~異能探偵始めます!~CASE1上
「今だよ!撃って!」
異形な化け物の前であの人がそう叫ぶ。
僕は、真紅の銃を構える。
そしてーー
ジリリリリ!ポヨンポヨン!ジリリ…
「ハッ!」
僕は目覚まし時計の音で跳ね起きた。
時間は朝6時ぴったりだ。
おかしい。ついさっきまで、僕は化け物と…
「もしかして、夢なのか?」
……とりあえず、トイレ行くか。
僕は、幻燈 シア 先日15になった立派な新社会人だ。
研究者だった両親は僕が8歳の時、学校に行ってる間に忽然と姿を消した。生活費とか仕送りあるし、生きているとは思う。
以来、僕は妹と2人で生活している。
妹って言っても、僕は1人っ子だから、戸籍上の妹ではないよ。
……僕の異能で造ったんだ。6年前、9歳の時に。寂しかったから。
あ、異能って言うのは、いまから35年前、西暦2120年に人間が手に入れた新たな力の総称のことで、指先から火を出したり、空間から人が出てきたり…
色々な異能が存在し、人間は必ずみんな何かしらの異能を持っている。
そして、僕の異能は【顕現する創造】
僕が想像し、創造したモノに生命を与えたり、創造したモノの能力も現実にできる異能だ。
僕はこの異能で妹の、幻燈 マナを造った。
正直、マナが生まれたあの時以来、この異能が役に立ったことはないと思う。……いやだって、創造するより買ったが早いじゃん。今の時代、手に入らないものなんて、そうないさ。
「にしても、あの夢なんだったんだろうなぁ。」
朝食を食卓に並べながらふと、今日見た夢を思い出した。
「夢ってにゃーですか……むにゃむにゃ」
眠たげな声が後ろから聞こえた。
時計を見ると、6時30分。マナの起床時間だった。
「んー、なにか不思議な…っ」
話ながら振り返り硬直した。……忘れていた。ごく稀にだが、マナは寝起き全裸の時がある。
「先に着替えてきて。一緒に朝ごはん食べよう。」
「ふぁ~い」
数分後
僕はマナと向かい合って食卓についた。
「「いただきます。」」
「で、シアにゃ、どんな夢だったの?」
僕は夢を今一度思い出しながら話した。
「誰なのかはよくわからないけど、見覚えある気がする。そんな誰かと僕で、でっかい化け物と広場?みたいなとこで対峙してるんだ。そして僕は右手に真紅の銃を持ってたなぁ。あれは、たぶん真紅煌銃だった。」
真紅煌銃
2年前に僕が創造した特殊な銃だ。
異能を弾に込めて放つことができる銃。でも詰める異能も無いから、正直使い道は通常機能の火炎放射で除草するくらいしかなかった。
そういえばあの時も、夢で見たから創造したんだったなぁ。
「ほぇー。不思議な夢だね。にしても、シアにゃが化け物と対峙するとか、無理あるでしょ!シアにゃ運動でもゲームでも私に負けるくらい弱いじゃん。」
「ぐっ……」
確かに。妹にすら勝てない兄が、化け物と戦うなんて死亡コースだよな。
「まぁ、夢だしね。大体、真紅煌銃を屋外で持ってる時点で逮捕されちゃうから。」
「?でも、シアにゃ。今日から銃か剣は必須装備でしょ?異能探偵には銃・剣法は適用されないから。」
「あ、そうだった。」
そう。今日から僕は新社会人として、仕事を始めるんだった!
まぁ、異能社会の今、僕の異能は役立たずだからって面接全滅したけど。
「もう。忘れてたの?せっかくシアにゃを指名してくれてるんだから忘れちゃダメだよー。」
面接全滅して落ち込んでる中、急に舞い降りた就職のオファー。正直異能探偵がなにするかわかんないけど、僕にはそれしかないんだー!
「ごめんごめん。今日からだったね。…でもな、装備用意するの忘れてたなぁ。そもそもなんで『武装は持参』なんだよ!普通、武装なんて持ってねーよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。用意してないならとりあえず、真紅煌銃を持っていきなよ。」
真紅煌銃か。ただの火力強めのライターみたいな使い道しかないけど……
「ま、無いよりましだよな。」
そう。無いより…な。うん。無いより……
「それはそうと、僕が仕事の間マナはどうするの?」
マナは凄く優秀だ。僕よりも頭脳も体力もある。
それに、マナにはアレがあるし…
でも、かわいい妹を危険なとこに連れていきたくないし留守ば
「あー、その話なんだけどね。私、マナは、シアにゃの助手として雇われました!」
へ?ジョシュ?
