第20章 圭太のいない1日、由美と真子の決意、他2名
遅れました汗
少し文量は多めです。
「ふぁ〜!朝かぁ・・・!」
もぞもぞ動く布団。その中からなんとも間の抜けた朝イチの第一声が聞こえてきた。
「今日は昨日が横浜だったから・・・日曜かぁ」
布団を未練がましく頭までかぶって今日の曜日を確認する。
昨日はあの後相模まで一緒に走り、途中流れ解散。幼なじみと一緒に帰って来たのは覚えている・・・
「・・・なんにしても、とりあえずトイレに行こう・・・」
布団から這い出た少女、三笠由美はとりあえずトイレへとフラフラと歩いていった。
「ねーちゃん!寝癖スゲーことになってる!」
トイレからでて居間に入ると、弟のタカが寝ぼけ眼の由美の髪を見て笑っている。
「ぇ・・・?」
鏡を見ると、セミロングの髪の毛の右側が盛大に跳ねまくり、頭の上にはマンガみたいなアホ毛が一本天に向かって伸びていた。
「本当・・・!直さなきゃ!」
由美はとりあえず寝癖を直し、歯を磨いて顔を洗った。
「目が覚めたー!」
由美が叫んだ。どうやら復活したらしい。
「タカ〜!?お父さん達は〜!?」
洗面所から居間にいる弟に叫ぶと
「2人して朝から出かけたー!」
と返ってきた。
「じゃあ、今日も圭太と遊んであげますか・・・!」
言いながら由美は階段を上り2階の自室に入る。『真剣勝負』とプリントされたパジャマ兼Tシャツを脱ぎ捨て、タンスやクローゼットから今日1日の服装を選んでゆく。今日は前に買った普通の長袖のTシャツにジーンズという結局いつもの服装になってしまった。
「じゃあ行こう・・・!」
机の上に置いてある財布とジェッペルを掴んで部屋から出ていった。
「ねーちゃん、どっか行くの?」
居間に降りてきた由美の出で立ちを見たタカが床に寝そべりマンガを読みながらたずねた。
「バイクに乗ってくるのよ。圭太も呼んでね!」
由美が食パンを食べながら玄関へ。スニーカーを履き、下駄箱の上にある鍵置場から自分の愛車、ゼファー400改Z400FX仕様のキーを取ってから外に出ていった。
「最近、よく遊びにいくなー」
タカが不思議そうにつぶやいた。
ぴんぽーん♪ぴんぽーん♪
「けーいーた!遊ぶわよ!!」
小学生みたいな態度で玄関のチャイムを鳴らしまくる由美。家がすぐそこなのにバイクを目の前に停めて待ち構えるが・・・
「いないのかな?」
由美は考えた。インターホンを2回も押して、外から叫んでも出てこない。本当はなんども叫んでやろうとも思ったがまだ午前中。そろそろ近所の目が痛い。
「そういえば・・・」
由美が昨日、圭太との別れ際に彼が言っていた事を思い出す。
『明日は家族とおじいちゃん家行くから遊べないよ〜』
そんなことを言っていた。「そうかー圭太いないのねぇ・・・って良いわけないじゃない!せっかく遊びに来たのになんでいないのよバカー!!!!」
遊びに、と言うより遊んでもらいに来た由美が玄関に叫ぶが、当然返事は無い。。
「くっそー!圭太のバカ!鈍感!鈍チン!!」
何やら酷いことを叫びながら由美はゼファー改FX仕様のエンジンに火を入れ、直管仕様のショート管から爆音を辺りに響かせて去っていった。非常に近所迷惑だ。
「圭太めぇ・・・!つまんないじゃない!!」
ゴァァァァァァアン!
