プロローグ
雨の中トラックを走らせている。今年で45歳になった俺は長距離トラックの運転手だ。
「今日は天気のせいで視界わりぃなー」
タバコを吸いたいと思い、ポケットから煙草を取り出したとき、トラックの前に何かが飛び出してきた。
「! 危ない!!」
咄嗟にハンドルを右に切り飛び出した何かを避けたのはいいが反対車線にはみ出してしまった・・・
キキキ―ッ ドッカン
対向を走っていた別のトラックに接触してしまった。
「やっべーなぁ。事故ったかぁ~」
俺は優良運転手で10年以上も過ごしていたのに、今日に限って事故を起こしてしまった。
幸い速度は出ていなかったので、路肩に停めてからトラックを降り、被害車両に向った。
当ててしまったトラックは何かが飛び出してきた辺りに停車していたので、少し急いで向かうとする。
「すみません、大丈夫でしたか?ケガは無かったですか?」
「急に飛び出してきて危ないじゃないの!なんで真っ直ぐな道ではみ出ししてきたのよ!?居眠りでもしてたの?」
トラックから出てきたのは20代半ばに見える結構美人なお姉さんだった。
「ほんとすいません、この辺りで急に何かが飛び出してきたもんで、咄嗟にハンドルを切っちゃったんだよね」
さっき飛び出してきた何かがこの辺りにまだいるか、きょろきょろと見まわしてみた。
道路の隅に小型犬くらいの白い動物らしきものがうずくまっているのが見えた。
「たぶんあれが急に飛び出してきたんですね。一瞬だったからなんだかわからなかったけど、轢かなくて良かったよ」
「なんか遠目に見てもぷるぷる震えている感じがするんだけど、大丈夫かしら?」
美人なお姉さんは来るかを当てられた事よりもあの何かが生きていた事に安堵したのか、反対車線の飛び出してきた動物に近寄って行った。
慌てて俺も後を追って、動物の前に立った。
「よしよし~、怖かったね~。轢かれなくて良かったね~」
「急に飛び出しちゃダメだろー!トラックに当たらなくて良かったな~」
美人なお姉さんが動物を抱き上げて撫でているのを見ていた。
真っ白いふわふわした毛皮でモフモフしており、大きさは小型犬くらいのサイズで、しっぽはぼったりとしたキツネのような印象だ。
くりくりとしたつぶらな瞳で、大きな耳がピンと立ち、耳の間に5cmくらいの一本の角が生えている・・・
・・・ツノッ!???
真っ白いキツネのような体を震えさせて、ひどくおびえている感じに見えた。
「この動物って、なんて種類なんだろう?」
「そうよね~、キツネにしてはツノとか生えているし・・・まあ私は動物に詳しくないけど、かわいいからいいんじゃないかしら。ね~、もふもふちゃん♪」
「俺は動物とか割と好きだからわかるけど、ツノが一本の動物ってあまりいないと思うんだ。特に日本にいる哺乳類とかで一本の生き物は居ないような気がするな・・・外国とかはわからないけど」
動物を抱っこしたまま二人で話をしていたところに向こうから爆音を響かせたD〇Nカーがすごい勢いで走ってきた。
ちょうど俺の車がブラインドになり向こうからはあまり見えていないのか、お姉さんのトラックを避けるために対向車線の俺たちに向って近づいてきている。
D〇Nカーの運転手は余所見をしているようで、だんだんとこっちに近づいてくる・・・
「危ない!」
気が付いたときは俺たちに後50cmでぶつかるところまで寄ってきていた・・・
咄嗟に美人のお姉さんと動物を守るように抱きかかえたところで急に周りの景色が暗くなってきた・・・
「俺は死んでしまうのか・・・」