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旧車物語  作者: 3気筒
21/71

第21章 千尋の唄

こんな時間に更新です汗

由美と真子のツーリングから一夜明けた。今日は月曜日なので由美と圭太は学校だ。

今は三時間目の歴史の授業だ。『ハゲ川』という屈辱的なあだ名で生徒から呼ばれている滑川剛志教諭45歳独身が室町幕府について説明している。

圭太は室町幕府という歴史の授業の中では比較的地味な時代の成り立ちや文化を綺麗にノートにまとめている。一方・・・

「なになに・・・手っ取り早くパワーを上げるなら『きゃぶれたー』と『まふらー』を換えて・・・?『吸排気ちゅーん?』・・・ナニソレオイシイノ・・・?」

机の下でバイク雑誌を読みながら独りごちていた。ノートにはゼファー(と思われる物)の落書き以外白紙だ。しかも雑誌の内容をほとんど理解出来ていない。

「由美・・・!授業聞いてないと後で苦労するよ・・・?」

圭太がヒソヒソと由美に忠告する。しかし時すでに遅く・・・

「えーじゃあ、三代目将軍の名前は?簡単だろう?三笠!」

ハゲ川が由美に問題を当てた。しかし・・・

「えっとぉ・・・耐久性を上げるなら『おいるくーらー』を換えて・・・?」

全然話を聞いていない。

「三笠ぁ!!」

「は、はい!?」

ハゲ川の怒声にさすがの由美も返事をした。が

「早く答えを言わんか!!」

「え、えとぉ・・・おいるぽんぷ・・・?」

話を聞いていなかったため、見事な大ボケをかました。

「三笠ぁ!話を聞いとらんからワケわからなくなるんだぁ馬鹿タレめ!!」

ハゲ川がキレた。確かに室町時代の三代目将軍は誰?と言う問題で『オイルポンプ』などと答えられたらキレもするだろう。

「罰として、今日は全部お前に当てるからな?覚悟しとけ!!」

「そ、そんなぁ〜!?」

由美の嘆きにクラス全体にドッと笑いが起きる。圭太だけが1人ため息をついていた。


そして昼休みがやってきた。皆が購買や教室で弁当を食べたり、早弁してしまいやることが無くなったりタバコを吸いにいく者などがガヤガヤ騒ぎだす。

由美と圭太は席が隣なのでそのまま昼食を一緒に取る。

「昨日さぁ、街を走ってたら真子さんに会ったのよ」

由美がコンビニで買ってきたおにぎりを食べつつ、圭太の弁当のおかずを横取りしようと目を光らせながら言う。

「え?真子さんに?なんでまた・・・?」

圭太は弁当のおかずを取られないように目を光らせながら続きを促す。

「なんかさぁ・・・」

由美が昨日の出来事を話す。真子と和解したこと、でも旭のことは嫌ってるっぽいということ、そしてダムでブッチきりで負けてしまったこと。全てを話した。

「そうなんだぁ・・・やっぱり速いんだね」

圭太が感心しながら弁当を食べる。

「でね、私悔しくて悔しくて仕方がなかったから昨日勉強しようと思ってこんな本買ってみたのよ」

いいながらカバンから先ほどまで読んでいた雑誌を取り出す。

「なに?『特集!バイク改造マニュアル初心者編 仕組みを理解しよう!』・・・?」

圭太がタイトルを読み上げる。

「読んでみたんだけど全然わからないのよ。圭太はわかる?」

由美が紙パックのコーヒー牛乳を飲みながらたずねると、圭太は雑誌を読みながらため息をついた。

「僕だってわからないよ。わかってるのは由美がバイクを速くしたいって事だけだけど・・・」

「・・・?」

微妙な顔をする圭太を見て、由美がなんだろうと思っていると、圭太は静かに雑誌を閉じた。

「別に由美のゼファーを速くする必要は無いと思うんだよね」

「え!?なんでよ!?」

圭太の一言に由美は多少驚いた。じゃあどうしろと言うのだ?と思っていると弁当を食べ終えたのか片付けながら圭太が雑誌に目を向ける。

「だって、僕達がバイクに乗ってるのっていろんな所に行ったりみんなと楽しく走るためじゃん?だったら速く走る必要は無いでしょ?速く走ったら速く景色が流れちゃうし、速く時間も過ぎるし・・・なら、程よくでいいと思うんだ」