ゼファーは由美の気持ちを体現したような爆音で加速していく。
「はぁ、仕方無いわね・・・旭さん家でも行ってみよう・・・」
なんとか1人納得して、由美はゼファーを旭の家に行く道に向けた。
こぁぁぁぁぁぁぁぁん・・・
走り初めてから5分位で旭の家、『雪風荘』に着いた。エンジンはゆっくり回転を落としていき、エンジンを切った。
「あれ?旭さんいないのかしら・・・?」
駐車場を見回すと、いつも旭と美春のGT380が停めてある場所に、美春のGT380しか停まっていない。
「まさか2人でタンデムデートとかしてたりして・・・」
あの2人ならあり得そうだ。しかし不安を抱きながら玄関前までくるとドアの横にある台所の窓からなにやら声が聞こえる。
「なーんだ!美春ちゃんはいるのね!」
ぴんぽーん♪
・・・
「あれ・・・?」
ぴんぽーん♪ぴんぽーん♪
・・・
「入ってもいいわよね・・・?」
誰に言うでも無く由美が言いながら、ドアに耳をつける。すると・・・
『あはは・・・えへへへ・・・へへ・・』
「み、美春ちゃん・・・!?」
なにやら美春の変な笑い声が聞こえた。テレビでも見ているのだろうか・・・
「いや、でも聞こえてくるのは美春ちゃんの声だけ・・・ええぃ!もう入っちゃえ!!」
ドアノブに力を入れてバタンと音を立ててドアをあける。そこには・・・
「えへへへ・・・♪あははは♪・・・」
美春が布団の上に座って、緩みきった顔で見上げて、天井を見ながら笑っていた。
「み、美春ちゃん・・・!?」
明らかに『キメちゃってます』オーラ全開の美春を見て、由美が慌てて部屋に入ると。
「あれぇ・・・?ゆーちゃん・・・?来たんだぁ・・・えへへへ♪」
「ど、どうしたのよ美春ちゃん!?ヒロ○ン!?それともエクス○シー!?」
由美が心配しながら腕に注射器の跡や錠剤ケースなどが無いかを確認していると、美春が緩みきった顔でヨダレをたらしたまま由美の肩をさわった。
「今日ね〜あっくんがねぇ〜?えへへへ♪」
「旭さんがどうしたの!?」
「朝ねぇ私の事をねぇ〜♪ギュッて抱いてね〜♪起こしてくれてねぇ・・・あはは♪チューしてくれてねぇ〜♪私どうしよー、嬉しすぎて・・・あははははは♪嬉しすぎてぇ♪どんな顔したら良いかわかんなくて・・・♪締まんにゃい顔でゴメンねぇ♪えへへ・・・♪」
「なーんだ、ただのノロケかぁコノヤロウ☆」
「そーなのぉ♪でへへへ♪」
嫌みたっぷりの言葉すらも効かない美春を見て、由美はため息をつくしかなかった。相変わらず旭さえいればどこでも生きていけそうな美春だった。
「ゆーちゃんはぁ・・・?どうしたのぉ?」
「圭太がおじいちゃん家行ってていないのよ。それでここに来たのよ。旭さんは?」
「あっくんはねぇ、バイトぉ♪」
「それって美春ちゃん家の?」
「そだよぉ♪」
由美はなんだか小学生と話しているような気分になってきた。
「じゃあなんでここにいるのよ?真田屋なら美春ちゃんも行けばいいじゃない。あとヨダレ拭きなさいヨダレ」
由美が思った事を口にすると、美春はニコニコしながらヨダレを拭いた。
「あっくん、私がいるとしゅーちゅー出来ないんらってぇ・・・♪だかりゃわらひはお留守番にゃのぉ♪」
あ、なんかダメだ。幼児退行化し始めた。
「み・・・美春、ちゃん?」
「だかりゃあ、わらひはあっくんに『お帰りなしゃい♪』って言ってあげりゅのぉ、だから今は寝るのぉ・・・」
ガシッ!
「え・・・ちょっとぉ!?」
美春が由美の袖をがっちりつかんで、布団の中に引きずり込んだ。
「ちょ、美春ちゃん・・・!」
「えへへ・・・♪ゆーちゃんはかぁいいなぁ♪」
ヤバイ・・・目がイッちゃってる・・・。く、食われる・・・!
