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旧車物語  作者: 3気筒
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第1章 春、桜、バイク

はじめまして、3気筒です。

この度はこの小説「旧車物語」をご覧いただき誠にありがとうございます。

初小説なので、グダグダしていますが、どうか宜しくお願いします。

 春の日射しが心地よい4月半ば。桜の木もいい感じに緑とピンクが交ざり始めたこの季節。県立相模南高校、通称『南高』の3年A組の横五列ある中の窓側一番後ろの席で、1人の少女が叫んだ。

「免許取ったぞぉ!!」

 朝の静かな教室で彼女、三笠由美は雄叫びを上げた。

「やっとか、まぁおめでとう」

「なによ、これで私も圭太と走れるのに・・・もっと喜びなさいよ〜」

 由美はめんどくさそうに話す彼、中山圭太に呆れたような顔とすねた顔を足したような感じの顔をして話す。

「だって僕と一緒に通い始めて、僕が取ってから2ヶ月も経ってるじゃん。掛かりすぎだよ。」

 二人は春休み少し前からオートバイの免許証。『普通自動二輪』の免許証を取りに行っていた。

「だって実技は出来てんのよ!?なのに学科でバシバシ落としてくんだもん!私頭使うの苦手だからどーしてもダメなのよ〜・・・」

 圭太と由美は幼なじみである。まぁ、圭太からすれば腐れ縁である。読書が好きで控えめな性格の圭太に比べ、由美は男の子みたいに車やバイクに興味を持ち、女の子と遊ぶより男の子と遊んでいる時が多かった。「でも、免許取ろうって言い出したのは由美のほうじゃないか。」

 そう、事の発端は去年も終わりを迎えた12月。由美がいきなり「バイクの免許取ろう!?」と話を持ちかけ、乗り気でない圭太をまるで無視して圭太の親に「圭太君とバイクの免許を取るって話になったから了承してほしい!」とか言って、気付けば親父を言い包めていた。

「いいじゃない、圭太のお父さんバイク好きだし。お父さんからバイク貰ってたじゃない。」

「ああ、もらったけどまだこれと言って行きたい場所も無かったしまだ一度も乗ってないし、何しろ古いしね」

 親父から譲り受けたのは、親父がちょうど今の自分と同じ年位の時に買ってからずっと乗っているバイクで、圭太はよくわからないが親父曰く「名車」らしい。

「あのバイクカッコいいよね!私小さい時あのバイク見たときに、もう将来バイクに乗るって決めてたわ!」

 小さい時から一緒に遊んでいる由美はまだ圭太の親父がそのバイクに乗っていた時を知っているのだ。

「カワサキのZ400FXって言うのよね〜いいなぁ、私もカワサキにする!!」

 1人盛り上がる由美を尻目に圭太は少し考えた。

 圭太はFXが昔の名車と言うのは親父から聞いている。しかしどういうバイクなのかは全く聞いていない。後にこれが災難を呼ぶ事になる。

「と、言うわけで!今日学校帰りにバイク屋に行くから付き合ってね!?」

 笑顔で聞いてくる由美を見て圭太は考える。特に部活も入っていないため放課後はフリーだが、バイク屋に行くのは若干面倒だ。が、断れば目の前の笑顔が般若になる。そんなコトを0・2秒くらいで考え、由美に了承の仕草をした。そんな関係がもう10年以上続いているのだ。

 そして、今日の放課後がやってきた。二人は学校から自転車で走りいつもの帰宅路を進み、その途中で右折し、国道に出る道を走る。国道に出て、八王子方面に走ると途中で大きな看板を出した大きな中古バイク屋がある。

