世界最強パーティを追放されたバッファー。役立たずと追放されたけど、俺のパーティ経験値1000倍と熟練度カンストのスキルの恩恵が受けられなくなった事に気づいてももう遅いからな!
「お前、今日でクビな」
僕たちの借りているクランハウスで、みんなの朝食のホットサンドを並べている時に、リーダーのケンから突然そんな事を言われてしまった。
「え? いや、そんな……何かの冗談だよね?」
僕はあまりにもいきなりなその発言に、さすがにウソだろう?冗談にしてもちょっとひどいよそれ〜っとあくまでもタチの悪いジョークとして返事してみせた。
「いや、悪いが冗談じゃねえ。役立たずなお前はもうこのパーティにはいらねえって、そう言ってんだ」
皿を並べる手が止まる。今朝の1番にそんな話……何言ってんだ?
「おはよう。何? 2人とも立ったまま見つめあってさ……BL? ここに腐ってる人はいないから需要はないわよ?」
次に起きてきたのはマリアだ。範囲回復と対アンデッドにはこの世界1番で彼女に敵うものはいない。そんな彼女はいつも優しいが、あまり難しい話はしたがらない。こんな空気でもさっさとご飯を済ませようというのが彼女で、そこがまたサバサバしてていい。
「例の、話だよ」
「そう。まあそれについてはお願いしてるから……うんまい棒おごるって条件で約束してくれたしよろしくね」
え? それは、一体……。
「マリア? いま僕はクビとか言われたんだけど……さすがにケンの冗談だよね?」
そうきっと、うんまい棒ぶんの冗談のはずだ。
「……さあ? それはそっちでよろしくぅ」
マリアは既に置いてあったホットサンドを頬張り、まだコーヒーがない事に気づいて自分で淹れに立ってしまった。
「おはよう。ああ、早速話してくれてるのか、ケン、すまないな」
「リーダーの俺の役目だ。気にすんな」
パーティの盾役のガイだ。スキンヘッドに巨大な筋肉をもつ彼のヘイト稼ぎと不動のスキルはこの世界で1番で、これ以上のタンクは居ないと評判だ。
「えぇ……いや、なんなの? クビって、まさかみんなでそんなタチの悪い」
「ニト、それは冗談じゃない。俺たちの総意だ」
ニト。役立たずニトが僕のこのパーティでの役回り。5人一組がかつて神が決めたとされるこの世界でダンジョンに挑む絶対のルール。
神の塔と呼ばれる天を衝くような高さの巨大な塔は未だ攻略されておらず、そのなかでも50階までを攻略しているのが世界で最も進んでいる記録で、つまりこの最強と名高いケン率いるパーティだ。
最強の戦士として名高いケンが持つのは、これまた世界1番と言われるドワーフの名工が造った聖剣ぢゅらんだる。それが繰り出す一撃は群がるモンスター達を薙ぎ払い、彼の放つグランドクロシュは数多の強敵を屠ってきた、この世界1番の剣士だ。
「そんな……ガイ! 冗談じゃないの⁉︎ マリアも! ケンも!」
「何度も言わせんな。俺も朝っぱらからこんな話したかねえよ。けどな俺たちは今最前線でやっているが、ここのところ行き詰まってるのはお前も知っているだろ? 敵が強え。それに対してこのパーティは今打開策が必要なんだよ。大事な時なんだ。まともに使えるバフのねえ役立たずなバッファーはもう連れて行けねえって言ってんだよ!」
ケンはこれまで見たことのない表情で僕を睨んでそう言う。マリアは朝飯に夢中で、ガイは腕組みして俯いたままだ。
「そんな……でも、でもそれでも僕は荷物持ちだってなんだってしてきた! 攻略の情報も集めたし、罠の解除だってやってきた! バッファーのスキルがしょぼくてもそれでもここまでずっとやって来たのに……それに、僕のスキルはっ──」
カランカランとクランハウスの扉が開いて、元気な女の子が入ってきた。こんな早朝から既に出掛けていたらしい。その理由はすぐに分かった。
「おっはよー! みんなっ、連れて来たよ! 美しきゴッドハンドバッファーのエンちゃんだよ!」
