第11章 アルコール!?
一方、旭達は目的の場所である「羽黒自動車」に来ていた。
なぜバイク屋では無く車屋に来たかと言うと、理由はひどく簡単。ここの息子が旭の同い年で友達、つまりバイク仲間なのだ。
「おー、旭じゃんか。どーした?」
その「羽黒自動車」の跡取りである羽黒洋介が、ジャッキアップされた客の車であるGX81MARKⅡの下から台車を使って顔を出した。短髪で背はあまり大きくは無いが、ガタイはいい。目がめちゃくちゃ細いこともあって、よく必要以上に恐がられるのが本人の悩みでもある。
「おう、ちょい頼みがあってよぉ」
旭は言いながら、少し下がった所に立っている翔子と、入り口に停めた軽トラの荷台を指差した。
「このコの単車なんだけどよ?キャブとガソリンコックがちっとイカれちまってよ、ヨンフォア用の部品ストックであったら安く譲ってほしいんだ」
洋介は旭の話を聞いて、翔子を見た。
翔子は少しおどおどとした感じで洋介を見ていたが、洋介の視線はすぐに後ろのサンゴーフォアに移った。
「このコがサンゴーフォア?すげーな、おい」
「だべ?オレも驚いたよ」
洋介の感想に、旭も同意した。
「全く、お前が前に言ってたゼファー改FXのコといい、美春ちゃんといい、最近の女ってのは渋い趣味してんな」
そう言いながら、洋介はガレージの奥の方にある棚から、大きな段ボールを引っ張りだした。
「ヨンフォア用のキャブと予備で持ってたガソリンコック、タダであげるよ」
翔子に笑いながら言うと、「タダ!?オットナァ〜!」と旭がちょっかいを出した。
「え・・・!?悪いです・・・!私・・・!」
翔子が両手を振りながら言うが、洋介はそれを無視して翔子に言った。
「キャブはこないだまでオレのフォアに付いてたヤツで、サンゴーフォア用に加工してセッティングすれば調子良く動く。コックは予備に2つも持ってたから、別にいいよ」
洋介が笑いながら段ボールからキャブレターとガソリンコックを取り出した。中には他にもいろいろな部品が転がっているが、詳しくはわからない。
「でも・・・」
「オレのフォア用ストックパーツはフレーム含めて外装も2セット持ってるから、それだけでヨンフォア1台組める以上のパーツがあるから、これくらい痛くもなんともねーよ」
そう言って翔子に目を向けた。細い目がやはり少し怖い。
「それに、サンゴーフォアなんて激シブな単車に乗ってる、かわいい女の子から金なんて取れねーよ。どーしてもって言うなら今夜オレと・・・って痛っ!!」
「どさくさに紛れてナンパしてんじゃねーよ」
洋介を旭が一発ゴチっと殴った。
「あ、あの・・・!本当にいいんですか・・・!?」
今までおろおろするだけで精一杯だった翔子が洋介に確認を取った。
「いいって別に、心配しなくてオーケー」
手をブンブン振って洋介が答えた。基調なパーツをタダであげるのに、全くもって余裕だ。
なぜこんなに余裕なのか。それは洋介がヨンフォアに乗っているのは当たり前として、彼はヨンフォアマニアで、スペア部品はおろか、パーツ取り車も持っているほどなのだ。それだけのパーツがあれば、確かにキャブレターとガソリンコックくらい、なんでもないのかもしれない。
「ほ、本当にありがとうございます・・・!」
ペコリと90度以上お辞儀して、翔子は洋介にお礼を言った。
受け取ったパーツを荷台に載せ、洋介の家を後にする。
「じゃあ、そろそろ行くわ。また一緒に走ろうぜ?」
「おぅ、オレのフォア、CRキャブに換えたからセッティング出したら、また走りに行こうや」
そう言って旭と洋介は互いに拳を当てる。もう長いことやっている仲間達との別れの挨拶だ。
「本当にありがとうございました・・・!」
助手席から頭を下げる翔子に、洋介は手を振って返した。
2人が去った後、洋介はガレージの奥にカバーを掛けて置いてある愛車、CB400FOURに手を掛けた。
「CRキャブ、セッティング出さねーとな・・・?」
そう言ったが、今は取り敢えず客の車を治すのが先である。踵を返して洋介はまた車の下に潜り込んだ。
旭達がやっとアパートに着いた時には、時間はすでに10時を超えていた。2人はバイクを荷台から下ろした後、防犯のために鍵を付けてから部屋に入った。
「おぅ、帰ったぞ〜」
旭がまず入って、後から翔子が「お邪魔します・・・」と言って後から続く。
部屋にはすでに由美と圭太、美春がいた。
「旭さん、部品ありましたか?」
圭太が聞くと、由美と美春も旭を見た。
「おぅ、あったぜ?しかもタダだったしな」
