。好きなら好きで、それでいいんだよね」
「そうだよ、バカヤロー」
その後、2人はどちらともなく笑いあった。
それから40分が経った。2人は座って話していると、向こうからバイクが1台下ってきた。2人がヘッドライトの光を見て手を振ると、向こうのライダーも手を振って減速。FXの横にピタリと停めた。
「こんばんわ!圭太さん!」
翔子がゴーグル越しに笑顔であいさつした。
「わざわざゴメン。こんな所まで・・・」
圭太が申し訳なさそうに頭を下げる。すると、ビニール袋からプラグの入った箱を取り出して笑う。
「気にしないでください!おかげて外に出れましたし・・・あ、プラグってこれでいいんですよね?」
言って見せたプラグの番手を見て、圭太はうなずいた。
「多分大丈夫・・・だよね?」
圭太が後ろに顔だけ向けてたずねる。翔子もその後を目線で追うと、マッハのアクセルを握って申し訳なさそうにして凛が立っていた。すると凛は顔をうつむけたまま、翔子の前に立って頭を下げた。
「本当にすまねぇ・・・もうなんて言ったらいいか・・・」
「き、気にしないでくださいよ・・・!私は全然構いませんから・・・!」
頭を下げる凛に、翔子が手をブンブンと振って言う。
「おかげで圭太さんやあなたに会えましたし、全然気にしません」
「お、オレに・・・」
凛が顔を上げてたずねると、翔子は「そうですよ〜」と言う。
「あなたとは話してみたかったんです。マッハについてもいろいろ聞きたいですし・・・あ、写真撮らせてもらってもいいですか・・・?」
翔子はカメラをカバンから取り出して、顔を左斜めに傾けてニコニコしながらお願いした。
「え・・・あ、まぁいいけど・・・」
「じゃあ、とりあえずプラグ換えようか」
「はい!」
「お、おう・・・」
凛はシート下の工具入れからプラグレンチのソケットだけ取り出して、プラグキャップの外れたプラグを交換していく。作業は数分で終わった。凛はシートに跨がりキックした。
シャコ!!・・・シャコ・・・!!
ゴロゴロ!!グァァァァァァアン!!!!
「よっしゃ!!復活したぜ!!」
凛が思わずガッツポーズを取る。
「すごい音ですね・・・!」
翔子が目をキラキラさせながら言う。旭のサンパチのショットガンチャンバーのようなバリバリという音ではなく、空気砲のような爆発音が耳をつんざく。
「よし!!じゃあ峠越えるぜ!向こうについたら、プラグ代とジュース奢るからよ!」
凛の合図で、2人もエンジンを掛けて走りだす。数分間のランデブーの後、ゆっくり峠を越えた。
下について、3人は凛の奢りで缶ジュースを飲んで話していた。圭太は翔子に最近の出来事を聞かれ、旭の妹の千尋の話をしたり、凛も姉妹の話やマッハの話をして翔子と笑いあっていた。
「あ、もうこんな時間だ・・・」
圭太がケータイを確認すると、時刻は22時を回っていた。
「明日学校ですし・・・そろそろ帰りますか?」
「あー・・・かったりぃなぁ」
2人は残念そうな顔でそれぞれ言った。
「あ、でも私は土曜日に旭さんの家に行きますから、圭太さん達とはまたすぐに会えますね」
翔子は手をポンっと打って笑いながら言う。
「そうだね。あ・・・そうだ。赤城さんも来ない?もちろん姉妹揃ってで!」
「そうですよ!もっとお話したいですし!」
「凛って、下の名前呼び捨てでいいよ。おまえ等より1つ年下だし・・・」
圭太と翔子は彼女が自分たちの1つ下だと言うことを初めて知った。しかし「年下だから・・・」と言った凛は今までどうりタメ口で、残念そうな顔で言いにくそうに言った。
「ありがたいんだけどよ、土曜は親父の都合で姉妹みんな用事あるんだ・・・また誘ってくれよ」
凛が言うと、圭太と翔子は残念そうに頷く。親の都合ならば仕方がない。そう思って2人はとりあえず納得した。
その後、3人は連絡先の交換をした。例によってケータイを持っていない翔子は紙に番号を書いてもらった。
「じゃあこのまま流れ解散かな?」
「だな。また遊ぼうぜ!」
「次は由美さん達も一緒ですよ!!」
