外れた車輪
未完成です。終わり辺が字数調整出来ず苦戦しているので近い内に完成させます。
偽善者というのは、如何に人類が傲慢であるかを説明するのに最適な名である。
幾つか、人生において忘れてはいけない事がある。
その一つは、人の死はそう遠くない事。人は生まれれば死を用意されているのが大半である。死を引き伸ばす手段はないが、殺されないように対策するというのは幾つかある。しかし、死に触れないせいで死を軽々しく考え、騙る者。及び死を恐れず、覚悟一つで人生を捨てるつもりの者。その二種は決して忘れてはならない事がある。
それは、生き続けた方がチャンスはあるという事だ。塞ぎ込む様な真似はよくない。
それが真実であれば、相応しい知識と経験を持ち、気が狂う程に考え、今迄の一切さえ灰燼に帰しても進む覚悟がこの人生を決定付ける。
私の中のヒロイン、所作と外見の好みの基準である彼女は私にとっては言うまでもない、という美しさと愛らしさであった。死んで尚、私を変え続ける原動力の一つでもある。
人の死に際には慣れるが、人の死の余韻にはどうも慣れず、過去をより振り返り、重ねて、苦しむ事になった。彼女の死は私をいつも縛り付け、心臓の痛みとなる。しかし、それでしか彼女を感じれないも事実だ。
2008年、8月終わり頃。私が唯一立っている彼女を見た時だ。私は祖母の家に預けられ、祖母を欺き、彼女に接していた。幻想の様であったが為に、私はこれが真実であるかどうか、知る手段を持っていない。
だが、私が示さずとも彼女は示した。私は彼女から受け取った物を大切にしたが、溜め込み癖のある私の物を捨てる際、普段は確認する筈が珍しく確認せず、不幸にも捨てられた。ちょっとした、祭りにありそうな指輪だった。それ以来、憐憫や敬愛はあるもののどこかしら私は失望したまま接していた。
神社で年一で行われる祭りで、彼女と会う。この時は弱虫な私を気丈に支え、私を癒してくれる存在であった。彼女は運が良かった。くじは買えない様にされている程で、ボランティアの店か、小細工で最初から当たらない店のみが良しとしてくれるだけだ。
人形を触るが如き、私は彼女に何らかの憐憫を抱いていた。数奇な運命である。彼女は幸運を抱えていたものの、それが全体に及ぶものでなければ、私といたからという理由があった。
大抵の優しい人は、彼女ではなく私に注目した。恭しく、物静か、そういう印象しか抱かなかったのだろう。礼儀正しいかどうかは別として、愚かさや鬱陶しさがなければ大抵絡みもしないのだ。私は現状に満足し、それ以上を欲しもしなかった。
飽いた向上心は穏やかを私に与えた。諦めとも言い難い、妥協に近いものであった。
孤独の楔、私はそう呼んでいたものがある。兄弟の有無である。
彼女は魔性であった、無意識に年上かの様な意識を持ち、コンプレックスとしてでは無く、安堵感として享受したせいか、私は依存に近い形で彼女を見ていた。向こうはそう思っていないそうだが・・・。
運命的な何かしらに背中を押される様に私は導かれ、描写もされない宴に耳を傾ける。彼女の膝は、民家の庭近くの様であった。
家族を家族と感じれないというのは病の様ではあるが、治すつもりにはなれない。孤独は多人数ではなく、唯一の相手を以て救われる。静けさではなく、騒がしさでもない。暖かな心を望む、それが現実にとって最も優れていた。
光明の刺す夕暮れの事、流しそうめんの竹に流れる水を眺めていた。神社の地面に合わせて急に落ちるそれはどうも嫌に思える。取れるかどうかを怪しくさせる、不幸の象徴の様なものであった。しかし、その後は緩やかに落ちていくせいか、比較的安堵に近い感覚を覚え、多少はマシな状態になると。しかし、麺が僅か勢いづき、零れやすい部分に置いたバケツに落ち、ちょっとした怒りが残る。
少し夜になると、花火が近くに設置される。市販の持ち寄り、限界集落とは言わないが老人ばかりの場所に相応しい、少ししみったれた花火だ。
だから私は目を逸らした、メガネの端は、いつも私に良い予感を伝えてくれる。目の輝く横顔が印象に染み付く、最早あれ以外何も見れない。花火は既に背景であったが、彼女の顔はそれ以上に私を引き込む。
こうして私は性格を捻じ曲げられていくのだ、それに悪い気は一切しなかったのだが。
存在が優越感と安堵感を与えられるというのは珍しく、多少調子に乗った。
甘く、優しい彼女。唯一の心の拠り所。
捨てるという事すら考えれない、私の唯一の癒しである。だが私は数多くを抱え込んだ、それよりも大きく、重いものを。
ここにはもう一人、私の姉の様な人物である物部静という人物がいた。七歳年上の姉の様な人物だ。抱き締めるとか、それ以上の事をするとか、頻繁に身体を触ってきた。孤独に弱い私には非常に有り難い存在で、膝の上に座っては脇の下から手を通され、動かない様に抱き締められては、後頭部は胸に押し込まれ、それに背や首を曲げ同意する。だからハグや胸は好ましかった。
悪意に照らされる私はこの様な逃げ場を求めるものの、今も尚大人を信用しない程となり、いつもの様にここで癒されていた。
水面に触れると穏やかで、手にかければひんやりと、少し怯えた私に彼女は手首を掴んでまで触れさせ、終わると慰める、恒例の様に。
そういえば、ヴェルサイユに住まう王族の暮らしは儀礼的であったらしい。私はそれに近い事をしている。北極星が見える夜に、彼女の方ばかり向いてしまう。自然の摂理ではあるが、無意識も数多く行動原理に影響を与えた。喜怒哀楽が儀礼的なものとは思えない、彼女も何らかの意図があって私に触れているのだろう。
ヒトが贅沢を喜ぶ理由は何であろうか、自分の体に負担をかけず、尚且つ相手にも恵まれる。動物も種類によっては争いをセックスで止めるものもいる。
人間は生きるべく最低限を果たそうとする能力はあるが、過度な贅沢により死んでしまう事を防ぐ能は無い。自然で行えば餌が残らなくなる等して続かないのだが、段々と変わっていくのが人間だ。
質素倹約は大抵の人には難しい、情報過多を苦とする人がそうするという可能性もあるが、私はきっとそう出来ない。目の前の贅沢から手を離せない。
彼女を本当に愛しているのかと疑問を抱く、自分自身を表面に表せるのは彼女だけであった。それが不思議と切り捨てている様に思えた。
神社の神様に偉大さや畏敬を抱いていたとしても、性欲をそそられる者は少ない。不思議と彼女は遠かった。
穏やかこそここの本懐なれば、私は古き相手を良く思う。だが、今日はさして語るまい。酩酊や泥酔がそれを正しく導くには難儀するだろう。
必要十分を求めるというのは少し酷だ。私はそういう愚行を未だに払えずにいる。
括り付けられる感触は傷にしては浅いものの状況を考えるとより大きい失望になる。魑魅魍魎を拭うのは難しい、しかし、それを行おうとしないというのはより自分を苦しめる。
全ては自分の行いであると、そう影の様な私の心は囁くのだ。
そんな私の心を傷付ける出来事がもう一つ。唐突な別れである。姉の様な存在がいつしか会えなくなり、自分に何が起きたのかも分からないままに自己の責任にしたのだ。
さらば今日の夕焼け、私は日を背に、前進し、月を目指す。それがこの顛末であった。
上流階級擬きにありがちな些事に彼は気付けなかったのだ。
涙の道を辿ろう、男が女と話す際に正論で固める事はない、感情とて理屈あり、賢明たるものそれを見越した上での会話が必要である。その逆も然り、数値的なのに当然という思考を読む事が女には必要なのだ。それの噛み合わなさは誓いをいとも簡単に破壊出来る。
そして、彼女等は私に接触した。
そういう物事ありきの、揺れ動く様な私の運。人生の揺れ方は私の声を聞かずに変わるのだ。眠いと思う私は穏やかであるというかと問われればそうでも無い、寧ろ苦しいと言えるのだ。諦めだ、理性がそう判断し、過去と決別しようと言うのだ。出来るだけ、思い出さない様に、出来るだけ苦しまない様に。
それの善悪はどうあれ、私を守るには逃避が一番マシだった。解決手段は常に限られている、どういう決着で終わるかは未知数、しかし、最善にはなり得ない。それを確約した上で私はこの終わりを一個の顛末とした。
過去を喪失するのは大した痛みではない、未来の喪失の方が痛みとしては強烈である故だ。
悲しむべき出来事というにはあっさりとした、それが私の懐疑心を呼び覚ます。
今文字にすれば、そうとしか言い表せないものであった。変容と変質を遂げ、最早形にすらならない。
二十日間、二十日間だ。その堕落、惰弱に煩悶し、胃腸を刺激するその地獄は、それだけ長く続いた。
脅迫、切迫・・・自分が自分を責め続ける中で、私は彼女に触れられた。
自分を誤魔化す様ではあるが、贖罪の良い機会であった。
私を救うのは、現実の他人か空想の自分しかいない。現実の私も、空想の他人も祝福はしない。人間不信に相応しい性質であった。
いい加減にしろと野次られる、それも仕方ない。そう責めるのは知りうる自分だけ。悲しみの中で私は誠実さを忘れ、冷淡になっていた。
これは重大な秘密である、ひっそりと殺されるべき記憶であり、自分がさらけ出すべきでないものなのだ。
私は死の道を辿っていると自覚した頃。痛みという証無く、それに挑んだ。だが、それは、抗うのではなく蛮勇であると、少し腑抜けて愚かになった様を考えて思い知る。
もう責める事さえ阿呆らしい。だが、幾ら考えようと誰からも責められない状況、失敗を忘れてはならない。それは最早誰も知らぬものであるから。
法とは私の目指すべき場所の様にも思えてきた頃、不完全さは何に起因するものか、檻の内外にも同じ種が存在する事だ。内側にも差異があり、パズルのピースかパネルか、それが人間の辿った道であった。
竜頭蛇尾を体現した様な、私の落ちぶれた様。悲しくも儚い、どこか慈悲を掛けたくなる様。
誰も助けようとは思うまいて、悲しみは怒りに近く、一触即発のものだ。
日本においては漆等があるせいか、黒のイメージはどちらかと言えば闇で、それは芸術品にするのには難しく、月や星の様な手元には置けないものばかりなのだ。黒という関連の深い色は器や服に合い、単品でも悪くない。
闇、これだけは駄目だ。月を霞ませる。それは明るさを奪うのだ。
瞳孔が開く、目がやがて塞がり、明日を待つ。これが今日の終わりなんだと、時間が短くなる度に自分の心が追いやられる。
諦めた様で、悟った様でもある。弥勒菩薩が悟るのは時間の問題だ、人は時間の経過と共に意識しない積み重ねを成就させてしまう・・・少しでも心が晴れれば良いのだが。
悲しみの一番恐ろしい所は形に残らない事が大半である事だ。心が唯一の拠り所であるのに、事実で裏付けられたものを思い返す事でしか贖罪出来ないのだ。
心苦しいと思う事だけと思うと自傷行為へ繋がり、自分の命にさえいつしか手を掛けるのだ。
そして、それは突然やってきて、自分の連鎖する気持ちの中だけで判断され、今の自分を放棄する。
思い出は進みを鈍らせる。
日間賀島の海苔を二枚重ね、丈夫にしてから無洗米で尚且つ水が多い米を包み、そのまま口へ運ぶ。味噌汁の熱さを我慢しつつ、朝飯とて急がない傾向にある。あまり水が多いのは好きではない。角砂糖と砂糖水の違いに近いものがある。
流動があった、与える与えられるの感触は物理化可能なもので、類似したものが多く存在し、明確な重さが存在する。基本的に意に介さない存在は異常者であり、秩序を築く際には不適合な存在になる。
悲しみを糧に、少し良い味のする米を食った。いつしかの味だ。運動後の飯といい、再現性はあるのにも関わらず、美味いのにも関わらず、私はそれの経験が多い訳では無い。薬物の様に忌避しているのかもとも内心思っている部分もある。
・・・それとも、彼女に手放された事を泣き続けていない自分の冷酷さを示しているのか・・・そう疑問に思った。
彼女への依存は自分のする事において、杜撰さが見え始めた頃に、漸く現れた。
病室の一角、結核の患者を隔離するのとは別らしく、私は彼女の隣にいた。
少し彼女が私に口出しする様になった、しかし、悪口や我儘ではない様で、私は穏やかになった。
『不道徳な経済』を読む私は社会の授業の裏を見て、騙したのか、という憤りに駆られていた。目的を持たない人物を私は破滅願望を持つ人物と考える。少し誇張した表現にも思えたが、当時の私だ、多少の疑問を持った程度に過ぎなかった。
夜の話だ、珍しく夢を見た。メアノールを使用した後の様な、鮮血塗れな夢であった。
夢の内容は以下の通りである。
靴は土で汚れたと思えば、いつの間にか裸足であった。位しか結局は覚えてなかったが。
さて、幾月か流れた後。
彼女は本当に恋人なのか、質問され続けて久しい。
今はああ、そうだとも。と同意しているが、今後どう変化するかは私には分からない。
一応、今は問題無い。その程度の認識を超える事は無かった。
香嵐渓を見て周る、偶に良い思い出があるせいで若干の抵抗感も些細なものだと見過ごす。車椅子では粗雑な石畳と若干相性が悪く、猿投温泉のコンクリートの方がマシだった。面白くもない本を売りつけてくる本屋だったり、古めかしい機械人形がある。稲武の方の様にブルーベリークレープがある訳ではないので、別の店の外にあった珍しい瓶のファンタを飲み、アイスに合う芋製品を彼女に渡し、地元のちょっとした売店で買う。秋湿りの映える、良い天気だ。日本ならではのその曇り気を片手に、もう一方を彼女に寄せ、意地悪にも飲み干してやった。
彼女を持ち上げ、身重になったなと冗談を言った所、小突かれては、離れない様にと抱き締める。
人間は後悔する際に反省点を見出すが、その行動をしたとしても直す箇所が同じとは限らない。
彼の場合は最初、怒りの強い所で、後で嬉しかった所を直す傾向にある。
雑多なエロスだ、彼女が隣にいるのはありふれている、雑多なものなのだ。ただ、少しその重さは今も昔も異なるもので、段々とそのベールに薄められつつも深まる見聞によって感慨深いものに変わる。雑多が色褪せた頃にとても雑多と言えないものになる。そう見ると、いつもの記憶とその考えは色褪せている。
彼女の顔や胸は雑多なエロスの一部であり、少し人目が無くなれば信仰心に欠けた人間の様に互いの快楽を探り出す。
彼女は鍛えれない、肌の柔らかさはその結果尋常でない程に柔らかく、看護師にも愛想が良いせいか丁寧に扱われ、高級品の良い所を適当に詰め合わせた存在である。
希少ではない、決して彼女は希少ではないのだ。だが、その精神性はかなり希少であるし、他の女と違い高尚である。彼女は友を手放さなかった、最初からいない為に、手放す訳にはいかなかった。私に恋人であると同時に友人である。彼女なりの私が持つ男性性、女性性を見出していたのだ。
辻褄合わせとも違う、彼女が私に行ってしまわない様に縋っている・・・。普段ならまだしも、彼女を愛したが為にその深刻さを受け止め、手放さない様に強く抱き、首を交わす。
首を交わす関係は、不快を与えない信頼でなければ出来ない。安心し切った関係性である。物足りないと思うのには少々早く、解決可能な範囲である。
平日、誰もいない、バスにさえ。その道程を知る者は誰一人いないのだ。
愛着があった、倒錯的だった。夜には互いの服を押し当てたりと、赤裸々に嗜好の一片をさらけ出す。誰が照らすわけじゃなし、Private room's top Secret. 六時間の密着。
キスはとうの昔に、舌を絡ませる仲に早変わり。子供から大人へ変わるのに十年もいらない。
私の初めてのセックスは然して10歳に至らない頃に完了し、一回以外はそれ以上に理解しているキスやハグに耽り、あまり行わなかった。
私は他の女性とも絡んでいたが、彼女とは決定的な違いを感じてしまうのだ。
神は初めからそれを見逃している、いや、初めから見ていたり等しないのだ。私と彼女は関係にあり、多くは語らない、言葉にする事が通常では出来ない。冷めきった関係でないと語る事は出来ないのだ。恐怖の類かもしれない、しかし、決して悪いものではなかった。
レムやメアリーは倒錯的過ぎるが故に一夜の夢に思えた。シャロは愛情が強いものの、執念というものが隠せていなかった。
本来であればそう感じていなかっただろう、しかし、既に私は彼女に惑わされ、基底に至り、固定観念に変容して、彼女でなければという体になったのだ。甘美な毒を受ける事数十秒、身も心も支配され、また、相互的にそう陥る。自分は通暁していると勘違いし、本来の姿を見失っている、それを忘れていたのだ。
芸術はここから始まる、一矢、鏑矢が誰よりも早く逃げた。それに触れようとするには遠く、届く事等有り得ない。一つ飛ばしの桂馬の気分になった。
病院端の景色は何か残るものはなく、自分の気持ちをただ把握させるだけの良い空間である。
自分は成り果てる、何れ、それへ。
氷は私を和ませない、中和はしても、私に何らかの変化を与える事はないのだ。話し掛けようと、話を聞かないならば段々離れて、興味を失う。それが現実であった。そうしてあの形成の初期は忘れ、旧い記憶として眠り、意図的にしか思い出せないものとなった。
私の恋仲の人はそれ気にしない、そういう逃げがあった。これは悪行か、善行ではないが、行動的に悪意が存在するだけで相手の気持ちに応え、相手を追い詰める事に加担する、気持ちによる悪意ではない。
恋仲であれば許される、そういう考えも過ぎった。重ねれば重ねる程に憂鬱になる。
あの星空を、黄昏星満開の、異端なる空を私は求める。最早戻れぬ道程じゃなし、道は有り得ず遠い中、足跡見ゆるは一時間。
逡巡するのは何故か。或いは私と隔絶されてしまったのか。最早考える事はなかった。
私の進むべき道は邪悪に満ちている。殺すには惜しく、挑むには難しい、その結果後者をとって、彼女の希望も聞かず、私は願いを果たす。恋愛は未経験であれ、愚かであれば分からない、不思議な罪悪感がある。敬虔であるという自覚の無さからそれに変わるのだが、混ざるだけで先の事を否定する事はなかった。誇りである、謙虚な生き方は守るべき者によって変えられ、失墜をどう考えるかは無に帰した。
それを贖罪するかどうかも、私は彼女の前では投げ出していたのかもしれない。初めては導かれるが儘に、それは何事も相変わらずであった。彼女は触れ合う程度の関係、という高潔さは思春期の前に尽く打ち破られた。UCCの黒と眼鏡で多少薄く映ったオレンジ、若干現実を見る為ならば十分な苦味を持つそれに葛藤しつつも、鎮痛剤の様な妙な依存性がある為に手放せなかった。
酔って、狂って、飲み干した。
何を以て醜悪と言うかは心の持ち方次第だ。さすれば、私は負の感情を捨てた時に醜悪言えるのではないだろうか。
私一人の為に整えられた地獄の舞台、ゴルゴダに十字架を運んだ訳ではなく、予め僅かな経緯としてピラトが十字架を置いておいた様な話なのだ。
人の信じないその話は私唯一の天与であり、至福に非ずして尚至高にあり。銀貨にさえ変え難い。
雑多な不幸を運の無さ、重大な出来事を天罰。同類のニュアンスでありながらそこには大きな溝がある様に思える。
Needed carryin'on and Course think good day...