そう言って、麻袋の中からキャブレターを取り出す。3人は「よかったぁ」と言いながらよろこんだ。
「あなたが翔子ちゃん?はじめまして、真田美春よ!あっくんの彼女だから、よろしくね」
そう言って翔子の手を握ってブンブン振り回した。
「あ・・・どうも・・・」
お互い自己紹介が終わり、一段落付いた頃に、美春があらかじめ作っておいた特製カレーを人数分に渡して、遅めの夕食を取った。ちなみに旭と美春はカレーを3回もおかわりした。本人達いわく「カレーは別腹」らしい。さらに2人はおやつにカレーパンまで食べていた。
「あ〜、もう入らないよ・・・」
「わ・・・私も・・・」
「・・・」
圭太と由美、翔子はおかわりこそしなかったが、あらかじめ大量に盛られたカレーを全部食べきったので、満腹を通り越していた。
「はぁ・・・で、これからなにかするの?」
圭太が苦しそうにお腹を押さえながら由美に尋ねると、由美もまた苦しそうにして翔子に目を向けた。
「そういえば・・・翔子ちゃん、なにかやりたいこととかある?」
自分から誘っておいて、実は全然なにをするかなんて決めていないあたり、相変わらず行き当たりばったりな性格の由美を見て、圭太が呆れた。
「私は・・・みんなとお話出来れば、お話したいです」
翔子が控えめに言った、
「じゃあそうと決ればお話タイム!!お題は?」
美春が元気良くみんなに聞くと、由美が「はいはい!!」と手を上げた。
「はい、では由美ちゃん!」
美春が先生みたいにして由美に発言を許した。
「みんなのバイク自慢にしましょう!!」
「ん〜・・・私、それは最近どこかでやった気がするよ?」
美春が意味深なコトを言うと、由美も「え?そうだっけ・・・?」と言って着席した。
「おい、なんでもいーけど、オレはこれからサンゴーフォアのキャブレターとかいろいろやらなきゃならねーんだぞ?」
「いいじゃないですか、今日はせっかくお泊りなんですから!!」
由美が相変わらずなことを言う。
「取り敢えずいろいろ話しましょうよ、泊まりなんですから」
圭太が言うと、由美、翔子、美春の3人は「賛成!」と一致した。
「しゃーねーなー・・・まぁ、あんまり時間食うわけでもねーからいいか・・・」
こうして、『第1回旭さん家で翔子ちゃんお泊まり歓迎会!』が開催された。(命名、由美)
「へぇ〜、じゃあ翔子ちゃんて将来写真家になりたいんだ〜」
美春がオレンジジュースを飲みながら翔子に聞いた。
「はい。私、バイクとか自然の風景を撮るのが好きで・・・将来はバイク雑誌のカメラマンとか、やってみたいなぁって・・・」
同じく、ちびちびとオレンジジュースを飲みながら翔子が将来の希望を答えた。
「いいわね!じゃあ、もしカメラマンになったら、私達のバイクの写真、いっぱい撮って雑誌に紹介してね!!」
由美もおやつのポッキーを食べながら翔子に笑顔で言った。ちなみに、由美1人で一袋開けてしまった。
「皆さん、将来のこととか、なにか考えてますか?」
翔子が控えめながら、みんなの将来の夢を聞いた。みんな一様に考えた後、美春が手を上げた。
「整いました!!」
落語家みたいな掛け声で美春が翔子に答えた。
「私は、将来あっくんに私の実家のラーメン屋さんを次いでもらって、それでサンパチも一緒にずっと乗り続けて、将来私達の子供に譲ってあげて家族で幸せに暮らすの!」
キャーっ!とか言いながら美春が旭に抱きつくが、旭は顔を赤くしたままだ。
「美春さん家って、ラーメン屋さんなんですか?」
圭太が美春に言う。翔子はともかく、圭太と由美もそこは初耳だった。
「そうよ?あっくんも、もうウチで働いているし。ね?あっくん?」
美春が抱きつきながら旭に言う。が、旭は恥ずかしそうになってるだけだ。
「じゃあ旭さん、将来お婿さんになるんですか・・・?」
圭太が聞くと、みんながそれを想像して、吹き出した。
「な、なに笑ってんだテメー等・・・!」
「だ、だって・・・!旭さんがお婿さんて・・・!」
由美が遠慮無く笑っていると、旭は恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「じゃあ、次私ね!」
そう言ってオレンジジュースを飲み干した後、皆を見て由美が言った。
「私は、いつまでもみんなと仲良くして、いろんな所にツーリングに行くことよ!」
由美の問に、美春がニヤニヤしながら返した。
「で、将来圭太君とくっ付くわけね?」
「なんで僕が由美と・・・って痛っ!」
由美が圭太を殴って黙らせた。それを見て、美春はケラケラと笑い、翔子は心の中で由美にエールを送った。
