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Eternity エタニティ ー永遠の魔法ー  作者: 本堂本子
一章 エーデルクライン公爵家
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2 侵入者

サーラの死から一週間が経った。

サーラは今、ケメトと共に眠っている。

泣きながらお墓を掘って、森から花を摘んで、それを供えた後、私はずっと家に引き篭もった。

幸い、薪や水もためていたものがあり、雪が降っている中でも普通に過ごせていた。

でも、家には今までの暖かさがない。

二人の笑い声も、あの美味しい手料理も。

ケメトが酒を呑んで、それを怒るサーラも。


かつての暖かい光景は、どこに行ってしまったんだろう。


幸せで、笑顔に満ち溢れていた記憶の中の思い出が、次々と蘇る。

「うっ、ゔゔーっ」

込み上げてくる涙が、次々と頬を伝う。

『ラヴィ、泣いてはいけないよ。強く美しい魔女は泣かないもんさ』

『魔法使いに涙は似合わない。そうだろう?』

思い出しては消えていく、サーラやケメトの言葉。

今思えば、そのすべては愛に溢れ、優しさに満ちていた。

「前に、進まないと、だよね?サーラ、ケメト」

逃げてはいけない。自ら死を選んだら、サーラとの最後の約束を果たすことはできない。

いつか、絶対この石を捨て、私は普通の人間として、生きていくのだ。幸せになるのだ。

『誰よりも幸せにおなりなさい、ラヴィリスタ』

そんな、サーラの言葉が聞こえたような気がした。


悲しみに泣いた冬を越え、春になった。

降り積もった雪も、だんだん溶けてきて、暖かくなった。

去年の春は、ケメトから教わった魔法で春の花を咲かせたり、サーラと山菜をとりに行ったっけ。

サーラやケメトとのかけがえのない思い出に浸りながら、私は、川へ水を汲みに行く。

今は丁度、雪解け水が、川に流れていて、水も美味しいだろう。

木々に薄く積もった雪を払い、川に向かって歩いていく。

そして、川に着いた時だった。


リーン、と空耳のような音があたりにこだます。


いつもののどかな雰囲気とは異なる、張り詰めた空気。伝わってくる違和感。警告のような音。

私は、思わず桶を放り出し、耳を澄ました。


リィィーン。


どこか低く、地を這うような音が響いている。


これは、里への侵入者を告げる警告の鐘だ。


「魔女の里」は、守護結界と何重にもわたる隠蔽魔法によってその存在を隠し、住民を守っている。

それらの魔法を構築し、維持するのは里長の務めだが、里長であったケメトは亡くなり、代わりとして保持し続けていたのはサーラだ。

しかし、そのサーラ亡き今、結界の保持を任されているのは里に唯一残っている私だ。

サーラの埋葬が終わってすぐに、私も一応結界の状態を確認してきたが、すぐにでも再構築する必要はない状態であった。

でも、今その結界から警告の鐘が鳴り続けている。

耳を澄ませ、警告の鐘が鳴る里の西側の方へと風神双翼(ゼファーリア)で急いで向かう。

しかし、私が里の上空を飛んでいる途中で、結界に異常が見られ始める。

普段は、見えないはずの結界を構築している巨大な魔法陣が、私が飛んでいるところよりもはるか里の上に浮かび上がっているのだ。


リィィィーン!リィィィィィィーーン!!


途端に、聞いたこともないような大きさで響く、警告の鐘。

思わず、飛びながらも耳を塞ぎ、体を丸めてしまう。

しかし、次の瞬間。

警告の鐘の音が、全く聞こえなくなったのだ。

それに胸を撫で下ろし、私は恐る恐る上を見上げる。

そして絶句した。


「結界が…………破られた…………?」


私の上にある結界を構築する巨大な魔法陣には、ひびが入っていた。


バキバキ!パリィィーン!


慌てて再構築しようと私が手を伸ばした時には、もう遅かった。

巨大な魔法陣は、崩れ、光の粒子となって空気中へと消えていく。

ああ!完全に破られてしまったのだ!

私たちの堅牢な結界が!何者かに!


焦り、震える拳をきゅっと握り、結界の警告の鐘がずっと鳴り続けていた里の西側へと向かう。

魔法を解除し、地面に着地すると、私は辺りを警戒しながらも先へと進む。

里の西側は、山菜が取れる、穏やかなの東側の森と違い、里の者でも狩りの時にしか使わない危険な森だ。

先には、獣道が広がっており、木々が邪魔でなかなか前へと進めない。


もし、さっきの本当に結界を破った奴がいるとしたらきっとこの先だ。

恐怖にすくむ足を必死に動かして、もし何かあったらすぐにでも魔法が発動できるように、手に魔力を込めておく。

すると、近くで木の枝を折ったときのような、バキッ!という音があたりに響く。

私の緊張は、最高潮に達した。

足を止め、大木の影へと隠れる。

熊?それともイノシシ?もしかして、結界を破った_____人間?

ドクドクうるさくなる心臓を抑え、息を潜めていると。


その瞬間!


前方の林にガサガサっという音が聞こえた。

全神経を尖らせて、いつでも魔法を使えるようにしておく。


しかし______


現れたのは、予想もしなかったもので_______


道を塞ぐように、阻むように入り組む木々を押し除け、苛立ちを隠そうともせず、現れたのは、数人の兵士と思われる人たちを引き連れた、派手な金髪の男だった。


驚きに目を見開く私は、近くにあった木の枝を誤って踏んでしまう。


バキッ!


全員の視線が、私が身を潜める木へと向かう。


緑旋風(ホワールウインド)


すると金髪の男がボソリと詠唱した。

途端に、私の近くで強い風が巻き起こり、私はバランスを崩して倒れ込んでしまう。

慌てて体を起こしたものの、私はすでに兵士に囲まれていた。

そこへ、悠然と金髪の男がゆっくり歩み寄ってくる。

唇を歪ませ、髪をかきあげ、苛立たしげに。


「何だ、ガキか。せっかく隠蔽魔法を破ったというのに、入り組んでやがる」


悪態をつくその男は、へたり込む私を一瞥して、言った。


「魔女の里は、どこだ?」


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