「ちょ、美春ちゃんダメ!私には圭太が・・・!ってあれ?」
「すぅ・・・♪」
「って、寝てくれたわね・・・よかったぁ・・・!!」
どうやら寝てくれたらしい。見れば幸せそうな寝顔だ。
「ふぅ・・・じゃあ私も・・・少し寝ていこうかしら・・・まだこんな時間だし」
時計は午前10時を少し回ったばかり。ならば少し寝ていっても大丈夫だろう。由美は起きたら美春が正常に戻っていることを願って
「おやすみ」
2人同じ布団で眠りについた。
「うぁ・・・?」
由美が起きた。いったい自分はどのくらい寝ていたのだろうかと時計を見ると、まだ1時間くらいしか経っていなかった。
「・・・さすがにこれ以上は寝れないなぁ・・・」
考えてみれば昨日も早く寝たのだ。そんなに寝れるはずもない。とりあえず布団から出ようとすると・・・
「・・・?」
出れない。なにか後ろからがっちり掴まれているかのような・・・
「ってやっぱり!」
後ろをみれば美春が寝ながら腰に抱きついていた。しかも・・・
「なんで腕の組み方がジャーマンなのよ!!美春ちゃん!!」
何度呼び掛けても、全然起きない。
「仕方ないわね・・・強行手段よ・・・!」
言って身体を思い切り捩る、がっちりホールドされた手をなんとか解き脱出した。
「すぴー・・・♪」
「あ、あれだけ動いたのにまだ起きないなんて・・・」
美春は未だに幸せそうな寝顔を浮かべて爆睡中だ。
どうしたものかと辺りを見回すと、布団の一部がすごく硬くなっている。なにかと思って見てみると・・・。
「に、日本酒・・・?」
日本酒の空き瓶が美春の寝ている後ろに置いてあった。どうやら美春の様子がおかしかったのは(いつもおかしいが)この酒のせいらしい。なぜ気付かなかったのだろうか。
「旭さんから禁酒令が出てるのに美春ちゃん・・・」
ちなみに由美は知る由もないが、美春がこんなんになった経緯はいたって簡単。今朝旭に起こされて〜の流れの後、テンションが上がって1人ニヤニヤしていた美春は「こんな素晴らしい朝は無いよぉ♪そうだ!お酒飲もう♪」と下町の酔っぱらいでも言わなそうなダメダメ発言の後、押し入れに隠して取っておいた日本酒に手を伸ばしたのが原因だ。ちなみに飲まなくても美春は多分ああなっていたが、あそこまで酷くはなっていなかっただろう。
以上、回想おしまい。
「幸せを壊すのも可哀想だし・・・日本酒は私が責任をもって処分してあげよう」
由美は立ち上がってビンを引っ掴み、幸せそうな寝言(全て旭関係の)を言う美春を優しい目で見ながら部屋から去っていった。
「私もあれくらい積極的にならなきゃダメかしら?美春ちゃんくらいの勇気が欲しいわよ・・・」
由美は言いながらゼファー改のエンジンに火を入れて、一応静かにその場を去った。
「美春ちゃんは遊んでくれそうな状況じゃないし・・・そろそろお昼だし、行ってみようかしら・・・」
また1人になってしまった由美は、街道にフロントを向けた。目指すは美春の実家兼旭の職場でもある『真田屋』である。
コァァァァア!ヒュルヒュルヒュルヒュル!!
カムチェーンノイズを交じらせながら快走するゼファー改FX仕様。少しガタつくFRPで出来た自慢のテールカウルがまるで走るのを喜んでいるようだ。メーターに照りつく太陽が眩しい。
そして走らせること数10分。ようやく美春の実家であるラーメン『真田屋』にたどり着いた。
「いらっしゃいませー!!・・・て、なによ由美ちゃんじゃねぇかぁ!」
店に入ると、厨房から旭が顔を覗かせてきた。自慢のリーゼントはバンダナが巻かれて隠れており、服装はTシャツに前掛け、ズボン、長靴のラーメンスタイルだ。
「こんにちは!なんか普段と全然印象が違いますね!」
「まぁ、仕事だかんな。とりあえず座んな!」
旭にカウンター席に案内された。とりあえず水を飲んでからメニューに目を移す。
「さぁ、何すんよ?」
「旭さん、この『サンパチラーメン』って・・・?」
