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旧車物語  作者: 3気筒
22/71

第22章 由美の妄想、旭の勉強会、圭太の言葉

今回のメカ描写は、自分の経験を元に描いたのですが、なにかおかしな点があればご指摘お願いします。

タイトルは適当。。。汗

次の日も、由美と圭太は旭の家に来ていた。学生なのでそんなに遊んでもいられないが、今日は学校側の都合で授業が半ドンだったので、昨日ぶっ飛んだRGを治す手伝い、という名目で遊びに来ていた。

場所は、やはり旭の家『雪風荘』の駐車場。今はエンジンを降ろす作業中だ。本当なら屋根の下でやりたいところだが、ボロアパートの駐車場にそんな物を求めてはいけない。

「なんとか降りたな・・・」

旭がフレームから外されたエンジンを見て一息。ツナギ姿でサングラスはしていない。

「これがエンジンの全体像ね・・・!」

由美が新聞紙の上に置かれたエンジンを見て、まるで子供のように純粋な、ワクワク感溢れる笑顔を見せる。本来フレームにくっついたエンジンしか見ることが無い由美達には興味深い状況だ。

「こうして見ると結構小さいんだね」

圭太もしゃがんだりして見ている。2スト2気筒エンジンのコンパクトさに驚いた。

ちなみに、2人ともツナギ着用だ。白いツナギで、圭太が着ているのは旭の予備、由美の来ているのは美春の物だ。こうしてみると2人ともメカニックに見えないことも無い。

「車体は駐車場にカバー掛けて置いておくとして、とりあえずエンジンは部屋に持っていくぞ?」

旭がいいながら、エンジンを持ち上げて台車の上に置いた。

「重く無いんですか?」

圭太がたずねると、旭がパワーの割に細い右腕を見せながら

「普通だよ」

と答えた。ちなみにエンジンは2スト2気筒といえど重い物だが・・・

部屋までエンジンを運び、床に敷いた新聞紙の上に置いた。狭い部屋がさらに狭くなる。

「じゃあ由美ちゃんと圭太ぁ・・・お前らにも手伝ってもらおうか?」

「やっと出番ね!」

由美がはしゃぐ。旭が使っている工具箱の中でピカピカに輝く工具を見て興奮気味だ。

「じゃあ、エンジンバラす前に、この工具でプラグ抜いてくれ」

旭が圭太に工具を渡した。

「これは・・・?」

「ソイツはプラグレンチっつーんだ。クルマやバイクのプラグを抜く専用工具な。抜き方は差し込んだらネジと同じで左に回せば取れるからよ」

言われて、圭太はプラグにレンチのソケットを差し込み左に回す。しばらくクルクル回していると中から白いプラグが姿を現した。

「コイツがプラグ。エンジンに火を飛ばしてガソリンとオイルを爆発させんだ」

「これが?」

圭太が興味深くプラグを見ていると

「圭太!私にもやらせなさいよぉ!」

由美が子供みたいに圭太に言うので、圭太は由美にプラグレンチを渡した。

「そんながっつかなくったって、これから嫌っつーほどやることあんだからよ?」

「よし!取れたわ!」

旭の話をほとんど聞かず、由美がプラグレンチを回してプラグを取った。

「あーあ、全然綺麗に焼けてねーな・・・」

旭は2人からプラグを受け取ると、プラグの先端を見てぼやく。

「ここ見てみ?ここから火花が出るんだけどよ?焼け色が違うだろ?」

言って2人にプラグを見せる。1つはオイルまみれであまり焼けて無く、1つは焼けすぎて焦げている。

「なんか全然違うわね・・・」

「これが違うとどうなるんですか・・・?」

2人が旭に聞くと、旭はプラグを隅に置いた。

「焼け色が違うってコトは、片方でシリンダーでの爆発の仕方とかオカシイんだよ。オイルだらけのはほとんど燃えてない・・・生ガスがゲロゲロってこたーオイルが濃すぎ。焦げてんのぁちゃんと燃えてるが燃えすぎだ。キツネ色になるっくれーがいいんだ」

