第10章 軽トラにゆられて
久しぶりの投稿です、忙しくて遅れてしまいました汗
それではどうぞ!
結局、旭が相模湖に着いた頃には日もどっぷりと沈んでいた。道が混んでいたらしく、軽トラから降りてくるなり「疲れたぁ〜・・・」とタバコに火を付け、とりあえず一服し始めた。
「すみません旭さん、また呼んじゃって・・・」
圭太が言うと、旭は「気にすんな」と言ったが、今朝の出来事の後にそんなコトを言われても説得力は無い。
「しっかし・・・サンゴーフォアとはなぁ・・・」
旭は件のバイク、CB350Fourを見てため息をついた。地面には思い切りブチまけられたガソリンのシミが、街灯の光でもわかるくらいに広がっている。これしか見ていないため、詳しくはわからないが結構重症かも知れない。
「あ、あの・・・」
旭がこれから治す、または運ぶサンゴーフォアを遠目に見ていると、女の子が1人、旭に呼び掛けた。その表情はものすごく緊張している。
「す、すみません!遠くから来てもらってしまって・・・!あの、私・・・」
「話は聞いてンぜ?翔子ちゃんだべ?オレは霧島旭、夜露死苦!」
あたふたしながら言う翔子に、旭が笑いながら自己紹介した。手クシでリーゼントを整え、くわえていたショートピースを地面に捨て、足で踏み潰す。
「しっかしサンゴーフォアとは良い趣味してんな!サンゴーフォアに乗ってる女の子なんて間違いなく世界で翔子ちゃん1人だけだぜ?」
いつも掛けているグラサン越しに笑顔で言う旭。そんな旭のビジュアルを見ている翔子の表情は未だに硬いままだ。
「す、凄い髪型ですね、初めて見ました・・・!」
翔子が、旭の特徴的なリーゼントパーマを見る。いつ見ても完璧なリーゼントである。
「あぁ、おっかしいだろ?今時こんな頭なんてよ」
旭が翔子に言った。どうやら時代錯誤の意識はちゃんとあるらしい。そんな旭を見て、翔子は少しだけ、ほんの少しだけだが表情が柔らかくなった。
「旭さん!サンゴちゃん治るわよね!?」
本人より先に、由美がバイクの話をしてきた。
「なんだよ、サンゴちゃんて」
笑いながら「どれどれ・・・・」とバイクを覗き込むその表情は真剣だ。
旭は、原因と思われる箇所を探っていき、ため息をついて顔を上げた。
「ガソリンコックがサビサビだぁ、OFFになってんのにガソリンがダダ漏れして滲んでいやがる・・・そんでキャブレターに流れたガソリンが滲んでんのぁ、中のパッキンかゴムかなんかが径年劣化でお釈迦様ってわけだ、多分」
なすすべ無しと言わんばかりに旭が言う。見れば、ガソリンコックからガソリンが滲み、OFFにしているのにガソリンを供給する通路にガソリンが流れている。そしてトドメはキャブレターのパッキン類の径年劣化によるヤレで流れてきたガソリンがダダ漏れしたという寸法だ。
旭の診断に3人は首を傾げた。3人にはまだ難しい話だったみたいだ。が、コトの重大さがどいうことはわかったみたいだ。つまり・・・
「じゃあ、もしかして治らないんですか?」
由美の質問に旭が立ち上がって答えた。
「いや、ここじゃなんとも言えねーな・・・。とりあえずここじゃあ治せない、今日は1日、ウチに入院だな」
旭の言葉に、翔子はガックリと落ち込んだ。それはもう海峡より深く・・・
「バイク屋に出したら軽くウン万はかかるからな、ウチに持っていってオレが治したほうがいいだろ?それか、翔子ちゃん家まで運んでそこで治すかだが・・・」
旭の提案に、翔子がふるふると首を横に振った。
「私の家は、その・・・ちょっとダメです・・・」
たったそれだけの言葉をやっとのことで喉から押し出した。
「じゃあサンゴーフォアはウチで治すか。いいかな?」
