~異能探偵始めます!~CASE1下
「それじゃ、早速だけど仕事だよ。」
そう言って、ヴァルは本棚から1冊のファイルを手に取る。
「君達、私の近くにきて。」
近くに行く意味がよく分からない。
「むぎゅー!」
いつの間にかマナがヴァルに抱きついていた。
一応上司だってのに、自由だなぁ。
まぁ、マナが行ってしまったなら仕方ない。
僕はヴァル隣に立った。
「……シア君は、抱きつかなくていいのかい?」
にやにや顔のヴァルが問う。正直それイイなと思うけど、色々アウトだろ!
「ふふ、君は本当面白いな。抱きつきたいのが顔に出てるよ。」
「んな!」
「大丈夫。安心したまえ。私は、12歳の立派なレディーだよ。」
……何がどう大丈夫なんだよ。
「それでヴァルちゃん、今から何するの?」
マナの問いに、僕はハッとした。こんなところで上司にからかわれてる場合じゃない。
「あー、さっきも言ったけど仕事だよ。今から事件現場に行くのさ。」
「いや、それならヴァルの近くに寄る意味は……」
言ってる途中でぎょっとした。
さっきまで真霧異能探偵事務所のヴァルの部屋にいたのに、僕らは空にいた。正確には、黒い雲の上だ。
「私の異能【霧の魔女】の能力の1つでね。『霧墨ノ雲』と言うのさ。」
ヴァルが得意げに語り出す。
「この能力は、乗れる雲を生み出す事が出来る。これ使うと強制的に屋外に出るけど、空なら渋滞もないし、移動には便利なものさ。」
……こんなことまで出来るとか、“魔女”って怖いなぁ。
「わぁー、都市の全体が見える!きれー。」
はしゃぐマナ。落ちないように見とかなきゃ。
まぁ、気持ちは分かるけどね。僕らの住む、『第7都市』が端から端まで見えることなんて初めてだ。
……そういえば、なんで『第7都市』って言うんだろ。ま、いっか。
「ところで、今さらだけどシア君。持ってる?」
「?何をだ。」
「武装さ。持参だと伝えておいただろう。」
いかん。その事忘れてた。さて、今持ってるのは真紅煌銃だけだ。言うて、火力の強いライター……なんとか誤魔化さな
「シアにゃ、武装ならちゃんと持ってるよ!」
元気よく答えるマナ。ダメだ。もう後には引けない。誤魔化せない。
「そうかい。じゃあ見せておくれよ。」
「あの、その。まぁ、正直そんな大したものじゃないけど、これなんだ。」
諦めて、僕は後ろ腰のホルスターから真紅煌銃を出す。
「真紅煌銃。僕の異能【顕現する創造】で造った銃だ。機能としては、通常機能に火炎放射と拳銃。特殊機能で弾薬に異能を込めて放つ事が出来る。……まぁ、異能は普通何かに込めるなんて出来ないからただ火力強いライターだよ。」
言い終えてヴァルを見ると、驚いた顔をしていた。
そうだよな。武装に火力強いライター持ってくるやついないよな。
「君は勘違いをしているよ。これは火力強いライターじゃない。」
「どうゆうことだ。」
ヴァルは僕の目を見つめてくる。……ちょ、照れるなぁ。
「この銃は、霧の始祖異能の真骨頂、いや、集大成とも言える力さ。この銃、確かに普通に見れば特殊機能の使用方法がなく、ただのライターだけどね。私が“魔女”が居ると話は変わる。“魔女”の力なら……」
ダメだ。話についていけない。
「こんな夢で見たから造っただけの銃がそんな凄いのか?」
ヴァルが再び驚いた顔をする。
「夢で見たの!?まさか、私と会うまえに既に覚醒してたなんて……通りで、『霧廻』を抜け出しても変化無いわけだ。」
あ、そういえば。そうだな。霧の始祖異能を覚醒させる能力『霧廻』。抜け出しても僕に変化無かったのはそうゆう……
「んん?僕って既に覚醒とやらをしてるの?」
「そうなるね。よく考えたら、いくら始祖異能と言えど、覚醒せずに完璧な命を造ることも出来ないからね。」
マナのことか。なるほど。どうやら僕は、凄いらしい。
「まぁとにかく、その銃は使えるよ。暫く私に貸してくれない?」
「いいけど、なんで?」
ヴァルがにやりと笑った。
「内緒!」
えー、ここにきてそれは無いだろぉ。
「そんなことは置いといて。」
置くな。
「仕事の話しするね。」
ヴァルはファイルを僕に渡してきた。
「そこに書いてあるように、依頼は警察から。内容は『異能殺人の犯人確保』生死は問わないそうだよ。そして……」