誰かへの干渉、助け出す事の良さ。愚行にして、私の贖罪、或いは我欲であった。
その懺悔は誰に向けたかと問われれば、決して自分を否定しない人。私を責めない、心優しい人。
どの人間も蜘蛛の糸に縋る様に、自分の地位を高める、自分の為にと私或いは誰かを責める。容赦なく、薄気味悪く、おぞましく。邪悪だと一目見て分かる。その異常な害悪とは根本的に違うのだ。
敬語で話せと敬意を欠片も感じない人間に言われた時、君はどうする。敬意を払う行為をするという事自体に尊敬出来ない人を対象にする事で敬意を欠く。例えそうでなくとも敬意を払わない事で優越感を感じないという邪悪な欲望や、被害妄想による迷いから抑圧を謀っているとか、反省に関しての諸々を忘れてしまっているのだ。
私は当然や理屈を求めた。自分はこのままでは失われる。彼女は正しい。世間一般が否定するかもしれないが、世の中に頭の良い人間が多いという話がある訳ではないし、また、野生の思考が混ざっている可能性もある。
私は何よりも私の為に、そのそれなりに納得出来る悲しい正義に生きた。
彼女はあそこにいる。窓際のベッド、風入り布靡く。無防備が妙な色気を誘うが、この色気が罠には思えなかった。
下着もつけていない、中身が見える状態。自分の好みを探っては、その下を少しなぞる。
女の肌は男の肌と違った感触がする。他人の肌自体変わった癖になるものがあるが彼女も例外でなく、寧ろより強力なものである。
堪能に合わせて触らせた後に、自分はつまらないと近寄って、悪戯を返してくる。愛着を寄せては彼女を送り返す。
私はここでしか自分の幸福たりえない。ここだけは守るべき場所であり、ここで何かをしようものならば容赦はしない。
相変わらずの失望、倦怠感が渦巻く。粛々と終わるまで積み重ねた。ここは優しい場所、エルバを思い出す。現実はこれだった、ここは唯一その法則に当てはまらない、涼やかな場所だった。
病院外での話もあった。少し空気が湿っていて、あまり好ましくない。喫茶店の一角、自分の部屋の様な場所。馴染み深いが、今一つ足らない場所。湿気の管理が不足している・・・という事だ。
彼女はココアを飲むべく、両手でコップを持つ。
恋愛の詳細を吐露すると、若いが備蓄深い店員が言った。
「手塚治虫には妹がいた。また、貴方には彼女がいた。それ即ち禁欲の象徴である。寂しい人生を過ごした者にはそれがいない。彼女は正気である為の守り神である。」
こうある事が私の幸せである、その証明だ。
私の場合は人が去るのではなく、明確な終わりが来なければならない。心苦しいとは解決出来る状況であればある程もどかしさと共に広がるのだ。
「ブルーマウンテン、シュガーシロップとミルク、砂糖もついでに。」
「いつものだね。」
声がやや出ない、肯定の意として頷く。
店員とも打ち解けるが、私の今まで好印象であった女子の中で言うと、パトリシアが一番近い。恋愛的な触れ方ではなく、親子愛じみた感触である。今にしてはペットと飼い主の関係かもしれないと考えている。
「車椅子用のスペース、作っておいたよ。と言っても椅子が傷付けられて修復してるから置いてないだけだけど。」
「ああ、ありがとうございます。」
「献身的な姿は、誰から見ても喜ばしいからね。」
「そうですか。」
「君、ドライじゃないから声は落ち着いても表情に良く見えてるよ。・・・なんて可愛い奴。」
私は黙った、言葉に詰まった類の黙っただ。可愛がられたり、普段から絡まれる人間が多い分、変に嫌気が指すのだ。だが、これが失われると後悔する、・・・以前のと一致している訳じゃないが、不思議と共通していると解釈してしまうのだ。
店員が最近始めたトルコアイス用の冷凍庫からサプライズとして彼女の前でパフォーマンスをするらしい。・・・彼女の驚きと同時に少し悲しげになった顔は可愛らしい、だが、少し胸も痛む。
「新メニュー、骨付きチキン。ブロイラーだ。高級鶏とか言ってるのもいるが、そんなものは時代遅れだ。時代はブロイラーだよ。皮が特に良い。名古屋コーチンは許可がいるっぽいけど、家畜はブランドじゃなきゃ簡単に手続き出来るから自前で十分調達出来るんだよね。」
「オーナーが馬主さんでしたっけ?」
「そうだね、元々土方の人でやたら東南アジアに繋がりがあって会社・・・と。これを揚げたりするのも考えている所なんだけど、どう?」
「美味いし、鶏の特性的に不快な油もしていない。少し推測だが影を作ったりしていないんじゃないか?」
「そうだね、影を作ると鰻用のスペースがね。」
「安定供給は出来ないから期間限定裏メニューと言った所で良いんじゃないか?」
少し話していると、車椅子の少女は口角を少し上げ、いつのも顔と違いより笑っているというか、自身でも分かる快感の差があるという顔をしていた。
多くは語らず、黙ってにやけて見ていた。それに関して何か聞こうと思ったものの止めておこうと諦めた。
「・・・店長と話し合ってくるよ。今は客が少ない、存分に寛いでいくと良い。」
「ああ、どうも。」
車椅子の彼女は、ブランケットに零さない様にしつつミルクを飲む。この店のメニューの一つで、抹茶を凍らせ、砂糖入りのミルクに氷として入れる。時間経過で抹茶ラテが完成するという物だ。耳の固くない米粉の食パンを六等分し、一個一個にオリーブオイルに浸し楽しむ。タルトを添えれば軽食とは言い難い者になってしまうと思ったが、自分は彼女を見ると不思議と注文していた。
冷製スープは仄かに黄色く、じゃがいもとカボチャを混ぜたものだと一応は推測出来た。白い、黄色い、その二種類。硝子の小さい皿を少し持ち、少し口に含み、飲み込む。
「瀬奈、美味しいか?」
「うん。」
「それはよかった。」
「花が選んでくれたんだから、美味しくない訳が無いよ。」
「・・・少し、照れくさいな。」
「花は可愛いから、優しいから、私が褒めないと喜んでくれないでしょう?どれだけ良い事をしても、どれだけ苦労したとしても。」
「・・・ごめん、迷惑とか心無い言葉を当てられていたせいで・・・。」
「考えて話さない人に対して考える事はないの。無駄で、影響も無いんだから。」
外に触れれば傷心する、その度にここに来る。余程の事がなければ彼女にしか縋れない。ゆっくりと彼女に触る、心を痛めた中ではこれ以上のものは無い。
夕暮れも良いが昼も良い、彼女の体を拭う時に脱がせる事があるのだが、少し秘密という感じを出しつつも誰もいない場所である為にカーテンから日光を取り入れていた。
そうすると文字通り桃色と白桃色が浮かぶ、そして彼女はそれが好きな事をしっており、手を引っ張ってでも触らせる。一番体温を近く感じる方法で、彼を喜ばす方法と知っているのだ。ぷっつり切れた感じがしたが、彼女の前で変に弱い場所を見せても雰囲気を乱す結果にしかならないと何かあった素振りすら見せない。
少しの間を埋める、彼女を好いた理由はいつしか分からなくなっていて、嫌いな部分が浮かばない位には依存していた。
彼女の透ける様な肌ではない、横目で見ていない分そうならない。今や憧れじゃなし、これが私の生きた結果だ。この手を取る瞬間程絶頂に近いものは無い!
穏やかと言うよりは、口元が緩んだだけの喜ばしいながらも下心を感じられるアドレナリン混じりな悪しき顔だ。
キスを求められた、ハグ等を日常的にするのは彼女の語彙力、思考力に若干の影響、鎮痛剤等の処置を施しているせいであるというもの、コミュニケーションは言葉以外でも、表情少しであっても彼女が参考する重要なものである為に厳重に見なければならない。
思春期が奮い立たせるは火照りと高揚、考えている様で考えていない、本能を導くが儘に・・・。
芸術だ、これが芸術だ。しかし一方で背徳感が残った、ええいままよと行く事もなく、少し拒まなければという気が起こった。彼女の裸に価値はある、しかし彼女の魅力はそうだったのか?違うだろう。彼女の魅力は心にあって、見た目にまで翻弄された、そうかもしれない、いやきっとそうだろう。最早彼女は私の考える存在とは違う、これは彼女の奥に潜む魔性であり、以前の様な事もきっとこれが原因なのだ。『この惑わされる感触は、きっと悪に違いない。』互いがこれ以上を求める事はなかった。異性の身体に惑わされた所ではあったが、勃起一つなかった。雑多なエロスどころか、彼女は別アプローチの快感を教えた。
彼女は断続する恋を教え、その重さは身に染みる。懐かしく思えば、後悔の念もある。誤魔化す様に、惑わす様に甘受した。そして目は背けられた。罪は何を私に思わせるかも、最早彼女という存在の前では些細なもので、諦めるという残酷な手段をいとも容易く取らせるという、納得してしまう、容認してしまう悪い事であった。
新たな病院、多少の暇を彩る、良い場所であった。
後ろめたさというのは子供の肩には重いものだ。それに対する理解力の有無が感性に直結する部分がある。幸い彼は唯一を信ぜず、彼女という存在に敬愛を最大とする愛情を抱えていたのだ。
子供が親の出来事を無条件に己の責任と考えてしまう、それはとても残酷で、更にはそれを用いてより成長させるという外道に近い荒業も可能である。天才子役が辛いと思った所で、辞めれば貧乏になると言えば、本能に宿した親への愛を正気で晴らす事も出来ないのだ。
一方はそれ故に真面目さを基盤とした思考となり、もう一方は最早壊れてしまい、立ち直せるのは彼一人となった。
知った善性と知らぬ悪性、緻密に組まれた感情。
和気藹々とした鼻先をむず痒いと擦り、痛みを拭う。
彼と彼女の差は明確だが、それ以外にも相性がある様な、そんな気持ちが運命というオカルティックを連想させる。
過去には戻らぬ互いに抱くが為に共依存という関係が成立したのだ。
私は日課通りにしようとしたが、新しい本がなく、インターネットを探した、雑な感じがしないその作品は珍しく気になったのだ。
『蜘蛛の糸』
金銭は偏れば偏る程価値が無くなる。平等に配分、生産と表裏一体の関係になり、その生産量に応じて交換率が定められ、価値が生まれる。
よって雑多な仕事及び専門的でない仕事は価値が基本的に少ないのが基本である。
パソコンに詳しいからとブルースクリーンのパソコンを渡された時、ディスプレイを投げ、かち割りたいと思った。
全角スペースが混ざった事で数時間一つ一つの入力を確認する度に精神は摩耗し、Bukkitのビルドと難易度が異なると思い知らされた。
会社はメモリがたった8GBのパソコンを用意した。ある程度の大学であれば16GBあるのに、家電量販店店頭で十万円以上に盛られたパソコンと同等のものを発注、どうせマカフィーがついてくる。自宅では特定のゲーム中に勝手に警告を出す面倒な奴だった。家のパソコンが恋しい。
FPSのセッション中にDDoSを受けた。マトモに通信出来なくなり、ランクポイントを失う羽目になった。単純な敵の妨害ならまだしも、時には自分のサーバーに人を入れる為だけに近隣の人気サーバーに仕掛ける人物もいる。そうして自分がサーバー管理者になったら気に食わない奴、強い奴を次々に追い出すというストレスが溜まる行為が繰り返される。
営業が納期すぐの仕事を用意した、恐らくだが、営業に殺人を認めたら技術職が死に、技術職に殺人を認めたら営業が真っ先に死ぬであろう。
ハブの上に置かれたコーヒーがWiFiを阻害し、朝のやる気をも挫いた。原因が分からずに一ヶ月も探していた。
油冷式のパソコンを友人の中でも優れた奴が開発し、見せつけてきた。ロマンの塊に好奇心燻られながらも、五分もすれば現実に引き戻されるのだ。
「おい、聞いたか?生活保護を日本の永住ビザを持っているなら認めるってホントかよ!条件ほぼナシだぜ!?」
「ああ、聞いた聞いた。これで会社も快く辞められる。ゴミ営業のせいで十徹だったからな。かーちゃんが心配してた。」
「この仕事ももうすぐ終わりか?円安で地獄コースになるかもしれないがな。」
資本主義を拡大するには分断が必要になる。作者憧れのレオナルド=ダ=ヴィンチは資本主義に不都合なもので、相性が悪い。自分の管轄からだんだん除外し、分業化、そして奪っていく。効率は良いが、それも共産主義の様に理論の上にあるという事を思い知らされる。
理論理屈に則りつつも、そこに道徳を考慮した余地はなく、全人類の心を食い尽くした生産と金は、空想の裏付けによって交換される。
祈りは届いた、願いも書いた、御布施も払った、だが、それが慈悲によるものでは無いと、分かってしまう。
支配形態は全く変わっていない、支配者と市民と奴隷、名称を変えただけのリボ払いと同じものである。
少なくとも、相手が幾ら脅した所で生命を存続しようという気力でさえ既に奪われ、生命の破砕者である資本主義というあだ名すら考えついていた。
この時点で既に惰性的に生きており、死にたいからではなく生きれないから死ぬという方向性が確立してしまっているのだ。それが解消出来るだけ、もはや鬱に染まりきっている。
この十万円、一体円安でどれだけ維持出来るのであろうか。安倍晋三元首相は中東方面の維持による円安下においても健全な経済を発展させた。財政家は誰一人いなかった。今の国家に明確な利益を与えられる最低限の人材は誰一人存在しない。全員年収数千万の穀潰しを老人ホームに収容しただけだ。
直ぐに死ぬ老人であればまだしも、若者は貧しく、少子化はより進み、自殺率も上がり、留学や物の高騰によるバイト削減等は当然起きる。
雇用がある様に見せかける、誰が低賃金でマトモに働けない環境下で働こうと。国の老人がインターネットを使える様にするべく0円で募集するという蛮行もあった。これは恐らく企業と癒着する口実を作るべく行ったのだろう。
選挙になぜ『不信任』という選択肢がないのか、選挙に行かせるという法がある国もあるが自由を損なうものでしかない。国家に人数が多かろうが少なかろうが役に立つかどうかで言ったらほぼ役に立たない。
私の母が詐欺被害にあった、五百万の被害と聞いた。犯罪グループが相手で、特に有名どころの暴力団の類ではなかった。
破滅は段々身に忍び寄り、ツケの様に返される。奪っている側はどちらであったか、二極の構図を少し見直してはどうか、出来れば、より俯瞰的である程それはマシになる。
詐欺グループのトップとして老人が出てきた、いや、あれは本物ではない、偽物だ。スケープゴートにより本物は行方不明、金銭もどこに行ったか分からない。
埋め合わせが取れるとかどうかではない、背後を突かれたというのが問題だ。敵対、その言葉が指す対象は一体誰であろうか。
奪い合い、治安の良さは統計的にも改善したと思ったが、重大な事件が絶えず聞こえる。その印象だけはどうしても変えられない。パラノイアだ、誰が何をするか、攻撃されるのではないかと疑う、それだけで苦痛が起きる。
自動性だけが信用出来る、金を払えば金が貰える、信頼に関しては最も適切である。段々とそう変容していくのだ。信頼や安心を金で買い、何とか被害に合わないようにした。そうせざるを得なくなった。信頼とは何かと問われたら、少なくとも同族にはないものと言えてしまうまでに。
同じ臭いがする連中というだけで信用出来る筈も無い。格差があるからこそ信頼が出来た。オンラインサロンに似たものかもと、納得が進む。
