31.友達
「本当に素敵なお庭ですね」
アイリン自慢の庭は、見たことのない綺麗な花が咲き乱れている。
「アストラスタ特有の花なんですよ」
アイリンが一つ一つ花の名前を教えてくれる。
「レイナ様がお花好きな方で嬉しいです」
舞踏会の翌日もエイデンは大国会議に出席している。その間私は、約束通りアイリンとお茶タイムだ。
「いい香り!! もしかして紅茶にもお花が使ってあるんですか?」
アイリンがその通りだと頷いた。
「素敵です。アストラスタが咲き匂う国だと言われているのも納得ですね」
「アストラスタは豊穣の女神が治める国ですから」
「いつかアイリン様も女神になるんですよね?」
頷いたアイリンが言うには、母親である現在の女神の力が落ちてきた時に、アイリンが女神の役割を引き継ぐことになっているらしい。
「豊穣の女神はこの国に存在しているだけで大地を潤すことができます。ですから女神はこのアストラスタから出ることができないんです」
えっ?
「国から出られない?」
「はい。あっ。でも誤解しないでくださいね。アストラスタ国内は自由に動けるので窮屈な思いとかはしませんから」
アイリンは別に何も気にしていないように明るく笑った。
「じゃあアイリン様が女神を引き継ぐ前に、フレイムジールにいらしてください。今度は私が美味しいお茶をおいれしますから」
「嬉しい。約束ですよ」
アイリンが本当に嬉しそうに笑ってくれたので、私まで嬉しくなってしまう。
「そう言えばこちらに来る途中でエイデン様にお会いしました。何だかわたくしに聞きたいことがあったみたいなんですが……他の方がいらっしゃったので話が中断してしまいました」
大国会議に向かう途中で会ったエイデンの様子が少しおかしかったらしい。何かあったのかとアイリンは心配している。
ふーん。エイデンってば、まだ悩んでるんだ。
思わずふふっと笑いが出てしまう。
「エイデンは昨日の昼の事を聞きたかったんだと思います」
エイデンには、昨日の昼にアイリンとクリスティーナとジャスミンと話したとだけ言ってある。おそらく一番聞きやすいアイリンに、私達がどんな話をしたのか聞きたかったんだろう。
「きっとエイデンとクリスティーナ様が婚約していたことを、私が知っているかどうか確かめたかったんでしょうね?」
「昨夜その話はされてないんですか?」
「ええ」
アイリンに向かいにっこりと笑った。
「エイデンも私には聞きにくかったんでしょうね。私から教えるつもりありませんし」
「まぁ、レイナ様ったら」
アイリンがおかしそうに声を出して笑った。
「お姫様方、お茶もいいですが焼きたてのピザはいかがですか?」
陽気なメイドがとんっとテーブルの真ん中に大きな丸いピザを置いた。
「わぁ、美味しそう」
「フレッシュトマトをふんだんに使ったマルゲリータですよ」
たっぷりのチーズの上に、赤いトマトがふんだんにのっている熱々のピザをパクっと口に入れる。
「んー。トマトのジューシーさがたまらないです」
「アストラスタはトマトの生産も盛んなんですよ」
大きいと思ったピザもあっというまに二人のお腹の中におさまった。
「あぁ。こんなに楽しいティータイムは初めて!! レイナ様がアストラスタに来てくださって本当に嬉しいです」
私もだわ。アイリンと仲良くなれて本当に嬉しい。
ビビアンとミアはいつも私を支えてくれる大切な人だけど、立場が違うので友達にはなれない。アイリンは私にできた初めての友達だ。
「私もアイリン様と友人になれて幸せです。これからも仲良くしてくださいね」
嬉しそうに笑ったアイリンと、日が沈むまで飽きることなくおしゃべりを続けた。
☆ ☆ ☆
「皆様のおかげで無事に……」
アストラスタ女王が、大国会議終了と晩餐会の始まりを告げる挨拶をしている。
明日にはフレイムジールへ帰るのね……
旅の終わりを感じ、少しセンチメンタルな気分になる。
「乾杯」
女王のかけ声でグラスをあげると、次々と料理が運ばれてきた。