旭の解説に、2人も「おぉ」と頷く。初心者の2人はエンジンの中での爆発など、普通に行われて当然の事だと思っていた。

「ま、プラグは終わったから次はヘッドか。とうとうエンジンバラしだ」

2人を見て旭が続ける。空冷2ストのヘッドは部品が少ないのでフィンカバーの取り外しにかかる。2人にやり方を説明しながら作業を進める。

「ナットは対角線状に外すんだ。いっきに緩めずに少しづつ均等に回していけよな」

旭の説明を聞きながら由美と圭太が順々にナットを緩めてく。最初は固着している箇所もあったがネジ山を舐める事無く、ついにナットを外した。

「じゃあ、フィンカバーを上に持ち上げて・・・ゆっくりな」

2人は左右を一緒に持ち上げると、ついにピストンヘッドが姿を現した。

「これがピストンね!初めて見た!!」

由美と圭太はフィンを隅に置いてエンジンの中を見る。

「すげーカーボンが溜まってらぁ・・・」

旭はピストンヘッドを見てため息を付く。

作業は続いて、旭がシリンダーブロックを外す。焼き付きを起こしたので固着したピストンリングに苦労したが、なんとか慎重に上に持ち上げて、各シリンダーを外せばついにコンロッドが現れる。

「うわぁ・・・!」

「凄いなぁ・・・」

由美と圭太が初めて見るエンジン内部に思わず声を上げる。小さなエンジンだがなかなか迫力がある。

「あーあー、ダメダメだぁ、こりゃ・・・」

旭はシリンダーの中を覗いて呆れ顔。見ればシリンダー内部はズタズタに傷だらけだ。

「が・・・単車がぶっ飛んじまう程のダメージでもなし・・」

普通、単車が飛ぶ程の焼き付きはピストンがシリンダーブロックを突き破ったりしない限りほとんど無い。今回の場合はシリンダーブロックは傷だらけだが、突き破ってはいない。何が原因かとコンロッドまでバラしていくと・・・

「な・・・?これってまさかよぉ・・・」

1番シリンダー側のコンロッドとクランクシャフトをつなぐ内部部品、クランクメタルが割れてうまい具合にシャフトに挟まっていた。よく見れば腰下のケースに薄くヒビが入っている。普通じゃあり得ないケースだ。

「どうしたんですか?」

圭太が旭の見ている場所を一緒になって覗き込む。素人の圭太にはコトの重大さがわからない。

「クランクメタルだ・・・焼き付いて割れるコトはあるが、それが落ちるなんて・・・?ンなのアリかよ・・・?」

よくわからないが凄く驚いているらしい旭を見て、圭太と由美もオイルにまみれたクランクケースを覗き込んだ。

「治るの?」

「無理だな・・・シリンダーとピストンだけなら腰上だけ換えればなんとかなったが・・・クランクケースにヒビ入って、しかもクランクシャフト自体欠けてるし歪んでるか知んねー・・・このエンジンは死んでるよ」

「そんな・・・!?」

旭の説明はよく理解出来なかったが、最後の言葉に由美は悲しい顔でエンジンを見た。

「もちろん、蘇生させることも出来る。クランクケースのヒビ割れは極小だ・・・誤魔化せばイケるかしんねーしクランクシャフトも換えて腰上もボーリングすればなんとかなるが・・・」

「じゃあ・・・!」

期待を込めて由美が旭を見る。圭太も次の旭の言葉を待つ。しかし・・・

「ヒビが入ったってことは、そこから割れていくっつーコトだ。シャフト本体は換えればいいが、腰上をボーリングに出せばこの傷だ・・・かなりの費用がかかる」

その言葉を聞いて、2人は下を向いてしまった。旭もエンジンを見て悔しそうに顔を歪める。その時・・・

『ぴこーん♪ぴこーん♪』

暗い雰囲気の室内に場違いな軽い電子音が流れる。旭がツナギの胸ポケットからケータイを取出し、電話に出る。

「オレだけど・・・おぅ・・・」

旭が電話している時、由美はエンジンの心臓とも言うべき存在、クランクシャフトを見ていた。

「エンジンなんて、頑張ればどうにでもなる物だと思ってたわ・・・」

確かに、頑張ればどうにでもなるが、費用や手間を考えたら得策ではない。ただでさえ部品が少ない旧車の謳い文句である『壊れたら金が掛かる』とはこういう事態があるからだ。