事件現場につくまで、僕らは今回の仕事の説明を受けた。
『異能大量絞殺殺人』
犯人は、鎌埜 草士31歳 男性。
両親は既に他界。結婚はしており、嫁と娘と暮らしていた。
職業は清掃員派遣会社の社員で、今から向かう事件現場のビルに派遣されていたようだ。
彼の異能は【光の木】
木の形を代表に植物の形の光で発現させる異能。
その光には、密度があり、物体として成り立っている。
最初の被害者は、嫁のセナ。死因は窒息。頭や首、手足に絞められた痕がある。
次の被害者は、派遣先のビルで働く全員。
こちらも、死因は窒息。やはり、頭や首、手足に絞められた痕があり、1人1人から光で出来た木の苗?が生えていた。
その後、姿を消している。
尚、彼の娘は組織に狙われる可能性が無いと言えないので、ヴァルの知り合いが匿ってるとのことだ。
説明を受けながらファイルを読んでいたら、いつの間にか事件現場のビルにたどり着いていた。
なんとなく腕時計を見たら11時46分だった。終わったらご飯食べたいな。早く終わらせよう。
「なぁ、ヴァル。犯人の写真とか無いのか?」
黒い雲から降りながらふと疑問に思うことをたずねた。
そもそも、どうやって探すきなのかも知らないけど……
「シアにゃ、鈍いね。」
ん?マナ?鈍いってなに?
「うん。全く鈍いな、君は。」
ほ?鈍いとは?
「写真なら見せただろう?ビフォーとアフター2枚でさ。」
「……あ。まさか、あの坊主頭の?」
「そう。事務所で見せたあの写真こそ、今回の犯人の写真さ。」
それは、最悪の答えだった。だって、あの写真は……
「あの写真は、“覚醒薬”を使った人間の写真だったよな?つまり、彼はもう……」
マナの顔が青ざめていくのが見える。
大してヴァルは笑っていた。
「そうさ。彼は、鎌埜 草士は既に異能暴走、『禁忌』になっている。」
最悪だ。確かに、真霧異能探偵事務所は“覚醒薬”で人為的に異能暴走された現象『禁忌』の対処が仕事だと聞いたけど。こんな、いきなり化け物の相手なんて。
「ちなみに、一番の問題は、鎌埜 草士は既に巨大な化け物になっているのに見つからないと言うことだよ。」
ハッ。そうだ。写真で見た彼の姿は、ビルほどの大きさある、蛸と人間を混ぜたような存在だった。
あれほどの大きく異形の存在が、なぜ?
「ヴァルちゃんは、どこにいるか分からないのに探したり出来るの?」
「方法はあるさ。だって見えてないだけで、あれは常に居るから。」
?よく分からない言い方するなぁ。
「どうゆうことだよ。見えてないって。それにどこに居るってんだよ。」
マナもコクコクうなずく。思うことは同じようだ。
「まぁ、見えない理由はすぐに分かるよ。居る場所は…ついてきたまえ。」
そう言うとヴァルは事件現場のビルに入っていった。
ビルの上部分は倒壊して、いつ崩れてもおかしくないのに、ためらいもなく……
「はぁ……置いていかれたら大変だ。マナ、いくぞ。」
マナは既にヴァルのもとへ駈けていた。
置いていかれたのは僕だけのようだ。
導かれるように歩くヴァル。それについていく僕とマナ。ビルの4階に着いた時、不意にヴァルが止まった。
「あったよ。彼の居場所を表すモノが。」
「本当か!それはどこ……に」
僕は目を疑った。ヴァルの前にあったのは……
「光の、木?」
そう。1本の光の木だ。その木は、天井を突き破り上の階まで伸びて……いや、上の階から伸びている!?
「きれー……」
マナが木に手をのばす。
「触れちゃダメだよ!これは彼の結界だから。」
「結界?」
ヴァルを撫でながらマナが問う。……まぁ、木には触ってないしいいか。
「そう。結界だよ。触れたら最後。新たな犠牲者になるのさ。そして、彼は上の階にいる。」
そう言うとヴァルは階段を昇りはじめた。
ついていくしかないな。
階段を昇ると『5階・社長室』と書かれたプレートが見えた。
まぁ、倒壊して天井無いし社長室感無いけど。
「ほら。やっぱりいたよ。」
ヴァルが指差して言う。だが……
「へ?ヴァルちゃん何も無いよ?」
マナが言う。僕は気になり近づいてしまった。
「そうだ。何もないじゃない……うわぁぁぁ!」
突如何かに手足を縛られ吊るされた。光の蔓?
