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旧車物語  作者: 3気筒
15/71

第15章 親子の絆

今回で翔子編最後です。

 変な騒ぎが一通り終わり、一同はまた旭の部屋に戻ってきた。

「てなわけで、現在もう昼前なんだけど・・・」

 由美が皆にたずねる。

「翔子ちゃんもそろそろ帰らないといけないだろうし、送っていくついでにみんなでご飯食べていかない?」

 由美が聞くと、美春が後ろから抱きついてきた。

「私はいいわよぉ〜!行こう行こう♪」

「美春ちゃん、ほっぺた突かないで」

 相変わらず変なスキンシップをはかる美春に由美が諦めながらも一応ツッコミを入れる。

「そうだね。街道走ってればいくらでも飲食店はあるし。お金はあんまりないけど・・・」

 圭太も同意した。が、やはり現役高校生。バイトもしていないしバイクのガス代もバカにならないので財布事情は厳しい。

「ワリィんだけどよ、オレはちょい用事が出来たからまた今度な」

 以外なことに、旭は別行動らしい。

「え?なんでぇ?」

 美春がキョトンとして聞くと、旭は面倒くさそうにして答える。

「どっかのバカが単車壊したみたいだから、ソイツのメンドー見に行かなきゃならんのだ」

「誰くん?」

「加古だよ」

「あぁ、カズくんかぁ」

 美春と旭がなにやら圭太達にはわからない話をしている。いろんなネットワークを持っている人だと圭太は思った。

「アイツの単車ペケジェーRだろ?部品取り1台あるぞ?」

 洋介も会話に参加する。話はまとまったらしい。

「じゃあまとめると、旭さんと羽黒さんはバイク修理に行く。僕達は翔子ちゃんを送っていく、と」

 圭太がまとめると、旭と洋介が「うむ、わりぃな」「また誘ってな。翔子ちゃん!また遊ぼうね〜!!2人きりで!!」と、1人変なことを口走っているがとりあえず無視する。

「由美達も、それでいい?」

「私はかまわないわよ。ちょっと人数減っちゃったけど」

「あっくんも行こうよ〜」

 由美は納得したが、美春は相変わらず旭がいないとダメらしい。また少しスネていると、由美が美春に言い聞かせる。

「まぁまぁ美春ちゃん、たまにはいいじゃない」

 なだめようとすると、美春はそれまでのいじけ顔から急にけろっと可愛い笑顔になって「うん、そだね!」とうれしそうに笑う。

「すみません美春さん・・・私なんかのせいで・・・」

 翔子が謝ると、美春は翔子の肩を軽く叩いた。

「気にしなくていいよぉ、ぷにぷにしてるなぁ♪」

 美春は今度は翔子のほっぺたをぷにぷにと突きはじめる。

「あ、そういや・・・」

 美春の行動を無視して、旭が胸ポケットから1枚の封筒を翔子に渡した。

「こ、これは?」

「タンクとフレームの間に挟まってたよ。宛名見てみな?」

 旭から渡された小さな封筒の裏を見て、翔子は驚いた。そこには、綺麗な字で『翔子へ 衣笠佳代』と書かれていた。

「お母さん・・・から?」

 翔子の言葉に圭太と由美も注目する。ついでに旭はまだ翔子に引っ付いていた美春を引き剥がした。

「ななな、中身は!?」

「見てない。開けてみな?」

 翔子はものすごく緊張した様子で手紙の封を綺麗に切った。中からビニールに包まれた手紙が1枚出てきた。

「・・・・・・」

 翔子がまばたきするのも忘れたかのように、目を見開いて1文字1文字をその目に焼き付けるように読んでいる。1度全て読み終えた後、もう1度読み直してからその場に崩れ落ちた。

「ど、どうだったの!?」

 由美が翔子にたずねる。翔子はしばらく下を向いて泣いていた。しかしいつもの弱々しい泣き方では無い。泣きながら立ち上がると、「少し1人にさせてください・・・」と言って部屋から出ていった。