しかし、生き残る度に諦めが沸いた、金が無いのに働く事もない、自主的な動きを段々失い、寝る事が一日の大半を占めた。買う事も得る事もなく、信頼がどうこうという事も無い。目指す夢もそれに必要なものもない。格差が産み、格差が奪い、格差が諦めさせた。結婚も何もせず、快楽を得るにも現実を見るよりは夢を見て良い物を得た方が良い。
少し節制すればVRとかが買えるだろう。メタバースなんて面白いかもと思ったが、あまりに奇妙で微妙だと聞いてからやろうという意欲を失った。
生きている理由がなくなった、強いて言うなら生きれるから生きている。
飴と鞭の関係もそうだし、飴を飴であると永続的に誤認させられるシステムはなかった。格差が維持された結果優秀な人材を見失う頃にもなった。大学という研究機関に優秀では無いが金持ちという名誉や見栄の為に入る人物が圧迫した枠は一体誰の被害となるのか。企業は次に何を滅ぼすのか。名誉でしか生きれない人間と金でしか生きれない人間が、戦争の中でどれだけの犠牲者、餓死者を出そうと気にも留めない。その中で消費だけは産むようにしていたものの、気持ちを理解していないという理由一つで儚くも崩れ去った。心理学の本を読むのを怠った結果だ。それもこれも酷い話である。
限界まで生きた様な気がした、陰鬱は日常を堕落で彩る。彼の生は断たれていて、そこから先に進む事はなかった。地獄へ落ちていたと言うよりは、最初から地獄にいて、突き落とされたのだ。
収入がか細き者に蜘蛛の糸を垂らした。納税額が多い筈もない、収入から出せる限界だ。しかし、潤沢な金を結果的に持った集団は同じくか細い蜘蛛の糸垂らしたのだ。福祉に良心を信じるという言葉があって良いものだろうか。
政府は勘違いしていた。中国に寝そべり族がいる様に、激しい競走、誤魔化しきれない現実、理想郷は理想郷であって、知床にある訳ではない。人から物を奪って儲けようとする邪悪な存在もいるだろう。だが、発展したが為に水準は上がり、鬱が流行した。また、騙す者が有能と言い切れるか疑わしくなった。金の次に、騙す者は知を奪う。与える物も得る物も無くなった時、彼等は一体どうするのであろうか。騙す者と騙される者、果たして一体どちらが糸に縋っていたのだろうか。仏陀は苦行の果てになんと言ったか、思い出してみると良い。
奪い続けた代償は、果実の様に、重くなってから落ちる。収穫という意外な一撃かも、恨み辛みの怨嗟は絶えず、欲の無い彼等の、死をも厭わない刃は届いてしまうだろう。また、それを追い詰めるのは一番に強迫観念である。
蜘蛛の糸を切ったのは、一体どちらだというのか、後世には自業自得と伝えられるものの、本当にそうであると言えるのか、些か疑問である。
極楽はいつでもお昼時、金で豪遊する者に、夜明けはない。昼は夜ではないのだから。刑務所に閉じ込められるなり、金が無くて自殺するなりを選ばされたもう一方に夜明けはなく、いつまでも暗いままであった。蜘蛛の糸は垂らされたが、それでしか極楽には登れない。手段や心理を問わず、蜘蛛の糸はかかり続ける。それが生きる手段であると確信して、騙され続けるか、その先に辿り着き、地獄の住民、或いは同胞を見捨てるかの選択肢に成り果てるのだ。
この一節は妥当と考えられた。
しかし、運の良さという否定したくなる言葉が鼻についた。耳障りだった。
少し文章だけで物足りないという気があった。出来る事だけでは駄目だ、努力に既存の才覚を応用させる。それで少しでも多く絵を変えられる様に物事を見直す。
絵は新鮮だ、あの絵は理解出来る者ならば理解出来る代物である。・・・私は横に座っていたが、絵の先に行く。・・・少し、彼女と思考がズレているが、私は気にかけなかった。
彼女の絵は、味がある。美しさはあるが、最上とは言えない程度のものである。だが、私には描いてあるその尽くが分かる。浅薄な思考により表層しか分からない芸術では無い、思考の流れと感情とそれをどう代用する、表現するのかを上手く理解出来る。
鬱蒼とした森林、日は当たれども濃い緑の森、樫の木は折れるもの一本さえ見当たらず、草の一つも見えなかった。葉っぱが覆ったそのベールの下を互いが互いによって隠しあっている。一枚目はそんな絵であった。
二枚目は彼女が空想する私との将来の図、少し美化され過ぎだと鼻で笑うが、表情は殆ど変わらず、口角は上がりっ放しであった。良いな、この絵。そう何度も繰り返した。好みであると言うよりは、意表を突かれた様な、彼女の心から私を望むという気持ちが分かるのだ。
一枚目と二枚目を重ねると彼女の夢も見えてきた。牧歌的な暮らしを目指している、という解釈が一番妥当であろう。となりのトトロとか、風立ちぬみたいな・・・。
さぁ、来るはあの日、第一部の深き記憶。忘れてはならぬ、それは絶望であり、それ以外に何か特別な意味を持たない。これが希望になる事は生涯有り得ない。
死ぬ事は燃える事だ、その先に何があったとして、これ以上のものはない。怒りは代謝だ、不満は代謝だ。これを如何様に活用するか次第でその通り代謝であるかどうかで決まるのだ。その結果はどうなるか、真っ当に生きれるかは分からない。もしかしたら堕落するかもしれない。その堕落は果たして正しいだろうか。悪意に真っ向から反抗する姿勢がなければ、平和的に終わらせるのは一流ではある、しかし、その格差、外部に平和的に終わらせる利益が無い場合はその一流とて役に立たないであろう。
彼は平和的に終わらせてしまった。復讐も弔いも出来ずに。
彼女の死において悲嘆に暮れるのだ。
「ああ・・・どうして・・・。」
血飛沫少し、霧吹きの如く。しかしそれは血であるからその程度であると言うだけで、自分の立場であったところでドクドクと表現するのは少し違う。ポタポタの方がずっと近い、そして、濡れた感触も無いのだ、血も涙も、多少外見を彩るだけである。水も滴るという表現があるがアレは水を負と仮定した場合に起きるものだ。この水や血は負であり、綺麗なものではない。ただ心の内に干渉するだけの不正の美しさの様な気がしたのだ。嫌だ、こんな彼女は美しくない、と。
彼女の顔を見た、笑顔が本能的に呼び起こされていた様で、涙の跡も残っていた。肩から先は酷く欠損していて、脇を通して抱いた後に初めて気付いた。血が小さいペットボトル一杯分出ていた、零した様な血の流れは、段々と鈍くなる。血だけを零したのか? いや、そんな訳が無い。ありえない! 私のせいだとでも? 逃げずに向き合ったとでも言うのか? 嘘だ・・・。 逃げてしまったと言った方が良い、逃げなかった、自分のせいじゃないというよりは、自分のせいだった方がまだ救いがある。なんで・・・。
「私と生きた事は楽しかったですか?」
もっと聞くべき事があるというのに・・・。私は私の事しか聞かなかった。謝罪の言葉も、今は聞きたくない。彼女を許したとしても、私に湧いた罪悪感は既に戻らないのだ。この穴は何年経ても埋まる事はなく、幻覚に騙され続けて、夢に支配されて漸く穴が埋まる。既にいない人間の為に、私は何もしてやれないのだ。処刑された人物の遺族の様にその身体の心拍、脈動が止むまで付き添った。
逃げる様に彼女は泣き、離れる様にしつつも、彼女の車椅子で多少鍛えられた様な力は無く、善意で振り払っている。折れてしまったからなのか、後悔からか、少しでも離れようとする。ハッとして、彼女は諦める様に私の方に来た。少し姿勢を崩させる様に体重を掛けた、いつもの彼女と同じだ。
鼓動が微動なものに変わりつつあるが、彼女はまだ話をする。反省と後悔による懺悔だ。死刑囚は死ぬ前にそれを聞くが、彼女は死に逝く中で懺悔をした。彼に後悔して欲しくないが為に。互いの善意は互いの使命に噛み合わず、善意でそれぞれの最悪を行った。
血は拭えぬ、彼女は救えぬ。私は腕を噛み、同じ血液型の彼女の傷口に当てた。実際に知っている知識かどうかではなく、これしかないという確信を持って正常な判断も出来ないまま探し求めるのだ。
瞳孔が一瞬乱れる、集中力が消える。しかし、眠る事はなかった。
血のかさが増える、アスファルトを見えなくする。私は顔を向けれなかった、既に彼女の目は閉ざされ、少し笑顔になったと思えば、口紅はないものの綺麗な口元を少し開き、脱力し、横を向き、手は身体の外に、質量を明確に感じる重さがあった。腿の上であると分かってしまう程に。脱力したと分かる重さがあった。
彼女が死んだ事実と、自分への不満が涙に変わる。拾い集める様に脱力した彼女を抱き上げる。それでも彼女は動かず、首の後ろに手を回すと、ぴったりとくっついたままでいるのだ。
言葉ではなかったが、触れていたから、何て言ったのか分かった。
ありがとう、大好きだよ。
だが、彼には許しの言葉にも、求める言葉にもならなかった。彼を支えれる一番の人間、その一番の言葉、しかし、この場合は、一番最悪な判断であった。この時だけ、の話だが。
遺体から手を引き離すのに、仲の良い医者は抵抗の様子を見て、麻酔を用いた。医者は、どうせなら記憶をそのまま失っていて欲しかったとまで評する位に。
失意の人間が目を覚ますのは難しい。精神を罰するのは自分一人である。外部干渉こそ出来るがそれを決めるのは自分次第。周りの人間に屈すれば、精神は死んでしまう。鬱気味な人間が多いのだから、もっと強情に生きるのが良い。強情に生きて、自分という存在を持つべきだ。彼女の手を離さないが為に共に落ちていくのだ。助ける力を過信した、見誤った。だが、間違えなかった。
彼女は私を一体どうしたかったんだ?
私の心を理解しているというならば、彼女は私を連れていこうとしているのだ。確かに、不便な暮らしよりは余っ程生きやすいだろう。だが、私を殺したいだなんて思わないだろう。
そこまで考えているかという問いには、彼女への信頼があった。どうしても彼女を否定出来なかった。
慰める声は、まやかしになる。結果だけが残り、それ以外はまやかしに消える。
少しでも犠牲と抑圧を減らし、健全な運営をしなければ。しかし、自分を最も追い込めるのは自分である。
自主的に死を望むものの、周囲の人物が許す筈もない。この状況でもがくのもどうかと思うのだ。諦めてしまった方が良いし、彼女を肯定出来ている気がする。
相手のいない人間に希望はあるか?
次はどんな嘘で私を騙すのだ?
私を生かす際に助ける手段はあるか?
人の関わる事に強引は悪手ではないか?
他人という存在が義憤に駆られる度に、その言葉が信用出来ないものの、怒りだけは感じ取れる。だから全員は私が何かをする為に怒る。
誰も彼女の代わりをやれないんだろう?
人間不信は他人を疑う事もスタンダードだが、他人の言葉に重要性があるとは思わないのが一般的だ。普段から積み重ねた相手であるという前提がないのにカッコつけて何の意味がある。聴覚障害の私であれば尚更だ。
夢物語を語るなら、地獄の嘘か天国で言ってくれ。彼女から引き離す存在しかここにはいなかった。それでも自殺は出来なかった。三度落ちても捻挫とかで、骨折にも至らなかった。
何より、最期の言葉が少し心地よかった。
冬の花のサビに真逆の感情を込めた様な、それでいて情熱的なものを感じた。
血は拭われた、その時、私は奪われて、温もりすら感じなくなった。上塗りをされた微温湯に人の感触を得るという事はなかった。
・・・あの絵を改めて見た時、気づかなかったのだが、彼女の姿だけ鉛筆で枠線を書いた跡がなかった。絵の具の一発勝負かと思えば、後で付け足したのだ。
医者が真実を語ると言っていたが、真実なんて大仰な言葉を付け足したのはどうしてだ?
この邪推はまだしも、そうする意味や理由は?
疑いは変容する、生死問わず自分以外が信用出来ない、その中でとうの自分は自分に贖罪を課した。
助けもしないし苦しめる、そんな他人を信じるだなんて愚かが過ぎる。
心理学の一つも学んでいないのに教える真似事は大人子供関係無く行った。ウサギ跳びの無意味と同じだ。
私は死ねないまま、数年もそのままで過ごした。
写真を見た。隠したカメラで撮られたそれでしか、私は弔う事が出来なかった。
棺桶の中にあった、美しい彼女の遺体。著しく欠損した、酷い状態であった。ああなんて酷い・・・もう戻らない・・・意図せぬ奇跡であるか、はたまた私が産んだ人造の奇跡か。
土に還すというのに、棺桶の中に土一つない。花と緑があった。
憂鬱だと言うのに、より・・・。
写真を見直した、あの色は決して褪せない、なんとも言えない、遠さがあった。
色が段々弱くなったのは、物で分かる。眼鏡市場のオプションであるブルーライトカットとヒートガードコート、普通のメガネの三つ、それぞれ多少違う色が見えるのだが、その差異が乱れる程に私は目も終わりに導いていた。
誤字脱字に気付けない目の弱さ、他人の作品も読めなくなる、キーボードの位置は分かるが、これ以上の知見を得れなくなるという未来も充分有り得る。
見直せば見直す程、そうなった。昔からではあるがジャンル問わずに日に十冊の本を読み込む、見えなくなってきたが、法則性や熟語の知識によって理解や推測は容易になった為、読むペースは一切落ちない。読み込んでも一冊一時間、時間を縫って読む為正確には分からない。電子書籍の値段を見ては酷いと思い、古本屋に通い詰めた。そこでも出会いはあったが、芸術の足しになるかと思っていたものの彼女を見た所で想定外の美しさはなかったのだ。
真夏、暖色が顔を照らし雑踏を見る事はない。暗闇の多い田舎、神社の本殿の電球数個の下へ。観光地に変わった後に、それは最早明かりの集合体と成り果てた。最早彼女を美しくする事は無い、経営陣は楽しみの為にその代償を負わせた。これは感性が異常な人物の集落であったからか、恋愛を経ない者が増えたかなのかは私には分からない。私であれば一心不乱に反対を唱えたであろう。
・・・ここに彼女がいれば、なぁ。不満の度にそう反芻した。彼女と生きる事に関しての不満はいつまでも続く。正解不正解問わず、彼女を愛していたから。愛情が身を引き留める、既にいない人間という穴を埋めようと何者か問わずに求める。
未だに人間不信や鬱も起きた。甘えだのと言われてはよりその病状は悪化し、他人の価値が見いだせなくなっても私は生かそうとした人間の中でもごく一部の為に解決する。
その狂気に浸かり、その悲しみの中で助けというものが信用出来ないのだ。共感出来るという言葉が欠如し、人と話すという事自体が嫌になる。もしという連想がそれを時に罪悪感を呼び起こすものになったり、後ろめたさを呼び起こしたりするのだ。
彼女は私を助けれる、だが、彼女はいない。人間不信の度に死者である彼女が信用出来てくる。私の価値はもう無いと、強いて言うなら人を凶暴化させ、その怒りは自分に向ける事しかしない。助ける際に行うべき行動が間違っていた結果、応急処置のミスにも似ている。彼の周りには大人が少なく、変に自己主張の強い連中ばかりだった。誰かの隣は既に恐怖の対象であった。生きる為に他人が必要な中、人間不信に陥らせ、善意で彼を殺した。僅かな反骨心が彼を死に誘う。
行く行く赴く香嵐渓、紅葉去る後二十日過ぎ、川は変わらず然して冷たし。
彼女を想起しなければ心が持たなかった。高校の頃に絵の為の筆を持ち、漫画技法を身につけ、特にトーンとは相性が良く、プリンターを使った技を何個か生み出した。
彼女はどうしたんだっけか?