「じゃあ、話も盛り上がってきたし・・・!秘密兵器の登場!」
ぱんぱかぱーん♪と自分で言いながら、美春が冷蔵庫からビールやチューハイ、日本酒など、アルコール類数品を取り出した。
「お、おめぇ・・・!また酒なんか買って来やがって・・・!」
旭が呆れ半分で言うと、美春が「いいでしょ?」と言った。ちなみに、この部屋には二十歳以上の人間は1人もいない。
「だ、ダメですよ・・・!まだ未成年だし・・・!」
圭太が慌てて美春に言うが、美春はかまわずにビンビールの王冠を開けた。
「若者よ・・・時には冒険も必要なのよ・・・?」
コップにビールをついで、皆に回し始めた。
「私お酒ってほとんど飲んだことないのよねぇ・・・」
「由美・・・!ダメだよ!」
圭太が由美に言うが由美はすでに目の前のお酒に興味深々。こうなってしまったら必ず飲んでしまうのは、誰の目にも明らかだった。
「翔子ちゃんからもなんか言ってあげ・・・!?」圭太が翔子に助けを求める。しかし・・・
「私・・・お酒って飲んだこと一度もないです・・・」
「翔子ちゃんまで・・・!?」
圭太は驚いた。まさか翔子までもがアルコールに興味を持つなどと、全然考えていなかったのである。
「圭太、あきらめろ・・・例えみんな呑まなくても美春が絶対みんなに無理矢理呑ますんだからよ・・・」
旭も、あきらめていた。タバコに火を点けてさらに続けた。
「美春は酒癖悪いぜ〜、はぁ・・・」
「あっくんひど〜い」
美春がなにか抗議の声を上げているが、旭は華麗にスルーした。
「じゃあ、乾杯するわよ!!」
由美の掛け声に、圭太を含めた全員がコップを手に持ち、乾杯の準備をした。
「じゃあ、乾杯の音頭は翔子ちゃんね!」
「わ、私ですか・・・!?」
由美が言うと、翔子が驚きながら言った。
「今日はあなたの歓迎会なんだから、あなたがやらなきゃ意味無いじゃない」
あっけからんとして言う由美を見て、少し戸惑った後、諦めたように立ち上がった。
「あ・・・あの!」
翔子が皆の視線を受けながらも、立ちながら言った。
「き、今日は本当に楽しかったです・・・バイク壊れちゃったり、いろいろあって迷惑も掛けてしまいましたけど・・・」
少し落ち込みながら言うと、由美が「頑張って!」とエールを送る。
「でも・・・!今日は今までで一番楽しかった1日でした、ありがとうございます・・・!!」
ここまで言って、周りからは拍手が起こった。
「そ、それでは・・・か、乾杯・・・!」
『かんぱーい!!!!』
皆が翔子に続いた。
30分後・・・
「あっく〜ん♪好きぃ〜♪」
美春が酔っ払って旭に抱きつく。しかし旭はそれを華麗にスルーした。ちなみに旭のコップの中身は全然減っていない。
「旭さん!全然減ってないじゃないですかぁ!!」
由美が言うと、旭が言った。
「べ、別にいいじゃねーか・・・」
「もしかして、お酒弱いんですか・・・?」
圭太が聞くと、確かに全然呑んでいないのに、旭の顔は真っ赤っかになっている。どうやらそうとう弱いらしい。
「そうなの。あっくんたら強そうに見えてお酒はダメダメなの〜♪」
美春がふにゃふにゃになりながら言う。
「旭さん、お酒はダメなんだぁ・・・ふーん・・・」
由美も圭太も不思議そうにだが、納得した。
しかし・・・
「旭しゃん・・・!飲みが足りないでしゅ・・・!もっと飲むでしゅ!!」
そう言って、旭の口に中ビンのビールを口に突っ込んでぐびぐび飲ませたのは、なんとびっくり、あの翔子である。宴会が始まり、数分のうちに翔子はたちまちこんなグダグタになっていた。以外すぎる展開に、最初は皆が驚いたが、「まぁ、お酒だし、酔っ払ったらしょうがないね」とみんな思っていた。
そんな感じで油断していた所に、翔子のいきなりの攻撃だ。喧嘩では無敵の浮沈艦である旭も奇襲攻撃とばかりに酒をグイグイ飲まされたらひとたまりもない。
「ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、・・・ぷはぁ・・・」
旭は半分ほどビールを飲まされたとたん・・・
「ふにゃ・・・」
旭は、その風体に似合わぬ擬音を発してぶっ倒れた。掛けていたサングラスが外れ、その顔を見れば、目がぐるぐると渦を巻いていた。
「あれぇ・・・、旭しゃんて、以外と顔かわいいんですかぁ・・・?」
翔子が酔っ払って言うと、由美と美春がばか笑いしていて、圭太が1人あわてていた。
「あっくんにこんなに飲ませたら、そりゃ〜ぶっ倒れちゃうわよ〜♪」
「旭さん、ふにゃ、だって!かわいい!!」
ダメだ、全員酔っ払ってる・・・!