「嘘だよ…な?」
「まじのまじなの。あれ?でもシアにゃはまだ探偵見習い=助手だから、マナは助手の助手になったゃうね!」
ジョシュのジョシュ……助手の助手
「じゃなくて!マナも一緒とか聞いてな…そもそも何があるか分からないのにだな…」
「シアにゃ。時間はいいの?」
興奮気味に喋る僕にマナが言う。そこで、反射的に時計を見たら…8時12分
確か、出勤時間は9時で、電車で20分…
乗るべき電車は…8時30分発だ!
「やべぇぇぇ!」
「シアにゃ声でかい~!」
生まれてこの方15年。初めて叫んだ瞬間であった…
ーー8時53分。
「ついに来てしまった…」
目の前には“真霧異能探偵事務所”と書かれた鉄看板を掲げた、フェンスがある。その奥にたぶん事務所であろうボロい一軒家がある。
「意外と間に合ったね!」
ネコミミカチューシャ+ドレス姿のマナが言う。
……何故その格好なのかは聞かないでおこう。
「マナ、僕が先に入るから後からしっかりついてくるんだよ。」
「はーい。」
意を決してインターフォンを鳴らした。
「すいません。今日からここで働かせて頂く幻燈と言う者です。」
意外と緊張する!
「ザ…ザザザ……あー、君達が近づけば門は開くから、そのまま入っておいで。事務所の一番奥の部屋にいるよ。」
ノイズ凄いなぁ。てか、女の子の声だったぞ。
「了解しました。」
「じゃ、行こっか。シアにゃ。」
「だな。しっかりついてくるんだよ。」
ここで躊躇っても仕方ない。漸く手に入れた職場だ。僕は進むことにした。
ーーどのくらい歩いただろう。事務所に入って進めど進めど奥の部屋に辿り着かない。途中扉が幾つかあったが、この廊下、ただただ長い。
「ダァー!どうなってるんだよ。こんなに広かったか?なあ、マナ……マナ?」
おかしい。後ろを歩いてたマナから返事がない。
慌てて振り返ると、そこにマナはいなかった。代わりに、扉があった。見覚えのある扉が。
この扉は、この事務所の入口だ!
どうゆうことだ…まさか、まさか!
「僕は足踏みしてたって言うのか?」
落胆したその時、声がした。
「シ……シア…シアにゃ…シアにゃ!」
「ハッ!」
僕は目を見開いた。隣に心配そうに僕を見るマナがいた。
「あれ?僕は何を、確か奥の部屋に向かって…」
そこで気づいた。目の前は行き止まりで扉がある。
僕は勢いよく振り返った。
扉の装飾が視認できる距離に入口の扉はある。
「シアにゃだいじょーぶ?奥の部屋の前に着いたってのにずっと足踏みしてたんだよ?目を閉じて。」
いったい、どうなって…
「私の異能だよ。」
その時、扉の向こうから声がした。
どうやら、この部屋に真霧異能探偵の探偵、僕の上司となる人がいるようだ。
「失礼します。」
扉を開けた瞬間目を疑った。……建物の外見とはまるで違う。立派な書斎だ。だが、そこじゃない。天井まである本棚の上半分に本は無く、骨が飾られていた。
異形な骨が。他にも何かの目玉や、爪?なんかもある。
「「凄い……」」
マナと同時に同じことを言っていた。
「ようこそ。幻燈 シア君、マナ君。私が真霧異能探偵事務所の所長兼探偵のヴァル、こと、本名、真霧 サラだよ。」
愛らしい声が背を向けた椅子から聞こえてくる。そして、椅子が回転し、探偵の姿が明らかとなった。
年齢は12~3と言ったところか。 特性の黒と白のドレスは歯車で装飾され、足はタイツと厚底ブーツ。左手に白の手袋、右手中指に金の砂時計の指輪。箒の耳飾り。白銀の髪は上段ツインテールに、前髪の右半分を箒型のピンで纏めている。そして、見るものの心を奪うような美しい瞳はオッドアイ。右が赤で左が紫である。
「かわいい!シアにゃ、あの子かわいい!」
マナがパタパタと跳ねながら言う。マナの行動もかわいいな。あ、そうじゃない。
「マナ、あの方上司だから。」
脇腹をつついて注意する。
「ふふ、気にしないで大丈夫だよ。この事務所では上下関係とかあってないようなものさ。普段の君達らしく接してよ。ただひとつ、私を呼ぶときはヴァルと呼んでくれればそれでいい。それに、かわいいと言われるのは嬉しいからね。」
なんとも変わった探偵だな。探偵とか絶対上下関係大切じゃん。だけど、そう言うのが苦手な僕にはありがたい。
「そうですか。ではお言葉に甘えて…人に対する普段通りで接します。早速だが、先程の件。僕が終わりのない廊下を歩いていた幻覚があなたの異能とはどう言うことだ?」
僕がそう言った途端、探偵ヴァルは笑った。
「ふふ、ふふふ。そのまんまだよ。君は、私の異能【霧の魔女】の中に入っていたんだよ。」
なんだと!?魔女だと!
