7 公女の生活
私の一日は、朝起きて、リーザに着替えさせてもらって、髪の毛を手入れしてもらうことから始まる。
最初は、着替えを含め、入浴の手伝いや、髪の毛を結ってもらうことなど、他人に身の回りの世話をされることにものすごい抵抗を覚えた。
サーラやケメトには、『自分のことは自分でやれ』と言われ、育てられてきたからだ。
しかし、リーザに、
「貴女はもう、魔女の里で暮らしていた頃の平民ではありません。今は、大国グランツベルグの筆頭公爵家の公女なのです」
とピシャリと言われ、有無を言わせず服を剥かれ、風呂に入れられてからは、抵抗を諦め、大人しくされるがままになっている。
そして、着替えた後、広い自分の部屋で朝食を取る。一人で、黙々とそれを食べると、次は、勉強に入る。
国の歴史、地理を始め、公女としての立ち振る舞い、ダンスなどの教育を専門の家庭教師に教わる。
そして午後からは、ハデスの要請により、魔術書の訳や、魔法の訓練を行う。
魔法の訓練では、周りを十人ぐらいのエーデルクライン家屈指の魔法使いや魔女たちに囲まれて訓練をする。
間違っても逃走したり、魔法を暴走させたりさせないためだ。
常にピリピリした空気で、緊張感がえげつないこの訓練が私には好きではなかった。
しかも、自由に魔法を使わせてもらえない。
爆裂殺技の精密度を高めてみたかったのに…………
魔術書の訳は、ハデスでも読み解けない、古代語を利用しているらしく、唯一、古代語を読み書きできる私が、エーデルクライン家に代々伝わる魔術書の解読をしている。
里では誰もができていたことなので、驚いたが、魔術書を読むことでかなり勉強になり、やって良かったと思う。
魔法の訓練や、魔術書の解読が終わると、剣術の訓練が時々あるが、ない時は、基本部屋に軟禁されてしまうため、筋トレや邸宅内図書館で本を借りてきて、読んだりしている。
また、現在、魔法は、基本魔法から学び始めている。
古代魔法は、現在の魔法と比べても、はるかに威力のある強大な魔法。
そこらの金貨や宝石とは比べようのない価値がある。
皆、喉から手が出るほど手に入れたいと思うほどの代物だ。
魔法に精通したハデスも、古代魔法を手に入れるために「魔女の里」を血眼になって探したという。
だからこそ、古代魔法は古代の遺産ともいわれている。
私という古代魔法を受け継ぐ者を手に入れたハデスだが、問題もあった。
それは、古代語という爆裂殺技を含め、古代魔法の詠唱に使われている言葉。
私のような「魔女の里」の者からすると、普通に唱えることができるが、ハデスなどの里以外の者が聞くと、耳慣れない発音に唱えられても、魔法を発動させることはできないらしい。
つい先日、それを検証していたハデスが、爆裂殺技を発動させることができずに、苛立たしげに立ち去ったことからもこのことがわかる。
私は、少し爆裂殺技を初歩的な魔法だとバカにしていたハデスが、発動できなかったことに、心がスカッとした。
私が最近習っているのは、初級魔法の水球と火球。
詠唱は古代語ではないが、私にはフツーに発動させることができた。
攻撃力は、非常に弱い初級魔法だが、水属性、火属性の基本となる魔法だ。
連続発動ができるように練習していたそのとき。
「まだ、そのレベルなのか。エーデルクラインの公女が情けない」
私をあの男そっくりの赤色の瞳で睨みつけ、私の周りにいた魔法使いたちを押し除けながらやって来たのは、この家の一人息子、公爵家嫡男のスチュワートだった。
これが私達義兄妹の初めての会話?であった。