「あわわわわ、そんな大げさな紹介はやめてください〜!」
帰って来たのは僕をこのパーティに誘ってくれた、幼馴染のフウ。彼女の操る風の魔法と雷の魔法は広範囲を殲滅させるこの世界1番の魔法使い。最も期待される冒険者の筆頭。
そしてその元気印の笑顔は荒くれ者ばかりの冒険者たちのハートを掴んで離さない。そんなアイドルは僕の幼馴染(大事なことなので2回……)
そして彼女が連れてきたゆるふわ美女は、僕もその名前を知っている間違いなく有名人。ゴッドハンドの異名は、彼女に使えないバフスキルはなく、その発動速度や発動タイミングはまさに神懸かっていて、パーティの瞬間火力を最高20倍にまで引き上げたというところから付いた二つ名だ。間違いなくこの世界1番のバッファーだ。
「あ、あの、フウちゃんから誘われて来ましたエンです。どうかよろしくお願いします」
パーティの人数は5人一組。これは神が決めたとされる塔に入るための絶対条件で、動かす事は出来ない。神はそこについては厳格なルールを定めている。たまに5人ずつ入って塔内で合流して10人パーティでやろうとかする者たちもいるけど、その瞬間に小部屋でも通路でも構わずモンスターが溢れ出して、多勢に無勢と蹂躙されて全員帰らぬ者になったりする。
中で減る方についてはペナルティはない。これは自然な事だからだ。ただ単純に攻略は厳しくなるし、欠けた1人が死んでたなら、次は補充しなければ塔の扉は開かない。つまり補充が見つかるまで攻略はお預けだ。最悪残り物の数合わせのつぎはぎパーティで挑んで全滅なんてのもよくある話だ。
「フウ……? お前まで……そんな有名人連れてきてまで……ハハ、仕込みはすごいけど、冗談にも言っていい事と悪い事がだな」
「え? ケン、まだ話ついてないの? てっきりさっさと切り捨てたかと思ってたのに、遅いよ? 寝てたの? 起きてる? おーいっ」
「うっせえな、そんなに言わなくても分かってっから。けどせめて朝飯だけは最後に作らせてやろうとよ」
「まあ、こいつの特技でまともなのなんて料理くらいだもんね。今日はホットサンドか〜。ううん、最後のニトご飯はホットサンドかあ!」
え……なにこのフウの振る舞いは。いつもあんなに僕に優しくしてくれるフウ。僕を誘ってくれたフウ。バフも気持ち程度だけで戦えない僕を後ろに隠れてて、と庇ってくれたフウ。それが今。
「ニト、あんたの赤ちゃんの産毛みたいなバフはもうホントに要らないから! それにわたしたち世界最強のパーティなんだよ、最強最速最先端! みんなの注目の的! それが攻略に詰まってる理由なんて考えなくてもわかんじゃん。これまではなんとか庇ってきたけど、もう無理! だからこの間ナイトクラブでダンスしてる時に出会ったエンちゃんを誘ったんだ。そしたら来てくれるって言うから、もう本当に要らないねってなったんだ!」
「お、おい。フウ……何言って……?」
「どうせこのまま行ってもニトなんて死ぬだけだし、そしたら私たちも新しいメンバー探さなきゃ塔に入れないなんてなるんだから! 今代わりの……っていうか、0.1の代わりが100なんておかしな話だけど、エンちゃんが来てくれるっていうから、死ぬ前に追放してやろうって言ったの。わたしが」
僕は、膝から崩れ落ちた。
嘘だろ? 僕の幼馴染フウ。僕に優しくしてくれるフウ。僕のお嫁さんになってくれるかもしれないフウ。
「聞いてる? ニト〜? おーい? もうあんた要らないから! 毎回マリアが『バッファーがダメすぎて負担が……』って嘆いてるのにゴメンねゴメンねって謝るのも、ガイが『みんなのヘイトを集めたいのにこいつを庇うのに忙しくて抜けられる』ってグチってるのにゴメンねゴメンねって謝るのも、ケンが『火力が足りねえ、素の火力だけなんて下位のバフ掛かってる奴にも負けるかも』とか言ってるのにゴメンねゴメンねって謝るのももう限界。みんなには付き合わせてて本当にゴメンね。でももうエンちゃんが来てくれたから! これからはさらに上に行けるよ!」