「さぁ!私の愛車を探すわよ!!いざ出陣!!」

「ちょっ!走ると危ないよ!って、ハァ・・・」

 由美が勢いよく走りさり、後から圭太がゆっくり付いていく。こんな光景も何度も見てきた。

 建物は、一階は整備工場。二階は中型バイクコーナーで、三階は大型バイクコーナーになっている。

 目的は二階のバイクコーナーにあるから、二階に上がるとすぐに見つけることが出来た。

「うわぁ・・・!やっぱりバイクってカッコいいなぁ!カワサキ以外のバイクもいっぱいあるよ〜!!」

 いろいろなバイクをうれしそうな顔で舐めるように見ながら由美は子供のようにはしゃぐ。

「やっぱり新しいバイクはピカピカしてるね、なんか僕と同じ400のはずなのに全然大きく見えるよ。」

 そういいながら圭太は97年式のスズキのインパルスを見ていた。今から見たら決して新しくは無いが、自分のFXと比べたら全然新しい型のバイクを眺める。

「圭太〜!こっちこっち〜!!」

 なにやら由美が叫んでいる。行かなきゃ面倒だし、行くか。



「ここ、新しいバイクしかないね〜」

 一時間近く見ていて、由美がつぶやく。

「カッコいいんだけど、無骨な感じが無いのよね〜。なんかおとなしいバイクばっかり。」

「そりゃ、僕のバイクみたいな古いのなんか置いてる店なんかないでしょ。」

 圭太が言うと「違うの」と由美が続けた。

「古く無くてもいいのよ。新しくてもあの雰囲気が出ていれば良いのよ・・・」

「そんなコトを言ってもなぁ・・・」

「とりあえず、今日は帰りましょう?せっかくの愛車をこんなに早く決めたらダメよね。もっと慎重にならなきゃ。」

「お、由美にしてはマトモなことを」

「・・・なんか言った?」「ごめんなさい、悪かったからニコニコしながらアームロックするのやめて・・・!!」

 その後、痛むこめかみを押さえながら自転車で帰り道を二人で進んだ。

「あれ?由美!こっち道違うんじゃない!?」

 突然、予定より早く曲がった由美に呼び掛けた。

「あ、間違えた・・・けど、この次右に行けば戻れるでしょ?」

 そういいながら、次を右に曲がる丁字路に差し掛かる。

 しかし由美の外側、つまり左にいた僕になぜか右に曲がるはずの由美が突っ込んできた。そして・・・

 がしゃん!!

 見事にぶつかった・・・

「痛たたた・・・っ、なにするんだよ!右だろ!?」ちょっと怒りながら圭太が起き上がる。ケガは無いみたいだ。

「圭太!あれ!!」

 一方、由美もケガは無く、ひとしきり左方向を指差し叫んでいる。

「バイク屋さんがある!!圭太!行くよ!!」

 すぐさま自転車を起こしてミサイルみたいに加速する由美を見て、いろいろな意味で泣きそうになりながら圭太は後を追った。



『榊モータース』


 錆付いた看板に古くさい書体で書いてある。

 店の前に自転車を止めて入っていくと原付から大型車まで、さっきの大手中古車屋ほどの数は無いがバイクが並んでいる。

「ごめんくださーい!バイク探してて!見ていってもいいですかー!?」

 由美が店の奥の扉に叫ぶと、初老の男の人が出てきた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃんバイク探してるの?」

 すこししゃがれた声で男の人が聞いてきた。

「はい!カッコいいネイキッドのバイクを探してます!!」

 由美がいい返事を返してた。男は一度伸びをしてから

「そーかい、今どき女の子がビックスクーターじゃなく、ネイキッドとは珍しいねぇ。いいよ、好きなだけ見ておいで。」

 優しげな笑みを浮かべながら案内してくれた。

「こころ無しか、さっきの店と同じバイクもならんでいるのに古く見えるね」

 並んでいるバイクを見て圭太がつぶやいた。

 しばらく見ていると、由美がある一台のバイクの前で止まった。そして・・・



「け、け、圭太ぁ!!!」

 なにかあわてながら叫んだ。急いで振り返ると、由美が驚きとよろこびとをごちゃまぜにした感じの顔で固まっていた。

 そして由美の前にあるバイクを見て自分も驚いてしまった。

「な!?これ・・・僕のと同じ・・・FX!?」


 真っ赤なFXが、そこにあった。


 由美が笑顔爆発寸前の、嬉しすぎて逆に笑うのにタイムロスした顔をしている。しかしそれも当然の反応だ。なにせ探し求めていた理想のバイクの中でも一番求めていたバイクが目の前にあるのだ。


 カワサキの名車『Z400FX』

『硬派カワサキ』を決定付けた70年代最後にして最高傑作と名高い4ストマルチ。ホンダのCB400F以来、2気筒が400のスタンダードだった時代に登場し、以降他メーカーも4気筒を作るコトになったほどの衝撃を当時与えた。

 そして、圭太が親父がら譲り受けたバイクでもある。

「やったぁ!!すごい!見てよ圭太!!あんたのと同じバイクよ!?すごい!!」

 しかし、もはやテンションが最高潮に達している由美とFXを見て、圭太は違和感を覚えた。型は間違いなく同じだ。タンクもサイドカバーも、テールカウルも、ウィンカーも同じだ。