すると旭が笑顔で説明を始めた。
「そいつぁ、オレが編み出した自慢のラーメンだよ。まぁ、具はいつもバラバラの適当なんだけどよ?めっちゃ美味いよ」
「じゃあこれにしてみようかしら?」
「あい毎度!じゃあチィと待ってな!」
嬉しそうに厨房に戻っていく旭。由美は店内を見回すと、もうすぐ昼なのにあまり人が入っていない。奥のテーブル席にサラリーマン風の男が2人と、今ちょうど入ってきたドカタ風の男が旭に案内されて、由美とは離れたカウンター席にいるだけだ。
そしてカウンターから厨房を覗くと、昼どきなのに旭しかいない。最低でもあと2人くらいはいないとキツいのではないかと思って聞いてみることにした。
「あの〜、旭さん?」
「あ?なによ?」
「この時間に店員が1人って、キツくないですか・・・?」
由美がたずねると、茹でている麺から目を離さずに旭が質問に答える。
「あぁ?大丈夫だよ、オレだけいりゃあなんとでもならぁ。そりゃあ駅から近けりゃ大変だけど街道沿いじゃあ昼は混まねぇよ?混むのは夕方だからよ」
なるほど、そういうことなのかぁ、と由美が1人考えていると
「はい、『サンパチラーメン』!!おまっとさん!!」
どうやら出来たらしい。目の前に置かれたどんぶりの中を覗いてみると・・・
「うわぁ・・・!!」
スープは醤油ベースなのだろうか?油は結構多めで麺は細麺だ。具はチャーシュー3枚、海苔3枚、メンマ8本、ほうれん草約一掴みに青ネギ、味付け卵が3個。これだけ見れば普通のラーメンより少しグレードが高いだけだが、カマボコを見ると・・・
「こ、このカマボコの形って、旭さんのサンパチのエンジンの形よね・・・!?」
カマボコは、GT380の最大の特徴であるラムエアーシステムと呼ばれるヘッドの形をしている。さらにご丁寧にフィンまで刻まれている。
「おうよ!具もトリプルを意識した豪華仕様!スープも2ストの油っぽさを表現した最強のラーメンよ!食ってみ!?」
自信満々の旭に言われなくとも、由美は麺を一口食べてみる。すると・・・
「こ、この麺の固さ加減・・・!?ダシの煮干しの匂いが程よく絡まってすごくおいしい!!チャーシューも脂が乗っててなかなか・・・!!スープは煮干しベースで油多めって異色な組み合わせのハズなのに全然違和感無く、しかも油がしつこく無いわ!?」
由美が食べながら夢中になって語っていると、旭が
「フッ・・・そこまでわかっちまうか。さすがじゃねーか由美ちゃん・・・」
「旭さんもね・・・!私は今小宇宙を見たわ・・・!」
2人はがっちり握手した。
数分後・・・
「ふぅ・・・美味しかったぁ・・・けふっ」
由美が満足顔で水を飲んでいた。どんぶりはスープの一滴まで飲み干してある。
「今度は、圭太と翔子ちゃんも連れてきてあげましょう・・・」
ふぅ、と一息ついていると、突然隣から怒鳴り声が聞こえた。
「おい!店員ちょっと来い!!」
「なんすか?」
見れば先ほどカウンターで離れて座っていたドカタ風の若い男がキレながら旭に怒鳴り付けていた。
「どんぶりン中に髪が入ってんじゃねーか!こんなモン客に食わせる気かぁ!?」
どうやら髪の毛がどんぶりに入っていたらしい。客の男は店員である旭にまくし立てる。
「作り直せよ?あと代金は負けろ!!」
男が調子のいいことを言う。いくらなんでもそれは無いだろう。
由美もゼファーを買う資金を集めるため過去に喫茶店でバイトしていたからわかるが、髪の毛が入っていたら作り直したりはするが代金を負けるなどは出来ない。それに旭はバンダナをしている。髪の毛など入るはずが無い。由美が反論してやろうと思っていると、1つ忘れていたことを思い出した。
「おぅ・・・テメェ?」
そう・・・
「このキッタネェ金髪がぁ・・・!?」
ここの店員は・・・
「オレの髪だっつーのかよぉ!?コラァ・・・!?」
アノ『霧島 旭』だって事を・・・!!