「圭太・・・」

由美は思い知らされた。自分は速く走りたいワケでは無い、と。圭太といろんな所に走りに行きたいのだと。

「まぁ、僕みたいな考えの人なら最近のツーリング向けのバイクに乗ってなきゃ説得力が無いけど、FXしかないからさ」

「なに言ってるのよ?圭太はFXしか無いわよ!」

由美が背伸びをしながら言う。

「よし!私も目が覚めたし、今日もゼファーちゃんでどこか行きましょう?」

由美が紙パックをゴミ箱に投げ捨てながら言う。

「でも今日は平日だし、月曜日だし・・・」

圭太が言うと

「旭さん家ならいいでしょ?」

「う、うん。まぁ・・・」

圭太は心の中で『由美、宿題とか課題やらなくていいの?』と言いたかったが、キラキラ輝く由美の目を見て言えなかった。




学校が終わり、2人は部活もなにも無いので真っ直ぐ家に帰った。話題は学校でのことが中心で、そのあたりは本当に普通の高校生だ。

やがて圭太の家の前についた。すると・・・

「圭太!制服のまんま待ってて!!」

言いながら、由美は向かい隣の自分の家に駆けていく。するとすぐに由美が戻ってきた。制服のまま。

「一回やってみたかったのよね〜」

制服のまま由美はゼファーに跨がり、ヘルメットをかぶった。

「制服で行くの?」

「そうだけど・・・?」

由美の返答に圭太は呆れた。

「由美?うちの学校の規則に『バイク、車の免許取得禁止』ってあるじゃん。見つかったら大変だよ?」

そう、最近の学校規則は厳しく、免許の取得が禁止されていることが多く、それは圭太達の通う南高も同じことだ。

「あ、そうか・・・!じゃあ、着替えてからまたここに集合ね!!」

由美も今回ばかりは何も言わず戻っていった。やはり学校はクビになりたくはないだろう。戻って行く由美を見て、圭太も自宅のドアを開けた。




「おまたせ!!」

圭太が自宅の前で待つこと数分。由美が再びゼファーに乗ってやってきた。服装は昨日とあまり変わらずだ。

「じゃあ行きましょう?」

「うん」

2人はギヤを入れて圭太が先頭で走りはじめる。

2台のカワサキが走ると街では凄く目立つ。信号で停まると2台は中年のおじさんからコンビニに溜まる不良まで皆がじっくり見てしまう。が、誰も手を出さない。FXには憧れるが手を出したら旭に殺されることを、街の不良はだいたい知っているのだ。

「皆の視線が熱いわよ!」

「本当・・・旭さんがいなかったら安心して乗れなかったよね・・・」

この地域には、『旧車に乗るなら地元で名前が売れてなきゃパクられても文句無し』みたいなワケのわからない決まり事がある。自由に乗る事が出来るバイクだが、旧車に限ってはそんな決まりがあったりする事が多い。この一般市民にとって迷惑極まりないルールを壊そうとしているのが、霧島旭や羽黒洋介といった『街の顔』である。