つい一言、しかし現実は嫌という程覚えている。無駄なのに繰り返すのだ。
絵を描くのは難しい、当然だ、凝れる場所が多く、単純に出来る。知識の凝りと思考の凝り、後者は小説にとって厳しいものである。
ドーパミンが私を惑わすが為に記憶が彼女の顔を消し始める。自己嫌悪が外的要因によって作られてからは半永久的に動き続けた。その流れを私は当然の様に受けたが、段々と自分が理不尽であると感じて発した怒りや不条理を受け入れ難いと思う一部の友人によって生かすという方向性が漸くしっかりするのだ。
鉛筆を数種類、絵の専門学校とか、ブルーピリオドの様には書かず、持ち慣れたやり方で行う。私は絵の具が色弱で難しく、また、筆は書道の方、特に中国らしい、言うならば原型に近いもの程良く書ける。バルザックの様に、多作にして駄作無しという安定感を求めたのだ。
究極を求めるならば、その経験が基底にあった方が良い。私はブルーピリオドが集英社に落ちて、別の会社が拾ったと聞くが、進撃の巨人に類似・・・と言うよりは韻を踏んでいると思うのだ。タイトルはピカソ由来、若干自分を重ねてしまう。それを起点にある延長線上には集英社があまり是としないものがあったという事に気付いたのか、或いは最近低迷した通り、つまり因果応報の結果となったか。
ハードブラックの芯でさえ変に力んで時々折れる。ナイフを用いて軽く剥がし、鉛筆削りを持ち込まなかったが馴れれば楽だなと絵を見続け、鉛筆を見ずにやった。涙が当たらないようにするべく35°程度の机を用いて立ったまま絵を描く。青写真を組み、見立てる。時々上を見上げては、少し休む。絵を汚してはいけないだろう、反射する様にしてはいけないのだ。まだ使用していないペンが一本落下した所、私は咄嗟に反応し、掴めれば良いな、掴む事なんてどうせ出来ないのに。常識や経験則を無視しペンを取りに行った。風が切れ、割れた。その記憶を呼び覚ます音が幻聴を産む。誰かが呼んだ様な声がしたと、咄嗟に反応した。しかし、誰もいない。
呼び声は時々、失った人物か生きている人物かを問わずにやってくる。言葉で責め立て、当てずっぽうでも不快、真実に近ければ悲痛から、どの道苦しむのに、遂に自分自身の妄想がそうしてくるのだ。
天国から地獄へ落ちた気がするが、私は死んではいないし、どちらもジョークである。贖罪に意味があるかと問われたら、あると信じたいと答える。少なくともこの世界は誰かの為のユートピアを作り、その為に他者を排除する場所ではないし、寧ろ理屈において惰性を求める、冷徹さと対極に位置する温厚さが必要なのだ。
少し物足りないとすれば、彼女の身なりを整えるのが甘かったという所か。元が良いプロポーションが為にボブヘアーとか、胸の下位にゴムの入った服とか、髪を盛った事も無かった。パジャマにジェラピケやベロア素材の物を着せた事は無かった。彼女には価値がある、しかし、個性や独自性を付与するという過程が欠けていた。記憶に残らないというのは、そういう事ではないのか?
邪推かもしれない、だが、邪推は否定しきれない。誰かを信用して頼るにも危なげが心に過ぎる。私は何をするべきか全くと言って良い程分からなかった。そもそも失意の中でその一意専心以外を欠いたのだから、この目標以外は全て墓標に等しい。
救いがあるから生きるのに、救いが無い中で生きれる筈が無い。生きろと邪魔をされるが為に私は憎悪を募らせた。過程や倫理では間違ってる。しかし、結果的には間違っていない。人間の本能や合理化された構造からは生存させる、無理にでも生かすのは最善策だ。良心が阻む事があるだけで、医者は金になるから基本生かす。コロナワクチンの支援金を見れば一目瞭然、PCR検査も、日本の法律上クリニックの開業に関しての方式もそれに拍車を掛けている。人間は価値を産む動物である。昔から持っていた訳ではなく、社会生活を通して価値を持つ様に仕組まれる。また、そこに組み込まれた動物も自然と価値を持つのだ。人間が所有物とした範囲には全て適用され、それ以降は人間のエゴによって操作される。私も身分が違うだけで、野生でない人間という場所に位置する程度なのだ。
だから私には生きる価値も理由もなく、生きているという事実だけが残ったのだ。
信念は命より重い。生存以上に価値がある、生存する理由である。全人類の命よりも、生きるべき理由の方が少ない。その結果、人類には自殺という概念が染み付いた。それは生存する理由というものが少なく、需要は生存と合致している為に供給が少ないと言え、価値があると証明出来るのだ。
ヒトの嫌な姿を何度も見てきた。それはどの様な形状かを問わず、実に多種多様であった。
古代ギリシア時代にとある人物は言った。「恋愛は詩に手を出していない人間でさえも詩に手を出したくなる様にしてしまう。」と。
詩ではあるが、少し物足りなかった。俳句を作らされた事はあるが、その際に詩というものが自分には合致しない、少し心の底で納得出来ない部分があった。その感性がキーを触れさせる。
過去を探る、聖地を辿る様に、聖母がいた訳でもない場所を徹底的に崇め求めて、涙を他所に握り飯を少し含み、喉に飯が通らない中でも腱鞘炎が止まらない。
痛みを克服出来ない時は別の媒体であるスマートフォンを用いて何とか書き上げた。数百字すら書くのが大変だったが、五ヶ月後には千字程度なら余裕綽々とこなせて、また、一年後には一万字を超える事が出来た。しかし、駄作だと興味を無くした。
五万字を基準に短編を数本、また、長期に渡って各作品を用意した。若干演説的な何時みても印象的という構成を除いた。おちゃらけた文章は何の為にと嫌気が差し排除した。キャラクターが多いのは邪魔にしかならないが、その為に語尾で差別化するのは読み手への妨害だ、作者の怠慢及び愚かな人間に媚びる行為は止めるべきだ。
自分の思い出と調整しつつ書く、しかし、彼女がいつも私の思考に張り付く。彼女は私の記憶から離れる事をしない。仄かな、微かな、死体にさえ抱いてしまう愛着があった。
作家とは・・・それに関してのに納得するラインを見つけた。私はこれによって自分を証明し、進むという覚悟を決めた。
故に私は彼女との思い出を反芻し、より鮮明に思い出そうと腹を決めた。
懐かしい場所にある古本屋でアルバイトを一人募集していた。時給は最低賃金ギリギリ、年齢も集落に合わない、若者だった。・・・これが、物部静との出会いである。
私と静は相性が良かった。加工屋じみたエプロンはないなと思っていたら、黄色と橙のスタンダードなエプロンに変わっていた。少し客足が足りないと自分が人数を絞り信頼出来る人物を定めたグループの集会所にして、彼女の金銭の不足を補った。
そのまま数年が経った所、少しづつ、それでいて唐突な感じもするが好意的な行動が増え、少し愛着を抱いていた。罠の気がして疑ったりもした。
自分の信念は隔絶されたものであり、外部をあまり気にしない、体裁を繕わないものである。それが狂気や自暴自棄に繋がり、若干の苦しさがあった。
しかし、思考が一々停止を起こすせいで最後に辿り着く前に粗方忘れてしまうのだ。
静は私が腰を掛けている所に、脇の下に手を通し、視界を塞ぎつつ、また、顔を見せる。
「暴力が全てを解決する、暴論だ。しかし、これには類似した出来事がある。接触は時に話し合いよりも強い効力を持つというものだ。会議の終わりを握手で〆るとか、そういうのだ。小説で理想的な恋愛話を聞くよりも、リモートで恋人の声を聞くよりも、実際に触れて話した方が良い。君は私に触られては実際に心拍を上げている。それが喜び、性的、君の様な人間であれば恐怖・・・恐れのニュアンスの方が近いね。それ等を感じ取っている。」
少し、彼女らしくなかった。・・・私は途中で薄々思っていたが、普段の彼女は彼女生来の成分が少ない、物真似なのだ。振る舞いも、対応も、私好みに、或いはトラウマを敢えて抉り憧憬を呼び起こしたのだ。だが最早彼女は飾らない。私の道を知る者として、これからの道の手助けをと、彼女なりの対応をした。それが、以下の言葉である。
「・・・少し、残酷で、最低な事を言うよ。忘れた方が良いんじゃない? 彼女の事。」
重苦しく、微かな声、言った後に普段は見せない、口端に力んだ様に、血管が動く様な微動を見せた。精神力で涙を見せない、これ以上彼を殺さない様に。腕が力んでも、彼女は決して逃げないし、一瞬私のタガが外れかけた時には目を瞑ったし、顎も引けていて、腰もそうだった。しかし、脚は震えつつも決して動く事は無かった。・・・抗っている様は・・・泥臭く、美しい・・・。
「君の愛情には間違いなく敬愛も混ざっている筈だ。接触無き関係じゃ、思い返しても色褪せていくだけだ。忘れて、これ以上は考えない。記憶を持つ位は問題無いけど、欲望を当てちゃいけない。それは敬愛を欠く行為だよ。」
喉が乾いているのか、少し変な声になっていた。恐怖している、声も届かなくなりそうで、二度三度繰り返してやっと一文言い終える。
「バイトとして君がいるのが有難いし、皮肉混じりなジョークは楽しいし、何も考えていない時の緩さは癒される。力仕事も出来るし、万引き対策も面白いしその為の技術もある。」
面と向かって話す、教養のある女性ではない、独学で自分を研鑽し、教養じみたものを手に入れ、その上に知識を重ねた人間である。この時点で、彼女が恋をしているかどうかは兎も角、深い愛情を注いでいた。もっと寄りかかられ、信頼から身すら任せる。
「だから、そこまで関わってきた彼女を尊敬している。だけど、葬式で君は美しいとしか思わなかった。」
心拍が戻る、歯茎を噛み締めたのか血腥い。気持ちが分かる、彼女の様に記憶を決してやりたい、その気持ちがあった。だが、そうしてしまえば彼は折角重ねた信念を無駄にし、また、思い出してしまった末には自責の念を抱えてしまうだろう。だから彼に克服させるか、苦しまずに済む様にするのだ。
「別れは一方的だっただろうね、そうでなきゃ君がこんなに苦しむ筈が無い。」
感情移入は人伝からも十分出来た。感情移入が出来ない人間は如何なる理由があれ、粗雑な口実を元に意識的に避ける。理屈っぽい思考や感性が自分を支配した際、その経験則だけでなく思考や知識を伴う者は決して相手を否定しない。知識や過程を否定するだけで、ある筈ない、常識外れといった有り得る事態を除外する訳ではないのだ。
だから彼女の言葉は納得出来た、外面だけ繕った気味の悪い言葉じゃない、感情移入と己のエゴが明確になっている。だから納得出来た。綺麗事を並べる事等、修飾に使う程度で、悪用はしなかった。その誠意が私の怒りを信頼へ変換する。その意味や理解、話を聞き逃すという事を止める。集中、或いは魅入る。警戒は既に解かれ、人間不信の先に彼女は既に立っていた。
話の流れを少し変える様に彼女は私が話す前に、自分の話をする。先の会話が炎上商法の様であったりしたが、意表を突く訳ではなく、本当にそうして欲しいという黒さ、善し悪しではなく腹の中を晒け出した姿もあった。
若干悪女であると言える彼女は少し相互的な関係にするべく感情移入を誘う。段取りを確りと組んだ流れは私の本の癖から導いた傾向である。騙されてると理解しつつも、自ら進んだ。この破滅性を理解しているのだ。よりによってそこに触れる、下手すれば脆い心を殺してしまう、生きた所で廃人にしてしまうものだ。概要は知っているが、その細かい話を知っている訳ではないのだ。だから逃がさない様に私に凭れ、死なば諸共という覚悟を片鱗に抱いた。
「私の亡くなった父の話を少し、母のヒステリー、虐待が見ていられない中、児童相談所やDVの相談を誰も取り合ってくれず、職場の人間は死ぬ迄全く解決策を提示しなかったらしい。
母は児相に疑われた事を逆恨みし、私に酷く当たった。・・・骨がもうやられちゃったからね。手伝いが欲しかった。
・・・それで、父は病気に加えその中で母が暴力を振るい、動く事も呼吸もマトモに出来なかった。頭も正常に働かない父は夏頃だから暑いのだとエアコンを暖房の状態で付けた。一週間以内に発見したよ。」
抱き締めて密着するが、心拍は少し遠い。顔を見せないが、冷たさが一瞬走り、少し頭を動かし髪で掻き消そうとした。しかし、かえって広がって無意味になったと私は伝えなかった。
「・・・爛れた様に全身が肉塊に成れ果てて、ぼこぼこしたバームクーヘンとか、ハムみたいな足や腕らしきもの、ガスが異臭を漂わせ、フローリングを剥がしても尚臭う。蛆が湧いていて、少しでも齧ってくれたら、まだ尊厳があった。骨の方がまだマシだった位に。」
少し身体を引き、私の脚の上で正座の様な姿勢になる。少し俯いた儘、話を続ける。
「火葬されたら頭蓋骨が大きく凹んでいたよ、母の悪意は遂に露呈して、葬式の後に姿を晦ました。」
目を顰めた、彼女は不興を買ったのかと一瞬疑ったが、直ぐにそうでない事に気付いた。震えた声を止めてあげたいとも思った。
「火垂るの墓、これを見れば同じ様な場面は想像出来る。・・・だけど、全ッ然ッ違うから。本当に。」
遂に堪えたか、君。最早彼女の仮面は剥がれ、自分の経験に似た話を聞いて、正義感から動いた。しかし、自分の内面にも彼女は当然気付いている訳で、それが彼に牙を向かぬ様にと逃がさず、また、外面を頑張って取り繕うのだ。
「・・・怖い、私は君がそうなるのを見たくない。・・・九相図は煩悩を断つなんて言うけど、私は寧ろ・・・少し失礼だけど煩悩をかえって抱えてしまうんだ・・・。」
父と私を重ねて、私を見た。彼女の死だけでない、周囲の人物から当てられる、重圧をかけられるという点を上手く落とし込んでいる。どう取るかは私次第であろう、だから彼女は私に言わない。試している、私に言った事を出来るかどうか試し、これの成功を以て私が多少なりとも彼女に依存しない人間であると証明するのだ。
「・・・君に死んで欲しくない・・・君は同族に何度も何度も打ちのめされてきたんだ。・・・その皮の下に恐ろしい頭蓋骨が出た時、私はどうすれば良い? またトラウマを思い出すのが本当に良いのかな?」
姿勢を戻し、額に額を寄せ、互いの目が目の前にある状況にした。そして、彼女は涙を段々と隠さなくなった。既に形振り構わず、普段と比較して異質な態度を見せた事が、私の興味を唆る。
一度黙り込んだ、しかし、行雲流水と進む思考には彼女の涙を止める術等はなく、私は彼女の涙を尊重、或いは感動を起こしていた。こんな事は二度と無いやもしれんと。
「・・・良い? 良いよね? 最後まで生きて、煙草もダメ、酒は程々に、暴力も避けて、危険な事はしないで・・・。」
少し、彼女が夢見る将来を導く、今では到底成し得なかった事を少し幼稚にも思い描いていた。思考が潰え、ここからは感情一つで話すのだと確信し、これが彼女のメッセージだと一度内容を再確認した。
「君の腕は、私のより遥かに価値があるから・・・。」
躊躇う様に言った、腕には触れず、胸周りに手を回し、そこを確りと抱き締める。
彼女の悲痛さはよく分かる、痛む場所に寄り添い、触れては撫で、過ぎては力を。上書きされる様に触られるのだ。
少し、怒りや不満を原動力にするのは止めようかなと考えて、一言、受け入れた様な返事をした。
そうした後に彼女は笑顔になり、涙を誤魔化し、悪かったねと離れる。離れても一度振り向き、惑わす様に悪い笑顔をしていた。警戒心を逆手に取った近寄るなという警告だ。・・・意味合いとしては一人にしてくれのニュアンスの方が強そうだが。・・・少し位は行っても良さそうだが、畳んでもない布団があった筈だ。小さいが音が聞こえ、寛ぐつもりなのだと察し、これで打ち止めだなと引き際を心得た。
一方、彼女は布団の上に横になる。左手を上に、右手を枕に、布団と壁の方に向いて一人が一人でない様な空気、自分に語り掛けていた。
「・・・本当に・・・良かったぁ・・・。」
彼が去った後、彼女は笑顔の儘泣き崩れた。安堵からか、晩飯作る調子も良く、少し多く食べ、私は分からなかったが、彼女は太ったと自称していた。・・・なんだか・・・と言いかけたが、彼女の言葉はせめて彼女の前では守ろうと、私は続ける事を止めた。