しかし時はすでに遅く、旭は自分よりガタイも背も大きな男の胸ぐらを掴んで片腕で持ち上げる。
「よぉ、パツキン野郎!?テメェ誰の店で調子くれてんだよコノヤロウ!?」
「ひ、ひぃ・・・!?」
その後、延々とその客に説教をする旭。相変わらず説教が長い&怖い。ドカタの男は最後、半泣きで店から追放された。
「ったくクソヤロウがよぉ・・・ってどうしたよ由美ちゃん?」
「い、いやぁ、そろそろ帰ろうかなぁーって・・・」
「あぁ、マジかぁ。じゃあまた食いに来てくれよ?あ、お代はいらねぇから」
「いや、払うわよ!ていうか払わせてください!!」
さっきのやり取りを見ていたら払わなきゃ悪すぎると思ったのだ、が。
「いいっていいって。由美ちゃん達ならいつでもタダでいいよ」
旭がすごくいい笑顔で言う。さっきとは大違いだ。
「じ、じゃあお言葉に甘えて・・・」
「おう!気ィつけてな!!」
旭の声を背に受けて、由美は店から出た。
「やっぱり旭さんて強すぎよね・・・客の胸ぐら掴んで説教する店員なんて旭さんくらいよね・・・」
由美は変に感心してまたゼファーを走らせた。
「なーんか遊んでくれそうな人いないかしら?」
エンジンは絶好調だ。直管独特の低回転で地響きのような、高回転でレースカーのような快音を轟かせながら走る。完璧に違法改造だが族のようにコールを切っているワケではないので派手には目立っていない。
「翔子ちゃんは遠いし・・・うーん・・・」
宛てもなくウィンカーを右に出して曲がる。学校の友達は皆彼氏がいるかカラオケなどで遊びたいというのがほとんどで、今猛烈にバイクに乗りたい気分の由美には乗り気ではない。信号に捕まってしばらく考えていると・・・
ギャワァァァァァァァアン!!クァァァァァァァァ・・・・!
後ろからものすごい爆音が聞こえた。何事かと後ろを振り向くと、真っ白のタンクに伸びる緑色のレインボーライン。後ろは煙で真っ白け。それにライダーの着てる黒い革ツナギ・・・
「む・・・お前は確か・・・!」
「ど・・・どぉもぉ・・・」
由美の隣に、じゃじゃ馬マッハ。赤城真子が現れた。
「き、今日はどーしたんですか・・・!?」
思わず敬語になる由美。なぜ?って、そりゃあ昨日の今日だ。いくら由美でもあのインチキレースの後では気まずくなるのも仕方がない。
「圭太君を探しに流していたんだ。ついでにあなたとあの忌まわしいリーゼント野郎ね」
ヤバい・・・怒ってるぅ・・・!?
そんな事を思っていると、反対の歩行者用信号が点滅を始めた。
「あ・・・じ、じゃあ、ここで信号変わるみたいですし・・・」
さようなら〜!
と言おうとした由美の肩を真子が逃がすまいとがっちり掴んだ。
「ちょーっと付き合ってよ?」
「いやぁ、でもぉ・・・」
なんとか拒否の言葉を探していると
「私は年上、先輩よ?先輩の言うことが聞けないかしら・・・?」
「うぐっ・・・」
「ちょうど良いところに喫茶店もあるし・・・ね?」
「ね?」と言われて断れるハズも無く、由美はあきらめて喫茶店へハンドルを向けた。
「・・・」
喫茶店の店内は明るい雰囲気だ。陽気なポップスが流れ、客は皆笑顔でそれぞれの話題で賑わっているが、窓際のテーブル席はかなり気まずい空気が流れていた。
「で・・・昨日の話だけど・・・」
いきなり確信に迫ってきた!?等と由美が驚いていると
「昨日のプラグの件と高速を途中で降りた件は、全部昨日のリーゼント野郎とそのツレの仕組んだことよね?」
「・・・へ?」
ものすごい間抜けな声が、自分から出た声だと由美が気付くのに数秒かかった。
「あー、リーゼント馬鹿に口止めされてるの?だったら無視していいわ?」
「あの・・・その前にいいですか?その、ぷらぐってなんですか・・・?」
「・・・」
由美の質問に、真子が呆れ顔でたっぷり10秒くらい間を開けた。
「まぁ、プラグ抜いたことを知らないなら、高速を途中で降りるって作戦は・・・?」
真子が静かにたずねると
「そ、それは旭さん・・・!あ、そのリーゼントの人ですよ?あの人と私が共謀して・・・あの時はごめんなさい」
由美が焦りながら言うと、真子は安心した顔で一息着いた。
「素直に言ってくれて嬉しいわね。同じカワサキ乗りで同じ殿方を愛する者として嬉しいわ」
「と、殿方って・・・!」
「とりあえずあなたへの誤解は解けた。全く、あのリーゼント馬鹿野郎・・・!スズキなんて乗ってる奴は信用ならないわ」