「人のバイク盗むヤツって、きっと人間じゃ無いわよね」

由美が怒りながら言う。まぁ、前に一度旭の家でやられかけたので警戒は普段からしているが・・・

「一生懸命働いて手に入れた思い出の詰まったバイクを盗むのって最低だわ!」

「由美の気持ちはわかるけど、とりあえず信号青になったから」

そんなこんなで、2人は旭の家に辿り着いた。するといつも旭と美春が停めている場所に2台ともバイクが停まっていない。

「2人ともいないのかしら・・・?」

「まぁ、バイクが無いからねぇ・・・」

2人が話していると、1台違うバイクを見つけた。

「あれ・・・凄いわね・・・」

由美が指差す先に、1台の単車が停まっていた。派手なカナリヤイエローに羽根付きテール。アップハン絞りにロケットカウル・・・完全な族車である。

「アレって間違いなく旭さんの知り合いよね・・・?」

「多分ね・・・」

2人が話しているとアパートの入り口から1人の女の子が出てきた。

「あの・・・!霧島の知り合いの人達ですか・・・?」

「え・・・?霧島って?」

由美がなんの話かと思っていると圭太が小声で

「旭さんの名字だよ」

と言うと

「ああ・・・!そうよ!私達旭さんの知り合いだけど・・・」

「本当ですか!?」

すると女の子が近づいてきた。背はめちゃくちゃ低く、まるで中学生のようだ。

「どこにいったかわかりませんか?」

「さ、さぁ・・・?多分仕事だけどどこに行ったかまでは・・・」

圭太が困っていると、聞き覚えのあるエキゾーストが遠くから聞こえてきた。


カァーンカァーン!バリバリバリバリ!!!!