「ああ、やっとかって感じだな! まあ、フウが謝る姿を見るのも無くなると思うと気が楽にもなるな」
「そうね。いくらパーティ創設者とは言えそこまで背負わなくていいのにって心苦しい想いもしなくていいのね。ご馳走様。料理だけはいつも美味しかったわ」
「エンさんか。これなら50階のボスの攻撃も凌げるだろう。何より1人にばかり張り付かなくてすむ。全体の手数も増えるだろう」
「あわわ……よ、よろしくお願いします! 重ね掛けは最高で30倍まで出来る様になりました! 私もメイスでミノタウロスを瞬殺するくらいには遣えますので!」
「そうなんだよ! ゴッドハンドエンちゃんはバトルもできるんだから! 分かった? もうニトはさっさと消えるしか役に立たないの! 最後くらいはわたし達のストレスをスゥって消してよ! そしたら最高のバフだよ、本当に! ご飯は美味しいけど、クランハウスにはこれから使用人どんどん入れるし。なんせ使えないバッファーのせいで被害も負担も大きくて持ち帰れる戦利品も少なかったのが、これからはそんな心配もないし、何より上階にいけばもっと良いものが手に入るよ!」
「富も! 名声も! 思うがままだな!」
「ああ、これで俺たちのパーティに穴は無くなった」
「そうね。ニトという大穴を埋めるのは並大抵ではなかったけど、その穴が消えてこんな大物が来てくれたなら……パーティの瞬間火力は30倍どころじゃないわね。マイナスからのプラスだもの。」
「は、はい! 期待してて下さいよ! たまに聞く寄生ってのは初めて見ましたけどそこまで酷かったんですね! よくもこんなクソステとクソスキルで居座ってましたね! 穀潰しですか、あなたは。けどわたしが入るからにはこれからは最上階までノンストップです! な、なのでニトさんはフウさんのためにも心置きなく辞めて下さいっ」
「さあ、分かったならさっさと消えるっ消えるぅ!」
「は、はは、ははは……。みんなこんなに僕のこと……分かったさ! 役立たずのバッファーは消えてやるさ! でもなっすぐに思い知るさっ。僕の有り難みをっ」
「いや、ニトの雑用なんて要らないし、ダンジョン飯にカルボナーラ出されるより干し肉でも齧ってる方が緊張感抜けなくていいし、罠解除もケンが斥候職ギルドでスキル身に付けたから、いちいち石を投げてちまちま行く必要もないし。ニトをパーティに入れてることの有り難みなんて一生分かんないよ。あ、この瞬間抜けてくれる有り難みはもうずっと感謝してもいいかもっ。ありがとうね、今まで。役立たず幼馴染のフォローから解放されてフウは幸せだよ!」
ガンっと僕は手にしていたお盆を床に叩きつけて、クランハウスを出ようとする。
「おい! パーティの金で買ったお前の装備は置いて行け。その代わりにこの金をやるから──小さな飯屋の開店資金にくらいは出来るだろ。お前は冒険者なんてやってても死ぬだけだからな! どっかで料理人でもしてろや。成功した暁には顔くらい出してやらんでもねえからよ、フライパンでも振ってろや」
そんな胸糞悪い追放劇から2年。新聞の号外には『神の塔攻略! 人類の悲願達成! 最強パーティがやってくれた!』なんて書かれていて、ケンとガイとマリアにエン、そして満面の笑みのフウのパーティの写真がデカデカと載っていた。
僕自身はケンやフウが噂を流していたらしく、やれ役立たずだの、やれ寄生虫だの、やれカルボナーラだのと言われて、それ以降パーティを組むことはもちろん、塔にだって挑めていない。彼女の1人も出来ない暗い日々。
