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戦え!すももたろう

最終話です。

 鬼の住家がある場所は分かったものの、雉さんによるとそこは海に浮かぶ小島なのだとか。

 簡単に到着はできないようです。とりあえず、すももたろうたちは海が見えるところまで移動することにしました。


「この先に鬼たちがいる島があるのか」

「その通りです。近くまで飛んで行ったことがあるので間違いありません」


 雉さんのように空を飛べるものでもそれなりの時間がかかってしまうので、泳いでいくのは絶対に無理とのこと。


「どこかで舟を借りるしかないでしょうか?」

「だけど、貸してくれるでしょうか?」


 犬さんと猿さんが首を捻っています。

 漁師さんを始めとして海辺で暮らす人たちにとって舟は命の次に大切なもの、いえ、時には命よりも大切なものです。

 いくら鬼退治に必要でも、見ず知らずのすももたろうたちが簡単に借りることができるようなものではないのです。


「それは頑張って説得するしか方法がないね。ともかく近くの村にまで行ってみよう」

「分かりました。一番近くの村はこっちです」


 ちょっぴり不安に思いながらも、雉さんを道案内役にして一行は村へと向かうことにしました。


 そして彼らが辿り着いたのは小さな漁村でした。

 が、どうにも様子がおかしいようです。建物のいくつかは壊れているようで、しかも大事な舟が村のあちこちに転がっているではいるではありませんか!


「何者だ!?」


 不思議に思いながら村に入って行くと、すぐに村人らしき人に呼び止められました。


「こんにちは。僕はすももたろうといいます。そしてこちらの三匹は仲間の犬と猿と雉です」


 その声を聞きつけて何事かと集まって来た村の人たちに挨拶と簡単な自己紹介をするすももたろう。

 なにせお爺さんとお婆さんから、挨拶は大切だと口酸っぱく言われ続けてきたので。


「す、すもも?……そのたろうさんと仲間たちがおらたちの村に何の用だ?」


 挨拶の効果がでたのか、尋ねてくる村の人の声にはさきほどまでの刺々しさはなくなっています。

 そして周りに集まって来た他の村の人たちの視線もまた柔らかくなっていたのでした。


「僕たちは都で悪さを繰り返している鬼たちを懲らしめるために旅をしています。この海の向こうに鬼たちの住家がある鬼ヶ島があると聞いてこうしてやって来たのです」

「なんと!ももたろ、じゃなくて、すももたろうさんは鬼ヶ島へ行くつもりなのかね!?」

「はい」


 すももたろうが答えると、村の人たちから歓声が上がりました。

 すももたろうたちが驚いていると、村人の一人が説明を始めます。


「実は鬼ヶ島の鬼たちは都に行く途中にこの村によっては悪さをしていたんだよ」


 建物が壊れているのも、船が村のあちこちに転がっているのも、全て鬼が悪さをしたせいだったのです。


「だからもしも、もも、ではなくすももたろうさんたちが鬼を退治してくれるというのなら、舟を貸してあげてもいいぞ」

「え?本当ですか!?」


 これから先もこんなことが続くようであれば、村を捨てるしかありません。

 それならすももたろうたちが無事に鬼ヶ島へと到着できるように船を貸すくらい何のことはない、と村の人たちは考えたのです。


 こうして、すももたろうたちはあっさりと舟を借りることができたのでした。

 そして村人たちにしっかりと舟のこぎ方を教わった後、


「鬼たちを懲らしめてから、舟を返しに戻ってくると約束します!」


 すももたろうたちは見送る村人にそう告げると、鬼ヶ島のある方角へと舟の舳先(へさき)を向けて出港しました。


「鬼ヶ島のある所は分かっています。案内はお任せください!」


 雉さんがいるので海の上で迷子になってしまうという事もありません。すももたろうたちは、えっちらおっちらと舟をこいで進んで行ったのでした。


「あ!もも、いや、すももたろうさん!あれです!鬼ヶ島です!」


 交代で舟をこぐこと数時間、ついに目的の鬼ヶ島が見えてきました。

 しかしその島は、恐ろしいものが居着いているのを示しているかのように分厚い雲によって太陽が遮られていました。

 まだまだ昼間だというのに夜のように真っ暗で、雲の中では雷が暴れ回っているのが見て取れます。

 さらに周りの海まで荒れ狂っていました。


「みんな!苦しいけれどあと少しで到着だ!頑張ろう!」

「おー!」


 最後の力を振り絞るように、すももたろうたちはうねる波をこえて行きます。


「ぐわっはっはっは!まさか俺たちの島にまでやって来る命知らずがいたとはな!」


 ようやくのことで上陸したすももたろうたちを出迎えたのは、数十人はいようかという筋骨隆々でマッチョな巨漢たちでした。

 頭には角、どこから調達したのか虎縞柄のパンツを履いています。

 それは噂に聞く鬼の姿そのものでした。


 ただ、肌が赤かったり青かったりはしていませんでした。

 その代わりと言っては何ですが、赤い顔や青い顔になっている者がちらほらと。


「あははー。人間に犬に猿に雉がいっぱいいるぞー」

「うっぷ、気持ち悪い……。うえっぷ」


 宴会でもしていたのか、すっかり酔っぱらってしまっているようです。

 さすがに大将らしい一際大きな鬼は平気そうでしたが、部下たちの情けない姿にちょっぴり居心地が悪そうです。


「……そ、それで、お前たちは何のために来たのだ!?」

「僕はすももから生まれたすももたろう!都で悪さをしていたお前たち鬼を成敗するためにやってきた!」

「す、すもも?ま、まあ、いいか。……とにかく、たった一人と二匹と一羽で俺たちに勝つだと!?生意気なやつらだ!返り討ちにしてやる!」

「酔っ払いなんかに負けない!みんな、やるぞ!」


 ついに、すももたろうたち対酔っ払い軍団、もとい、鬼たちの戦いの火ぶたが切って落とされたのです!

 ……が、いくら鬼たちの数が多かろうとも、すもも太郎たちに適うはずがありません。

 だって主人公ですし。

 負けたらお話が終わってしまいますからね。


「ぎゃっはー!?ま、参った!降参するから許してくれー!」


 ぱっこーん!とすももたろうの刀の峰で頭を叩かれた鬼の大将が泣きながら命乞いをしてきました。その頭には角よりも大きなたんこぶができています。

 周りでは犬さんにがぶりんちょされた鬼や、猿さんに引っかかれた鬼、そして雉さんに突かれた鬼などが同じく白旗を上げていました。


「もう二度と悪さをしないと誓うのなら、命ばかりは助けてやる」

「へ、へへー!ももたろう、ではなく、すももたろう様の言うことに従いますー!」


 こうしてすももたろうたちは、鬼たちが盗んでいた金銀財宝を持って都へと戻り、人々から大変感謝されたのでした。

 おしまい。




 ……え?どうして『すももたろう』ではなく、『ももたろう』としてお話が伝わっているのか、ですか?

 それにはこんな裏話があったのです。


「あ!すももたろうさんの名前を、間違ってももたろうにしてしまった!?」

「おいおい、ちゃんと直しておけよ」


 という事が何回も何回も起こってしまいまして……。

 いつの間にか『すももたろう』ではなく『ももたろう』として定着してしまったのでした。


 皆さんも、名前の間違いには注意しましょうね。


思った以上に長くなってしまいました。


クスリと笑えるような内容を目指しましたが、どうだったでしょうか?


それではまた別の作品で。


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