表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第2章 農業都市 ラグスノール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/50

第17話 ネイヴァスの抵抗

「くそっ!!!」


 ネイヴァスは議場を飛び出した。


 混乱の中、アルガスたち4人も議場を出て彼を追いかける。


「待て、ネイヴァス!」


 アルガスの鋭い声が響くが、ネイヴァスは振り返らない。


「この期に及んで逃げる気かよ!」


 グレオが歯を食いしばりながら駆ける。


 その時――廊下の角から武装した数人の傭兵が現れた。盾と剣を構え、一行の行く手を塞ぐ。


「はっ、用意周到だな!俺がぶっとばして……あっ、あれ!?」


 グレオが背の大剣を抜こうとしたが、そこに剣はなかった。


「商業連合に入る時に、武器は預けましたからね……」


「逆に、なんであいつら持ってんのよ!」


 追いついてきたミーアとエリスが渋い顔をする。


「関係ねえな!ぶっ飛ばしてやるぜ!」


 グレオは拳を構えるが、その間にもネイヴァスは廊下の先に消えようとしていた。


「時間がない。エリス、何かーー」


「はいはい。やりますよっと」


 そう呟くと、エリスは両手を前に突き出した。


「<ダーク・ヴェイル>」


 エリスが小さく呟いた瞬間、黒い霧が傭兵たちの目を奪った。


「うわっ、何だこれは!?」

「何も見えない!」


 傭兵たちは視界を失い、武器を振り回しながら混乱している。


「あら、全員命中ね。今のうちに!」


 エリスがニヤリと笑いながら言うと、一行は隙を突いてその場を駆け抜けた。


***


 廊下を曲がった先で扉が開け放たれ、ネイヴァスが建物の裏手へと姿を消す。


「逃げ足だけは速いな……!」


 アルガスたちが外に出ると、ネイヴァスは慌てた様子で建物の裏手へ走っていく。その先には、険しい顔をした術者の男が待機していた。彼こそ、カロンド商会に雇われた術者、マクレンだった。


「マクレン!例の魔術を発動させろ!街を混乱させて逃げる隙を作る!」


 ネイヴァスの声は焦りと怒りに満ちていた。


 マクレンは渋々ながらも頷き、懐から出した羊皮紙を広げ、杖を地面に突き立てた。羊皮紙に描かれた魔法陣が徐々に赤く染まり、周囲に広がる魔力が空気を震わせる。その様子をみたエリスが叫ぶように言う。


「あの術、改良されてる!倉庫にあった奴より、効果範囲が桁違いに広いわ!発動したら、とんでもない数の魔物が……!」


「やらせるか!」


 グレオが拳を構え、突進しようとする。


「待てグレオ!危険だ!」


 アルガスは鋭い声でグレオを制止する。アルガスはゆっくりとネイヴァスとマクレンに近づいた。


「そんな大規模な魔術を発動すれば、確かに街は混乱に陥るだろう」


 アルガスはネイヴァスを鋭く見据える。


「だが、制御に失敗すればどうなるか、考えたことはあるか?」


「何?」


 ネイヴァスの眉が吊り上がる。


 マクレンも一瞬動きを止め、動揺を隠しきれない声で答えた。


「……制御に失敗?この魔法は完璧だ!そんなことはありえない!」


 その言葉にエリスが呆れたような表情を浮かべ、口を挟む。


「完璧な魔法なんてあるわけないでしょ!それにその魔法陣、無理な改造して……ちゃんと扱えてないでしょう」


「な、何を根拠にそんなことを言う!」


 マクレンが声を荒げるが、その声を遮るようにミーアが前に出る。


「魔法陣に残っていたあなたの魔力は、酷く歪でした。あの魔術ですら、発動が精一杯だったのではないですか?」


 マクレンの顔が青ざめた。


「つまり、あなたはその魔術を完全には制御できていない」


 アルガスが冷徹な声で言い放つ。


「もしその魔術が暴走すれば、街も、お前たち自身も、その魔力に飲み込まれる。それでもやるのか?」


 ネイヴァスは焦った様子でマクレンを見る。


 しかし、マクレンの手は震え、額には汗が浮かんでいた。


「くっ……!」


 ネイヴァスは唇を噛みしめると、ついに叫んだ。


「……やめろ、マクレン!」


 術者の手から力が抜け、浮かび上がっていた魔法陣が消えていった。


***


 アルガスたちはネイヴァスとマクレンを拘束し、議場に戻った。動揺する商会代表たちを前に、アルガスが静かに状況を説明する。


「カロンド商会が、魔物を誘導して商業を妨害し、利益を得ようとしていたのは明白です。この件に関しては、さらに調査を行うべきですが……」


 アルガスはネイヴァスを一瞥し、冷たく続けた。


「現時点でも十分に有罪と判断できるでしょう。」


 議長が重々しい声で宣言する。


「この場をもって、カロンド商会を商業連合から除名する。また、ネイヴァスとマクレンについては、改めて中央裁定院へ引き渡す」


 ネイヴァスは項垂れ、マクレンは視線をそらしたまま動けなかった。



***


 その後、バートラム会長が一行に深く頭を下げた。


「勇者アルガス殿、そして皆さん。この度はラグスノールの危機を救っていただき、本当にありがとうございました。」


 彼の声には安堵と感謝が込められていた。しかし、その顔にはまだどこか不安の影が残っていた。


「ただ……気がかりなのは、今回の件の背後に、さらに大きな黒幕がいるかもしれないということです。この事件を完全に解明するには、もう少し時間がかかるでしょう」


 バートラムの言葉に、アルガスは静かに頷いた。


「確かに、これで全てが終わったとは思えません。ネイヴァスたちが利用していた魔法陣や物資の流れ……それらを突き詰めれば、もっと大きな動きが見えてくるはずです」


「その調査は私たち商業連合でも引き継ぎます」


 バートラムは決意を込めた目で言った。


「ですが、アルガス殿には引き続きご協力をお願いできればと……」


 アルガスは微かに微笑み、静かに返す。


「僕たちも、手を緩めるつもりはありません。しかし、次の街にも向かわなければならない事情があります。この土地を去った後も、情報は共有させていただきます」


「分かりました。その言葉だけで十分です」


 バートラムは深く礼をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