お昼にアイリンとたっぷり食べて、もう何も食べれないかもしれないと思ってたのに。私の前に置かれていく美味しそうな料理を見ると急に食欲が湧いてきた。
「アイリン姫にはレイナが大変お世話になりました」
向かいの席に座るアイリンとアストラスタの女王夫妻に、エイデンが礼儀正しく頭を下げた。
「いえ、わたくしこそ。レイナ様と仲良くなれてとても楽しかったです」
「アイリン様、次はフレイムジールでお会いしましょうね」
「それなら生誕祭の時期に遊びに来られてはいかがですか?」
エイデンは間違いなくアイリンに向かって提案した。それなのに、なぜだか返事はアイリンではない人物から返ってきた。
「エイデン様の生誕祭、わたくしも行ってみたいですわ」
えっ? この声は……
「エイデン様、是非わたくしも生誕祭に招待してくださいませ」
斜め前の席に座るクリスティーナの満面の笑みに、私の笑顔が凍りつく。
「おい!! 何言ってるんだ?」
おそらくクリスティーナの兄であろう。クリスティーナと同じ深緑色の髪をした人物が慌てて口を開いた。
「だってお兄様、わたくしがフレイムジールに行ったのはエイデン様と婚約した時だけですわ。レイナ様のせいで一方的に婚約破棄されて以来、一度も行ってないんですから。一度エイデン様の国をじっくり見てみたいです」
クリスティーナの言葉に会場がしんと静まった。
うわぁ。最悪。そんな事言ったらまずいって分からないわけ?
皆の視線を感じたのか、クリスティーナが「あっ」っと、わざとらしく口をおさえた。
「わたくしったら、ついうっかり……わたくし達が婚約していたことは、レイナ様には秘密でしたわよね」
絶対わざとだよね? 分かっててわざと私が不快になるような事言ってるわよね?
クリスティーナが今にも泣き出しそうな表情でエイデンを見つめている。エイデンの表情は……ダメだ。無表情すぎて全く読み取れない。
静まり返ってしまった晩餐会の場で、皆が事の成り行きを見守っていた。っといっても心配しているわけじゃない。大半の人はこの異常事態にワクワクしているように目を輝かせている。
なんとか波風たてずにこの場の雰囲気を変える方法はないかしら?
「レイナ様、申し訳ありません……わたくしとエイデン様の関係を不快に思われましたよね?」
誰かあの子の口を塞いでくれないかしら?
相変わらず何か言っているクリスティーナをどうするか?
うーん。仕方がない……
ここは一つ、必殺聞いてませんでした攻撃しかない。
「何かおっしゃいましたか?」
いつも以上のにっこりとした作り笑いをクリスティーナに投げつけた。
「クリスティーナ様ごめんなさい。このサラダがあんまりにも美味しくって……お話聞き逃しちゃいました」
申し訳なさそうな顔を作り、クリスティーナにペコリと頭をさげる。
「それにしても、綺麗なのに美味しいってすごいですよね。食べられる花があるのは聞いた事があったんですけど、こんなに甘いなんて知りませんでした」
色鮮やかな花が数種類も入っている美しいサラダの中から、ピンクの花をフォークで刺して持ち上げる。
パクリ。
エイデンが勝手に私のフォークを口に入れた。
「本当だ。美味いな」
もう……エイデンったら。でもこれいいかも!!
「エイデン、こっちは少し酸味があるのよ。食べてみて」
フォークで刺した黄色い花をエイデンの口元へ運んだ。
「花の色で味が違うなんて、とても面白い」
「お口に合ってよかったです。これはベルフラワーと言って、最近アストラスタで開発した食用花なんです」
エイデンの言葉にアストラスタ女王夫妻も嬉しそうだ。エイデンや女王夫妻がアストラスタの特産品などについて語り合いはじめたのを見て、ふうっと胸をなでおろす。
それにしても……
横目でチラリとクリスティーナを見る。クリスティーナは楽しそうに笑っているけど、一体何を考えているのやら。
あの天使のような笑顔の下に、悪意が見えるような気がするのは私がひねくれているからかしら?
何にせよ、楽しい晩餐会の雰囲気が壊されなくてよかった。そう思いながら、最後のデザートまで残す事なく楽しんだ。