「大丈夫かしら・・・翔子ちゃん」

 由美が心配そうにつぶやく。しかし皆、翔子が出ていった扉を見つめることしか出来なかった。






「お母さん・・・」

 翔子は愛車、CB350Fourのシートに手を置きながら話し掛ける。

「私・・・この子に乗ってるよ?素敵な友達も出来たし、だから・・・」

 翔子はまた涙が溢れてくるのを止められなかった。涙は雫となってシートに落ちる。

「安心してね・・・!私・・・ひっく、よ、弱虫だけど、お母さん死んじゃってて、言えなかったけど・・・!でも・・・!」

 翔子は1度大きなしゃっくりをした。涙が止まらない。でも、言わなければ。

「ありがとう!お母さん・・・!」

 言い切ってから、栓を切ったように泣きはじめた。膝から崩れ落ち、バイクに頭を預けて。翔子は息をするのも忘れるくらい泣いた。横には、母が残した手紙がある。






『翔子 あながこの手紙を読んでいるという事は、あなたは私の大切な思い出の詰まったバイクを受け継いだということですね?

今手紙を書いている時のあなたは、私の横でお昼寝中です。まだ立って歩くのもおぼつかないあなたが、この手紙を読んでいる時にどんな子になっているのか非常に気になります。そして私もきっといい感じのおばさんになっているんでしょうね。

 このバイクは、私が高校3年の時に親戚の人からもらったものです。もらった時からすでに古いバイクだったのですが、このバイクで私はいろんなところを走りました。お父さんに会うきっかけも、このバイクでお父さんをひき殺しそうになってしまったことから始まりました。そんないろんな思い出が詰まっています。

 それより、翔子。あなたは元気な子になったかしら?私の子だから、きっと元気すぎるくらいになっているとは思いますが。暴走族にはならないでね?未来に翔ばたく子という意味で名付けた名前どうりの子になっていますか?将来は何になりたいのかしら?

 なかなか、書きたいことがいっぱいありすぎてまとまってないです。手紙を書くことになれていないことも原因ですが。

 そろそろ、横で寝ているあなたを起こさなければいけませんから、そろそろ最後になります。

 バイク、大事にしてください。いらなければ捨ててください。それと、身体には気をつけてね。


 後、大事なこと。友達をたくさんつくりなさい。うわべだけじゃない、本当の友達を。互いに信じあえる、裏表無い友達をたくさんつくりなさい。

 では、ここで筆を置きます。あなたの幸せを心より願っています。』


 199〇年 夏 母より



「私・・・元気な子じゃなくなっちゃったけど・・・ひぐっ・・・でも私、この子は大事にしてるよ・・・?お友達も、出来たよ・・・?」

 翔子は愛車に向かって話し掛ける。母が残したバイクに、必死に話し掛ける。

「将来はね・・・?写真を撮りたいんだよ・・・?大好きなバイクと、自然と・・・うぅ、きっと楽しいよ・・・?」

 翔子はだんだんなにを話したらいいのかわからなくなっていた。話したいことはたくさんあるのに、最後は「お母さん・・・お母さん・・・」と呟くだけになっていた。そんな翔子を、CB350Fourはただ静かに見ていた。





「・・・ただいまです」

 翔子は結局、1時間近く外で泣いていた。部屋に戻ると皆が心配して翔子のもとに集まった。

「翔子ちゃん・・・大丈夫?」

 由美が本当に心配していると、翔子はまた涙の後が消えていないが笑顔で由美を見た。

「大丈夫です。一通り泣いたら、落ち着きましたから」

「翔子ちゃん・・・」

「!?」

 突然、由美は翔子を抱き締めた。急なことだったので、翔子は驚いてしまった。

「よかったぁ・・・!心配したのよ!?」

 翔子を抱き締めたまま、由美が言う。このメンバーの中で1番翔子を気にしていたのは間違いなく由美だろう。

「・・・由美さん」

 翔子が静かに言う。

「これで、最後にしますから・・・泣くの最後にしますから・・・泣かせてください・・・!」

 そして翔子は泣いた。さっきまであんなに泣いていたのに、まだこんなに涙が出るとは思わなかった。ただ、由美が抱き締めてくれたら、また安心してしまったのだ。

 腕の中で泣く翔子を、由美は優しく撫でた。

「しーちゃん・・・」

 美春も感動して涙を流していた。圭太達もそんな翔子と由美を見て感動していた。自分達が好きなバイクが、数年かけて親子に手紙を渡した。親子の絆がさらに深まった瞬間だった。

 翔子は泣きながら、天国にいる母に言った。

(私には、こんな素敵な友達がいるから、だから・・・私強くなるよ・・・!見ててお母さん・・・!)