彼らの攻略が本当に順調で、こんなはずじゃ……なんてバーで飲んだくれていた時に偶然にガイと出逢って聞いたら、経験値1000倍と熟練度カンストについては、みんな自分のステータスをみて気づいていたらしい。そしてその時に、
「楽して得るものに頼っていてはいつかそれが無くなった時にダメになる。これは確かに凄いスキルかも知れないけど、その者のもつスキルのうち2つだけをランダムでカンストするってのはバランス崩しそうだし、経験値の方に至っては注釈にレベル30以下に限るとか書いてるし」
「私たち出会った時にはもうレベル35だったもんね……」
「これ、露店で買ったお守りなんだけどさ……せいぜい毒レベル1が確率で防げるくらいのおもちゃだけど、これつければその2つのバフを確定で防げるからつけようか」
「初歩毒よりザコいって逆に凄いな……デバフじゃないからかもしれんが」
という経緯ですでに僕の『お願いするから帰ってきて! いやだ、もう他のパーティに入ってるしハーレムだし、わっはっはっ』とざまぁする切り札のスキルさえ無効になっていた。つまるところ、あの当時のみんなは純度100%の実力で、僕は純度100%の足手まといだったんだ。
この話を聞いた時点でパーティは85階を超えていて、今は攻略されてやっと判明した最高階100階に手が届くところまで来ていたんだ。それでも足りない火力不足はみんなの素の数値を上げた努力と、ゴッドハンドエンの新たなバッファースキルの神業全ステ2.5倍の習得によって上乗せされて塔のボスたる神龍を倒したのだ。
その偉業によって人類全体が神の恩恵として世界から病気や飢饉などを無くし、多くの人々に幸せを届けたとか。
そして今、僕は厨房で忙しくフライパンを振っている。
「ニト! カルボナーラよろしくね!」
「俺はドラゴン肉のガーリックソテーだな」
「こっち……ホットサンド」
「コーヒーおかわり」
「わ、わたしは……わたしもホットサンドでお願いします!」
冒険者を続けることが出来ずに途方に暮れていた僕は、かつてケンが手切金として持たせてくれた金で小さな食堂を始めた。
僕のユニークスキルによって僕自身の料理と経営の熟練度はカンストしていて、小さな食堂は今や塔攻略に沸き立つこの世界最大の都市で1番大きなレストランとなっている。
従業員達もランダムとは言え何かしらの熟練度をカンストさせた優秀なメンバーに恵まれた。
塔攻略の凱旋パレードもそこそこに、このレストランに突然やってきたみんな。
フウは僕の姿を見るなり、
「ニトー! 会いたかったよぉ! ゴメンねっ、あの時は酷いこといったよね? ゴメンねぇぇぇ!」
と抱きついて泣き散らしてしまっていた。
「ひさびさにフウのゴメンねゴメンねを聞いたな!」
「ああ、俺たちの実力不足でニトを危険に晒してしまうのを歯痒く思ってたのを、全部自分のせいだとか言っていたからな」
「私にもう少し器用さがあれば、というか範囲回復ばかりの私でなければ効率よく出来てただけなのに、フウの心労にしかならなかった私が1番ダメダメだったわ。」
「まあ、それもエンの加入でコツを教えてもらってどうにかなったんだから、いいだろ」
「わ、わたしもいきなりフウさんからニトさんを追放するのを手伝ってくれなんて頼まれて戸惑いましたけど……あれだけ冒険者に向いてないステータスの料理人さんをパーティから外して安全なところに残したいフウさんの気持ちは分かりましたから……フウさんは本当に優しい人ですよね」
「その割になかなか酷い言い草だったよね……」
「ま、マリアさん! それはフウさんに『新人に酷いこと言われたらトドメになるから』って、なんか酷い事言ってよって頼まれたからで……あわわ」
ずいぶんと今更な暴露話だけど、僕を抜いて何も困らないでそのまま攻略しきったみんなが今更に僕をどうにかする事なんてない。そこには悪意なんてない、純粋な本音の暴露。