「なんとかならないかな・・・?」

「無理よ、旭さんがお手上げなら・・・」

2人が話していると、旭が電話を終えたらしい。

「おう!オメーら!!」

「ど、どうしたんですか・・・?」

旭のテンションに圭太が驚いていると、ニコニコしながら旭が立ち上がった。

「洋介からだ!!RGのエンジン見っかった!!」

「「えぇぇぇ!?」」

2人同時に驚いてしまった。なんというグッドタイミング!

「洋介のオヤジが仕事関係で世話になった会社の社長がよ?趣味でそういう古いバイク集めてるらしくてな!予備パーツをしまってる倉庫に、RGのエンジンあるから3万でいいってよ!」

興奮気味に旭が叫ぶ。

「で、場所なんだが・・・どーやら隣の市内らしい。向こうさんの都合で、今週土曜なら空いてるってよ!」

旭が街の名前を言う。以前話したとおりここは県境なので、隣の市は東京だ。

「じゃあ土曜にはエンジンが復活するんですか?」

「いや、細かいチェックやらなんやらあるから、即日復活は厳しいが・・・復活は近いぜ!」

圭太の肩をバンバン叩きながら旭が言う。叩かれた圭太は強すぎる力に負けて少し後ろによろけた。

「じゃあこのエンジンは?捨てちゃうの?」

由美がピストンを眺めながらたずねると、再び工具を掴んだ旭が

「もっかい組み立ててしまっとく。なんか壊れたら予備で使えるパーツもあるしな」

またパーツを組み込みはじめた。それを見て、2人も旭に教わりながら作業を手伝った。







エンジンの組み立ても終わり3人が休憩していると、嬉しい来客がやってきた。

「やっほー!あっくん♪ゆーちゃん♪けーちゃん♪」

美春が騒がしく部屋に入ってきた。手には差し入れのカレーパンやらの食べ物とジュースが入ったビニール袋が握られている。そして美春の後ろからもう1人、背の低い少女が緊張した面持ちで入ってくる。

