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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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67.女子会

 季節はあっという間に秋へと変わった。結婚式までもう問題を起こすなと、今まで以上にピリピリしているカイルのおかげなのかどうなのか……夏の間私は穏やかに過ごすことができた。


 明日はめでたく私とエイデンの結婚の儀!!

 ということで、来賓としてフレイムジールを訪れているクリスティーナとアイリンにジョアンナを加え、女子会の始まりだ。


「きゃぁぁぁぁ」


 女子会スタート早々、よく晴れ渡った秋空の下に明るい悲鳴が響き渡った。


「そんなに騒がないでよ!!」


 少し頬を染めたジョアンナが、悲鳴の主であるクリスティーナからプイッと顔を背けた。


「そんなことできませんわ。これは大事件ですもの。ね、レイナ様、アイリン様」


 興奮したクリスティーナに同意を求められ、アイリンと顔を見合わせてクスッと笑った。

 

「確かに大事件ですよね」


「そうですよ。まさかジョアンナ様がアラン様と婚約されるなんて!! 驚きですわ」


 興奮しすぎて立ち上がってしまったクリスティーナを見ながら、私も初めて聞いた時は紅茶が鼻から出ちゃった事を思い出して笑ってしまう。


 そう……夏の間は穏やかに過ごしたけれど、大きな出来事がなかったわけではない。夏の間の出来事の一つが、クリスティーナとの関係の変化だ。


 大国会議での騒ぎの謝罪のため各国をまわる兄夫妻に伴い、クリスティーナもフレイムジールへとやって来た。


「レイナ様にお土産ですわ」


 そう言ってクリスティーナがくれたのは大量のサボテンだった。


「今度一緒に食べましょうって約束しましたよね」


 そう美しい笑顔で言われ、一緒にサボテンステーキを食べた日から、なんだかんだとクリスティーナと仲良くしている。


 あんなにクリスティーナのことを「あざとい」と言って嫌っていたジョアンナですら、クリスティーナのサボテン攻撃を受け、いつの間にか馴染んでしまった。


 もう一つの大きな出来事は、ジョアンナとアランの婚約だった。


「私、アランと結婚することにしたから」


 いつの間にか日課になってしまったジョアンナ、レオナルド、アランとの朝食の席で突然ジョアンナはそう宣言した。


 飲みかけの紅茶を思わずブーっと吐き出してしまいそうになるのを無理矢理我慢したせいで、鼻の中に紅茶が入って強烈な痛みに襲われる。


 とりあえず別室へ移動してしっかり鼻をかんで、紅茶を出しきった。


「ジョアンナ、本当ですか?」

 戻るなり質問する私に、「本当だよ」とアランが満面の笑みを浮かべて答えた。


 信じられない……アランってば、全く相手にされてなかったのに。昨日まで特に何も言ってなかったのに、いきなりどうしちゃったの?


 不思議で不思議で仕方ないけど、ジョアンナ様が嬉しそうだから私も嬉しい。


「おめでとうございます。レオナルド様は知ってたんですか?」

 

「昨夜聞きました。エイデンも一緒にね」


 そっか。昨夜エイデンが部屋に戻って来るのが遅かったのはそのせいだったのね。残念。待ちきれなくて先に寝ちゃったせいで、エイデンの反応が分からなかったわ。


「お祖父様は、何て言ってましたか?」


 エイデンの反応も気になるけれど、やっぱり一番気になるのはお祖父様の反応よね。


「すごく喜んでましたよ」

 アランが自信満々な様子で答えた。


 その横でレオナルドが微妙な顔をして首を傾げている。


 お祖父様が大喜びだったかどうか不明だけれど、反対してなかった事は確かなようだ。ジョアンナの気持ちが変わる前にと、その後すぐに二人は婚約した。


「前にお会いした時は、絶対にアラン様と結婚なんてしないっておっしゃってたじゃないですか?」


 少し落ちついたのか、椅子にきちんと座り直してクリスティーナが言った。


「仕方ないじゃない。あんなに毎日毎日好きだって言われたら、なんか好きになってしまうもんでしょ」


 そっぽを向いたままジョアンナがボソッと呟いた。真っ赤な顔になっているジョアンナは、いつもよりしおらしくて可愛らしい。


「そういうもんですかぁ?」


 クリスティーナはさっぱり分からないという表情をしている。


「わたくしはどちらかと言うと、毎日毎日好意を伝えられると面白くないですけど……」


「それはあなたが、蔑まれたい願望持ってる変人だからでしょ」


 そう言ったジョアンナの横で、えっ? と驚いた顔でアイリンが固まってしまった。


 聞いてもいいんだろうかと戸惑った様子のアイリンに、クリスティーナは自ら進んでエイデンから蔑んだ目で見られるのが好きだと言う話をした。


「まぁ……」

 アイリンが驚いた声を出す。


「そういう性的嗜好の方がいるという話は聞いたことがありましたけど、まさかクリスティーナ様がそうだったなんて……」


 性的嗜好って……なんだかちょっと言い方が大げさな気もするんだけど……

 

