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思い出しちゃダメ!? 溺愛してくる俺様王の事がどうしても思い出せません  作者: 紅花うさぎ


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51.今年最後の夜に

「どうかしら?」


「とってもお綺麗ですよ」


 我ながらいい感じに仕上がったなと思っていると、鏡越しにビビアンと目があった。今夜年末最後の夕食を皆でということで、選んだのは薄紫の落ちついたドレスだ。ヒダが多く、ふわっと柔らかいスカート部分が特にお気に入りだ。丁寧に編み込まれた髪の毛には濃紫色の花と、淡いピンク色の花を飾り付けた。


 うん、大丈夫。泣きすぎて目がはれてたらどうしようって心配してたけど、大丈夫だったわね。


 エイデンとの別れが決まったのはもちろん悲しかった。だけど思いのほかあっさりと受け入れられたのも事実だ。昨夜が病み上がりだったのもよかったのかもしれない。一晩中泣いて過ごすはずが、ベッドに入るやいなや眠ってしまったのだ。


 時間が来たので指定された部屋へと向かうと、先に部屋へ来ていたレオナルドが私を見てにっこりと笑った。


「とっても綺麗ですよ。そのドレス、とてもよく似合っていますね」


 それなりに自信はあったけど、褒められるとやはり嬉しい。


「私も褒めてもらえるかしら?」


 その声に振り向くと、真紅のタイトなドレスを身に纏ったジョアンナが、父であるジョージと共に部屋に入ってきたところだった。


 腰に手をあてレオナルドに向かってポーズをきめるジョアンナは、とてもゴージャスで圧倒されてしまう。


「大人の色気っていうんでしょうね。とても素敵ですよ」


 レオナルドの言葉にジョアンナは満足そうに頷いた。


「でしょ? だけどお父様にはこの良さが分からないみたいなのよね」


「別に悪いとは言っとらん。ただ年を考えて少しは落ちついた格好をしろと言ったんだ」


 一足先に席に着きながら、ジョージは難しい顔をしている。


 エイデンが来て全員そろった事を確認したジョージは皆に席に着くよう促した。すぐにグラスにワインが注がれていく。テーブルには年の締めくくりにふさわしいご馳走が並べられた。


「こんな風に皆で過ごせるなんて、何だか嬉しいわね」


 上機嫌のジョアンナのワインの減りは早い。そのせいか、段々と皆の口調がキツくなりハラハラする時もあったけれど、とても楽しく笑いのある夕食タイムだった。


「来年はお父様も私のところに遊びに来たらいいわ。どうせ暇なんだから」 


「お前の城に行ったら腹が立つ事が多すぎて耐えられん」


 ジョアンナとジョージのやりとりを聞いて、私も恐る恐る口を開いた。


「あの……私もジョアンナ様の所に連れて行っていただけませんか?」


「ええ。もちろん大歓迎よ。いつでも遊びに来なさい」


「あの、そうではなくて……」


 私が行きたいと言ったのは、遊びにではなくメイドとして城に置いて欲しいという意味なのよね。


「私はこの城に来るまでメイドをしていたと聞いたんです。ですからこの城を出たらどこかでメイドができたらなって思ってて……ジョアンナ様のお城で働かせてもらえませんか?」


