いつもの学校
昨日、芦高五月は来なかった。
結局、漫画は買わず、まっすぐ家に帰った。
高校に入学して二ヶ月が経とうとしていた。
4月の上旬は名簿に則り、座席は教室後方の廊下側。その後、GWが明けたタイミングで席替えがあった。教室後方の窓側となった。幸か不幸かで言うなら、僕は幸せだった。周囲に馴染めていなかった僕のことを、周囲の人に必要以上に意識させることもなく、まさに平穏そのものだった。…5月17日までは。
あの日、僕は「スタートにもどる」というマスでも踏んだかのように感じる。友人ができないのではなく、自分に諦めをつけて、友人を作ろうとしていなかった、そう気付かされた。そうして僕自身が再び周囲を気にするようになった。
その日を境に、僕は僕なりに努力をした。運良く右隣の座席の生徒は、明るすぎず暗すぎずの男子生徒。成績が僕より少し上だったので、わからない問題を聞いて、話をしようと努力をした。話しかけ始めて一週間後には昼食も一緒に摂るようになった。
そして今日は6月1日。担任の先生は月ごとに席替えをするので、この席ともお別れである。
結果、これまでとは打って変わって、僕は窓側から四列目、廊下側からも四列目、前から三番目、後ろからも三列目。要はど真ん中の席となった。かの右隣だった生徒はと言えば、僕が居た席だった。…離れてしまったか。
朝礼後に席を移動した。移動したばかりではやはりまだ周囲とは馴染めず、必然的に物思いに耽っていた。
物思い、とは言っても、考えることは一つである。
あの妖精は僕の心に棲み着いていた。
席替えをしてから二週間が経った。
勉強を教えたり教えてもらったりするというのは、案外話すきっかけとして最良解ではなかろうか。今度は前の席と左の席の男子生徒とよく話すようになった。一週間前あたりから昼食はその二人と前まで一緒に食べていた生徒、そして僕の四人で食べるようになった。四人、全員が部活動に所属していなかったので、一緒に下校するようにもなった。
努力をした。努力の結果、友人と言っても差し支えない「隣人」ができた。僕が、僕のために作った僕の友人。
それが、本物の友人かどうか、僕にはいまいちわからない。ただ、最初こそ勇気を振り絞って話しかけ、気疲れしていたが、最近は純粋な楽しさを感じている。彼らはとてもいい人である。
日常が劇的に変化した6月が去り、7月になった。
僕らは、今回の席替え後も登下校や休み時間を共に過ごした。
一学期期末考査を終えた金曜日の放課後、四人で話しながら帰っていた。
「日曜日、どこか遊びに行かない?」
元前の席の生徒が声を弾ませ提案。
他の二人は同調し、話を進めようとしている。
本物の友達って何でしょうかね。
一応、この作品は私なりに「友達」を模索するようなつもりで書いてます。
特に高校時代の友人は一生の付き合いと言われるように、大事な時期真っ只中の礼くん。
礼くん視点に垣間見える複雑さが伝わればな、なんて思ったりしてます。