いや、そこから察するに最初から悪意なんてなかったんだ。もし無理矢理に悪意があったと定義するなら、僕に役立たずを追放する血も涙もない幼馴染と印象づけようとした点だろうか。
いや、なにも悪意の在り処を彼ら彼女らにだけに限定するべきではない。思ったではないか。ざまぁをしたいと。
記憶を遡って掘り起こしてみれば瞭然。自分は弱くて使えないバッファーだけど、陰ではこんな恩恵を振り撒いてやってるんだ、と。それでもいつか捨てられるその時まで黙っていて、いざ捨てた時に困ればいいんだと、泣きついてきたときにこっちから願い下げてやると。
自分で自分がまともには役に立たないのを理解しているからこそ、いずれ来る追放劇を予感してそんな妄想に取り憑かれていた。
そうなるとあの追放劇の記憶も少し違って想起される。
悪意に満ちていたのは僕だった。彼らの言葉の全てにフィルターをかけていなかっただろうか?
リーダーだからとはいえ凄く言いにくそうな申し訳なさそうな顔のケン。
僕とは目を合わせることも出来ずに、話に参加することを避けつつ、それでも美味しかったと言ってくれたマリア。
予想通りの悪い雰囲気に腕組みしたまま下を向いて何かを堪えていたガイ。
エンは初めてのメンバーに戸惑いながらも、なんだか詰め込んだセリフを長々と言って、このおどおどした性格から出るとは思えない自信家のような事を言っていた。
そして朝の早くから迎えに出て、協力を頼んだエンを連れてきたフウは、聞いたことのない口の悪さで、それでもどこかぎこちなく、僕を悪し様に言う口は少し震えていたのではないか?
あの時フウはこう言ったはずだ。
『ニトをパーティに入れてることの有り難みなんて一生分かんないよ。あ、この瞬間抜けてくれる有り難みはもうずっと感謝してもいいかも!』
そう、ずっと感謝してくれる、抜けたことを。それは死の危険から遠ざけることに成功したことに感謝、ともとれる。
幼馴染に雑用させなくていい、料理は自分たちでどうにかする、斥候は攻守とも安心できるケンに学ばせた。
フウは僕を強く抱きしめて「ゴメンねゴメンね」と言っている。
エンはやはりおどおどした、ゆるふわ美女で彼女もまた、「酷いこと言ってごごごごめんなさいぃ」って。
ガイは髪のない頭をぽりぽり掻きながら、「ずっとニトは元気かなあって言ってたもんなっ」て微笑ましく見ている。
マリアは「これでまたニトのご飯が食べられるのね、干し肉生活は辛かったわ」と、相変わらずのマイペース。
ケンは爽やかな笑顔で「約束通り飯を食いに来たぜ!」なんて言っている。
そう約束。今の今までそれを約束だなんて思えなかったけど、あのとき僕が冒険者をやろうとしないように装備を取り上げて、開店資金と口にして渡してきたお金は、その記憶から何となく新しい装備を買うのには手をつけてなかった。そして、料理人でもしてろ、と。店出したら顔くらい出してやると。
なんだ、僕はこんなにも想われていたんじゃないか。
雑用係なんてしてまで惨めに付いてくる“パーティ最強火力のフウの幼馴染”はどれほどに彼らに罪悪感を押し付けていただろうか。
このままズルズルいけば死なせてしまう不安が現実味を帯びてきた頃、彼らは僕を死なせないために自ら悪役をやってくれた。
さらには僕が他所でも加入しないように根回ししてまで。元パーティメンバーを悪く言って回るなんて、きっと──楽しい事じゃない。
「僕こそ、ゴメンよ、ゴメンよ……」
「ニトは悪くないよ〜ゴメンねゴメンねぇ」
「──このカップルは本当に仲良しよね」
カップル⁉︎
「そうだな、この辺の冒険者たちのアイドルにはすでに想い人がいたんだから。ニトがパーティにいた頃もどれだけの奴がフウに振られたか」
「あ、あれですよね? 『わたしには大好きな幼馴染がいるんだから』って! 前のパーティの人も1人そう言われたって言って悔し泣きしてましたよ」
え、なにそれ⁉︎ 聞いてないそんなの!