「多分その方がいいわよ?」
由美も続けた。確かにこのままバイク屋に持っていって高いお金を払うくらいなら、旭に預けた方がいい。もしそれで治らなければ、バイク屋に見てもらったら良い。
そう思い翔子に言うと、翔子は申し訳なさそうな顔をして「お願い、できますか・・・?」と聞いた。
「任せとけって!その為にわざわざ相模から来たんだからな!」
旭が胸を張って答えた。
「旭さんはバイク乗りの味方よね!」
由美が持ち上げると、旭は少し照れながらも、バイクを軽トラの荷台に積む時に使うレールを地面につなげ始めた。
「じゃあ、今日はどうするの?」
「今日はここから電車で帰ります・・・一駅だしすぐに帰れますから・・・」
圭太の質問に翔子は力無く答えた。
「あ、バイクが心配なら明日までには治るかしんねーぞ?キャブとコックの部品に思い当たる奴がいるからな」
旭が言うと、由美が瞳を輝かせて旭を見た。
「本当ですか!?」
「あ、あぁ・・・つーか、なんで翔子ちゃんより由美ちゃんの方が喜んでんだ?」
由美は旭にさらに詰め寄った。目が怖い。
「今日と明日、旭さんはなにか用事ありますか!?」
「あったらこんな県境まで単車引っ張りになんて来ねーよ。あるとすれば、このサンゴーフォアの修理くらいだよ」
ここまで来るの大変だったんだぞ、と言う旭に、由美はなにか企んだ笑顔をした。そして翔子を捕まえて目の前まで連れてきた。
「私達、今日知り合ったばかりじゃないですか!?で、互いのコトをよく知るためと、翔子ちゃん歓迎会をしたいんだけど、旭さん家に1日泊まりでやっちゃダメですか!?」
由美が言うと、翔子が「え・・・!?でも・・・」と落ち着かない顔をしていた。
「今日初めて会って、いきなり壊れたこの子を治してくれるのに、私までお家にお邪魔するなんて・・・悪いですよ・・・」
翔子が気を遣ったコトを言う。しかし旭は笑いながら答えた。
「狭くていいなら別に構わねーよ?今日は美春もいるし、賑やかになるなぁ。翔子ちゃんが大丈夫なら、オレは大歓迎だ」
旭が言いながらサンゴーフォアを荷台に押し上げた。ほとんど助走を付けず、重たいサンゴーフォアを軽々急な坂になっているレールの上を走らせる。その姿を見て、翔子はこの細い身体のどこにそんな力があるのかと考えたが、すぐに今日これからのコトを考えた。
「いや、でも・・・やっぱり悪いです・・・迷惑まで掛けているのに・・・」
本当は行きたいのだが、やはり旭の迷惑では無いかと考えてしまいどうしても首を縦に振れない。
「遠慮ばっかりしちゃダメよ?今日この後用事でもあるの?」
由美が翔子に尋ねると、翔子は首を横に振った。
「いえ、今日も明日も、何も無いですけど・・・」
「もしかして親が厳しいの?」
「いえ・・・厳しくは、ないんですけど・・・」
質問攻めされる翔子を見て、圭太が由美の肩をポンッと叩いてから言った。
「あんまりしつこく言っちゃダメだよ。翔子ちゃんに迷惑だよ?」
圭太が言うと、由美は静かになった。
圭太は、翔子の方を見て「大丈夫?」と聞いてから話を続けた。
「ゴメンね?由美がああいう性格なのは昔からだから」
「どーいう意味よ?」
翔子がジト目で圭太を見る。しかし、圭太はそれを軽やかにスルーした。長年の付き合いが成せる技である。
「とりあえず、今日来れそうならおいでよ。無理にとは言わないけど、遠慮はしなくていいからね?」
圭太が言うと、荷台にバイクをワイヤーで固定した旭も翔子に話し掛けた。
「遠慮はいらねーぜ?バイク好きな奴なら大歓迎だからよ?」
翔子は考えた。ここまで誘ってくれているのに断るのはみんなに悪いし、自分自身もまだ由美達と話したいことも山ほどある。しばらく考えて、「大丈夫だよね・・・」と小さく呟いてから、翔子は意を決して顔を上げた。