「あ、帰ってきた!旭さんよ!」

由美が言うと、駐車場の入り口に、2台のGT380が姿を現した。

旭と美春だ。

「来た来た。おーい旭さーん!美春ちゃーん!!」

由美が叫ぶと2人も手をあげて応える。2人はそのままいつもの場所までGT380を停めて、こちらを見る。

「よぉ!圭太、由美ちゃん。元気してっか?」

旭がヘルメットを脱ぎながら言う。今日もラーメン屋だったのかリーゼントは少し崩れている。

「ゆーちゃん!けーちゃん!かぁいいなぁ!!」

美春はヘルメットすら脱がずに2人に抱きつく。

「美春さん・・・!」

「美春ちゃん離してよ!」

美春の奇襲に2人が困っていると・・・

「おにーちゃん!!!!」

「へ?」

「おにーちゃん?誰が?」

「あ・・・」

圭太、由美、美春がその声が聞こえた方を見ると・・・

「おにーちゃん!私・・・!」

先ほどの女の子が旭の前で泣きそうな、しかし嬉しそうな顔で旭の前に立っていた。

「てめェ、なんでココにいやがるんだよ・・・?」

それに対して旭はまるでキレた時のような顔で女の子を見ている。

「どういうこと・・・?おにーちゃんて・・・」

由美が美春に聞くと、美春は辛そうな顔で呟いた。

「霧島千尋ちゃん・・・チーちゃん。あっくんの妹だよ・・・?」

「そうなんですかぁ・・・って!?本当ですか!?」

珍しく圭太が取り乱した。由美も「え?嘘!?」と旭と千尋を交互に見ているが

「うん。2人はねぇ、ちょっと複雑なんだ・・・」

美春が悲しそうな顔で言う。その表情を見て2人は本当に兄妹なんだと思った。

「私・・・!おにーちゃんが住んでる場所わかんなくって・・・!いろんな人に聞いたらここって聞いて・・・!それで・・・!」

少女・・・千尋が矢継ぎ早に旭に言う。よほど嬉しいのだろう次々に言葉が出てくる。しかし・・・


「黙れよ・・・?」


「・・・!?」

千尋の言葉を、旭がまるでうざったそうに止めた。

「旭さん・・・?」

圭太が言うが旭は無視して千尋を上から見下ろした。

「何回言えばわかんだ?てめェは・・・?」

「ちょ・・・旭さんてばぁ!!」

由美が後ろから旭の肩を叩く。しかし次の瞬間凍り付いた。物凄く恐ろしい顔で千尋を睨み付けていたのだ。

すると千尋も旭と対峙しながら言う。

「なんで・・・?私はおにーちゃんの妹だよ?だって・・・」

「ウルセェ!!黙れよテメェ!?」

旭が怒鳴り付ける。さすがの由美もビビって手を離してしまう。

「誰に聞いたか知らねぇけどよぉ・・・二度とここに来るんじゃねェぞ!?」

言って、旭は足早に部屋に戻って行った。

「ちょ・・・!旭さん!?」

追い掛けようとする由美を美春が制する。

「ダメだよゆーちゃん・・・」

「でも・・・!この子が・・・!」

由美が言うと、美春は首を横に振った。

「こうなっちゃったら、私だってあっくんの部屋に行けないよ・・・これはあっくんが自分で考えなきゃいけない事だから・・・」

真面目な顔で言う美春を見て、由美は少し迷ったが美春の言うとおりにした。

「美春ちゃんがそうまで言うなら、私にどうこう出来ないわよね・・・」

由美は次に足下で泣いている少女に手を差し伸べる。

「千尋ちゃん・・・だよね?大丈夫?」

「は、はい・・・」

顔を上げると、涙でぐしゃぐしゃだった。

「私は三笠由美・・・あっちは中山圭太ね。2人とも旭さんの友達なんだけど・・・」

「おにーちゃんの・・・?」

「そうだよ?ここじゃなんだし、詳しい話・・・よかったら聞かせてよ?」

圭太も優しい笑みで千尋に言う。すると涙を拭きながら千尋が立ち上がった。

「いいんですか・・・?」

「もちろん!」

「当たり前よ!」

圭太と由美が一緒に言った。

「ちーちゃん、大丈夫・・・?」

美春が千尋に話し掛ける。

「美春さん・・・いつもゴメンなさい・・・」

「いいの、気にしないでよぉ♪」

謝る千尋に抱きつき頬すりする美春。相変わらずだ。

「じゃあ、ここじゃなんだしどこか移動しましょうよ?」

「じゃあ近くにいい感じの喫茶店があるからそこに行こぉ♪」

由美が言うと、美春が千尋に頬すりをしながら由美に言う。こんな時でも明るいので皆はこの時は美春のテンションの高さに助けられた。

「じゃあそこに案内してください。その、千尋ちゃんは誰の後ろに乗せて行きますか?」

圭太が千尋と美春を見ながらたずねると、千尋が美春の攻撃から脱出した。

「私は自分の単車があるから大丈夫です」

「え・・・?」

言いながら千尋が向かった先は、なんとあの族車だった。

「それは旭さんの友達のじゃあ・・・?」

「ううん?私のだよ?」

圭太の問に、千尋は笑って答えた。まさか、千尋がこんな派手なバイクに乗っていたとは・・・

「なんか・・・凄いわね・・・」

「そーですかぁ?まだまだですよぉ?」

由美も驚いていると、千尋が嬉しそうに笑う。

「とりあえず出ようよぉ♪話はそこでしよう♪」

美春が言いながらカフェヘルをかぶって自分のGT380に跨がる。

「じゃあ美春さん。道案内よろしく」

「はーい♪」

かくして一同自分のバイクのエンジンに火を入れる。が・・・


カシャン・・・!カシャン・・・・!

「あ・・・あれぇ?」

千尋がエンジンを掛けるのに苦労していた。しばらく見ていると・・・


カシャン・・・!カシャン・・・!ゴロォ・・・ゴロォォォォォン!!クァァァァァァァァ!!!!


2スト集合管特有の甲高くもくぐもったエキゾーストが響く。煙も旭ほどでは無いが出ている。

「ふぅ・・・掛かったぁ。待っててください!今そっちに向き変えますから」

ホッとしたような顔で千尋が言う。次にバイクを駐車場出口に向きを変えていくが・・・

「おっとっと・・・重いよぉ・・・前見えないよぉ・・・」

よちよちと移動する。バイク自体は大きくは無いが、ロケットカウルのせいで視認性が悪い。しかも身体が小さいのでかなり苦労している。

「なんか、バイクに乗せられてるって感じね・・・」

由美がハラハラしながら見ていると、ようやく方向転換を終えたらしい。

「お待たせしました!行きましょう!」

千尋が元気良く言った。

「じゃあ行くよぉ♪」

美春を先頭に、皆が駐車場を後にして行った。



一方、その様子を窓から見ていた旭は

「あの馬鹿・・・!なにやってやがんだよ?」

千尋のバイクの乗り方を見て悪態を付く。

「どこで手に入れてきやがったんだよアイツ・・・!?バカヤロウ・・・」

しかし、どこか心配した顔で千尋のバイクが出ていくのを最後まで見ていた。




ゴロォォア!ゴロォォアア!!


