14.誘拐犯
あー、よく寝たぁ。
エイデンから、誘拐されてたんだし何も気にせず好きなだけ寝ていいと言われたから時間を気にせず朝寝しちゃったわ。寝過ぎて体が痛いくらいよ。
凝り固まった体を伸ばすように、寝転んだまま大きく伸びをする。
本当に、ふかふかのベッドって最高!! いくらでも寝れちゃうわ。
せっかくだし、二度寝しちゃおうかなっと考えている私の耳に、クスクスっという上品な笑い声が聞こえて来た。
誰かいるの?
慌てて体を起こすと、なぜかベッドの横にはレオナルドの姿が。しかもくつろいだ様子で本を片手にお茶を飲んでいる。
「おはよう、レイナ。よく眠れたみたいですね」
「ど、どうしてレオナルド様が私の寝室にいるんですか?」
ちょっと待ってよ。私はまだ顔も洗ってなければ、パジャマのままなのよ。こんなひどい格好見られたくないんだけど。
「レイナに会いに来たんですよ」
私を見てレオナルドはにっこりと笑った。
会いに来るにしても、今じゃなくていいのに。
きっとレオナルドに押し切られたのだろう。レオナルドの横ではビビアンとミアが申し訳なさそうな顔をして立っている。
まぁいいか、先に身支度を整えよう……
洗面台に向かおうとしていると、部屋のドアを叩く音がする。入って来たのはカイルとマルコだ。
「おはようございます」
「レオ様、こちらでしたか……」
私がまだ寝起きの姿であることなどお構いなしに、皆は談笑し始めた。
再びドアを叩く音がして、今度はエイデンが入って来た。寝起き姿の私と、人口密度が高くなった寝室の様子を見てふうっと一つため息をつく。
「なんて格好してるんだ」
エイデンが咎めるような目で私を見た。
これって私のせいなの?
わざわざ寝起きの私の部屋に皆がおしかけて来たんじゃない。っと言ってもはじまらない。
「顔を洗って来るわね」
「待て。とりあえず何か上に羽織っとけ」
エイデンがビビアンをチラリと見ると、すぐさまビビアンが私にガウンを羽織らせた。
「残念。ナイトドレスのままの方が可愛かったんですけどね」
「おい、レオナルド!! レイナには絶対に手を出すなよ」
全くエイデンったら。一体何を心配してるのやら。バカバカしくてツッコむこともできないわ。
顔を洗って戻ると、エイデンまで座って何やら熱心に話し込んでいる。これじゃあここで着替えるのは無理そうね。
仕方なくビビアンと別室で身支度を整えて戻ると、エイデンとレオナルドは笑いながら優雅にお茶を飲んでいるところだった。二人の横にはそれぞれカイルとマルコが立っている。
「もういっそのこと、アーガイット家なんて取り潰してしまえばいいじゃないですか?」
「ですがレオナルド様、あの大臣が取り潰しをすんなり受け入れるとは思えません。手段を選ばず抵抗されれば予想できない被害を被るでしょう」
「では抵抗される前に大臣を処刑してしまうってのはどうでしょう? まぁ処刑となると手続きは面倒ですから、こっそり消してしまう方が早いでしょうけど……」
ちょっと待ってよ。皆の雰囲気と会話が全く噛み合ってないんですけど。
どう見ても楽しそうな男4人の場から、穏やかではない話が聞こえてくる。
「まぁ処刑にしろ取り潰しにしろ、まずは大臣夫妻とウィリアムを取り調べてからだな」
「えっ!? ウィリアムを取り調べって……」
私に気づいたエイデンが立ち上がり、隣の椅子をひいて私を迎えた。
「ねぇ、エイデン。ウィリアム様を取り調べるってどういう事?」
「お前を誘拐した奴らと繋がりがないか今調べている所だ」
ウィリアムが誘拐犯と繋がってる? 嘘でしょ?