3人は笑顔で言いながらそれぞれの愛車に跨がる。エンジンを掛けるとそれぞれの愛車のエキゾーストが辺りに響く。
「じゃあ行くぜ!」
凛の合図で、3台は走りだした。
高尾に入り、街道に入ると、翔子が道を折れた。手を振って別れのあいさつをする。向こうもそれにホーンで答えた。
そこから街道を一直線。ひたすら真っ直ぐ進む2台はとうとう神奈川県に戻ってきた。ここから隣の市まで行く凛は真っ直ぐ。圭太はここで右折する。相模近くの交差点、つまり2人の分岐点で信号待ちをしていると、凛がヘルメット越しに圭太を呼んだ。
「あ、圭太・・・!」
「なに?」
圭太が凛に顔を向けると、フルフェイスなので圭太にはわからなかったが、顔を真っ赤にした凛が彼女らしくないモジモジした態度で圭太を見る。
「き、今日はありがとな・・・だ、だからってまだ勝負はついてねぇからな!!借りを返したらまた勝負だ!!」
凛が早口で言うと、圭太も困ったように笑った。
「よくわからないけどわかったよ・・・後、僕からも君にお礼を言わなきゃ。君のおかげで、FXが大好きになれたよ。ありがとう」
圭太も頭を下げた。後、心の中で由美にもお礼を言った。凛のおかげで、由美が笑顔で言っていた言葉を思い出せたのだ。
「ふん・・・!わかりゃいいんだよ!!じゃあな!!」
信号が変わると同時に、恥ずかしそうに顔をさらに真っ赤にさせて凛のマッハは加速していく。圭太もそれを見て自分も自宅への帰路についた。家はもうすぐそこだ。
「FX・・・君に乗れて僕は本当によかった。これからもよろしくね?」
圭太がFXに向かって呟くと、まるで機嫌を良くしたかのよう鋼鉄の馬は元気良く加速した。
真田美春の!オールナイトニッポン!!
この放送は『旧車物語』の読者の皆様のご協力で放送しております。
美春「やっほーう!みんな元気かなぁ!?」
作者「なんだこれは・・・!?」
美春「ここでは、美春おねぇさんがこの作品、旧車物語やキャラクターのイメージソングを紹介していくコーナーだよ!解説は自身もバンドでギターを弾いていたんだけど、最近なぜかドラムをやらされている作者さん!!ちなみに不定期放送だよ♪」
作者「いや、聞いてないし。つか、絶対反響無いだろこれ」
美春「いいからいいから♪無かったらあなたのせいということで・・・」
作者「良いわけねぇだろ!!」
美春「というわけでみなさんよろしくねぇ!じゃあ早速紹介しまーす♪えーと・・・」
ペラペラ・・・(台本見てる)
美春「まぁ、第一回ということで、先ずはこの作品のイメージソングの発表でーす♪」
タイトル FAIRY
作 SOHW-YA
美春「またすごくシブいのが・・・!?」
作者「いや、まぁ・・・この前バンドでやって、『カッコいい曲だなぁ』と思って『まぁ、いいかぁ』と・・・」
美春「いいのかなぁ、決める基準がこんなのって・・・あ、でもこのイントロからサビまでの速いビートがイイ感じだねぇ♪」
作者「だろう?なんかいかにも加速していくようなこのビートが良いよね」
美春「姐さんの声もオトナな感じ!カッコいいなぁ!!」
作者「お前も見習え。まぁ、ギターを弾いているボクとしては、ここのギタリストとベーシストがライブの時に楽器を同じタイミングで『グルっ!』て回すところとか、パフォーマンスも最高にいいよね」
美春「ヘタレギタリストのあなたの言うことにしてはまともね」
作者「地味にぐさっとくるなぁ」
美春「曲が気になる人は、YOUTUBEなどで調べてみたりレンタルしてみたりしてねぇ!それと、なにかお便りがあったら、メッセージなどでお送りください!音楽とか関係なくても全然大丈夫!どしどし応募まってるよぉ♪」
作者「こんな感じでやっていくと思いますので、ぜひお願いします・・・」
美春「じゃあ私はあっくんとべたべたしてくるよぉ♪またねぇ!」
と、いうわけで、ここまでご覧頂いた読者の皆さま、ありがとうございます。
感想やお叱りの声などありましたら是非!それでは失礼します!