仙人おじいちゃん
「仙人おじいちゃん」
小さいころ、わたしはよくおばあちゃんちに預けられた。
お父さんとお母さんがせっせとはたらいているあいだ、私はおばあちゃんちで過ごした。
おばあちゃんちは遊ぶものがあまり無かった。
あったのは紙とペンくらいだ。
はじめは楽しくお絵かきをしていたわたしだったが、そのうち飽きてしまって、おばあちゃんちを飛び出した。
外に飛び出したはいいものの、何をするかは決めてなかった。
わたしは悩んだあげく、「探検」をすることにした。
おばあちゃんちの外には、たくさんの「楽しい」が転がっていた。
少し歩けば田んぼがあった。
田んぼにはオタマジャクシがうじゃうじゃ泳いでいた。
バケツでそれらを捕まるのは楽しかった。
少し歩けば猫に出会った。
まるまると太った猫だった。
見つけた瞬間、あとを追いかけたが、体の割に、足の速い猫だった。あっという間に、見失ってしまった。
少し歩けば大きな大きな木が立っていた。
いつから立っているのだろうか。
木の下は、ひんやりとしていて、そよそよと吹く風が心地がよかった。
私はこの木に、「トトロの木」と名付けた。
少し歩けば空き地があった。
空き地には、なぜかは分からないが、鳥がたくさん集まっていた。
スズメもカラスもハトもキジもいた。
嬉しくなって近づいたら、パタパタと一斉にお空に羽ばたいて、みんなみんな、逃げてしまった。
しばらく呆然と空を見上げていたら、空き地の前のお家から、白くて長いひげをはやした、仙人みたいなおじいちゃんが出てきた。
仙人みたいなおじいちゃんは手に何かを持っていた。
「おじいちゃん、何を持っているの?」
「これかい?これはお米だよ、鳥にえさァ、あげようと思ったんだけどねェ」
私はその日から、おばあちゃんちに預けられるのが楽しみになった。
おばあちゃんちに着いたら、すぐに空き地に走った。
たまに居ないこともあったけれど、空き地に行くと、だいたい仙人おじいちゃんが鳥にえさをあげていた。
仙人おじいちゃんは無口だった。
仙人おじいちゃんは私に鳥のえさを分けてくれた。
仙人おじいちゃんと私は、一緒に鳥にえさをあげた。
仙人おじいちゃんと私は、「おともだち」になった。
そのうち私は大きくなって、1人でお留守番ができるようになった。
おばあちゃんちに預けられることは、無くなった。
仙人おじいちゃんに会うことも、無くなった。
この前久々にあの空き地に行った。
仙人おじいちゃんはもういない。
しかし今でもあの空き地には、鳥がたくさん集まってくるのだった。