「わかりました・・・!それでは、ご厚意に甘えて泊めさせていただきます!」
翔子の答えに、由美が「やったぁ!」と大喜びした。
「じゃあ、そうと決れば出発するか。もうすぐ7時半だしな」
時計を見て旭が言うと、3人も頷いて出発の準備をし始めた。
「翔子ちゃん!私の後ろに乗って!」
由美がリアシートをポンポンと叩く。翔子が由美に近づくと、旭が割って入った。
「ダメだよ由美ちゃん、まだ免許取って1年経ってねーべ?」
旭の言葉に、由美はつまんなそうな顔をした。
「いいじゃないですかぁー、旭さん固すぎですよ〜」
由美がいじけながら言う。確かに旭のようなマンガから飛び出て来たみたいな不良(!?)がそんな一般人じみたコトを言えばそうも言いたくなる。
「事故ったら大変だろ?半年とか経つならいいけど、まだ一月も経ってないんだから、ダメ」
真面目な顔をして旭が言うと、由美はしぶしぶながらも納得した。やはり事故を起こした時、1人ならば自分だけが痛い目にあうだけだが、2人になれば話が違う。2人乗りのバイクは、重たい為にブレーキは効きにくくなり、曲がるのも難しくなる為、事故率が高いのだ。
「軽トラの助手席が空いてるから、こっち乗りな」
旭が言うと、翔子は旭の軽トラで向かうことにした。翔子が乗り込むと、バイクの2人はエンジンを掛けて軽トラの運転席側に走り寄る。
「どうやって行きますか?」
バイクに乗ったまま圭太が聞く。
「道わかるべ?だったら先に行っててくれや、軽トラと並んで走ったら危ねぇし遅いし、使えるパーツがあるかどうか行かなきゃいけねぇ場所があんだ。美春も、もう家にいるだろーからよ?」
旭が言うと、途中までは合わせて、八王子付近に入ったら旭と翔子は国道から、由美達はそのまま街道で先に旭の家に行くことにした。
2台のカワサキが先に出て、後から軽トラが後ろを走りだした。
「しっかし、この軽トラは遅いなぁ・・・借り物とはいえ、もうちょい快適なのがいいよな〜」
旭がハンドルをトントンと叩きながら言う。4速マニュアルのボロい軽トラはもの凄く動きがダルい。坂道でエンジンが息継ぎをしてしまったりして、前を走る2人がだんだん離れて行き、向こうがこちらに合わせて減速する。
「本当にすみません・・・私のバイクの為に・・・」
翔子が今日何度目か、数えるのも大変なくらい謝る。
「気にすんなって、こんなんしょっちゅうだぜ?」
「そうなんですか・・・?」
旭が言うと、と翔子が返した。旭は運転席側の窓を、手動のクルクルハンドルで開けてタバコに火を付けた。
「あぁ、この間なんかオレのダチが単車燃やしちまってよ?わざわざ取りに行った後で燃えた単車の使えそうな部品だけ再生して、また作り直したんだ。バカだよなぁ」
旭が灰を外に落としながら笑って言った。前を走る2人がまたこちらに合わせてスピードを落とした。全然関係ないが、軽トラのメーター類は、走行距離15万キロを超えているだけあって、壊れていて動いていない。警察に見つかれば間違い無く整備不良で減点だ。
「バイクに詳しいって・・・凄いですね」
翔子が言うと、旭がいやいやと手を振った。
「バイクと四輪しか詳しい物が無ぇからな、オレからしたら勉強出来て大学とか行ってるタメの奴らの方がスゲーと思うよ」
そう言って、坂道でまた息継ぎをした軽トラのエンジンに鞭を打ち、ギアを2速に落とした。
「霧島さんって、今おいくつなんですか?」
翔子が先ほどから気になっていたことを聞く。サングラスと髪型のせいでわかりにくいのだ。
「じゃあ問題。いくつに見えるよ?」