 翔子はまたしばらく泣き続けた。しかし、いつもの弱さからくる涙では無い。強くなるための、明日へ翔ばたくための涙であった。




 そして30分後、翔子は涙を拭いた。そこにはまた一回り成長した翔子がいた。

「由美さん、みなさん・・・ご迷惑をおかけしました」

 翔子はそういって頭を下げる。

「いいのよ、翔子ちゃん!気にしなくて!」

 由美が肩を叩きながら言う。

「私、家族と問題がいっぱいあるけど、これからは逃げないでがんばります・・・!」

「またなにかあったら教えてね!家だろうがなんだろうが乗り込んで行くわよ!?ね?みんな!?」

 由美が言うと、皆頷いた。

「僕も、由美ほど役に立てるかわからないけどその時は全力で助けにいくよ」

 圭太が言うと手を差し伸べた。翔子は圭太と握手すると皆とも握手していった。

「よし!じゃあ一段落ついたところで走りに行くわよ!お腹もすいちゃったし!」

 由美が言うと、翔子も「はい!」と元気良く返事した。




 外に出るとそこにはバイクが6台も止まっている。旧車が6台も集まるとすごく迫力がある。

「じゃあ、オレ達は国道だから」

 旭と洋介は一足先にエンジンをかけていた。辺りは白煙と爆音が支配している。

「これがヨンフォアなのね・・・」

「速そうだね・・・」

 洋介のヨンフォアを見て、由美と圭太が感想を言う。旭のサンパチや自分のFXと比べるとすごく小さく見える。しかし、迫力はサンパチにもFXにも負けていない。真紅のフォアのヨシムラの当時物ショート管から吐き出されるエキゾーストはアイドリングで低い唸りを上げ、シングルカムのエンジンはCRキャブの音と重なってうねっている。バックステップは本気の証か。

「オレのフォア、結構いいだろ?」

 洋介が圭太に向かって言う。ちゃんと話したいことがないが悪い人でないことはわかっているので圭太も素直に感想を言った。

「すごいです・・・音が速そうだしなによりスマートです」

 ヨンフォアのスタイリングを見て圭太は言った。

「だろ?旭のサンパチよか速いぜ?」

「あぁ?聞き捨てならねぇぞコラァ?」

 旭が洋介を睨む。が、洋介はさらに続ける。

「フォアが1番よ、フォアが!」

「てめ、サンパチなめてんかよ?」

「やんのか?」

「やってやんかコラ?」

 飛び散る火花、呆れる圭太達。

「よっしゃ、じゃあどっちが先にウチまで着くか勝負な?」

「オーケー、事故って泣くなよ!?」


 カーン!カーン!!バリバリバリバリ!!


 コァン!コァン!!グォロロロロ!!


