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あたたかな公園  作者: 如何敬称略
少女は見えていない
4/14

おもしろい漫画

目があった。…すぐに目をそらされた。

今日は着飾っているわけではなく、公園にしっかり馴染んでいた。相変わらず、放たれるオーラは別次元のものだったが。

昼前の静まった公園を軽く見回しながらテーブルへと足を進める。僕の足音だけが響いた。


ベンチに腰掛ける。先週とほぼ同じ位置取りだった。今日はその少女はガラケーを出さず、ウォークマンだけがテーブルに乗っていて、イヤホンに繋がれていた。少女も昼ごはんをここで食べたらしく、少女の隣にかばんと一緒に膨らんだレジ袋があった。


僕も昼食を取ろうとパンとカフェオレを取り出す。


「また菓子パン…」


うっすらと聞こえた声の主は、考えるまでもなく向かい側の少女であった。僕がパンを取り出すのと同時にイヤホンを外していたらしい。


「手頃で甘くて美味しいから公園で食べるにはもってこいってね」

「面白くないですよ」


そう言いながら少女はくすっと笑っていた。屋根の陰だったが、少女が輝いて見えて仕方がなかった。


僕は菓子パンとカフェオレをこれでもかと堪能すべく、ゆっくりじっくり食べた。僕が食べ始めると少女は外していたイヤホンを再びつけ直した。とても時間がゆっくりに感じられ、先週よりもくつろげた。


食べ終わり、チョコチップメロンパンの袋の添加物を眺めていると少しずつ子供が戻ってきた。静かな公園の、ゆったりした雰囲気も好きだが、子どもたちが元気にはしゃぐのを見るのも、また落ち着くようだった。少女は音楽を聞きながら、かばんから本を取り出し、読み始めていた。…本は本でも、漫画本だった。


「その漫画、どんな内容なの?」


漫画が趣味と公言している僕だったので、聞いてみたくなった。少女はイヤホンを片方外し、答える。


「勇者が魔王を倒します」

「…そっか。…もう少し詳しく」

「間違えました。魔王が勇者を倒します」


…この子、からかっているのだろうか。先週、別れた後、少女の身を案じていた僕としては元気そうで何よりだが、…少々不服だ。おいおいとつっこむ僕を見て少女はまた輝かしい笑顔を見せる。…なんか、ずるい。僕は一つ、はぁとため息をつき、言う。


「先週、ひどく落ち込んでいたから心配していたけど、元気そうだね」

「あ、…はい」


少女は肩を僅かに上げたが、すぐに戻った。その答えを聞いて、僕は再び漫画について聞いた。少女が読んでいた漫画は、本当に魔王が勇者を倒すものだった。僕は読んだことが無かったが、結構面白いらしく、少女は付けていたもう片方のイヤホンも外して説明をしてきた。帰りにでも買って帰ろう。


少女は漫画が好きで、結構読んでいるらしい。なんと、少女はかばんに漫画を五冊も入れていた。結局、漫画の話は止まらず、途中で少々不自然な形で僕が少女の持つ漫画を一冊借りて読み始めるまで止まる気配がしなかった。


ちょうど読み終わると、時計は17:00に垂んとしていた。少女は途中で持っている漫画を読み終え、音楽を聞きながらうとうとしていた。17:00の鐘が鳴ったので漫画を少女に返し、お礼として、昼食のゴミをゴミ箱まで捨てに行こうと袋を受け取った。少女もベンチから立ち上がり、伸びをして身支度を済ませた。


「漫画、貸してくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」

「名前、聞いてもいい?」


ここまで話して名前も知らないのは僕個人としてはすっきりしないので聞いてみた。…怪しい人じゃないよ?


「私は、芦高五月(あしたかさつき)です。こちらこそ、漫画の話を聞いてくれてありがとうございました」


少し驚いた反応をしていたが、答えてくれた。先週よりも早い時間だったから、まだ空は青かったが、青かった先週の少女の表情は、一変してとても満足げだった。

だんだん長くなっているのはすみません…。

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