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勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第4章 輝きと信仰の街 エルミナ

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第28話 宿屋の夜

 夕暮れ時、エルミナの街は観光客と地元民の活気に包まれていた。アルガスたちはようやく宿を見つけ、大部屋に落ち着いていた。


 大部屋とはいえ、清潔で広々としており、四人が快適に過ごせる十分なスペースがあった。アルガスは荷物を置き、被っていたフードを脱ぎながら、少し申し訳なさそうに口を開いた。


「すまないな。空いている部屋が少なくて」


「別に?何度も野宿で雑魚寝してきたんだし、これなら全然マシよ」

 エリスが気にも留めない様子で肩をすくめる。


「それに観光地ですし、こういうこともありますよ」

 ミーアはベッドの端に腰を下ろし、微笑みながら答えた。


 一方、グレオはベッドにごろりと転がり、腕を組んでぼやく。

「でもよ、アルガスの顔使えば、もっと豪華な宿とか取れたんじゃねえの?『勇者様ご一行!』とか言われてさ」


「僕の顔を優待券扱いするな」


 アルガスは渋い顔をしながら応じる。道中、街の人々の注目を浴びたことが思い出され、彼の肩が小さく上下した。


「教会に頼めば、客室を貸してくれたでしょうけど……それは、だめですよね」

 ミーアが控えめに言うが、アルガスは軽く首を振るだけだった。


「まあいいさ。ここはここで居心地が良さそうだしな!」

 グレオが笑って言い、空気が少し和らいだ。


***


 ひとしきり落ち着いた後、エリスが不意に真顔になって口を開いた。


「ねえ。そういえばあいつ、なんか胡散臭くなかった?」


 突然の発言に、アルガスは脱いだ外套を畳む手を止めて眉をひそめた。


「誰のことだ?」


「決まってるでしょ。あのメガネよ!」


「セドリック司祭……だっけ?」

 グレオが思い出すように呟く。


「そうそう!腹に何か抱えてそうじゃなかった?あと……なんか妙にミーアに馴れ馴れしかった!」


 その言葉に、ミーアは驚いたようにエリスを見た後、困ったように口を開いた。

「セドリック司祭は、私が中央教会にいた時の上司でしたから……」


「上司?」

 グレオが興味深げに顔を向ける。


「はい。私が教会を出る直前に異動になられて。たぶん、教会内の騒動に巻き込まれたんだと思うんですけど……」


「上司というには、なんというか、その……距離感が……」

 エリスか眉を寄せて言葉を選びながら呟く。


「修道院にいた頃から、よく気にかけてくださっていたんです。私が神官見習いになれたのも、あの方の推薦があったからです。ただ……」


「ただ?」

 エリスが促すように聞き返す。


「とても優秀で頼れる方なんですが……昔から、何を考えているのか分かりにくい方で。時折、誰にも言えない何かを抱えているような、そんな雰囲気があったんです」


 少し顔を伏せがちに話すミーアに、エリスは意外そうな顔をした。


「なんだ。てっきり、『セドリック様は胡散臭くないですよお!』とか言うかと思ってたわ」


「……私って、そんな風に見えてるんですか?」

 ミーアは呆れたように呟く。


「いやいや、エリスの冗談だ。おいエリス、ミーアにその手のは早いだろう」


 グレオがすかさずフォローを入れたが、ミーアは笑う。


「大丈夫ですよ。分かってますから」


「本当に強くなって……」

 エリスが感心したように頷く。


「エリスさんが精神的に未熟で、こういったコミュニケーションしか取れないのは分かってます」


「急に辛辣ね」


 ミーアが微笑みながら発した言葉に、一瞬で真顔になるエリスだった。


***


 グレオが腕を組み、天井を見上げながら呟く。


「あの司祭さん、普通にいい人そうに見えたけどなあ」


「教会の上層部なんて、腹の探り合いの応酬だろう。本性を出しているとは思えない。それに――」

 アルガスは荷物を整頓しながら返す。

「彼は、ミーアが『託宣たくせん神子みこ』だと知っているのだろう?」


 ミーアは、少し考え込むようにしながら答える。

「そうですね。私が神託を受けたのは、セドリック司祭が導師を務めた礼拝中で……大司教様への取次など、色々動いて下さいました」


「ならば、注意するに越したことはないな。彼がどういう立場で僕たちを見ているか、慎重に見極めるべきだろう」


 アルガスの言葉に、一同は黙り込む。


「まあとにかく、明日は聞き込みだ。それに備えて、あとは自由にしてくれ」


 彼は話題を切り上げるようにそう告げる。


 しかし、その直後――


「よーし!じゃあ、飯だ!肉出してくれるって言ってた酒場行こうぜ!」


 グレオが突然ベッドから飛び起き、拳を突き上げた。


「外に出るのは御免だ」

 アルガスが即答し、エリスも頷く。


「疲れてるし、ここの食堂でいいわ」


「私も、もう動きたくないです……」

 ミーアも控えめに続ける。


「なんだよ、みんなノリ悪いな……俺一人で行ってくる!」


 勢いよく立ち上がったグレオは荷物を肩に掛けると、早くも部屋を出て行こうとする。


「えっ、本当に行くんですか?」

 ミーアが心配そうに尋ねるが、グレオはもう部屋の外だった。アルガスは苦笑しながら答える。


「大丈夫、あいつもちゃんと考えてるから」


「ちゃんと……ですか?」

 ミーアは少し疑わしそうにアルガスを見つめるが、彼は淡々と続けた。


「ああ。ああいう時のグレオは、食欲を満たすついでに情報も仕入れてくるんだよ」


「そうそう。意外とちゃっかりしてんのよ……ついで、だけどね」


 エリスが半笑いで同意すると、遠ざかるグレオの声が廊下に響いた。


「待ってろ、肉と酒ーっ!!」


「……本当に大丈夫なんですか?」


 ミーアの小さな声に、アルガスは肩をすくめて答えた。


「ちゃんと手土産を持ってくるさ。……たぶん」


 エリスが立ち上がり、伸びをしながら言った。

「手土産が肉じゃなきゃいいけどね。さて、食堂が空いてるうちに行こうかしら」


「アルガス様も行きましょう?」


「……残っている保存食で済ませるつもりだったんだが」


「だめですよ。ちゃんと温かいものを食べないと」

 ミーアが微笑みながら説得すると、アルガスは小さくため息をついて立ち上がった。


「分かったよ。……じゃあ、行こうか」


 そんな中、グレオは鼻歌混じりで夜の街へ消えていった――きっと肉と情報を求めて。

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― 新着の感想 ―
パーティーのみんなで雑魚寝、なんだか仲間たちとの会話シーンがどんどん増えて、嬉しい〜〜〜 番外編とかで、彼らの日常会話集いくらでも出して欲しい!!箱推しなんで!!読みたい!!! グレオってホントに良い…
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