 なんかあっという間に2人は走り去ってしまった。

「バカね・・・」

「だね・・・」

「あっくん・・・」

「・・・・・」

 残された4人はそれぞれ呟いた。

「で、どこでご飯にする?」

 由美の提案に、美春が「ふっふっふ」と笑いながら手を上げた。

「私のとこにおいでよ?」「美春ちゃん家?」

 由美がなんでだろうと考えていると、美春がバイクを出口の方に向けながら答えた。

「言わなかったっけ?うちラーメン屋さんなんだぁ」

「へぇ、ラーメン屋さんなんだぁ・・・ってえええ!?」

「いや、そんな驚かなくても・・・」

「あっくんもウチで働いてるんだよ?来る?」

 美春が言うと、由美はコクコク頷いた。

「行く!私ラーメン好きなのよぉ!」

 由美が言うと、圭太も翔子も賛成したので、美春が「じゃあ行こう!」と言ってバイクに火を入れた。それを合図に皆エンジンに火を入れる。

「じゃあついてきてねぇ」

 美春が駐車場を出ると、皆あとから続く。美春のサンパチと由美のゼファーは無駄に爆音仕様なのでなるべく音を立てないようにして出発していった。


 しばらく走ること20分、4台のバイクは街道沿いの小さなラーメン屋に行き着いた。看板には『ラーメン真田屋』とある。美春の家だ。

「ただいまだよ〜♪」

 店に入るなり、美春は大きな声で言う。ちなみに営業中だったので客の視線がみんな入り口に集中したので由美達は少し恥ずかしかった。

「おう、美春おかえり」

 厨房から恰幅の良い男が出てきた。真田屋2代目にして美春の父である真田昌行その人である。

「お母さんはぁ?」

「買い物。友達か?」

 昌行は由美達を見る。

「大切な友達だよぉ。あっくんはいないけど」

「そうか、美春がいつも世話になってるね。お金はいいから、好きなもの食べな?」

 そういって昌行は厨房に下がっていった。

「い、いいんですか?」

 圭太が聞くと、美春は笑いながら「大丈夫大丈夫♪」と言って席に案内した。

 席はテーブル席の1番広い席だった。

「好きなもの食べてねぇ!」

 美春が皆にメニューを見せる。

「なになに、真田ラーメン(醤油、塩、味噌)と・・・なにこれ?」

 由美が美春にメニューを指を指しながらたずねる。

「この『サンパチラーメン』ってなぁに?」

 由美が指さす先には『サンパチラーメン 600円』とある。

「あぁ、これはねぇ、サンパチラーメン」

「いや、名前じゃなくて・・・」

「あっくんが作るラーメンなんだけど、あっくん以外作り方知らないからあっくんいないと食べれないんだよ?」

「いいの?そんなの出して・・・?」

「おいしいから良いんだってさ」

 美春が能天気な笑みで答える。しかし、働いてる身でオリジナルラーメンを店で出せるとは、どうやら旭は両親にもよほど気に入られているらしい。

「こっちはなんですか?」

 今度は圭太が聞く。そこには『黄金ラーメン800円』とある。

「そっちはねぇ、あっくんと私が作った奴で、カレーラーメンだよ?しかもライスが付いてくるから食べた後のカレーをご飯と一緒に食べれると言う優れ物!」

「へぇ・・・」

 圭太が頷くと、翔子が聞いてきた。

「あの・・・これは?」

 聞くと、そこはテーブルに備え付けの調味料。そこには醤油、酢、こしょう、そして謎の黄色い粉が置いてある。

「それもあっくんが作ったカレーパウダーだよ?」

「ねぇ、美春ちゃん?」

 由美が恐る恐る聞く。

「旭さんって、そんなにカレーが好きなの?」

「うん」

「うわぁ・・・」

 結局、昨日嫌というほどカレーを食べた3人は圭太が醤油、由美と翔子が味噌。美春は黄金ラーメンを1つ頼んだ。



 しばらくしてラーメンが現れた。食べてみると普通に美味しかった。

「醤油の味がさっぱりしていて、美味しいです」

 圭太が感想をもらす。

「でも、旭さんって本当になんでもできるのねぇ・・・」

 由美が味噌ラーメンを食べながら話す。

「うん、あっくんはなんでも出来ちゃうよ!」

 美春が自分のことのように自慢する。ちなみに黄金ラーメンは、スープがまんまカレーだった。

「今日もこれからバイクの修理ですもんね」

 翔子が味噌ラーメンをちびちび食べながら言う。

「繋がりがたくさんあるんだろーなー」

 由美がスープを飲みながら言う。ちなみに濃い味だった。

「私達、近いようで遠いのかなぁ?」

 由美が言うと、美春が「違うよぉ」と言う。

「あっくんは、頼まれると断れないんだよぉ。だからいろんな人と繋がりがあるんだけど、本当に親友って言えるのははぐっちと他数人しかいなかったし、ゆーちゃんとけーちゃん達に会えてよかったって言ってたよぉ?」