「おにーちゃん?は、入るよ?」

制服姿の千尋がゆっくりと玄関に上がる。

「あ、千尋ちゃん!昨日は大丈夫だった?」

由美が千尋を心配していると、申し訳なさそうに由美と圭太に頭をペコリと下げた。

「昨日はすみませんでした・・・私のせいで迷惑をかけてしまって」

「本当に無事でよかったよ」

「そうよ!それに私達はなにもしていないしね?旭さんと洋介さんに感謝しなきゃダメよ!?」

圭太と由美が笑顔で言うと、千尋の視線は自然と奥にいる旭に向いた。

「おにーちゃん?」

「なんだよ?」

緊張しながらも、勇気を出して話し掛ける千尋に、旭がぶっきらぼうに返す。が、旭も緊張しているのか表情が固い。

「昨日は、本当にありがと・・・それと、ごめんなさい・・・」

「昨日何べんも聞いたよ。そんな言わなくたってわかってんよ」

頭を下げる千尋に旭が恥ずかしそうに言う。

「あっくん、ちーちゃんのRGは・・・?」

美春が組み立て終わったエンジンを見てたずねると、旭がいつもの真面目な顔で現状を伝えた。



「つーワケで、エンジンは土曜に。残りの車体なんかのチェックは引き続きやる感じだな」

「よかったねちーちゃん♪」

「うん!」

旭の説明を聞いていた美春と千尋がハイタッチをする。

「じゃあ!今日はこれにて作業終了のお知らせだよ!食べ物と飲み物あるから今日はみんなでお話しよー♪」

「お酒はダメですよ?」

圭太が美春に注意しつつ、今日の作業は中止。急きょ宴会になることが決定された。





「じゃあ、かんぱーい!!」

美春の音頭で、宴会が開始された。ちなみに座席順は圭太、由美、美春、旭、千尋の順で円陣になって飲み物や食べ物を囲んで座っている。

「そーいや、美春。今日はサンキューな」

「気にしないでよぉ♪あっくんのためなら仕事の代わりだろうが人殺しだろーがなんでもやっちゃうよぉ♪」

美春がさらりと恐ろしいコトを言う。

「今日は旭さんの代わりだったんですか?」

圭太がたずねると、美春が「そーなの!」と言ってコーラを一気に飲んだ。

「RG治すから、あっくんに代わってウチの手伝い!子供の時から店番してたから得意だよ?・・・けふっ」

げっぷなのに何故か可愛く聞こえるげっぷをしてから美春が笑顔で言う。

「それから千尋ちゃんを?」

「うん!集合場所決めるの面倒だったから、中学の近くで後ろに乗せて買い物してから来たの♪」

またコーラをコップに注ぎながら美春がニコニコしながら言う。

「千尋ちゃん!旭さん!今日はあなた達兄妹の為の宴会なんだから、もっと盛り上がりなさい!?」

由美が千尋にオレンジジュースを注ぎながら笑うと、千尋も笑いながらこたえる。

「ここが、おにーちゃんの家・・・」

千尋は部屋を見渡す。初めて入った兄の部屋は、狭くてすこしオイルの匂いがするが、綺麗に物が整頓されている。

「狭くて悪いな。今どき風呂も共同だかんな・・・」

旭が言うと「ううん!」と首を横に振る。

「すっごく素敵な部屋だよ!また遊びに来ていい!?」

千尋が緊張した面持ちでたずねると、横から由美が割って入る。

「いつでも来てよ!私達もいるかも知れないけど!!」

「オイオイ由美ちゃん。そりゃオレんセリフだ」

旭がツッコミを入れて、コーラを一口飲むと、改めて千尋に向い直った。

「まぁ、いま由美ちゃんが言ったけど、来たかったらいつでも来な?まぁあんまりもてなしは出来ねーが・・・」

言うが早く、千尋は笑顔で「うん!」と頷いた。

「あ・・・そういえば」

突然、由美がなにかを思い出したのか手を打った。

「どしたのぉ?」

「昨日言おうとしてて言えなかったんだけど、おととい真子さんと会って・・・」

「真子て・・・あのマッハのか?」

「うん」

眉を潜めて旭が問うと、由美がコクりと頷いた。やはり同じ2ストトリプル乗りとしては気になる存在らしい。

「ゆーちゃん、あの人と何があったの?」

「あのね、実は・・・」

おとといの出来事を、由美は旭と美春に手振りを交えながら話す。2人は黙って聞き、たまに相づちを入れて聞き、話を知らない千尋もなんとなく聞いていた。


「というワケなのよ」

大体全てを話し終えた由美がオレンジジュースを一口飲みながら一息つく。

「なるほどな。で、あの直線バカは速かったか?」

真子に『リーゼント馬鹿野郎』と呼ばれていたコトを知らされた旭が不機嫌そうにたずねる。