日記で時々記憶を思い出す。彼の絵仏師を私は如何なる目で見ていたかを審議する。
彼女の衰弱や変化は分かっていた。麻酔の影響が強く出て、彼女は生きれなかった。
弔いの心が、私に手を伸ばす。
血は足りず、命も足りず、足を抜く。
駆けた事をも、亡くす時には。
墓場は週一で、人が居ない時に行く。
そうするのも難しい、涙と嗚咽は相変わらずである。その結果、墓場に良くない噂が立ち、監視カメラまで設置された。ここは不味いと悩む頃に医者が力を貸した。
「これは、彼女が自傷行為に及んだ際に負傷し、あのベッドの上に残されたものだ。」
小指、防腐剤を丁寧に施したものだ。赤い糸を結び繋がれ、その指は切れた後、私をいつまでも錯覚させていたのだ。
これは彼女だ、切った腕を彼女と呼ぶ事はない、だが、もう彼女の遺骨しかない。これが一番人間らしい彼女であり、私の・・・何だ。
譫妄や鬱が心を蝕む、意識が保てない。正気に戻って振り返ってしまう、また、それでより苦しむ。
問題の解決は死人が一人出たら円満解決は不可能である。然して犠牲を呼び、苦しめる。
彼女は死に、彼は心を深く傷付け、原型を失った。強い様で酷く欠けた、マヤノトップガンと争うナリタブライアンを思い出す実力不足を露骨に感じさせる程彩りを欠く事になった
暗闇と言わざるを得ない。見えない場所が多く、自分の理解しえない範囲もあった。それが煩悶を誘う。
彼女の否定は夢の否定だ、背徳を冒してでも私はやるべき事と思われる事をする。謝罪は心の中で。励まされた事も、有効かどうか分からないが解決策を提示し、損切りをする様促した事も。
芸術という存在は、先ず暇潰しのものであるという大前提から始まる、そこに立って漸く先が見える。金銭欲では人の心に訴えかけられない。自らそうするからとか、又は他人から押し込まれてしまうとかが自分の感情を捻じ曲げてしまう。
自分は後者だ、天才とか、唯一無二とか、そういうものでは無い。経験が特殊だっただけだ。先ず自分にアドバンテージは無いし、この彼女を記録する行為、彼女の芸術を引き継ぐ行為は無意味になり得るのだ。
あの夢がどういう末になるか、私は知らない。
しかし、この夢の終わりは、彼女が出来る数少ない事という自覚ありきだ。故に私はこの終わりが芸術を仕上げ、売らねばならない。
季節は、私に良く幻想を見せる。夏の暑さがぼやかす時や、冬の雪と曇りが光を薄くし先を見せない時、私の先の短い目はその先を目指そうとする。
さて、本当にそれのせいにしてしまっては? 彼女は妄想だと否定する人間もいるだろう。残酷な事に。もういっそ理想化した幻想でも良いのではないか? 私にも悪くない結果になるだろう。
彼女は美しい、記憶に食い込む彼女は私を変えた人間である。憧れであり、最も近い位置にいて、今は最も遠い。
彼女と同一化するという願望は無いが彼女に似た人間はどうも心惹かれる。私の褒める言葉は彼女を基準にして彼女にどれ程近いのかというものになるのだ。
線が少し揺らぐ、トーンを失敗したと少し頭を抱えた。背景の色を私は敢えて変える。・・・少し、彼女らしい絵になってしまった。眼鏡を一度外しては、もう一度書いて絵を確認する。10センチ以内で確認しては、一度離れ、カーテンを開けた状態にして確認する。尚更、らしい。トーンを二枚重ねた、ガラのある服を描くのと同じ手順で行う。
私は絵を嘲笑い、床に破り捨てては、糠に釘と地団駄で紙を踏む。
「駄目だ駄目だ駄目だ!! 彼女の再現では私のものではない! 美しさで事足りるものか! 損なわない愚かさと損なわない醜さがここには無い!」
彼は後にそれをデフォルメ化という風に学んだ。卑屈で、皮肉で、奇妙な絵を。その様に苛苛しつつ鬱憤を溜めて形にする。大きくても三頭身の、大半は二頭身のキャラクターを描き、私はその次に肉付け、又は現在に繋がる為の辻褄合わせとして当初から用意した彼女の存在を当て嵌める。
彼女は美しいがと私はケチを付け始めた。芸術とは言い切れない、歪な物語。・・・ここにおいても、私は彼女を苦しめないといけないのか? その他への苦しみを与えた事を忘れて、嫌な事から逃げた。
疎かだ、私の心の先は何も無い。耳を綿棒で掻き、血栓も見えた。耳の裏も爪で描いては、古い肌が落ちていく。
少し盗み聞きした話には、私には電極を刺したと。
古いアバターロボットの様に神経に針を刺し、私の鬱を改善するという単純な代物だ。バッテリーの交換の為に睡眠薬だとかの話をしているが、睡眠薬に良い思い出がなく、生理的嫌悪が残った。
扉を隔てた絵を描き、私は現実をデフォルメ化する。人間のあるが儘等には興味が無い。言葉を信じるという事が出来なかった。人の良さが私のは分かる筈も無い。極稀にそれを克服する者、無垢に生き天使の様に生き、笑いよりも微笑みが長い者。私は愚かを徹底的に侮蔑し、彼女らの美しさを再確認する。何度も考え直した、私は彼女の姿を思い出し、電極は私に力を貸した。
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なんて美しい!黒の艶が籠った髪だ!本来は無いS字ラインを欲望に従って私は胸の方に動かし、横目に見れば恐らく胸を大きく見せられるであろう姿にした。彼女の髪は多少多く12万本、少し細いが、北欧系は14万本ある為、あまり盛れないだろうと絵をもう一枚描き初めカメラワークを変える。あの宮崎駿の弟子としてのカメラワークが発揮された庵野秀明の作品シン・ゴジラ、特に会議室のシーンを見た時はそこで満足してしまいメモの為にノートで様々な事を記録していた覚えがある。胸よりも下からのカメラワーク、ベッドと寝巻きに変える事で別カメラワークであり、別時間軸、別場所という若干多次元宇宙論を感じさせる順になりつつ、比較しつつも同じ場所は徹底的に同じにする。視線を合わせる癖、人懐っこい畜生と同じ、教養があるとは言えないが教養のある女性らしい行動をする。一つ思いついて、夏のシチュエーション、トーンにも出番が無いと寂しいであろうと思って出来心で私は彼女を全裸から描き、顔のパーツや乳房周り、女性器等の拘るべき所は一回描かず、他部分を描き、最後に締める様に全裸の女性を描き、胸はもう少しデカいとしっかりと設置した。若干桃色に描くと、最高の気分になれる。神秘を紡ぐ様な、マタニティ的な官能を味わうべく、御臍の辺りで一段作り、反出生主義という少子高齢化を肯定する人文的に愚かな考えやポリティカル・コレクトネスで読者にゲイやレズを押し付けた人間には決して分からぬ、この堪能。マタニティ的美しさに近付けるが、少し頬を染めさせ、臍の位置を変えれば別の感じにも見せられる。最後に私はそれを服で覆い隠し、薄いシャツを二枚被せ、彼女に着せられなかった衣服とジーンズの組み合わせを少し想起していた。スレンダーではないが、誤魔化せれる範囲だ、カメラワークで変えるとか、衣服や髪型で変えるとか、色合いを変えるのは少し気が引けるが、太陽の所為と少し陰陽を過剰にした。ジーンズは面倒そうに見えて交差の部分を簡易的に書くことが出来る。スプレーを用いて液体の垂れ方を用いればトーンの色のある部分を少し厚くするべく油性ペンで二度辿り、色の染み込み方を変え、ある程度馴染んだ所でドライヤーに邪魔なものは消させた。工業機械があれば全く同じ再現が出来るという過信があるが、デフォルメ化という過程に混じり、価値が相対的に下がったと無視した。数万円を馬鹿みたいに使った服装である必要は無い。そんなものは冠婚葬祭に際しての服装である。ファッションというものは存在しないという検証も行い、確かになった説もある。然して彼女は元が良い為にそのファッションという虚構を打ち破る切っ掛けになる。努力でなんとでもなるという戯言を前に彼女は万能とされる虚構の神を打ち破った。私は彼女に会うことで虚構を打ち破り、残酷な事実を伝えた。障害者として何度も侮辱され、身体を壊し、親にさえ言われた。冗談とて全て忘れぬ、芸術に必要なものだ。
・・・いつから私はこの様に人を見下さないと彼女の姿を作れなくなったのか。ニヒリズムの恐ろしさである。拒んでいるのは、嘘で包まれた大義名分の所為だ。私は真っ当に生きた果てに邪悪に進む事でしか生きれなくなった。そうして憎しみが混じった中で涙は流れ、筆をつい折ってしまった。
水分摂取を止め、一日寝ず食わず、飲まず座らずに絵を描き続けた。涙は枯れ、視界はいつも通りぼやけ、肩は少ししか上がらない。
私は以前の様な死に向かう感情を持っていたり等はしなかった。だが、彼女を求める事は相変わらずだった。結局、私は一点において変われなかった。
少し申し訳無いと特別深い仲の友人数人に声を掛け、いつも通りの集会を行う。あの、少し性癖の可笑しい奴らは長い付き合いが為に信頼出来る。
落ちぶれた姿、気分は落ち込んでいるか、電極で脳を誤魔化した後かのもので、笑顔というものが最もそれらしくあった所で冷笑の範囲に収まってしまう。
私は既に戻らない人間だと周囲が確信している。立ち姿から既に異なり、以前と同じ様には見えなかった。
絵を早く完成させねば、と一度メモを開いた。
変な幻想の文章は、正に混沌としていた。自分の気持ちやシナリオ性が上手く動かない。未知の部分に関して仮定が出来ていないのだ。人の気持ちというものが、感情移入というものが欠けていた。
「嗚呼あああ・・・。」
歯を食い縛る、少し奥から血が出た所で顔を上げ、私はその絵に縋りつき、空の彼女に問い掛けた。なんでこうなったのか、自分が考える事を拒んでいた。真に悪いのは誰かという問題、その過程が一秒でも混ざれば私は真偽を永遠に探る事になる。正解も出ない、それでいて継続すれば生存においての脅威であるものだ。私は生半可な用意で物を考えて、涙ながらに何も考えず無駄に懺悔をした。疑り深い心が私の腕を震えさせ、手前に置くことで自分への最大の脅威が誰であるか再確認させる。
・・・電極の電池が無くなった、それだけの事だった。そう考えていれば良い。
スマホにBluetooth登録をさせた骨伝導イヤホンにベッツィー&クリスを流す、今はこれが良い。絵を諦めて椅子に垂れかかった。フォークギターの少し高い音が聞こえる。いつの間にか姿を消した夕焼けのチャイムの音が想起される。昔の記憶の残滓すら消えてゆく。市民の意見という少数ながら諸国で物を変えるコンテンツから本を排除する代物、いわば一般市民間に紛れる外道で悪意のある市民又は単純に考えの足りていない人々によって私の記憶を段々と奪われていくのだ。古き良きを私情によって排除し、それに合理性があったとしてもより合理性がある事にしたり、元の理由をロクに聞かずに行う所為でアレもコレも消えてゆく。
忘れたくないあの人を忘れさせる自分を不本意に、誰もが味方し、行き当たりばったりな解決法によって私を苦しめるのだ。
だからその曲に逃げた、私の命よりも大事な物を失わされる前に。
そうする事数十分後、電極のバッテリーが補充され、なんとか平静を保った。しかし、気分は悪い儘であった。
正義の改善と、愚かの返上。どちらも変わって、水平になってきた。
さて、墓標での話だ。
私は肩の荷を下ろし、軽くなった。しかし、不安の解消も束の間、より恐ろしい不安がやって来た。
彼女はあの時、記憶を失い、私を忘れていた。自責の念から、彼女は死を選んだ。その思考力を与えたのは、間違いなく彼である。その結果、彼は彼女を死に導いた。
大穴に落ち、蓋をされ、違う場所へと絶たれた。
あの後のペンのゴミは、不思議と金属片が多かった。一本千円もする品物だっただろうと考えていた。プラスチックもあったが、透明感が主張しているだけで陶器に似た色合いの金属である場合、気付かない事があった。
凍っていない川がプラスチックに似る事もなく・・・。誰も触れない金属片もまた冷えており、共通点はあるが今一歩足らず、進む事を拒ませていた。
「法は許したもうた、人間が幾ら許さじと詭弁弄すれども私は進む。少しでも誘導する気があったのならば、契約書に小さい字で書き込むのは明確な悪意だ。善意悪意問わず人間の仕組みに付け入った行為なのだろう?ならば私は善意で騙された。法を善意により解釈し、企業の意思表示も善意で解釈した。・・・さァ、それの何処が間違っている?邪悪はどちらだ?出来ない?いや、プランニングを不足させたかパワーバランスを乱す存在がいるかだ。」
「私は正しい、間違えた要素はどこにもない。・・・しかし、君はどうした?君が選んだのは何だった?」
「私は君に騙された、そして、その狙い通りに生きている。・・・だが、それは所詮君の善意であって私に対しての希望、害意を含んでいるかいないかで言えば間違いなく存在する・・・。」
「どうして君は私を置いていった・・・この残酷に私を。」
香嵐渓の透明度の高い、少し魚が済む為にドロドロしい感触を僅かに残した、擬洋風にも見える古く赤い壁や石垣を背に下を見続けた。
お握りの店で少し物を買い、相変わらず階段の道中に切り株のある場所の近くで、一人の友人と話し合っては、耳を傾ける時はそれを食う。意見する意思表示に出来ると、礼儀無用にしてでもという効率化やジェスチャーを教え合い、会話の質を上げていた。
私は冬の冷たさが誤魔化すベールの中で、何度も聞いた。
その時間も終わった、何も解決出来ないが、失われた物はもう十分あるが為に私は何も無い中であろうと、幻影があるだろうと信じ続けた。
私はあの古本屋に漸く戻り、現状最も仲の良い彼に聞きに行った。段々とその狂気は重低音じみた言葉に宿り、怯えが気性に影響し、凶暴さへ変わっていくのだ。自分が自分で無くなる前にと、手を伸ばす様にして言った。
「・・・なァ、レムよ。お前は私の変化を見てどう思ッた?忌憚無く聞かせろ。」
ノータイムで彼は答える、扉を開けるタイミングで、私を見かけた所、小走りしていつも通りのハグと、余計なキスを頬にした後に、少し振り払い、そして続けた。
「強くなった、良くも、悪くも。」
首の後ろで未だ腕を絡ませている。少し首にぶら下がり、下半身を密着させ、少し距離感を演出させるべく面と向かい合った。
少し、髪を触られた。その時に若干の恐怖を催した私に逃げない様にと距離を近付けた。
「勿論、自分に対しても。順当に強くなれば自分の責めでも耐えられるだろう。だけど、攻撃の一方で防御は無かった。寧ろ失われた。」
彼の様な、性癖の可笑しい恋愛強者がこの精神の脆い好機を逃そうと思わないであろう。それはそれとして弱さを克服させる切っ掛けは与えなければと模索する。
レムは思考する、言語的な差異で誤解を起こさないか探りつつ、内容を見直しながら原因とその対処法の提案をする。
原因一つ目は、彼女の死。原因二つ目は、その死が穏やかとは言えず、未練も多かった事。原因三つ目は、未練に付随した不満が何個もあること。
自信の無い芸術性は、段々と改善されていた。恐らく良い友人を持ったのであろう。ぞの芸術性を応援してやる事が最善だと考えられた。
さて、その芸術性は悲嘆を根幹にしたもので、彼の意志と言えるものは行動にあまり影響を及ぼしていない。愛着の度合いが高く、相手の妄想も少なからずある。責任追及をした際に酷であると言えるものが多いのだ。
これは過去に何度も責任を負わされた、僻み事含めて責任が分担されるというほぼ妄想に等しい考えを確立させ善である人間を圧迫する代物であった。
思考停止、勉強不足、教師や親はここを怠る事で駄目な結果を引き寄せた。