さりげなく旭のあだ名(?)が増えているし、さりげなく全国のスズキ乗りを馬鹿にしながら真子が言う。
「とりあえず、今私はあなたの真のライバルになれたわ・・・」
「は、はぁ・・・」
とりあえずうなずく由美。
「ところで、圭太君とはもう付き合ってるの?」
「そ、そんな・・・!圭太となんか・・・!」
「圭太君となんか・・・?じゃあ私が貰っても・・・」
「ダメです!!」
由美が即座に否定する。
「なんで・・・?あなたにとって圭太君は『なんて』って付いちゃうくらいの存在でしょう?ならいいじゃない」
「よく無いわよ!!圭太は私がいなきゃ何にも出来ないんだから!私と一緒にいるほうがいいのよ!!」
由美が目に涙を溜めて声を荒げる。すると・・・
「合格・・・やはりあなたは私のライバルね。負けないわよ?」
真子が笑いながら握手を求める。由美も涙を溜めながらその手を握り返した。
「こっちこそ・・・!」
こうして、2人は互いにライバルと認めあった。
その後2人の空気は一転、楽しそうな雰囲気になっていった。いろいろ話しているうちにバイクの話になってきた。
「あなたのゼファー、外装綺麗よね」
真子が窓から真っ赤なバイクを見て話す。由美もニコニコしている。愛車を誉められて悪い気がする人間などいないのだ。
「あの外装はドレミ?高かったでしょう?」
「いや、あれは最初から付いてきたのよ。圭太と同じカワサキのバイク探してたんだけど、なかなかしっくりしたの無くて・・・そしたらたまたま寄ったバイク屋さんにあの子が・・・」
「ふぅん・・・いいわねェ」
「真子さんのマッハは・・・?」
由美は自分の愛車の隣にある、同じ排気量なのに一回り小さく見えるバイクに目を向ける。
「あれは私達が小学校の時から好きなバイクだったのよ。昔は親戚のおじさんも乗っててね。ただ、やっぱり旧いからよく壊れるし手入れは大変」
いいながらマッハに目をやる。
「で、私は高校の時からバイトで働いて、2年経った頃にようやく買えたの。それから部品があったらコツコツって感じであの仕様になったわ」
真子が苦労したという感じで話す。
「ちなみに凛達・・・下の妹達もバイト頑張って親名義で手に入れたのよ」
困ったように、しかしどこか嬉しそうに話す真子を見て由美も嬉しくなった。
「ゼファーも早くあなたの色に染めてあげなさい?」
「そうねぇ、確かに変えたパーツって前のタイヤの上にあるカバーみたいなのとマフラーのサイレンサー抜いただけだしね」
「追加・・・知識も貯えなさい・・・」
そんなこんなで時間は過ぎていった。 2人はここで話しているのもいいのだが、やはりバイク乗り。せっかくなので2人で走りに行こうということになった。
「私はこのあたりの道詳しくないから、由美ちゃんが頭走ってね?」
「うん!」
元気よく返事をして由美がセルを押すと
キュルキュルキュル・・・ボァアアアアン!!
「本当にいい音ネ・・・」
「そう?やっぱりこの子の音は最高よ!」
真子の言葉に素直に喜ぶ由美。続いて真子もチョークを思い切り引いてキックする。
グァアアアアアアアン!!バンバンバンバン!!!!
「うわ!」
キックと同時に旭のGT380に負けないそれ以上の白煙を吐き出し、かつ旭のGT380よりもすさまじい振動に由美が驚く。
「マッハもなかなかでしょう?」
涼しい顔で真子が言う。硬派カワサキの象徴とも言えるマッハに跨る真子は同性の由美から見ても格好いい。
「じゃあ行きましょう?」
2人は駐車場を後にした。
「どこに連れてってくれるの?」
真子が尋ねると、由美は少し悩んだ。由美自身いつも圭太達としか走ったことがない。1人で走ることがなかったのでどこへ行こうか考えていると、ひとつ良い所を思い出した。
「ついてきて!ダムの峠道に行くわよ!?」
由美の思いついた場所。そこは初めてゼファー改FXで走りに行った、あのダムだ。
しばらく2人でランデブー走行。前後入れ替えながら楽しそうに走った。そしてついにダムの入り口に辿り着いた。
「ここからは一本道で信号も何もないから自由に走りましょう!」
由美の提案に真子が親指を上にあげた。そしてその瞬間・・・
カチャ・・・ギャワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・!!!!