「私のゼファーちゃん、カーブを曲がる度に離されちゃって・・・」

「ま、あそこはほとんど高速コーナーだからな、しゃーねーべ」

カレーパンを一口頬張った。

「しかし、いくら速いったって由美ちゃんのゼファーならマッハとタメ張れるし、練習すりゃどこで走ったって勝てるぜ?マジでよぉ」

「え!?」

驚く由美に、旭が「わかんねーか?」と聞く。

「いくら速くたって、30年前のバイクがどうあがいたってちょっと前まで作ってたバイクにゃ負けるってコトだ。70年代と90年代じゃあ技術が全然違うわな」

「な、なるほど・・・!じゃあ私も練習すれば・・・!?」

「あぁ、もしか勝てるかしんねー」

旭の言葉に、由美は目を光らせる。無理も無い。おとといは為す術も無く惨敗したのだ。しかしバイクが対等ならば練習次第で勝てるかも知れないのだ。

『私が速くなればマッハなんて遥か彼方・・・いや、旭さんや洋介さんにだって・・・!?』

由美は自分がゼファーを巧みに操って皆を抜き去るシーンを想像してみた。以下想像・・・



『やっぱりサンパチじゃ由美ちゃんには勝てねーわ!』

『オレのフォアなんかこのゼファーの前じゃ霞むぜ・・・』

由美の脳内で、旭と洋介が悔しがる姿が浮かぶ。そして・・・

『由美様!わたくしめのようなマッハなどと名ばかりの鈍足バイクに乗っている人間が圭太君のような素敵なお方と付き合おうなどと図々しい考えを持っていて申し訳ございませんでしたぁ!どうかわたくしめの頭を踏みつけてください!』

『ふっふっふ!私のゼファーちゃんのタイヤでもお舐め!!このメス豚ぁ!!』

『ありがたき幸せですぅ!』

脳内で土下座する真子が頭を踏み付けられながら自分のゼファーのフロントタイヤをペロペロと舐めているシーンを想像・・・いや、ここまで来ると妄想・・・をして顔を緩ませる。

「へへ・・・はへへへへへ・・・」

「ゆーちゃーん?だいじょーぶ?」

どこか別の次元にぶっ飛んでしまった由美の顔の前に美春が手を伸ばしてひらひらさせるが反応無し。肩を揺さ振ってもダメだった。そもそも普段から常にどっか別次元にぶっ飛んでいる美春がやっても説得力が無い。

「ゆーちゃんかぁいいなぁ♪」

ぶっ飛んでいる由美を見て、美春もニコニコ笑いながら由美のほっぺたを突きはじめる。部屋は少しカオスな空気に包まれた。

「由美〜!起きて〜!」

圭太が肩を思い切り揺らした。しばらくすると由美はハッとして目を覚ました。

「あ・・・危ない危ない・・・というか私にあんな願望があっただなんて・・・」

「どうかした?」

「な、なんでもないわよ!!」

由美が圭太の肩を叩きながら笑って誤魔化す。さすがにあの妄想は話せまい。

「まぁ、変な気は起こさないでね」

「へ、変な気って!?」

先ほどまでの考えがバレたのかと思い一瞬ビビる由美。しかし圭太は真面目な顔をして由美を見る。

「真子さんのマッハとレースしようなんて変な気を起こさないでってコト」

瞬間、カチンと来た。由美は機嫌の悪そうな顔で圭太に詰め寄る。

「なによ?私じゃあ勝てないってコト!?」

「違うって、昨日話したじゃないか。勝ち負けなんて関係無く楽しく走るって・・・!」

「そりゃあそうだけど・・・あれはゼファーちゃんを速く改造するって話だったし・・・!」

「まあまあ2人共!ケンカは良くないよぉ」

美春が事態を収集しようとなだめると、2人とも静かになった。

2人が気まずそうに座っていると、旭がコーラを飲みながら2人を見る。

「まぁオレは峠か街中だったら負ける気しねーけどな」

自信を持って断言した。

「確かにマッハは真っ直ぐが異常に速ぇ・・・車体が軽いのに加えてエンジンがハイパワーだからアノ暴力的な加速力があるけどよ・・・?しかも本来なら足周りとブレーキが貧弱だからコーナーが不得意なんだが、アイツのはイジってんからそこはさして問題じゃねぇ」

「じゃあ無敵じゃないの」

由美がため息をつく。聞く話では自分はおろか、旭のテクがあってもサンパチでは勝負にならないと思っている。しかし・・・

「アイツのエンジンが空冷2ストトリプルってのが、オレが峠で勝てる唯一のポイントだ・・・!!」

「え!?だって旭さんのサンパチだって・・・?」

由美が言いたいコトはもっともだ。旭の話ではGT380も400SSマッハも同時代のバイクで、同じ2ストトリプル。それなのに、どこに勝てる要素があると言うのだろうか。