「なんで? ウィリアム様があんなガラの悪い人達の仲間なわけないじゃない」
とは言っても、私がウィリアムと会ったのは数回だから何の根拠もないんだけど。ただガラス作りの時のウィリアムはとっても真剣でいい顔をしていたから、あんな人達の仲間だなんて信じたくないだけかもしれない。
「レイナにも伝えようと思っていたのですが、レイナの誘拐を企てたのはエリザベス嬢だったんですよ」
へっ?
私の誘拐を企てたのが、エリザベス!?
「エリザベスって……ウィリアム様の妹の、あのエリザベス様の事ですか?」
エリザベスと話したのは一度だけ。私のお披露目会の時だけだ。
彼女の腰まである金色の髪は光輝いてとても綺麗で柔らかそうに揺れていた。透き通るような白い肌に、薄いピンク色のドレスがよく似合い、同性の私から見ても思わず見とれてしまうほどだった。
あんな人形のように可愛らしい女性が、野蛮な誘拐犯と繋がっている!?
「そうです。そのエリザベス嬢です」
逃げて行った誘拐犯をつけていたクロウという名のレオナルドの忍びが突き止めた情報なので、まず間違いはないそうだ。
「でもどうしてエリザベス様が私を誘拐なんてするんですか? 私、そんなに嫌われるような事をした覚えはないんですけど」
「エリザベス嬢は幼い頃からエイデンに夢中でしたからね。レイナさえいなければ、自分がエイデンと結婚できると思ったのでしょう」
「悪かったな。俺のせいでレイナに怖い思いをさせてしまった」
別にエイデンのせいじゃないのに。私に頭を下げるエイデンの顔は暗い。
「城内にいたエリザベス様の協力者もすでに排除しましたし、これでもうレイナ様が狙われることもなくなったじゃありませんか」
元気のないエイデンを励ましたいのか、カイルの声はやけに明るい。
たしかにもう狙われることはなくなったんだから喜ぶところなのよね。でも何だかとっても切ないわ。
エリザベスは私を誘拐するという暴挙に出るほど、エイデンのことが好きだったのね……
「……レイナ? 大丈夫か?」
いつの間に俯いていたのか、顔をあげるとエイデンが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。
いけない、いけない。つい自分の世界に入ってたみたい。
「大丈夫よ。ただちょっとビックリしちゃっただけ」
「ならいいんだが……悪いな。一緒にいてやりたいんだが、まだやらなきゃいけないことがあって出かけなきゃならないんだ」
そう言ってエイデンが私の頭を優しくなでた。
「大丈夫ですよ。私がレイナの側についていますから」
私が口を開くより早くレオナルドが答えた。
「レイナが望むならば、エイデンの真似をすることもできますよ」
「はぁ? なんだそれ?」
エイデンがおかしそうに声を出して笑った。
「結構上手だと思いますよ。レイナだって、初めて会った時にはエイデンだと思って抱きついて来たくらいですし」
んっ? 何だか嫌な予感が……
エイデンの責めるような視線を感じ、思わず目をそらすと、ビビアン達のあちゃーっといった顔が見えた。やましい気持ちなんて全くないのにあわあわしてしまう。
「あ、あれは森の中で暗かったし、エイデンが双子だなんて知らなかったから……そ、それにすぐ別人だって気づいたわ」
「抱きついたのは、本当なんだな……?」
エイデンの声があまりに冷静で、思わず背筋が伸びる。
「そ、それは……」
この場合、どう答えたらいいんだろう。何を言っても言い訳みたいになっちゃうから、謝るのが正解なんだろうか?
「レイナ」
エイデンが私の肩に手を置いた。エイデンの熱い息が私の耳にかかり、体が緊張で固くなった瞬間……
カプッ
左耳が甘く噛まれた。
あっ……
身体中に熱い電気が走り、顔がかぁっと赤くなる。
「俺とレオナルドを間違えた罰だ」
耳元で囁き部屋を後にするエイデンを見送る私は、体中の力が抜けてクラゲのような状態だった。