想定はおろか、解決さえ行わなかった。本人がその無茶振りに耐えてきて、もう限界だと吹き出した今治さなければ、ここから先、何度も何度もこの状態に陥り、救えなくなるのだ。それ以外の機会では無理矢理引き出したり、誘導したりを必要とする為あまり是と出来なかったのもある。・・・何より、今が一番効く。相手を追い詰める行為は数多存在するがされる側は妙に覚えている出来事がある。それはトドメを刺した一言が主になるが、それに質や量は関係無く、悪いタイミングで刺さったかどうかという話になるのだ。体の手術は心の手術と比較すると後者は成功率が低い。その理由はヤブの数だ。心理学も学んでいない人材で観察眼もロクに持っていない、根性論とか経験則を用いてそれ一辺倒な判断をする人間は特にそうだ。簡単だとか、救えるとか思い上がる。・・・レムはそれ以上に別の意欲があるから助けているが、一方の彼の場合どうであろう。救えると思い上がった、後者二つの欠点は無くとも歪められた知識観や価値観が彼を翻弄し、騙す。中学以降の別々の教科の教師が自身の生業を推す時、抽象的概念を用いいる。確かに具体性がある時で胡散臭いし、長く、分かりにくい。その為抽象化して話す。だが、抽象化には概念的な物を描けても実際には具体化した物を授業として取り扱うのだから差異や食い違いは発生する。詐欺と疑われても仕方ない程に。
その正直を破る様に唆すのが良い。正義の完遂や成長は果てに自死を選ぶ事だ。そもそも押し付けられたものなのだから、不要である。と言うより、無い方がマシだ。彼の命や精神は重要だが、それ以外はどうなろうとどうでもいい。
空腹の音が聞こえた、不健康な生活を送り、力の加わり方も変であった。悪意に当てられた彼を何とか整えた姿、大半の病はストレスからくるもの、服装を整える習慣はあれど変に節約癖が出ている。鎮痛剤をポケットに入れてあった。体の傷をマッチで焼いて治していた。最初は水虫だけだったが、それ以外にも使用しだしたのだろう。絆創膏も使っていない、傷が深まるより先に治す事を考えている、体裁を繕う、血を見せない為にこうしていた。変にトラウマを呼び起こさないように性交を多少行わなかった。そうしなければ見れた筈だ。トレンチコートで隠された、多くの服を重ねた姿で彼は見せなかった。
「・・・少し、自分で考えてみようよ。・・・自分の信じれる良い思い出とか、辛いけど、心に響くものをさ。」
今なら力が弱く、背中を押して、変に頭を回さない様にと少し緊張した心拍音を聞かせる。小さな心臓、自分のそれと比べたら分数回異なるペースである。
自分の心拍なぞ、苦しむかそうでないかの私には全く以て関係無いものだが。
もっと密着させる。少しも心拍は変わらないが、温もりがあった。種火の様な、烈火とは言えないが、途中で火の消えた薪とは相性の良いものであった。
・・・受け入れてくれた時の快感は、字面の一方でその裏が読めないという事があったとしても、救いがあるものだ。・・・それに勘違いの可能性は十分あるが、それ以外でも勘違い等幾らでもある。・・・これは最も間違わない選択肢ではないか、需要も私かどうか、私以外にも存在する。トレンドを見た記憶もそうだと言う。
少し、心に情熱が宿る。・・・怒りは爆発力こそ充分だがあまり良いものではない。少し快感に触れ、それへの渇望さえあれば十分である。下衆な笑いを浮かべつつも、野望や信念という新たな出発という側面を持った喜びである。
然して彼は高笑いした。高尚さや高貴さの高という意を損なう笑いであるが。
「肯定の時代だ。・・・これからは否定は去る事で示し、分断が異動を容易にする。正義もまた然り、しかし暴力は忌避され、除外するという世界になる。」
少し自制心も働く、だが、触れられた身体を忘れる訳では無い。
「私は取り敢えず自己の事は処理しておくよ。・・・それ以降は、もう自由に生きよう。・・・いや、いつもの事だった・・・な。」
別れを告げた、フリーダムではなく、リバティー。無制限も面白いが、私には少し多い。自制心を僅かながらに示した証である。
「途絶えてしまう事も十分考えられる、性欲とか、睡眠欲がある以上電流で快楽を教え込んで深くもなんとも無いもの、得体の知れないものへ興奮してしまうのは十分に有り得るのだ。」
より強く抱かれた、少し顔を赤らめて口を拭いついでに隠すと、彼は上を向いて笑顔になった。
だが抱き上げて顔を見れなくした。少しばかりの報復である。
「私がそうでなかっただけだ、経験していない事を安易に見過ごしてはならない。」
自分も又然りと、付け足された様に思えた。彼の考えは単純だが、その思考に至る迄の考慮も多い。レム自身がそれに救われたのだから、その自分の過去を最も思い出させるその姿は鏡の様に隅々まで見えない所を見せていた。
「記憶にある罠の片鱗でさえ危険だ、気付いていないことであれば尚更、これからを生きるのに法で守られると考えてなんかいないさ。」
覚悟を語る、自己を縛った自己を罰する法。その抑圧から彼は解き放たれた。穏やかで優しいというのは見る影もないが、付き合っていれば運良く見れるかもしれない。・・・少々勇気付け過ぎたかもと、後悔とも違う嬉しさが奥底にあった。・・・今は隠されてるし、誤魔化せる程度に笑っておこう。
「・・・エゴでしか私は救えなかった、正義も、悪も、私を救わない。」
少し、自分の反省も述べた。頼るべき者を間違えたと語り掛ける。少し気付くのが遅いが、正義感というもののプロパガンダは恐ろしいものだ。
「私はあの死を忘れる事等しない。絶対に忘れない。・・・私にしか語れないのだ。」
聞こえない様にと、目の前の一人に向け、小声で話す。ストーブの音がそれをかき消すが、理解ある人物は聞かずとも理解した。
「・・・再びこうならない様に準備するか、韻を踏んでしまっては彼女に向ける顔が無い。」
私の情熱は温もりへと覚めたが、あまり嫌われた訳では無い。もうとっくに辿った道だ。苦しみは列挙した所で苦しみという変数であり、強い感情ではあるが日記に相性が良いという訳では無い。つまらない生き方になってしまう。
冷えた心が私の象徴である。
自室での話だ。
私は未だに彼女が生きていると錯覚する。既に思い出は霞み始め、脆い私から一番の生きる覚悟を捨て去ろうというのだ。悪夢と、切り捨てるべきと準備していた。
私の肉体や精神の成長は一気に落ちた。あれ以外は全て不幸である、というのが私に残った未来で、彼女でないから、と私は男にも女にも、大抵の興味は薄れた。
彼女を返せ、私の彼女を。あの子は私の最大の想い人で、その逆も然り。彼女がいないなら大抵の事には価値が無い。クローンでも、AIでも、少しでも再現出来れば私の救いになる・・・。
どんな人が相手でも、私は彼女以上の愛を注げなかった。
長きに渡り、失い続け、その果てに私は穏やかを見出し、失って漸く気付いた。
最早私に最上は無い。それが彼女によって叶うものであろうか。
思い出に救われている、思い出で生きている。バクも同然の生き方だ。私は私を救えない、自己の及ぼした影響で生きてはいるが、妄執ではないか。変わり果ててしまえば、その時は生きる為ではなく、殺す為に私は存在してしまう。生きる理由を見失う、妄想ではなく、確かにそうなった。
いつまでもそうしてられないのでと仕方なく立ち直った。
相変わらず、電極に依存した空元気との落差は恐ろしいものだ。
私は大学において一人、又、一枚と出会った。
彼女に似た、胸が大きくて、可愛らしい、性格の良い女性であった。清楚な服装のレースが奥の花柄の布が姿を見せつつも、欧州の子供の様なゴムの入ったワンピースが確かに見え、庭先を思い出させる。朝の景色の様な女性だ。経験則的に言えば、胸が昔から大きい人はだいたい性格が良い、その通りなのだろう。
心を落ち着かせるべく、大学のパートナーシップ協定を利用し美術館に通う。当時はゴッホ展を執り行っており、最後に飾ってある絵を一番長く見るのだが、四日目から目標が若干変わっていた。
・・・ゴッホは芸術家としては異常な孤独さがある。
彼は疑われた。不敬によるものではなく、他者からの勝手な判断である。
友人バティストは私に言った、どれだけ教える者が狂おうと、いつだって親共の狂いに勝った事は無い。彼は彼女に近付けさえしなかったのだ。
油絵で書く金属に見入った私は、その大男の杖の様な先端の無い剣を見た。シチリアの狡猾男を思い出させるのだ。
いつの時代であれ、不敬は道徳の一つ、説明のつかない変なものなのだ。また、それは個人の自由である。浄罪、反省、返済、どれも結局が自由なのだ。
故に従わず、方に制限はなく、彼は歩みを決して止めず、不安も通り過ぎた。自由はある程度の迷信を取り払い、一番に平等という迷信が現代に残った。
悪性の自由を抑制する、その手段はどこにもない。
善性の自由とは以下のようなものである。自由ではあるが、他者へ武器を向けず、自己研鑽のみに費やす。・・・しかし、これでは救えないものが多過ぎる。暴力革命とは、過去においては暴虐を排し善の時代が始まるというものであるが、現代では誰が汚名を背負うべきかの議論になった。その相対性が誰かの無念を晴らす一方で、誰かはその相対性の重箱によって昔と変わらない方法で罪を着せられた。
この世に罪も何も無い、あったのは空論と人が盲信した偽善であった。
偽りが人を支え続けた、だがそれは最後に賢くしてしまった人間が終わらせる。
人間は邪悪であり、その道に走らざるを得ない。理論上解決可能は、自画自賛から始まるものである。そして、彼はその果実を木より奪わねばならぬ。
だが、それを果たさず、美術館に通い詰めた。
専門学校生で、同じ様にここに通うのがそのバティストだ。そして、隔てられた絵を見るのが、特殊なもので、女との経験において得難いものがあった。
知っている絵なんて大してない、自画像に、向日葵に、タンギー爺、そして、星月夜。
この暗さは、京都の夜行に似ている。暖色電球と和紙を重ねた様なプラスチックが鈍らせた光が素敵だった。どの女よりも素晴らしい、また、どの涙よりも、血肉よりも美しい。
顔は漠然としていて、頬周りを触れない、それだけで価値は大損する。しかし、その差を感じさせなかった。
それに騙されている、その実体の無い絵に私は有り得ない感情を抱いていた。
あの時、私がキャンパスを倒した理由が今分かり、また、時代の流れを感じた。
「・・・そうなのか。」
その心境を吐露し、彼は深く頷くのだ。しかし、私の今迄を多少聞いた彼は疑問を持った。
「君の言った『美しい文は美しき内容に勝る。』というのが現実であれば彼女に興味を持つ筈だ。だが、君はどうして彼女に挑まない?」
また、若干の深呼吸を挟んで言った。
「小説と漫画の差は・・・絵があるから興奮がより強い、だったか?」
「ああ、だけど・・・。」
質問を向けられている中でも、私の眼差しは動かなかった、端っこに見えているのにも関わらずだ。
「統計的に取れば前者の方が自由度が高いのに後者の方が選ばれる。大きくされる、縮められる、解いて結べる、生やせる、孕ませれる、それは双方でも可能である一方、絵という自由度の阻害があったとしても漫画は流行るんだ。小説よりも。」
その誠意ある目を最後の方に向けられると、少し驚くが、自分の彼よりかは足らぬ言葉を繋ぎ、その暗きに輪郭を持った一筋の闇を受け、その上から言った。だが、少し待った。
「固定化・・・が近いな、あそこの妙な未亡人みたいな女がいるだろう?
あの女がどんな下着を履いてる?と聞かれたレースやネグリジェの様な隠す機能が一応働くだけのものだろう、と考える。だが、見ていない以上白のドロワーズだったり、もしかしたら精神面での障害によりオムツかもしれないし、子供の頃から同じ様な動物とか果物の姿が描かれたものかもしれない。・・・ほら、少し見えるだろう? あのガーターベルト、アレを見ると思考に制限がかかる。」
「・・・そう考えるのか、山の頂上から見る景色と同じ様なものだと思ったが。」
「・・・ああ、確かに。」
「・・・以外と絵を見ないお前に一番ビックリしているよ。」
「美しい以上に怪しいからな。ナップサック問題で何個かスカートに仕舞い込むとかコルセットに挟むとか言いそうな気配がするんだ。」
「立体性だな、体と心の質がXとYで、Zが時間軸、そして・・・。」
「立体図形は書く以外は苦手なんだ。」
「空想だけで良いさ、現実はこじつけでどうとでもなる、そこに妙な納得感があるだけさ。」
「文字化の便利性は何にも譲り難いものだな。」
今日は満足し、美術館を後にした。
絵の奇妙さを無視して、地獄を行きその道を整えようとする者。もう一方は絵の恐怖を取り払い、また、地獄の道を舗装する。どちらも地獄へ導くもので、一方は金銭を安くするという甘言で、もう一方は恐怖を無くすという甘言で、それがそのまま信念に繋がっていた。
そして私は、とうとう彼女に話し、深入りした。
肩透かしを食らった様に、友好的な彼女の応対に戸惑い、また、安堵した。面白そうと反応したのが、共感をより深める。
そして、今日も美術館に来た。
「美術品が借り物・・・借りる・・・ああ、そうか。」
「ん?なんかあったのか?」
「耳が悪かったせいで関連性というものが人一倍敏感でね。」
「嘘つけ、どうせ元からの才能だ。お前は少なくとも無能ではない、不能かもしれないが。」
「不能ではない。子供もいる。」
「・・・マジで?」
「ああ、私がクピード役をして結婚したレズカップルがいてね、人工授精は六百万円位かかるらしい。私なら今後トラブルが起きても逃げれるからそれを理由に手は出さないと約束されている。」
「ああ、じゃあ実際はお前の子供・・・と。」
「手馴れていないせいか行為中に一人は何もせずに一人は激しく・・・よくよく考えると凄い光景だな。」
「知るかよんなもん。」
「俺とお前の経験の差ってだけだ!」
強く笑った彼は目を上に、見下す事が極まり顎しか視界に入らない程に上げる。
「私もどこかで彼女らに認められていたんだろうな、そう思いたい。」
そして、階段近くにある机上のチラシを見るバティストの背後から、誰も通らない階段に腕を組み手摺に乗せ、また、続けた。
「まぁ、私は血統主義だ。・・・後世に恥を与えない、その為に私はそれを向上させようと思っている。武家の出だが、それでも没落した方だ。・・・一流の軍人は平和主義者でね。太公望周りなんて特にそうだろう。」
「それは私の事か?」
「いいや?違うぞ。」
「なんだ、そうか。」
「寧ろ逆側だろ、平和になったら需要が高い、それがお前だ。」
「損したくない、と得したいのそれぞれって事か。」
「身内と外部じゃ、重みが違うんだ。」
「そりゃそうだ、戦争は悲痛だがその死者の数を悲痛と思う事はあまりない。死者の存在自体が悲痛な所もある。」
「病気の名前とかもそうだよな、最近の病気は分かりやすさが掛けているが疫病への恐怖は感じられる。」
「絶望感と無気力感程詩的才能を産むものは無い、共通している所も多いが別々として扱わせてもらう。」
「・・・はぁ・・・そうかぁ。」
「暗くて見えないから今の内に懐中電灯で見る為に警備員を見つけておいてくれないか?」
「・・・目で指示する、気付かなかったら俺は逃げる。」
「よし、逃げた瞬間にシャロを呼ぼう。逃げれると思わない事だな。」
「切り札は互いに持ってるって事か。」
「そうだ、じゃあ頼むぞ。」
「おうよ。」
そして絵に戻る。その絵は遠目からは分かり難く、近くで見た時に漸く何か分かるのだが、同時に近付き過ぎてはならない。芸術の自由性に隠された固定性があり、それが自分の疑念だと分かった。
一瞬で身体を起こし、暗い中で暖色の電球に感涙が照らされる。それが他者から見えるものでは無いので、バティストから見れば喜び興奮するだけの変人にしか見えないだろう。だが、彼はそれでも良いと思っている、今得れた経験則で理屈が振り払われ、戸惑いを無くした。
色覚異常のせいではっきりはしないが藍色じみた色が額縁と絵の接点を結ぶ隙間として機能し、絵が全体を映されていると理解する、その先の道まで素早く想像され、新興の都市であろう。石畳の通路と一本の糸杉が交差するとは到底思えない。
月のある星月夜とは、一体なんなのだ。
アレは月ではないのか?アレは星なのか?
過去の星がそれを照らしているのか?