「す、凄い音ね?ソレ・・・?」

由美が隣を走る千尋を見て苦笑いする。由美のゼファーだって直管だが、それよりもデカイ音をたてる。

「腹下直管ですから!」

千尋が笑いながら言う。アクセルを入れるたびにロケットカウルが振動でガタガタ揺れる。

しばらく裏道を走ると、なんてこと無い住宅街の中にある小さな喫茶店についた。4人はそこにバイクを停めて店内に入った。




「とりあえず、あなたの自己紹介をお願い」

席に案内されて早速由美は千尋に質問する。

「霧島千尋です・・・おにーちゃんの妹です」

千尋が自己紹介を始める。隣の美春が窓から見える千尋のバイクを見て質問した。

「あのバイクはどうしたのぉ?」

「欲しいなぁって言ったら、先輩が安く譲ってくれました」

千尋が笑いながら言う。まぁ、アノ手のバイクに乗る人間が旭の妹に欲しいと言われて、拒否することも出来るはずは無い。

「安くって・・・だってちーちゃんまだ・・・」

美春が心配しながら聞く。話が見えない圭太と由美は単刀直入に聞いてみることにした。

「千尋ちゃんは今いくつ?」

由美が水を飲みながら聞く。すると千尋はバツの悪そうな顔で静かに答えた。

「まだ15歳です・・・」

「じゃあ中学生だよね・・・!?」

圭太が聞くと千尋は無言で頷いた。

「てことは無免許!?」

「よねぇ・・・」

由美が驚き顔、美春が呆れ顔で言う。

「無免許じゃ捕まっちゃうよ?止めたほうがいいよ?」

圭太が真面目な顔で忠告する。無免許はバレたら1年間免許を取りに行けないのだ。が・・・

「わかってます・・・けど、私近づきたいんです。おにーちゃんに・・・」

言いながらバイクを見る。カナリヤイエローの目立つ外装にロケットカウルはまるで千尋には似合っていない。

「あれってなんてバイクなの?」

由美が千尋にたずねる。

「あれは、RG250っていう、おにーちゃんと同じスズキの2サイクルのバイクです」


スズキ RG250はGT380の弟分、GT250からの発生車であり、後のレーサーレプリカブーム時に活躍したRG250γの元になったバイクである。性能も同時代のヤマハRD250やカワサキKH250にも劣らないモノがあるが、時代は2ストから4ストに移り変わる時代だったせいで知名度はあまり高く無いので、よほどのマニアか族関係の人間しか乗らないバイクになってしまっている。

「おにーちゃんと同じ、2サイクルのスズキのバイクがよくて・・・でもサンパチは高すぎて買えなくて・・・そしたらRGがあったから」

千尋が嬉しそうに話す。しかし隣の美春は嬉しくなさそうな冷めた顔で千尋に言う。

「あっくんは、無免許でバイクに乗る人なんて絶対に認めてくれないよ?」

美春のキツいひとことに、由美と圭太が頷いた。いくら旭が街の不良でも、スジを通さなければ認めない。それが旭のいいところなのだ。

しかし美春の言葉を聞いた瞬間、突然千尋が泣き出した。

「だってぇ・・・!わかってるよぉ・・・だけど・・・おにーちゃんがぁ・・・嫌だぁ・・・!」

泣きながらなのであまり聞き取れないが、由美達は安心した。どうやら無免許で運転することを平気な気持ちでやっているわけでは無いということがわかった。

「じゃあ、バイクに乗るのはもうやめましょう?旭さんも話せばわかってくれるし・・・」

由美が言うと、鼻水までたらしている千尋が由美に言う。

「ダメぇ・・・おにーちゃん・・・私、本当の妹じゃないから・・・嫌いなのぉ・・・」

「へ?どーいう・・・」

「そこが問題なんだよぉ・・・」

わからないという顔の由美に、美春がため息をついていう。

「実はあっくんとちーちゃん。本当の兄妹じゃないんだぁ」

言って美春が水を飲む。店員にコーヒーを4つ頼んでから話を続ける。

「あっくんが生まれてすぐにお母さんが死んじゃって、小学5年の時までお父さんに育ててもらってたんだけど、6年生の時に再婚したんだ。その時に出来たのが、妹のちーちゃんなの」