 が、少し大きく見えるのだ。なにか違うと思って見ているとバイク屋のおじさんが出てきた。

「お嬢ちゃん目の付けどころがいいのぅ。じゃが、コイツはFXじゃないんだ」

「え!?」

「・・・!」

 驚きの声をあげる由美と、やはり違うと思っていた圭太の二者の反応をみて老人は笑った。

「コイツはゼファーじゃよ」

「ぜ、ゼファー!?え、だってゼファーって全然違うじゃない!ゼファーはもっと丸いじゃない!さっき見てきたばかりなんだから!!」

 イマイチ信じていない由美と、どういうことなのかがなんとなくだがわかってきた圭太のそれぞれの反応を見て老人は笑った。

「はっはっは!お嬢ちゃん?そもそもゼファーの先祖がFXと言うのは知っとるかね?」

 由美は「へっ?」とアホみたいな顔をしていた。

「ゼファーはFXをモデルに作られた奴でな、初期型はエンジンもFXの後継機種のGPz400Fとそう変わらないエンジンを載せていての、音はFXに近いんじゃ。」

 ニコニコしながら話を続けるおじさんの話を聞きながら、由美は「はえ〜」とか言ってる。

「エンジンはわかったけど、いや、よくわかんないけど・・・じゃあ何故このゼファーはFXと同じタンクとか付いてるの?」

 由美が心底わからないと言う風に聞いた。

「ドレミ工房と言うショップがあってな、そこにゼファーをFX仕様にする外装キットが出ていてな。もう作ってないのじゃが運良く前のオーナーがその仕様にしていたんじゃ」

 自分の考えがだいたい当たっていた圭太は「ふーん」と見ていたが、由美は相変わらず考えている。が、それも一瞬だった。

「・・・よし!決めた!!」

 またさっき満面の笑顔を取り戻した由美が叫んだ。

「おじいちゃん!このゼファー、私に売って!!」

「お、おい由美!」

 圭太が由美に確認する。

「いいのか?こんなに早く決めちゃって!?」

「いいのよ、別に!」

「で、でも本物FXじゃないんだし・・・」

 衝動買いが多く、そのたびに凹む由美を見てきた圭太が説得する。が、

「本物かどうかなんてどうでもいいのよ。ただ、一目みて思ったの。」

 由美が圭太の顔を見ながら真剣に言った。

「初めて見た時に、もうこれしか無いって思った。この子が『乗ってくれ』って言ってる気がするの・・・」

 由美の真面目な顔を見て、圭太は考えた。そして・・・

「はぁ、相変わらずだな、由美は。人の言うことなんか聞かないんだから」

「な、なによ?」

 はーっ、とまたため息をついて圭太は言った

「由美がこれが良いって決めたんだ。僕はもう何も言わないよ。」

 そう言って、圭太はもう一度ゼファー改FXを見た。自分の持っているFXよりも大きくて綺麗なこのバイクは確かにカッコいいし、なにより由美がそれがいいと決めたら絶対に曲げないから、もう圭太に言うことは無かった。しかし・・・。

「でもちょっと高いわよね・・・」

 由美がヘッドライトに貼られた値札を見て唸る。6桁の数字が並べられているが、今まで見てたゼファーの相場より少し飛び抜けている。

「もうちょっと安くならない?」

 おじさんに向かって堂々と値切り交渉をする由美。相変わらず図々しいな、こいつは。

「んー・・・コイツは悩むなぁ・・・」

 かなり真剣に悩んでいる。まぁ、お世辞にもあまり商売繁盛しているようには見えないし、仕方はないが・・・

「よし!ワシも男じゃ!お嬢ちゃんみたいなかわいい子に乗られるならコイツも本望だろう!」

 そう言いながら、値札に赤いマッキーで最初の値段にХマークを書き、その下に新たな値段を殴り書きする。

「これで限界じゃ!どうする?」

 なるほど、確かに結構下がった。大丈夫なのかこの店・・・

「ありがとう!!これなら全然OKよ!!」

 嬉しそうに答えた由美を見た。

「しかし、お金は分割払いじゃろう?」

 おじさんの質問に、由美は「ナニをバカなコトを」と言いたげな目で見た。

「去年夏から働いて貯めたお金と、昔からあった貯金を足せば楽勝よ!!」

 あぁ、確かコイツ去年まで働いてたな、確か喫茶店と朝の新聞配達。そんなに貯めてたのか。

 かくして、このゼファー改FXが数日後に由美のモノになる。


人物紹介


中山圭太

職業 高校3年生

誕生日 6月29日(現在17歳)

身長 169㎝

愛車 Z400FX

家族構成 父・母・姉

好きなもの 小説・掃除・甘すぎるコーヒー・心から頼れる友達・平和

嫌いなもの 汚い部屋・ゴーヤー・苦いコーヒー

本作の主人公、目立たないけど主人公。普段は小説(主に推理物)を読むことが多い普通すぎる高校生。しかし、免許を取ったのを機に、さまざまな出会いや経験をしていく。一人称は「僕」


三笠由美

職業 高校3年生

誕生日 11月8日(現在17歳)

髪型 セミロング

身長 162センチ

愛車 ゼファー400改FX仕様

家族構成 父(出張)・母・弟

好きなもの 圭太・友達・仲間・ゼファー改FX・長距離ツーリング・衝動買い・すっぱい梅干し

嫌いなもの 意地汚い奴・暴走族・筋の通らないこと・すっぱくない梅干し

圭太の幼なじみにして、ヒロイン。目立たないけどヒロイン。いつも笑顔で、圭太とは幼稚園の時からの付き合い。圭太が好きのだが自分に素直になれないでいる。一人称「私」

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