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勇者はすべてを論破する -Argus Argues Against All-  作者: 福本サーモン
【改稿中】第2章 農業都市 ラグスノール

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【以降改稿中】第8話 麦畑に潜む影

「ここが、ラグスノール……!」


 ウルフの襲撃から一夜明け、アルガスたちは暖かい陽光に包まれる穀倉地帯を進んでいた。馬車の窓から見える風景は、どこまでも続く麦畑と点在する風車。遠くには広大な水路が街を潤している。


「麦畑がこんなに広がってるなんて……!」


 ミーアが窓から顔を出し、感嘆の声を上げる。小柄な手でしっかりと杖を握りしめたまま、その瞳には純粋な驚きが浮かんでいた。


「見渡す限り畑だな!すげえな、こりゃ」


 グレオも目を輝かせ、窓の外を覗き込む。


「さすが、王国最大の農業都市ね」


 エリスは感心する様子を見せつつも、荷馬車の行列や通りを忙しなく行き交う人々に目を向けた。


「でも、なんだか様子が……ピリピリしているというか……」


「……警備が多いな」


 アルガスが窓越しに街の入り口を見つめながら呟く。道端には鎧を着込んだ警備兵が並び、行き交う荷馬車や商人たちを厳しい目で見送っていた。


 やがて馬車は街の中心にある石造りの建物の前で止まった。その堂々たる構えからは、この街の経済を支える商会の一つとしての威厳が漂っている。


「ここが、彼らが所属するソルバン商会の本部だな」


 アルガスが静かに言うと、馬車の扉を開けた商人が笑顔で出迎えた。


「皆さん、本当にありがとうございました!どうぞこちらへ」


 ソルバン商会の本部内は、豪華すぎることのない質実剛健な作りだった。広い廊下には無駄な装飾はなく、家具は重厚感がありながら機能的に配置されている。商会の確かな実力と経済的安定を象徴する空間だった。


 案内された商会長室で、アルガスたちはソルバン商会の会長バートラムと対面した。中年のバートラムは物腰柔らかでありながら、その目には鋭い光が宿り、長年の経験を物語っている。


「この度は、当商会の商人たちを助けていただきありがとうございます」


 バートラムは深々と頭を下げると、金貨の詰まった袋を差し出した。


「ご助力に対する感謝として、ぜひこちらをお受け取りください」


「いやいや、俺たちの旅のついでみたいなもんだし、お金なんて――」


 グレオが手を振り、受け取りを断ろうとする。しかし、アルガスはあっさりと袋を手に取った。


「ありがとうございます。これで旅の準備を整える助けになります」


「お、おい、アルガス!受け取るのかよ?」


 驚くグレオに、アルガスは平然と答える。


「僕たちは確かに彼らを助け、ここまで護衛してきた。これはその労力に見合う報酬だ」


 その冷静な対応に、バートラムは満足そうに笑みを浮かべる。


「貴方のような誠実さを持つ方が勇者様であること、私たちにとっても心強い限りです」


「私が勇者だと知っていたのですか?」


 アルガスが僅かに眉をひそめる。


「ええ、ルクシス教の信徒として、勇者様の噂は存じております。このような形でお会いできるとは光栄です」


 バートラムが笑顔でそう言うと、アルガスは眉間にしわを寄せ、微妙に顔をそむけた。


「どんだけ教会嫌いなのよ」


 横からエリスが呆れたように口を挟む。


「ずっと言ってるだろう。勇者扱い自体が苦手なんだよ」


 アルガスは小声でぼやきつつ、バートラムに話を戻す。


「……ところでバートラム会長、最近この街で頻発している魔物の襲撃について詳しく伺いたいのですが」


 バートラムの表情が一変し、真剣なものになる。


「数年前から、ラグスノール周辺では魔物襲撃が増え続けています。それによって農作物の輸送が滞り、我々も大きな損失を……」


「ですが、街に入る途中、荷馬車の列を見ました。物流が滞っているというお話の割には、かなり活発に見えましたが?」


 アルガスの指摘に、バートラムの表情が暗くなる。


「ええ……実は、魔物の襲撃をほとんど受けていない商会がいくつかあります。その中でも、カロンド商会は特に……利益を伸ばしているようです」


 その言葉に、バートラムの声には悔しさと警戒心が滲んでいた。


「襲撃を避けつつ、利益を伸ばしている商会がある……」


 アルガスは低い声で呟き、仲間たちに視線を送る。


「これは調べる価値がありそうね」


 エリスが腕を組んで応じると、アルガスも頷いた。


「バートラム会長。魔物襲撃の場所や、カロンド商会の取引内容について、何か情報をいただけますか?」


***


 翌日、バートラムからの情報をもとに、アルガスたちは二手に分かれ、カロンド商会の真相を探るため動き出した。


「俺たちは襲撃現場に行ってみるぜ。そっちが何か掴めたら教えてくれ」


 グレオは拳を握りしめ、ソルバン商会の商人たちと馬車に乗り込んだ。


 馬車に乗り込むミーアの肩を軽く叩き、話かけるエリス。


「気を付けて。まあ、あいつはバカだけど頼りになるから。何かあれば緊急信号で知らせてね」


「はい、分かりました!」


 ミーアは控えめに微笑み、頷いた。


 一方、アルガスとエリスは、ラグスノールの中心部に位置する商業連合本部へ向かった。商業活動の中枢を担うその建物は、石造りで堂々とした威容を誇り、通りを行き交う商人たちの表情には緊張が滲んでいる。


「3日後、この商業連合で緊急対策議会が開かれるって言ってたわね」


 エリスが建物を見上げながら呟いた。


「そこで、魔物の襲撃に関する議論が行われる。もしカロンド商会が関与しているなら……それを追及できるチャンスだ」


 アルガスが冷静に応じる。


「じゃあ、それまでに証拠を見つけなきゃ」


 エリスの言葉に、アルガスは無言で頷き、冷静な足取りで中へと入っていった。


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