「・・・ああ・・・。」
既に消えた星が、一つあったな。
私は誰に射抜かれたんだっけか。
尋常を超えた恋愛なんて、やっぱりろくでもない。
そういう結論で一旦終わらせ、そのまま他の絵を視界に入れる事無く出た。
星月夜の描かれている小さい写真立ての様なものを買った。一万円程度の無駄金だが、墓の下に半分供えるなら構わないと息を吐く。
特別人が多い日の話だ、待ち合わせもなく先に入っていった彼を見たバティストはその暖色の電球の真下に向かった。
バティストは目を丸くしたが、彼の猛進に狂気を感じたものの、逃げる事は出来ない。優れた友人だ、そして、才能を見込み、自分の外見や内面はその友人の友人に変えられ、生まれ変わって、畏敬の念を払っているのだ。
「啓蒙は高貴なる者の責務だ、我々が行わねばなるまいて。」
目が笑っている。手の位置も職人気質からくる場所にあった。どこにも欠点がない、最早芸術的な立ち姿だ。一歩も動いた覚えがないのに、角度の差を感じた。
彼が引く事は無く、また、見る事も無い。だが、少し違うとすれば彼が本性で、忌憚無く人を見下している事だった。
「だが、一番変わったのは敵だ。今迄の敵は国だった。しかし、今の敵は読者だ。民草は毎度毎度知識が不足している。」
「そりゃ、そうだろう。」
「私の縁を切った友人は『進撃の巨人』がつまらないとほざいていた。最終回も普通だとか。だが良く考えてみろ、ジャンプに提出しようとしたものだ、友情努力勝利に則ったならばスタンダードじゃない方がおかしい!」
「いや・・・資料をそこまで読む奴は・・・。」
「『こころ』で三つ折りにして封筒に入る遺書に小説数十ページ分の内容を書き込めるか?そこで文章に違和感を持たなかった人物も多い、これは怠惰だ。読むつもりのない愚行思考ならばまだしも、読んで評価するという高尚な事をするというのならば高尚な内容と作法で挑め!それは当然である!」
「・・・まぁ、そこに違和感持たない時点で観察眼がたかが知れているが・・・。」
「絵は時代遅れだ、しかし、小説は時代遅れではない。どうしてか分かるか?」
バティストは魅入っていた、相手はプロでもなんでもない、強いて言うなら先導者、人間的魅力という名のカリスマが彼に語り掛ける。
「小説じゃなくても漫画で良いとは言うが、面白い作品は確かにある、しかし、双方漫画もライトノベルも発展せず、衰退と共に好まれていった。漫画は絵の派生系で、小説は字の派生系、画面占有率と情報伝達力の占めるそれぞれの割合が段違いだ。」
息を少し飲み干して、まだまだ彼は続ける。
「映像作品は絵の上位互換である。しかし、小説は上位互換が存在しない。故に絵は時代遅れなのだ。」
あてつけの様でありながら、彼を地獄へ赴かない様にという楔にも思えた。また、それが彼を止める手段になる筈も無く・・・。
私は何故、強く恋人を求めるのか。
恋人というのは自分のパートナー、男としては女であり相手、子作りの為である。
上位の生命体に子作りは不要である。私に失望はあったものの、どういう訳かそれを続けていたいと思った。これは弱者の証明だろうか。彼女の一度も望まなかった行為、恐らく彼女の知り得なかった行為は、忌々しくも湧くのだ。
私の趣味の一つとしては、放課の終わり、階段の近くで身体を許した人とほんの数秒間キスやハグを交わす事だった。人の少ない時間に、物足りない部分を埋め合わせる。
大人らしい性行為というものはなく、二人っきりにしようとせいぜい胸に縋る程度。過去への固執なのかと、涙ぐむ。
思い出は残ってこそだが、未来まで享受できるというのが否定された時、酷い姿になる。
今聞かれたらどう答えるか、それに関しては彼女の死以来停止していると表面上は語っている。
変わらない、それでも別に構わない。
商店街の自称中華で独自の味としては完璧だが中華料理と言うには遠い、若干甘い味噌ラーメンを啜る。天然の塩だ、結晶の大きさが塩っぱさと甘さの土産を置いていく。
麺には統率感があり、伸びを知らず自分の呼吸と一致した動きで口の奥へ流される。
どれも選択の余地や余裕と言った類のものがあった、これがやはり現実なのだ。理不尽だけでなく、抵抗手段とも言える自由があり、誰にも邪魔されない中で食う。
人間不信と混ざりあった元々の親切さや愛情があった。
東山動物園にいた所、バティストが嗅ぎ付けてここに来た。
「言語の無い人間の行動は、動物園の檻の中と何も変わらない。」
「それがどうしたんだ?今更それを考えた所でどうにかなる訳ではない。」
「それでは天才性を発掘出来ないのだ・・・。」
「才能なのか?それは。」
「才能じゃない、努力でもない。一番近いのは感性だ。人間の他者との差異、即ち独自性と経験及びその知見の結果、それが感性、及び天才性だ。露骨に違うのではなく、積み重ねて総合的に違う、共感出来るが崇敬の念を抱いてしまう、それが天才性のある人間だ。」
「感情の方向性が天才の起源とでも?」
「そうだ、天才は演出できる。何を目指すかの目標の過程を書き換える、そういうファンタジー的な世界観によって天才は偽造出来る。だが、こういうものを作りたいという過程で予め完成したものを組み込む癖があると気付かないものだ。」
「・・・後で聞かせてくれ、動物園でする話じゃない。」
「・・・そうか。・・・所でアレ乗らないか?チャリで動かすトロッコみたいな奴。」
「・・・マジ?」
「景色が見たい、遠目から見れば物も変わるだろうよ。」
「真面目な話理由なら良いか、落とされる心配もない。」
「振り落とされる心配はしとけよ、」
空から少し緑を眺めつつ、談合を繰り返す。絵の参考である。未だ完成せぬ彼女のイコン、その埋め合わせの為に多少焦っていた。
見下ろして、階段を登っていた頃。あの巨大な動物でさえ今は小さく見える。・・・誰かと姿を重ねた時に、あの小ささは重く受け止められる。
小さな心臓は小さな生物にこそあれ。自然の節理である。感じる事の無かった隔たりがいつの日か感じる様になった。
アクセサリーを仕舞い込み、彼女の顔を思い出す。空に近ければ見る目は変わるだろうか、いや、そんな事はない。
変な幻想は止せ、自傷に繋がる。そう考え涙を抑えた。
「おい、手を抜くな。」
「足の方だから問題無い。」
「手の込んだ言い訳を思い付く前に足を動かせ。」
「うざったらしい、Kickback!Kickback!」
「止めろ!揺らすな畜生!」
「畜生は下にいるぞ!!」
と十分程度繰り返していた。プールシーズン外のラグナシアにも似た様なスワンボートみたいなものがあるが、此方の方が面白い。
「京都行く用があるんだが、田鶴で会合をするらしい。鱒と鰆の西京漬が旨いんだなぁ。」
「お、行くわ。」
「交通費は自分で出せよ、名古屋から京都の自由席分。指定席分は払っておく。」
「じゃあついでに色々観光しようかねぇ。」
その会話の直後、下から音が聞こえた。
「おいおい、何か暴れてねぇか?」
「麻酔銃位動物園なんだからあるだろ。子供の転落位対策してるだろうに。」
「いや、最近ヒグマ狩るのもクレーム入れられるんだぞ?」
「麻酔銃の標準の先を変えるか。」
「鎮痛剤といい抑える系の薬はやっぱ怖いよな。」
「へぇ、心当たりでも?」
「・・・お前の抗鬱剤の話とか。」
「ああ、アレか。神経に針を刺すとか言い出さない分マシじゃないか?」
「・・・そうかぁ?」
「落ち着いたらしい、多分駄々こねてただけだ。」
「駄々こねる・・・そんな人間じゃあるまいし。」
「いや別に他動物でもして良いだろ。」
「・・・基本的に充足奴がなんか求めるのか?人間のステータスに百倍が有り得るのは知識量と財産位だぞ?」
「・・・?・・・いや、別にそれ数値化出来ないだけで所有物という考えがあれば有り得るだろ。他人じゃなくて自分が決めるんだから。」
私は少し早く足を働かす。少しでも気分が悪くなれば風を自ら手繰り寄せる。
そうして、この長旅は終わった。階段を降りてこう言った。
「今日は以上としよう、私はコーヒーでも買って帰るよ。」
振り向く前にそう言った私はそそくさと帰る、リラックスを目当てにしている訳では無いというのは確かだった。
そして我々は老舗旅館へと赴く事になった。
他五人と談合しつつも、最低限を行った彼等はそのままぐったりとしている。成年成り立てが酒を飲み過ぎているが、なんと阿呆らしい。
「・・・時代遅れなんて言ってたが、本当にそうか?」
「ほう?」
「ライトノベルだとか、春画だと言って不快さを誤魔化そうとしているんじゃないか? 作っている側はそれにより自分の上手く出来ない範囲を潰したり、理性の無い状態を恐れている。」
彼は時代遅れに対する反対を考えた。昔よりコンテンツは衰退したと、彼は説明を始めた。
「理性だけで芸術は描けない、いや、寧ろ理性は人間に訳す為の道具と言うだけで古代ギリシャ人が自分達以外の言語を差別するのと同じ、理性と美しさは全くの別物だ。恋心というものが関連性を見出して変に解釈するのが原因なのであって本来は別物、差別意識という人間の本能が勝手な辻褄合わせをして消そうとしている。台詞以外を読まなかったり、小説の雑多な表現を覚えていなかったり、その派生が時代遅れだとか、人気だとかになるんじゃないか?」
「あらゆる芸術家は悪意を明確に持っている善人だ。喜びの感情で溢れた奴は世界を半分しか知らない奴と言っても過言では無い。・・・つみれと一緒に食いたいな、これ。ゆず庵とか寿司も頼めるし魚とつみれって相性が良いのか?」
「以前送ってくれた鈴波の銀鱈とかどうだ?つみれに足りない部分が丁度良く補える気がする。」
「彼処ののどぐろ、鮭に銀鱈は美味い。・・・それで、絵と小説は比率の違いから成立する。それが内容と外見の比率だ。小説は内容を、絵は外見をより凝らなければいけない。AIで絵を作ったら綺麗な絵が生産される、そして自称芸術家はそれに怒る。小説は内容を凝らなければ、そしてその文章が稚拙であればと順番に否定される。キンキンキンキン書いてるのがいたな、そういえば。」
ほくそ笑んだ、嘲笑と侮辱をしては、忌む様な顔をする。この顔は敢えて悪い言葉、文で発している。若干反省の意を込めた話し方と言える。少し憐憫の情を呼ぶ、知っているからこそ酷いと思える顔をしていた。
「革命は、読解力の低い人間が多い程成功後崩れやすい。」
「それまたどうして。」
「馬鹿が多いと肯定はされるが誰も止めてくれない。ザッカーバーグの一兆円はそうして消えた。傷の舐め合いは上流階級でも当然だけどな。芸術家保護を気取って問題発言をした人物を擁護し続けたテレビ局もある。」
爪楊枝で歯間から引っ掛かった物を掘り出し、爪楊枝を向けて話を続けた。
「嫉妬なんて生産性次第だ、価値ある人間、種類を絞って、性格まで選定しなければ役に立たない。」
「嫉妬なんて、ロクな結果にならないじゃないか・・・。」
「・・・失敗した人間の嫉妬なんてそんなものだ、遥かに害悪の多い、成功者でも一筋縄ではいかない、面倒な感情なのだ。」
少し部屋を見渡し始める、相手の目を見ようという気力を失った。礼儀に欠く行為を何も感じずに眺めていた。
「所詮バイアス混じりの思考をダニエル=クルーガー効果が証明してくれる、だが、心の蟠りが、自分に何か感性的な突っかかりが存在するんだ。」
「考えるな、無駄だそんなもの。自己責任論よりも決定論の方が救いがある。また、ナッジは後者に近く、世の中は案外出来レースである。幸運に出会えるまで待つか、不幸に会わない様に祈るかだ。人事を尽くせ、その過程でクソくだらない天明にならなきゃ良いが。」
彼は椅子を器用に動かし、横を向き、煙草を吹かしたわけではないが、リラックスして、或いは諦めて言ったのだ。
「こうなる事は然るべきであり、自己責任にはなり得ない。」
以前、気付いていた。彼はその共通性が故に。
そして、私は歯止めが効かない内に何度も繰り返した。
「だが、責任が存在する行動もある。神は宥めるだけの存在だ。」
「私は君を知っている。だが、証拠不十分で信じていないだけだ。・・・君が殺した相手が誰か、分かっているのか?」
「芸術は罪と贖罪で大半が成立しているものだ。どちらも違う罪と贖罪を行い、そのそれぞれの答えを出す。」
「読者がそうせずとも、我々は少なくとも振り返る必要がある。この旅路が苦痛であればある程、その価値はより上がる。汚染された心を正気に繋ぎ止め、精神を安定させる唯一の手段。芸術家は誰かと生きれたとしても、楽しみを、人間らしさを捨てるか保証を捨てるかの二択を迫られる状況でようやっと産まれる。それ以外はレプリカにしかならない。」
「・・・上流階級お得意の洗脳だ、自分よりも格下ならば容赦なく選べるんだろうな、どうせ。」
「俺も・・・アイツが好きだった。突然小学校から消えて胡散臭い病院にいるという話を信じずに一人で探し続けた・・・! そしたら既に相手がいた・・・それがお前だ。」
涙を見せたが、面を上げることは出来なかった。座っている状況という中でそれが出来る筈も無かった。彼は脚が短い一方で座高は高い、怒りが首の曲げ加減で分かる。また、自分自身が自分によって責められ、どうしようもない苦しみになった。
「私は偶然出会って偶然仲良くなって偶然恋人になっただけだ。そしてお前と出会ったのも偶然だし、お前が殴られた理由が産まれたも偶然だ。」
何かをする素振りもなく、紳士的に振舞った。あの時の様に。だが、湯呑みの置き方は多少乱雑であった。
「くたばれクソ野郎、お前の感情に共感した所で同情するつもりはない。贖罪も必要ない。対価は奪った、武家としての流儀に則った先祖への敬意でお前は生きている。」
笑顔で中指を突き立てた後、その言葉を放った内に近付き、少し涙ぐんで目を閉じた相手の胴に正面から蹴りを入れた。少し引いた相手の脚を踏み、三度叩き潰す。骨の悲惨な音が聞こえるが、より深くを狙えないかと再び近寄る。立ち上がるのを少し待ち、それを興味無さげに目を逸らす。
「・・・分かっている、終わったものに縋りつくのも馬鹿馬鹿しいし、悲しいとも思わない。」
そう言って下を向いたまま立った姿に共感を覚える事はなかった。
そう言った相手を大腰であしらう、興味すらない。殺すつもりも何も無い。
「芸術なんて所詮そんなもんだ。罪のない芸術、そんなものは子供の夢と何一つ変わらないのさ。私も、お前も、いつまでも晴れない罪に苛まれ続け、心が神をでっち上げて納得させて、酷けりゃ忘れる。・・・そういう関係だ、私等は、いつまでも。死にたきゃ連絡くれ、灯油とライターを買ってきてやる。」
腹に顔面、腕を組まずに踏みにじる。これでバティストの行いは終わったのだと。
その翌日、澄んだ顔で私は大学に出向く。自転車を漕ぐと田舎の和気藹々とした老害共が交通整理のジャケットを着つつ横並びでベルも前もマトモに確認せず歩道を封鎖、道路端は田舎特有の出る事も出来ないスペースしかない。その一点以外は坂道の快感で漕がずに下る。いつも通り少し早く、彼女を待つ事で少しは有能を証明しようと椅子に座りつつ仕事のない探偵の様に寛いでは缶コーヒーを口に含む。スマートに、アグレッシブに、背もたれがない為腕を支えにし、背中の負担を減らす。
そして彼女が来た時に、ちょっとした童心が私の背を押し、たわいもない話をした。しかし、少し重要な話になると、少し彼女の雰囲気は変わる。主な原因はきっとこれだ。
・・・彼女は貧乏揺すりを止めた、始まるすぐ前の事だ。
覚悟が決まった、良い表情をしていた。笑顔ではないし、澄ました顔でもない。無機質で怒りが一番近い、良い顔をしていた。
「今日も、後で話してくれないか?」
少し誘ってみたが、また今度ねとあしらわれた。少し残念だと落胆しつつも、悪い気分ではなかった。然るべき場所があると、彼女はやはり真剣で本気というものを理解している。余程大学合格が嬉しかったのだろうと私は彼女を見て思った。
救われる方法が無かった、幻想でさえなかった。
創造主は被造物を愛して作る、しかし、それは始めだけだ。被造物は創造主を愛してるかどうかは知らないが、被造物が創造主を愛してくれると信じて創造主は作っている。
私の彼女は、きっと愛してくれるだろう。
ああそうだ、悲しい物語は脅威の襲来により際立つ美しい心から成る。美しい心さえあれば、どうあれ美しい物語になるのだ。
私に対しての愛情は確かにあった、悲劇的末路を迎えたが、それでも、美しい心の継承は完了した。
それが私の足を留め、私は私の経験則たる奴を信じるのだ。
また、私はある人物に憧れていた。
「・・・レオナルド=ダ=ヴィンチ・・・あれ程創造主に近い人物がいただろうか。」
数字の神秘を感じつつも、乱れた世を見ては完全な再現には及ばないと思ってしまう。しかし、デザインは出来る。空想の及ぶ範囲は自分がよく分かっているのだ。
自分の夢の挫折を何度か思い出した、小学四年生にて挑戦したものの筆は進まず、色覚異常聴覚障害、その他身体への阻害が外部から行われ、自分が日々暮らすのにも負担が掛かる。
彼に及ばないと思った私は、次世代へ託す事を考え人を選んだ。その過程で出た犠牲は、私に心の変え方を与え、自分の不明瞭だとした部分を補完した。
また、数多くの異性と交わりつつも、関係を保ち、階級も高い人物が多かった。
私は血を呪ったのである、一人の執念が一族へそうあれかしと。
そして、今回は彼女であった。彼女こそと信じる訳ではなく、偶然で、運命的という曖昧模糊を口実に触れ合う。
「可愛いらしいって言うけどさ、胸、見過ぎじゃない?それ目当て?」
「君はそれだけが魅力なのかい? それだけが魅力じゃないと思っていたのだが・・・。それとも自分自身に嫉妬かな?・・・嫉妬を受ける程度には愛されてると思えて、少しは鼻が高いよ。」
「・・・負けた、降伏。」
「・・・今日は勝ち誇らせてもらうか。」
彼女は教師志望であり、留学志望である。フランスとドイツと少し差はあるが、私自身は文化的収集の都合が良いし、性格の差異、何より本人の学習という範囲も存在する。アルザスから電車で行ける場所はあるだろうか、笑いが起きる。鬼でもないというのに。
「英語の教師って国際資格がある、それとかどうだ?」
「でも・・・。」
「・・・ロンシャンにでも行ってから考えるよ。」
「賭けるな。」
話に少し茶々を入れ、真剣な話に戻した。
「音楽志望じゃなかったか?ヤマハグレードは?作曲能力も要るんじゃないか?」
「・・・日本じゃなくても・・・。」
「・・・ん、いや、ああ、そうか。失礼、余計な事を言った。」
「良いよ、別に。」
上は下を争わせ、下は下と争う。
新たなる事実を上は隠し、下は認めない。
自分にそんなに価値がある訳が無いというのに。
悪法も法だ、しかし、悪法をいつまでも放置するのは民主主義に反し、
また、国家は信用を失い、最後に彼の様な人間が誕生した。