「その顔は、分かりやすいほど驚いた顔だね。」
「?どうしたの、シアにゃ。」
そうか、マナは歴史だけは苦手だったな。
「ふふ、説明するよ。“魔女”世界に12しかいない最高の異能者。通称、到達者。そして、その実態は…」
「人類に異能を手に入れるより先に、既に異能を持っていた者。そして、“魔女”が死ぬと新たな“魔女”が生まれ、記憶と力を引き継いでいく不滅の存在。また、人類に異能を授けたとされる者達。」
「ほう。シア君はよく勉強してるね。でも、半分正解半分間違いだね。人類に異能をもたらしたのは別の存在さ。」
どうゆうことだろう?僕は歴史でそう習ったのに……
「まぁ、その辺はそのうち分かってくるさ。それより……マナ君が知りたいことがあるようだね。」
「うん。どうやってシアにゃに異能を使ったの?それに、シアにゃを異能の中に入れたって言ってたけど……ずっと前にいたよ?」
そうだ。確かに気になる。僕はいつの間に異能の中に入ったのか……
「君達は、私の異能【霧の魔女】の力を受けた。それは、事務所に入ったときからさ。そして、シア君だけは『霧廻』の影響を受けたってだけだよ。」
僕はマナと目があった
「「ドユコト?」」
完璧なハモリだ。
「単純な話、シア君はやはり私の探していた異能使いだったってこと。【霧の魔女】にはいくつも能力があってね。『霧廻』はその1つ。」
!?1つの異能に複数の力があることはあり得ない。応用はできるけど…
「で、その影響を受けた理由だけど……君達を雇った理由と一緒に話すよ。まぁ、座りなよ。」
ヴァルの目がなにやら輝いてるな。僕とマナを雇った理由か……
僕とマナは近くのソファーに座り話を聞くことになった。
約1時間後
「ーーと、言うわけさ。」
なんとも信じ難い話だ。
ヴァルの話を要約すると、全ては僕とマナのためだ。
『霧廻』は霧の始祖異能に反応する能力。
反応した場合、対象を霧の廻廊へと誘い、覚醒を促す。廻廊には幾つか扉があり、どこも開けてはならない。開けずに現実へ戻れたとき、何か変化が現れる。そうだが、今のところ何もないぞ?
始祖異能は、人類に異能がもたらされたときより前に存在した異能で、“魔女”の力の一端であり各1つ計12の異能が存在する。
つまり、僕の【顕現する創造】は【霧の魔女】の力の一端。
そして、始祖異能を持つモノを集め、その力から新たな異能を造り神になろうとする非人道組織『神羅儀』から僕を守るべく雇ったらしい。
マナを雇った理由も、僕の異能で生まれた=異能の塊だから組織に渡らないように一緒に守るため。
少々不思議な話ではある。
「僕とマナを雇った理由も、異能についてもなんとなく分かった。でも、僕らは何をすればいいの?守るためとはいえ、雇われたんだ。仕事は何?」
「そうだよ。ヴァルちゃんが私とシアにゃを守るだけなら雇うにはならないでしょ。」
するとヴァルはわざとらしく驚いた顔を見せる。
そして、真面目な声で言った。
「君達、バカじゃないんだね。」
さすがにイラッとくるな。
「ま、正直な話雇ったのはただのついでさ。人手不足だからね。ここ数年、異能犯罪は増加傾向にある。それは知ってるね?」
異能犯罪、異能を使った犯罪の総称。代表的なのは、空間を操る異能で窃盗したり、火を出す異能で放火したりだ。
「まぁ、話には聞いてるな。」
「異能犯罪は、警察でも対処が難しいって言うもんね。」
通常犯罪と違い、異能が絡むため事前予防などが出来ない。それ故警察は後手に回る。結果、犯罪は増加する。……確かそんな話だったなぁ。
「そ。そして、そんな異能犯罪の中でもここ2年で急増したものがある。それは、異能暴走。私たちの業界では『禁忌』と呼ばれるものだよ。」
異能暴走。自分の異能を制御できなくなる現象。精神の乱れが要因と聞くけど、そうとは限らない。被害も大きく、少なくとも20人以上は死んでしまう。さらに。暴走後は大半の暴走者が死んでしまう。
「この犯罪は、現象こそ様々だけど今までもあった。でも急増した後は1つ共通点があるの。」
「共通点?なにそれ」
マナが首をかしげる。かわいいな。
「異能を意図的に暴走させてるんだ。」
「意図的にだと!?」
バカな。異能暴走なんて意識して出来ないものをどうやって!
