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勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第3章 山越え道中

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第23話 冒険者の語らい

 二組のパーティが出会った夜。男4人が焚き火を囲んでいた。


「くー!このワイン美味えな!」


「本当に美味いなこれ。開けて良かったのか?」


 グレオの持つカップにワインを注ぎながら、カインが言う。

「ええ、もちろんです!命の恩人なんですから、これくらいはお礼をさせてください!エルミナまでの護衛依頼報酬のついでに貰ったものですし」


「でも、本当に女性陣呼ばなくていいんすか?」

 ライナーが疑問を口にすると、グレオは少し肩をすくめて答えた。


「エリスはワインにうるさくてな……ヴァンディール産のじゃないと飲まないんだよ」


「ええ……?めちゃくちゃ高級品じゃないすか……」


「どこまで捻くれてるんだよ、あいつ……」

 アルガスが呆れたように呟く。


「ミーアは……神官だったからか、酒を口にするところを見たことがないしな……」


「そもそも成人してるのか?」

 グレオが軽く首を傾げた。


「……神官の叙任は18歳からだから、してるだろ?あ、いや見習いだったか……実際のところは分からないな」


「おいおい、頼むぜリーダー」


「……今度聞いておくよ」


 そんな他愛もない会話を続けながら、男たちは酒を酌み交わしていた。


「それにしても、Sランク冒険者のグレオさんと当代勇者のアルガスさんが昔パーティ組んでたなんて、驚きっすよ!」

 ライナーが目を輝かせる。


「昔の話とか、聞かせてくださいよ!」


 その言葉に、グレオは少し目を泳がせた。


「……おい、アルガス。どうする?」

「……別に隠すことでもないさ」


 アルガスは一口ワインを飲み、静かに語り始めた。


「……6年前だ。当時僕はまだ16で、冒険者として活動し始めた頃だった。駆け出しだったけど、何となく目に留まった相手に声をかけてたんだ。『強そうだな。組まないか?』ってな」