「待ってください!!」


 クリスティーナがアイリンにキリッとした顔を向けた。


「わたくしは蔑んだ目で見られたいだけで、マゾって言うわけじゃありませんわ」


「違うんですか?」

 アイリンが首を傾げた。


「全く違います。わたくしには精神的にも肉体的にもいじめられたい願望なんてありませんもの。」


「でもゴミを見るような目で見られたいんですよね?」


「そうです」


 そう答えたクリスティーナの頰がポッとピンクに染まった。


「ごめん……さっぱり分かんないわ」


 ジョアンナの言葉に私もアイリンも頷いた。


「あ、言っておきますが、蔑んでもらえれば誰でもいいってわけじゃありませんからね。わたくしが興奮するのは、男前の冷たい瞳だけです」


 そうきっぱりと宣言されても……コメントに困ってしまう。そもそも冷たく蔑まれるって、私的には嫌な事だもんなぁ。


「エイデン様の冷めた目は最高ですわ。あの綺麗なチョコレート色の瞳の中に、わたくしを軽蔑するような冷たさが含まれて……」


 クリスティーナがエイデンの顔を思い出しながらうっとりとした表情を浮かべた。


 ははっ……

 なんだか複雑。エイデンを褒められているのに、褒められている感じが全くしない。


「ちょっと、あなたエイデンにはもう未練はないって言ってなかった?」


 心配するような口調でジョアンナが尋ねた。


「未練なんて全くありませんわ。レイナ様のことを見てるエイデン様のあのとろけたお顔。あれを見てしまったら……正直幻滅ですわ」


 よかった。幻滅してくれてありがとう。

 

「まさかクリスティーナ様がこんな方だったなんて……」

 アイリンが苦笑している。


 本当に。あのあざといクリスティーナはどこへいってしまったのかしら……


「あぁ、どこかにわたくしの理想の男性はいないのかしら……」


「冷たい瞳でクリスティーナ様を見る男前ですかぁ……」

 アイリンが顎に手を当て考えこむ仕草を見せた。

「ダメです。全く思いつきません」


「そうなのよ!! 残念ですが、わたくしに冷たい目を向ける方なんていないんです。どちらかと言うと皆さんわたくしを甘い瞳で見つめてらっしゃるから……」


 心底つまらない様子でクリスティーナがため息をついた。話している内容は本当のことだろうけど、なんだろう、もやっとする。きっとジョアンナもアイリンも私と同じ気持ちなんだろう。なんとも言えない表情をしている。


「その特殊な性癖をもっとオープンにすれば、冷たい目で見られることも増えるんじゃないですか?」

 アイリンの言うことももっともだ。


「そういうプレイもあるわよね」

 とジョアンナも納得している。


 まぁプレイと言うとなんだか響きにいやらしさが入ってしまうけれど、クリスティーナが蔑んでとお願いしたら、喜んで協力する人は多いだろう。


「クリスティーナ様が蔑すまれたがってると分かったら、冷たい瞳で蔑む男性が大発生しそうですね」


 舞踏会で男性陣が競ってクリスティーナに冷たい視線を送っている様子を想像して思わず笑ってしまう。


「それも楽しそうですけど……無理ですわ」

 残念そうな顔でクリスティーナが首を振った。


「わたくしはサンドピークの姫なんですよ。サンドピークが大変な時に、お兄様達に余計な心配をかけられませんわ」


 たしかに今サンドピークはゴタゴタしているみたいよね。大国会議の最中に騒ぎを起こしたことで、国としての評判もガタ落ちみたいだし。


「やっぱりレイナ様に嫌がらせをして、エイデン様に虫けら扱いされるしかないかしら……」


 お願いだから絶対にやめて〜!!


 バラが見頃を迎える庭に、楽しい笑い声が響く。

 

「でもわたくしだけじゃなくて、隠してる性癖が皆様にもありますよね?」


 いやいや、私にはないけど……


「私は別に隠してるわけじゃないけどゴリゴリのマッチョが好きよ」


「ゴリゴリのマッチョ……」


 ではなぜガリガリとしか思えないアランと婚約したのかと、私達の疑問の視線がジョアンナに注がれる。


「まぁたしかにアランは腹筋の面では不満としか言いようがないわ。でもね……」


 ジョアンナが瞳を輝かせ身を乗り出した。秘密の話をするように、ちょいちょいっと私達を手招きする。


「アランは腹筋はダメだけど、お尻は最高にキュートなのよ」


「お尻!?」


 耳を寄せた私達は、ジョアンナの言葉に思わず大きな声が出て、慌てて口を塞いだ。


 話しても話しても……話題が尽きることのない私達の女子会は続いていく。

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