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プロローグ

さわやかな春風が、頬を撫でるように窓から教室中へと駆け抜けていく。

きっとこういう時には本来なら、新たな日々のはじまりに緊張しつつも、どこかワクワクとした感情を胸に抱くものなのだろう。

だが生憎そんな気分には全くなれない。それどころか、それとは正反対な暗い感情にとりつかれている。

しかし、きっとこの世界の人間ならば俺の立場になったとき、誰であろうとそうなるのも無理はないだろう。


ーー俺が覚醒したエレメントは【闇】だった。


受け入れがたい事実に眩暈で気を失いそうになる。

本来、エレメントってものは大人になってから自然と覚醒する、いわば成長した証のギフトのようなものとして古来より扱われてきた。しかし、近年の目まぐるしい研究の発展により、2年前に全国に新たに設置された帝国立の能力育成学園では、在学中にエレメントの能力の研鑽に励むこと、そして卒業後自身のエレメントを活かした職に就くことを条件に、帝国の最先端の科学技術によって入学生全員にエレメントの覚醒を呼び起こさせるといったシステムが採用された。つまりエレメントの授かる時期を早めてやる代わりに、今後の生活において能力を磨くことだけに専念させるっていう方針なわけだ。


もちろん誰もがこの学園に入学することはできない。もしそんなことができたらそれ以外の学校は軒並み廃校になるだろう。今すぐエレメントの能力に目覚めるのならば青春を犠牲にしてでも構わない、帝国の少年少女ならばみんなきっとこう思うだろう。この社会では貴族だろうと農民だろうとエレメントの力は誰もが重要だと認めている以上この推理はあながち間違っていないだろう。


1カ月前、俺は高倍率の学力試験を通過し、親に多額の入学金を支払ってもらい、全国の能力育成学園の一つである念願の帝国立クロム学園に入学した。

そして5月3日、つまり昨日、俺は待ちわびていたエレメント覚醒の儀を受けた。先ほどまで高揚感たっぷりで期待に溢れながらその結果を待っていた。

俺に覚醒したエレメントが、この世で最も価値の低いエレメントとされる闇だと知るまでは。


エレメントの価値とは一体何によって決まるのか。その答えは決して一つではない。

どれほど様々な分野の技術の発展に貢献できるか、日常生活で役に立つか、人を助けられるか、などが挙げられるだろうが、この問いに対して学園の持つ答えはおそらくそのどれでもない。

「どれほど兵器として使えるか」つまり軍事力としての能力を育てようとしているのがこの学園の持つ真の目的だろう。そのように考えるに至るのはそう難しくない。様々な理由から周辺国との衝突が続く近年、軍事力では他国に劣る本国は、戦争になれば莫大な損失をもたらすことは誰からみても明らかである。そもそも軍事力以前に、他国に比べても人口が少なすぎるってのも要因としては大きいだろう。

そんな中、海を挟んで隣国のロイド国が、陸続きで隣り合うネウロス王国に侵攻をはじめた2年前、タイミング良く全国に能力育成学園を置いたわけだ。もちろん卒業生全員を戦争のために利用する、なんてことはないと思いたいが、少なくともエレメントを軍事に全く使わないとも思えない。

エレメントの覚醒を早められるほどの最先端の技術力があるのだから、エレメントの能力をそういう目的に応用することもおそらく可能だろう。


そんな学園の目的には入学前から気づいていたが、それでも俺はエレメントの能力が欲しかった。

夢もなく何者にもなれそうにない自分が、若くして輝けるチャンスだと思ったからだ。

炎のエレメントで高熱エネルギーを自在に操ったり、氷のエレメントで凍てついた地表を支配できるようになったり、そんな希望を抱いていたのになぁ…。


手のひらほどの暗黒空間を数秒程度生み出せるだけの闇のエレメントは、昔からゴミ同然の扱いの能力。

エレメントの儀を終えて俺に下った能力評価はもちろん、この学園で最低のEランクだった。

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