1人危機感を抱きながら旭を介抱しようとしたが、圭太もその数秒後、翔子の餌食になったのは言うまでもない。
さらに30分後
「美春ちゃ〜ん・・・圭太が私に振り向いてくれるにはどうすればいいの〜?」
ぶっ倒れている旭と圭太を尻目に、由美が美春に聞いた。美春はチューハイを飲みながら由美の方を見た。
「簡単よ〜♪好きって言っちゃえば良いのよ〜、ふふふ♪」
なんかおかしな目をしながら、美春が言った。
「それが出来たら苦労しにゃいの〜・・・」
由美が鬼殺しをオレンジジュースで割るという荒技をしながら美春に言う。ちなみに、3人ともすでにグダグタである。
「私だって・・・あっくんが夜とか襲ってくれないかりゃ、欲求不満なのよ?私浮気しちゃうわよ!?」
美春が死んでる旭を蹴ながら、なにやら危ない発言をする。いつもの彼女らしからぬ行動だがしかし、旭は当分起き上がることはなさそうだ。
「え?旭さんて、そーいうことあまりしにゃいんですか?」
少しおかしな呂律で由美が聞くと、「そーなのよー!」と美春が言う。一方・・・
「美春しゃん、由美しゃん・・・!もっと飲むですぅ・・・!!」
翔子が鬼殺しをストレートで飲みながら2人に言う。顔はすでに真っ赤で、呂律も回らなければ表情もなんか危ない。
「あ・・・翔子ちゃん・・・そろそろ止めたほうが・・・」
人のコトを言えるような状態では無いが、他の2人より少しだけマトモな美春が言う。
「ひっく・・・!彼氏がいるだけで十分じゃないれすかぁ〜!欲求不満なんて、このエロ女めぇ・・・!」しかし、翔子は止まるどころか、鬼殺しを一気に煽った後、またコップに継ぎ足した。ちなみにテーブルにこぼれまくっている。
「由美しゃんも・・・!好きな人がいるだけでいいにゃらい!」
「翔子ちゃん、あの・・・落ち着いてね?」
美春がなんとか宥めるが、今度は由美が立ち上がった。
「にゃによ〜、好きでも気持ちが伝わらない私のきもひがわかりゅの!?」
「あの、ね・・・?」
「好きならけいいにゃらいれすか!私なんか、充実してりゅのはやしゃいだけでしゅよ!!」
「あの・・・」
「シューパー野菜人にゃんかに、私のきもひなんへわからにゃいわよ!」
美春の血管が、ぶちっと
音をたててキレた。
「2人とも!!!落ち着きなしゃい!!!」
ばんっ、とテーブルを打っ叩いて美春が叫ぶ。しかし、美春を含め理性のある人間など、もはやとっくにこの部屋の中にはいない。3人は結局、ますますグダグタになっていった。
「だいたい、美春ちゃんはずりゅい!!」
突然、由美が美春を指差した。
「こ〜んにゃおっきい胸で旭しゃんをゆーわくして、このぉ!」
由美は後ろから美春の胸を鷲掴みにした。
「あ・・・!やめてよぉ・・・あっ!」
「あり〜?ここがいいの?ここかにゃ?もみもみ」
「ら、らめらってぇ・・・先っぽはぁ・・・!」
由美の危ない攻撃に、危ない声を上げる美春。ちなみに、その表情は口からヨダレを垂らしながら若干白目を剥いている。
「・・・!!」
美春はそのままパタリと倒れた。
「こにょ変態めぇ・・・!飲めぇ!!」
今度は翔子が叫びながら由美の口に、ビールビンを突っ込んだ。
「おぶっ・・・うぐっ・・・!ぶはぁ、この・・・!」
無理矢理飲まされながら、由美も翔子の口にビールビンを突っ込んだ。
「うぐっ・・・ごきゅっ、ぶえっ・・・!」
「ぐびっ・・・おぶっ・・・うっ・・・!」
ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ・・・
「「ぷはぁ・・・!!!!」」
バタンっ・・・!!
結局、2人でビンビールを全て飲み干し、そのままぶっ倒れてしまった。
部屋の中には、5人の屍が横たわり、辺りはこぼれた酒の匂いと、散らばったおつまみが散乱していた。