「光の屈折で見えなくされてるだけさ。“覚醒薬”はその名の通り異能を“覚醒”させるからね。光に関する異能ならそんなことも出きるようになるのさ。にしても、普通に考えてよ。近づくと危ないでしょ。」
ヴァルが落ち着いた様子で語る。こいつこうなるの分かってたな!
「シアにゃを……」
いつも明るいマナが不意に暗い声を出す。ヤバい。アレだ……
「シアにゃを、放せぇぇ!」
怒声をあげるマナは、右手が“刀に変形”していた。
ーー異能だ。
マナは、僕の異能から生まれた存在。普通なら異能を持つことはない。しかし、マナは100%人間だった。だから、異能を持っていた。
その名を、【武器は身体】と言う。
身体のどこかを見知った武器に変形させる異能。2ヵ所までしか同時に変形させられない。なんとも大雑把な異能だ。だけど、マナは異能を使うことは無い。正確には使えない。理由は不明だが、親しい人間、僕が危機にあるとき以外は……
「Guuu!」
耳が裂ける!と感じるほどの叫びが聞こえた。そして、浮遊感。理解した。僕を縛る蔓をマナが切ったんだ。
「シアにゃ!」
床に激突する前にマナが受け止めてくれた。助かった。
「見事なもんだね。まさか、マナ君にも異能があるとは。完璧な生命の創造とは凄いものだね。」
背伸びをしながら言うヴァルに、少々腹が立つ。
「で、マナ君が蔓を切ったことで彼はお怒りのようだよ?蔓は彼の腕だったんだろうね。」
僕らの後ろを指差しながらヴァルが言う。
振り返ると、そこには化け物がいた。巨大な。
「シアにゃに酷いことしようとした。ぐちゃぐちゃしてやる。」
マナの両手が斧になる。これはいかん。
「マナ、落ち着いて。……こいつの相手は僕がする。」
僕でも、さすがにやられたままでは気が済まん。
ただし策はない。
「そうだとも。マナ君は見ていたまえ。君のおかげで屈折は解けた。ここからはシア君のターンだよ。」
ん?プレッシャーかけられてる?
「……わかった。見てる。」
マナの両手が元に戻る。
「さて、シア君。これを返すよ。」
ヴァルが真紅煌銃を渡してくる。あれ?弾丸に色がある。異能が込められてる!?
「【霧の魔女】の力の1つ。『霧風』を込めたよ。」
僕は真紅煌銃を受け取った。少し重くなっているな。
「Guuu!rrrA!」
化け物が暴れはじめた。蛸みたいな足で僕らを襲う。
「がっ!」「きゃ!」「ほい。」
ヴァルは軽々避けたようだけど、僕とマナは壁に叩きつけられた。痛い。頭が揺れる。
ドサッ……マナが気絶してしまった。マナが、マナが!
「やりやがったな……バケモンがよぉ!」
足と、左腕に力が入らないが、右手は動く。真紅煌銃を構えられる。
「シア君!動けかい?」
化け物の相手をしながらヴァルが言う。凄いなぁ。
「右手だけはな!」
ヴァルがにやりと笑う。
「いいね。十分だよ!なら、私が隙をつくるから。合図したら撃って!」
僕はうなずく。
僕は合図を待ちながら、ヴァルを見ていた。凄い。
ビルほどある巨大な化け物相手に全く苦戦していない。それどころか、圧倒している。ヴァルは落ちてる金属棒を拾った。そして、一閃!
化け物の蛸足が次々吹き飛ぶ。
ついに蛸足が無くなった。そして、化け物は宙に浮いている…否。黒い雲の上に乗せられている。『霧墨ノ雲』だ。
「さて、これで動けないね。私は君のことを知らないけども、こうなる前に、醜い化け物になる前に助けてあげたかったよ。娘さんのことは任せて、今楽にしてあげるよ。」
「Gyyyy……」
化け物にヴァルが優しく語りかける。そして……
「今だよ!撃って!」
化け物の前でヴァルがそう叫ぶ。
僕は、真紅煌銃を構える。
そして……
ズドゥーン!
