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第32話 でも恋という感情を知ってしまってからは本当に後悔したよ

「快斗も家の中にばかりいて退屈だろうし、今度の土曜日一緒にどこか遊びにでもいかないか?」


 大学の講義前に俺の部屋へやってきた雪姉といつものように過ごしていたわけだが突然そんな事を提案された。そう言えば最近は精神科への通院くらいでしか外出していない。

 学校を休んでいる身でありながら外出して遊びに行く事への罪悪感もあったが、医師から好きな事をして過ごしても良いと言われていた事を思い出したため提案を受け入れる事にする。


「そうだな。たまには外に出ようか」


「よし、詳しい事はまたLIMEで話そう。じゃあ私は4時間目の講義があるからそろそろ行くな」


「もうそんな時間か」


 俺は雪姉を玄関まで見送るといつも通り好きな事をして過ごし始めた。最近は絵を描く事にハマっているため、とにかくそれに熱中している。

 自由に好きな絵を描いている俺だったが、なぜか家族や雪姉からは不評だった。俺には全く理解できないのだが、絵はどこか不気味で見るだけで情緒不安定にさせられるらしい。

 ただしエレンからはかなり好評だったため、単純に好みの問題な気がする。そんな事を思いながら今日も絵を描く俺だったが、熱中し過ぎてしまっていたらしく気付けばエレンが来る時間帯になっていた。


「快斗君、こんにちは。今日も絵を描いてたんだね」


「うん、絵を描くのってこんなに楽しかったんだな」


 それからしばらくエレンと仲良く会話する俺だったが、先程した雪姉との約束を思い出す。


「そう言えば今度の土曜日だけど、外出する用事があるから家に来てもいないぞ」


「あれ、その日って病院の予定だったっけ?」


 どうやらエレンにまで俺は病院以外で外出しないという認識を持たれているらしい。俺はすぐさまその誤解を解き始める。


「いや、病院とかじゃなくて雪姉からどこかへ遊びに行こうって誘われたんだよ」


「……そっか。たまには外出して遊ぶのも良い気分転換になると思うし、楽しんできてね」


 俺の言葉を聞いたエレンは一瞬黙り込んで無表情になったが、すぐ何事もなかったかのように笑顔を浮かべてそう答えた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 土曜日になった今日、俺は雪姉と一緒に横浜のみなとみらいまで来ていた。赤いレンガが特徴の倉庫で昼食を食べた後、遊園地の横浜コスモランドで遊んでいる。


「やっぱり遊園地は楽しいな。快斗もそう思わないか?」


「ああ、間違いなく楽しいよ。でも雪姉の高過ぎるテンションにはちょっとついていけそうにない……」


 いつもはクールな雪姉だが、横浜コスモランドに着いてからはテンションが異様に高く、まるで普段とは別人のようだったのだ。

 雪姉がパンフレットを見ながら次は何に乗ろうかとまるで子供のように目を輝かせている姿を見ると、ここに来るのをよほど楽しみにしていたのだろう。

 それから俺達はジェットコースターやウォーターライド、バイキングなどの絶叫系アトラクションやゴーカート、スワンボートなどの緩いアトラクションまで満遍なく楽しんだ。

 そしてあっという間に時間は過ぎ去り、気付けば辺りはかなり暗くなってきていた。スマホで現在の時間を確認したらしい雪姉は名残惜しそうな表情で口を開く。


「……帰る時間を考えると次が最後のアトラクションになりそうだな」


「じゃあ約束通り観覧車へ行こうか」


 最後のアトラクションは観覧車にしようと話し合って決めていたので、俺達は乗り場へと向かい始める。

 進行方向に歩いていると俺達の視界には観覧車が入ってくるわけだが、遠目から見ても非常に巨大な事が分かるレベルだ。


「やっぱり間近で見るとめちゃくちゃ大きい」


「ここの観覧車は112.5mあって、横浜のシンボルなんだぞ」


 俺の言葉を聞いた雪姉は得意げな顔でそう語ってくれた。しばらく話しをしながら歩いているうちに観覧車の前まで到着した俺達だったが、結構人が並んでいる姿が目に入ってくる。


「うわ、めちゃくちゃ並んでるじゃん」


「でも15分待ちぐらいで済むみたいだから少しの辛抱だ」


「……本当だ、ジェットコースターとかよりもだいぶ待ち時間が短いな」


 そのおかげで少し雑談をしていただけですぐに俺達の順番が回ってきた。係員の指示に従ってゴンドラに乗り込むと、そのままゆっくりと上がり始める。


「あっ、快斗。あれって一番最初に乗ったバイキングじゃないか?」


「あっちにはジェットコースターとかコーヒーカップ、スワンボートの池も見える」


「上から見るとまた違った感じに見えるな」


 外を眺めていると色々なアトラクションが目に入ってきたため、俺達は観覧車から外の様子を見て2人で盛り上がっていた。

 だが観覧車が後少しで頂上に差し掛かりそうというタイミングで雪姉が黙り込む。突然の事に俺が困惑し始めていると雪姉は何かを決意したような顔になる。


「なあ、快斗。小学生の頃、私に告白した事を覚えているか?」


「……ああ、はっきり覚えてるよ」


 初恋の相手への告白なのだ。例え忘れようとしたとしていても忘れられるはずがなかった。


「あの頃はの私はまだ恋という感情がよく分かっていなかった、だから快斗からの告白を断ったんだ」


 雪姉の恋愛対象外だったからあの時振られたのだとずっと考えていた俺だったが、どうやらそれは違ったらしい。


「でも恋という感情を知ってしまってからは本当に後悔したよ。どうしてあの時の私は断ってしまったんだろうってな」


「そ、それって!?」


「ああ、どうやら私は昔からずっと快斗に恋をしているらしい」


 雪姉からの言葉は紛れもなく俺に対する愛の告白だ。


「快斗が彼女に振られたせいで病気になるほど苦しんだ事は知ってる、だから今すぐに答えを出して欲しいとは言わないさ。でもいつかは返事を聞かせて欲しい」


 雪姉は今まで隠していた気持ちを打ち明けた事で、かなりスッキリした表情をしていた。

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