「・・・!?」
ギヤを1段下げてフル加速していくマッハに由美が度肝を抜かれた。白煙は最初はまるで蛇のように低い位置に流れ、しばらくするとそれが広がり霧のようになる。由美は完全に出遅れた。
「このぉ・・・!!」
別にレースしているわけではないのに悔しくなり後を追う由美。ゼファーのエンジンは唸りを上げる。が・・・
「なんで・・・!?」
由美は愕然とした。全然追いつけない。長いストレートで突き放されていく。コーナーに入っても全く追いつけない。むしろコーナーでも離されているがそれはそこまで離されるわけではない。ストレートが桁違いに速い。
「峠は苦手だけど・・・!このコースならなんとかなるわ・・・!」
姉妹の中で直線番長仕様セッティングの真子だが、さすがにマッハに乗っているだけあってテクニックはハンパじゃない。白線を超えないギリギリのラインにマッハを奇麗に乗せる。
「ダメ・・・!離されて・・・!?」
懸命に後を追う由美。しかし次のコーナーを抜けた先に真子ほマッハの姿はなく、白煙が残るだけだった・・・
「真子さん・・・速過ぎよ・・・」
2人はダムの道の途中にあるファミレスの駐車場で休憩した。由美がついたとき、真子はすでにマッハから降りて自販機でジュースを買っていた。
「そんなんじゃあまだまだ。私に勝てなきゃ凛にはもっと勝てないわよ?」
真子が由美を見て言う。その目はさすが3人姉妹の姉と言ったところか、余裕を感じられる。
「いいわよ・・・!いつか勝ってやるんだから!」
由美がフンっとそっぽを向いてしまった。相当悔しいのだろう。ただ由美は30年以上前のバイク相手に一度も前に出れなかったことに悔んでいるのではない。真子に負けたことが相当悔しいのだ。
「楽しみにしてる・・・そろそろ帰りましょう?私はこのまま流れで国道に出たらお別れね」
真子が空き缶をゴミ箱に投げ入れる。2人は今度はのんびりと走ってダムを出て国道に出た。真子は手を振って挨拶して去って行った。由美も反対方向に走っていく。
「私も・・・」
由美が走りながらつぶやく。心なしかアクセルの開度がいつもより大きい。
「私も・・・速くなりたい・・・!!」
そう叫んだ瞬間、ゼファーのエンジンが咆哮した。夕暮れの国道をゼファー改FX仕様が加速していく。それはまるで、由美の心の叫びのような爆音を響かせて。由美の気持ちを表現したようなひたすらに真っすぐな走りで・・・
バイク紹介&自慢広場!
作者「このコーナーでは、登場人物に自分の愛車をを紹介してもらいます!今回はマッハ3姉妹の長女、赤城真子さんです」
真子「なんだここは・・・?」
作者「ここは・・・まぁ夢の中ですよ。で、ここであなたのバイクを紹介してもらうんです」
真子「なぜ?」
作者「気にしたら負け」
KAWASAKI 400SSMAHCⅡ改 赤城真子仕様
スペック
エンジン 本体ノーマル(焼きつきのため一度オーバーサイズ) BEET当時モノ3本出しチャンバー キャブレターは350SS用
足回り BEETキャスト
外装 FXテール
色 白×緑
作者「おぉ!今まで出てきた奴らより弄ってる!」
真子「当たり前だ・・・あんな変態スズキやら優等生ホンダに負けてられないわ。硬派カワサキはダテじゃないわ」
作者「もしかしてカワサキ以外興味なし・・・?」
真子「愚問ね・・・眼中にも無い・・・」
作者「心が狭いと友達いなくなる・・・ぐぇ!」
腹殴られた。
真子「うるさい。カワサキが1番なのよ!ていうか早く帰してよ!」
作者「結局こうなるのか・・・じゃあまたね!」
ガバッ!←起きた
「さて、今日は圭太君でも探しにブラっと・・・」
というわけでとうとう20話!がんばります!
感想等ありましたら是非!