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第7話 快斗、本当にごめん

 一晩明けてようやく迎えた定期テストの本番、俺はいつにもまして緊張していた。俺のテストに関してもそうだが、それ以上に水瀬さんの事がとにかく心配で仕方なかったのだ。


「……いや、この3週間昼休みに毎日図書室であれだけ頑張って勉強を教えたんだ」


 3週間前とは比べ物にならないくらい水瀬さんは成長をしたのだからきっと大丈夫に違いない。俺は自分にそう言い聞かせながら席につく。ちらっと水瀬さんの方を見ると、彼女は俺の視線に気付いて微笑みながら親指を立ててきた。


「なんだ、緊張してるのかと思ってたけど別にそうでも無さそうだな。それなら安心だ」


 緊張のせいで水瀬さんが本来の実力を発揮できない事を心配していた訳だが、どうやらその心配は無さそうだ。そんな事を考えているうちに朝のショートホームルームの時間がやってくる。


「みんな、おはよう。今日は待ちに待った定期テストの日だよ、先生も応援してるから頑張って。じゃあ連絡だけど……」


 ショートホームルームが始まると担任である化学教師の姫宮千花(ひめみやちか)先生が伝達事項を話し始めた。姫宮先生は大学を卒業したばかりの若手教師であり、この学校にいる教師の中で一番若い。黒髪ショートで赤い眼鏡をかけた白衣姿の姫宮先生は、めちゃくちゃ美人なため男子生徒達の間では大人気と言える。

 伝達事項を聞き終わった後は出席番号順に席を移動して、テストの開始時間が来るのを待つ。しばらくしてテストが開始されたため俺は集中して問題を解き始める。そしてあっという間に試験時間の50分が経過したわけだが、1時間目の数学IIに関してはほぼ満点に近い手応えを感じていた。

 続く2時間目の世界史Bと3時間目の生物基礎に関しても想定していた通りの問題が出題されたため全く問題無いと言える。水瀬さんの方もテスト後の休み時間にハイテンションで友達と話していたため、恐らく上手くいったのだろう。


「本当に良かった、この感じなら後3日間のテストも多分大丈夫だろ」


 今日のテストが終わった俺はそんな事をつぶやきながらウキウキとした気持ちで教室を出た。ちなみにうちの学校の定期テストは4日間に分けて行われ、午前中で終わるため普段よりもだいぶ早く家に帰れる。

 それから廊下を歩いて靴箱へ向かっていた俺だったが、前から見覚えのある男子生徒が歩いてきている姿を見て一気にテンションが下がってしまう。

 視界に入るだけで俺のテンションを大きく下げる男子生徒などこの学校にたった1人しかいない。その人物とは幼馴染であり、俺が気になっていた人や好きになった人を漏れなく全員惚れさせてきたアランだ。

 アランはこちらの存在に気付くと何か言いたげな顔になっていたが、俺はそれを無視して横を通り過ぎるつもりだ。中学生まではそれなりに仲は良かったが、去年付き合っていた彼女がアランに惚れてしまってからは関係が最悪になってしまっている。

 あの時付き合っていた彼女がアランに惚れてしまったのは俺に魅力が足りなかったせいだと頭では分かっていたものの、心は納得してくれなかった。だから俺はあの日からずっとアランの事を無視しているし、多分これからも無視し続けるだろう。


「快斗、本当にごめん」


 アランはすれ違いざま俺にだけ聞こえるような小声でそんな事を言ってきたわけだが、果たして何に対して謝罪しているのだろう。それが気になって思わず足を止めそうになる俺だったが、アランと話すとどんな罵詈雑言を吐いてしまうか分からなかったためそのまま通り過ぎる。


「……そう言えばアランが歩いていった方向って俺の教室の方だよな。でも佐伯さんはもう居ないはずだけど」


 俺がついこの間まで気になっていたクラスの女子であり、アレンの今の彼女である佐伯美穂(さえきみほ)はテストが終わってすぐに教室から姿を消していた。だから俺の教室に行っても佐伯さんには会えない。


「もしかして佐伯さんがもう教室に居ない事を知らないのか?」


 学内ではスマホの使用が完全に禁止されていて自由に連絡が取れないため、佐伯さんが教室にいない事を知らなくても不思議では無い。中学時代の仲が良い状態のままであればそれを教えるためにアランを追いかけていただろうが、今の関係だとわざわざそれをする気には全くなれない。

 そんな事を思いながら靴箱を目指して廊下を歩く俺だったが、この妙な胸騒ぎは一体なんなのだろうか。理由は分からないが何か嫌な予感がした俺は一旦その場に立ち止まって教室に戻ろうか考え始める。


「……いや、多分気のせいだ。それにエレンを待たせるのも悪いし、さっさと行こう」


 どうするべきかしばらく迷ったが教室に戻るとアランと同じ空間に居る事になるため、それが嫌だった俺は一方的に気のせいだと決めつけた。それから俺はエレンといつも待ち合わせをしている靴箱へ向かって歩き始める。この時思いとどまって教室に戻っていればあんな結末にはならなかったかもしれないと激しく後悔する事を、今の俺はまだ知らない。

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