 美春がスープ・・・というかカレーにご飯をぶち込みながら言う。

「本当!?」

 美春が言うと、美春はうれしそうに笑いながら頷いた。

「最近、あっくん。けーちゃん達が弟とか妹に思えるって」

 美春が言うと、由美と圭太、翔子は喜んだ。しかし、

「本当の妹は、まだ認めてないのに・・・」

 誰にも聞こえない、小さな声で美春が呟いた。





 ラーメンを食べおわり、店を出た。美春は母が帰りが遅いので店を手伝わなければならなくり、ここでお別れになった。

「ありがとうございました」

「また遊ぼうね!美春ちゃん!」

「ご馳走様でした」

 圭太、由美、翔子は店主の昌行と美春に挨拶して出発した。

「結局!私達3人が残っちゃったね!!サンゴちゃんはどう!?」

 由美が走りながら叫ぶ。ゼファーは今日はガスを確認したから止まることはなさそうだ。

「はい!絶好調です!」

 翔子も笑顔で返す。350Fourは絶好調で、ストレスなく回っている。

「じゃあ、高尾までもうちょっとだけど楽しく行きましょう!!」

 由美の合図で、残り数キロの道を進む。途中、順番を入れ替えしながら進む3台は楽しそうにランデブー走行をしている。

 楽しい時間はすぎるのが早い。気付けばもう高尾だった。

 3台は一度南口のロータリー付近でバイクを止めた。もちろん邪魔になるので歩道まで押していって隅にきれいに並べた。これなら邪魔にもならないだろう。

「じゃあ、今日はお別れね」

 翔子が言うと、由美が笑顔で握手を求めた。

「また近いうちに遊びましょう!連絡してね!!」

「僕も楽しみにしてる」

 由美と圭太と握手して、翔子も笑顔で頷く。

「本当に、昨日と今日でお世話になりました・・・!ありがとうございますです!!」

 翔子はうれしそうに、そして一時とはいえ別れを惜しむ。

「また連絡します!次は旭さんと美春さんと、洋介さんと、みんなでツーリングしましょう!」

 翔子が言うと、バイクに跨がりセルでエンジンを掛ける。吹かすとタコメーターが綺麗に踊る。

「じゃあ、またね翔子ちゃん!」

「旭さん達にも、よろしく言っておいてください!」

「わかったわ!なんか嫌な事があったら、連絡してね!」



 そして、CB350Fourは走りだす。翔子は片手を振って走って行った。



 ぶぁああああ!!



 やがて姿が見えなくなり、エキゾーストも消えた。

 それを最後まで見ていた由美は最初こそ心配そうだったが、やがて自信満々な顔で圭太に振り向いた。

「じゃあ!私たちも帰りましょ!?」

「そうだね。ところで由美?」

「なに?」

「そのミラーに付いてる紙、何?」

 見れば昨日、由美が結んだおみくじが解けそうになっていた。

「あ!しまった!!」

 あわてておみくじを結ぼうとしたが、突然風が吹いておみくじは飛ばされてしまった。

「ああぁ〜!?」

 飛ばされたおみくじは、そのまましばらく滞空していたが、しばらくしてすぐに落下。落下先は・・・

「工事現場!?」

 しかも、下は生コンである。

「待ってぇ!!」

 由美の願いむなしく、おみくじは生コンにダイブ。そしてその上に新たな生コンが・・・

「私の、大吉がぁ・・・圭太との赤い糸がぁ・・・」

「どうしたの?ぶつぶつと・・・」

 事情を知らない圭太が聞くと、由美は半泣き半怒り顔で圭太に迫る。

「もう嫌!圭太のバカ!!」

「え!?なんで僕なんだよ!?」

「うるさいうるさい!」



 2人が騒いでいるとき、街道をさらに進むCB350Four。それを操る翔子は、由美と圭太達に感謝しながら走っていた。

「ありがとう、由美ちゃん、圭太君、みんな・・・そして」

 アクセルを思い切り開ける。少しスピードを上げて、フォアの音を聞きながら空を見た。

「お母さん、ありがとう!」


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