「おおっ!声をかけられたのがグレオさんなんですね?」

 カインが興奮気味に尋ねると、グレオが苦笑いで続ける。


「そういうことだ。俺は当時19歳で……がむしゃらにやってたけど、なかなか伸び悩んでたところだった。そんな時にこいつに誘われてな」


「その後、斧戦士と格闘家を加えて、4人パーティになったんだ。男所帯で、まあ、にぎやかだったよ」


「うわあ、脳筋パーティっすね」

「そして華がない……」


 二人の冷静な感想に、グレオとアルガスは苦笑する。


「でも、順調だったよな。みんなそれぞれ実力を伸ばして、何度も厳しいクエストを乗り越えていってた」


「今更ながら、よくあんなクソ生意気なガキにみんな着いてきてたな。アホなのか?」

 アルガスが自嘲ぎみに呟くと、グレオは笑う。


「おう、アルガス以外みんなアホだったからな!ただ、お前もちゃんとカリスマ発揮してたと思うぜ?」


「どうだか。カリスマあったらパーティ崩壊してねえんだよ」

 アルガスはワインを煽りながら、遠い目で言った。


「あ、そうか。解散しちゃったってことですよね?何かあったんですか?」

 カインの問いに、アルガスの表情が少し曇る。


「単純に、()の実力が伸び悩んでギクシャクしだしたのと……一年くらい経った頃、パーティ丸ごと魔物の巣に落ちたことがあってな」


 アルガスは依然として淡々と語っていたが、グレオは複雑な表情で目線を落とした。


「命からがら逃げ出したけど、極限状態でパーティは内部から崩壊した。グレオは大怪我、二人はキレて脱退。俺は自信を失い……解散になった」


「それは……壮絶っすね」


「で、またグレオさんと組んだのは……?」


「つい最近だよ。俺が勇者に選ばれて……旅を始めるにあたって、頼りになる仲間が必要だった」

 アルガスはグレオを見やる。


「……ん?あの時は俺から声かけたよな?」

 グレオは怪訝な顔で口を開いた。


「お前を探してたに決まってるだろ。『何かあったら頼れ』って言ってたのはお前だろうが」


「そうだっけ?よく覚えてるな」

 あっけらかんと言うグレオに、アルガスはため息をつく。


「……やっぱり変わんねえな」

 二人の呟きが重なり、笑いが漏れる。


「へえ、お互い信頼されてるんっすねえ」

 ライナーが感心したように呟く。


 アルガスはライナーとカインに視線を向ける。


「君たちは、どういう理由で組んでるんだ?」


 突然の質問に、ライナーとカインは顔を見合わせた後、笑いながら答える。


「まあ……報酬のためっすね!」


「うちは利益最優先って感じで!あと、単純に気が合うからですかね」


 適当に答える彼らを見て、アルガスは少し呆れながらも微笑む。


「気が合うだけで続くのも珍しいな」


「まあ、俺たちみたいにゴチャゴチャしてるより単純でいいだろ」


 グレオが肩をすくめる。


 しかしその瞬間――グレオの表情が変わり、目線を鋭く走らせた。


「……来るぞ」


 鋭い声に、全員の空気が一瞬で張り詰める。


「数は?」


「5」


 アルガスとグレオは短いやり取りを終えると立ち上がり、剣の柄に手をかけた。


「……前線いけるか?酔ってるなら作戦変えるが」


「余裕」


 ライナーとカインも、慌てて武器を取り立ち上がる。


「グレオ、壁役を頼む。ライナーは前に出ずカインを守れ。カイン、詠唱準備だ。僕が誘き寄せた魔物を一体ずつ……」


 剣を抜くアルガスの瞳に、一瞬焚き火が映り込み煌めいた。


「確実に仕留めろ」


***


 一方、テントの中では女3人が密談していた。


「ねえ、2人ってさ……どっちか狙ってたりするの?」


「え……?」


「狙う……?」


 エイミーの唐突な質問に、ミーアはきょとんとし、エリスはあからさまに顔を顰める。


「だって、勇者様は陰のある美形で頭脳明晰!グレオさんは頼り甲斐のある精悍な漢前だし!有名人だから、まさに玉の輿じゃない?」


「あんた、頭おかしいんじゃないの?貧弱嫌味理論バカと能天気脳足りん筋肉バカよ?ないない」

 エリスは呆れ顔で言葉を吐く。

「足して2で割って、安定した職に就かせたらやっと最低ラインね」


「エリスさん、流石に全方位を敵に回しすぎでは……?」

 ミーアは眉を寄せて呟いた。


「そういうエイミーはどうなのよ。同じパーティの二人」


「ないない」

 エリスの質問返しに、即答するエイミー。


「ほら見ろ!」


「いや、そっちのパーティと前提条件が違うじゃないの……ミーアはどうなの?」


 話を振られたミーアは、首を傾げて答える。

「うーん……私はそういったものにご縁が無かったものですから、あまりピンとこなくて……」


「真面目な神官ちゃんだなあ……」

 エイミーが関心したように呟いた瞬間、すぐ近くで魔物の断末魔が響いた。


「あっ……敵襲!」

 三人は武器を手に、テントを飛び出した。


***


「なんだ、もう終わってるじゃないの。つまんないわね」


 焚き火の周囲に転がる魔物の死骸を見て、エリスが肩をすくめて呟いた。


「女子組、遅かったな!ライナーとカイン、お疲れ!いい連携だったぞ!」

 剣を背負い直しながら、グレオが大股で歩いてくる。


「いえいえ、アルガスさんの的確な指示のおかげですよ!」


「へえ、すっごーい。こんなに見通し悪いのに、5体も仕留めたんだ」

 エイミーが感心したような、少し茶化すような声で言う。


 その間に、地面に座り込んでいたアルガスの元へ、ミーアが近づいた。


「もう、アルガス様。私の強化魔法が無い時に無茶して……お怪我無いですか?」


「はは、手厳しいな……」


 アルガスは額の汗を拭いながら呟いた。


「酒のせいもあるかな……」


「お酒ですか?」


 少し驚いた様子のミーアに、アルガスは苦笑を浮かべながら立ち上がる。その間に場が落ち着き、再び焚き火を囲む形で全員が集まった。


「ちょっと待ちなさいよ!?なんで勝手にワインもらって飲んでんのよ!」


「いや、君は産地に拘りがあるとグレオが……」


「赤だけね!白は美味しけりゃどこのでも飲むわよ」


「なんだよそれ、面倒臭いな……」

 アルガスは眉をひそめて呟くが、エリスの迫力に気圧されている。


「ほらあ、これエルミナのルトゥール・ロゼじゃないの!良いやつじゃん!飲ませなさい!」


「私も、飲んでみたいです」

 ミーアが控えめに声をかけると、グレオが心配そうに聞く。


「大丈夫なのか?戒律とか」


「夜ならルクシス様見てないから平気って、みんな飲んでましたよ」


「教会、適当すぎねえか?」

 微笑むミーアに、グレオは呆れたような苦笑を返した。


「分かった分かった、みんなで飲もう。君たちも一緒に」

 アルガスが場をまとめ、落ち着かせるように声をかける。


「なんか、いいパーティね。羨ましい」

 エイミーが焚き火の温かさを感じながら、穏やかに呟いた。


「ほんとにな」

 ライナーも同意し、杯を傾ける。


 火の粉がぱちぱちと弾け、暗闇の中へ舞い上がる。星々が煌めく夜空の下、焚き火はまるで一行を包み込むかのように暖かい光を投げかけていた。


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