「ポイントは熱対策だ・・・」

「熱対策・・・?」

「説明すんぜ?マッハは当時の典型的な空冷2ストだ・・・走行風をエンジンのフィンに『当てて』冷やさなきゃなんねぇ。しかも3発のシリンダーのウチ真ん中のシリンダーには風が行きにくい・・・」

旭が両手で説明する。エンジンに走行風が当たるということをジェスチャーした。

「ところが、GT380はラムエアーシステムっつー風を積極的に取り入れるカバーがある。コイツが風を『取り込んで』くれっから、3発全部のシリンダーがバランス良く冷やされる・・・」

手の形を変えて説明を続ける。しかし由美は疑問に思ったコト口にする。

「でも、だからってサンパチのエンジンが速くなるワケじゃないのよね?そんなに凄い要素じゃ無い気が・・・」

「まぁあせんな・・・ところで由美ちゃん、エンジンて風で冷やしてンけどよ?シリンダーとピストンの摩擦熱ってなんで冷やしてると思うよ?」

「え・・・?」

考えてみるが、エンジンを風で冷やすと言うことを今知った由美に分かるワケ無くうーんと考えていると・・・

「エンジンオイルですか?」

横から圭太が手を上げて答えた。旭は学校の先生のように「正解だ」と言って説明を始める。

「風を『当ててる』だけのマッハと風を『集めている』サンパチ・・・どっちが余裕よ?」

「それはサンパチよ!」

今度は由美が小学生のように答える。

「んで、さっきのオイルの話だが・・・2ストってのはオイルも燃えてんだ。だからアクセルを開ければオイルポンプからオイルが吐き出される。んでアクセルを戻せばオイルは出ない・・・アクセル戻してもオイルが出てたらエンジンカブっちまうからな・・・でもオイル出したいっても峠道じゃあ高速みてーにアクセル全開とはいかねーだろ?」

「そうねぇ・・・こないだ走ったダムの道ならアクセル戻さなきゃ曲がれないし・・・」

「コーナー曲がる前、由美ちゃん何したよ?」

聞かれた由美は少し首を傾げて思い出す。

「えっと・・・ブレーキかけて・・・ギヤ落として・・・」

「そう、エンジンブレーキだ・・・!単車ぁ減速させんなら信号もコーナーもエンジンブレーキを使うってのは教習所でも習ったよな?」

「・・・分かった!分かったよ由美・・・!」

突然、横で話を聞いていた圭太が由美に言った。それを見て旭もフッと笑った。

「つまりオイルポンプだよ!」

「説明してみ?」

旭に促されて、圭太が自分の考えた解答を披露する。

「曲がる時にエンジンブレーキを使うと・・・オイルポンプが開かないから回転が上がったエンジンの熱が下がりにくいんです・・・!減速するから・・・風が弱くなるからエンジンが冷えない・・・!」

「正解だ!マッハは風を当ててんだけだから高速回転の時はその風+オイルで冷却だからコーナーで減速すると一気に熱がヤバくなる。が、ラムエアーシステムで風を集めるサンパチは少し余裕が出来る。だから全開で走っててコーナーで減速すんとき、サンパチの方が風で冷やせていた分エンブレしても少し余裕が生まれる!」

旭の説明に、皆が「おぉ・・・!」と唸る。

「エンジンブレーキして熱くなったらどうなるの?」

由美の質問に、旭が押し入れを開けてさっき閉まったRGのエンジンを指差す。

「シリンダーとピストンの摩擦熱でピストンがシリンダーブロックを突き破ってタイヤロック・・・千尋みてーに投げ出されるだろーよ?」

その言葉に、皆が一斉に恐怖した。昨日、一歩間違えれば死んでいたかも知れない千尋にとっては笑えない話だった。そんな皆を尻目に旭は続ける。

「オレんサンパチも、ヤツのマッハもオイルポンプは恐らく全開はねーがかなり濃い目のセッティングだが、長い峠道なら中盤で絶対向こうが先にヘタる。しかもサンパチのギヤは6速だ・・・守備範囲も広れぇかんなぁ、これが峠でサンパチがマッハに勝てる要素だ」