「じゃあ、血が繋がってないのね・・・」

由美の言葉に頷いたあと、美春は続けた。

「あっくんのお父さんは、なかなか仕事が忙しくてあんまり家族っていうものを知らなかったから・・・なんだろう、多分それで家族に馴染めなくて・・・」

美春が考えていると、まだ泣き止んでいないが千尋が話を始める。

「おにーちゃん昔言ってた・・・自分は悪い奴だから、お前なんかキライだって・・・えぐ・・・」

千尋がたどたどしく言う。そんな話を聞いていた由美と圭太はどうしたらいいのだろうと頭を悩ませている。

「あのぉ・・・コーヒー・・・」

店員のおばちゃんだけが、状況がわからずテーブルの前に立ち尽くしていた。







場所は変わって、旭のアパート。その駐車場に、旭のGT380と、反対側に真っ赤なCB400Fourが停まっていた。


「旭ー、なーに怒ってんだよオメーはよぉ?」

「オメーだろ?千尋にここ教えたのよぉ?」

旭はあの後、洋介を呼び出した。洋介は昔の話を知っている数少ない人間だし、千尋とも面識がある。なので彼を呼び出したのだ。

「お?なんだよ千尋ちゃん来たかよ?どーだった?」

「どーだったじゃねーんだよバカヤロウ!?なんで教えやがった!!」

旭はキレながら洋介の胸ぐらを掴む。

「だってよぉ、泣きながら聞きに来られたら教えるっかねーべや。それとも、なんでお前が千尋ちゃん遠ざけてんのか、理由を話したほうがよかったか?」

「テメェ・・・!」

旭が悔しそうに叫ぶ。が、洋介がかまわず続ける。

「お前はバカだよ。大バカヤローだ。嫌われ役を演じようとして失敗するなんざ、本物のバカだよ」

洋介の言葉に、旭は悔しそうに顔を歪めた。

「仕方ねーだろ・・・!?オレはろくでもねぇ奴だったんだ・・・千尋に辛い思いさせたくねーだろ!?」

旭が吠えた。旭は、自分が不良だったので妹に悪影響を与えたくなかったのと、当時は敵が多かったので巻き込みたくなかったからという理由で千尋に近づかない、近づかせなかったのだ。実際に嫌っているワケではなかったのだ。

「アイツはオレに近づかなきゃ普通に暮らせンだよ!だってのに、さっきもRGなんざ乗って来やがってよぉ、オレの真似ばっかしやがって!!」

「だからバカっつってんダベがぁ!!」


ガスっ・・・!


洋介が思い切りぶん殴った。旭は胸ぐらを離して後ろに飛んだ。

「確かにオメーは悪ィ奴だったぜ!?ツッパってて気合いの入ったワルだったぜ!?でもよぉ!?まだそんなこと言ってんなら翔子ちゃんや由美ちゃんや圭太、そして美春ちゃんはどーなんだよ!?」