旭が逆に質問してきた。翔子は唸って考えたが、わからないし、もし全然違う年齢だったら失礼だとも思った。
「時間切れ、正解は18だ」
旭が言うと、翔子は「えぇ!?」とこの日一番の驚きの声を上げた。
「じ、じゃあ霧島さんて同い年ですか・・・?」
「いや、一個上だ」
旭が言うと、翔子はさらに驚きと尊敬の眼差しで旭を見た。
「す、凄いです!ひとつしか違わないのに、バイクも詳しくて大人っぽくって・・・!」
翔子が言うと、旭が苦笑いした。
「年のわりに老けてるだけだ、うん」
「そ、そんなコト無いですよ・・・?凄いコトだと思います・・・」
翔子がフォローを入れた。
「サンキューな。そういや・・・家族に連絡しなくていいのか?」
これから外泊するのだから、家族に連絡をするのは当然だろう。旭はそう思い翔子に聞くて、さっきまでとは違い暗い表情でうつむいた。
「いいんです・・・どうせ心配なんかしていないですから・・・」
そう言って、窓の外を見る翔子に、旭が「なんでよ?」と尋ねた。
「私・・・家族とうまくいっていないんです・・・」
翔子の告白に、旭が眉をひそめた。真剣な顔で翔子の話を聞く。
「なんでよ?翔子ちゃんくらい良い子なら、家族とも上手く行くだろ?なんでまた・・・」
旭の問に、翔子がうつむいたまま答えた。悲しそうな表情もそのままだ。
「私が中学3年の時に、お父さんが再婚したんです・・・」
「・・・」
翔子の告白に、旭ただなにも言わずにハンドルを握って走っている。それを見て、翔子は話を続けた。
「小学4年の時に、お母さんが亡くなって・・・。中学に入ってからお父さんが今のお母さんである人と知り合って、しばらくして再婚したんです・・・」
翔子は拳をギュッと握り締めた。
旭はただ何も言わずに聞いている。真剣な顔で翔子の話を聞いた。
「それで、私には新しいお母さんとお兄さんが出来ました・・・でも、お母さんとお兄さんは、私に厳しくて・・・なにもしていないのに叩かれたり、修学旅行も行かせてもらえなかったりもしました・・・」
翔子の言葉に、旭が反応した。タバコを灰皿に押し付け、蓋を閉めてから翔子に顔を向けた。
「なるほど・・・最悪な奴と再婚しちまったわけだ、翔子ちゃんのオヤジは・・・」
旭の言葉に、翔子は何も言わなかった。しかし少し首を縦に振った。
「オヤジはなんにも言わねーのか?」
旭が肝心なところを聞いた。再婚相手の母と兄がそんな態度で娘に当たっていたら、さすがに父親もなにか対応するだろう。
「お父さんは医者で、あまり帰れないんです・・・父が帰って来ると、今度はいつもと違う優しい態度で母と兄は私に接してくるんです・・・だから、私が言っても信じてもらえないし・・・。それで、母はお父さんがいない間、いつもどうり私に当たったりして・・・家事を全部私に任せて、自分はどこかに遊びに行ったり、兄には優しくして・・・家での私は奴隷みたいな物なんです・・・」
翔子が、前を走っている2人を見て言った。2人は、旭と翔子がこんな話をしているなどとは思いもしないだろう。時折、笑顔でこちらに手を振りながら走っている。
「だから、あの人達はもう私のことなんか心配してなんか無いんです・・・」
翔子が疲れた顔をして言った。
そんな翔子を見て、旭はギアを3速に入れてアクセルを乱暴に開け、軽トラにムチを打ちながら翔子に言った。
「・・・実はウチもよ、オヤジが再婚したんだ」
「・・・!?」
旭の言葉に、翔子は声にならないくらい驚いた。旭は、どこか遠くを見ながら続けた。
「オレが生まれた時、おふくろはオレを生んですぐに死んじまってよ・・・?それまでオレはオヤジに育てられてきたんだが・・・」