「この城を出たらって……お前何言ってんだ?」


「だってエイデン。私達正式に婚約解消してお別れするのに、いつまでも私が城にいたらおかしいでしょ?」


「は?」

 その場にいた全員の視線が私に集まった。 


「正式に婚約解消ってどういうことよ?」


 なんでジョアンナが身を乗り出して驚いてるの? レオナルドもジョアンナも知ってたんじゃない。


 助けを求めるように隣に座るエイデンを見ると、エイデンは眉間に皺をよせて私を見つめている。エイデンの鋭い視線があまりにも痛くて、思わず俯いてしまう。


「……エイデン、ごめんなさい。私達がお別れすること、まだ話したらいけなかったかしら?」


 もう皆知ってるだろうからと思ってつい言っちゃったけど、もしかしたらエイデンは自分で報告したかったのかもしれない。


「お別れって、なんでそんなことになってんだ?」


 驚きと苛立ちの混じった顔で、エイデンが大きな声を出した。


 なんでエイデンが驚いてるの? エイデンが驚いていることに、私の方が驚きだ。


「なんでって……昨日そう話したじゃない」


「はぁ? そんな話……」


 エイデンが何かを言いかけたが、ジョージが割って入った。


「エイデン!! 少し黙っていろ」


 エイデンはまだ何か言いたそうにしながらも、逆らうことなく口をつぐんだ。


「レイナ……どういうことか説明してもらえるかな?」


 説明って言われても、そんな大した話は何もできない。ただ私達の結婚はなくなった、それだけだ。


「だから何でそんな話になってるんだよ!?」


 エイデンが苛立ちながらテーブルを拳で叩いた。テーブルの上の皿がガチャンと大きな音をたてる。


 なんでって……


「最近エイデンの様子が少しおかしかったでしょ? だから昨日の朝ジョアンナ様とレオナルド様に相談したんだけど……」


 昨日の朝のジョアンナとレオナルドとの話、そして夜のエイデンとのやりとりをざっと話す。


「はぁ……」


 黙って私の話を聞き終えた4人がそろって大きなため息をついた。


「エイデン……本当にあんたってダメな男ね。見た目ばっかりよくても、そんなんじゃモテないわよ」


「俺のせいじゃないだろ。そもそもお前達がレイナにいらないこと吹き込むからこんなことになったんだろ」


 えーっと……

 ぎゃいぎゃいと言い合うエイデンとジョアンナを見ながら、置いてきぼりをくらったような気分になってくる。


「おい、エイデン!! レイナはこう言っとるが、お前はどうするつもりなんだ?」


「……くそっ」


 ジョージに言われ、エイデンは勢いよく立ち上がった。


「行くぞ」


 エイデンは私の腕を強引に引っ張り上げるけれど、食事の途中で退席するなんて失礼よね? 戸惑いながらジョージを見ると、別に咎めることなく大丈夫だと言っているように頷いた。


「ごゆっくり」


 ひらひらと手を振るジョアンナ達に見送られながら、廊下を引きずられように進んでいく。


「エイデン、痛いわ」


 掴まれた二の腕が引っ張られて痛い。それでもエイデンは私を振り返ることなくずんずん進んでいく。とうとうエイデンの私室まで引きずられ、ドアの中に押入れられてしまった。


 バタン。

 ドアが盛大な音を立てながらしまると、やっと私の二の腕も自由になった。ほっとしたのもつかの間、バンとエイデンが両腕でドアを叩く。


 大きな音に身体が反射的にびくっと動き、胸元で両手を握り合わせる。気づくとエイデンの両ひじとドアの間に閉じ込められていた。


「おい!!」


 息がかかるほど近い距離でエイデンに覗きこまれて思わず息がとまる。澄んだチョコレート色の瞳に見つめられて体が熱くなってくる。その熱に耐えられなくなり視線を外した。


「おい、こっち向けよ」


 こっち向けって言われても、そんなに顔が近くにあったら向けませんから。緊張で体がかたくなる。


 と、突然エイデンがポケットから小さな箱を出し、私の前でそのパカっとあけた。


「これって……」


「本当はお前の誕生日にプロポーズする予定だったのに、お前がなかなか帰ってこないから渡すのが遅くなっちまったじゃねーか」


 箱の中には大きな赤い宝石のついた指輪が入っていた。宝石の黒みを帯びた赤い色が、炎を纏ったエイデンを思わせる。


 驚いて手の出ない私の左手の薬指に、エイデンが指輪をはめた。


「全く変な勘違いしやがって、俺がお前と別れるわけないだろ」


「じゃあ……じゃあなんで婚約解消するなんて言ったりしたの?」


「それはお前が、俺より前の俺の方が好きだからだろ? 俺以外の奴との婚約を解消して何が悪い?」


 そのややこしい理由は何なの? エイデンは記憶がなくなる前の自分と、今の自分は別人だと思ってるってこと? 


 確かに今と前のエイデンは少し違うわよ。でもだからって、昔の自分にまで嫉妬するとかありえない。おかげでだいぶ無駄な涙を流しちゃったじゃない。


「レイナ、俺はお前が好きだ」


 エイデンの言葉がすぐには信じられなくて、思わずエイデンの顔を見つめた。 


「お前が好きだ」


 エイデンの低く甘い声が、今度ははっきりと聞こえた。突然の告白に、うまく言葉が出てこない。


 どうしよ、嬉しい。嬉しすぎて涙が……


 流れ出た涙にそっと口付けるように、エイデンの唇が頰に触れた。


「俺の嫁になるだろ?」 


 涙でぐちゃぐちゃになりながら、夢中で首を縦に振った。ふっとエイデンが軽く笑いながら私を引きよせる。


「まぁお前が嫌だと言っても、俺はお前を一生手離すつもりはないけどな」


 夢みたい……

 そう思いながら、夢じゃないことを確信したくて力いっぱいエイデンにしがみついた。

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