旅立て!すももたろう
そんなこんなであっという間に月日は過ぎていき、いつしかすももたろうは立派な青年へと成長していました。
ちょうどその頃、遠く離れた都ではどこからともなく現れた鬼たちが悪さを繰り返すという事件が起こっておりました。
何とかしようと都の兵隊さんたちも見回りの回数を増やしたり、新しく兵隊さんになる人を募集したり、用心棒の先生を雇ったりしたのですが、一向に成果は上がっていませんでした。
それどころか逆に鬼たちが悪さをする回数などが増えていく有様です。
このままではまずいと、都のお偉いさんがようやく対策に乗り出すことにしたのはそんなときでした。
「鬼の住家を発見した者、そして悪さをする鬼たちをやっつけた者には褒美を与える」
というお触れをみんなに出したのです。
これを見た腕自慢な者たちが、鬼探しと鬼退治のために競うようにあちらこちらへと出かけていきました。
都に住む人たちは皆「悪い鬼たちがやっつけられるのは時間の問題だ」そう思っていたのでした。
ところが!
しばらく経っても鬼たちをやっつけるどこか、鬼たちの住家すら発見することはできませんでした。
運よく鬼たちを見つけた人も、逆にあっさりと負けてしまう始末。
都からは腕自慢の強い人がいなくなってしまったため、今まで以上に鬼たちが我が物顔で悪さを繰り返すようになってしまったのでした。
そしていつしかそんな都の様子がすももたろうたちの耳にも届くようになります。
正義感の強いすももたろうにはそれを放っておくことなどできませんでした。
「お爺さん、お婆さん、僕は鬼退治に行きたいと思います!」
いつかはこんな時が来る、なぜか不思議とそう感じていた二人はすももたろうを止めることはしませんでした。
「だけど、一つだけ約束しておくれ。必ず無事に帰ってくると」
「はい!」
泣きながら訴える二人にしっかりと返事をしながら、すももたろうは心の中で「心配かけてごめんなさい。我が儘を言ってごめんなさい」と謝るのでした。
出発すると決めてからの準備はあっという間でした。
実はいつでもすももたろうが旅に出ることができるように二人ともこっそりと準備をしていたのです。
衣装を身に着け、腰に刀を差したすももたろうのその姿は、立派な若武者そのものでした。
さらに出発する間際、お爺さんからは『日本一 すももたろう』と書かれた旗が渡されました。『す』の字が他よりも小さかったりしていましたが。
そしてお婆さんからは大好物のきびだんごが渡されました。
「もも、ではなくて、すももたろうや。これを食べて頑張るんですよ」
「はい、お婆さん。お爺さんも旗を作ってくれてありがとう!絶対に鬼を退治して帰ってきます」
そしてすももたろうは元気に歩き始めました。長い長い鬼退治の旅の始まりです。
ゲームのような分かり易いヒントがある訳ではありません。すももたろうは町や村に足を運んではそこでの噂を頼りに、鬼を探してあちこちを歩き回っていました。
そんな日々を過ごしていく間に、すももたろうは重要な出会いを果たすことになりました。
そう、頼りになるあの仲間たちです。
「ももたろうさん、ももたろうさん。お腰に着けたきびだんごを一つ私に頂けませんか?」
「いえ、僕の名前はすももたろうです。きっと人違いでしょう。それでは先を急ぎますので失礼」
人の腰ほどまでの高さのある大きな白い犬が呼びかけましたが、すももたろうは気が付かずにそのままスタスタと歩いて行ってしまいます。
「え?あれ?」
……こうして最初の接触は失敗に終わったのでした。
実はすももたろう、あちこちを旅して回る間に、それぞれの町や村で悪さをしていた妖怪や悪人たちを懲らしめて回っていたので、それなりに有名になっていました。
ところが、お爺さんにもらった旗に書かれた『す』の字が小さかったために、助けてもらった人々は『ももたろう』だと勘違いしてしまっていたのです。
一応、最初の挨拶の時にはちゃんとすももたろうと名乗っていたのですけれどね。
そんなこともあって噂を聞きつけてやって来た犬さんも、間違ったまま声を掛けてしまっていたのでした。
はい、という訳でやり直しのテイクツー、スタート。
「もも、じゃなかった、すももたろうさん、お腰に着けたきびだんごを一つ私に頂けませんか?」
「僕はこれから都で悪さをしている鬼たちの住家を突き止めて、そこに乗り込むつもりです。鬼たちを懲らしめる手伝いをしてくれるのなら、きびだんごをあげましょう」
「はい!鬼退治についていきます!」
良かった良かった。
こうしてすもも太郎は無事に犬さんを仲間に加えることができたのでした。
え?旅立ってからもう随分と経っているのに、きびだんごは傷んでいないのかって?……きっとお婆さんの愛情が込められた魔法のきびだんごだったんですよ。……多分。
も、もちろんこれで終わりではありません!
次にやって来たのは茶色い毛におおわれた赤ら顔のお猿さんでした。
「そこ行くお方はももたろうさんではありませんか?どうか私にも鬼退治のお手伝いをさせてください」
「いえ、僕はすももたろうですよ」
「え?」
「あの、すももたろうさん。あの猿も勘違いをしているのではないでしょうか?」
いつかのようになりそうだったので、慌てて犬さんが割って入りました。
犬さんの仲介もあって、何とか猿さんにもきびだんごを与えて仲間にすることができたすももたろうなのでした。
そして二度あることは三度ある、と言います。
「すももたろうさん、私も鬼退治について行きますから、きびだんごをください」
一行の前に現れたのは青緑の美しい雉さんでした。
「だからこの人はももたろうではなくすももたろうだと……、合ってた!?」
いつものようにすももたろうに代わって訂正しようとした犬さんでしたが、雉さんはちゃんとすもも太郎と呼びかけてきていたのでした。
「なんだか久しぶりに間違われずに呼ばれた気がするなあ……」
「そうですねえ」
すももたろうと猿さんもしみじみ頷いています。
あ、雉さんは問題なく仲間になりましたよ。
それだけでなくこの雉さん、すももたろうたちにとって大切なことを知っていました。
「都で悪さをしている鬼たちですが、この先の海の上に浮かんでいる鬼ヶ島というところをアジトにしているようです」
なんとなんと鬼たちの住家の場所を知っていたのです。