「な、なるほどぉ・・・」

由美が唖然となって旭に言う。本当にこの人はバイクのコトはなんでも知っているのだと思い知らされた。

「ちなみに、サンパチはエンジン広いからバンク角が無ねぇって言うが、そりゃノーマルの話だ。跳ね上がったショットガンチャンバー付けてセンタースタンド取っぱらえば大したことねぇ」

「ば、バンク角・・・?ナニソレ・・・」

この後、由美の疑問など完全に無視して説明を始める旭を止めるのに、4人はかなりの時間をかけたコトはいうまでもない。止まった後はしばらくバイクの話題から離れて別の話題へと移って行き、夕方になり解散となった・・・。




「圭太・・・?」

「なに・・・?」

由美と圭太が帰り道の途中の信号で停まっていると、由美がなにやら恥ずかしそうに切り出した。

「さ、さっきはゴメン・・・!速くなろうなんて考えちゃって・・・」

言って頭を下げる。そんな由美のコトを優しい目で見ながら圭太が言う。

「僕こそゴメンね?強く言っちゃって・・・後、ありがとう」

「え・・・?」

由美がなぜお礼まで言われるのかと考えていると、反対の信号が点滅を始めた。圭太はギヤを入れながら由美に言った。

「今日、由美が旭さんにいろいろ聞いてくれたおかげで、僕もバイクがもっと好きになったよ。バイクの怖さと・・・それ以上にバイクの楽しさをまた確かめられた。ありがとう」

言って、信号が変わった。圭太は少し恥ずかしそうにして、由美を置いて走りだしてしまった。

「え・・・ち、ちょっと圭太!待ってよ!!」

由美もワンテンポ遅れて走りだす。2人の少年少女は、自分たちのお互いそっくりなバイクに乗って帰路に着く・・・


作者「あー、またそろそろみんなのバイクを紹介してもらうべく誰か呼ばなきゃなぁ・・・次は赤城姉妹の双子の姉でも・・・」

???「ちょいまてやーーーーー!!!!!」

がしゃーーん!

作者「うわ!何奴!!て!貴様は!」

洋介「てめー!オレのフォア紹介しないってどーいうことよ!?順番的に翔子ちゃんのあとは真子のマッハじゃなくてオレのフォアだろう!?」

作者「いや、ごめん。忘れてた」

洋介「殺す!!!」


HONDA (旧)CB400FOUR改 洋介仕様

 スペック 

 エンジン ノーマル

 吸排気 ヨシムラ当時モノ手曲げ管 CRキャブレター

 足回り 純正補強スイングアーム フロントダブルディスク

 外装 ヨーロピウインカーカチ上げ、タックロール、バックステップ、トマゼリセパハン(たまにマー坊ハン)

 色 純正赤


洋介「これが俺様のフォアちゃんよ!ヤバイべぇ!?」

作者「ふ・・ふぁい・・・」←殴られすぎてしゃべれない。

洋介「ま!満足したし飽きたし・・・今日は帰るわ。また来るからよ?じゃなみんな!」

作者「・・・」






がばっ!!←起きた

「何か成し遂げた気がするぜ!」






というわけで22話です・・・速いですね汗

あるお方に、「残すはYAMAHAのバイクですね」とのメッセージを頂きました。ちゃんとだす予定はあります!むしろ翔子より先に出そうとしたのですが、厳しかったです・・・汗

というわけでこの小説を読んでくださっているYAMAHAファンの皆様!今しばらくお待ちください!そして他の4メーカーが好きな方は続けてお楽しみください!そして何かご意見等ありましたらぜひ!

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