発泡。紫の弾丸が紅い光を放ち突き進む。それは真っ直ぐ化け物へと吸い込まれるように……当たった。
瞬間、化け物が粉々に散った。
「『霧風』は全てを粉々に切り裂く力。切り裂かれたものはやがて何らかの原子となり、世界の一部になる。……鎌埜 草士君、安らかに霧に眠りたまえ。」
これが、真紅煌銃の真の力か。凄い……
「やったな。ヴァル。僕は……」
視界が揺れる。どうやら限界のよう……だ。
「君もよくやったね。今は休みたまえよ。」
ヴァルの声が微かに聞こえた……。
目を開くと、自分の部屋だった。
「ハッ!…痛ぅ。」
僕は飛び起きた。が、肩の激痛ですぐに倒れた。
「起きたのか。早かったね。」
不意に声がした。驚いた。僕のベットの端にヴァルが座っていた。
「マナ君はまだ寝てるよ。」
「どのくらい、寝てた?あとなんで家に?」
ヴァルは立ち上がり、背伸びをした。
「んんっー。……5時間ちょいくらいかな。もうすぐ17時30だよ。」
もう夕方だったのか。
「あと、君の家なのは事務所より近かったからさ。ここはいいたころだね。」
なるほど。凄く単純な理由だ。
「初めての仕事はどうだった?」
ヴァルが再びベットに腰掛け、僕の頭を撫でる。あたたかい。
「正直キツかった。ヴァルの力がなかったら僕らは死んでいたと思う。」
「なるほど。でも、君は彼を救ったよ。苦しみから。それは事実だ。」
救った……か。彼はなぜ“覚醒薬”を使ったんだろう。どんな後悔があったのだろう。
「君は顔に出るなぁ。彼の後悔の種。それは娘だよ。」
「娘さんが?」
ヴァルは彼の真実を語りだした。
ーー知らなかった。あいつが。セナが娘を虐待しているなんて。俺が近くに居てやれれば。俺が凄い異能を持っていれば!あの日、もっといい会社に就職して、残業なんかなくって、あの時、もっと一緒に居れたら。あの場所で、娘を恋を守れるのに。
早く仕事終わらせて帰らないと。
本当は今すぐにでも連れ出したい。
でも、セナの異能は名前こそ知らないけど、闇の焔を操る。俺の異能と相性が悪い。
すぐにつかまって焼かれちまう。
「お困りですか?」
声がした。誰か会社に残ってたのか?
「鎌埜 草士さん。お困りですね。」
振り返ると男がいた。見たこともない男が。
「なんのことだ。てかあんた誰?」
「失礼。わたくし、こういうもので……」
ーー1時間後。
俺は帰路についていた。さっき職場で謎の男から『異能を強くする薬』を買った。これで恋を守れる。
アパートの自分の部屋の部屋の前に立つ。
すると、中から泣き声と何かが壊れる音がした。セナの怒声も……
もう限界だ。今助けるからな。
俺は薬を飲んだ。
そして、意識が飛んだ。
ーー気がつくと、目の前に女の子がいた。
「さて、これで動けないね。私は君のことを知らないけども、こうなる前に、醜い化け物になる前に助けてあげたかったよ。娘さんのことは任せて、今楽にしてあげるよ。」
何を、醜い化け物って…ガラス片に映る俺は化け物だった。あー、思い出した。俺はセナを、殺し、騙したあの男も殺そうと会社を……
まぁ、いいか。この人は信頼できそうだ。娘を恋を頼むよ……
「Gyyyy……」
あぁ、最後に恋を抱きしめたかったな。
「ーーこれが彼の真実。後悔だよ。」
声がでなかった。彼は沢山の人を殺してしまった。
でも、彼は娘を守りたかっただけなんだな。
「恋ちゃんは、今どこに?」
「安全なところさ。近いうちに会いに行こう。彼女は父の鎌埜 草士の最後の願いを知らなければならないからね。」
少し安心した。彼の思いが伝わるといいな。
「さて、今日はもう休みたまえ。あ。私も疲れたから、マナ君の部屋に泊めてもらうよ。マナ君も彼のことを知らなきゃだし。」
「あぁ。うん。いいぞ。」
「じゃあ、お疲れ様。」
ヴァルは部屋を出ていった。マナの部屋に行ったんだな。
「今日は色々あったな……」
就職して、異能探偵始めて、化け物と戦って……
なんていうか、あれだな。
「マンガかよ。」
そう思える日だった。
でも、組織は“覚醒薬”はまだ出回ってる。
まだまだ僕らの戦いは終わらない。まだ終われない。
「『あの日、あの時、あの場所で』笑って語れる未来は、誰もが手にすべきだ……彼だって、手にすべき者だった。」
鎌埜 草士、彼のように後悔を持つ者は大勢いる。
そんな人たちを、化け物になる前に救いたい。
「救いたい。僕に出きるなら。」
いや、違う。
「僕らなら出来る。だな。」
僕らの戦いは今、始まったばかりだーー
初めまして。クラるんです。
CASE1完結です。ようやく世界観が分かってきたくらいかな?
真霧異能探偵事務所はこれから忙しくなりますよ~。たぶん。
さて、読んでくださった皆さま。
ありがとうございます。
拙いながらも頑張りました。
物語はまだまだ始まったばかり!
これからも、『探偵は魔女』を、真霧異能探偵事務所を応援してください!