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勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第4章 輝きと信仰の街 エルミナ

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第30話 英雄の背中と見えない敵

 魔物の討伐報告に行く道すがら、エリスが人々の歓声を思い出しながら、呆れたように呟いた。

「それにしても随分と勇者が好きね、この街の人たち。ラグスノールじゃこんなに注目されなかったでしょ」


「それもそのはずです。このエルミナは、先代勇者リュート様の生まれ故郷なんです」

 ミーアが指差した先には、広場の中央にそびえ立つ巨大な像があった。


 剣を高々と掲げ、大盾を構えた男性の像。その表情は、どこか慈悲深さと威厳を兼ね備え、足元の魔物は完全に踏み伏せられている。像全体には、長きにわたり語り継がれてきた伝説の重みが刻まれていた。


「リュート様は200年前に、当時君臨していた魔王を討伐したとされる勇者です。この街では『光の守護者』として語り継がれていて、勇者信仰がとても強いんですよ」


「なるほどな。それでやたら『勇者』が歓迎されてるわけだ」

 グレオが頷きながら像を見上げる。


「それに、現在教会で使われている暦――『輝暦』は、リュート様の誕生年を基準にしているんです」

 ミーアが付け加えると、エリスが即座に反応した。


「私、あの暦嫌いなのよね。いつもギルドの報告書は大陸暦に修正してるし」


「そういや、いつもわざわざ変えてたな。なんで嫌いなんだ?」

 グレオが首を傾げる。


「なんか嫌!」


「ええ……?」

 エリスの雑な返答に、グレオは困惑した表情を浮かべたが、彼女はさらに続けた。


「宗教色強すぎるのよ!月の名前が十二聖人由来とか、信仰押し付けすぎでしょ。1月2月でいいじゃない!?ほんと、実務妨害よ!」


「確かに、大陸暦の方が実務には便利かもしれませんね……でもルクシス教の影響力は大きいですから……」

 ミーアは控えめに同意しつつ、どこか居心地の悪そうな顔をしていた。


「しかも、アルガスのせいでまた暦変わるんじゃないの?やっぱり面倒ね」


「誰も変えるなんて言ってないぞ」

 エリスの愚痴に、アルガスは心底うんざりしたように返した。


「おっ、アルガスが魔王を倒したら、『論暦』とかになるかもな?」

 グレオが冗談めかして茶々を入れると、エリスも面白がって言葉を乗せる。


「今、論暦22年ってこと?それなら使ってあげてもいいわよ」


「ふざけるな」

 アルガスが鋭く言い返すが、皆肩を震わせて笑いをこらえていた。


「ま、そんないかにも『勇者』な英雄の像があると、現代の勇者様は肩身が狭いわね?」

 エリスがアルガスを見やりニヤリと笑うが、アルガスは無表情で言い返した。


「悪かったな、勇者らしくなくて」


「暦は置いといて、お前の故郷にもこういう像を立てたらいいんじゃないか?」

 グレオが像を指差しながら尋ねる。


「……勘弁してくれ。さあ、冒険者ギルドへ急ぐぞ」


 一行の足音が広場を離れる中、アルガスだけが一瞬足を止めて像を振り返った。その視線は冷静さを装いながらも、どこか曖昧な色を宿している。


「勇者らしさ、ね……」


 剣と盾を掲げ、圧倒的な正義の象徴として語り継がれるその姿――自分には遠すぎる理想のように思えた。だが、そう感じた瞬間、心のどこかで小さな苛立ちが芽生える。逃げるように視線をそらし、フードを深く被り直す。