彼個人の生き方と、彼の環境、それがこの人間を織り成した。
デンパークの一角、貴族同士のお茶会を模しただけの残念なものである。ピエロを連れたサーカスの出資者の方がまだ近い。
胸とその少し下にゴムで絞められ、布がシワついている。その上に薄い上着で、自分だけの景色となっている。そのラメの無さ、白と白に似たベージュ、その色を見れば彼女は少女の様にも、若い気取りも、清楚にも、女狐にも見えるし、死人にも見える。過去を呼び覚ます感覚だが、彼女のあどけなく見える感じ、知能指数やペースに差を感じる話し方も過去の踏襲と贖罪のチャンスを感じ取った。
彼女は私にとって鏡で集めた光であり、また、その光は強く、私を盲目にする。
「芸術芸術って言うけど、具体的に何をしたいの?」
「・・・今は固まっていない。だけど、強いて言うなら私が芸術を書く事で贖罪するのにその邪魔をしないで欲しいってだけだ。」
何だか久々の高揚感だ。辻褄が会う度に否定が難しくなり、事実確認が無駄になって、挙句の果てに事実確認が信用ならなくなる。お茶やコーヒーが感覚を取り戻させる。味を過ぎた所で嘘と証明されない。・・・これ以上考えた所で、恥ずかしさしか出ないからと一旦日記を終わらせた。
どれほど変えられても、自信と正義はあった、都会で待つ。数ヶ月の逡巡であった。それが転じて巡り会いになれば良い。奇縁とて、少し有難いと考えていた。諦めて変えた訳では無い、それが私の救いとなった。・・・だが、少し残酷だった。
背中を預けれる人はもういない、一人で生きるという象徴は私の背中の重荷が語った。私の背中を守る様でありながら、ある種の誤魔化しにも思える。
だが、私の心には一点の決意があった。決して死なぬ、我は生めやも、と。それは恐怖とは程遠く、死ぬ事への失望であった。生きても死んでも救われはしない、そういう反儀礼的な行動で私は救われた。これは苦しみかもしれない。だが、死ぬに惜しい。
道筋を外れ、その果てに、車輪から逃れれた。友人の死とは、ある種の処刑であった。だが、私は生き延び、明日の為に生きる事にした。
私は生きろと言われたのではない、死ねなかったという諦めでもう既に勇気を無くしていたのだ。
だが、少しはマシになった様に思える。圧力に屈したという見方もあるが、帰結主義的には良いと思えるものだった。
だから、私は彼女の所に急ぐ。
それがどんな結果であれ、昔と違い、今は時間があるのだ。
彼女に似た、胸が大きくて、可愛らしい、性格の良い女性であった。清楚な服装のレースが奥の花柄ワンピースを若干見せ、庭先を思い出させる。朝の景色の様な女性だ。経験則的に言えば、胸が昔から大きい人は嘘を吐かずだいたい性格が良い、その通りなのだろう。
少し違うとすれば、足が動く事だ。私の自由さは、そういうものを欲していた、そんな不幸中の幸いがあった。
それがしっかりと立つことを再確認させる。
車輪など、もう必要無いのだ。生きる道具としても、死ぬ道具としても。
椅子に座るまでもなく、夏の木漏れ日が丁度照らし、ベールの中に現れる。彼女は確かに違うものがあった。邪魔な人物を押し退ける、適当な理由を取り繕い、前に進む。
その風景に支配されている彼女が、不思議と離れている様に思えた。歩みは止まず、暖かさ故の気の緩みかもしれない。
一方で、後ろの荒みは気にしない、翼の隠す鎖が彼の背後にあるが、それに気付く事は無い。
彼は人だ、幻想と幻想の絡み付きなど大して気にかける筈が無い。酷く暗い筈なのに、そこは妙に黒と白が見え、気分を悪くした。
偽善者というのは、如何に人類が傲慢であるかを説明するのに最適な名である。
偽善者という言葉は善を偽る者、つまり下に善の者がいると言っているのだ。しかし欲が全ての人間を狂わせ、大半はこの過程において邪悪になる。
また、偽善という言葉が善と言う言葉の否定であり、善であるモデルの人物、あるいは周囲の人物が偽善であると差別したが為に始まった。
人類がどうなろうがその他の動植物含めた諸々を巻き込んで終わりだ。場の中心でさえその結果に陥りうる。
地獄には罰が、天国には快楽が。しかし、この世においてはジョークの一つに過ぎないのだ。
少しその先の話。
皐月中旬然して夏日、物価が高い為大した物は買えないし、円安で物は買われ、金だけが残る。鳥取城の飢え殺しの様な状況は整い始めた。失業率も誤魔化し、非正規雇用を数えていない。他国なら暴動が起きてもおかしくない数値である。個人事業主がその次の犠牲者らしい。果たして国は救済措置として機能するのだろうか、私は楽しみである。
クリミアの様にウクライナから水道水を止められた訳じゃないから良いが、アメリカで混乱が起きて軍がいなくなったら核発射か核使って電磁パルス攻撃か巡航ミサイルを原発へ撃ち込むかを防衛費削減削減という主張により最早国民が馬鹿になったかパニックを起こし始めたかの二択になってきた。ニヒリズムこそ今の至高である。留学費用として貯めた三百万もゴミクズになった。給料は増えないし保護者が通帳すら見せない所為で他国の通貨にも変えれない。湾岸戦争で行けなかったからと子供にも押し付けるつもりか。
私はそんな憂いでニヤつきつつ彼女の手を握って率いていた。・・・私の服装は他の女に選んでもらったものであるが。
「海洋堂の店は休みだ、向こうの古本屋の方はやっている。丸亀製麺も近くにあるぞ。」
「丸亀はナイ。」
「良いじゃん似た者同士並んでて。」
私は皮肉として言った、彼女は疑問に思い問い掛けたので理由も懇切丁寧に説明する。らしいとか付け足してきおったので小突き、商店街に戻る。
「ここ?」
「デスクノートから良い品を探すのは難しいぞ。官僚御用とか聞いただけでデバッファーにしか思えない。」
「店名が違うねぇ。」
「昼飯候補が幾つかあるけどどうだ?やっぱりステーキ、珈琲ぶりこ、食べ歩き、メイド喫茶、コンカフェ。」
「最後二つ以外でお願い。」
「ぶりこは時間掛かるぞ。」
「ステーキのお店って・・・最近大丈夫なの?」
「飲食店は被害を受けているがステーキでピンチなのは違う店だ。」
「あれぇ?違ったっけ?」
「社長のいいなりステーキの方だ。」
「・・・んー・・・?」
「ガーリックライスは控えた方が良いかな?」
「ガーリックライスしかないの?」
「サラダのバリエーションが予算十分の一にしたブロンコビリーレベルな事以外は。・・・あ、今度数人でステーキのあさくまに行く予定だがどうだね?」
「うん!デート中にデート仕掛けるなんて良い性格してるねぇ。」
「物部みたいな性格になってきたなお前。」
少し頭を抱えた、あのケチ店主が頭に浮かぶのが嫌で珈琲でも飲んで治したい所だ。そう言って珈琲ぶりこという古民家カフェに入った。
軋む階段と小さいが過ぎる椅子に深深と座る。早めに一品頼んでは、数十分の間、話で間を持たせる。
「こういう場所は好きか?」
「好き・・・かも。床割らないでね。」
「おい。」
「そっちはどう?」
「和風好みな私にんな事聞かれてもなぁ。花の木みたいな場所も好きだが。長島温泉が一番だ。猿投温泉はリニューアルされ過ぎて知らん!」
「・・・あれ?今日の夜行くんだよね?」
「そうだな、浄水でシャトルバスだ。」
「ん、後で案内してね?」
「分かりましたよええ。」
少し呆れ笑いを目を閉じつつ言った。私は少し服が乱れていると襟を直してやると、彼女は擽ったがった。
「・・・止めろ、色っぽい。」
「褒め言葉?」
「・・・言える訳無いだろう。」
「ふーん?」
二杯珈琲が来た、一度は来たが別に珈琲は頼んでいなかった。カフェインの相性が妙に悪い、身体と相談しながら珈琲を飲む必要があるのだ。豚角煮との相性は兎も角、先に飲んで、悪ければお冷で口直ししておこうと口に含み、息を吐く。そして、話を再び始めた。
「何で態々来たんだ?付き合うつもりも無いだろう?」
「うん、別目的で私利私欲だよ。」
「そうだろうね、恋心とか互いに持ってはいないが新たな一面を発見した所為で気が狂うよ、本当に。」
「魔性の女デビュー?」
「可愛いもんだろ。・・・それでも恋愛で言えば確実に強者っぽいな。」
「え?そうなんだ。」
「強者だけどモテはしないぞ、童貞狩りでもしてろ。」
「経験則から?」
「経験則兼トラウマから。」
「私、悪い?」
「トラウマになる様な事をしでかしたのは確かだが、悪い人間だったからじゃない。善い人間だったからトラウマになった。そして悪い事をしでかした訳じゃない。」
「そっか、じゃあいいや。」
「すぐ対抗しようとするな。そんな闘争心が強いタイプだったか?」
「誰かさんが気を狂わせたんだよ、きっと。」
「私?」
「実際にどうかは兎も角、心当たりがあるなら止めてくれる?」
「焚き付ける事はよくやっているぞ。戦争をするのは御免だが第三者同士が争っているのを見るととても楽しい。」
「ちょっとこっち向いて。」
「・・・ん?・・・あー。」
頬を抓られた。悪意ではなく、警告とか、注意とか、もしかしたら、誠意をもう少し見せて欲しいなんて事も有り得る。察して諦めたら、少し笑顔になったのが変に腹立たしい。
「・・・はい、いーよ。」
「はぁ、面倒な事で。」
「私に迷惑、かけないでよ。」
彼は即答する。
「嗚呼、信念に則って従うとも。」
腹いっぱいではないが、ある程度満たして終わりにした。米粒一つ残さない私だが、少し皿の相性が悪く一粒二粒は残していた。
店を出たら旗やチラシで眠気覚ましの様な事を彼女はしていた。・・・いや、珈琲を飲んだのはなんの為だったんだ?と少し疑問に思ったが、彼女は意外と居眠りを繰り返す人か、昨日寝ていなかったとか、可愛い所があるのかもしれない。
「SDGsとか書いてる店がないねぇ。」
「イオンモール位しかやらないだろそれ。」
私は少し呆れて言った、イオンモールでも見たか?と早期し、ファッションの類か、所詮と価値観を保存した。
「それと知ってるか?実はSDGsは『すごくどうでもいい願望』の略称なんだぜ。」
「嘘でしょ・・・?」
「嘘だよ? 道徳を暗記科目と思っている私みたいな人間は多いだろうし。」
「むぅー!」
「分かってて言ったろう!?分かってて言ったろう!?」
「嘘つきは嫌いじゃないけど嘘つかれたからそれを口実に引っぱたいてる。」
「完全にお前の趣味じゃないか。」
「はい、もう一回。」
「何がもう一回だ!痛みに慣れた筈なのにより痛いのが飛んできたぞ!」
「何となく柔らかい触り心地だから。」
「Sっ気に目覚めたな鬼畜。」
「サディストって言われるの、あんまり罵倒の様に聞こえないよね。」
「だからと言ってより嬉しそうに抓るのは止めろ。」
このやり取りを無駄に数分繰り返すが、若干の刺激に少し気を解し、休みを喫する。
話はやがて変わり、彼女を呼べた理由について触れる。
「そういえば、夜の温泉についてはどうなんだっけ?」
「猿投温泉、浄水駅に地下鉄を用いて行く。シャトルバスに乗り換える。回数券がなければ正直竜泉寺でも良かった。・・・まぁ、誰も居ない日を狙ってるから猿投温泉の方がいい。カラオケとかホテル、ホテル付属の温泉も考えるとこっちは高級だけどなんか一般的なアタッチメント多数な娯楽施設とは別だ。あと温泉浸かったらしっかり寝ろ、八時間は最低でも寝ろ。」
うざいくらいに健康を要求するが、もっと説得力ある見た目になれよと思う一方で彼の過去と照らし合わせると、不思議と守りたくなるものであった。
彼は夢の為に利用する存在、利害の一致という一点で使えるだけの人物だ。恋心ではないが、少し母性をそそられる不可思議な気持ちを湧かせるのだ。
「・・・君も、ね?」
少し目の前に悪女がいた様な気がした。私を惑わし、いつの間にか去って、後悔として残る存在。私が心の内でそう定義する存在と重なった。
「・・・まぁ、温泉は分断されるけどな。実際にするかどうか自分次第だ。」
「混浴とか無いの?」
「あってたまるか。」
「あっても水着とか必要そうだけどね。」
「勝負水着みたいなのがあるのか?」
「無いけど。感染するの嫌だし。」
「・・・そりゃあ、残念だ。・・・ああ、いや、すまない。ちょっと共通点を感じてしまってな。」
「そんなに懐かしいんだ。」
「そりゃあ、遥か過去の様に思える位に。」
少し彼は呟く様に言った、聴覚障害者特有の良くも悪くも声の加減が効かないという訳じゃない、経験則的に一段落付ける場所だと考えられる。なので次はスタートダッシュとして簡易的な文章から始める筈だ。・・・その思考が、彼に触らないながらも、彼の自制心を維持する為の、多少の鞭である。
「リハビリでもしてやれば良かったのかもしれないが・・・こういうデートという体験が・・・。」
若干倒れるかもという程度に目眩を起こす、平衡感覚がおかしくなったりした時に、彼女はそれに気付き、そっと支えた。
「ああ、ありがとう・・・。」
「温泉でゆっくりしなよ。」
「分かっている・・・分かっているとも。」
変な幻想は信じないという言葉を取り消し、私は彼女の言うが儘にした。・・・酷くその言葉を恥じ、私は少し眠り込む訳じゃないが、首を曲げた。
猿投温泉はリニューアルされる事数度、私にとっては温泉の効能というのは二の次で、生活リズムが不協和音の私であるから当然だが、飯と休憩所、何より思考の時間を与えるものであった。
露天風呂に一人、平日はこんなものだろう。かけ湯を数度繰り返し、胸迄浸かる。
そして、思いを馳せた。
反芻すること数年、私は似た様な事ばかり繰り返していた。罪悪感を感じる流れというものが確立されてしまったのだ。
一番の次に二番と来る所為でボヘミアン・ラプソディの様にはならなかった。美化された同一の行動である。
そりゃあ、彼女に固執しているしな。
死というものから逃れる為にはその固執を取り除くのが良いのではないか?
・・・それは、そうだろう。
では、その固執を自分に合う様な物にしよう。極力自分を傷付けない形状にして。
電極は相変わらずポジティブだが、最近論理的になったというか、無駄に脳のリソースを使う世話焼き系の存在になった。それは静の様な姿で投影される事が多く、譫妄の頃の幻覚を思い出させる。
解決する事でしか逃れられないよ、これは。逃げても罰するのは自分自身だから。今迄は意識ある自分だったが、ここからは無意識やセンスの話になるんだ。
さて、君は自分を問い詰める事は無くなった、しかし、思い出の辛さを改変したりしてそれに対応している。
だが、正直言って価値観の変化はあったが、それの成長がまだ甘い。
誰かの面影や、失うという重さ。その価値を酷く肯定している。芸術性の為にこうあるとワンパターンな奴になってしまう。
バイアスがかかっている、というのが一番近いかな。本来の価値観に影響を与えた結果、他人に分かる物としてそれを説明出来ないんだ。
・・・それでも良いけどさ、君は鬱だ。下手すればそれが自殺の原因になる可能性が包含されてしまうんだ。
無意識を解消出来るか?普通?
電極の役割だけど、辻褄合わせをしないと。自分の芸術性の成長に必要だろう。現代社会において大事かどうかも分からない、ただ、如何なる状況にも生きる事、君の望む事にはそれが必要なのだろう?だから最低限導く必要があるのさ。
・・・さて、君はデートを通して何を思った?
自嘲の傷口は決して癒えない、自分が最も後ろめたく思っている事だ。その一方でそれは行き当たりばったりが為に他者からの信頼性を得にくく、妄想性が高い。
一方で君は彼女を最大限隠しつつ、過去の確執を彼女に持ち込まなかった。勇気が無かった訳じゃなく、終わったことを笑い事にさえ出来た。嘲りに芸術性を見出す事をしない君がだ。それを捻じ曲げた訳じゃない、善し悪し関係無くバラバラにして受け入れた。
脳の中で少し思考を変える。虫の羽音は止まぬ。考えの為に雑音をイコライザを変えた音楽でかき消す、マルチタスクではない、これが私の出来るせいぜいである。どの道煩い世界なのだから、此方の方がマシというもの。今日もランダムに設定し、その結果選出されたのは今日までそして明日から・・・だったか。少しその考えを借り、自分を過去と今で区切る。
煩悶と煩悩は近似したものであるか、悲と怒の差異が存在し同一とは言えない。一方で苦しめられている事は同じである。
苦しみにも二パターン存在し、これから己を苦しめうるという臆病或いは被害妄想、もう一方で自分を単純に現在苦しめている存在という妄想性が倍率に掛かり苦しんでいるという字面は変わらない、修飾語の有無を含む方の苦しみである。時間軸の差異は存在を否定しうるものであり、私と彼女の関係性があの当時こうなるとは思いもしなかった。しかし、予兆以降は苦しんでいた。
ドーパミンとアドレナリンの近さが原因ではないだろうか、私はその幸せと不幸を比較して、双方心臓に訴えかけるのだから、心臓に着目して調べるのはどうかと思った。
感情の揺らめき、思いの絶頂、それが私自身の好む考えだったのではないだろうか。しかし一方で記憶にはあるが空白感の強いものであるえも言えない感情が捉えきれていないのではないだろうか。
疑って疑って、最後に私は導き出した。
・・・これから探すか、折角生きたんだし。
夜空の星を見上げ、少し指を向けるが、馬鹿らしいとすぐに下げた。
あのお節介がどうせ私に声を掛けるだろう。
電極を外せる状態にまでは改善されたね、依存症を引き起こす可能性もあるから要観察だけど。
・・・うん。これ以上導く必要はもう無いか。ありがとう。これで、自ら失った者の為に死を選ぶ事は無いだろうね。
じゃあ、また。
導きからも外れられたか、君。
貸し出された着物を着る、彼女もそうしていた。
その頃に少し思った事だが、この服は誤魔化すという事を主体に置いており、シャロの様な規格外な体型では流石に無理だが出た腹を貫禄に変えるという多少不思議な力がある。不思議な力というのは若干ディズニーランド的な意味合いを込めて言っている。
体型や筋肉にも拘る私には嘘という絶好の騙し方が出来、彼女の胸という自分のフェティシズムを込められる場に集中出来る。無駄を省いて絵の構想を考えた。
「凄く悪い笑顔してるね、気持ち悪い。」
「良い笑顔ばかり出来たらそうしている。私は嘘位は言える、だが、悪意は大嫌いなんだ。」
「でもなんか、絵仏師良秀も思い出すかも。」
その言葉を聞いた時、ついつい私は笑っていた。得体の知れない悪意や、人類が犠牲の上に築き上げた学問というものを選ん思い出す。
「・・・ハッハッハ!こりゃ一本取られた!」
ガスコンロの傍らながら紙に構想のメモを取り直す。もう一度風呂に入る際に忘れない様に。それ以上の事も忘れない様に。
そして、私は死の先にあるもので笑える様になって、漸くこの車輪から外れられたのだ。
次回はテセウスの船ですが継承物語を一章終わりまで進めたらにします。
骨折が治るまで待ってもろて・・・。