「組織だよ。組織は既に、3人の始祖異能持ちと1人の“魔女”を捕えてる。その力と血を使い、ある異能を造った。【とある薬の創造】」
なんだ、その聞くからに危険な異能。
「【とある薬の創造】で造った“覚醒薬”を『異能を強くする薬』とか謳って、ばら撒く。それを飲んだものは、ひとときの間幸福と力を感じるけど、やがて異能が暴走して自我を失う。」
ヴァルは不意に立ち上がり窓の外を眺めた。
「そして、薬を飲むものは決まって自分の無力さを感じた人だよ。『あの日、あの時、あの場所で』なんて後悔を感じてるからこそ、無力な自分を変えたかったんだろうさ。」
ヴァルは2枚の写真を見せてきた。
「これは薬を使い、暴走したなれの果てさ。」
驚愕した。
写真の1枚は坊主頭の男。頬の傷と腕の金の腕輪が目立つ。
そして、もう1枚は、化け物だ。
ビルほどの大きさがある蛸のような、それでいて人間のような化け物。腕にある金の腕輪から、先の写真の男だと気づいた。
「気持ち悪い……」
マナが言う。全くだ。
「真霧異能探偵は、この事件の対処が仕事さ。正直な話、危険だよ。」
「危険……なのか」
僕は呟いていた。
「そう。危険さ。でも、“魔女”が絡んでるから他にはまかせられない。」
いや、そうでなくても、こんな事件の対処なんて無理だろ!
「このまま放置すれば被害は拡大。残りの始祖異能持ちや“魔女”が捕まるのも時間の問題だよ。それは私も君達も同じさ。最初から狙いはそっちなんだから。」
……僕らのせいで、人が死ぬかも知れない?
「私は、君達を保護することが第1目的だから。無理に手伝ってとは言わない。断ってくれても、君達の安全は保証するよ。他の仕事も用意出来る。」
断る、か。そんな方法もあるんだな。でも!
「やるよ。」
「私もやる。」
どれほど危険かなんて分からない。ただただ恐ろしい事だとは分かる。正直僕もマナも安全に過ごしたい。
「やってくれるの?」
ヴァルは驚いている。
「私やシアにゃだけ安全に保護されてるとか、そんなのおかしいもん。」
「僕も、マナも、後悔はしたくない。『あの日、あの時、あの場所で』それは笑って言いたい。」
マナと目があった。僕とマナの意思は固い。
「僕、幻燈 シアは!」「私、幻燈 マナは!」
大きく息を吸った。自分が死ぬかも知れない仕事なのに、驚くほど落ち着いていた。
そして、僕らは声を揃えて……
「「異能探偵始めます!」」
いつか、『あの日、あの時、あの場所で』を後悔でなく、あんなことがあったね。こんなことがあったね。と、誰もが笑って語れる。そんな未来のために。
僕らの戦いが今、始まるーー
CASE1下に続く。
初めての投稿です。
ですから、皆さんはじめましてですね!
ずっと書きたかった、異能探偵モノ!
ついに書けましたぁ。
話をまとめきれず上下になっております。
近いうちに下を書きます。
こんな私の作品でも楽しんでくれる方がいると信じてます。
読んでくださった方、ありがとうございます。
よろしければ今後も『探偵は魔女』を、真霧異能探偵事務所の活躍を応援してください!