 彼は小さく息を吐くと、踵を返して仲間を追った。


 広場の勇者の像はただそこに立ち、変わらぬ威容を誇っていた。


***


 エルミナの冒険者ギルドで、水路の魔物討伐を報告したアルガスたち。


「この巨大な魔物――アクアバイターは、人を襲う凶暴な生態で知られています。これまで何匹も確認されていましたが、今回はなかなか人を回せず……本当に助かりました!」


「アクアバイター……そんな名前だったのか」

 グレオがつぶやきながら腕を組む。


「エリスさんが即黒焦げにしちゃいましたから、良く分からなかったですね」

 ミーアが控えめに微笑むと、エリスは肩をすくめた。


「いいでしょ、倒せたんだから。それに、焦げてた方が迫力出るでしょ?」


「そんな問題じゃないけどな」

 アルガスが小さくため息をついた。


「これでやっと水路を安心して使えるようになります。街の皆さんもきっと喜ぶはずです。本当にありがとうございます!」


 受付嬢は感謝の言葉とともに深々と頭を下げる。その笑顔に、グレオは自信たっぷりに腕を組みながら胸を張った。


「だろ?こういう時は俺たちに任せておけばいいんだよ!」


 しかし、アルガスは報酬袋を受け取っても表情を緩めず、険しい顔のままだった。


 ギルドを出た後、アルガスは通りを歩きながら低く呟いた。

「……やはり、妙だな。あの魔物の発生が偶然とは思えない」


「何でだ?」

 グレオが肩越しに問いかけると、アルガスは視線を前に向けたまま答えた。


「水路の幅や深さを考えれば、あの魔物の大きさは明らかに不自然だ。あれほどの体格を維持するには、大量の食糧が必要だが、周囲の生態系を見る限り、それを補う環境はない」


「……よく見てんなあ」

 グレオが感心したように呟く。


「それに、アクアバイターは希少種だ。それが複数匹いるなんて……自然発生では説明がつかない」


「つまり、どこからか持ち込まれたってこと?」

 エリスが腕を組みながら推測を述べると、アルガスは小さく頷いた。


「その可能性が高い」


「もしかしたら……ラグスノールのように、魔術でおびき寄せたのかもしれません」

 ミーアも難しい顔で言葉を継ぐ。


 アルガスは険しい表情を浮かべたままミーアを見やり、小さく頷く。

「あるいは、それ以上に悪質な手が加えられているかもしれないな……」


 その不穏な言葉に、エリスとグレオも表情を引き締めた。


「……まずは引き続き、魔物被害の情報を集めよう」

 アルガスの提案に、大きく頷くグレオ。


「了解!今度はもっと突っ込んだ情報を持ってきてやる!」


「あんた、また酒場行く気?飲みたいだけでしょ?」

 エリスが眉をひそめながら冷たく言うと、グレオは即座に否定するように手を振った。


「酒がないと話なんて盛り上がらねえだろ?昨日も隣の親父が飲みながら『水路で変な光を見た』とか言ってたんだよ!」


「変な光?」

 アルガスが眉を寄せる。


「そうそう。その親父、酔い潰れちまって続き聞けなかったんだよな。昼間だったから良く見えなかったってよ」


「……そういう情報は早く言え」

 アルガスは懐からメモ帳を取り出し、素早く内容を書き加えた。メモを閉じると、彼は軽くため息をついて呟く。


「まあ、酒場での情報収集も視野に入れるか……目立たなそうな店はあるか?」


「おおっ!やる気出てきたじゃねえか!」


「ははーん。アルガス、さては……割とイケるクチね?」

 エリスがニヤリと笑うと、アルガスは少し呆れたように答えた。


「冒険者やってれば、酒付き合いの大切さは嫌でも身に染みてるよ」


「よーし!昨日飲み歩いた筋の、一本裏手がいい感じだったんだ!早速行ってみようぜ!」

 グレオが勢いよく先導しようとする。


「ちょっと待ってください!」

 ミーアが慌てて手を挙げた。


「あの、普通に街の人にも聞き取りをした方がいいですよね?それにまだ昼間ですし……!」


「酒場も街の情報が集まりやすい場所だ。行く価値はあるだろう」

 アルガスは冷静に答えると、少し気遣うような声で続けた。

「ああ、無理はするな。別に飲みたくないなら、飲まなくていいんだぞ」


「大丈夫です、飲めます!」


「……え?」

 アルガスは怪訝な顔をする。


「ミーア、そういえばこの前も普通にワイン飲んでたわね。もしかして……」

 エリスが意地悪そうに続けると、ミーアは少し恥ずかしそうに笑った。


「……イケるクチです」


「何このパーティ、酒飲みばっかりなの?」

 エリスは呆れたように呟いた。


「いいだろ!酔っ払いほど面白い情報引っ張れるんだぜ!」

 グレオが楽しげに答える中、一行は街の賑わいの裏に潜む真実を探るため、再び足を踏み出した。


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― 新着の感想 ―
タイトルから気になり度MAX! "英雄の背中"…英雄とは?アルガス?"見えない敵"って、そういう能力のある強敵なのか、見えない(形がない=敵は自分自身の心)みたいな感じなのか…!? さてさて、読んでい…
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