洋介が叫ぶ。それは旭にとっては何も言い返せないほど正論だ。なぜ千尋がダメで由美達はOKなのか。どちらも不良などとはかけ離れているのに、何故違うのか。

「もうガキじゃねーんだから、素直ンなって・・・千尋ちゃんともさぁ、仲良くしてやれよ?」

洋介が手を差し伸べる。旭はしばらく目を瞑って考えたが、やがてその手を取った。

「この借りはぜってぇ返すかんな・・・!?」

「おぅよ!じゃあ今度フォアのセッティング手伝いやがれ!」

「けっ・・・!」

2人はヘルメットを持って部屋から出た。





「じゃあ、とりあえず旭さんにその辺の事情を聞くとして、今日はもう解散しましょう?」

由美が外を見ながら言う。結構暗くなってきたので、帰り道を考慮しての提案だ。

「皆さん・・・今日はすみませんでした・・・」

千尋が頭を下げる。ちなみに千尋のコーヒーはまだたくさん残っていた。千尋にはまだまだ苦い大人の味だ。

「気にしないでよぉちーちゃん♪絶対仲良くなるかさぁ♪」

美春が肩を叩く。やっぱりいつも元気だ。

「千尋ちゃんのバイクはどうしよう・・・?」

圭太が悩んでいると、由美が悩みながら答える。

「仕方がないから今日は乗って帰ってもらって・・・明日は私が迎えに行くから」

「はい・・・家はここから近いですから、多分大丈夫です」

由美の提案に、千尋が頷く。

「じゃあ出ましょう。明日また放課後迎えに来るからね!」

由美達はレシートを持って会計をした後、店の前でエンジンを掛けた。

「とりあえず、千尋ちゃんの家までついて行きましょう?」

「そ・・・そんな!悪いですよぉ!!」

「いいからいいからぁ〜♪テリーを信じてぇ〜♪」

千尋を無視して美春が中途半端に古いネタを披露する。

「じゃあ行きましょう!!」

由美のひとことを合図に、皆が一斉に走りだす。



ゴロォォア!ゴベ!ゴベぇ!!バキョ!!


「なんか、変な音が・・・?」

先頭を走る千尋が自分の愛車から聞こえる異音に気付いた。しかしどこを見ればいいかもわからずマフラーなどを覗き見ている。

「そういえば、さっきより煙が・・・」

後ろを走る圭太が言った。見れば確かに白煙の量が減っている。

「白煙が減って・・・?まさか・・・!ちーちゃん!ストップ!!」

一番後ろを走っている美春が叫ぶ。しかし、自分の音や周りの音もあって先頭の千尋に声が届かない。次の瞬間・・・


バキャ!!!!


「あ・・・れ?」

千尋を乗せたRGが宙に舞っていた。

「千尋ちゃん!?」

「ちょっ・・・?なんで!?」

「ちーちゃん!!!!」

圭太、由美、美春が同時に叫ぶ。ぶっ飛んだRGはそのまま地面に落っこちた。が、投げ出された千尋は反対車線に飛んでいって、まだ浮いている。そこには・・・

パパァ!!!!


運悪くトラックが走ってきていた。

「ちーちゃん!!」

美春が全開加速するしかしここは狭い。由美達を避けながら進まなければならないし、なによりぶっ飛んだRGが邪魔で先に行けない。

千尋は、自分の状況を理解した。

『私・・・助からないんだ・・・』

近づくヘッドライトを見て、千尋は思った。もうどうにもならないと。

『おにーちゃん・・・さようなら・・・』

目を瞑ってその時を待つ。なぜか冷静に『死ぬ時ってこんな感じなんだ』と思っしまう。

トラックは急に反対車線から飛んできた千尋に気付いてブレーキを掛けるが間に合わない。

「千尋ちゃん!!」

「いやぁ!!」

「このぉっ!!!」

すでに見ることしか出来ない3人。最悪な状況の中で由美は目を瞑ってしまった。しかしその時・・・


カァァァァァァァァァン!!!!



フォアアアアアアアアン!!!

聞き覚えのある2台のエキゾースト。反対車線に突っ込んで行く。

「あっくん!?」

美春が驚きの声をあげる。旭のGT380が加速していく。

「俺も忘れんなよ!?」

続いて少し遅れて洋介のフォアが美春に並んだ。

「千尋ぉ!!!!!!」

旭がサンパチのエンジンに鞭打って反対車線を加速。空中に浮かぶ千尋の腕を掴み強引に抱き寄せる。

「危ない!!」

圭太が叫ぶ。トラックはすぐ目の前まで来ている。

「クソっだらぁ野郎!!」

片手で千尋を抱き寄せたまま旭はそのままサンパチを思い切り左に倒す。そしてそのままRGとトラックの僅かな隙間にサンパチをねじ込む。


カァァァァァァァァァ!!!!!


