◆勇者の手記#001
王命を受け、王都ルヴァリアを出立してから早3日が経った。以下に、現時点の行程と、個人的備忘を兼ねた記録を残す。
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【現在までの行程】
・慈泉月下旬、中央教会にて神託を告げられる。
・誓環月初旬、教会より正式な認定。
・同月12日、国王に謁見し「魔王の動向の調査と交渉方法の模索」の命を賜る。その後、酒場にてグレオ、エリス、ミーアの3名を同行者として勧誘。
・同月13日、王都ルヴァリアを出立。第一目的地は西方の都市ティルヴァラン。ラグスノール、エルミナを経由し、情報収集に努める方針。
・同日、第二区間にてウルフ型魔物による商隊襲撃に遭遇。
→戦闘・救助・修理支援。商人側の申し出により護衛継続。
・14日、コルニス村へ立ち寄り。畑荒らしと負傷事件に対処。
→当初、リーフボアによる被害と推定。実際はサラマンダーの縄張り・餌場に干渉したことによる連鎖的襲撃と判明。村との関係調整を含め、複数の判断課題を経験。
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【所感】
戦闘時のパーティの連携については、報告書にも記載した通り概ね良好である。
グレオの突破力は相変わらず頼れる。指示には忠実で、直感の鋭さも優秀。たまに勢いが先行するが、その都度軌道修正すれば十分に戦力として安定している。
エリスの魔法技術は高水準。多属性に対応できる点はやはり貴重だ。短絡的な行動が多いのは相変わらずだが……それを見て苛立つのは、きっと自分が彼女に似た部分を抱えていたからだろう。反省と成長の気配もある。見守るべきだ。
ミーアは緊張には弱いが、治癒魔法の精度は確か。「神子」であることを名乗る気配はないが……それは自分も同じか。肩書きと中身の乖離は、いつまでも胸に引っかかっている。
ともあれ、それぞれがそれぞれの形で力になっている。今は、それで十分だ。
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【メモ】
☑︎コルニス村復興計画立案
☑︎物資の補充
◻︎商隊護衛任務の完遂
◻︎ラグスノールにて、魔物被害の調査を実施
◻︎エリスの魔法適正範囲の詳細確認(炎:上級?、氷土風:中級以上、水雷聖闇:未確認)
◻︎教会とミーアの繋がりの把握(神子としての扱い、⬛︎⬛︎の可能性、特殊能力等)
◻︎グレオと飲みに行く
◻︎魔物生態学の文献確認
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【結びに】
旅を始めてから数日が経ったが、未だに、この肩書きが自分に相応しいとは思えない。
「勇者」とは、剣を振るい、魔を斬り、民を守る英雄であるべきだ――それが世俗における通念だ。だが私は、その理想には程遠い。
それでも、この数日間で、確かに言葉が届いた瞬間があった。剣ではなく、魔法でもなく――論理と対話が、状況を変え、人の心を動かした。
ならば私は、私のやり方でこの役割を引き受ける。
剣ではなく、言葉を武器に。
正しさと理屈を携えて、道を切り拓く。
こんな不出来な男を選ぶとは、神の気まぐれか、それとも導きか。
縋るつもりはない。だが、もし見ているのなら――
輝暦218年 誓環月 16日
ラグスノールへ向かう馬車内にて