タバコを取出し、右耳に挟んで、旭は前を行く2台を見ながら言った。
「小6ん時によぉ、オヤジが再婚したんだ・・・相手は若くって優しそうな人で、オレと5つも年下の女の子も一緒だった。で、再婚するんだが、オレは母親とか兄妹って物を知らない。どうやって接したら良いのかわからず、全然マトモに話さなかった。で、結局家族に慣れないまま、オレはとうとう2ヶ月前に1人暮らしを始めたんだ」
旭は言いながらタバコに火を付けた。紫煙が窓の外に流れていく。
「ま、1人暮らしした理由はただ単に、オレが自立したかっただけなんだけどな・・・?」
旭が言うと、今まで聞いていた翔子が口を開いた。
「凄いですね・・・私はお母さんに甘えて育っていたから、お母さんがいないっていうのを受け入れるのに時間が掛かりました・・・」
うつむく翔子を見て、旭が肺に煙を吸い込んで、ふぅーっと吐いた。煙はワッカの形をしていたが、やがてその形を崩しながら窓の外に流れていった。
「ま、翔子ちゃんの方が大変だけどな・・・?」
そう言って、旭は軽トラを走らせながら翔子を見た。元気の無い表情が見ていて辛かった。
「よし!じゃあ今日は嫌なこと忘れて、楽しくやろうや!あと、もし翔子ちゃんの親が、今日の無断外泊でなんかフザけたこと抜かしたら、オレに言えよ?オレ達が一緒に家まで行ってやるからよ?」
「は・・・はい、ありがとうございます・・・!」
少し笑みを浮かべてお礼を言う翔子を見て、旭が最後に質問した。
「じゃあ・・・もう聞くまでもないかもしんないケド、後ろのサンゴーフォアは・・・?」
「私のサンゴーフォアは、亡くなった、私の本当のお母さんが昔乗っていた物で、もらってからずっと大事にしているんです」
翔子は後ろの四角い小さな窓から、愛車であり母が残してくれた友達を見つめた。ヘッドライトを見ると、「今はちょっと具合が悪くても、またすぐにみんなと走りたい!」と、サンゴーフォアが訴えているかのようだ。
「任せときな、フォアはオレがバキバキに治してやるかんよ?」
旭は前を走る2台にクラクションを鳴らしながら言った。その言葉に、翔子も笑みを浮かべた。
それから半時間くらい走り、八王子付近に差し掛かる。由美達は、ここからは別行動なので途中でクラクションを鳴らして一時的な別れの挨拶をした。
国道方面に走り行く軽トラを見届けた後、由美と圭太も街道に向かって走りだした。
2台のバイクは、途中で午前中にも立ち寄ったガソリンスタンドで給油し、再び走り始める。途中、何台かのライダーとすれ違うと、やはり2人の愛車は注目された。
「注目されるのも、やっぱり悪く無いわね!」
翔子が、直管にした集合ショート管から吐き出される爆音にも負けないくらいの大声で叫ぶ。ちなみに交番付近に差し掛かると、スロットルを絞り、ギアを上げて音を立てないようにして走るのがすこし笑えた。
「そうかな・・・?僕は、あまり注目されたくないんだよね・・・やっぱり僕にこのバイクは不釣り合いなのかも」
圭太が走りながら言うと、翔子がハンドルから右手を放してあちゃー、と顔に当てた。
「もう・・・!圭太も翔子ちゃんもやっぱり消極的ね!」
由美が、スピードを落として圭太に並ぶ。ちなみに並走は、警察に見つかれば車種によっては共同危険行為に見なされてキップを切られることもザラじゃない。
「私は、FXが似合うのは圭太しかいないって思ってるし、サンゴちゃんが似合うのも翔子ちゃんしかいないと思ってるんだから、もっと胸を張りなさい!」
励ますと言うか、煽てるように言う由美の言葉に「それは僕以外にFXに乗っている人を知らないからだよ」と言いたかったが、圭太は少し嬉しくなり首を縦に振った。