そしてそのまま加速。見事にトラックを避けてみせた。

「あぶねぇだろバカヤロウ!!」

去りぎわにトラックのドライバーが叫んで行ったが、皆それどころでは無く、RGを避けて旭のもとへ走る。

「千尋ちゃん!?」

「ちーちゃん!!」

由美と美春が泣きそうな顔でバイクから降りて千尋の顔を見る。

「気を失ってるだけだ・・・」

旭が真剣な目で千尋を見る。

「よかった・・・」

圭太も安心して胸を撫でる。すると千尋が目を覚ました。

「ううん・・・あれ・・・おにーちゃん・・・?」

「千尋!?」

旭が千尋の顔が目の前まで来るぐらい近くに抱き寄せる。

「ここは・・・天国かなぁ・・・?おにーちゃんが、暖かい・・・」

涙を流しながら旭だけを見つめる千尋。その涙を見て、旭は自分のしてきた事が間違いだったのだと気付く。

「バカヤロウ・・・生きてるよ?千尋・・・」

「初めて・・・ぐすっ・・・おにーちゃんに・・・名前でぇ・・・おにーちゃん!!」

千尋が泣きながら旭に抱きついた。旭もなにも言わずに抱き締めた。

「悪かったな・・・今までよぉ」

「おにーちゃん!おにーちゃん・・・!!」

抱き合う2人を見て、由美達も安心した。

「よかった・・・仲直り出来てよかったわ・・・!」

由美がもらい泣きしながら言う。涙を拭きながら兄妹を見つめる。

「このバイク達が、全てのきっかけなんだね・・・」

圭太が皆のバイクを見て言う。バイクに乗っていなかったら、この出会いはなかったと思っている。

「そこは私の場所なのぉ〜!!」

「まぁまぁ美春ちゃん・・・」

ただ1人、美春だけが羨ましいという視線で旭と千尋を見ていた。まぁ、本心は泣きたいくらい千尋の無事を祝っていたのだが、ここで明るくならなければとワザとやっているのだが・・・そしてそんな美春を、冗談だとわかっていながらなだめる洋介。

「それにしても・・・なんで急に飛んだのかしら・・・?」

由美が不思議そうに、ぶっ飛んでロケットカウルもぶち折れたRGを見る。

「こりゃ、オイル切れで焼き付いたな・・・そんでタイヤロックしてぶっ飛んだんだな」

バイクに近づいて見ていた洋介がひとこと。

「仕方ねぇな・・・俺が今からトラックで旭ん家に引っ張ってくんからよ?待ってろよ」

洋介は言うと、そのままフォアで走っていった。

「全くよ・・・あのバカ・・・」

旭が走っていくフォアのテールを見ながら呟く。

「コイツぁ、オレがバッキバキに治すからよ?乗りたかったら免許取ってから乗ればいいし、いらなきゃ捨てちまえ」

旭が千尋に言うと、千尋は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになってしまった顔を拭いて、笑顔で言った。

「うん!!」


こうして、2人の絆が初めて結ばれた。が・・・

「あっくん!!私もぉ!!」

旭大好き娘の美春も旭に抱きつき、千尋と美春で旭争奪戦になったのはささやかな事件だった。そんな2人を見て、由美と圭太は笑っていた。そして、皆の愛車がヘッドライトでそんな由美達を照らしていた。


人物紹介


霧島 千尋

職業 中学3年生

誕生日 4月29日(現在15歳)

身長 157㎝

愛車 RG250

家族構成 父・母・兄 (旭)

好きなもの 旭・美春・家族・平和な日常

嫌いなもの 旭を悪く言う人・虫全般・ピーマン

旭の父が再婚してできた旭の妹。子供心に旭に好意を持って接していたが、当の旭はそんな彼女を遠ざけて、まるで嫌ってるかのように接していた。実は当時旭が超ワルで名前が売れてきていた時だったため、彼女を巻き込みたくないと思っての行動だったのだが・・・。ちなみに、彼女の旭に対する好意は恋愛的なものではなく、普通の兄妹愛からである。




というわけで21話でした!

なんかバイク小説じゃなくなってきたような・・・

あと!近いうちにもう少し話が増えてきたらキャラクターとバイクで人気投票的な何かをやりたいなぁ・・・と思います。まだ全然何も決まっていませんが、いつかやってみたいですね・・・

そんな感じで、これからもがんばっていきますので、感想やお叱りの声がありましたら是非お願いします!それでは!!

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