「ああ、ケンも出会った時に瞬殺されたあれか。お嫁さんに行くところはもう決めてるからってな」
え、え⁉︎
「そう。美味しいご飯作れる旦那さん欲しかったのに、フウ相手じゃ勝てないわ」
マリアルートもあった⁉︎
ぎゅっと僕を抱きしめる力が強くなって、フウは泣きはらした目で僕を見上げる。
「ニト、酷い事いったけど、勝手な事だけれど……やっと攻略が終わったんだ……。それで、ね? わたしをお嫁さんにしてくれないかな?」
僕をこんなに大事にしてくれる。これほどに想ってくれる。そう仕向けられたとはいえ、誤解しっぱなしで連絡もとらないで放ったらかしにした最低の幼馴染なのに、僕のアイドルはそれでもずっと、いつからかは分からないずっと前から好きで、好きなままで居てくれたんだ。
僕は今度こそ間違えない。これにはノーなんて返事はあり得ない。そしてフウに返す相応しい言葉があるはずだ。
「僕のお嫁さんになってくれるなら、その有り難みはもうずっと感謝してもしきれないよ。僕からも申し込ませて欲しい。僕のお嫁さんに──なって下さい」
「はい、おまちどうさま!」
そう、僕も、彼女も、かねてよりお待ちかねである。
すれ違った心と2人の人生は、彼女が想い続けて成した道と、僕のひねくれた性根が歩んだ道とが出会って合流できたようだ。この道の先はまだ長く見通せはしないけれど、きっと真っ直ぐの一本道に違いない。
「やっぱりニトのカルボナーラは最高だよ!」
僕は彼女の笑顔を守りたい。そう思うことさえ彼女の想いに護られて居たからこその今がある僕だけど、これからは手を取りお互いに想い合い未来へ繋いでいくことだろう。
そんな僕らの人生で、もうお互いを追放する事なんてない。せっかくなので取り合った手はもう離れてしまわないよう、リボンで固結びにして解けないようにしてみようか。
幼馴染の、これからは僕のお嫁さんの笑顔に僕も笑顔になる。
僕はこの世界で1番の旦那さんになる。もちろんフウのだ。
「ありがとう。愛している」
バトルもなく追放と結末だけの短編ですが、どうだったでしょうか。
追放ものが流行った頃に書いてみた、わたしの割と最初の頃の作品です。書くきっかけは、追放ものがあまりにも単調なものばかりで、ざまぁさえ出来ないし、そんな邪な考えを持ったことを悔やんで、最終的にはハッピーエンドになるようなものを書いてみようって思ったからです。
2023.2.26 の今日に自分で読み返してみて割と好きな作品だと思います。
自分で書いて何言ってんだって思うかもしれませんが、面白かったと感じていただけたら、評価などお願いします。
レビューだと小躍りして喜びますっ。あと他の作品も良かったらみていってくださいねっ。