表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第2章 農業都市 ラグスノール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/50

第18話 ミーアの強さ

 商業連合議会は終わり、アルガスたちは静かに街を歩いていた。夕焼けに染まる街並みの中、商業連合の建物を後にして向かう先は、いつもの宿。けれど、その道中で、誰もが少しだけ肩の力を抜いているのが分かった。


「いやー、ネイヴァスのあの顔!スカッとしたわね」


 エリスが軽く伸びをしながら、嬉しそうに言う。


「本当だな。いや、全部ミーアのおかげだ」


 グレオが感心したように笑い、隣を歩くミーアの肩を軽く叩いた。その一言に、ミーアは少し恥ずかしそうに首を振る。


「いえ、そんな。皆さんが頑張ってくださったおかげです。私は、魔力の解析をしただけです」


 控えめにそう言うミーアだったが、その顔にはどこか安堵の表情が浮かんでいた。


 そんなミーアの様子を見て、アルガスは足を止めた。真剣な表情で彼女に向き直り、その場に立ち尽くす。


「ミーア、本当に助かった。君がいなければ、僕たちはあの場を乗り切ることはできなかった。本当に……ありがとう」


 ミーアは驚いたようにアルガスを見上げた。けれど、その言葉にはさらに続きがあった。


「……だが」


 短い言葉が、冷えた空気のようにその場に漂う。ミーアの肩がわずかに強張ったのを、アルガスは見逃さなかった。


「1人で無茶な行動をするんじゃない」


 それは静かだったが、確かな重さを伴った声だった。ミーアの表情は一瞬、怯むように揺れる。けれど、すぐにうつむき、小さな声で応えた。


「……すみません」


 アルガスはその声に耳を傾け、さらに問いかける。


「なぜ相談しなかったんだ?」


 ミーアは俯いたまま、言葉を選ぶように口を開いた。


「役に立ちたくて……でも、自信がなくて相談する勇気がなかったんです」


 言葉が途切れ、少し間が空く。


「……解析に時間がかかってしまって、帳簿まで確認できたのは、会議の直前でした」


 その説明に、アルガスは少し表情を緩めたが、真剣な目はそのままだった。彼が再び口を開いた瞬間――


「アルガス、もういいだろ」


 グレオが大きな声で割って入り、空気を変えるように手を振った。


「そうよ。ミーアの解析技術には驚かされたし、あの場で堂々と発言する度胸もすごいじゃない。責めることないわよ」


 エリスも少し呆れたように加勢する。


「別に責めているわけじゃない。ただ、タイミングについて確認したかっただけだ」


 アルガスが少しむっとした声を上げると、エリスはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「もっと早く出して欲しかったって?アルガス、あの時震えてたもんねえ」


「震えてないが?」


 すかさず返されたアルガスの苛ついた声に、グレオが吹き出すように笑う。


「でも、あのタイミングで動いたのは何故だったの?」


 エリスが真剣な表情でミーアを見つめた。


 ミーアは少しだけ困ったような顔をしながら、ゆっくりと答えた。


「解析結果を提示しても、マクレンさんの独断だったと逃げられる可能性があったので……あの時、ネイヴァスさんが魔法と繋がりがあることを口走ったので、そこから崩そうと思ったんです。でも……」


 一呼吸置いてから、彼女は少し控えめに笑い、肩をすくめた。


「……ちょっと、難しかったですけど」


 その言葉に、アルガスは彼女をじっと見つめた後、口を開いた。


「そこまで考えて……」


「あちゃあ、アルガスに毒されてきてるわね、ミーア」


 エリスが肩をすくめ、にやりと笑う。


「さっきから失礼だぞ」


 アルガスは少し苛立った声を出し、それにグレオが乗っかる。


「いや、エリスが失礼なのはいつものことだろ?」


「黙んなさい、脳筋バカ」


 エリスが鋭い目で睨むが、グレオは全く気にする様子もない。


 ミーアはそんなやり取りを眺めながら、小さく息をついて口を開いた。


「でも……あれは一か八かでした。ネイヴァスさんの反論もいくつか予想していたんですが……」


 ミーアはアルガスを見つめ、少し微笑む。


「アルガス様なら、きっとさらに反論してくださると思って」


「あら、ずいぶん信頼されてるじゃないの」


 アルガスは茶化すエリスを睨んだが、それ以上は何も言わなかった。


***


 アルガスは腕を組み、ネイヴァスの余裕ある態度を思い返すように呟いた。


「……ネイヴァスのあの余裕。魔力を追えないと確信していたんだろう。そしてそれを崩され、反論する余裕がなくなった。最後は自分で術者に指示を出すとはな」


 アルガスは顎に手を当てながら遠い目をする。


「魔術が発動していたらどうなっていたことか……割と適当なことを並べ立てたんだが、効いたようで良かったよ。敵を説得するというのも、骨が折れるな」


「いや、適当だったのかよ」


 グレオがすかさず突っ込みを入れる。


「それにしても、ミーアが裏切ったんじゃなくて良かったわ。ねえ、アルガス?」


 エリスがからかうように言うと、アルガスは眼を泳がせながら答えた。


「ああ、うん……まあ、教会との繋がりはずっと気になっていたからな……」


「裏切り……?えっ、私、疑われてたんですか!?」


 ミーアが驚きの声を上げると、エリスはあっさりと言い切った。


「だって、1人で怪しいことするからよ?敵に情報を渡しに行ったのかと思ってたわ」


 その言葉に、グレオは突然黙り込み、ミーアの方を一瞥した。


「……皆さん、怪しすぎる倉庫に意気揚々と侵入するし……魔力を追うなんて言ったら、そのまま殴り込みに行きそうだったので……」


 アルガスはミーアの言葉を聞き、表情を和らげた。そして、うつむきながらぽつりと呟く。


「……一番冷静だったのは、ミーアだったわけだ」


 彼は改めてミーアを見つめ、深く息をついた。


「ミーア、君のことを誤解していた。君の慎重さは、弱さから来るものではなかったんだな」


 アルガスは口元に、自嘲を含めた笑いが浮かぶ。


「『守るから安心しろ』、なんて……的外れなことを言ったな、僕は……」


 アルガスは手を差し出す。


「すまなかった。これからも、仲間として手伝ってくれるか?」


「……はいっ」


 ミーアは控えめに微笑み、その手を取った。彼女の銀髪が、夕日に煌めいて揺れる。


「はー、もう今日は疲れたわ。早く宿に戻りましょ」


 エリスが声をかけると、一行は再び歩き出した。


「そうそう、ミーア。その『さん』付けで呼ぶのやめてくれない? あと敬語も。なんか距離感じるのよねえ」


「わ、わかりました……頑張ります!」


「ほら、それよ!」


「無茶振りをするな。口調なんてなかなか変えられないだろう。寧ろ、君の方がミーアを見習った方がいいんじゃないのか」


「それもそうね。じゃあ、私もあんたのこと『アルガス様!』って呼ぼうかしら」


「やめろ。敬意の欠片もないくせに」


 エリスとアルガスの軽口が飛ぶ中、ミーアの控えめな笑い声が響く。その後ろを歩くグレオも笑っていたが、その目はどこか遠くを見ているようだった。


 夕日に染まる街に、一行の影が長く伸びていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うわーいミーア活躍回!嬉しい! 図星を突かれ、みるみる墓穴を掘る悪役…そうそう、これこれ。ああ、気持ち良いですねェ。 そして大乱闘になるのかと思いましたが、ここも説得で乗り切るアルガス、さすが。とはい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